『クロスワールド外伝 She eats darkness in the holy world』
第一楽章
(しかし・・・なんで間違っちゃったんだろ・・・。)
とある女子高の前に朝比奈灑薙麗は立っていた。麦山高校の一軒の後、遙たちとはほとんどあうことなく、
転校先に出向いたわけだが、灑薙麗が転校する場所は当初聞かされていた鳳鵠高校ではなく、東京のとある学校だったのだ。
(これじゃあ、下手に出歩けないよ・・・。)
灑薙麗はそう思いながら、校門をくぐった。灑薙麗は遙たちに別れの挨拶をろくにしていない。
それは、これが別れになると考えていなかったし、那雪姫に挨拶しなかったのは、
何よりそれが灑薙麗なりの決意表明だと思っているのである。次ぎにあう時は那雪姫を超えたときだと。
しかし、那雪姫の通う高校も東京なわけで、下手に出歩くとどこですれ違うかわかったものではない。そして・・・
(うう・・・こんなかたっくるしい所やだなあ・・・・)
その高校は灑薙麗の毛並みに合うものではなかったのだ。生徒の中に走っている人もなく、すべて静々と歩いている。
そもそも灑薙麗の性格は天衣無縫で元気娘だから、こういうのには慣れていないのだ。
(しかも、書類の手違いで、一年生に転入とは・・・。)
灑薙麗は一人、とほほ。な顔をして職員室に向っていく。そう、灑薙麗は和の手違いのせいで、二年生であるにもかかわらず、
一年生に転入させられる羽目になったのだ。とはいえ、灑薙麗の学力は下手をすれば一年生と大して変わらない。
なぜなら、高校になって自宅で勉強した覚えなど灑薙麗にはない。それどころか、授業中はほとんど寝ていて、
一週間のうちまともに起きている授業時間は四時間あるかないかである。
(やば・・・職員室ってどこだっけ・・・)
そんなことを考えていたら、職員室の場所がわからなくなったのだ。
「ごきげんよう。」
灑薙麗は突然、自分が呼び止められたのかと思って、顔を上げ、その声の先を見る。
(えっと、顔だけ振り向くんじゃなくて、体ごと・・・っと・・・。)
頭の中でなれない行動をいちいち考えながら体ごと振り返る。と、同時に灑薙麗は固まった。
(べ、ベルサイユ?)
振り返った先にいたのは普段、いや、こんな髪形をしているのは今時いないだろう、髪を縦ロールにした、
灑薙麗よりも少し背の低い女性だった。
「ご、ごきげんよう・・・。」
灑薙麗は何とか正気を保って、挨拶を返す。しかし、どことなく、ぎこちなくなってしまった。
と、その様子を見て声をかけてきた少女がその様子に気がついて話しかけてきた。
「あら、もしかして、今日来られる転校生の方ですの?」
どうやら灑薙麗が転校してくるというのは既に知られているようだ。
「う、うん・・・。」
灑薙麗はしどろもどろになりながら返事をする。
「まあ、そうですの。でしたら、私と同じ組ですわね。私は一年椿組松平瞳子ですわ。あなたのお名前は?」
灑薙麗は完全におされ気味である。しかし、その勢いに負けて、
「あ、私は朝比奈灑薙麗よ。」
そういうと瞳子は手をとって、
「これから、よろしくお願いしますわ。」
といった。灑薙麗もよろしくといって、ついでとばかりに職員室の場所を聞いて瞳子とその場で別れた。
灑薙麗はそのまま職員室に向って歩き出す。
(縦ロール・・・始めてみた・・・・。)
どうやら、灑薙麗にとって、ここリリアン女学園はびっくり箱と同じようなものらしい。
灑薙麗は職員室に行くと、担任の先生に、いろいろと説明をうけた。しかし、灑薙麗はその一割も理解できていないだろう。
そもそも、灑薙麗はクリスチャンでもなければ仏教徒でもない。力こそすべての一族の子であるわけだから、ほぼ無神教徒だ。
そのため、登校と下校の際にマリア像の前で手を合わせるということを忘れそうである。
(山百合会・・・。なんか、麦山のサンクチュアリみたいな気もするけど。)
生徒会についても何がなんだかさっぱりわからない。
(えっと、ロサ・キネシンス・・・じゃないや、えっと・・・ロサ・・・・・なんだっけ・・・・。だめだ、舌噛みそ・・・。)
生徒会役員特有の呼称は灑薙麗にとって早口言葉より性質が悪そうだ。
灑薙麗はそんなことを考えながら担任の先生とともに教室に向う。
(だめだ・・・。あんまり考えすぎたら胃に穴が開きそう・・・・。)
灑薙麗は考えるよりも先に体が動くタイプで、口げんかもしたことがない。口より先に手が出るのだ。
そのため、日ごろから考えたりすることはない。いい意味ではポジティブシンキング、悪い意味では能天気といえよう。
そうこうしているうちに一年椿組に到着した。灑薙麗はその教室の前に立って、朝あった縦ロールの女性、瞳子を思い出した。
(そういえば、あのこと同じクラスなんだよね・・・。あんな人がいるってことは、クラスにはもっとすごい人が・・・?)
灑薙麗はそんなふうに考えながら担任の促すままに教室に入る。担任の先生が灑薙麗の紹介を少ししている間、
灑薙麗は教室を目だけで見回したが、教室の中には瞳子以外、個性的な髪型をした人はいなかった。しかし、
(あ、あの子、身長フォウさんより高いね・・・・。170・・・・8か9ぐらいかな。)
と、座ったまま、特徴のある子を探していた。
(ん?あの子は・・・・周りの子達とはちょっと雰囲気が違うかな・・・。なんだろ・・・・なんかが違うんだけど・・・・。)
灑薙麗がそう思ったのはショートヘアーの女性だった。
ぱっと見、ほかの子となんら代わりは無いが灑薙麗には雰囲気が違うように感じるらしい。
「じゃあ、自己紹介お願いね。」
担任がそういうと、灑薙麗は正気に戻って、自己紹介を始めた。
「今、先生から紹介いただいた朝比奈灑薙麗です。趣味は寝ること、特技はストリートダンスと格闘術全般です。
こういった雰囲気の学校は初めてなので、何分わからないことだらけですが、よろしくお願いします。」
(よかった。何とか噛まずに言えたよ・・・。)
灑薙麗は自己紹介の後に先生に言われた席に座る。そこは朝話しかけてきた生徒、灑薙麗が一瞬ベルサイユと思った瞳子の隣だった。
「ごきげんよう、灑薙麗さん。」
「ごきげんよう、瞳子さん。」
瞳子が挨拶をしてきたために、灑薙麗はそれに反応して挨拶を返す。担任はそれではと、ホームルームの終了を告げた。
するとすぐに、灑薙麗の周りにとんでもない人だかりができた。まあ、学校の性質上、転校生は珍しいから、仕方ないといえば仕方ない。
灑薙麗は一時間目がはじめるまで、質問攻めに合う羽目になる。どんなダンスを踊るのかとか、どういった格闘技をしているのかとか、
入りたい部活は決まっているのかとか、上げればキリがない。結局、その全てに答えていたため、灑薙麗は一時間目が始まる前に、
疲れ果てていた。
(やばいなぁ・・・。眠くなってきちゃった・・・。)
灑薙麗はまだ一時間目も始まっていないというのに、うとうとし始めた。しかし、何とか意識を保って授業を受ける。
しかし、三時間目。限界が来たのか、目を開けたまま、黒板を見つめたまま、意識を飛ばしてしまった。
「あ・・・。」
灑薙麗がふと意識を取り戻したのは、昼休みに入って、隣に座っている瞳子にお昼を一緒にしましょうといわれたときだった。
「どうです?ここになじむということもかねて、一緒に食堂に行きませんこと?」
灑薙麗に断る理由はなかった。たとえ、縦ロールであっても、まず、何より友達は必要だ。
何より、灑薙麗には瞳子が悪い人には見えなかった。二人はほかにもついてきたクラスメイトとともに、食堂に向った。
灑薙麗は食堂の席につくとクラスメイトと共に、お弁当を食べ始めた。灑薙麗は基本的に一人暮らしである。
そのため、お弁当は自分で作っている。どうやら、ここの学校ではそれすらも驚くべきことだったらしい。
灑薙麗は特に理由もなく、瞳子のほうを向いた。しかし、灑薙麗は瞳子の表情を見て、少し驚いた。
何かに対して怒っているように見えたからだ。灑薙麗がそれに気付いたと同時に、瞳子が席を立った。
一緒に来たクラスメイトもびっくりしている。瞳子はそのまま歩いていくと、一人の生徒の前で立ち止まった。
「最低!!!!」
瞳子はいきなり大声を上げた。それには灑薙麗もびっくりした。とはいえ、灑薙麗に事情はさっぱり読めない。
灑薙麗がはとが豆鉄砲受けたような状態でいる間に、瞳子はなおも大声で続ける。
「見損ないました、祐巳様!!」
「あなたにそんなこと言われる筋合いないわ!!!」
瞳子の前に座っている生徒が瞳子に向って声を荒げた。灑薙麗は完全にわけがわからないでいる。
しかし、そんな灑薙麗をおいて話は進んでいく。
「大事なことから目をそらして、どうしてそんな風にヘラヘラ笑っていられるんですか!!!
やっぱり祐巳様は祥子様の妹に相応しくありません!!!」
瞳子は総大声で叫んだ後、暫く、前にいた生徒をにらんで灑薙麗のところに戻ってきた。
「ごめんなさい。先に帰らせていただくわ。」
瞳子はそういうとお弁当を片付けてさっさと教室に戻っていった。灑薙麗は事情が飲み込めず、瞳子の気配が消えた後、
一緒に来たクラスメイトに事情を聞いた。瞳子はいま、ロサ・キネンシスという山百合会幹部の一人をめぐって
ロサ・キネンシス・アン・ブゥトンと危険な状況にあるということだった。
(と、言うことはさっき、瞳子さんに攻められてたのがロサ・キネンシス・・・・・何とかってことね。
ま、私には関係・・・あるのかな?瞳子さんとは友達のわけだから・・・えっと・・・・)
灑薙麗は何とか考えをまとめようとしているようだが、無理だったらしく、机に突っ伏した。
そのまま、寝てしまったことは言うまでもないが。
「うがー!!!!かたっくるしいったらありゃしない!!!!」
灑薙麗は家に帰ると、大声でそう叫んだ。今までの環境上、灑薙麗にこの環境は辛いようだ。
「マスター、そんなにがなると頭の血管切れるよ。」
そういって灑薙麗の顔の横に30センチほどの妖精が現れた。灑薙麗の宿す嵐神ミストラルである。
ちいさいが、その力はその体に反比例してあるミストラルがそういって頭をなでる。
「あー・・・あたし寝るからさ、12時になったら起こしてよ。今日は暴食でもしないとやってられないわ。」
灑薙麗はそういうとベッドに突っ伏す。
「おいおい。これから、3年はあの生活なんだよ。あんまり暴食してると、すぐに人口が減っちまう。」
ミストラルはそういいながら灑薙麗の顔の横に降り立つ。
「だいじょーぶ。慣れるまでだからさ・・・・。」
灑薙麗はその言葉を最後にミストラルの話に答えることはなかった。
深夜0時。灑薙麗の姿は隣の県、神奈川県にあった。その服装は全身黒ずくめ、ともすれば、夜の闇に飲まれそうである。
「じゃ、まずはあの人かな。」
灑薙麗がいたのは横浜の繁華街から一歩奥に入った人気の全くない道だった。人といえば、灑薙麗の方に歩いてくる一人だけだろう。
灑薙麗はその人間を視認するとその人間に向って歩いていく。そしてすれ違う。
同時だった。灑薙麗とその名も知らない男性がすれ違うのと、名も知らない男性の頭が吹き飛んだのは。
灑薙麗の口には男性の首がくわえられていた。頭は灑薙麗の右手にひっくり返って乗っかっている。
すれ違いざまに、首だけを喰いちぎったようだ。灑薙麗は骨ごと乱暴に首を噛み砕くと胃の中にそれを修める。
「んー・・・この人あんまり健康状態良くないね。ま、美味しいからいいんだけど。」
灑薙麗はそういうと首がないまま立っている男性の上着を脱がせ、背中に手を当てる。
と、同時に男性の皮膚がすべて剥ぎ取られた。どうやら、ミストラルの力を使ったようだ。
灑薙麗はそのまま、無造作に腕を引きちぎり、まるでチキンを骨ごと食べるかのように胃に収めていく。
10分後、その場には下半身だけ残された、男性だったものの残骸が残っているだけだった。
「じゃ、次ぎ行ってみようか。」
灑薙麗は、いや、喰人姫はそのまま、闇の中に消えていった。
清楚な女子高に転校してきた喰人姫。
しかし、クリーチャーたちは、遙たちが相手にしていた何かは。
そんなところにも現れようとは、誰が想像しただろうか。
あとがき
(フィーネ)で?なに?このSS?
見てのとおり、クロスワールドの外伝、灑薙麗編だ。
(フィーラ)クロスワールドは暫く書かないんじゃなかったの?
うむ。これには深いわけがあってな。まず、最近どうしても、マリ見てのSSが書きたくなったんだ。んで、考えてたんだけど、
ひとつはこれじゃなくて、暗殺者が主役で山百合会側の護衛者の二人を中心にしたストーリーだったんだ。
でも、あまりにダークなストーリーになっちゃったから、諦めて、こっちにしたんだ。
(フィーリア)完結予定は?
ぼちぼち。ま、ひとつきに二本程度かな。できればHOLY CRUSADERSも二日にいっぺん更新できればいいかなって思ってるんだけど、
ま、週二回ってとこか。クロスワールドの本編はHOLY CRUSADERSが終わるまで書かないと思うな。
(フィーラ)ちなみに、マリ見ての時間軸は?
読んだらわかるだろ。梅雨真っ只中だ。さて、じゃ、HOLY CRUSADERSを書こうかな。
(フィーネ)そう。やる気があるようだから、今回は殺さないであげる。
(フィーラ)じゃ、次ぎあうのは・・・・。
(フィーリア)HOLY CRUSADERS第七幕ね。
そうだな。では。
(フィーネ&フィーラ&フィーリア)またね〜〜〜〜♪♪♪
なんと、灑薙麗がリリアンに……。
美姫 「この先、どうなるのかしら」
クリーチャー相手には強い灑薙麗も、お嬢さまの規律には弱かった…。
美姫 「果たして、この先無事に過ごす事が出来るのかしら」
あらゆる意味で、続きが楽しみです。
美姫 「それでは、また次回で」