遙は保健室に着くと何も言わずにドアを勢いよく開けた。
「こらっ!大きな音立てないの!寝てる人がいるん・・・って遙君?」
そこにはクリス先生が何事もなかったかのように仕事をしている姿があった。
「よかった・・・クリス先生・・・無事だったんだ・・・。」
そういって床にへたりこむ遙。
「な・・・ちょ、ちょっとどうしたの?」
いきなり目の前でへたりこまれてわけもわからず、遙に理由を聞くクリス。
「いえ・・・ちょっと・・・あ、クリス先生、アンナと朝比奈知りません?」
遙は生死の確認のできていない2人についてたずねる。
「ああ。その2人ならそこで寝てますよ。」
クリスはそういって一つのベットを指差す。その先には一つしかないベッドの上で仲良く寝ているアンナと灑薙麗がいた。
「よかった・・・・」
そういってほっと一息をつく遙。が、それもつかの間、ゆっくりと立ち上がり、
「クリス先生はここにいてください。もしアンナたちが目を覚ましてもここを動かないように言ってください。」
「え・・・?いいですけど・・・。」
よく事情が飲み込めていないために生返事になってしまうクリス。ちょうどそのとき遙を呼ぶ那雪姫の声が聞こえた。
遙の振り見いた先には目に涙をためた那雪姫がたっていた。
「アンナが・・・アンナが・・・・」
今にも泣き出しそうな那雪姫にアンナがここで寝ていることを告げる。
「アンナ!!」
そういって遙を押しのけて保健室に入る那雪姫。
「んにゃ・・・なに?何かあったの?クリスちゃんせんせぇ〜?」
那雪姫の声に目を覚ますアンナ。とはいえ寝ぼけてはいるが。
しかし、いきなり那雪姫に飛びつかれてまた布団に倒れこむ羽目になる。
「ぎゃうっ!!」
が、倒れこんだ先に灑薙麗が寝ていたため、思い切り押しつぶすような形になってしまう。
「灑薙麗!!よかった!!2人とも無事で・・・・」
そういって2人を抱きしめる那雪姫。が、那雪姫の力は神体者であるため、抱きしめる力はとてつもなく強い。
しかも興奮して一切加減をしていない。
「いたい!!!いたいから!!!ちょ・・・姉さん!!」
「いたいってば!!ちょっと!!那雪姫!!ギブ!!ギブ!!」
今にも背骨が折れそうな勢いで二人を締め上げる那雪姫。
「おい、那雪姫。落ち着けって。」
そういって2人からいともたやすく那雪姫を引き剥がす遙。
「ててて・・・。いきなりなんだよ。姉さん・・・?」
腰をさすりながらベッドから起き、軽く柔軟をするアンナ。灑薙麗もベッドから起きて腰をさすっている。
「ちょっとあってね。まあいい。朝比奈、ちょっとクリス先生頼むわ。」
そういって灑薙麗にクリス先生を頼む遙。何がなんだかさっぱりわかっていない灑薙麗だが一応頷く灑薙麗。
「アンナ。悪いけどお前はついてきてくれ。」
「ちょ・・・いきなりついて来いって言われても・・・」
寝起きにベアハッグをくらって痛みもまだひいていないのにいきなり言われても、頭がついていけず、
何がなんだかさっぱりわかっていないアンナ。
「とにかくついて来いって。那雪姫、お前はどうする?」
そういって那雪姫にどうするか聞く遙。
「行きますよ。でも、灑薙麗だけで大丈夫でしょうか・・・?」
その言葉に灑薙麗の顔を不満でむくませる。
「ちょ・・・どういうことよそれ?」
「まあ、この調子なら大丈夫でしょうね。」
そういって灑薙麗の肩をたたく那雪姫。
「ここを任せましたよ。何があってもここを動かないでね。」
そういわれるが、やはりさっぱり状況がわかっていない灑薙麗。まあ、説明されていないから仕方ないが。
「おぬしら、我のことは全く気にしておらんかったのう?」
そういっていきなり遙の背後から闇音の声がした。
「気にするも何も。お前がやられるわけないだろ。わかりきってることは気にかけないの。」
そういって軽くあしらう遙。が、闇音は腕を組んで憮然とした表情を見せる。
「この制服を見てわからんのか!?」
そう指摘されてよく見ると闇音の制服はぼろぼろになっていた。
「こけたか?」
てんで的外れのことを言う遙。
どこからどう見てもこける程度でそこまでぼろぼろにはならないだろうというほどにぼろぼろになっているのだが。
「馬鹿もん!!これをやったやつと戦ったときについたに決まっておろうが!!」
話についてこれていないクリスたちはただただ眺めているだけである。遙はというと闇音にだれがやったのかを聞いている。
「よくはわからんの。相手は覆面だったからの。」
「役にたたねえじゃねえか。」
呆れる遙。が、闇音は手のひらを上にして遙に見せた。
「敵は鞍堵島だの。」
「いや、どこにそんな証拠が・・・」
覆面を相手にしてどうしてその相手が一族四位の鞍堵島だとわかるだろうか。第一手のひらには何もない。
「よく見るの。」
そういわれて闇音の手のひらをよく見る那雪姫。と、突然、那雪姫は闇音の手のひらからなにかを摘み上げた。
「糸・・・・ですね。」
そういわれてよく見てみると、ピアノ線よりも細いだろう糸が那雪姫の手にはあった。
「なるほど。弦術は鞍堵島の十八番だもんな。」
そういって再びクリスたちのほうを見る那雪姫。
「これは灑薙麗だけでは荷が重すぎですね。闇音、ここに残ってもらえます?」
完全に話においていかれているクリスたちをよそに勝手に話は進んでいく。
闇音は残ることを了承し、遙たちはサンクチュアリに向かって歩き出す。
アンナは廊下に出るやいなや異様なまでの血の匂いと遙たちの前の会話から、ある程度何が起こっているのか理解したようだった。
サンクチュアリに続く階段を上っていると人影が見えた。近づくに連れてそれが誰かはっきりとわかってくる。
それはなんとホノカだった。生徒会の資料などの大量の紙が散らばる中、ホノカはいた。
死んではいない様だが、投げ出した足がありえない方向を向いている。どうやら折れているようだ。あわてて駆け寄る遙たち。
「ホノカ!ちょっと、大丈夫!!」
そういってホノカの肩をゆする那雪姫。遙は足に手をかざすと治癒魔法をかけ始める。
「会長が・・・・会長が・・・・」
何かに憑かれたかのように繰り返すホノカ。
その顔には今日までのものとは全く違い本当に同一人物なのか疑ってしまうほどにかわっていた。
何より、目に生気がない。遙は治癒魔法をかけ終わると、すぐさまサンクチュアリの中に駆け込んだ。
そこには全身をバラバラにされていないものの、見えない糸で宙につられた静夏が事切れていた。
遙はしばし呆然としていたが、胸ポケットから携帯を取り出しある人物に電話をかける。
「あ、母さん?悪い、忙しいのはわかってるけど今すぐ学校に来てくれない?」
遙は母に電話をかけたようだ。するとすぐに母親、九重和(ここのえ なごみ)が遙の隣に現れた。
どうやら彼女も神体者であるようだ。
「珍しいじゃない。はるちゃんが私を呼ぶなんて・・・って、すごいことになってまあ・・・・。」
遙の事をはるちゃんと呼ぶ和は目の前の惨状を見て少し驚いたようだった。
「これは鞍堵島の連中の仕業ね。」
しかも一目見ただけでだれがやったかまで見抜くその眼力は、
やはり一族一位九重家の当主をしているだけのことはあることを示していた。
「ちょっと頼みたいことがある。悪いけど、俺・・・だけじゃないや。
俺と那雪姫、アンナ、朝比奈、クリス先生、闇音、雪広がこの高校に通っていたって証拠全部消してくれないか?」
いきなりよく意味のわからないことを言い出す遙。
「いいけど、ほかの住民とかはどうするの・・・ってそれは私の出番ってわけね。」
「ああ。マインド・キリングの力持ってるからね。」
どうやらなぜ遙がそんなことをしようとしているのか和にはわかっているようだ。
「それじゃあ、転校先とかも斡旋してみるね。」
そういい残すと再びその場から消えていなくなる和。
「とにかく・・・警察には・・・・無理か。ま、放っておいても誰か気づくわな。」
そういい残すと静夏の前で十字を切ると遙はその場を後にした。
その後、遙たちは遙の家に行き、そこで学校で起こったことについてかたった。
灑薙麗は納得していたが、クリスは最後まで納得できていない様子だった。
ホノカはというといまは那雪姫が部屋でベッドに寝かせている。
ある程度落ち着いてきたとはいえ、やはりホノカにはショックが大きすぎたようだ。
夕方のニュースで学校のことは大々的に取り上げられた。しかし、クリスはそこに自分の名前がないこと疑問に思った。
なぜなら、生存者はいないとされていたからだ。それについて遙が詳しいことを説明する。
しかし、納得いかないのか、クリスはそんなことをした遙に食って掛かる。
「ですから、面倒だからって理由だけでなんでそんなことができるんですか!!」
さっきからこの調子である。さすがに遙も根負けして本当の理由を話し始める。
「わかりました。本当の理由を言いますよ。理由は二つ。一つは雪広のため。なぜか?答えは簡単。
もし俺たちが生存者だって発覚したらメディアが黙っているわけないでしょう?
俺や那雪姫には質問はされないでしょうけど、朝比奈やクリス先生は質問攻めですよ?当然雪広も。
今の雪広にそんなことができますか?できるわけ無いでしょう?今下手に雪広を刺激したりしたら、本当に精神崩壊起こしますよ。
ただでさえここ数日、いっぱいいっぱいだったんですから。そして二つ目は犯人を見つけるため。
これは一つ目と同じような理由からです。メディアに騒がれたら身動き取れなくなりますから。
とりあえず犯人見つけて殺すなりなんなりして責任取らせないといけませんからね。そうなると身動きが取れないと致命傷なんですよ。」
遙の説明にクリスはしぶしぶながら納得したようだった。遙の挙げた理由はもっともなことであるため反論ができないのだ。
「で?犯人の目星はついてるの?」
なぜか家にまで着いてきたハーティアが遙にそうたずねる。
「目星か。そうだなあ・・・鞍堵島が関わってるってことがわかっただけでも十分だな。
あっちも俺を敵に回したくはないだろうし、俺も連中を好き好んで敵に回したいってわけじゃないから、
向こうが中で始末するんじゃないか?」
そういってコーヒーを口にする遙。どうやら遙はこの件が解決したと考えているようだ。
確かに下手に犯人をかばって遙と一戦交えたとしても結果は始めから見えている。ということは内で暗に始末することになるのだろう。
「じゃあさ、これからどうするの?」
結局やることがなくなって、これから何をすればいいかわからなくなったのか、カーネリアは遙に今後の予定を聞く。
「どうするも何も。まずは母さんが転校先を見つけてくれるまでは何もすることがないんじゃないか?
別に今回の件で鞍堵島を攻めるってのも面倒だし、第一、連帯責任なんていってたら埒が明かないからな。
ま、町をぶらつくなり、なんなりするといいさ。お前らも十三死王ってのを探すんだろ?」
そういって遙はソファーから立ち上がり寝室に向かう。どうやら、もう寝るつもりのようだ。
楽天的に見ている遙に比べると、闇音は何か気に食わないというような表情を浮かべていた。
「あれ?何か気にかかるの闇音?」
いままで黙っていた灑薙麗が闇音に問いかける。灑薙麗はいままでの経緯からして遙と同じ立場にあるようだ。
「うむ・・・。まだ終わってない気がするんだの。この事件は。」
そういって再び黙りこくる闇音。今回の事件について考えているのだろうが、実際は一体何を考えているのか、
傍目から見るとさっぱりわからないというところが、かえって不気味な雰囲気をかもし出している。
そうしているうちに、ハーティアとカーネリアがソファーをたち、玄関に向かった。
どうやら彼女たちは彼女たちの敵、吸血鬼を探しに行くようだ。
しかし、彼女たちが仮に戦いを始めたとしても、吸血鬼はいずれ遙たちと闘うことになるだろう。
それは、近い未来現実になる確定された未来だった。
一体、十三死王とはどれほどの力を持っているのだろうか。
しかし、いまはそんな未来のことよりこの現状について思考する事のほうが重要事項であろう。遙も事実そう考えているのだ。
皆の前では表情に出していなかったものの、寝室に入った遙はベッドに横になって次の手について思考していた。
「ここまではある程度俺の予想どおりか・・・。でも今度はヒントが大きすぎるが・・・。」
ありすぎるヒントはかえって足を引っ張る。
傍から見れば鞍堵島が関わっているとしかわかっていないようなものだが、遙にとってはそれがあまりに大きすぎるヒントだったようだ。
「鞍堵島の弦術・・・か・・・。しかし。まあしかし。」
どうやら遙は思考することをやめ、眠ることを優先させたようだ。が、眠りに落ちるまでの遙の顔に迷いはなく。
大きすぎたヒントをものともせず。ただ、答えだけを見つめているようだった。そう。
それは、彼が一族最強の九重一族の中でも最強で最恐で最凶の墓標(グレイヴ・ストーン)
であることをまだ見ぬ犯人に向けて示しているかのように。
深夜の明かり一つない眠った町にそびえる高層ビルの屋上に一人の小柄な女性が立っていた。
いままで彼女はこのビルの中にいた従業員、正確に言えば社員を一人のからずコマ切れにしていたのだ。しかし、返り血は一切ない。
いままでここで殺戮をしていたといってもだれが信じよう。
彼女は被害者の血をあびておらず、かといって殺戮していたにもかかわらず、血の匂いすら漂わせていない。
そして、彼女に向かい合うように数人の社員らしき人間がそこに立っていた。既に残業時間もすぎているというのに、
なぜこんな時間にここにいたのだろうか。その疑問は全く解けない。
「た・・・助けて・・・」
小柄な女性に向かい合っていた社員の一人が助けを請う。
しかし、彼女には聞こえていないようだった。そして向かい合った社員に向かって一言。そう。それは。そこにいたのは。
まさに殺人姫だった。
「うるさいよ。」
そういって小柄な少女は左手を喰(く)いっと上げ、終(つい)っとおろす。
同時に向かいあっていた社員はバラバラになっていく。そう、ドレがダレなのかがわからなくなるほどに。
「うるさい・・・まだうるさいよ・・・まだ・・・たりない・・・」
そういいながら頭をおさえ、その場にへたりこむ殺人姫。
暫くしてふらふらと立ち上がり、彼女はあろうことかそのビルの上から飛び降りた。そしてそのまま夜の闇に消えていった。
あとがき
はい。第二章第四話です。
(フィーネ)で?で?最後の殺人姫はダレなの!?
それをここでいったら面白くないだろ。そうあせるな。すぐにわかるさ。
(フィーラ)気になるなあ。
気になるから次も読みたいって思うだろ?
(フィーネ)読んでる人いればね。
そ、それをいうな・・・。
(フィーラ)でもさ、学校一つ潰してこれからどうするの?主要キャラ以外ほぼ死んじゃってるじゃない。
まあ、それについては考えてるんだ。第三章に期待しててくれ。
(フィーネ)ひっぱるなあ。まあいっか。でも、まだ本当の敵の目的が出てないんだけど。
大丈夫だ。もうすぐ明らかになる。っていうかそのあたりまで書き終わってるから。
(フィーラ)え?もう第二章全部かき終わってるの?
そんなわけあるか。今、集中講義でゴルフを毎日やってるんだ。おまけに全身が痛くて痛くて、まともに動かんのだよ。
(フィーネ)じゃあ、私たちがマッサージしてあげる♪
お、気が利くじゃないか。めずらしく。
(フィーラ)それじゃあ、フィーネ。いくわよ。
(フィーネ)はーい☆
(フィーネ&フィーラ)ブラック・ライトニング!!!
しびびびびびびびびびびびび!!!!!!!!!!!!!
(フィーラ)あれ?電力が強すぎたかな?
(フィーネ)これじゃ、電気マッサージというよりは電気椅子になっちゃったかな?
(フィーラ)ま、黒焦げになったのはご愛嬌として。
(フィーネ)じゃあ、怒涛の第五話でお会いしましょ〜♪
ほとんど全滅だね……。
美姫 「全滅ね」
ぐぬぬぬ。続きが気になるので、一足先に読むとしますか。
美姫 「こらこら。私も読むってば」
あ、こら、俺が先だ!
美姫 「私よ!」
や〜め〜て〜。とらないで〜。
美姫 「うるさい!」
うぐっ!………イタイ。
美姫 「私が読み終わるまで、大人しく待ってなさい!」
……グスングスン。って、横から見れば良いだけじゃないか。
どれどれ〜。
美姫 「………浩、締めの言葉忘れてるわよ」
そうだったな。とりあえず、ではでは。