遙たちの家の一室。ホノカはそこで目を覚ました。ホノカが目覚めたのはあの学校での悲劇の十日後だった。

ある程度回復したのだろうか、それほどやつれている様子ではない。しかし、ホノカは自分がどこにいるのかが把握できていないようだ。

きょろきょろと周りを見ている。すると暫くして那雪姫が部屋に入ってきた。

「あ、目を覚ましたんですね。」

 ホノカはそれでも自分がどこにいるのかがわからなかったのか、ここがどこかたずねる。

那雪姫はここが自分たちの家であることと、あの事件が起きてから十日たっていることを伝える。

「もう・・・十日も経ったんですの・・・」

 そういって差し出されたホットココアを受け取り、それに目を落としてつぶやく。やはりショックはまだいえていないのだろうか。

「まだ犯人は捕まってないの。時間の問題だとは思うけど、なかなか現れないんですって。

遙は何か知ってるみたいだけど、聞いてないわ。」

 那雪姫は事件の経緯について簡単に説明する。

ホノカはほっとココアを飲むと那雪姫にシャワーを浴びたいといい、浴室に案内してもらった。

「あ、もしよければあとで図書館に連れて行ってもらえませんこと?私が眠っている間の新聞が読みたいんですの。」

 那雪姫はそのホノカの要求に快くこたえた。那雪姫はホノカの気分転換になると思っているようだ。

しかし、このときはまだ二人とも衝撃の再会を果たすことになるとは思ってもいなかった。

三十分後、二人は韓古志町立図書館にいた。車で来たために図書館には早く着いた。

しかし、ホノカは図書館に入らず、広いロビーでジュースを飲んでいた。

「まったく・・・もうちょっとやさしく運転できないんですの?」

 どうやらまた那雪姫がひどい運転をしたようだ。そのために酔ったらしい。

「やさしく運転しましたよ。そんなにスピードも出してませんし・・・。」

「公道で80キロは十分にスピード違反ですわ。」

 どうやら、那雪姫の中では80キロはスピード違反ではないらしい。

まあ、以前公園に行ったときも200キロ以上出していたわけだからわからなくもないが。

「さて・・・そろそろ行きますわ。」

 そういってジュースをゴミ箱に捨て、ほんのある部屋に入る二人。

那雪姫は適当なハードカバーの本を読み、ホノカは隣で十日分の新聞を読んでいる。

二人の読書スピードは半端なものではなく、那雪姫は20分そこらでハードカバーの本を一冊読み上げ、

ホノカも新聞をくまなく読んでいる割には1部読むのに15分ほどしかかかっていない。

 二時間半後、ホノカが今日までの新聞を読み終わった。

途中で遙が自分たちのためにいろいろとしてくれたことを那雪姫から聞くこともあったが、二人が席を立ったときに異変が起きた。

二人の耳に空気を切り裂く音が届いたのである。同時にドアがまるで紙を切るように切り裂かれた。

那雪姫はただ事ではないと感じ取り臨戦態勢を取る。

場所が場所だけに銃を出すわけには行かないのでホノカは左半身に構え、右手に自らの力で作り出したチェーンソーを持った。
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ホノカはそばにテーブルを倒しその陰に隠れる。そして再び空気を切り裂く音。

――ひうん、ひうん、ひうん――

 その音とともに回りの本棚がバラバラにされていく。

いや、本棚だけでなく司書やそのとき図書館にいた人も次々にバラバラにされていく。

那雪姫は目には見えない糸を感覚だけで避けているが、避けることで精一杯のようだ。

ホノカの隠れていたテーブルも真っ二つにされたが、ホノカは伏せていたために怪我はない。

那雪姫はこのままでは埒が明かないという判断を下したのか糸の出所に向かって走っていく。

しかし、あまりの量の糸に阻まれて、うまく前に進めなかったが、突然那雪姫の横を紙が通り抜けた。

しかも一枚や二枚ではない。何十枚という量の紙が。何が起きたのかわからず紙の飛んできた方向を振り向く那雪姫。

その目線の先には目に見えない糸を器用に避けながら周りに紙を浮かび上がらせている。那雪姫に気がついたのか、ホノカは声を上げる。

「私は大丈夫ですわ!それよりも早く本体を!」

 那雪姫はホノカに促されると再び前を向き糸の出所に向かって走りはじめる。

ドアがあったところを出て大きなロビーを抜け、図書館の外にでる那雪姫。そして駐車場に殺人姫はいた。

車が全てバラバラにされ、そこにいたであろう人もバラバラにして。ただ、その風景に溶け込むようにして。

「なん・・・・で・・・・。」

 その殺人姫を見たとたん那雪姫の動きが止まった。それどころか那雪姫は右手に持っていたチェーンソーをその場に落とした。

普段の那雪姫からはありえない動揺のしかただった。

後を追うようにハードカバーの本を2冊持ってホノカも外にでてきたが、そのホノカも殺人姫の姿を見て愕然とした。

「うるさい・・・・うるさいよ・・・・。」

 壊れたレコードのようにうるさいという言葉をつぶやく殺人姫。

二人は殺人姫が無防備であるにもかかわらず、攻撃を仕掛けることがない。未だに立ち尽くしているのだ。

二人は思っていた。これは悪夢だと。そこにいた殺人姫は。既に死んでいるはずだった。しかも。一連の事件の被害者のはずだった。

「・・・・・うるさい!!!!!!!!!」

 その殺人姫は突然大声を上げ、両手を喰(ぐ)いっと振り上げる。

その動きに正気を取り戻したのか、二人は大きく横に跳びのいた。直後、二人がいた場所がえぐられた。

殺人姫は振り上げた手を力なく下ろすとうなだれていた首を上げた。

「ホノカ!!こっち!!」

 那雪姫はホノカを大声で呼ぶと、近づいてきたホノカをかばうようにして前に立ち、同時に背中に羽を構築する。

そしてその羽を羽ばたかせとてつもない金属音を響かせる。いや、音というよりも衝撃波に近いものだった。

その音はホノカにも聞こえるはずだった。しかし。

「アアアアああアアアアああアアアアアアアアああアア!!!!!!!!!!」

 同時に殺人姫が吼えたのだ。いや、吼えるというようなものではない。聞き取れないのだ。一体なんなのか。

それは声というよりも衝撃波だった。二つの衝撃波がぶつかることである程度中和されているようだ。

ホノカには何の音も届いていないが身動きが一切できないでいる。周りの建物はというと当然耐えられるわけもなく瓦礫の山と化している。

 一体何分経ったのだろうか。時間の感覚すら奪う衝撃波。どちらともなくそれは終わっていた。殺人姫は虚ろな目で二人を見、

「ひさしぶり・・・・だねぇ・・・・ほのかぁ・・・・・なゆきぃ・・・・・」



           二人の名を呼んだ。


                    二人はそのとき認めざるを得なかった。


                                  彼女は死んでいなかったということを。


          名のってもいない二人の名前を知っているということは。


                             その殺人姫が二人のことを知っているということを。


                そして二人もその殺人姫のことを知っているということを。


―――――、そう。その殺人姫が。柏崎華香であるということを。



「いた・・・・まだ・・・うるさい・・・・」

 そういい残すと殺人姫は、華香は二人を残してその場を去った。二人は追うことができなかった。

実際に刃を交えたというわけではないが、二人は満身創痍だったのだ。

二人は暫くの間呆けていたが、ここにい続けるのは都合が悪いということで韓古志港に足を運びながら

どちらからともなく華香のことを話し出した。

「あれは本当に華香なんですの?華香は死んだはず・・・。」

 ホノカはついさっき会った華香が本物だと未だに信じられないでいるようだ。確かに死んだという知らせを聞いているわけだから。

しかし、那雪姫はその言葉を否定する。

「本物でしょうね。もし彼女が柏崎華香なら、華香自身が死んだと偽装することは簡単でしょうし。

そもそも、華香が犠牲になったのは韓古志町のスーパーの中なんですよ?おまけに殺害方法は今まで通りのバラバラにすること。

ドレがダレだかわかりませんから。警察側はそのときいた人が全て死んだと思うのは無理ありません。

何より華香である証拠は私たちの名前を知っていることです。

あったことも無い人間だったらわたしたちのことを知っているわけないでしょう?

でも、さっきあった人は私たちの名前を知っていた。しかも、あの独特な言葉尻は間違いなく華香です。」

 那雪姫はさっきあった女性が華香本人であることの理由を一通り挙げた。

「でも、華香はあんなに器用はずですわ。私たちが見たのは彼女が腕を振り上げたところだけですけど、

あんなに細い糸を操ろうと思えば、指先が器用でないといけませんでしょう?でも華香の不器用さはすごかったですわ。

確かに運動神経はピカ一でしたけど、それだけじゃ、あの細い糸は操れませんわ。」

 那雪姫の指摘に対してさっきの殺人姫が華香ではないという理由を挙げた。

二人の意見は全く違う点を指摘しているにもかかわらず、それなりの説得力を持つものだった。

二人がその話をしている間に韓古志港についた。

そこは事件の起きた図書館からそんなに遠くない場所だが、近くで惨劇が起きたとは思えないように静まり返っていて、

いつもの昼の港の様相を呈していた。二人はこれからの行動を話し合ったが、

結果として遙に連絡を取って来てもらうということで落ち着いた。

「そういえば、ホノカ。あなたのさっきの力は・・・。」

 遙に連絡を取り、待っていると、那雪姫がさっきのホノカの力について尋ねだした。

さっきは確かに状況が状況なだけに聞くことはできなかった。

那雪姫がこれを今聞くのはおそらくホノカの答え以下によってはこれからの活動の戦力になると考えているからであろう。

「話した方がいいみたいですわね。本名、朔耶麻那雪姫には。」

 ホノカの口から出てきた那雪姫の本姓。那雪姫は今まで誰にも自分の本姓を教えていないためにその驚きようは尋常ではなかった。

「そんなに驚くことはありませんわ。私も似たようなものですし。」

 その言葉に再び驚く那雪姫。

「じゃあ・・・」

「ええ。私は貰われっ子ですから。私の本名は鷹真奈美炎火。あ、ホノカの字は炎って言う字に火って言う字ですわ。」

 そうして自分も一族の一人であることを告げる炎火。那雪姫はよもやとは思っていたのだろうが、やはり驚きを隠せないでいる。

「まあ、那雪姫ならわかると思うけど、能力は紙使い。ま、鷹真奈美のお家芸ですわ。

とはいえ、私は高校一年で今の雪広の家に養子に預けられたわけですから、あまり強くはありませんけど。」

 そういうと、炎火は手に持っていたハードカバーのページを一枚破るとそれを電線に向かって投げた。

普通ならばそこまで飛距離は出ないはずだが、投げられた紙は空をきるように飛んで行き、電線を切った。

「本当に思いますわ。こんな生産性のない能力なんか要らないって。」

 炎火はもう一枚ページを破ると切れた電線に向かって投げた。するとその紙は切れた電線を器用に繋ぎ合わせた。

「炎火・・・ものは相談なんですけど・・・」

 那雪姫が最後まで言い切らないうちに炎火が話し始める。

「あんまり役に立ちませんわよ。私。

鷹真奈美の一族とはいえ、あまり能力を磨くこともしてませんでしたし、那雪姫や遙のように人を殺したこともありませんわ。

私が一族を追われたのも結局は人を殺す勇気がなかったから・・・。まあ、そんな勇気はこっちから願い下げなんですけどね。」

 そういって微笑む炎火。那雪姫はそんな炎火の手を取って真剣な表情で語りかける。

「人を殺す勇気なんて私にもありませんよ。それにそんなものは持つ必要はないんですから。

私が人を殺すのは・・・残念ながら私にはわからないんです。以前遙は理由を許せないヤツに対してどんな処罰を加えるのか。

結果としてそれが死であるだけといっていましたが、本音のところはわかりません。炎火は炎火のままで良いんです。

ですが・・・それでも力を貸してください。とにかく人が足りないんです。今も。そしてこれからも。」

 炎火は那雪姫のいままでにない真剣な表情に圧倒されていたが、暫くすると意を決したように頷いた。

「わかりました。私でいいなら力を貸しますわ。ですが、期待しないでくださいね。私の力なんてたかだか知れているんですから。」

 そういって那雪姫の手を離して海のほうにかけていく炎火。那雪姫はその光景を見ながらつぶやく。

「本当のところを言うとわかってるんですよ。私がなぜ人を殺すのか・・・・。そう、それが私の選んだ道だから。

炎火。あなたもすぐに気づくわ。」

 そういって那雪姫も炎火の後を追いかけた。

「それでも力を借りるか。つくづく採算の取れない血族だよ。一族ってのは。」

 そういって物陰から現れた遙が二人を見てつぶやく。二人を見つめる遙の目はどこか物寂しく、それでいてどこか自嘲気味だった。

その後遙はすぐに二人の元に行き、何があったのかを聞いた。ひととおりの事情を聞くと、その情報から遙がある答えを導き出した。

「なるほど。これで裏が取れたな。ほれ。」

 そういって遙は持っていた封書を二人に渡した。その内容を確認すると那雪姫と炎火は言葉を失った。

「ま、見てのとおりだ。柏崎華香は本名を鞍堵島華香って言うんだ。そして幼くして鞍堵島一族から追放されたいわば鞍堵島の鬼子。

詳しくはそこに書いてあるとおりだ。」

 そこには華香の詳しい情報が記載されていた。何より驚くべきことは今の華香は華香ではないということにあった。

「これって・・・どういうことなんですか?」

 那雪姫の引っかかったところに遙が注釈を入れる。

「そのとおりだ。華香は体の中に野埜香(ののか)って言うもう一人の自分がいるんだ。いや、ちょっと違うな。

それじゃあただの二重人格になるな。説明しにくいんだけど、華香の体の中に野埜香っていう体があったんだ。」

 説明がごちゃごちゃしていていまいちよくわからないと炎火がもっと簡単に説明するように求める。

「うーん。二人で一つの体を構成してるって言うのかなあ。二つの体がくっついてるっていうほうがわかりやすいかな。」

「なるほど。じゃあ、さっき会ったのは野埜香のほうなんですね。」

 炎火はこれで華香にあれだけのことができたんですのねと納得したが、遙がそれを否定することを言った。

「ちなみにいっとくが、お前たちがあったのは野埜香のほうじゃない。華香の方だ。そして死んだのは野埜香の方だ。」

 つまり、華香は死んでおらず、死んだのは野埜香の方であるということである。

ということは、普段いた華香がああなったということになる。そのことに少なからず衝撃を受けている炎火。

「ちょっと待ってくれません?じゃあ、華香はいつああなるかわからなかったってことですの?」

「いや。ああなったのは野埜香が死んだからだよ。

もともと華香は狂戦士(ヴァーサーカー)だったんだけど、野埜香の存在がブレーキだったんだ。

まあ、昔の俺とヨルムンガルドの関係のようなもんだよ。」

 その言葉に那雪姫がふと遙のサヴァンについてたずねる。

「治ったわけじゃないんだけど、制御はできるようになったかな。一応一般生活に支障はきたさなくなった。

たぶん神格になったっからじゃないか?っと。話がそれたな。

で、野埜香が何らかの理由で死んで制御がきかなくなった華香が暴走したってわけだ。」

「ちょっと待ってくれません?そういう制御できない強さって言うのが危険だっていうのはわかりますけど、

彼女の場合一族においておいても問題ないんじゃありませんの?何より遙君にも気づかれないほど完璧に殺していたわけですから。」

 確かに、あれほど手際よくかつ自分の正体がばれないように殺せていたわけだから、

一族にとってはこのうえないほどに優秀で使い勝手のいいはずである。

「まあね。でも、いっただろ。あいつはヴァーサーカーなんだ。あいつが追放されたのはな、敵味方の区別をしないからなんだよ。

正確に言えば華香にとって敵は自分以外の全てなんだ。

おかげで仲間であっても殺してしまうから野埜香っていうブレーキをくっつけて追放されたんだよ。」

 つまり、制御のできない力はただの脅威に過ぎないということなのだろう。

「ま、そういうわけだから兎に角、止めようなんて中途半端なことは思うなよ。

話が通じるような相手じゃないんだから。雪広、いや鷹真奈美って言った方がいいかな。お前も相応の覚悟をしておけ。」

「あら。遙君には気づかれてましたのね。まあ、ある程度の覚悟はしておきますわ。でも、私、人は殺しませんことよ。」

 そういって微笑む炎火。それから、今後のことを話し合う必要があるということでフォウさんのところに向かうことになった。

どうやら詳しい情報はフォウさんが集めてくれているらしい。しかし、どうやらこれだけで終わりそうにない雰囲気が町には漂っていた。







あとがき




いきなり五話もお届けします。ついに一連の事件の犯人が現れました。

(フィーネ)うわー。まさかって感じだわ。まさかこの人が・・・・

(フィーラ)でも、もう一人の素性にもびっくりかも。

と、いきなりびっくりが二つも起きてしまいました。

(フィーネ)でも、遙の周り、強い人だらけじゃない?

まあね。でも第三章では・・・

(フィーラ)なんか第三章が大きなキーポイントになりそうね。

まあ、そうだろうな。下手したら三章だけで二十話超えるかもな。

(フィーネ)で?何でたて続けに二話も?

うむ。実は11日から実家に帰るのだ。当然ネットができなくなるからな。その前にというわけだ。

(フィーラ)どれくらい帰るの?

まあ、八月いっぱいは。んで九月は親戚の所に行く予定になってる。そこだとネットはできそうなんだ。

(フィーネ)じゃあ、次回は九月に入ってから?

そうなるな。それまでに第二章をかき終えて第三章も半分まで書いとかないとな。

(フィーラ)頑張れ〜☆

(フィーネ)じゃあ、八月分まとめてということで。

(フィーネ&フィーラ)ミラージュ・ライト!!!!!!

ぷんっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!(消滅)

(フィーラ)それじゃあ、また次回で♪


投稿ありがと〜。

美姫 「やっぱり、この時期は帰省が多いのね」

まあ、そのお陰で2話続けて読めたから、ラッキーだったな。

美姫 「それは確かにね。でも、次は9月までお預けなのね」

うぅ〜、それはちょっと寂しいな。
しかし、これで犯人もはっきりとした事だし、次回からの展開もまさにお楽しみにだな。

美姫 「続きを期待しつつ、また次回で」

では、また。

美姫 「ゆっくりと過ごしてきて下さいね〜」



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