※注意!この話は一応、TV本編の第8話を見ていることが前提の話となっています。

できるだけネタバレは抑えてはいますが、見ていない人にはちょっとわかりにくいかもしれませんので見る際にはご注意下さい。

それでもおっけーという方のみ↓にお進み下さいませ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その光景をモニター越しに、恭也は見ていた。

なのはの指先から放たれる魔法が容赦なく、銃を構えるティアナ目掛けて襲い掛かる。

対するティアナは呆然とそれを視界に納めると反応する間も無く直撃し、力なく落下していった。

生気の感じられない瞳でティアナを見るなのは。

怒りを顕わになのはを見つめるスバル。

そして倒れ伏したティアナ。

「……はあ」

思わず溜め息が口から漏れた。それが誰に向けられたものかは言うまでもない。

「まったく……」

そう一人呟くとようやく慣れてきた目の前の机に設置された機械に手を向け操作し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の帳が降りる時間帯。

人々は眠りに着き、静寂で静謐な空気が世界全体を包み込む。

そんな中。

暗闇を照らす僅かな明かりの元に二人の青年と女性とが立っていた。

「……お兄ちゃん…」

なのはの声には明らかに元気が無い。彼女の人柄を表すようなソレは完全になりを潜めていた。

彼女の様子を見ても彼、恭也は何も言わない。向かい合ったまま、ただ時間だけが経過していく。

「少し、歩くか」

ようやく。恭也はそれだけ言うと静かに頷くなのはを伴って夜の世界を歩きだした。

 

着いた先は海の見える、なのはもよく知る場所。

その場所は地球にある海鳴臨海公園にもよく似ていた。

海と陸地とを隔てる柵に寄りかかりながら恭也は夜の海に眼を向けた。

水音が、僅かに揺れる海面は日中では感じられないほど深く暗い。

まるで全てを飲み込んでしまうかのような。

「どうして呼ばれたかわかるか?」

「……昼の模擬戦、見てたんだね…」

 

ざざざあ、と海が鳴る。

 

「確かに。あの時のランスターとナカジマの戦闘は無茶が過ぎる。罷り間違っても彼女達のレベルでやるべきではない」

「うん…だから」

 

ざざあ。ざざあ。

 

「だからといって……指導者たるお前が感情的になってどうする」

「……でも」

 

そこまで言ったところで、恭也は振り返った。

その瞳に宿っているのは相変わらずの強い意志。

「俺は彼女の事情は当然だがわからん。だが似ているヤツならよくしっている」

「え…?」

「美由希だ」

「お姉ちゃんが?」

恭也は過去に立ち返るように空を仰いだ。そこにあるのは幾万の星星と煌き。

現在過去未来。その全てを内包しているかのような宇宙。

あまりに大きすぎる、言葉では表せないほど強大な宇宙の存在は人の思考の焦点を過去に還らせるには十分だった。

「御神流の鍛錬でな、ある日突然アイツは自主練をし出した。それだけなら俺も何も言わなかった」

そう、それだけなら何も問題は無かった。強くなろうとする意思がそうさせているのだろうと思いこそすれ。

「だがある夜の鍛錬のとき、異常に気付いた。俺の指示通りのメニューをこなしていれば起こりえないぐらいにあいつの身体は疲弊していたんだ」

刀を握るのすら困難になるほどに傷ついた手のひら。寝ても、全身から完全に抜けないほどの疲労の蓄積。

そのどれもが、恭也のつくったメニュー通りの鍛錬をしていれば起こりえない傷だった。

「それで……お兄ちゃんはどうしたの?」

「怒った。とてつもなく怒った。ふざけるな、と怒鳴ったような気がする」

許せなかった。自分の作ったメニューを破って無茶な鍛錬をしていた美由希が。自分を偽った美由希が。

「だがな。その理由を聞いたら、俺の怒りの矛先は自分に向かったよ」

「え」

『私は恭ちゃんの重荷になりなくない』

『私の所為で、恭ちゃんが自由になれないのは嫌なの!』

『私が強くなれば恭ちゃんは自由になれる!好きなこともできる!私が!私が強くなりさえすれば!!!』

なんて、愚か。ふざけていたのはどちらだったのか。

美由希の行為は許せる行為ではないという事実は変わらない。

美由希には自分のような永遠に完成することのない剣士にはなって欲しくない。

美由希には、自分のような過ちを繰り返して欲しくない。

 

 

―――けれど、その事をただの一度でも口にしたことがあっただろうか…?

 

 

恭也が負う事になった生涯消えることの無い膝の傷痕。

あの時の無茶な鍛錬があったからこそ、美由希を指導できるほどの歳に見合わぬ強さを得ることができたのは確かだ。

だが後悔していないかどうかと聞かれれば、後悔していると答えるだろう。

剣士として生きる。剣士として在る。

幼少から抱いていた願いは二度と叶わないのだから。

やり直せるならやり直したい。

けれどそれこそ叶わぬこと。

過去の様々な事柄があってこそ、今ここにいる「高町恭也」を形成しているのだから。

後悔はあるが、未練はない。

それでも。いやだからこそ。美由希には自分のようにはなってほしくなかった。

勝手な話かもしれないけれど、美由希には自分の望みと願いを継いで欲しかったのだ。

自分では辿りつけなかった夢を、彼女に果たして欲しかった。

 

 

 

 

 

まったく、あきれるほどの愚かさだ。美由希を責める前にまず己を反省しろ高町恭也。

―――そして理解したのなら今度こそ、他の誰でもない自分の言葉でその事を伝えないと。

 

 

 

 

 

真っ直ぐな視線で恭也を見つめるなのは。

今まで知らなかった事が突然情報として頭の中に入ってきて少しだけ驚いているようだ。

そんななのはに向かって柵から身を離し、目線が合うように少しだけ屈んで昔やっていたように彼女の頭にやさしく手のひらを置いた。

「あ…」

「なのは。少し前にお前の身に何があったのか俺は知っているし、シグナム達もはやてもフェイトも当時そこにいた人なら知っている」

「……うん」

「だからこそ、身体の安全を第一に考えて指導していることも知っている」

「……うん」

「だが。ナカジマもランスターも、エリオもキャロもその事を知らない」

「……」

「知らなければ判らないこともある。言葉にしなければ伝わらないこともある。お前は一度でも、そのことを彼女達に言ったことはあるか?」

「………な、い。かな」

「ランスターの事情となのはの事情。それがお互いのテーブルにあって初めて、言葉は本当の意味で通じ合える」

「…うん」

「フェイトの心を取り戻したのも、リインフォースとはやての心を救ったのもなのはだ。お前の言葉はそれだけの力がある」

「―――――」

「だから……きっとランスターとも通じ合える。大丈夫、お前ならきっとできる」

「うん」

「―――頑張って来い」

「うんっ!」

恭也の手の感触と、口から紡がれた厳しくも優しい言葉。

それがとても暖かくて。少しだけ挫けかけていた心に力を呼び戻した。

 

話そう。今度はちゃんと。

昔自分にあったことも含めて。

自分の想いが本当の意味でちゃんと伝わるように。

ティアナの想いを受け止めて、その上で彼女の心に届くように。

そして、自分の言葉と想いがティアナの心を、縛りつける鎖からほんの少しでも解き放ってやれるように。

きっと大丈夫。

だって、自分は彼女の上司で―――――――それ以上に、大切な仲間なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

 

「大体、無茶といえばお前もそうとう無茶をしていたんだが。自覚はあるんだろうな」

「え!?た、たしかにあの大怪我したときは―――」

「違う。フェイトのときも、はやての時も無茶をしまくっていたんだがやはり無自覚だったか」

「あ、あううぅ」

「ランスターの最後にやっていたあれだって、お前は小学生のときにやっているんだぞ。たしかエクセリオンバスターACSだったか」

「あう……」

「まったく、俺がどれだけ心配したか。そもそもだな―――………!」

(『マスター、そうとう腹にすえかねてたんですね……』)

(『ああ。主の心配ぶりはそれはもう凄まじかったからな…』)

(『いつだったか言ってましたからね”あのイタチの所為でなのはが………どうやって処刑してくれようか…!”とか』)

(『そうだったな。他にも”フフフ。あのイタチもどきめ……馬鹿弟子はともかくなのはの裸を覗くとはいい度胸だ…月夜ばかりと思うなよ……!!!”とか言っていたな』)

「聞いているのか!なのは!」

「にゃーー!ごめんなさいごめんなさい!だからお兄ちゃん、もう許してーーーーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

StSの第8話のなのはのあまりの魔王っぷりについつい書いてしまった、クレです。

色々と話題になっていた回でしたがその理由がわかりました。

一応できるだけネタバレは抑えて書いたつもりですが……。

詳しいことは省略しますが、ともあれ見る際には十分ご注意くださいませ。

糖分が欲しくなるようなお話でした(汗)

美由希ルートの彼女に似ていたなあと思ったので今回は少しだけ美由希の話も入れてみました。

いやまあ、記憶が曖昧なんでちょっとちがうかもしれませんけど。そのあたりはご容赦ください。ガクガク。





なのはの無茶は恭也譲りのような気もしないでもないが。
美姫 「否定できないわね」
最後のおまけはちょっと怖い台詞があるけれど。
美姫 「月夜でもやると決めたらやりそうよね」
あははは、確かに。
美姫 「それじゃあ、今回はこの辺で」
また次回を待ってますね。



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