それから約一時間近くそのままで二人はいた。ヨルムンガルドはというと居心地が悪かったのだろうか、

ベランダで一人風を浴びていた。

「何のかんの言ってあの二人は本当にいい夫婦になりそうだの。」

 と、ヨルムンガルドは誰もいないベランダで独りごちた。

「そうですね。あの二人はいい夫婦になりますよ。」

 そういって銀髪の女性がベランダに入ってきた。その服装はヨルムンガルドのようにラフなものではなく、

神話に出てくるワルキューレのようなものだった。

「何だ。ヴェノム・ノア。おぬしも出てきたのか。」

「ええ。私も那雪姫と感覚を同じにしていますから。なんというか・・・ちょっといづらくなりましたからね。」

 この女性は那雪姫に宿る機神ヴェノム・ノアのようだ。ヨルムンガルドとはまったく違う服装だが、

両者人間ではない特有な雰囲気を漂わせていた。

「まあ、我らが心配するようなことは何もないようだの。あの二人なら何があっても大丈夫だろうの。」

「そうでしょうね。あの二人はあまりに似ていますから。内面とかそういうところじゃなくて、もっと根源的な面で。」

 よく意味はわからないが、とにかくあの二人はこの二人が見ても驚くほど似ているということなのだろうか。

いや、似ているのではなく、二人は同じだと思っているのかもしれない。

「だが、これで終わるとは思えんの。」

 ヨルムンガルドは突然話を今日の事件のことに戻した。

「でしょうね。今日は・・・月が銀色ですから。」

 そういって月を見上げるヴェノム・ノア。そこには月が異様なまでに銀色に輝いていた。

「そろそろ戻るかの。今回ばかりは我の力が必要になるからの。」

 そういうヨルムンガルドにヴェノム・ノアは頷いた。

「ええ。」

 その会話が終わったとたん遙がベランダに出てきた。

「ちょうどいい。ふたりともいるんだ。ちょっと用事ができた。しかもかなりヤバめっぽい。」

 まるでそういわれることがわかっていたかのように言って返すヨルムンガルド。

「そのようだの。ならこんなところで時間をつぶす前に病院にさっさといくの。」

 既に何がおきているのかわかっているような口ぶりのヨルムンガルド。しかし、遙はまったく気にしていない。

「ああ。」

 遙がきびすを返して屋内に入ると同時に二人の神はベランダから消えるようにいなくなった。



遙と那雪姫は程なくして小波中央病院に着いた。しかし、そこは病院なのだろうか。

小波中央病院は大型病院で、救急病院もしている。だが、不思議なことに遙たちがついたときそこに明かりは無かった。

まるで、十年以上前から誰も入っていない廃ビルのようにそれはそびえ立っていた。

「あ、義兄さん、すまないな。呼び出したりして。」

「どうしたんだよ?血だらけじゃねえか。」

アンナは全身血だらけになっていたが、それは自分の血ではないようだった。

「それより、何があったの?」

「そう、それのほうが大事なんだよ。」

そういってアンナがことの経緯を話し出した。

「私、義兄さんと姉さんがいってから一応救急車呼んでフォウさんをそれにのせたんだ。

んで、灑薙麗先輩を家に連れて行って、それから一応フォウさんのとこに行ったんだよ。

でも表玄関に行ったらあかないじゃないか。まあ、それはよく考えたら面会時間なんかとっくに過ぎてるんだから、

あいてるわけ無かったんだけどね。で、裏口から入ろうと思ってもどこにあるかわからなかったからさ、

隣のビルから屋上に移ってそこから入ったんだよ。そしたら中にいるわいるわ。クリーチャーのオンパレード。

さすがの私もここまで来るのに30分もかかっちまったよ。まあ、そうしてここまできたら救急車がまだここにあるじゃないか。

やな予感がして入ってみたらフォウさんまだ中にいたんだよ。だから一応違う病院に移したんだ。

で、ここに戻ってきたら、またクリーチャーがいるじゃねえか。おかしいと思って連絡したんだ。」

 なかなかに長い説明だったが、簡略化すると病院がクリーチャーに襲われたようだ。

「病院の患者とかは?」

 聞くまでも無いことだが一応遙はアンナに聞いた。

「全滅。もうめちゃくちゃだよ。でもおかしいんだよな。クリーチャー、病院から出てこないんだ。」

それに応えたのは遙の口から発せられた別の声だった。

「結界が張られとるの。」

「なるほど。それなら納得いくな。よし。突入するか。時間が無い。あと七時間ぐらいで夜が明けてしまうからな。」

 そういって遙が先陣を切って病院の中に突入していく。中にはアンナのいうとおりにクリーチャーだらけだった。

しかし、Mクラスのクリーチャーを殺すのは遙たちにとってありを殺すようなものだ。

次から次に沸いてくるクリーチャーをあたかも足軽隊の中に重戦車で突っ込んでいくかのように殲滅していく。

十分後三人は中央ロビーにいた。

「ったく・・・出鱈目におおいな。もう百以上は殺したんじゃないか?」

「ええ。別に疲れたりはしませんが、どうも多すぎると時間がかかりますね。」

 那雪姫の言ったとおり、三人は息ひとつきらせていない。

「遙、下だの。こいつらは下から沸いてきているようだの。」

 普通に遙の口を介してヨルムンガルドが指摘する。

「地下?そんなとこがあるのか?」

「霊安室しかないでしょうね。あまり行きたくない場所ですが・・・。」

 まあ、真夜中かつ電気がひとつとしてついておらず、

また、患者や病院関係者のすべてが死んでいる状態の中では案外そちらのほうが正常かもしれないが。

「とにかく行くか。」

 そういって遙がまた歩を進めだす。再び、足軽と重戦車の戦いが始まった。




地下霊安室。その一室に遙たちは来ていた。

「何だよこれ・・・」

 遙がそういうのも無理は無かろう。そこには巨大な―直径二メートルほどあろう―球体が存在していた。

「よくわかりませんね。でも、おそらくこれがクリーチャーを発生させていたものだと思いますけど。」

 この状況からしてそれ以外のことは想像できまい。そう考えないとこの球体は一体何なのか、説明がつかない。

「『窓』だの。」

 ヨルムンガルドがこの球体をそう指摘する。

「『窓』?」

 クリーチャーに詳しい遙もその言葉を聞いたのは初めてだったのかヨルムンガルドに説明を求める。

「そう。『窓』だの。『門』よりは規模は小さいが、クリーチャーがこの世界に来ることのできるゲートのひとつだの。」

 遙はその言葉を聴いて再び、

「どうすりゃいいんだよ。このまま放っておくわけにはいかないんじゃないか?」

「当たり前だの。あれがここにある以上、ここから次々に出てくるの。」

 そこに那雪姫が根本的な質問をした。

「なら壊すしかないんですね。で?どうやって壊すんです?」

 まあ、こんなもの見たことが無いのにいきなり壊せといわれてもどうすれば言いかわかるわけが無い。

人間の作ったものなら、何とでもなるが、こういった人外のものは正しい壊し方で無いと壊せないのだ。

「俺も知らん。おい、ヨルムンガルド、どうすりゃいい?」

 直後、ヨルムンガルドは遙の体から出てきた。

「切ればいいだけだの。まあ、ここにある武器じゃ、どれを取ってもきれんだろうがの。」

 つまりどうしょうも無いらしい。

「おい・・・」

 あまりにいい加減な言葉に呆れる遙。

「まあ、まて。遙、クビキリを貸すだの。」

 そういって遙の手からクビキリを奪う。そして、刀身に手を当ててなにやら集中し始めた。

「お、おい・・・」

 遙が何をしているのか聞こうとしたが、ヨルムンガルドの気が異様に高まっていたために聞こうとしたことが聞けなかった。

「ふう・・・」

ひと段落着いたのか、クビキリからてをはなすヨルムンガルド。だが、クビキリは以前とは微妙に変わっていた。

形状に変わりは無いが、刀身に紫色の妖気が漂っていた。

「これなら、『窓』はおろ『門』であっても切れるの。」

「何したんだよ。」

 遙の率直な質問。

「さっきまでのクビキリでは妖気が足りなかったのだの。

確かに、今までにその刀は十五万の人間の魂を吸ってきたようだが、その程度じゃあ妖刀にはなれんの。」

 クビキリは遙の手に渡るまでの千数百年の間に十万の魂を吸ったとされる。

ということは遙はものの数年で五万人も切ったということだろうか。

「で?どうしたんだ?」

「早い話だ。我が先史時代から殺してきた百三十五万の魂をこの刀に移しただけだの。」

 そういってクビキリを遙に差し出した。そしてそれを受け取ろうとした遙に、

「心するんだの。もうこの刀は以前とは比べ物にならないほどの妖気を持っているわけだからの。

いかにお主とてそれに耐えられる保証は無いからの。」

「そうか。っていうか、ここまで切った刀ってのはクビキリじゃないんじゃねえか?

クビキリってのは三十万の魂を吸った刀の名称だぞ。」

「そうだの。ここまで切った刀は後にも先にもこの一本だけ。故に名など無い。

ま、しいてつけるとしたら、黄泉平坂(よもつひらさか)でいいと思うがの。ある意味、百五十万の魂の集まった刀なんだからの。」

「そうか。まあいい。とにかくこいつでそれを切ろう。」

 遥は何の躊躇も無く黄泉平坂と名づけた刀を受け取る。

那雪姫たちは心配そうに見ていたが、何の変化も無い遙を見てほっとしたようだった。が、遙自信、黄泉平坂の力には驚いていた。

「すげえ・・・クビキリとは比べもんにならねえ・・・すさまじい妖気だぜ・・・。」

 一通り眺めた後、遙は『窓』の前に立ち、上段に構えた黄泉平坂を振り下ろした。

 『窓』はものの見事に真っ二つになった。しかし、それだけではなかった。

切っ先が地面に触れた瞬間、黄泉平坂の妖気は、床だけでなく、周りの壁も吹き飛ばした。

一瞬だったが、その先にあると思われる部屋までもが跡形も無く消え去っていた。

「な・・・」

振った本人が驚いている。まあ、この結果は誰もが予想していなかったのだが。

「すさまじいね・・・。」

 那雪姫もその破壊力に素直に驚いている。

「まさかここまでの破壊力があるとはの。まったくおぬしは一体どこまでこの刀の力を使ったんだの?」

 作った本人まで驚いているのだから、出鱈目である。

「半分・・・いや、三分の一以下だな・・・」

 それでこの威力なのだから、全力で同じことをしたらどうなるのかは想像がつかない。

「なあ、義兄さん。早くここでたほうがいいんじゃないか?柱、ほとんど壊れてるぞ。」

 周りを見回すと柱どころか、壁も吹き飛んでいて支えるものは何もなくなっていた。

「大丈夫だの。ここにはさっきはなった遙の妖気が漂っているから、天井が落ちることは無いの。

だが、早くでたほうがいいの。さっきも言ったとおり、妖気が漂ってるわけだから、おぬしたちが蝕まれていくの。」

 そういわれてアンナと那雪姫は先に上の階に上った。

「で?俺だけなんで行かせなかったんだ?」

 本来なら一緒に行くのだろうが、ヨルムンガルドは遙をその場にとどめた。遙の足を止めるとはさすが、蛇神ヨルムンガルドである。

「今の力を見て思ったんだがの、おぬし、そろそろ超えられると思うの。」

 ヨルムンガルドは何をいっているのだろう?が、遙には何のことかわかっていた。

「かもな。」

「そろそろ、自立したらどうだの。我の力に頼るもいいが、おぬしの力は正直言って我を超えていると思うの。

だが、ひとつだけ条件があるがの。」

「条件?」

 二人の会話から推測すると、ヨルムンガルドを遙が超えているということなのだろうか。

「そうだの。おぬしの剣術は荒すぎる。まあ我流だから仕方がないが、それでも今のおぬしの力を全力で出せない原因になっとるの。

剣術は技や型だけではない。気の使い方も含んでおる。おぬしがそれを習得すればおぬしは人類史上初めてのアレになれるの。」

「でもどうやって習得しろと?」

 俺は剣術教えてくれるやつ知らないぞというがヨルムンガルドは大きなため息をついて、

「我がおるだの。こう見えても我は双冥剣術の正統継承者だの。」

「・・・おもしれえ。超えてやるよ。お前も。」

 そういう遙の目の色は既に変わっていた。戦闘サヴァンのそれに。

「なら早く行くかの。もう夜は六時間しかないからの。」

 そういったとたん、二人の姿は闇に消えていた。

遙をおいて上の階にいったアンナと那雪姫はロビーの惨状を見ていた。

遙たちが殺したクリーチャーの残骸も大量にあったが、何より目に付いたのは一般市民の死体だった。

「ねえ、アンナ。あなたが来たときはもうこんな状態だったの?」

「ああ。この状態だった。ひでえ状態だったよ。」

 那雪姫は周りを見回すと、不思議そうに言った。

「おかしいわね。アンナがここに来た時にはこうなっていたってことは、それ以前にこの状況が作られたってことよね。」

 アンナは何がおかしいのかわからないのか?頭を抱えていた。

「どういうことだよ?」

「まだ、手術室は機能するかしら・・・」

 アンナの質問を無視して那雪姫は一人の遺体を抱えて上の階に向かった。

 二階の手術室で那雪姫とアンナは一人の遺体を解剖していた。

「やっぱりおかしいわね・・・。」

「なにが?」

 一応アンナも手伝ってはいたが、一体何をしていたのかさっぱりわからなかった。

「死亡推定時刻よ。この人が殺されたのは午後三時ごろ。この病院の診察を行う時間は五時まで。

インターバルが二時間もあるわ。それなのになんでアンナが来るまで誰も気づかなかったのかしら?」

 確かにおかしな話である。こんな大型病院に二時間も人が来ないとは考えられない。

しかも白昼堂々こんなことが行われたのに、目撃者が一人もいないし、逃げおおせた人も一人もいない。こんなことがあるだろうか?

「確かに指摘されたらおかしいよな。でも、そうなったもんはそうなったんじゃないのか?」

 投げやり的な言い方ではあるが、その通りである。

「そうね。考えたって無駄なことよね。」

 おかしい点は多岐にわたってある。しかしいくら考えても答えが出ることは無かった。

結局、かんがえるだけ無駄だと察したのか、那雪姫は手についた血を拭いて手術室を後にした。

「そういえば義兄さんは?」

 アンナが今気づいたかのように那雪姫に尋ねた。

「そうね、今は強くなる真っ最中かしら。ま、あの人なら大丈夫でしょうね。」

 そういって階段を下りる那雪姫。追うように階段を下りるアンナ。

「は?どういうこと?」

「言葉通りよ。遙は強くなってる最中なの。おそらく明日朝会うときには私たちでも相手にできないくらい強くなってるでしょうね。」

 那雪姫には、今遙が何をしているかわかっているようだった。

「そういえば、今日はなんかいろいろあったなあ・・・」

 アンナはついにその意図することを考えるのをあきらめたのか急に話を変えた。

「そうね。朝は私が灑薙麗と殺りあって・・・」

「家に帰って義兄さんで遊んで・・・」

「電話がかかってきてフォウさんのところに行って・・・」

「公園を燃やした後、家でちょっとあって・・・」

「え?なんかあったの?」

 アンナは知らないことなので那雪姫に尋ねたが、話せませんといって軽くあしらわれた。

「また呼び出されてきてみたらこの有様。本当にいろいろあったわね。」

 確かに一日で起こることにしては凝縮されすぎた一日だったようだ。

「でも、これで一件落着なのかな?」

「そうね。たぶん終わりじゃないかしら?」

 その言葉にアンナはほっとした様子だった。

「これで結婚式の前までに片付いたな。よかったよかった。」

「ええ。これで引退できるわ。」

「言うまでもないことだけど、幸せになってね。」

 当たり前のことだと思っていることだが、アンナにそういってもらえたことが那雪姫にとってとても嬉しかったようだ。

それもそのはず、いまではこんなに仲がいいが以前は互いに憎みあっていたような間柄だったのだから、

こんな風に祝ってくれるのが那雪姫にとっては本当に嬉しいことなのだ。

「ええ。」









あとがき


はい。ということで、第八話をおとどけします。

(フィーネ)今回は早かったわね。

おう。一日で仕上げるのはつらかったが、まあ、明日からはついに最重要レポートを書き始めることになったからな。

(フィーラ)じゃあ、明日以降はしばらく休みなのかな?

仕方ない。とはいえ、週末で一気に終わらせるから、来週には復活できるだろう。あ、そうそう。もしもよかったら読んでくれた方、

感想ください。えっと、自分基本的にあんまりメールしないんで浩さん、よければ掲示板使わせてください(深く一礼)。

(フィーラ)わたしからもよろしくお願いします。っと、じゃあ、そのレポートかいてる間はは書かないんだ。

ああ。そうなるな。っと、本編に触れるのを忘れてたな。今回は戦闘シーンが続きます。

(フィーネ)ねえ、遙は本気出したことあるの?

ああ。那雪姫とやったときにね。まあ、神格者になってからは一度も無いんじゃないか?

(フィーラ)ふあ。本気じゃなくてあんなに強いんだ。すごいなあ・・・

(フィーネ)じゃあわたしたちも・・・

まて!!何でそうなる!!

(フィーネ&フィーラ)フェアリー・ランページ!!!

なああああああああああああああ!!!!!ぎゃあああああああああああああ!!!!

(フィーネ)これで約一週間分ね。

(フィーラ)そうね。ま、復活にも一週間ぐらいかかるだろうけど。それじゃ、第九話で♪あと感想待ってま〜す♪




怪盗Xさん、どうぞどうぞ使ってください。その為にあるんですから。
さて、遥はどこまで強くなるのか。そして、黒幕の目的は何なのか。
気になる所で、次回へと。

美姫 「レポート頑張ってね♪」

うんうん。無事、レポートを終え、次回作が届くのを待っています。

美姫 「じゃあ、今回はこの辺で」

さらば!



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