「遙、おきてください。朝です。」
「サボる。眠い。」
そういって遙は布団をかぶってもう一度夢のなかへ・・・
「おきなさい!遅刻しますよ!」
「・・・・・わかったよ。」
「もう朝ごはん食べてる時間はありませんよ。」
すでに時計は八時十分を指している。徒歩二十分かかるのに学校が始まる時間は八時二十分。
どうやっても間に合わない。普通なら。
「悪い。髪束ねてくれ。服着るから。」
「はいはい。」
そういって那雪姫は遙の髪を手際よく束ねていく。今日はツインテールらしい。束ね終わると遙は服を着替えながら、
「先に倉庫行っててくれ。鍵はいつものとこだから。」
「はい。すぐに来てくださいよ。あ、下にパンがあるから食べながら来てくださいね。」
「わかったよ。これ以上時間つぶしてたら本気で遅刻するからな。食べながら運転するよ。」
「事故には気をつけてくださいね。」
「わかってるって。」
二分後、遙たちは愛車NSXに乗っていた。
「でもこの車、本当に燃費悪いですよね。」
「まあ、仕方ないだろ。スポーツカーってのはそんなもんだよ。」
スポーツカーは本来速度を出すことを第一においている車だから燃費は非常に悪い。
日本は道が曲がりくねっているためにスピードなんて出せないのだ。しかも、二人乗りという点もいたいところだ。
そんなことを言いながら学校に着き、専用の駐車場に車を止めて車から出た瞬間。
「結婚おめでとうございます!」
次から次に言葉が飛んでくる。
「ありがと・・・あと、よかったらちょっと道空けてくれるかな?遅刻してしまうから。」
「あ、はい!すぐに!ちょっとー道空けなさいよー!通れないわよー!」
そんな声が響くと、まるで十戒のように海ならぬ人の海が割れて道ができた。
「なんかすごいことになったな・・・。」
「まさかこんなになるなんて・・・」
発表した本人たちが一番驚いているようだった。当の本人たちも、多少騒がれるだろうが、ここまでになるとは思わなかったのだろう。
改めて自分たちの注目度に驚かされている二人だった。
「すごい人気だな。義兄さん、姉さん。」
「びっくりだな。」
騒ぎは二人が教室に入っても収まることはなかった。
昼休み。遙は喧騒に耐えかねて屋上に向かった。
「何が何でも騒ぎすぎだろ・・・」
みんなの騒ぎ方が異常だと思っているようだが、那雪姫は仕方ないとあきらめて友達と一緒に食堂に言ったのだ。
遙はどうしても納得いかず、一人屋上に向かったのだった。
「ここなら・・・」
ガチャリ。
何を警戒するまでもなく普通に屋上のドアを開けた。が、
「やぁぁぁぁぁ!!」
バキィッ!
不意に伸びてきた右のハイキックに遙は気づくことなく直撃を喰らって左にあった植木にしたたか打ちつけられた。
「へっ?」
蹴りを放った張本人も直撃が意外だったのか、間の抜けた声を上げた。
「てて・・・」
「えっ!遙君!?ちょっ・・・大丈夫!?」
蹴り飛ばした人物が自分の思っていた人とは違ったのでその驚き様は尋常ではなかった。
「ちゃんと相手は確認しろよ・・・俺じゃなかったら首の骨もっていかれてたぞ・・・」
「ごめん。てっきり、那雪姫かと思って・・・って言うか那雪姫は?」
「友達と一緒に食堂に行った。っていうかこんなとこで何してんだよ、朝比奈・・・?」
そう遙が言った女性は茶髪で腰近くまである髪を横で束ねていて、手には格闘用のグローブをつけていた。
「那雪姫待ってたの。今日こそって思ってたから。」
「そういえば昨日どうしたんだ?那雪姫には一度も襲い掛からなかったよな?」
この言い回しからすると朝比奈と呼ばれた女性は毎日那雪姫を襲っているのだろう。
「それは・・・って言うか私のことは灑薙麗(さなり)でいいって言ってるじゃない。」
「那雪姫以外のことは下の名前では呼ばないって言ってるだろ。言ってるとこきかれたらやられるってお前も知ってるだろうに。」
遙は以前、灑薙麗のことをそう呼んでいたとき運悪く聞かれて、一撃で病院送りにされたことがある。
神体者である遙はトラックに轢かれる程度なら無傷で済む。那雪姫の一撃がどれほどのものか想像するのは不可能だろう。
「まあ・・・あの時はひどかったからねえ。」
「で?昨日何してたんだ?」
「えっと・・・猫助けようとしてトラックに轢かれちゃったんだけど・・・まあ、見てのとおりね。」
「無傷か。」
「まあ。トラックの運転手のほうが大怪我して大変だったんだけど。」
「・・・お前人間か?」
「病気かなんかかもしれない。病院の先生はなんか難しいこといってたけど。えーっと・・・GHHだっけ・・・?」
GHHという言葉を聴いて遙の表情が変わった。何か考えるようで、また何か言いたげな表情だった。
「な、なに?もしかしてやばい病気だったり・・・」
遙は何か意を決したように立ち上がると、灑薙麗の腕をつかんだ。
「な、なに?なに?」
遙はつかんだ腕を引っ張ると灑薙麗はフェンスを軽々越えて空中に放り出された。
「ひえっ・・・」
灑薙麗は一瞬間抜けな声を上げたが、万有引力の法則にしたがって落下した。
「ミストラル!!」
遙が大声で叫ぶと、突風が吹き荒れ、落下したはずの灑薙麗が屋上に舞い戻ってきた。
「どうだ?神体者として覚醒した気分は?」
「ほへ?神体者?それって・・・」
「俺たちと同じフィールドに立てたってことだよ。まあ、覚醒させるべきなのかどうかは俺にもよくわからんが、
那雪姫とまともにやりたいならこれが一番いいと思ったから覚醒させたわけだけど。まあ、那雪姫はお前よりも圧倒的に強いんだけど。」
灑薙麗は神体者として目覚めたばかりだが、那雪姫はすでにハイエンド級なのだ。その実力差は、像とアリの差以上である。
「ちょ・・・ちょっとまってよ。いきなり言われても・・・」
「何だ、気づいてなかったのか。医者からGHHって言われたんだろ?」
「うん。」
「それって、神体者って診断されたってことだよ。」
GHH。GOD HOLDING HUMANの略称である。これは医学用語で神体者のことを表す言葉である。
「ふーん・・・そうなんだ・・・・神体者ねえ・・・あんまりぴんと来ないなあ・・・」
神体者といっても力を使わなければかなり頑丈ということを除けば、ただの人間となんらかわりはない。
実感がわくとすれば戦っているときぐらいなものだろう。
「まあ、あとはお前しだいってとこだろな。頑張れよ。」
俺はやることはやったから。というような感じで遙は屋上のベンチに横になろうとしだが、
「ちょ・・・まってよ!そんなこといきなり言われたって実感わかないし、第一本当にそうだったとしても使い方わかんないよ!」
「イメージだよイメージ。お前には嵐神ミストラルが宿ってるんだから。
こう、自分の周りに風をまとってるような感じをイメージするんだよ。あと回りの大気と一体化するような感じだな。
それができれば自在に操れるようになるよ。」
遙の口調からは面倒くささと眠気が漂っていた。そして十秒も立たないうちに眠りについた。
「イメージ・・・」
灑薙麗は急に真剣な表情になって目を瞑って、静かにイメージし始めたようだった。
しかし、遙はすでに熟睡状態に入っていて何もアドバイスすることなかったが、灑薙麗だけがまじめに試行錯誤をしていた。
ごおおおお・・・
二分もたたないうちに屋上に突風が吹き始め、その風は徐々に、灑薙麗の元に集まり始めた。
「よし・・・」
すでに灑薙麗の周りには風速百メートル近い風が渦を巻いていた。
当然、灑薙麗の周りに風が集まるまでこの風は屋上にあったわけだから周りのベンチなどは木の葉のようにまって、
すでに木の屑と化している。それでも遙のベンチだけ飛ばされてないのは何故だろう。
「いっけーーーー!!」
ズドン!
風というよりも、むしろ、衝撃波に近い突風が灑薙麗の突き出した右こぶしから発せられた。
遙の前でやったわけだから、当然遙の寝転ぶベンチはぼろ布のように吹き飛び、遙は屋上から放り出された。
「れ?」
遙が直撃を食らったのが意外だったのか灑薙麗はかなりあっけにとられているようだった。
しかし、遙は熟睡してたわけだから、避けようがないことはすぐにわかりそうなものだが。
三分後、遙が再び屋上に現れた。
「おまえ・・・人が寝てるのに・・・」
「やぁぁぁぁ!」
言うが早いか、灑薙麗は再び遙に右ストレートを放った。
「ばっ・・・」
しかし遙は同じ鉄を踏まないのは当たり前といわんばかりに紙一重で避けた。紙一重。
ぎりぎりで避けたような印象があるが、紙一重で避けられるか避けられないか、遙レベルの戦闘者になるとこの差が生死を分けるのである。
しかし、
ひゅん
遙は反撃に転じようとしたが、一瞬の突風で体勢が崩れた。
「もらったぁ!」
その一瞬を見逃さないのが光琳館空手全国大会優勝者、朝比奈灑薙麗である。
手ごたえあり、と灑薙麗は思ったが、右こぶしの先には遙の姿はなく、遙がいた場所に突風が吹き荒れただけだった。
「まったく・・・少しは落ち着けって。使えるようになったのはわかったから。」
「な・・・なんで・・・」
あたったはずのこぶしをもう一度見ながら、また不意に遙に右こぶしを伸ばした。しかし結果は同じ。
当たった手ごたえはあるのに遙は自分の後ろに立っていたのである。
「え?え?」
灑薙麗は本当にわけがわからないような表情で混乱振りを表していた。
「俺に一撃入れようなんて十年早いっての。まだお前が戦ってるのは百分の一秒の世界なんだから。
俺らのような一万分の一秒の世界にはいきなりはこれないって。」
「それでもおかしいよ!私が百分の一秒の世界で戦ってるって言っても、
当たったって確信したあの一瞬で背後に回るなんて絶対無理だよ!」
灑薙麗のいうとおりである。いくら遙が一万分の一秒の世界で戦っていたとして、
避けるのはたやすいだろうが背後に回るには少なからず時間がかかるはずである。
しかし、遙は一瞬にして背後に回っていたわけである。どう考えても説明はつかない。
「だってそれが俺の力だから。」
そう。これが時を自在に操る蛇神ヨルムンガルドを宿す遙の神体者としての「トキハネ」という力なのである。
簡潔に言えば行動したという結果を先にもってきて、行動にかかった時間を零にしてしまうという荒業なのだ。
言い換えれば、因果律を逆転させているとでもいえようか。
行動があって結果があるのではなく、結果があって行動にかかる時間を零にするのである。
これがあるからこそ遙は世界最強を自負するのである。
「行動を零にする力が?」
「ああ。」
「それって移動だけじゃなくて攻撃にも使えるの?」
「そりゃもちろん。」
「・・・勝てるわけないよ・・・。」
率直な意見だが、至極当然の意見である。
「それでも那雪姫は俺相手にタメ張るけどな。まあ、欠点がないわけでもないし。
ちなみにお前はそんなやつを相手にしようとしてるってことをお忘れなく。」
「那雪姫よくこんな化け物とタメはれるね・・・・。」
「化け物って・・・。」
「でもどうやって戦うのよ?」
「簡単だ。あいつは零秒後が見えるんだよ。失明した左目でな。」
「ちょっとまってよ。零秒先が見えるってわけわかんないよ。私だって零秒先は見えてるよ。
現に避けられてないのにどうして那雪姫に避けられるのよ?」
「なら聞くけど零秒先がはっきり見えるか?そこだけ区切って見えるか?」
「そりゃ見えないけど・・・って言うかほんとによくわかんないんだけど・・・。」
「正確に言うなら俺にもはっきりはわからないんだよ。那雪姫曰く零秒先が見えるから避けられないけど受け止めはできるんだと。」
「・・・本当に二人ともめちゃくちゃね・・・」
「神体者ってのはそんなもんだ。」
ある意味的確な一言だろう。非常識という常識にもくくられない存在。それが神体者なのだから。
「ま、がんばれ。朝比奈ならある程度は強くなれるだろうからよ。」
「またいいかげんな・・・」
「じゃ、俺寝なおすから昼休み終わったらおこしてくれや。」
「はーい。」
いわずもがな、このあと灑薙麗は屋上で練習をしたものだから、遙はゆっくりと眠れることはなかった。
あとがき
いやいや、三話目。完成ですた。もうぼろぼろ・・・なんで二日で二話も上げにゃならんのだ・・・
(フィーネ)じゃあ張り切って四話いってみよ〜!!
無理。レポートがある。それと体力的にも。
(フィーネ)あ?なんつーた?
おい、口調変わってるぞ。
(フィーネ)おっと。で?書かないつもりなのかな?
いや、書くぞ。ただ二日はかけない。
(フィーネ)そこまで待てない。
無茶言うなあ!!俺の本業は大学生だぞ!しかもまだ一年生なのに!!
(フィーネ)そんなの知らないわよ。
[何とか話をそらさんとまた殺されるかも・・・]そ、そういえば・・・今日は服装が違うな。
(フィーネ)あ、これ?これはねえ・・・
あ、なんかやな予感が・・・
(フィーネ)セブン!!
まったぁ!!なんで第七聖○なんか持ってるんだよ!!っていうか、今回も月○ネタ!?
(フィーネ)コード・スクエア!!【がきぃん!!!】
ぎゃああああああ!!!!!
(フィーネ)ふう。これでよしっと。じゃあまた四話目でお会いしましょ〜。
投稿ありがとう!
ほのぼの(?)とした日常ですね〜。
風速100mの風が吹きすさぶ屋上。
そして、そこで交わされる会話。『ねえ、夕焼け綺麗?』
美姫 「違うわ!」
ぐわらばっ!痛いではないか。
美姫 「…日々、頑丈になっていくのは気のせいかしら?」
気のせいだろう。
美姫 「でも、良いわね〜」
ああ、続きが楽しみだ。
美姫 「私も欲しいなー。セブン」
そっちかい!って、言うかそれ以上、武装するなよ。
美姫 「ふっ。武器はあって困るものじゃないのよ」
その標的が全て俺なのが問題なんだ…。
美姫 「女は着飾ってこそよ」
それは武装を指す言葉とは違うんじゃないかと……。
美姫 「か弱い乙女は、武装する事でしか自分の身を守れないの」
普通の乙女は兎も角、美姫は例外だと………。
美姫 「……………えーい、うるさいわね!私が新しい武器を欲しいのよ」
本音はそれかい!
美姫 「そうよ!悪い!新しい武器で浩を……」
開き直ってるし、その上、やっぱり標的は俺!?
美姫 「何とか手に入れる方法を考えないと」
やめろって。
美姫 「まあ、それはひとまず置いておくとして、投稿ありがとう!」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「じゃ〜ね〜。あ、フィーネちゃんに貸してもらえば良いんだ」
だから、やめろってば。