「マスター、そろそろ朝だぞ。」

 灑薙麗が寝ている顔の横でミストラルがそういって灑薙麗を起こそうとしている。しかし、灑薙麗が起きる気配はない。

「遅刻、できないんじゃないのか?学校が学校だし。」

 その言葉に灑薙麗はむくりとベッドから起き上がる。

「喰いすぎかなぁ・・・?消化しきれていない感じ・・・。」

 そう一言だけつぶやくとベッドから降りて朝の支度をゆっくりと始めた。



「ふぁ・・・・・。」

 灑薙麗が教室に着いたのは7時ぴったり。部活に入っていない生徒は誰も来ていない時間である。

(あー・・・寝ちゃお・・・・。)

 灑薙麗がそう思った瞬間、灑薙麗の意識は自分の席につく前に途切れてしまった。

「灑薙麗さん!!灑薙麗さん!!」

 誰かが灑薙麗をよんでいる。灑薙麗はゆっくりと目を開けた。

「灑薙麗さん、大丈夫?」

 灑薙麗の視界に入ってきたのは昨日、雰囲気が少し違うと思ったショーとヘアーの生徒、乃梨子だった。

灑薙麗は起き上がって、大丈夫であることを乃梨子に伝える。

「びっくりしたよ。教室に入ったら灑薙麗さんが倒れてるから・・・。」

 乃梨子はほっとした様子で灑薙麗にそう言う。確かに、誰もいない教室で一人死んだように倒れていたら誰でもびっくりするだろう。

「これがドラマか何かだったら私死体役だね。」

 灑薙麗は起き上がって服をはたきながら笑ってそういった。乃梨子も灑薙麗につられて笑いながら、

「そうだね。でも、それはちょっと嫌かも。」

 と言った。二人はそのままひとしきり笑うと、それぞれ、自分の席に鞄を置いた。

「ところで、灑薙麗さんは入りたい部活とかは決まったの?」

 乃梨子は灑薙麗の席の前に着てそう聞く。灑薙麗は頬杖を突いて少し考えたが、

「ん〜・・・・。特にないなぁ・・・・。空手部もないし、文化部系は私が基本バカだから向いてないし。」

 といった。しかし、昨日の体育で全国レベル以上のポテンシャルを見せ、すべての体育会系部活から勧誘がきたのだが。

「そうなんだ。」

 乃梨子は少し考えたが、すぐに、

「ねえ、もしよかったら生徒会の手伝いしてくれないかな?」

 と、言った。灑薙麗は少し驚いて、私が生徒会の手伝い?と聞き返した。乃梨子はそれにうんと答える。

「そういえば、乃梨子さんはロサ・ギガンティア・アン・ブゥトンだっけ?」

 どうやら、灑薙麗はやっとこさ、山百合会幹部の独特な呼称を覚えたようだ。

「でも、なぜに私?」

 灑薙麗には乃梨子が生徒会の手伝いに自分を誘った理由がいまいちのみこめないようだ。

たしかに、転校して二日目、わからないことだらけなのに生徒会の手伝いと言うのも酷である。

「昨日、お姉さまに灑薙麗さんのことを話したらここに慣れるということもかねて手伝いに来てもらったらどうかしらって言われたの。

あ、でも、強制はしないから。」

 と、乃梨子がその理由を完結に説明する。それを聞いた灑薙麗は、

「いいよ。生徒会の手伝い、受けるよ。聞いた話しじゃ人手不足らしいし。」

 と二つ返事で了承した。そもそも、灑薙麗にその申し出を断る理由はない。どうせ、家に帰ってもすることはないし、

夕食、いや、正確には捕食は12時過ぎからだ。その間、無駄な時間をつぶせて、

かつ、学校になじむと言う点で考えれば灑薙麗にとってプラスしかない。

「うん。じゃあ、放課後、一緒に。」

 と乃梨子は言って席に戻った。ちらほらと生徒が登校してきたようだ。少しずつ学校に生活観が感じられてきた。





 放課後、灑薙麗は朝の約束どおりに乃梨子と共に薔薇の館に向っていた。

「ところで灑薙麗さんは何でこの学校に?」

 薔薇の館に向う途中、乃梨子がそう聞いてきた。やはり、場所が場所だけに転校生は珍しいらしい。

灑薙麗は本当のことを言おうか迷ったが、別に隠すことないやと、

「えっと、麦山高校の件は知ってる?」

 と、乃梨子に聞いた。乃梨子はあれだけのこと、知らないわけないよと返事をした。

「私、あれの生き残りなの。」

 灑薙麗のその言葉に、

「え?あれって、生存者なしじゃなかったっけ?」

 と、乃梨子が言う。

「実は、私のほかにも、友達が四人助かってるの。あと、保険医が一人。まあ、事情が事情なだけに、伏せてあるけど。」

 と灑薙麗は剣呑に答えて見せる。乃梨子はふーんとそれ以上深く聞くことはなかった。変わりに、別のことを乃梨子は聞いてきた。

どうやら、リリアンの外から来たもの同士、何か親近感があるようだ。そうこうしていると、二人は薔薇の館に着いた。

乃梨子が先に入ると、その後を灑薙麗が追うように入っていく。乃梨子と灑薙麗は二階のドアの前を空けて中に入る。

そこには既に、一人の女性がいた。

「ごきげんよう、お姉さま。」

 乃梨子はそういうと隣に立っている灑薙麗を一歩前に出し、乃梨子の姉、ロサ・ギガンティアこと藤堂志摩子に紹介した。

「あなたが転校生ね。話は乃梨子から聞いているわ。私はロサ・ギガンティア、藤堂志摩子よ。」

 志摩子は椅子を立って自己紹介をした。灑薙麗もあわてることなく自己紹介を済ませた。

「ありがとう。いま、少し人手不足なの。助かるわ。」

 志摩子は笑顔でそういった。

(綺麗な人だなぁ・・・。那雪姫とタメはるかも・・・。)

 灑薙麗はそう思いながら、進められた席につき、志摩子に山百合会のことや仕事のことを聞くと、早速手伝いを始めた。

(ふぁ・・・・。何よこの量・・・とてもじゃないけど期限の明日までには終わんないよぉ・・・。)

 灑薙麗は膨大な量のプリントを処理しながらそう思った。そのとき、ドアが開いて二人の女性が入ってきた。

どうやらロサ・フェティダの姉妹らしい。令は灑薙麗に気付くと、

「あ、あなたが乃梨子ちゃんが言ってた転校生?」

 と聞いてきた。

「はい。乃梨子さんと同じクラスの朝比奈灑薙麗です。」

 灑薙麗はロサ・フェティダの姉妹に自分の名前を伝える。

「ごきげんよう。私は・・・。」

 と、令が自己紹介しようとしたときに灑薙麗が

「あ、ロサ・ギガンティアからきいています。ロサ・フェティダ・アン・ブゥトンの島津由乃様とロサ・フェティダの支倉令様ですよね。」

 と灑薙麗がいった。

「そうだよ。お手伝い、ありがとう。」

 と、由乃は言って、二人は椅子に座ると自分の仕事を始めた。一時間後、膨大な量の書類も片付き、少し休憩をとることになった。

灑薙麗と乃梨子は二人で紅茶を入れ、皆のいるところに持ってきた。

「そういえば、灑薙麗ちゃんは何か趣味とかあるの?」

 灑薙麗が由乃の前に紅茶を置いたとき、由乃が灑薙麗にそうたずねてきた。

「はい。ストリートダンスと、格闘術をやってて、それが趣味ですね。」

と灑薙麗は答える。と、由乃は興味を示したのか、

「へぇ〜。格闘術ねぇ〜・・・。じゃあさ、瓦割とかできる?」

 と冗談半分に聞いてきた。少し、前ロサ・フェティダに似てきたような気もする。

「瓦割ぐらいならでこピンぐらいで十分ですね。正拳なら鉄板ぐらいは軽く。」

 と、灑薙麗は自分の席について答えた。しかし、その答えに、そこにいた灑薙麗以外、はっ?という表情を浮かべている。

「冗談よね?」

 あまりにも真顔で、さらりと言ってのけた灑薙麗に志摩子がそうたずねた。

まあ、灑薙麗のことを知らない人にとってそんなことできないと思っても仕方ない。

「本当ですよ。」

 灑薙麗はそういって財布から500円玉を取り出し、掌に乗せ、皆に見えるようにテーブルの前に出して軽く握る。

すると、軽いペキンという音がした。灑薙麗がその手を開くと掌のうえにあった500円玉は真っ二つに割れていた。

皆それを見て驚いて手にとって見たりしている。漫画などで半分に曲げるようなシーンがあっても半分に割るシーンはあまりないだろう。

しかし、灑薙麗にとってそんなのは寝ることよりも楽な話だった。

「マジック?」

 と、由乃があまりにも非常識な光景にそういった。

「マジックじゃありませんよ。信じられないようならリクエストでもしてくれれば折るなり割るなりしますよ。」

 と灑薙麗は答えた。由乃は、

「お姉さま、確か剣道部に素振り用の鉛の芯が入った木刀がありましたよね?」

 と令に聞いた。令はいやな予感を感じつつも、あるけどと生返事を返す。

「持ってきてくれませんか?」

 由乃は満面の笑みで令にそうお願いした。この笑顔令にとっては天使のような悪魔の笑顔である。

断ることはすなわち、由乃の機嫌を損ねてしまいかねない。令は断るに断れずわかったよと言って剣道場に向った。

「シチュエーションは何でもいいのかしら?格闘術をやってるなら。」

 と、シチュエーションについて由乃が聞いてきた。どうやら、令のいやな予感以上のことを由乃は考えているらしい。

「かまいませんよ。野球の素振りのように振ってくれてもいいですし、剣道をしているようなので、

思いっきり面を撃ってくれてもかまいません。」

 灑薙麗は自信たっぷりにそう答えた。

「そう。じゃあ、ここじゃあ危ないからしたのホールに行きましょう。」

 由乃のその一言でその場に残った白薔薇姉妹も下のホールに行くことになってしまった。

暫くして令が薔薇の館に戻り、由乃に鉛入りの木刀を渡す。由乃は令にありがとうと言うやいなや、

ほぼ遠心力任せの横薙ぎを灑薙麗の顔面に向って放った。あまりにも一瞬の出来事で、誰もが目を背ける暇などなかった。

そのために、灑薙麗の実力の一片を目に焼き付けることになった。そう。顔面に向って放たれた横薙ぎを、

鉛の芯の入った木刀を灑薙麗は噛み砕いたのだ。灑薙麗は噛み砕いた木刀を手に持つとそれまたポッキーでも折るように軽く折っていく。

「と、まあこれぐらいなら朝飯前ですよ。」

 灑薙麗はそういって手を広げて見せる。当たり前だが、そこにいた面々はあまりの非常識さに我を失っている。

「ふぇ?」

 灑薙麗は一人、なぜ?と言った表情だが。



「灑薙麗ちゃん、一体何者?」

 仕事も終わって下校途中、校門までと、黄薔薇姉妹がついてきた。

その中、由乃がさっきのあまりに非常識な光景をみて灑薙麗にそうたずねた。

「普通じゃないんですけど、こっち側にいるときは普通であろうと勤めてます。」

 と灑薙麗は答えた。答えになってはいるが、答えにはなっていないような気がする。灑薙麗はそれに気付いて、

「えっと、どちらかとは言わなくても化物ですよ。」

と、次ははっきりとそういった。

「ばけもの?」

 と、令が聞き返す。あまりにも突拍子な答えだったため真実がつかめていないのだ。いや、灑薙麗の本性を見なければ、

その意味はわからないだろうが。

「はい。化物です。」

 と、灑薙麗はその問いに元気に答えた。そのとおりだ。強くなるために、いや、理由もなく人を喰らう人間を人間と言えようか?

いや、いえるわけがない。

「そりゃ、確かに、力は化物だけど、そういうんじゃなくて・・・」

 由乃は灑薙麗にそうじゃないのよと言う。少し会話がかみ合っていないようだ。と、そこまで言って校門に着いたため、

会話はそこで中断されてしまう。

「ごきげんよう。灑薙麗ちゃん。」

 二人はそれぞれ灑薙麗にそういったが、灑薙麗は二人のほうを向いたまま何も答えない。

どころか、実に楽しくて、愉しくて、悦しくて、愉しくて、嬉しそうな表情をしている。

二人は後ろに何かあるのかと振り向いてみるが、これといって何もない。ただ、一人、道の真ん中に女性が立っているだけだ。

しかし、二人はその女性にその表情が向けられていると言うことには気付くはずもない。

「それでは、始めるの。」

 その女性の声ははっきりと二人にも、当然灑薙麗にも届いた。灑薙麗は頭をたれたまま、二人の横を通りぬけ、その女性に相対した。

由乃と令は直感した。二人にそういう力があるわけではない。しかし、生き物としての本能がそれを直感した。『ヤバい』と。

「やっと・・・・やっときた・・・・。」

 灑薙麗のうわごとのように聞こえる一言。

「蛇神闇音の神格試験だの。」

 剣を手に、闇音の幕開けを伝える一言。

 そのとき灑薙麗の神格試験と、二人の女性による、殺し合いが始まった。










あとがき


と言うわけで、このシリーズも二作目です。いやいや。あの闇音も灑薙麗もいい加減ですねぇ。

思いっきり黄薔薇姉妹の前でやりあう気満々ですよ。後始末、大変だろうなぁ・・・。

え?あのやかましいの?今回は三姉妹そろって浩さんの所に行ってるようですので。迷惑かけそうだなぁ・・・。

さて、そろそろ夕飯を。確か、フィーラが作ってくれたのがあるはず。あ、冷蔵庫の中か。

(カチャリ。ドォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!!!!!!!)

*爆発物には気をつけましょう。


えっ!? えっ!?
三人がこっちに来るのか!
や、やばい。急いで、扉に木を打ちつけて……。
美姫 「どうして、そんな事するの?」
ああ、いい所に。手伝ってくれ。
美姫 「別に良いけれど、台風でも来るの」
ある意味、台風だな。
と、釘!
美姫 「はい」
カンカンカン。
板!
美姫 「はい」
トンテンカン。
…………ふ〜〜。これで、この部屋から出る事も、この部屋に入ってくる事も出来ないだろう。
美姫 「何かよく分からないけれど、お疲れ様」
ああ、疲れた。
フィーラ 「お疲れ様です、美姫さん、浩さん。はい、お茶でもどうぞ」
ああ、ありがとう〜。
美姫 「ありがとうね」
フィーネ 「ケーキもありますよ」
良いね〜。疲れた時は、甘いものが一番だよ。
美姫 「あんたの場合、疲れてなくてもでしょう」
そう言うなよ。……うん、美味い〜。
美姫 「本当ね〜」
あ、美姫の奴も美味そうだな。ティラミスか。
美姫 「そうよ。浩のはイチゴのミルフィーユね」
おう! うーん、そっちも美味そうだな。
一口もらうぞー。
美姫 「じゃあ、私も」
……うーん、これも美味いな〜。
美姫 「うんうん」
フィーリア 「他にも色々ありますよ」
じゃあ、これもも〜らい!
……うんうん、うまうま。
…………って、お前ら、いつの間に部屋の中に!?
美姫 「いや、結構前から居たわよ? 何を今更」
う、うぅぅぅ。全ては無駄な努力かよ。
そ、そうだ、俺、用事を思い出したから、ちょっと出掛けてくる。
三人とも、ごゆっくり〜。
って、扉が開かねーよ! 誰だ、こんなに馬鹿みたいに板を打ち付けたのは!
美姫 「それ、さっき自分でやったじゃない。遂に、そこまでボケたの?」
くぅぅぅ(泣)
泣いてないぞ、決して泣いてなんか……。
美姫 「さーて、お腹もそれなりに膨れたしね」
フィーラ 「どうして、慌てて扉を塞いだのかその訳を聞かないとね」
フィーネ 「それと、美姫さんのお手伝いもしないとね」
フィーリア 「そういう訳ですので、丁度外へも出られないみたいですから…」
美姫 「今日は寝かせないわよ〜」
フィーラ 「た〜〜っぷりとSSを書いてね♪」
フィーネ 「勿論、休みはなしですよ♪」
フィーリア 「くすくす。楽しみです」
い、いや、いや、いや、いやいやいやいやいやいやいや。
いやだーーーーーーーー!!
だ、誰か助け……。
ガシッ!
美姫 「さーて、それじゃあ、お仕置きを先にやりましょうね」
フィーラ&フィーネ&フィーリア 「「「は〜〜〜〜い」」」
Noooooooooooooooo!!



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