―――『特別教導隊』

 

数年前に高町恭也を筆頭に作られた戦闘部隊。

しかしその実体は高すぎる戦闘能力を保有する恭也を、似たように能力は高いが性格等に問題があるものをまとめて監視する名目で作られた部隊で「管理局一の問題児集団」と嘲笑を込めて呼ばれていた。

……というのが当初の話。

今ではその評価は一変してしまっている。

『管理局の懐刀』、『法の番人』、『管理局最恐の戦闘集団』

通り名と実力は次元世界中に知れ渡ってさえいた。

そして彼らが犯罪者達に恐れられている理由はその特異性に他ならない。

 

―――『特別教導隊』に属するメンバーが使う魔法はすべからく「殺傷設定」。

 

彼らには容赦も慈悲も無い。管理局が持つ、敵を掃討するためだけの牙。

無論、だからといって殺し回っているというわけではない。

ただ腕や足の一本や二本は容赦なく切り落とすし、消滅させるというだけのこと。

生きる(デッドオ)()死ぬ(アライ)()

そのさじ加減は彼ら次第。

止むを得ないと判断すれば容赦なく―――殺す、というだけ。

だけど。

そんな彼らでも。

その力の本質は、間違いなく「護る」ためだけに存在しているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辺りは業火に包まれていた。

燃え盛る炎が街を焼き、崩れた瓦礫が命を奪う。

されど、地獄にすら似たこの場所で必死に抗う人々が居た。

炎など知らぬと空を疾駆する二色の光。

それに続く、地を駆け抜ける無数の光。

そんな光景をモニター越しに見つめる男と少女を伴った女性。

「……補給は」

「あと七分で液剤補給車が七台到着します。首都航空部隊もあと一時間以内には主力出動の予定だそうです」

「…ちっ。遅ぇな。……要救助者は」

「あと二十名ほど。魔導師部隊が頑張っているようですからなんとか」

「最悪の展開は避けられそうか。―――よし。お嬢さんもおチビの空曹さんも、もういいぞ。はやく自分の上司んとこに合流してやんな」

「……いえ、もう少し情報を整理して支持系統を調整してからにします」

年配の男、ゲンヤ・ナカジマの言葉にしかしリインフォースはそう返した。リアも同意見のようで彼女の言葉に同意するように頷いている。

己の主はやるべきことを為すために炎の中へと進んだ。ならば主と同様にまずはできること、なすべきことをするのが己の役目。

この場に主はやてが居ればそう言うだろう事は理解できたし、その理解が間違っている可能性など欠片もないと断言できる。それは推測ではない確定。

「…そうかい。ま、助かるがな」

リイン達の様子にそれだけ言うとゲンヤは椅子に身体をあずけながらネクタイを僅かに緩め、視線を伏せた。

脳裏に浮かぶのは娘達の安否の有無、唯一つ。

表面上、冷静を装っているが内心に滾る不安は今にも身体を目の前に広がる地獄の中へと突き動かそうとしている。

だがそれはできないし、するべきでもない。

するべきことを彼もまた確りと理解していた。

己のなすべきことを為す。

―――これがゲンヤとリインフォース、そしてリアにおける共通見解だった。

 

そして二人が己の作業に没頭していたその時、それは起きた。

「っ。上空数十メートル圏内に転移時に生じる空間の乱れを感知」

「なに!」

「多数の魔力反応を確認。……データベース照合終了。これは」

「…おいおい本気かよ」

新たに起こされたウインドウに表示されたのは管理局員なら誰もが知っている紋章(エンブレム)

管理局所属を表すロゴに二本の剣が交差しているそれが表すものは一つしかなかった。

理解が追いつくよりも早く彼らの目の前にもう一つのウインドウが出現する。

『こちら管理局所属、特別教導隊隊長高町恭也特佐。救助に参加する。情報を』

無愛想ではあるが端整な顔立ち。身に纏った黒いバリアジャケット。

その姿こそが『切り裂く(ソードオブ)二刀(ソード)』の二つ名を持つ黒き魔導騎士である事の証明に他ならない。

一瞬の間はあったがすぐに我に返ったゲンヤはリインフォースと共に恭也に情報を提供し、それを確認すると恭也が映っていたウインドウが忽然と消えた。

沈黙が車内を包む。が、それは決して負の沈黙ではなくて。

そのまま先ほどよりも深くゲンヤは椅子に腰掛けると、虚空を仰いだままポツリと呟いた。

「最悪の事態は回避できたな。こりゃ」

浮かんでいた表情は、見間違えようも無い安堵の笑顔だった。

 

 

 

一方で地上に展開していた部隊はゲンヤ達以上にその光景を呆然と見つめていた。

はやても二度目の広域魔法を放つべく、魔法陣を展開したまま固まってしまっている。

上空に佇む数名の魔導師。その全員の肩に描かれた剣を重ねたエンブレム。

管理局が有する隠されたもう(ブラ)一つ(ック・ジ)()憧れ(ック)ともいえる彼らの登場に誰しもが心を震わせていた。

「情報は端末にある通りだ。救助が最優先。補助との二人のチームを組め。行動は迅速且つ最速だ」

『了解!』

「一人の命も奪わせるな。―――散開!」

眼下のそれには目もくれず、己が率いる部隊に告げると彼らは光の軌跡を描きながら四方へと飛んでいく。

そのまま恭也自身は場に留まり、起動させたデバイス――白姫と黒姫を高々と天に掲げた。

…直後、足元に浮かぶミッドでもベルカでもない幾何学魔法陣。

 

『悠久に連なる歴史の一端。その更なる一欠けらに伝わりし伝承よ』

『伝承に身を捧げし王よ。伝承に身を掲げし聖剣よ。伝承に身を焦がす魔剣よ』

『『その、歴史に記されし力を彼方より此方へ!』』

 

通常ではありえないデバイスによる詠唱と次々に装填されていくカートリッジ。

デバイスの発する、その言の葉をキーワードに術者の魔力が魔法陣を回転させていくデタラメ。

魔力(ガソリン)魔法陣(エンジン)に命を吹き込み、魔法陣(エンジン)は幻想に力を与える。

「顕現しろ」

恭也が最後にそれだけ言うと、エンジンの回転数はとうとう上限に達し

 

慈悲()与え()()()

 

――――そうして幻想は魔法へと姿を変えた。

 

出現した巨大な氷の剣は恭也の双剣に導かれるままに大地へと向かっていく。

当然のように剣は大地に突き刺さり、そして

「マジかよ…」

「すっげえ…」

「これが、『切り裂く(ソードオブ)二刀(ソード)』…」

突き刺さった氷の剣は、炎と瓦礫だけを残さず凍結させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからの事態の収束はあっという間だった。

恭也が凍結魔法を放った後は、崩れかけの瓦礫まで完全に凍結していたので全員が救出活動に専念できた為なのは今更言うまでもない。

遅れて到着した首都航空部隊の協力もあって民間の死者はゼロ。若干のけが人は居たものの傷自体は大したことは無いものだった。

……到着した航空部隊が現場に先行していた特別教導隊を見て思わず敬礼したのは余談である。

「お兄ちゃん!」

「「恭也さん!」」

地に降り、通信で部隊の者と連絡を取りながら指示を飛ばしている恭也に敬称も忘れて駆け寄るなのは、フェイト、はやて。

管理局では珍しいインカムを片手にふう、と溜め息をつきながら若干渋い顔をして恭也は振り返った。

その表情で何かに気付いたのか慌てて各々言い直すが時既に遅し。

最近多くなってきた恭也のお小言タイムが始まった。

 

それを遠くから見つめる二つの影があった。

スバル・ナカジマ。

ギンガ・ナカジマ。

二人の少女は一言も発することなく恭也達の談笑を見つめている。

 

星の如き耀きを駆る魔導師、高町なのは。

雷光が如き閃光を纏う魔導師、フェイト・T・ハラオウン。

頬を撫でる風の如き祈りを捧げる魔導師、八神はやて。

そして月の如き貴き意思を剣に宿す魔導師、高町恭也。

―――その肩口から覗く、重ねられた二本の剣が描かれた紋章。

 

あの猛々しく雄叫びを上げていた炎の園と炎が眠った雨の園。

そこで安堵の笑みを浮かべる彼と彼女達。

目に焼き付けたそれを忘れることはきっと、無い。

生涯忘れえぬだろう光景は彼女達の原風景となった。

 

ああなりたい。

あんな風になりたい。

誰かを護れるように強く。

誰かを護れるように優しく。

誰かを護れるように疾く。

 

誓いは此処に。

今日、この時、この場所で見た光景を胸に抱いて。

私はきっと走り続けていく。

走り続けていくと決めた。

いつか。

いつか。

あの背中に、追いつくことを―――――夢見て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

というわけで番外編その2でした。

アニメ版の第2話を元にした出会い編。これ書かないとスバル出せないと気付いたのは最近だったりします(汗

第2部がますます殺伐としていく展開なので耐え切れず番外編に逃げました(ぁ

 

この話で出てきた<慈悲()与え()()()>ですが、フランス叙勲詩『ローランの歌』に出てくる剣の事です。

ネットで探してたら見つけたものなので詳細は受け売りですが

 

フランク王シャルルマーニュ大帝に仕える大司教、チュルパンが最後にとりだして振るう剣で褐色の鋼の刃をもつ。

『氷の刃』と例えられるが実際に氷で出来ているわけではなく、切れ味が鋭く、美しい剣だったらしい。

この剣名が明かされる場面では、チュルパンは既に矛4本に体を突き刺され瀕死の状態だが、尚も大軍に向かい、千回以上も斬りつけるという奇跡を起こす。

アルマスとは『慈悲』の意味。

 

まとめると大体こんな感じです。

 

 

あと以前、恭也が使う魔法が武器のイメージでなければならない。と本編で記述しましたがそれは魔法というのがイマイチ恭也の中では理解できていないのが原因です。

簡単に言うと普通魔法と聞くと振ると杖の先から炎が出るとか、呪文を唱えて雷を落すとか、箒にのって空を飛ぶとか。

まあそういうイメージが浮かぶのですが恭也の場合、幼少期が特殊すぎたため絵本やゲームに触れる機会が無く、成長した今でもそれが続いていて。

だから身近な「拳銃から鉛弾が発射される」とか「剣で何かを斬る」といったイメージを元にしなければならない、というわけです。

恭也の使用魔法が少ないのはこの所為で、使える魔法も効果なんかを白姫と黒姫が一生懸命、恭也の持つイメージに適合させてやっと完成したものだったりします(笑)

なのでデバイスが白姫と黒姫じゃなければ恭也は魔法なんか欠片も使えません。

使えても多分身体強化ぐらいが精々。

なのはみたいにデバイスなしで防御障壁展開することもできません。

才能は絶望的に無いですから。

本編では説明の機会がなさそうなのでここでさせていただきます。

 

 

 





おお、熱い展開が。
美姫 「最後のちょっとした一コマも良いわよね」
うんうん。この時の事件が切っ掛けで、少女たちは走り出す。
美姫 「本当に良いわよね〜」
いやいや、今回も素晴らしい作品をありがとうございます。
美姫 「ございました〜」
また次を楽しみにしてます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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