小波市中央区。異変に気がついたのはやはり遙だった。遙がいつもと違う町の雰囲気に周りを見回し始めた。

「はあ・・・不幸は続けて訪れるというが、ここまで続くといい加減辟易してくるな・・・。」

 遙の言葉がきっかけになったのか、周りに次々と人が現れてきた。

どう見ても普通の人なのだが、どう考えても普通の人間の雰囲気ではなかった。

「マリオネットですね・・・。」

 那雪姫は相手を人形だと認識したようだ。

「全く相手にしにくい。こいつらも人間に変わりはないからなあ。ま、今は操られているだけのようだが。」

「どういうことですの?」

 遙たちのいっていることがわからなかったのか、炎火がどういうことなのかたずねる。

「誰かが普通の人間を操ってるんだよ。まあ、誰かはわからんが、こいつらは今、そいつの操り人形なんだよ。

とはいえ、殺るしかないか。」

 そういって朔夜を手にもつ遙。頭を倒せばほかの人は解放されるということもあり、頭だけを狙うように指示を出す那雪姫。

とはいえ、一体どこに頭がいるのかがわからないために殲滅戦になっている。

「ちっ!数が多いな。おい、炎火!先に行け!」

 遙たちは躊躇せずに襲いかかってくる人を切り伏せているのに対し、炎火は物陰に隠れていた。

「先に行けって・・・。一体どこに行けばいいんですのよ!」

 遙はフォウのところに行くように促すが、対面のない人の所に行くようにいわれても行きようがない。

そんな時、炎火の後ろに数人のマリオネットと化した市民が現れた。

「炎火!後ろ!」

 那雪姫が声を上げ、炎火に駆け寄ろうとする。しかし、数人のマリオネットに行く手を阻まれてしまう。

本来なら軽くあしらえるのだが、今相手にしているマリオネットたちは意外に手強く、遙たちも苦戦を強いられている。

一体一体の力は遙たちの足元にはおよばないものの、数がいるからこそ苦戦を強いられているのである。

「仕方ないですわ。」

 炎火はそういうと手に二十枚ほどの紙を現すと、襲い掛かってきた数人のマリオネットと化した市民に投げた。

その紙は意思を持ったかのように相手の体をばらばらにしていく。

さっき、人を殺すことはできないといっていたにもかかわらず、その迷いのない動きは初めてとは思わせないものだった。

そのことに少なからず驚いている二人。

「あら。そんなに驚くことではありませんわよ。正当防衛は仕方ありませんわ。殺らなければ殺られますもの。」

 そういって炎火は再び襲い掛かってきた敵を手に現した紙を筒のようにしたもので真っ二つにする。

「お前、今までに何人殺してきたよ?」

 遙は襲い掛かってくる敵を斬りながら炎火にたずねる。

「何人でしょうね?家柄のせいで襲われたことなんかは何度もありますし。」

 確かに炎火の今の家である雪広の家は代々続く富豪の家であるために身代金目当ての誘拐の標的になってもおかしくはないが。

「人は殺さないんじゃなかったのか?」

 再び遙がそう聞く。

「人は殺しませんわ。でも、誘拐犯のような犯罪者たちを私は人間とは思いませんから。

ゴミを始末するのにどうして理性が邪魔をするでしょうか?」

 そういって襲い掛かってくる敵を次々と紙の剣や投げた紙で斬り倒していく炎火。

「じゃあ、こいつらもゴミってか?」

「そんなわけありませんわ。この人たちは人間です。

でも、じっとしていたら殺されてしまうなら、こちらもそれなりの対応をさせてもらいますわ。」

 この会話が終わる頃にはマリオネットと化していた市民は全て地に伏していた。

「炎火、あなた・・・。」

 信じられないような顔を向ける那雪姫に対して炎火が涼しい顔をして振り向く。

「あら、私、人を殺す勇気はないとはいいましたが、人以外のものなら殺すことはできましてよ。

あと、自分の身を守ることぐらいは。」

「でも・・・」

 それでも信じられないような表情の那雪姫。

「それでも、この能力がないならないに越したことはありませんけどね。何事も普通が一番ですわ。

で、この状況をどうしますの、遙君?」

 そういって遙にこの処理をたずねる。遙は一応このままにしておいて、フォウさんの元に行くことを提案した。

本体を探すよりもそちらの方が優先なのだろうか。

いや、本体がどこにいるか、一体誰なのか、見当がつかないために探すだけ無駄足になると思ったのだろう。





「鞍堵島華香に暗殺命令が出た。」

 遙たちがフォウの部屋に入り、華香について詳しく知ろうとした時にいきなりフォウがそんなことを口走った。

「やっぱりそうなりましたか。でも、まさか俺らにそれを頼むなんてことありませんよね?」

「そのまさかだ。」

 フォウは既にこの指令に関して100人近い局員が犠牲になっていることを告げる。

とはいえ、同じ生徒会で活動していて、友達でもあった遙たちに暗殺などできるわけがない。

「わかりましたわ。その件は私に任せていただきます。」

 そういったのは驚くべきことに炎火だった。遙は驚いて炎火の方を向く。那雪姫も驚きを隠しきれないでいる。

「本気でいってるのか?」

 遙が確認を取るが、炎火はただ頷いただけだった。

「相手は華香なのよ。それでもできるっていうの?」

 那雪姫の問いに炎火が答える。

「華香だからこそですわ。華香だからこそほかの人には殺させたくないんですの。だから、私が彼女を止めます。」

 そういう炎火の目は決意に満ちていた。こうなってしまったが最後、いくらいっても聞かないのは遙と那雪姫が一番よく知っている。

「ちょっとまった。お前さんは?」

 面識のないフォウがホノカの紹介を求める。遙が紹介しようとしたがそれよりも先に炎火が自己紹介を始めた。

「申し遅れましたわ。私は雪広・・・いえ、鷹真奈美炎火。一族三位の鷹真奈美家の子ですわ。能力は『紙使い』。

ちなみに人は殺しませんことよ。」

「おいおい。相手は鞍堵島華香だぞ。鞍堵島の連中ですら制御ができなかったヴァーサーカーが相手なのに、

殺さないでっていうのはいかに一族三位でも無理だろう?」

「さっきはっきり申しましたわ。『人』は殺さないって。でも、ヴァーサーカーなら話は別ですわ。それに、相手は華香ですもの。

私たちが止めないといけません。それがたとえ華香の死というかたちであっても。」

 決意を持ってフォウにそう告げる炎火。フォウも説得は無理だと悟ったのか、結局、炎火に一任することを決めた。

「相手がどこに出るかわからないから、出会ったら必ず仕留めるつもりでいてくれ。

とにかく、被害者をこれ以上増やすわけにはいかないからな。」

 ため息混じりにそういうフォウ。三課の面々も、どうやら今回はお手上げのようである。

遙たちにも最大限のサポートを頼みその場をお開きにした。

 はる形は夕暮れの小波市を遙の家に向かって歩いていった。炎火は自分の家に帰らず遙のところに今日も泊まるつもりでいるらしい。

「おまえ、自分の家に帰らなくてもいいのか?」

 遙が炎火に確認を取るが、炎火はさらっと受け流した。

「もう帰りませんわ。そろそろ潮時だと思っていましたから。自分を偽り続けるのは。」

「偽るねえ・・・・。まあ、お前かなり性格違うもんな今までに比べると。」

「疲れましたわ。家でもあんな感じでしたから、息なんか抜けませんし。あ、でもすぐにアパートを探しますわ。

新婚の二人を邪魔するようなことはいたしませんことよ。」

 そういいながら上品に笑う炎火。遙は炎火の均整の取れた顔が夕日に映えて美しく見えたため、少し見惚れていた。

那雪姫はそんな遙に気づきながらも那雪姫に話しかける。

「今アパートをとってもどこに転校することになるかわからないから転校先が決まってからでもいいんじゃないですか?

別に私たちはかまいませんよ。」

そういってちゃんと遙のほうを見る那雪姫。遙はふと我に帰りそっぽを向いてしまう。

見惚れていたことに対して気づかれたと思ったのだろう。

「本来なら遠慮するのでしょうけど、そのお言葉に甘えさせてもらいますわ。」

 そういって那雪姫の手を取って礼を言う炎火。

「ま、そのことはここまでにして・・・。はあ、なんでこうも嫌なことが続くかなあ・・・。」

 遙がそういうと曲がり角から異形の人間が姿を現した。遙は何が来るかわかっていたにもかかわらず、

驚愕の表情をうかべたが、すぐに朔夜を手に握る。

「な・・・なに?あれ・・・」

 那雪姫も今、自分が対峙している物がなんなのかわからなかった。

「に、人間・・・ですの?」

 炎火もそれがなんなのか認識できなかった。三人が認識できなかったそれは間違いなく人間だった。

いや、人間のかたちをしていたが、それは人間のものとは思えないほど醜く、恐ろしく、

生理的嫌悪感を示してしまいそうな人のかたちをした何かだったのだ。

「クリーチャーが人と同化するなんて話は聞いたことがねえぞ。」

 遙の一言で残りの二人が相手の正体を認識する。炎火もクリーチャーについて多少知っていたためにそれがなんなのかを認識できた。

が、その言葉がきっかけとなったのか次から次へとその異形の人間は姿を現した。あるものは同じ角から。

あるものは近くのビルから飛び降りて。どう考えても人間の身体能力ではない。最終的にそこには50体ほどの異形の者が集まった。

「鷹真奈美。こいつらはお前にとって人間か?」

 遙は朔夜を構え臨戦体勢をとりながら炎火にたずねる。

「残念ながら。これはもう人間ではありませんわ。というか、ただの化け物です。」

 そういって自らの周りに紙をまとわせる炎火。

「どうやら、話しも通じそうにありませんし。まあ、通じたとしても話し合う意思はありませんが。」

 那雪姫も背に羽を構築し、さっき出したチェーンソーを両手で構える。

「じゃあ、なんにせよ始めますか!!」

 遙の声とともに三人が散った。めいめいが遊撃する策を取ったようだ。

が、唯一遙の予想と違ったのは異形の者の戦闘能力が非常に高いということだった。その強さはあの遙ですら手を焼くほどだった。

一人ひとりの戦闘能力が高い上にまるでそのような訓練を受けてきたかのような連携攻撃。こうなってくると遊撃戦は難しくなってくる。

遙は早々に遊撃戦をあきらめ、次の指示を飛ばす。

「周りの建物は気にするな!!本気でかかれ!」

 遊撃戦に変わりないが、めいめいに本気を出すように指示する。

今まではいくら敵が強いといえども周りのことを気にしていたためにどうしても加減が入っていたようだ。

遙の一言はそれをなくすには十分なものだった。

「わかりましたわ!!」

「はいっ!」

 二人はそれに応じると一気にけりをつけにかかる。

「ふき飛びなさい!!」

 那雪姫は左手にあのバベル・カノンを構築すると二十体ほどの異形の者に向かってそれを放つ。

異形の者たちは当然のこと避けようとするが、あのバベル・カノンである。

放たれた巨大な光の弾は集団の真ん中で炸裂すると那雪姫の眼前50メートル四方を何があったのかわからなくなるほどに、

まるで始めから何もなかったかのように消滅させた。

「終わりですわ!!」

 炎火はそう叫ぶと不意に地に右手をつけた。ここぞとばかりに炎火を包囲していた異形の者たちが跳びかかる。

が、突然、炎火の周りに大量の紙が現れ竜巻のように舞い上がる。

それは始めはホノカの回りを舞っていたが、一瞬にして半径十メートル、高さ五十メートルほどの大きな紙の竜巻になった。

襲い掛かろうとした異形の者は当然のこと、周りの建造物も手当たりしだいばらばらにしていく。

こんな技、周りを気にしていたら使えるはずもない。

 一方、遙は左半身に構えると右足を後ろに引き、左ひざを崩し、そのまま両手で朔夜を持ち、右足に重ねるように構える。

双冥剣術奥義の一つ『白冥』の構えである。構えを取る遙に襲い掛かる異形の者たち。

「失せろ。」

 その瞬間遙はその場から消えた。そしてまた同時に。

無数の刀傷がところかまわず、一体どの範囲についたかもわからないぐらいについた。

一瞬の間をおき異形のものたちの体がバラバラになっていく。それはもう間接という間接がバラバラにされたのではないかというほどに。

そして刀傷のついた建物が崩壊していく。それで始めてわかる。ついたのは傷ではなく、建物自体、切断されていたということが。

崩壊の範囲は20メートル四方にも渡った。その技はまさしくアンナと闘ったときに使ったトキハネの応用技、ヤツザキだった。

とはいえその範囲などはヤツザキの比ではない。

「ま、本気だとこんなもんか。」

 遙が本気を出すように告げてからまだ十秒ほどしか経っていない。

この一連の技がものの十秒で繰り出され、ものの十秒で一区画を廃墟にしたのである。

どう考えても人間業ではない。まあ、彼らを普通の人間と同じように考えるのはナンセンスだが。


「で?なんなんですの?こいつらは。」

 炎火は遙に今のがなんなのかをたずねる。

「クリーチャーを知ってるなら話は早い。クリーチャーと人間が融合したんだろうな。」

「また新種ですね。」

 那雪姫はそういって携帯を取り出すとフォウに連絡を取る。

フォウは無事な家屋にでも入って到着を待つようにいったが、無事な家屋などほとんどない。

結局はその場でフォウの到着を待つことになった。

 その区画を見下ろすように上空に浮かぶ一人の老人がいた。当然遙たちからは見えるほど低い位置にはいない。

「ふむ。合成後の力は合格だが、制御ができないのとあの容姿ではどうにもならんな。30%成功といったところか。」

 そういい残すとその影は青空に溶け込むように消えていった。

 



 その老人は再び暗い屋敷の中にいた。

「見せてもらったよ。まあまあってとこかな。でも、あんな容姿じゃあね。あと制御できないのも痛いな。」

 その屋敷の一室にいた少女が老人の言ったことと同じことを言った。

「すいません。私の力量不足です。」

 そういって慇懃に頭を下げる老人。

「そうでもないよ。合成自体最初は失敗続きだったのにそれが成功したんだから喜ばしいことだよ。でも・・・」

「わかっております。時間がありません。早々に成功させます。」

 その言葉に満足したのか少女は笑いながら答えた。

「そうそう。急いでね。時間がないわ。パンデモニウムとの融合にはね。」

 今はっきりした。彼らが一体何を目指しているのかが。彼らは融合させようとしているのだ。

この人間界とクリーチャーのいるパンデモニウム、すなわち魔界を融合させようと。しかし何のためになのかは最後までわからなかった。









あとがき


はい。クロスワールド第六話をおとどけします。

(フィーネ)あれ?あんた八月中更新しないんじゃなかったの?

そのつもりだったけど、友達の家がネットできるの忘れてた。

(フィーラ)じゃあ、これからもちょくちょくと・・・

そんなに頻繁にはできないって。俺も新しいゲーム買ったから、そっちしなくちゃいけないし。

(フィーネ)サボるな!

サボるっていうな!休憩だ!休憩!

(フィーラ)いつも休憩してるよね。そんなこといいながらも。

そうでもないだろ。あれはネタ探しというか・・・

(フィーネ)でも、実際はまだ二章かき終わってないじゃない。

まあ、いろいろとあったんだよ。

(フィーラ)あ、なんだかんだ言って言い訳してる。

(フィーネ)お仕置き!!

(フィーネ&フィーラ)砕!!!!

シンプル・イズ・ベストッ!?ぐはあっ!!!!!!!!!!!!!

(フィーラ)じゃあ、また七話で♪



おおー、今月は続きが読めないかと思っていたのに……。
何と嬉しい誤算!

美姫 「これもフィーネちゃん、フィーラちゃんのお陰ね」

いや、これを仕上げた怪盗Xさんも褒めてあげて。

美姫 「それもそうよね。何処かの誰かさんと違って、ちゃんと書いてるんだもんね」

グサグサ。む、胸に刺さるお言葉……。

美姫 「分かってるなら、さっさと書きなさいよ」

うぅ〜、お腹が……。
こ、今回はこの辺で。

美姫 「浩、ゲームしないの?」

あ、するする!

美姫 「腹痛は?」

……う、うぅぅぅ痛い、痛い。

美姫 「………とりあえず、飛べー!」

ぎゃろっぴょぉぉ〜〜〜〜〜〜!!

美姫 「それじゃあ、次回も楽しみにしてますね」



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