『赤き翼と漆黒の双剣』
第8話 〜山百合会〜
恭也は困っていた。
授業が難しいと言うこともあるが、それはこの際どうでもいい。では何に困っているか、
それはここが女子校であるために、どうしても男性であると言うだけで注目の的になるうえ
恭也程の男性なら余計である。蓮は3年に編入したため、流石に受験等がある忙しい時期に、そこまで表だって騒がれなかったのである(それでも菊組の生徒はかなり盛り上がっていたが)その後、授業中であるにも関わらず何人かの生徒は恭也に見とれていた。
「やはり、男というだけで珍しいみたいだな。」
視線に気がつき1人でそうつぶやいている恭也だが、それを傍で聞いていた祥子は
(この人、本気で言ってるのね。確かに男性と言うだけで珍しいのはそうなのだけど、恭也さんだからさらに拍車がかかっていると言うのに)
と、心の中でつぶやいていた。
昼食時間も恭也が質問攻めから逃げられなかったため、祥子は教室で一緒に昼食を食べていた。流石に知らない中に1人というのは可哀想だと思ったからだ。
(それにしても、私恭也さんとは割と普通に会話してのよね。不思議な感じのする人ね)
そんな風に少し考え事をしていると
「大丈夫ですか?」
すぐ傍に恭也の顔があった。
「だっ、大丈夫です。何もありませんよ」
いきなりの事に驚いて思わず声をあげてしまった祥子であった。
「大丈夫なら良いのですが、体調が優れないなら休みも必要ですよ」
そう言って、また授業内容に戻る恭也であった。
そして、放課後
「恭也さん、これから後暇がおありですか?」
「いえ、あとは戻るだけのつもりですが、どうかしましたか?」
そう切り出した祥子に首を傾げる恭也。
それを見ていた周りの生徒はその仕草でこの人”可愛い”と全員一致で思ったとか
「私、少々寄りたいところがあるので、お付き合いしていただけませんか?」
それに対して恭也が頷いたので、肯定の意味として受け取り、祥子は薔薇の館へ向かうのだった。
所変わって3年菊組
こちらでも蓮が困っていた。
(うぅ、逃げれない)
そう、彼は今360°包囲をされているのだった。最後の授業が終わった途端この状態になった。その状況を隣の席から眺めている江利子は
(まだ館にいってもみんな来てないだろうし、もうちょいこの様子を楽しんでから紅さんを連れていくか。)
「それで、蓮様のご趣味は?」「お菓子などはどのようなモノをお食べになりますの?」
初めこそそんなソフトな感じの質問だったが
次第に・・・・・・・・
「好みの女性のタイプは?」「髪はショートとロングどちらがお好きですの?」
と少々突っ込んだ内容になっていた。
それを苦笑いと曖昧な返事で返していると、
「今日の所はそれぐらいにしておきましょう。流石に初日ですからお疲れでしょうし。」
という江利子の鶴の一声で今日の尋問は終わりを迎えた。
「さてと、紅さん今日時間空いてますか?」
「ええ、一応この後は何も予定はありませんが・・・・・・・・」
「では・・・・・・・・・」
そう言うと蓮の手を引いて教室から出ていく江利子、特に抵抗する意味も無いので成すがままになっている蓮、そしてその様子を羨ましげに見ている生徒達という構図が出来上がるのであった。
そうして江利子に手を引かれていると
「あ〜江利子が蓮君と手〜つないでる〜」
といたずらっぽい笑みを浮かべながら聖が後ろから来た。
「ちょっと彼、クラスで他の生徒に囲まれてて困ってたみたいだから連れ出したのよ。ついでにそのまま薔薇の館に連れていこうかと思って。」
と、そこで気がついた。
「ところで聖、その蓮君って何?」
「いや、蓮君は蓮君だけど?」
おそらく江利子の言いたいことは分かっているだろうけどあえて聞き返す聖
「聖、あなた分かってて聞き返してるでしょ?」
「はは、ばれてましたか。いやね、昼食時間に薔薇の館で話してたんだ。ちなみに私が朝愚痴ってた名前聞かなかった人って蓮君の事なんだ♪」
「なるほどね」
そう言う事か、と納得した江利子は
「さて、ここで話しているのもあれだし早く館に向かおうか。多分蓉子は来てるだろうし」
3人は真っ直ぐ館へ向かっていった。
がちゃり
ビスケットのような扉を開けると、部屋には案の定蓉子とその妹祥子、聖の妹である志摩子、江利子の妹である令、その妹由乃と見慣れない男性が既に来ていた。
「やっほー、到着♪」
「またあなたは・・・・・・・・」
相変わらずな聖に頭を抱える蓉子だが視線の中に江利子と蓮を見つけ
「あら、いらっしゃい、蓮さん、ごきげんよう江利子」
蓉子のその一言を皮切りに聖、江利子にみんなが挨拶をしていく。
1人蚊帳の外状態だった蓮だが、
「紅、初登校はどうだったか?」
「あぁ、色々あって疲れたけど楽しかったよ」
いきなり、男性が話しかけた事にも驚いたがそれに普通に答える蓮にも驚いた江利子と聖だった。
「2人はお知り合いでいらっしゃるのですか?」
と、昼食時と同じように志摩子が紅茶を持ってきながら疑問を口にした。
「ええ、昨日理事長に挨拶しに行ったときに一緒だったんです。」
「そうでしたか、それにしても普通に会話してましたね。以前からの知り合いであるかのような感じがしました。」
この志摩子の言葉に蓮と恭也は苦笑を漏らすが
「お互いまだ、ちゃんと自己紹介していない方がいらっしゃるのでは?ここは改めて自己紹介をしないと話を進めづらいと思うのよ。」
と蓉子が切り出し、それもそうだとみな頷いたため、自己紹介大会となった。
「じゃぁ、とりあえず私から。水野蓉子、3年生、紅薔薇と呼ばれているわ」
「私は鳥居江利子、同じく3年生で黄薔薇様と呼ばれているわね、ちなみに紅さんとは同じクラスよ」
「いいなぁ、江利子は〜。あ、私は佐藤聖。一応白薔薇様なんて呼ばれていたりするわ」
「一応ってお姉さま・・・・・・。私は藤堂志摩子と申します。聖お姉さまの妹で白薔薇の蕾と呼ばれています。」
それぞれに特徴のある笑い方で自己紹介をする4人であった。
形容するならふっ、にやり、にっこり、ふわっと言った感じだろう。
「次は私ですね、小笠原祥子と申します、2年で紅薔薇の蕾、紅薔薇である蓉子お姉さまの妹です、私は恭也さんと同じクラスですね。」
その言葉を聞き、由乃と志摩子がかすかながら反応したようだ。
「えっと、支倉令、2年で江利子お姉さまの妹です。剣道部に所属しています」
実は令を最初見たとき、一瞬男か?と思った輩が2人程いた事を追記しておこう
「んじゃ、次は私っと、名前は福沢 祐巳、祥子お姉さまの妹で、紅薔薇の蕾の妹になりますね」
「と、私で最後ね。島津 由乃と言います。令ちゃんの妹で黄薔薇の蕾の妹とよばれてます」
と女性陣の自己紹介が一通り終わった。やはり視線は男性2人向くわけで
「(そこはかとなく、視線が恐い気がしないでも無いのだが・・・・・・・・・)高町恭也です。今回視察としてこちらの方へ来ました。宜しくお願いします」
「同じく、学校は別ですが視察できた紅 蓮です。宜しくお願いします。」
2人も自己紹介を済ませ、ちょっとした雑談状態になっていたが
「そうだ、2人にも手伝って貰おうよ蓉子♪」
「ええ、私はそのつもりですよ白薔薇様?」
「流石紅薔薇様ね、その策略に抜かり無しね」
と不敵な笑みを浮かべる三薔薇様、その笑みを見て背筋に寒気を覚えた人物約二名。
その場の雰囲気的に拒否権が無いことを悟った蓮と恭也はおとなしく従うことを心に決めるのだった。
(まぁ、これなら自然と一緒に居られるからいざと言うとき護りやすいな・・・・・・・)
(まさかこんなにはやく山百合会全員と接触できるとは、世の中何が起こるか分からないな・・・・・)
それぞれ、違う思惑を浮かべるが、この偶然に感謝しているのは同じのようだ
「さて、自己紹介も終わりましたし、さっそくお二方には手伝って貰わないといけませんね」
そう言って満弁無い笑みを浮かべている蓉子
その笑みの裏に何があるのか、蓮と恭也は戦々恐々として考えるのであった・・・・・
あ、あははは〜。
美姫 「二人は一体、何をやらされるのかしらね」
一体、何だろうか。
蓉子の笑みが恐ろしい…。
美姫 「さてさて、何が待っているのやら」