麦山高校跡地。とはいっても、傍から見れば生徒がいないだけで十分に学校として使えるものである。

当然、ここであった出来事を知らなかったのはなしではあるが。あの事件以降この学校は封鎖こそされたものの、

取り壊されることもなくただひっそりとその面影を残している。遺体は全て回収されたが、

学校中に残された血痕は消されることなくそのまま残されているのだ。

いや、正確に言えばいくら消しても次の日には再び浮かび上がっているのである。

そして、夜には何事もなかったかのように校舎に姿を現す生徒の目撃情報が多数上げられているのだ。

しかも、目撃される数は一人二人ではなく、一夜にほぼ全生徒が目撃されている。そのうえ、取り壊す計画を立てても、

実行される前に責任者が謎の死をとげてしまい、取り壊されることもない。今や全国で知るもののいない心霊スポットとなっているのだ。

しかもそのせいで周辺住民も全て引っ越し、今では学校近辺はゴーストタウンになってしまっている。

「しかし、ここまで来ると本当に日本なのか疑っちまうよな。むしろこれじゃあ、あの世とこの世の境目だよ。」

 遙たちが学校につく頃には既に陽が落ちて夕暮れの闇に包まれていこうとしていた。

そして暗くなっていくにしたがってポツリポツリと生徒の姿が校舎に現れ始めた。

「全てに決着がつくといいんですけど。このままでは、生徒もかわいそうですし。」

 那雪姫はそういいながら遙の後について校内に入る。校内ではいつもどおりの生活がそこで行われていた。

壁にもたれかかって友達と話している生徒。机に向かって次の時間の準備をしている生徒。お弁当を食べている生徒。

唯一つ違うのは彼らが全て死んでいるということだけ。
「なんか、気味が悪いよ。」
「そうでもないですよ。ただ、那雪姫母さんのいうとおり、かわいそうです。この人たちは自分が死んだと思ってないようですから。」

 琉羽と侑羽はそういいながら二人のあとを追う。校内には既に二人が闘ったと思われる傷がそこかしこについていた。

「こりゃまた派手にやってくれたな。ま、いくら派手にやってもどうせ使うやつなんかいないんだし、いっそ壊しても関係ないんだがね。」

 遙は壊された壁を見ながらそういうと、階段を一人上り始めた。

「ちょっと、どこに行くんです?」


 那雪姫は一人違う方向に行く遙に足を止めてたずねた。

しかし遙は足をとめず、階段を上りながら用事があるといって一人階段を上って屋上に向かった。

「ねえ、お父さん一人にしていいの?」

 琉羽は那雪姫の服の袖を少し不安げな顔で那雪姫を見る。侑羽は表情には出していないものの、やはり少し不安げである。

那雪姫はしゃがみこんで二人の目線に合わせて微笑んだ。

「大丈夫ですよ。あの人は自分のことは自分で守れますし。それよりも炎火を探しましょう。今回ばかりは相手が悪いの。

相手が格下とはいえ、一族には変わりありませんし、しかも殺すことしか考えてないような人が相手なんですから。」

 そういうと那雪姫はおもむろに立ち上がって二人がいると思われるところに向かって歩き出す。しかし、

「たしかに、殺すことしか考えない人が相手で、非常に危険なのはわかります。でも、お母さんは必ず勝ちます。」

 侑羽はそんな那雪姫に向かってそういった。それは過剰評価でもなく、母親だからというわけでもなく、

ただただ純粋に力の上下関係から類推した結果である。那雪姫はそれを理解しながらも振り返って侑羽に向かって言う。

「確かにそのとおりですね。力としては圧倒的に炎火の方が上です。たとえ華香がヴァーサーカーであっても。

ただ、私が憂慮しているのは華香が私たちの親友だということなんですよ。はっきり言ってわたしでも、

おそらく遙でも無意識のうちにそのことを意識するでしょうね。とにかくいきましょう。

私たちは二人を見届けなければならないんですから。」

 那雪姫はそういって侑羽の手をとる。侑羽はそれに頷いて那雪姫と琉羽とともに歩いていく。二人が闘っていると思われる場所に。



 麦山高校2年棟2階渡り廊下。炎火と華香はそこで向かい合っていた。二人とも既に一時間近く戦闘を続けているが、

少し息を切らせただけでそれほど疲れた様子はない。また、互いの服はぼろぼろになってはいるものの、出血はまったくない。

互いの武器が武器なだけに、一撃必殺であることは間違いないためにダメージはないのである。

「まったく、本当にすばしっこいんですから。いつもの天然はどこにいったんですの?」

「あははぁ・・・・今だって天然のときのままだよぉ?だから仕留め損なってるんじゃない・・・。」

 二人は会話を交わしながらも刃を交えている。が、華香は炎火が躊躇っているということに気づいていた。

そう、炎火は躊躇っているのだ。頭では相手が親友であっても殺さなければならない相手だと認識しているものの、

無意識のうちに親友であるということが邪魔をしているのである。炎火は自分でもそのことに気付いてはいるものの、

どうしても自分を納得させきれないでいる。

「っつ!!!」

 迷いが一瞬の隙を炎火に作った。華香はいままでと同じように糸を操る。炎火は勢いよく後退したが、

一瞬の迷いの生んだ隙は消せるものではなかった。華香の放った糸が炎火のわき腹を襲い、えぐった。

「やりぃ・・・。」

 華香は心底嬉しそうな顔をしたが、そこで攻撃の手を緩めるほど甘くはない。たて続けに糸を放ち、炎火の息の根を止めようとする。

とはいえ、相手は炎火である。いくら脇腹をやられたとはいえ、とどめをさせるほど甘くはなかった。しかし・・・。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」

 炎火はかろうじて首を飛ばされなかったものの、左腕を押さえていた。脇腹の出血を気にすることもなく。

そう、炎火は首を飛ばさせない代わりに自らの左腕を犠牲にしたのである。そのため、左腕の肘から下を切断されたのだ。

「ふわぁ〜・・・・。何でそこまでするのさぁ〜・・・・?さっさと死んじゃった方が痛くないし、

死体もある程度見れる範囲なのにぃ〜・・・・。」

 華香はそういいながら一歩ずつ炎火に近づいていく。炎火は何を思ったか突然華香に背を向けて走り出した。生徒会室に向かって。

「元気だねぇ〜・・・。まあいいか・・・・。時間の問題だしねぇ〜。」

 そういうと華香はゆっくりと生徒会室に向かって歩き始めた。



「はぁ、はぁ、はぁ・・・・。」

 炎火は息を切らせながら何とか生徒会室に続く階段までやってきた。とはいえ、生徒会室にはここから階段を三階分上り、

三回の廊下の一番突き当たりにある。まだまだ距離はあるといったところだ。炎火の出血量は尋常ではなく、

並の人間なら出血多量でショック死していてもおかしくはない。しかし、それでも炎火は倒れず、

しっかりとした足取りで階段に足をかける。しかし、階段を一歩上がったとたん、炎火はその足を止めてしまった。

「なん・・・・で・・・・?」

 炎火はあまりの驚きで足が止まってしまったのだ。そう、その目線の先には炎火の目の前で事切れたはずの静夏が立っていたのである。

驚き、動揺を隠し切れない炎火を尻目に、静夏は何もなかったかのように炎火に微笑みかける。

そして、耳には聞こえないが、炎火には静夏がしゃべりかけたことがわかった。「さようなら」と。

「え・・・・?」

 炎火は一体何のことを言っているのかが一瞬理解できなかった。それは炎火に対しての別れなのか、

この世に対する別れの言葉なのかわからなかった。が、その思考は一瞬にして停止した。右腕を襲った激痛によって。

「・・・・・・・・・!!!!!」

 不意を撃たれた一撃だけあって、何の予期もしていなかった炎火は表現に窮するような声で叫び、階段に倒れこんだ。

「あはぁ・・・。これでもうげーむおばーだねぇー・・・・。じゃあ、つぎは足かなぁ・・・?それともくびぃ・・・?」

 高らかな足音を響かせて、炎火の後ろに立つ華香。華香はそのまま暫く立ったままでいたが、ゆっくりと腕を振り上げて、

「おやすみぃ・・・・。ほのかぁ・・・・。」

 とどめを刺そうと腕を振り下ろした。が、その一瞬、炎火は倒れたままの状態であるにもかかわらず、華香の腹を蹴りとばす。

華香はまさか動けるとは思っていなかったのか、思い切り蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられた。炎火はその隙に階段を駆け上がり、

生徒会室に向かう。

「まったくぅ・・・。何でそこまでするかなぁ・・・・。さっさと死んじゃえばいいのにぃ・・・・。」

 壁に叩きつけられた華香だが、ダメージは全くなく、本当にこれ異常ないほど気だるそうにつぶやきながら階段を炎火をおって

階段を生徒会室に向かって上っていく。



「は・・・っ・・・・は・・・・っ・・・・」

 炎火は何とか生徒会室にたどり着き、ドアを蹴り開けると、並んでた机を蹴り飛ばして一番奥の壁にもたれかかる。

「まっ・・・・・た・・・・く・・・・・。私・・・・も・・・・とん・・・・だ・・・・・あま・・・・・ちゃん・・・・

ですわね・・・・。」

 そういいながら炎火は床にへたりこむ。

「でも・・・・。それ・・・・・でも・・・・・。やらなきゃ・・・・ならない・・・・・んです・・・・わね・・・・・。」

 華香は床にへたり込んだまままだ棚に入っていた本を自分の周りに引き寄せる。これもまた紙使いの力の一つである。

そのまま集まった本から薄いページの部分だけが切り取られて炎火の前に集まり、アーチェリーでつかうぐらいの大きさの弓になった。

そしてその横には矢が一本だけ。炎火は弓を器用に足に乗せ、一本だけの矢を口にくわえると弦にかけて足の裏で弓を押して無理やりに構える。

両手は止血すらしてないためにとめどなく血が流れているが、それを気にすることもなくただ入り口の一点のみを見つめている。

いや、それすら彼女は見ていないだろう。おそらく、彼女が見つめているのは敵だけ。鞍堵島華香だけ。

「おーいつーめたぁ♪」

 生徒会室に入ってきた華香は何の警戒もなし炎火の前に立つ。が、炎火を見てすべてを諦めたかのような表情になって一言だけつぶやいた。

「げーむ・おーばー・・・・かぁ・・・・。」

 その言葉が終わるか終わらないかの内に炎火の放った矢が華香の額を貫いた。華香は糸が切れた人形のように後ろ向きに倒れた。

二度と動かない糸の切れた操り人形さながらに。

「これで・・・・おし・・・まい・・・で・・・・は・・・・ない・・・・ですわ・・・・・ね・・・・。」

 炎火は暫く目を瞑ってその場に佇んでいたが、何かを思い出したかのように立ち上がるとおぼつかない足取りで生徒会質を後にした。

華香の死体をみることなく。

「侑羽と・・・・・・琉羽がいますし・・・・何より遙・・・・がいますもの・・・・こんなところで・・・・・

死ぬわけには・・・・いかないんですわ・・・・。」

 炎火の出血量は既に人間のものではないほどだったが、今の炎火はどこから見ても死ぬとは思えないほどに生き生きとしていた。

そして、そのおぼつかない足取りで校舎を後にするために一歩一歩階段をおりて行く。



麦山高校二年棟屋上。遙はそこにいた。もうすでに日も翳り、夜の帳がかかろうとしている時間帯になってはいたが、

遙の周りだけ、蛍光灯がついているかのように明るく照らされていた。

「どうやら、炎火のほうも終わったみたいだし、こっちもそろそろ始めますか。」

 遙はそういうと、手に持っていた裂躯闇を天に突き刺すように掲げた。

「ちょっと待って、ご主人様。このままの姿よりも妾の別の姿に魔法を使うときにはむいてるのがあるんだけど」

 ちょうど遙が呪文の詠唱を始めようとしたそのとき、突然朔夜が話し出した。遙は詠唱をやめて朔夜と話し始めた。

「なんだ?真の姿って言うのはそれじゃあなかったのか?」

「んー・・・。真の姿って言うのは確かなんだけど、なんていうかなぁ・・・真の姿にも何個かタイプがあるわけよ。

たとえば今の姿は広域白兵戦専用の妾の姿。そして、さっき言った魔法戦専用の姿。そんで持って狭域白兵戦専用の姿。

とまあ、この三つに分けられるの。ちなみに、ご主人様の命がない限り変わらないから、そこんとこは状況に応じてよろしくね。」

 遙は完全に今知ったぞという表情で朔夜を見つめていたが、件の姿のままの朔夜に対してはあまり意味がないと悟ったのか、

「そういうことは先に言えよ。俺は本来剣士というよりは魔法剣士の部類に入るんだからな。

そんなこと知ってたら初めから魔法戦専用のにしてるって。というわけだ。魔法戦専用の姿になれ。」

 遙が朔夜にそう命じた瞬間、朔夜は再び黒い闇に包まれてみえなくなった。

しかし、その闇は以前形が変わったときのように細長くはなく、形から推測するに斧か杖といったようなフォルムである。

そして待つこと30秒ほど。朔夜を包んでいた闇は消え、そこから魔法戦専用の裂躯闇が姿を現した。

「・・・・をい。これ黄泉平坂じゃねえのか?」

 そう。遙の手にあったのは紛れもなく、まだ黄泉平坂と呼んでいたころ大鎌だった。とはいえ、以前よりも一回り大きく、

切っ先の槍の部分まで含めるとゆうに3メートルはある。が、その鎌や大斧の部分に施された装飾は、広域白兵戦専用のときと同様、

まがまがしいと一目でわかるものであった。唯一違うとするならば、鎌の上にもうひとつ、

下の鎌よりも少しばかり小さい鎌がついているという点だけであろう。

「そういえばそうだね。でも、実はこれが魔法戦専用のフォルムなのよ。ご主人様ならもう気づいてると思うけど、

このフォルムは魔力増幅器の役割を果たすってところね。」

「ふーん。じゃあ、何はともかくとして、いつまでも生徒のみんなをこのまま彷徨わせるわけにはいかないし、さっさとはじめますか。」

 そういうと遙は再び裂躯闇を点に掲げると詠唱を始める。

「闇あるところに光あれ。それに照らされ、導かれ。彷徨いし魂たちよ、汝らのあるべきところに帰れ。」

 最後の言葉が終わると、遙を包んでいた光がよりいっそう強くなり、一瞬にしてそれは校舎を包んだ。

しかし、その光もまた一瞬にして消え、あたりは夜の闇につつまれた。

「よし。これでもうみんなが彷徨い出ることはないだろ。ま、アフターケア含めてなかなかにめんどくさい事件だったな。」

 遙はそのまま裂躯闇を自らの体の中に同化させ、手ぶら状態で屋上を後にした。しかし、遙が屋上の扉を閉じたとほぼ同時に、

屋上に何の前触れもなく一人の女が現れた。その女は遙の持つ裂躯闇と同等の大きさの斧を方に担ぎ、

遙の出て行ったドアをしばらく見つめていた。斧を除けば、その風貌はモデルのように身長が高く、美しい容貌をしているため、

人をひきつけるものだ。服装も、斧とミスマッチなほどに現代風である。

「へぇ、あれがハーティアを復活させた男か。なかなかに強いじゃない。いや、アホみたいに強いじゃない。

あんなのに勝とうなんて、私たちもバカなことするわねぇ。ま、いっか。じゃ、またあいましょう、ダーク・パラディン。

いや・・・敬意を表さないとね。また会いましょう、神帝聖騎士(エンペラー・パラディン)。」

 そういい残すと、その女性は再び闇の中に溶けていくように姿を消していった。

遙たちの気づかないところで何かがうごめいていることは明白だった。



 





麦山高校一年棟二階。那雪姫たちはちょうどそこに差し掛かっていた。本来ならすぐにでも炎火と合流で来ていてもおかしくないのだが、

今までそこにあった生徒たちの思念のせいで感覚が狂わされていたために、手当たりしだい探し回る羽目になっていたのだ。

が、遙の浄化魔法のおかげでそれも消え、急いで生徒会質に向かっているのである。

那雪姫たちが三階に上ったそのとき、先頭を走っていた那雪姫は何かにぶつかった。

那雪姫はぶつかった瞬間人間であるということまでは認識できたようだが、誰なのかはわからなかったようだ。

とりあえずそばによって手を貸そうとした瞬間、那雪姫はあまりの驚きにその場で固まってしまった。

侑羽も琉羽も那雪姫の後ろでぶつかった相手をじっと見ている。が、ふたりもおどろいているのか、身動きが取れない。

すると、ぶつかった相手が弱々しい口調で那雪姫に語りかけた。

「手を貸してくれるのはありがたいんですけど・・・・。残念ながら手はもう無いんですの。よかったら起こしてくれません?」

 そう、ぶつかった相手は炎火だったのだ。那雪姫は正気に戻ると炎火を抱き起こした。

そして自分のはいていたスカートの裾を破ると両腕に巻きつけて一応の止血をした。

「お母さん!」

 侑羽もわれに返って炎火に抱きつき泣き出した。炎火は一瞬顔をしかめたが、

すぐに優しい顔にもどってだきついてきた侑羽の頭に自らの額をつける。

「大丈夫ですわ・・・・といっても多少無理がありますわね。ちょっと危なかったけど、ちゃんと帰ってきましたから。」

 炎火はそういって目を閉じた。今まで張り詰めていた緊張の糸が切れたのだろう。が、侑羽は炎火に後からが抜けたことに気がついて、

何度も炎火を呼んだ。那雪姫が気を失っただけといってなだめたものの実際、炎火の出血量はとんでもない量で、ただの人間なら、

いや一族の炎火であったとしても死んでもおかしくない量ほど出血しているのだ。

「この状況では仕方ないですね。本来なら本人の同意なしにはしないと決めていたんですけど・・・・。」

那雪姫は侑羽を琉羽に任せると近くの教室に炎火を運び、机を集めてその上に炎火を横たわらせた。

那雪姫は炎火の両腕をつかむと何語なのかわからない言葉を紡ぎだした。

すると突然、つかんでいた那雪姫の両腕が炎火の腕の中に沈みこんでいった。

そして数秒後、SF映画のように炎火の腕の切断面から機会のコードのような金属製のものがあらわれ、一瞬にして腕を形成していく。

那雪姫が腕ができたことを確認して、腹部の怪我に手を当てる。しかし、さっきとは異なり、那雪姫の手が沈み込むことはなく、

傷にふれた手が明るく発光しているだけだった。そうやって手をかざすこと約一分、傷口はきれいに治されていた。

「これでよし・・・と。」

 那雪姫は傷口が完全に癒えたことを確認して再び炎火を背負うと教室を後にした。那雪姫が侑羽たちのところに戻ったとき、

遙はすでに二人と合流してちょうどこちらに来る途中だったようである。

「どうだった?」

 遙は那雪姫にそうたずねた。主語がはっきりしないが、おそらくそれはすべての事を聞いているということは明白であった。

「あまりしたくはありませんでしたが、切断された両腕の変わりに私の力で義手をつけました。

腹部の傷は私でも何とかなる範囲だったので治しましたけど、後で一応見てあげてください。」

 那雪姫の言葉に頷きながら遙は那雪姫に華香の事を聞く。

「はっきりとはわかりませんけど、おそらく炎火が殺したと思います。」

「そうか。しかし、これでお前たちは二人で一人になったと同じってことか。」

 遙は華香のことを確認すると、階段を下りながらそういった。

「ええ。ですから最初は迷ったんですけど・・・・。このままだと本当に命が危なかったので・・・。」

那雪姫はそういいながら、遙の背負った炎火のほうを見る。そして、炎火の血まみれの服を触りながらつぶやく。

「でも、本当にびっくりしました。あれほど出血したにもかかわらず炎火が意識を保っていたなんて・・・。」

 やはり、那雪姫から見てもあの状態で意識を保てたことが異常であるようだ。しかし、その疑問に遙が単純な答えを返す。

「うすうす思ってたんだけど、もしかして炎火も神体者じゃないのか?俺が炎火の戦いを見たのは公園のとき以外ないけど、

なんとなくそんな感じがしたんだ。とはいえ、もしそうだったにしても力はまだ覚醒してないみたいだけどな。」

「確かに、それなら納得いきますね。身体者にとって、血液なんか、代替のきくようなものですし。」

 那雪姫はそういって侑羽のほうを見ると今度は侑羽に向かって話し出す。

「侑羽ちゃん、ちゃんと見ましたか?これがあなたのお母さんの戦う姿です。」

 那雪姫はそういって侑羽の肩に手を乗せる。那雪たちも炎火の戦いを最初から最後まで見ていたわけではない。

しかし、今の炎火を見ればどのような戦いをしてきたかは遙と那雪姫はもとより、侑羽や琉羽にもはっきりとわかった。

「はい・・・。ちゃんと見ました。すごいです。お母さんは。」

 侑羽はまっすぐと前を向いてそう答えた。その姿はさっきまでの侑羽とはまるで違う、まるで別人であるかのような姿だった。

侑羽は炎火の戦う姿を見て確実に強くなっていた。しかし、それは隣にいる琉羽も同じことだった。そんな二人を見た、那雪姫は続ける。

「確かに二人は十二分すぎるほどの力を持ってますよ。でも、私たちにとってはまさにダイアモンドの原石なんです。

ですから、己を磨きなさい。それはただただ力を追い求めるだけではだめなんです。わかりますよね?」

「はい。」

 二人は力強く那雪姫の言葉に頷いた。確実に強くなる。遙と那雪姫は二人の秘められた可能性を再び認識させられたのだった。

そして五人は夜の闇の中、自分たちの家に向かって歩いていく。自分たちの帰るべき場所に。






あとがき


さて、かなり間が開きましたが、クロスワールド第二章第十話です。

(フィーラ)そういえば今回はフィーネが浩さんのところに行ってるんだよね。

ああ。これで今回は殺される心配がないからな。

(フィーラ)さて、今回でやっと華香編も終わりね。

そうだな。あと一話で第二章も終わるかな。

(フィーラ)そういえば、第三章って言うのはキーになるのよね。

ああ。その予定だ。次章からは高校もかわって心機一転新しい遙たちの高校生活の始まりだ。

(フィーラ)ということは新キャラも?

そうなるな。ま、その辺りはもうできてるけど。とはいえ、まだ第二章書き終わってないけどね。

(フィーラ)じゃあ、速く書き終えちゃおう♪

だな。じゃ、早速執筆に戻るとするか。

(フィーラ)がんばれ〜。

よし・・・・・・(執筆中)

(フィーラ)あ、忘れてた。えい♪

ぎゃあああああああああ!!!何でいきなり日本刀で斬りつけるぅ!!!???

(フィーラ)いつもの♪

がふっ!!!!!!!!

(フィーラ)じゃあ、第十一話出会いましょ♪あ、フィーネちゃん、浩さんにあまり迷惑かけちゃだめよ♪


ガクガクガク。
と、とりあえず、また変形したね、遥の武器。
美姫 「ちゃんと読んだの?変形というより、三タイプの一つよ」
いや、一応変形じゃないか。
美姫 「何?文句でもあるの?」
と、とんでもない。
美姫 「だったら、始めから言わなければ良いのよ」
うぅ〜。シクシク。
フィーネ 「さすがは美姫さま〜」
美姫 「あら、フィーネちゃん、いらっしゃい」
フィーネ 「お邪魔してます〜」
邪魔するんなら帰ってや〜。
フィーネ 「は〜い。って、まさかそんなギャグで迎えられる何て!」
美姫 「まあ、浩は馬鹿だから許してあげて」
フィーネ 「美姫さまがそう言うんなら〜」
シクシク。二人して僕を虐めるよ。
美姫 「虐めてなんかいないじゃない」
フィーネ 「そうよ。人聞きの悪い事言わないでよ」
美姫 「ただ、玩具にしてるだけよ」
うわ〜〜ん。
フィーネ 「美姫さま〜。私、美姫さまの剣技が見たいです!」
美姫 「仕方がないわね。そこまで言われたら、一つ見せてあげましょう」
フィーネ 「わ〜い。ありがとうございます〜」
美姫 「しっかりと見てなさい!」
えっと、聞くまでもない事なんだろうが、一応、念のために。
それって、標的はもしかしなくても……。
フィーネ 「浩さん、お願いしますね♪」
美姫 「浩、頼んだわよ」
い、嫌じゃぁぁぁぁぁ!
美姫 「問答無用!」
天地無用!
美姫 「結構、余裕あるじゃない?」
ご、誤解だ〜〜!
美姫 「五戒も十戒もないわ!」
な、何でそっちの戒だよ。ここは定番らしく、階じゃないのか!」
美姫 「(無視)離空紅流…、双竜天破!!」
フィーネ 「そ、その技は…」
な、何ぃぃ。知っているのかフィーネ!
フィーネ 「ううん。全く知らない♪」
な、何じゃそりゃぁぁぁぁぁ〜〜〜〜。るぐれぽにょみょにょりょ〜〜〜〜〜〜!
美姫 「ふっ」
フィーネ 「流石ですね〜」
美姫 「まあね〜。さて、それじゃあ馬鹿も消えたことだし、お茶にでもしましょう」
フィーネ 「は〜い♪」



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