大広間の扉を開けるとそこには大きな階段が姿を現した。どうやら、最上階に続いているようだ。
ということはこの城は大広間以外には最上階の部屋しかないようだ。だが、この階段は一体何段あるのだろうか。
1000では済みそうにない。再びこの城の大きさに驚かされる遙たちだった。
とにかく上らないと始まらないというフォウの言葉に従って階段を上っていく遙。二時間ほど歩いただろうか。未だに半分も上れていない。階段の先にある扉ははっきりと見えるのだが。
「なあ、遙。あの扉、一体どのくらいの大きさなんだ?」
まだあとどれくらいあるかもわからないが、それでもとてつもなく大きいのは一目瞭然だ。
「わかりませんよ。ここから見てあれだけ大きいんですから、高さは100メートル近くあるんじゃないですか?」
高さ100メートルの扉。容易には想像できない。
そんなことを言いながら、とぼとぼと階段を登っていく遙たち。そんなこんなで扉の前に立ったのは3時間後だった。
「でも、実際に立ってみるとなんだかすごいですね。これって開くんでしょうか?」
那雪姫が率直に意見を漏らす。
「開くさ。」
遙がそういうと扉は音を立てず開いた。
その先の部屋はあまり広いものではなかったが、広いと錯覚するかのような感覚を抱かせるものだった。
何もないのである。ただあるのは十字架にはり付けられた純白のドレスに身を包んだ髪の長い女性がいるだけなのだ。
それに導かれるように部屋に入ろうとする那雪姫とフォウ。
「ちょいまち。入っちゃだめだ。」
遙はその二人を止めると自らが一歩踏み出した。すると、扉のあった場所を遙が通る瞬間、閃光がはしった。遙は振り向くと、
「結界張ってあるから二人はそこで待ってろ。」
遙はそう言い残すと十字架に近づいていく遙。遙は十字架の前に立つと、
「ハーティア・クロウフェルだな。力を貸してくれ。」
と、かたりかけた。すると、どこからか、声が聞こえてきた。
「さっきからお前たちのことは見せてもらってたよ。なかなか力があるじゃないか。
面白い人間・・・いや、扉の向こうの一人以外は純粋な人間じゃないみたいね。とにかく、非常に面白いわ。
いいでしょう。力、貸してあげるわ。でも・・・」
「わかってる。封印を解けだろう?いいぜ。解いてやるよ。」
そういうと遙は朔夜を振り上げた。が、振り下ろす気配はない。
「おい、死ぬなよ。お前死んだら元も子もないんだから。」
どうやら、今回は加減をするつもりがないらしい。
まあ、ハーティアですら解けない封印を力任せに解くわけだから、ハーティア自身が耐えられるという保証はない。
「馬鹿にしないでよ。そこまで妾も弱くはないわ。」
その言葉に安心したのか遙は朔夜を両手で持つと普段は構えないのに、構えを取った。
「闇音に双冥剣術習った成果がやっと出せるな。」
そういった瞬間、朔夜にいままでにないほどの妖気が集まった。あまりの妖気の量に周りの空間が歪んでいる。
「双冥剣術奥義、黒冥。」
遙の言葉とともに朔夜が振り下ろされる。同時にいままでにない量の妖気が放たれ、振り下ろした前の空間で炸裂する。
妖気は何の形をしているのか確認できないほどのものだったが、空間自体を吹き飛ばすようなものだった。
当然のように崩れおちた部屋の天井や壊れた壁の巻き起こした埃が消えるにしたがって、いままでいた部屋の現状が明らかになる。
いままでいた部屋は床を残して吹きさらし状態になっている。だが、そこには遙の他にハーティアがたっていた。
「すさまじいなぁ。結界を張るのがちょっとでも遅かったら死んでたね。」
こともなげにハーティアは言うが、実際はそのちょっとは一秒足らずなのだが。
「さて。封印もといてやったんだから、元に時代に戻してくれ。」
遙はいきなり本題に入った。あまり長居をしたくないのだろうか?
「いいけど、妾もついって行っていい?」
いきなりなにをというような表情を浮かべる遙。まあ、吸血鬼の真祖がついてくるといっているのだからわからなくもないが。
「お主を見て、お主の時代に興味を持ったのよ。正確に言うなら次元連結なんてできるのは私の知ってる限りストラ以外いないし。
あ、ストラっていうのは吸血鬼ね。」
「ストラっていうのか。こっちに俺らを飛ばした馬鹿者は。」
遙はうんざりしたかのような表情を浮かべた。連続殺人鬼の上に吸血鬼。いい加減にしてくれといったところだ。
「どうせあの馬鹿のことだから、未だにミレニアム・オブ・エンパイア建設に尽力してるんじゃない?」
「なんだよそれ?」
ミレニアム・オブ・エンパイア。直訳すると千年の王国。しかし、千年の王国などはビザンツ帝国が実現させている。
それの再現とは思えないのだろう。
「お主の思っていることがどんなものかはしらないけど、奴等がつくろうとしてるのは吸血鬼支配の永遠の帝国よ。」
吸血鬼があの時代にどれだけいるのかは定かではないが、実現すれば、いまの人間社会は崩壊してしまうだろう。
「同じ吸血鬼同士、始末は妾がつけるわ。」
ハーティアはそういうと、遙たちに近づいた。
「じゃあ、飛ばすわよ。あ、2人、名前を聞いていい?」
そういってハーティアは二人に自己紹介をもとめる。
「遙の妻の九重那雪姫です。」
「あら、既婚だったの。」
「ええ。」
そういうやり取りに割って入ったのがフォウだった。
「フォウ・ルフィーユ。三課・・・といってもわからないか。クリーチャー・・・といってもわからないよな・・・」
フォウは自分の肩書きを説明するのにてこずっている。
クリーチャー自体この時代にいるかどうかわからないため、どう説明すればいいかわからない。
警察といえどもこんな時代にそんなものがあるわけない。
「クリーチャーならしってるよ。あれは妾たちの敵だもん。」
どうやらクリーチャーはこの時代には存在していて、吸血鬼とは敵対しているようだ。
ということは自分たちの時代でもそれはかわっていないだろう。
「なら話は早い。そのクリーチャーを殲滅する機関の局長をやっている・・・あれ?何で日本語が通じてるんだ?
お前さんは日本人じゃないだろう?」
フォウはあまりに普通に話していることを疑問に思った。
「ハーティア・クロウフェルをなめないでよ。吸血鬼の真祖なんだからそのくらいできるわよ。」
そういうとじゃあ飛ばすねといってハーティアは左手を掲げた。同時に遙たちの立っている空間が崩壊した。
それ以外に表現にしようがない。
遙たちが気づくと元いた神社にいた。遙が腕時計を見ると時間は神社に来たときから一分もかわっていない。
「へえ・・・ここがおぬしたちの住む時代か。混沌としてるわね。」
確かにそのとおりである。
「で?そのストラっていうやつはどこにいるんだよ?」
遙がハーティアにたずねる。と、同時にご神木の上から一人の女性が飛び降りてきた。
「久しぶり、ハーティア。こいつらに封印といてもらったんだ。」
そういって遙たちを指差す。
「こら。失礼でしょ。カーネリア。」
そういって木から下りてきた女性をたしなめる。
「だれだよこいつ?」
遙の質問に目を尖らせてにらめ付ける。が、遙の顔を見たとたんカーネリアの顔の血の気が引いた。
「な、ダ・・・・ダークパラディン!!!!???なんであんたがここに!!??」
そういって指をさして驚くカーネリア。
「あなた、知り合い?」
那雪姫が遙に聞く。だが、遙に女性の知り合いがいるとは考えにくい。
「しらね。」
一発でその質問を斬って捨てる遙。
「な・・・神格試験の相手を忘れたって言うの!?」
「ん?んん?」
そういってまじまじとカーネリアの顔を見る遙。
「あ、ああ。思い出した。試験の中で一番弱かったやつだ。」
遙がそういうと顔を真っ赤にしてがなった。
「い、いちいちうるさい!!先にストラを倒してあげたんだから文句言わない!!」
そういうとご神木の枝の一本をゆびさすカーネリア。そこには無残にも手足を引きちぎられたストラがぶら下がっていた。
「また派手にやったもんだ。」
「あなた、終わっているのなら早く高校に戻りましょう。まだ下校は始まってないでしょうし。」
那雪姫が遙にそう促す。ことが迫っているだけあって、終わったなら次にというのが一番効率としてはいい。
「だな。フォウさん、ここ頼みます。で、お前らはどうするんだ?」
ハーティアたちに今後を聞く遙。
「ついていくよ。何かと大変だろうし。いくわよ、カーネリア。」
「何で私まで・・・」
ぶつぶつと文句を言いながらでも付いてくるカーネリア。
一体どういう関係なのかはわからないが、カーネリアはハーティアには逆らえないらしい。
「どういうことだよ。大変なことって?」
ハーティアの言っている言葉の意味がわからず聞き返す遙。だが、ハーティアは答える変わりに肩をすくめて見せる。
「はあ。よくそんなので神格者になれたね。」
どうやら気づいていないことを馬鹿にしているらしい。
とはいえ、遙は神格者であっても、戦闘能力が神に値するというだけなので、不老不死ということを除けば
普通の人間となんら変わりないのだから。気を完全に感知することができるとはいえ、ハーティアほどの第六感は持ち合わせていない。
「とにかく学校に戻りましょう。話しは歩きながらでもできますから。」
その言葉に従って、学校に向かって歩き出す遙たち。フォウはというと、その場に残ってこの吸血鬼の後始末をするようだ。
学校への帰途、ハーティアは吸血鬼とクリーチャーの関係、なぜハーティアが封印されたのか、
エンパイア・オブ・ミレニアムとは一体なんなのかを話した。
「つまり、吸血鬼とクリーチャーはこの地球の覇権をめぐって対立してるって言うわけだ。
んで、エンパイア・オブ・ミレニアムってのは吸血鬼の目指す楽園で、ハーティアはそれに反対したから封印されたとな?」
遙がいままでの話を要約して結論した。とはいえ、どちらにせよ吸血鬼は遙たちの敵であることに変わりないのだが。
「そういうこと。妾とて十三死王をまとめて相手にして勝てるわけないじゃない。結局封印されちゃったってわけ。
まあ、そのとき十三死王も半分になっちゃったけどね。」
ただで封印されるわけないじゃないと笑うハーティア。
吸血鬼の真祖ハーティア・クロウフェルでさえもまとめて相手にできないということは相手はかなりの実力者なのだろう。
その十三死王が裏で絡んでいることは間違いない。ということはいずれその十三死王の生き残りと遙たちは闘うことになるのであろう。
そして三十分後学校に着いた。帰りは歩きだったため、少々時間がかかったようだ。が、ついてみた学校は不自然極まりなかった。
誰一人として校庭にいないのだ。確かに遙たちがここを出てもう三十分たっているため、全員帰っていてもおかしくはないが、
果たして、三千人もの生徒がたった三十分で帰宅することができるだろうか。そういえば、学校に来るまでに生徒とは一人もあっていない。ということはまだ校内にいるという方が可能性としてはある。
「先に帰してもいいって言ったのに。そんなに怖いもんかねえ?」
「あなた、私たちの感覚でものを言ってはいけませんよ。もう今ではどこで殺されたっておかしくないんですから。」
那雪姫のいうとおり。確かに普通、怖くて当然である。
「とにかく職員室に行くか?それとも教室に戻るか?」
遙は那雪姫にどうするかたずねる。那雪姫は一度教室に戻るべきだといって遙とともに歩き出した。
ハーティアたちはというと、ここに残るようだ。ついていかない方がいいだろうというハーティアたちなりの配慮らしい。
「しかし、物音ひとつないってのもおかしいよな。」
校内もまた不自然極まりないほどに静まり返っていた。教室の窓ガラスは擦りガラスのため中の様子はうかがうことはできない。
やはりもう帰ってしまったのだろうと遙は考え始めていた。まあ、ここまで人の気配がないとそう思うのは当たり前だろう。
「もう帰ったんでしょうか?まあ、これだけ静かだとその可能性もありそうですね。」
那雪姫もどうやら皆帰ったのだろうと思っているようだ。
そして自分の教室に付いた2人は何の躊躇も無くドアを開けた。
そこにあったのは遙と那雪姫以外の生徒の首のない体だった。
正確に表現するなら、全ての生徒は自分の席についている。まるで今から授業があるかのように。
だが、唯一違うのは机のうえにあるのが教科書ではなく机の持ち主の頭なのである。
それは人の所業とは思えない惨状だった。
「な・・・」
暫く黙ったままの遙が発した初めての言葉だった。隣の那雪姫も青ざめている。
「おい!那雪姫、隣のクラス!!」
那雪姫は遙の一言で我に返り、隣の教室のドアを開けた。
そこにも何も言わぬ43体の人間だったものの体が、授業を受けているかのように席につき、首が机の上に置かれていた。
「同じです・・・・。」
那雪姫の声は震えていた。これほどの惨状を見たのは初めてだったのだろう、顔には血の気が全くない。
「まさか全部・・・。」
遙の予想は絶望的だった。が、そう考えればこれほどの惨劇が起きているにもかかわらず騒がれていなかったことや、
校内が異様に静かだったこと、帰りの生徒にだれも会わなかったことにも説明がつく。
「アンナ・・・アンナ!!」
那雪姫はふと妹のことを思い出し一年棟に向かって走り出す。そして、すぐに遙の視界からきえた。
「おい!那雪姫!!・・・・ったく・・・・この状況で落ち着けってのも無理だけど、
俺らが落ち着かないとどうしようもないじゃないか・・・。」
と入っているものの、遙の頭でも処理限界を超えていて、次に何をすればいいかわからなくなっている。
が、何とか思考を元に戻し、次にすべきことを導き出す。
「とりあえず生存者の発見が先だな。おい、朔夜。」
そういうと、遙の前に朔夜が現れた。それを手に取ると二年棟を探そうと歩き出す。
「またひどいことになってるねぇ。ねえ、ご主人様、これからどうすんのさ?」
いつの間にか遙のことをご主人様と読んでいる朔夜。が、遙はそれを気に留めることもなく、生存者の発見が目的であることを告げる。
「ふーん。ちょっとまって。」
そういったとたん、朔夜は刀から人間の姿に変わった。
「なんだ。お前実体化できたのか。」
全く驚いていない遙。どうやら思考は完全に復活したようだ。
「まあね。さてっと・・・」
そういって目を閉じる朔夜。数秒後目をあけて、
「いるよ。生存者。」
そう告げる朔夜。そして遙に場所を告げると遙はその場所に向かって走り出した。再び刀に戻った朔夜を手に携えて。
「保健室とサンクチュアリ・・・会長たちとクリス先生か・・・?」
そうつぶやきながら向かった先は一番近い保健室だった。
あとがき
はい。本当にお久しぶりの第三話。ついに第二章も佳境に入ってまいりました。
(フィーネ)本当に八月頭になっちゃったのね。
仕方なかろう。本当にテスト辛かったんだから。
(フィーラ)ま、そんなことはどうでもいいとして。
どうでもいいの・・・?
(フィーネ)そうそう。文中のミレニアム・オブ・エンパイアの和訳おかしくない?ミレニアムって百万でしょ?
まあ、直訳すれば。でもさ、人間の寿命ってのはいいとこ100年だろ?1000年っていったらとんでもなく長いわけだ。
(フィーラ)ちょっとした意訳ってヤツ?
まあ、そんなところだ。
(フィーネ)そんじゃあ次。あんた人殺しすぎ。
うぐっ。そ、それは・・・
(フィーラ)そうそう。どろどろしすぎ。もっとラブラブモードはないの?
いや、それは第三章になってからあるぞ。まあ、そっち方面は書くの苦手だからな・・・。
何せ自分に経験がないから、どうにもサンプルが。
(フィーネ)さびしいヤツ。
やかましい!!
(フィーラ)じゃあ、第三章には期待していいのね?
ああ。とはいえもうちょっと二章は続くがね。
(フィーネ)でも、遙には那雪姫がいるよね。
・・・・・・・・・。
(フィーラ)ノーコメントのようです。
(フィーネ)教えなさい!!フィーラ姉さん!行くよ!!
(フィーネ&フィーラ)サイコ・ストライク!!
・・・・・・!!!!!!!!!!!!!!
(フィーラ)ということで、また次回♪
投稿、ありがとう〜。
美姫 「でも、本当に今回は被害者が多いわね」
過去最高じゃないかな?
美姫 「生き残ったのは誰なのか?それも気になる所ね」
まあ、お前がいたら、間違いなく生き残っているだろうな。
美姫 「(にっこり)どういう意味かしら?」
どうもこうも、そのままの意味じゃないか。はははは。
美姫 「ふ〜ん」
あれ?何で片手で俺の頭を掴むのかな?
あ、あれれれ?あのー、だんだんと力が込められて痛いんですけど。って、いたたたたたた、痛い!痛い!
ま、マジで痛いって!
ギ、ギブギブギブ!や〜め〜て〜!
美姫 「くすくす。スイカを割ると赤い汁が飛び散るのよ」
ま、待て待て待て!ほんっっっっっと〜〜〜に待て!
美姫 「くすくす。言う事はそれだけ?」
お、俺が悪かったです〜〜〜(泣)
み、美姫が生き残ったのは、えっと、その、えっと……。
そ、そう!その美貌のお陰で見逃してもらったからです。
で、ですから、この私めの頭をお放しください〜〜!
美姫 「そこまで言うのなら、許してあげるわ」
ありがとうござ〜ますだ〜。
美姫 「さて、今回はこの辺にしておこうかしら」
は、はい。それはもう。
はぁ〜、助かった……。
美姫 「何か言った?」
ブンブンブン。何も言ってません。
美姫 「そう、じゃあ良いわ。それじゃあ、また次回も楽しみにしてるからね〜」
ではでは。