第二章
『ノイズ・イン・マリス』
小波市の夜。いつもは東京渋谷に次ぐ不夜城といわれてきたこの町に夜、灯がともらなくなって早くも一週間がたつ。
『通り魔の犯行!?それとも殺人鬼!?』この記事がすべての発端だった。
韓古志町山間公園で起こった凄惨極まりない事件の報道である。一週間前のこの日、韓古志町山間公園で殺人事件が起きた。
被害者は二十三名。生存者なし。被害者は全身を鋭利な何かでバラバラにされていた。
しかもそのやり方は不自然極まりなく、全員同じ部分を切断されているのだ。だが、凶器がなんなのかがさっぱり判明しない。
一つはっきりしているのはこれをやったのが人間であるということだけだ。クリーチャーの仕業ではない。
現場を見た遙が発した一言がこの根拠だ。現場に復帰して初めての仕事。それがこの現場検証のみ。
不思議なことにあの大量発生以降クリーチャーは一匹も姿を現していない。まるでこれが起こるのを前もって知っていたかのように。
だが、そんなことは今どうでもいいことなのだ。今一番大変なことは、この事件が終っていないことである。
最初の事件の次の日、商店街の裏路地で15人殺された。そして二回目の事件以降一日15人ずつ、朝晩一件ずつ起きている。
今までの被害者総数218人。これはもう笑い事ではすまない。ここ数日は主に夜間見回りをしている警官が被害にあっている。
「もうここまで来たら笑うしかないわなあ。」
朝刊をサンクチュアリで読んでいた遙がそうもらす。
「笑い事ではないでしょう?生徒にも被害者が出ているんですもの。」
そういって静夏が遙をたしなめる。
「だから俺たちが見回ってるんでしょう?とはいえ、全部見回れるわけ無いんですけど。」
遙たちは生徒の下校時間、町を見回っているのだ。しかし、それをあざ笑うかのように被害はでている。
そしてついに先日この高校の生徒が被害にあってしまった。
こうなった以上対策を本格的に立てないといけないということでここに集まっているのだ。
「率直に言うと暫く・・・この事件の犯人が逮捕されるまで休校にするのが一番安全かと思います。」
那雪姫はそういって四階にあるサンクチュアリの窓から町を見渡す。
「そうですわ。もう被害者は出してはいけないんです。華香のような・・・」
最後のほうは消え入りそうな声で那雪姫の意見に賛成するホノカ。
そう。ホノカの言葉からわかるようにこの学校で最初の被害者は華香だったのだ。
「そうできればいいんですけど・・・」
煮え切らない返事を返す静夏。
「つまるところ、保護者側が納得しないんですね?」
ここは進学校である為、学校にかける保護者の期待は大きい。いまはそれがあだになっているのだ。
それでも普通は休校になりそうなものだが。
「そうなの。さすがにこればっかりはどうしようもないわ。」
そんなこと言ってる場合じゃないのに。といってため息をつく静夏。
「でも、一体誰なんですの?犯人は・・・。那雪姫、見当はつかないんですの?」
ホノカが那雪姫に犯人について尋ねる。
「全くつかないんですよそれが。凶器も一体なんなのかわからないし、誰がやったかなんてとてもとても。」
困った顔をして答える那雪姫。ここまで見当のつかない事件なんて珍しいんですといい再び町に目をやる。
「まあ、唯一わかってるのはとんでもない手練ってことだ。そうでもなきゃここまでできるもんじゃない。」
そういって新聞を机に置く遙。もう読む記事が無いのだろうか。それともめぼしい情報が無いのだろうか。
どちらかはわからないが、読む必要はなくなったのだろう。
「警察任せ・・・・しかないんでしょうか・・・。」
何もできることが無いと、人は総じて無力感と脱力感に襲われる。それが今の状態だ。
静夏は会長として何とかしたいと思っているのだろうが、何もできないことに少々気が立っている。
足をさっきからずっと指でたたいている。
「今のところはそうするしかないでしょう・・・」
さすがの遙もため息交じりの返事だった。そんな時遙の携帯がなった。着メロからしてフォウのようだ。
「はい。俺です。はい・・・・そうですか。はい。わかりました。え?今夜ですか?いいですけど・・・。はい。わかりました。」
電話が終わるとホノカは何の電話だったのかを聞いてくる。
「また起きたそうだ。今度は初めてのパターンだ。」
「また・・・ですの・・・」
もううんざりだというような表情を見せるホノカ。
これ以上被害が拡大してほしくないと心から願っているだけあって、事件のことを聞くたびに落ち込んでいる。
「初めてのパターン?」
那雪姫は遙の言葉の後半が気になったようだ。
今までのパターンは無差別に集まった人間をばらばらにしていたのだが、初めてのパターンとはどういうことなのかわからない。
「ああ。・・・・聞きたくない人は席をはずしてくれないか?今回のは正直激しすぎる。」
遙は注意を促すものの誰一人として席を立つものはいなかった。それはただ興味本位で聞きたいという雰囲気ではなかった。
「わかった。今回の被害者は40人。場所は韓古志中央中学校2年3組の教室。」
遙の言葉を聴いたとたん全員の顔から血の気が引いた。全員顔面蒼白になっている。
「ま、まさか・・・」
静夏会長が震えた声で聞いてくる。
「被害者は生徒だ。しかも、授業中に殺られたらしい。」
「そんな・・・」
那雪姫もこれには言葉を失った。ホノカは席を立ってトイレに駆け込んだ。
「くそ・・・それでなんで目撃者がいねえんだよ・・・!!」
忌々しげにはき捨てるとともに思い切り机を殴りつける遙。当然机にそれほどの強度は無くけたたましい音をたてて壊れる。
「あなた、物に当たってもしょうがないですよ。」
那雪姫は遙の隣に立つとそっと抱き寄せる。そして、遙が考えていたことと同じことを口にした。
「これで・・・安全な場所はどこにもなくなったというわけですね・・・」
そう。遙が何より憂慮したのは今回の事件が白昼堂々学校という人が多く、かつ無関係な人物には敏感な場所で起きたことにあった。
そのような場所でも目撃されず殺れると言うことはこの町に安全な場所は無いということになる。
「それと那雪姫、召集がかかった。またクリーチャーが出たらしい。」
「まさか今回の犯人・・・」
静夏が恐る恐る尋ねる。確かに虫のいい話ではあるが誰しもそう考えたくなってしまう。異常な殺害方法も納得できなくは無い。
「違うみたいだ。だが、どうやら新種のようだな。」
犯人だったらよかったのになといいながら遙は紅茶を飲む。
「とにかく。今はわたしたちにできることをしましょう。幸い、私たちにはできることがあるんですから。」
那雪姫は遙の目を見てそう諭す。遙は少し頬を緩めて頷く。
「お願いします。この事件を・・・一刻も早く解決してください。」
顔を強張らせて切実に懇願する静夏。それに答えるように力強く頷く。できる範囲のことで全力を尽くしますと。
同日夜十時。遙たちは市の中心から少し離れた場所にある廃ビルにいた。あたりを照らすのは月の光だけであまり明るくはない。
その上場所が場所である。あまり雰囲気がいいとは言えない。
ついで、今日も同じ月の下で再び事件が起きていると思うと、背筋が凍る思いがする。
「フォウさん、ここで良いんですか?」
クリーチャーが全くいないためにここで目撃されたといわれてもいまいち実感がわかない。
そして、クリーチャーの気配自体しないのだ。
「ああ。目撃情報が確かならな・・・」
そういってタバコをふかすフォウ。そして待つこと五分、異変に気づいたのはやはり遙だった。
「気配がするな・・・でも・・・どういうことだ・・・?」
普段と違う雰囲気に少し動揺する遙。気配がおかしいのだ。普通クリーチャーの気配は目標を発見するとそれに向かって集中する。
しかし、今回は気配が散在しているのだ。正確に言うならこの町自体に気配を向けている。
「そうですね・・・何かおかしいですね・・・」
那雪姫も異変に気づいていた。
「わたしにはわからんな。」
フォウがそういった瞬間突然地鳴りが起こった。
「な、なんだ、なんだ!」
いきなりのことにあわてるフォウ。無理も無い。地響きとともに目の前にあった廃ビルが見る見るうちに姿を変えていく。
あまりのことに唖然としてみていると、目の前の廃ビルは巨大なクリーチャーに姿を変えた。あまりのことに呆ける三人。
まあ、目の前のビルが巨大なクリーチャーになればだれでも驚くだろう。
クリーチャーは一通り町を見渡すと雄叫びを上げた。それに応じて大地が悲鳴をあげる。
「・・・冗談にしちゃあたちが悪すぎるぞ・・・」
見たものを信用できないのはわかるが、これが現実のようだ。
「なるほど・・・新種ってこれのことだったんですね。」
巨大なクリーチャーを見上げながら遙が納得する。
「まて・・・わたしはこんなのだとは知らなかったぞ・・・」
どうやらフォウが知らされていたのは新種であるということだけだったようだ。だが、このままほおっておくわけにはいかない。
巨大クリーチャーはゆっくりと市街地に向かって歩き出した。「とにかく止めるか。よし。復活記念だ。少し本気を見せてやるよ。」
そういうと遙は黄泉平坂を手に虚空に舞い上がった。
背には真っ黒なヴァンパイアマントを羽織っていたせいか、まるでそれが羽であるかのように舞い上がる。
が、突如大量のクリーチャーが巨大クリーチャーの背中からわいて出た。
「援護します!!」
那雪姫は背に羽を構築し遙を追うように舞い上がる。
腕は既にガトリング砲になっており、舞い上がりながらの砲火で次々とクリーチャーを落としていく。
フォウは地上から持ってきたマシンガンで応戦する。するとすぐに遙は巨代クリーチャーよりも上に浮き上がった。
「しかしでかいな・・・まあいい。これで終いだ!!デス・カッター!!!」
上段からまっすぐ振り下ろされた黄泉平坂から膨大な妖気が刃となって巨大クリーチャーを襲う。
真っ二つ。そうとしか表現しようが無い。巨大クリーチャーは文字通り正中線から真っ二つにされた。
その破壊力はクリーチャーが真っ二つにされたことからだけでなく、
地面が幅5メートル、深さ10メートル、距離にして50メートル以上えぐれていることからはっきりとわかる。
この破壊力にはさすがの那雪姫も驚いていた。
「あの時以上強くなってどうするんだよ・・・・」
フォウは驚くを通り越して呆れている。まあ、以前のままでもたいしたことのない相手であったには違いないが。
遙はすぐ日常に戻ってくると破壊されたビルの残骸を一つ手に取った。
「物質に融合か・・・ここまでできるヤツがいたとはね。いや、突然変異か?」
そんなことをつぶやきながら拾ったものを放り投げた。
「わかりませんが、確実に新種であることには変わりないですね。」
今までクリーチャーが何かと融合したというケースは報告されていない。
というよりもその様な能力は生物学的に考えて不可能だと考えられていたのだ。
融合するということは取り込んだものを自分のものにする必要がある。
しかし、物質であるビルと融合したということは取り込んだものを自分のものにした何よりの証拠だろう。
また一つクリーチャーの認識を改めなければいけないようだ。
「とにかく私たちの任務はここまでだ。後はほかの部署がやってくれるさ。帰還しよう。夜は危ないからな。ま、今は昼でも危ないか。」
そのフォウの言葉に従ってビルのあった場所をあとにする三人。だが、遙たちは気づいていなかった。
隣のビルの屋上にいた一人の老人が立っていたことに。
「第一段階は終了・・・どうやら成功のようだな・・・よって計画は第二段階に移行する・・・・。」
まるで誰かに報告でもするように独り言を発したあと、その老人は闇に消えていった。
ビルから離れた韓古志町繁華街。とはいえ今は繁華街なのかどうかは判断しがたい。なぜなら、人がいないのである。
一人も。そして当然のようにすべての電灯が落ちている。今世間を騒がせている事件はその大半以上がここ韓古志町で起きているのだ。
当然のように学校はすべて休校になっている。麦山高校が休校にならないのはこのせいもある。
大半以上が韓古志町で起こっているため、韓古志町ほど危機感が無いのである。遙たちはそのゴーストタウンのような繁華街にいた。
「今日もどこかで殺してるんだろうな。」
突然何を思ったのか、遙は今回の事件のことを話し出した。
「考えたくありませんが、そうなんでしょうね。絶対に許せません。」
那雪姫はそういいながらも周りを気にしていた。何か気配を感じているような身振りである。
「なんだ?そわそわして。何かいるのか?」
フォウはさすがに気になったのか、那雪姫にたずねる。フォウは人間としては確かに強い方になるが、
とはいっても気配を感じたりすることはできない。正確には気配を感じることはできるのだが、
漠然としか感じないために始めから当てにしていないのである。
「ええ・・・でもなんなんでしょう・・・これ・・・人間・・・じゃないんですよね・・・でも人間のような・・・」
「そうだな。なんなんだこの気配?人?違うな。じゃあ・・・」
遙は足を止めて周りを見渡す。暗闇を照らすのは月明かりだけだが、遙たちにとってそれは影響を及ぼすほどのものではないようだ。
とそのとき、不意に曲がり角から一人の人間が姿を現した。
「人?こんな夜中に・・・おい、おまえ・・・」
そういってふらついて歩いている人に近づくフォウ。
「だめだ!フォウさん!!それは人じゃない!!」
言う早いか、フォウが近づいていった人間を遙が黄泉平坂で胴を切断する。
「お、おい・・・これはどう見ても人間だろう!!」
あまりの傍若無人ぶりに激怒するフォウ。確かに一方的に決め付けて殺したわけだから、本当の人間だった場合後始末が大変なのだ。
しかし、遙が切り殺した人間は泡を立てながら形を崩していく。呆然とそれを眺めるフォウ。
「な・・・なんなんだこれは・・・」
そうやって呆然と眺めていると人の形は既になく、人が倒れていたところには血だまりが残されただけだった。
「一体なんなんだこれは・・・」
疑問が口をつくフォウ、するとそれに呼応したかのように次々と人が現れた。
「どうやら、歓迎されてるわけじゃないみたいだな・・・」
気配は全く違うものの、その視線はすべて遙たちに向けられていた。それを感じて那雪姫も構える。
が、那雪姫は羽を構築することなく両手にコンバットナイフを持っていた。
だが、コンバットナイフとはいえ、刃渡りはゆうに60センチを超えている。
「おい、遙・・・こいつらは一体・・・」
「わかりませんよ。唯一つわかるのはこいつらが敵だってことだけです・・・よっ!!」
そういって近づいてきた人間をひと薙ぎにする遙。武器が武器なだけにひと薙ぎで三人が二つに分割される。
次々と襲ってくる人間を殲滅する遙たち。那雪姫はそのコンバットナイフで次々と首を飛ばす。
今襲ってきている人間は、心臓を突いたりしても死なないのだ。一体なんなのか。それを考える暇などは全くなかった。
十分後遙たちがいた場所には血の池ができていた。
「なんなんだこいつらは・・・」
さすがに遙も驚きの色を隠せない。今までこのようなことが起こった経験が一度も無いのだ。
しかし、那雪姫がその中の一人を捕獲していた。いや捕獲とは美化しすぎであろう。
正確に表現するなら、コンバットナイフとは別のショートソードがいたるところを貫き、壁にはり付けにしているのだ。
「あなた、こいつらはもしかして吸血鬼かもしれません。」
那雪姫の言葉にフォウはさすがに信じられないという表情をした。しかし、確かにその首には吸血痕が認められた。
「ちょっと待て。何か?んじゃあ、ここは殺人狂がいるだけじゃなくて吸血鬼もいるのかよ。」
遙は近づいて吸血痕を確認した後そういった。ともすれば、ここはさながら地獄の1丁目といったところだろうか。
「でしょうね。どこかに母体がいるはずです。」
吸血鬼とは一人母体と呼ばれるものがいて、それにかまれたものは吸血鬼になる。
基本的に母体と呼ばれる吸血鬼は先天的に吸血鬼なのである。
また、それにかまれ、後天的に吸血鬼になったものは仲間を増やそうとして、手当たり次第に噛み付いていく。
ようは鼠算式に増えていくのだ。
「とはいえ、今から探すのは無理があるな。情報が少なすぎる。この町が狭けりゃ良いけど広いからな。」
狭ければ何とかなるのだろうか。そこのところはわからないが、とにかく今から探す気は無いようだ。
「で?どうするんだ?」
フォウがこれからの方針を聞いてくる。
「もしもこれが問題になることならすぐに連絡が来るでしょう。それから動いても遅くは無いと思いますよ。
今はとにかく帰還に専念しましょう。ただでさえここは危険な地域なんですから。殺人狂までいるんですし。」
フォウはその言葉を受けて機関を優先させることにした。三十分後、ここで30人の一般市民がバラバラにされるとは露知らず。
あとがき
いやあ、久しぶりだな。やっと書きあがったよ。
(フィーネ)やっとじゃないわよ!!遅すぎ!!!
仕方ないじゃないか。テスト勉強とPSOが忙しいんだから。
(フィーラ)PSOは完全に自分の問題でしょう?テスト勉強は大学はいって初のものだから、わからなくはないけど。
いや、PSOも結構・・・
(フィーラ)だから!!それは個人的理由でしょ!!
まあ。そうだね。
(フィーラ)なんか今日は強気だね。
そういうわけでもないんだけどね。というわけで第二章開始です。
(フィーネ)血みどろだねえ・・・
(フィーラ)今回で敵さんの目的ははっきりするんだよね。
ああ。
(フィーネ)最後の吸血鬼も敵?
当たり前だろ。でも、一章から出てたやつとは関係ないかもね。
(フィーラ)収集付くの?
たぶん。
(フィーネ)じゃあ、さっさとかこうね。
むり。テスト勉・・・
(フィーラ)同じことは聞き飽きたわ。
(フィーネ&フィーラ)クラッシュ・バレット!!
あぎゃああああああああああああ!!!!!!!!
(フィーネ)じゃあ、第二話出会いましょう♪
怪盗Xさん、投稿ありがとう!
いよいよ第二章開始!
美姫 「前回の謎がこれで解ける!と思いきや…」
今度は吸血鬼という新たな敵も登場!
まさに、怒涛の展開です。
美姫 「敵の目的は一体何なのか!」
これで、ただの愉快犯とかだったりしたら、面白いだろうな。
美姫 「………あ、あ、アンタはどうして、そう緊張を殺ぐような事を!」
性格です!
美姫 「ぷっつん」
あ、あはははは、冗談だよ………。
美姫 「もう、遅いわ。秘剣、イナヅマ斬り〜〜!」
そ、そんな技あったかぁーーー!
グゲロンペゲロボォォォォォォ!
美姫 「じゃあ、またね」