『クロスワールド外伝 She eats darkness in the holy world』
第五楽章
「とはいえ・・・この中から探し出すのってある意味至難の技じゃない?」
図書館に来て由乃が発した一言である。リリアンの図書館は決して広いほうではないが、それでも結構な蔵書数を誇る。
その中から特定の本を探し出すということは至難の業である。ましてや、聞いたこともないような本である。あるかどうかも疑わしい。
「それよりも、本の名前自体、本当の名前ではないような気がするんですけど・・・。」
志摩子が近くにあった本を適当にとってそういった。まあ、『赤の書』、『黄の書』、『白の書』
が本当の名前だとはだれにも考えられない。
「うん。それはあくまで『通称』だから。本当の名前は別にあるよ。『赤の書』は『新約聖書』、『黄の書』は『中約聖書』、
『白の書』は『旧約聖書』のことだよ。まあ、どれも原本のことなんだけど。」
灑薙麗は膨大な量に及ぶ学園史を手にそういった。明治38年創始なだけあってその量たるはすさまじい。
灑薙麗は適当な机の上にそれを置いて適等に一つを手にとってめくりだす。
「中約聖書?そんなのあったっけ?」
祐巳がそんな疑問を口にした。由乃も聞いたことないわねと相槌を打つ。
「んー・・・。一般的には旧約と新約しか知られてないけど、実はその間に中約聖書っていうのがあってね。
旧約聖書はモーゼで中約聖書がイエス・キリスト、新約聖書はユダっていうのが私たちの中で筋になってるんだ。」
どうやら、一般的に知られる聖書の知識と一族の中で知られている聖書の知識には大きな差があるようだ。
「まあ、そんなのはどうでもいいことなんだけどね。十中八九、蔵書にはないと思うよ。
多分どこかに隠されてるか保管されてるかのどちらかだと思う。だから、学園史ひっくり返して取り壊された施設とか、
改装された教室とか、その辺りを探ってみるのがいいと思うんだ。」
灑薙麗はそういって祐巳たちに学園史を一冊手渡す。ちなみに、十年で一冊の量だからそれでも十数冊存在する。
「手伝うって決めたんだし、腹をくくって調べますかね。」
由乃はそういうといすに座ってページをめくり始めた。祐巳たちもそれについて学園史をめくり始めた。
誰もいない図書館の中、四人のページをめくる音だけが部屋に響く。
「おわったぁ・・・。」
すべての学園史をめくり終え、由乃が伸びをしながらそういった。祐巳たちもめいめいに硬くなった体をほぐしている。
「うにゃぁ・・・・。これまたとんでもない量の該当箇所があるねぇ・・・・。
一個一個つぶしていくのは無理じゃないけど時間かかるなぁ・・・・。もっと絞る必要ありか・・・・。」
灑薙麗の言のとおり、灑薙麗の挙げた条件に該当する場所はかなりあった。部分的な改修を含めその箇所は約百箇所。
しらみつぶしにするには少し多い。しかし。
「でも、薔薇の館の前にあった建物は怪しいよね。」
祐巳はそういいながら学園史をまとめていく。
「そうだね。そこはまず間違いなくあたりと考えていいね。さっそくいってみよう。」
灑薙麗は祐巳たちのまとめた学園史を元の場所に戻すと薔薇の館に向かった。祐巳たちもそれについていく。
「うーん・・・。」
薔薇の館についた灑薙麗たちは警備員に止められたものの、灑薙麗が何か一言警備員に言うと、すんなりと入ることができた。
早速、一階を重点的に調べたものの、おかしい点は何一つ見つからない。
「はずれでしょうか・・・?」
志摩子は灑薙麗に尋ねたが、灑薙麗はそれに答えることなく、床の一箇所をじっと目つめている。
と、不意に灑薙麗はその見つめていた一点を思いきり踏み抜いた。大きな音を立てて床が抜け、地面が見える。
灑薙麗は自分が入るには少し狭いと思ったのか、一面の床を剥ぎ取って、地面の上に降りるとその地面をじっと見つめる。
「さ、灑薙麗さん・・・?」
一瞬の出来事についていけなかった祐巳が灑薙麗に声をかける。しかし、何を聞いていいのかわからないといったような状態だ。
灑薙麗はそれに返事をすることもなく、再び地面を思い切り蹴飛ばした。するとどうだろう、灑薙麗の足元に大きな空洞が姿を現した。
「どうやらビンゴみたいだねぇ♪」
灑薙麗はそういうと、何のためらいもなくその穴の中に飛び込んだ。そして、
「どうする?ついてくる?それともみんなはここで待ってる?」
と、祐巳たちに聞いてきた。
「えっと・・・待ってようかな・・・。」
三人とも同じ意見のようだ。確かに、何がこの先あるかわかったものではない。
インディ・ジョーンズ顔負けのことが起きる可能性だって否定できない。灑薙麗の能力からすればだから?といったところなのだろうが、
普通の人間であるところの祐巳たちにとっては生死にかかわる。
「そう?じゃあ、ちょっといってくるね。」
灑薙麗はそのまま先の見えない真っ暗な通路を一人歩いていった。
「わ、私たちは上でお茶でも作って待ってましょう・・・。」
志摩子のその提案に由乃たちも賛成し、二階に上がる。この選択がある意味、
その後の出来事に深くかかわることに誰一人気付いていなかった。
「・・・薔薇の・・・館・・・。」
一人の女性が校舎の屋上から薔薇の館を眺めている。その手には『ブラックorホワイト』と呼ばれる二丁の拳銃。
身長は女性ではありえないほどで、190センチは優にあろう。髪は黒くその長さたるは地面まであと数センチ。
その世界では『銃撃殺人(シューティング・ジャンキー)』と呼ばれ畏怖されている女性だった。
「朝闇薙・・・は・・・・いない・・・・か・・・・。まあ・・・・いい・・・・。いても・・・いなく・・・ても・・・
人が・・・死ぬのに・・・かわり・・・ない・・・・。」
落ち着き払った物腰の中に果てしない闇をたたえている女性、鋼谷銃姫は二丁の拳銃を隠すこともなく
そのまま薔薇の館に向かって行軍を始めた。
「ふみぃ・・・まっくらだぁ・・・・」
灑薙麗は暗闇の中、道なりに進んでいたが、さすがに暗すぎると感じているようだ。かれこれもう十分ほど本気で走っている。
ちなみに、本気で走る速度は音速の壁を数枚はぶち抜いている。まあ、人間でないから可能なのだが。
さっきから道幅がだいぶ広くなってきていることを灑薙麗は直感で感じ取っていた。と、先に薄ら明かりが見え始めた。
どうやら出口が近いようだ。その明かりまでものの数秒でついたが、そこにあったのは出口ではなく、
大きなヘブライ語の書かれた扉だった。
「ヘブライ語・・・何々・・・ふーん・・・ここに赤の書があるんだ・・・。」
灑薙麗はヘブライ語を難なく読み解くと大きな扉を蹴破って部屋に入る。そこにはまるで寝ているかのような老人が一人、
祭壇に横たわっていた。
「この人がモーゼね・・・・なかなかダンディじゃない。ま、死人に興味は無いけど。」
灑薙麗はそうつぶやくとモーゼを一瞥してその隣にある本を手に取る。それはヘブライ語で旧約聖書と記されている。
つまり、『赤の書』である。灑薙麗は目を閉じ、なにやらぶつぶつとつぶやくとその手に取った本は勝手にページがめくれていった。
それに呼応するかのように灑薙麗の足元に魔方陣が現れ、そこから文字が浮かび上がり、灑薙麗の周りを取り囲む。
暫く時間がたつと、灑薙麗はゆっくりと目を開けた。すると、目の色が変わっている。片方は以前と同じ黒ではあるが、
片方は赤の書のためか、赤くなっている。
「これでまず一冊・・・。さて・・・一人一冊ってことは後の二冊はどうしようかなぁ・・・。」
灑薙麗はそうつぶやきながら旧約聖書の原本、『赤の書』を手にモーゼの眠る祭室を後にした。帰る速度も行きと全く同じ速度で。
神になった女性が更なる高みを目指し、一つ、階段を上った瞬間だった。
「なんか、実感わかないなぁ・・・・。」
薔薇の館の二階。ついさっきあんなことがあったとは思えないほどに和んでいる。祐巳はお茶を入れながらそんなことをつぶやいた。
「まあ、実際に見てるわけじゃないし。っていうか、ここにいていいのかな?一応ここって事件現場なんでしょ?」
由乃は祐巳の入れてくれたお茶を飲みながら祐巳に言った。確かにそのとおりだ。今でも薔薇の館の前には数人の警備員がいるし、
学校の中にはそれこそ100人近い警備員がいる。そもそも、祐巳たちが学校に残っていること自体、不可能のはずなのだ。
「灑薙麗さん、まだまだ底が知れませんね・・・。」
志摩子は自分の意見を率直にそうもらした。確かに、灑薙麗のそこは知れない。その力にしたって既に桁外れ。
そのうえ、立ち入り禁止になっているはずの場所に何の問題もなく入ったりできる当たり、一体彼女は何者なのか、不明である。
「そうだね・・・。でも、今頼れるのは灑薙麗ちゃんだけじゃない?」
由乃の言は現状を的確に表現している。何が起きているかわからないがゆえに何者かわからない灑薙麗を頼りにするしかないのだ。
「そうね・・・。それが一番安全みたいだし。」
志摩子がそういったちょうどそのとき、乾いた音が響いた。それが銃声だとわかるものはこの場にはいない。
ただ、何かあったということだけがわかることである。
「な、なになに・・・?」
祐巳があわてて窓から顔を出して辺りを確認する。しかし、これといった変化は無い。しかし、たて続けに乾いた音が響く。
「な、なにがおこってるのよ!?」
何かがおきていることはわかっているがそれがなんなのかわからない場合、人は往々にしてパニックに陥る。
祐巳たちもそのとおりパニックを起こし始めた。しかも、だんだんとその音が近づいてきている。
と、そのとき、祐巳の視界に入っていた警備員が銃を抜いた。それをみていた祐巳は窓を閉めて、
「な、何かあったみたい!け、警備員の人が・・・・」
そこまで言ったちょうどそのとき、薔薇の館の窓ガラスが割れた。祐巳たちにはなぜ割れたかなんかわからない。
灑薙麗がいれば最初の乾いた音で気付いていただろう。それが銃声であることも、その銃声の主が鋼谷銃姫であることも。
「あ・・・れ・・・?」
窓が割れたのを最後に、乾いた音がしなくなったのだ。由乃は恐る恐る窓から外を見る。
その目に映ったのは紅い血溜の中に浮かぶ人間だったものの残骸だけだった。
「・・・ッ!!!」
由乃が窓から目を背けたのと同時に、由乃の目に映ったのは、いつの間にか部屋の中に入っていた二丁の拳銃を持った女性だった。
さすがの由乃もその人が灑薙麗と同属であるということに気づいた。
「あ・・・あ・・・・」
由乃は腰が抜けたようにその場にへたりこむ。祐巳と志摩子はその視線の先にあるものを見て、同じく腰を抜かして、床にへたり込んだ。
「朝闇薙・・・・は・・・・まだ・・・・いない・・・・。」
銃姫はとりあえずというような感じで銃口をそこにいた三人に向けてはいるものの、既にその三人に対する興味を持ち合わせていなかった。
「・・・・とりあえず・・・・殺す・・・・?いや・・・・その必要・・・・ない・・・・。」
銃姫は直感で感じ取った。もうすぐ到着するということを。灑薙麗が。この場所に。
「・・・・・・?」
銃姫は一分の違和感を感じ、その場から半身、体をずらした。と、そこを真っ赤な何かが通り過ぎた。
壁を見ると赤いナイフが突き刺さっている。このようなことができる人物を銃姫は知らない。でも、できるとしたら、彼女しかいない。
「よしのんたちが世話になったみたいね。姫ちゃん。」
姿がないのに響いてくる灑薙麗の声。
「・・・・・来・・・・・た・・・・・。」
銃を構える銃姫。右手。何のためらいもなく唯一の出入り口に。左手。あがらない。まるで、何かにつかまれているかのように。
銃姫はすぐに目を向けた。
「・・・・・影・・・・・通過路(ゲート)・・・・!!」
銃姫が気付いたときには遅かった。銃姫の影から抜け出てきた灑薙麗の腕が銃姫を捉えた。一撃。その言葉が実に相応しい。
腕の一振りで銃姫は壁を突き破り外に放り出された。
「まったく・・・。よしのんたちはこういうのに免疫ないんだから、少しは考えてよ・・・・。」
灑薙麗は億劫にそういうと、壁にできた大穴に話しかける。
「で?一体何がしたかったの?万が一つにも血族(ファミリー)側についてるなんてないだろうし、かといって、
よしのんたちを狙ってるってわけでもない。目的がいまいち不明瞭なのよね。」
灑薙麗はそういうと一歩ずつ大穴にむかって歩いていく。と、灑薙麗の頬を何かが掠めた。銃弾だ。しかし、銃声はそれが掠めて、
間をおいて響いた。銃弾は音速を超えるといわれるが、それでも、ここまで間は開かないはずだ。
と、次の瞬間、灑薙麗の後ろの壁を突き破って銃姫が姿を現した。同時に残弾を気にせず灑薙麗に向かって発砲した。
しかし、灑薙麗は動かなかった。銃弾は、灑薙麗に届く前に、その前に現れた黒い『何か』にすべて取り込まれている。
銃弾がそれを貫通することはなく、灑薙麗には一切の被害が無い。たっぷり三十秒は銃撃が続いただろう。
銃の弾がなくなり、銃姫は銃を下ろした。
「・・・・ためし・・・・た・・・・。」
銃姫ははっきりといった。
「あなた・・・・が・・・・わたし・・・・の・・・・お姉・・・・さま・・・・足りえる・・・・か・・・・どう・・・・か・・・・。」
その言葉に、灑薙麗はあっけに取られた。ただ、それだけのために、数十人の警備員を殺し、由乃たちを脅かしたのだ。
「あのねぇ・・・。あたしがそんなに小っちゃい器に見える?そんなわけないじゃない。」
灑薙麗は呆れたもんだといって銃姫に近づく。
「で?結果は?」
灑薙麗は銃姫のその長すぎる髪の毛に触れながら聞いた。銃姫は顔を赤らめ、
「・・・・よろしく・・・・おねがい・・・・しま・・・・す・・・・。・・・・『お姉さま』・・・・。」
はっきりとそういった。まるで今までの行為が姉妹になるための通過儀礼だったかのように。灑薙麗もそうだね。
よろしく。といって自分の髪を止めている大きなリボンをほどく。
「私、ロザリオなんて洒落たもの持ってないからさ、これ、ロザリオの代わりね。」
そういって灑薙麗は銃姫の長すぎる髪を後ろに束ねると自分のつけていたリボンでそれを結んだ。
「・・・・ありがとう・・・・ございます・・・・。」
銃姫はまるで初恋の人にリボンをつけてもらったかのように真っ赤になると、うつむいてしまった。
「さーてと・・・・。後始末、どうするかなぁ・・・・。」
灑薙麗はさて困ったという表情で周りを見回す。そこには散々になった部屋の備品と、気を失っている三人の女性が横たわっていた。
祐巳たちは記憶を消せばいいものの、部屋に関しては遙のように時間操作をできるわけないし、物質変換もできないからどうしようもない。
「・・・・ごめん・・・・なさい・・・・。」
銃姫は申し訳なさそうに灑薙麗に謝ったが、灑薙麗は妹の不始末をつけるのも姉の役目とまずは由乃たちの記憶操作を手始めに行った。
「さてと・・・次は警備員たちだね・・・うーん・・・じゃあ、さっき手に入れたほうを使うかな。」
灑薙麗はそうつぶやくと、腕を広げ、高々と宣言する。古の書、旧約聖書に秘められた力を。
「固有結界、『無垢なる混沌(アビス・イン・カオス)』。」
その宣言と同時に、灑薙麗の影から漆黒の何かが飛んだ。その何かは形を持っていない。まさしく、混沌(カオス)。
しかし、漆黒であるにもかかわらず、それからは悪意のかけらも感じ取れない。まるで、無垢(アビス)な赤子のように。
灑薙麗たちのいる部屋から一体何が起きているのかわからないが、しかし、外では、事切れた警備員たちをその黒い何かが包み込み、
取り込んだ。その後に、全く何も残さず。十人が十人、ここで人が死んでいたなんて気付きようがないほどに。
「ん。ご馳走様。」
灑薙麗はそういうと祐巳たちに近づいて目を覚まさせた。当然、灑薙麗が記憶操作を行ったため、今までの出来事に気付くものはいない。
しかし、
「さ、灑薙麗ちゃん!!う、後ろ、後ろ!!」
由乃だけ記憶が消えていなかった。灑薙麗の後ろの銃姫を指差すとおびえたように祐巳の後ろにまわった。
「な、なに?由乃さん、ど、どうしたの?」
いきなりのことに祐巳は何がなんだかわかっていない。いや、志摩子も、由乃が何におびえているのかわからなくてきょとんとしている。
「うに?記憶操作しくったのかなぁ・・・・?いや、もしかして・・・・よしのん、『操作不換(ステディ)』なんじゃ・・・・。」
灑薙麗は表情を変えて由乃の前に立つ。と、由乃の鳩尾に灑薙麗の拳がめり込んだ。由乃はうめく間もなく昏倒する。
「ごめんね、よしのん。力が効かないみたいだから、古典的な手になっちゃって。」
灑薙麗はそういうとことのいきさつを祐巳、志摩子に話して納得してもらうと、由乃さんを背負って、家まで送ることにした。
銃姫もそれについて、今現在、由乃の家に向かって歩を進めている
「ん・・・。」
由乃の家まであと少しのところで、由乃が目を覚ました。由乃は今どこにいるのか確認するために周りを見回す。
と、その視界に銃姫が入った。と、由乃は再びパニックを起こした。
「さ、灑薙麗ちゃん!!あ、あ、あ、あの子!!!」
完全にパニックに陥った由乃は灑薙麗の首に腕を回して暴れだした。当然力加減はされてないわけだから、
灑薙麗の首をぐいぐいと絞めている。
「よ、よしのん!!し、絞まってるから!!お、落ちちゃうって!!ギブ!!ギブ!!!」
灑薙麗のその大声に由乃は我に返り、あ、ごめんとその腕を緩めた。
「うにぃ・・・。どうしたの?よしのん?」
灑薙麗は由乃が一体何をいいたいのかわからなかったのか、そう聞いた。
「そ、その子、私に銃を向けて、それで、それで・・・!」
どうやら、記憶が消えてないらしい。灑薙麗はやっぱり消えなかったかと舌を出して笑いながら、
「大丈夫だよ。さっきは私を試そうとしてただけみたいだし、今はただの女の子。まあ、怖い思いしちゃったみたいだけど、
今回は私に免じて許してやってくれないかな?」
由乃は灑薙麗の話を聞いて二、三度頷いたが、納得できないようだ。
「そういう目的があったのは分かったけど、それでも納得できない。やり方がおかしいんじゃない?
試すなら試すで、人のいないところでするとか、そういうふうにもできるはずよ。」
至極当然、もっともなことである。力があるものはそれを行使する方法にも責任が伴う。
しかし、一族(コミュニティー)はそのあたりがかなりあいまいというか、気にしないのだ。
自分の行使したいときに自分の納得するやり方をする。余りあるほどの力を持つと細かい部分が大雑把になっていくのである。
「・・・・ごめん・・・・なさい・・・・。」
銃姫は素直に謝った。誤るしか方法が無い。なぜなら、たとえここで二度とそのようなまねをしないと約束しても
守れるはずがないことを銃姫自身、よく知っているからだ。
「妹の不始末は姉の不始末。責任は私が取るよ。」
灑薙麗は銃姫をかばうようにそういって由乃と銃姫の間に割って入った。灑薙麗の真剣な表情に由乃は反論しづらくなり言葉を濁して、
「と、とにかく、今後は注意してよ。本当に怖かったんだから。」
と二人に釘を刺した。灑薙麗はもちろんといったものの、血族(ファミリー)のことを考えると、
そんなことは言ってられないと心のうちでは思っていた。
「『赤の書』は人間の手に渡ったか・・・。まあいい。『光の心』さえ手に入ればほかのものは付属品に過ぎん。」
武蔵野市内にある廃墟の中に一人の男が佇んでいた。しかし、彼は人間ではない。背には大きな蝙蝠のような羽。
頭には鬼のような角。言葉で表現するなら悪魔と呼ぶものであろう。
「とにかく、今は血族(ファミリー)に任せるか。一族(コミュニティー)と血族(ファミリー)がつぶしあえばどっちに転んでも
俺たちのいいようになる。」
一人その悪魔はつぶやくと、天高くにある月を見上げる。
「魔界(パンデモニウム)と人間界が融合する前に両方をこの俺の手中にしてやる・・・。人間の思いどおりにさせるものか。
フフフフフ・・・・・ハハハハハ!!!!!」
その笑い声は悪魔の放つそれに相応しく、どこまでも黒く、どこまでも悪しきものだった。
あとがき
さて、ついにでてきました黒幕です。
(フィーネ)というものの、一体誰よ?っていうか、なんかいろいろと怪しくない?
なにが?
(フィーラ)なーんかいろいろとキーワードが混じってるよね。本編の核心に近づくキーワードが。
おう。そんでもって実は・・・
(フィーリア)はい、そこまで。いっただめだよお兄さん。ネタばれネタばれ。
おっといけねえ。そうだった。
(フィーラ)でもさ、HOLY CRUSADERSのほうでわかる人でてくるんじゃない?
多分。っていうか、もろばれするかも。
(フィーネ)まあ、良いんじゃない。
じゃあ、続いてHOLY CRUSADERSにGOー!!!!
(フィーラ)淡白なあとがきねぇ・・・・。
赤の書とは、旧約聖書の事だった!
美姫 「じゃあ、光の心って何だろう?」
それは、マリアさまのこころ〜♪
美姫 「物凄い妹が出来てしまった灑薙麗」
…………。
美姫 「そして、黒幕の登場。果たして、事件はどう進んで行くのかしら」
……えっと、無視されたままですか?
美姫 「それでは、次回も楽しみにしてますね」
シクシク。
美姫 「じゃ〜ね〜」