『青い星〜The Earth〜』

                                     

 

ボクが地下の都市を抜け出したのは、昨日の深夜のことだった。

今ごろ都市は大騒ぎになって僕を探しているだろう。

けれど、誰一人としてボクがこんなところにいるとは思っていないはずだ。

いまボクがいるのはもう使われなくなった古い古い下水道のトンネルだった。

本来の役目を終えたそれは、今は水が引き大きなトンネルとして残っていた。

 

 

地上へ出てみたかった。

小さい頃何度も読んだ本。それには地下の都市とは違う地上の素晴らしい世界が描かれていた。

美しい蒼い空、豊かな緑の木々。きらめく海。そして溢れんばかりの動物たち。

それらはどれも地下の都市では見られないものだった。

ボクは一目でいいからそれらを見てみたかった。その憧れは歳が大きくなるごとに強くなったいた。

一ヶ月前のことだった。

用事ではいった中央図書館。

その奥まった資料室に古い古い資料を見つけた。

それはこの地下の都市のすべての地図が描かれていた。

そして、その中には三ヵ所も地上へと出ることの出来るところがあったのだった。

それからは時間を作ってその場所へとこっそり行ってみた。

一ヵ所は、市長の公邸の裏にあった。しかしそれはコンクリートで完全にふさがれていた。

一ヵ所はそこへと続く地下通路が崩落して出口に到達することが出来なかった。

だけど、たった一ヵ所だけ。つまり今いるこの古い下水道を通っていく出口だけは無傷で残っていたのだった。

それからボクは時間をかけて計画を練った。誰にも見つからないように地下都市を抜け出す。

難しいと思っていたが計画は恐ろしいほどうまくいった。

ボクは昨夜誰にも見つかることなく地下都市から抜けだしたのだった。

 

 

やがて下水道のトンネルは地図通りに行き止まりになっていた。

そこからは地図を頼りに細く迷路見たいな道を奥へ奥へと進んでいく。

数時間歩いたころだろうか、その細い道は行き止まりになっていた。

懐中電灯の光に照らされた正面の壁面には一本の上へと続いているはしごがあった。

地上へと出れる。

はやる心を抑えながらそれでも興奮を抑えられずにはしごを上る。

もういったい何年いや何百年使われていなかったのか、だがはしごは折れることなくボクの身体をしっかりと支えた。

すぐにはしごが終わりを迎えた。ボクの頭上には小さな灯に照らされたハッチがあった。

人一人がやっと通れるくらいの大きさだった。震える手で留め金を外すとそれはあっけなく開いた。

丸く切り取られたその先には、小さい頃、本で読んだとおりの美しい青空があった。

その美しさにボクは見とれた。この先に広がってるのはいったいどんな景色だろうか。想像は膨らんだ。

残りの梯子を登りボクは地上に飛び出した。

そして広がっている光景に息を呑んだ。

眼前に広がっているのは豊かな緑の木々。きらめく海。そして溢れんばかりの動物たち。

では無かった。

ただごつごつとした赤い岩山があるだけだった。

周りの三百六十度すべてがその赤い岩山だった。

蒼の空と赤の大地。その二色のコントラストだけだった。

ボクはその光景が信じられなかった。地上はもっと美しくて素晴らしいものではないのか。

いやそうに違いない。

ならば緑は、海は、動物たちは、いったいどこへ行ってしまったのだろう。

僕は知らないうちに歩き出していた。

きっとこの岩山の向こうがわには昔読んだ本のとおりの世界があるはずだった。

そうでないといけなかった。地上は美しくて素晴らしいものでないといけなかった。

歩はだんだんと早くなりいつの間にか最後には走っていた。

走って、はしって。そして正面の岩山を登りきった。

 

赤い岩しかなかった。結局ここも一緒。見渡す限りがそんな大地だった。

「・・・・・・そんな。」

ボクは力なく膝を突いた。

地上には地下とは違う素晴らしい世界があるのではなかったのか。

そう思うと自然と瞳から涙がこぼれた。そしてそれは何時までも止まることはなかった。

ボクは悟っていた。

もうとっくの昔に豊かな緑の木々も、きらめく海も、溢れんばかりの動物たちも地上から永遠に喪われてしまったのだった。

 

唐突に白い閃光がすべてを包んだ。

 

 

そのとき地球の上空には一隻の宇宙船があった。

「船長、星核破砕射出弾の着弾を確認しました。」

「そうか。」

「上の確認をとらず、こんなことをしてもよかったのでしょうか、船長。」

「構わんよ。あれはもう死んだ星だ。地表に生命反応も無ければ有効な資源も無い。宇宙のゴミだ。」

「ゴミ・・・・ですか。」

「別に使い道の無いゴミを掃除してやってもいいんじゃないのか。」

「そうですね。」

船長と呼ばれた男は宇宙線の艦橋から今まさに消え逝く星を見つめていた。

「どうしました、船長。」

「いや、早く任務を終えて本星に還りたいとおもってな。」

「人類という我々以外の知的生命体との接触なんていう任務ですからね。」

「まあな、だが私は彼らに会うのを楽しみにしているのだよ。君もそう思わんかね。」

「ええ。」

「だがいったいどこにあるのだろうか、彼らの住むところ。緑と水で覆われているという美しい青い星、地球は。」

宇宙船はその巨体を翻して、星々の彼方へと消えた。

そこにはついさっきまで星だったものが何時までも漂っていた。

                      

 

(了)




美しい地球は何処へいってしまったのか……。
美姫 「全て、人間という業の深い生き物のせいなのね」
うーん、悲しいな。
美姫 「人間のせい。つまり、アンタのせい!」
待て待て待て! それは早計というものだぞ。
美姫 「問答無用」
いや、気にしてくれ、頼むから。
美姫 「私は、ただアンタをお仕置きする理由が欲しいだけなのよ!」
うわ! 既に言いきりやがった。しかも、開き直ってるし。
美姫 「ふふん」
いや、何でそんな勝ち誇った顔をしているんだ。
美姫 「という訳で…」
いや、何が、そういう訳なんだ。
美姫 「お仕置きタ〜〜イム!」
な、何で。今までにないぐらい、理不尽だぞ!
美姫 「あ、っと。三連作という事だそうなので、もう一作も期待してますね」
うん、うん。楽しみに待ってます。
美姫 「という訳で、言う事は言ったでしょう。なら、恒例通り、ぶっ飛べ〜〜!」
い、いつから恒例になったんだーーーーー!!
美姫 「ふっ。それじゃあ、まったね〜」



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