彼女は属に言う悪魔だった。

最も、西洋の魔術書などに書かれている類の悪魔という意味ではなく、魔性の女という意味であるが。

彼女―即ち、佐藤真理はそうゆう人物だった。

佐藤真理は「学園のマドンナ」と称されるほどの可愛い顔と性格、そして頭脳の持ち主だった―少なくとも表面的には。

 彼女は自分が男受けする顔のつくりをしていることを知っていた。

彼女が笑顔を見せるだけで彼女と出会ったありとあらゆる男性はその笑顔で撃沈された。

それに嫉妬する女性も勿論いたが、言動を巧みにあやつり全てを回避した。

彼女は思った。

私が笑顔で接すれば落とせない男はない、と。

しかし、それは先日覆された。

極々平凡な男子学生、林祐介によって。

 

 

 

 

現実?第2話

 

 

 

 

ピピピピピ・・・

 非の打ち所のない普通の一軒家の一室に目覚ましの音が響く。

祐介は目覚ましの上にあるアラーム停止のボタンを叩きつけるように押した。

襲い掛かってくる眠気にベッドに再度潜り込みたい缶に捕われるが、意を決してベッドから抜け出す。

着ていたパジャマを乱暴に脱ぎ捨て、ハンガーに引っ掛けてあった学校指定のブレザーの制服をひっつかむ。

わずか2分で着替えは完了した。

「おはよー」

 居間に下りると、食事の用意は整っている。

母親からの挨拶への返事をかえしつつ、メニューを確認する。

―目玉焼き、味噌汁、御飯か。まぁ、朝はこの程度に限る。

食卓に備えてある椅子に座り、手を合わせてすぐに食べ出す。

その時、祐介はなんとなく忘れていることがあるのではないか、と気付いた。

味噌汁をすすりながら頭の中で色々思い返す。

(教科書はちゃんと入れたし、筆記用具も入れた、今日は特別な持っていくものもないはずだし・・・)

祐介はそれでも何か忘れてるような気分に捕われたが、少し首を傾げただけで以後その事は忘れてしまった。

 

 

 

 

 昼休み、ある教室を前にして真理は心中密かに燃えていた。

(ここがあの林祐介がいる教室ね・・・)

 事の発端、つまり真理が祐介に擬似の告白をしてでも落とそうとしている理由は実に簡単な理由だった。

彼女が実は自分も気づいていない想像を絶するほどの負けず嫌いだったことだ。

1週間ほど前、彼女は―良いイメージを作るためだけに立候補した―学級委員の定例会に出席していた。

もっとも、別名雑用委員と言われるほど学級委員に多大にある仕事はペアの落ちた男子生徒が進んで処理していたが。

そこに学級委員の代理で祐介が出席していたのだ。

とりあえず落としておこうと思い、真理は祐介に笑顔を見せて落とそうとしたが・・・完全な空振りに終わった。

 祐介が真理の攻撃を回避できた理由は至極簡単だ。

祐介はその笑顔が自分に向けられたものだと言う事をを欠片すらも思いに抱かなかったのだ。

自分が極々の上に超と爆裂が付く位の一般人の祐介は。

(あの佐藤真理が自分に向けて笑顔を見せるはずがない)

と処理してしまい、気にも止めなかった。

それを真理は自分に対する挑戦と勝手に受け取った。

 そして真理は祐介に告白を敢行する。自分から告白をすれば確実に落ちるであろう、との予測の元で。

更に並大抵の男なら絶対に落ちるテレビドラマに出るような女優が裸足で逃げ出しそうな演技とキスという手段まで導入して―

ところが・・・その読みも実にあっさりと破綻してしまった。

一瞬呆然とした真理であったが、その頭は高速で代案をはじきだし、振り向かせる宣言になったというわけだ。

もっとも彼女自身も「とりあえず落としておく」という考えが「なんとしてでも落としてみせる」に摩り替わったことにまるで気付いていなかったが。

もし、仮に第三者がこの時の祐介と真理の関係を見ることができたら腹を抱えて大笑いしたことだろう。

 

 

 

 

「おーい、祐介もう昼休みだぞ」

「・・・んぁ?もう昼休みか」

 祐介は平均的高校生の例に漏れず、昼休みまで睡眠学習に励んでいた。

「早く行かないと食堂の席がなくなっちまうぞ」

友人の1人に促され、祐介が椅子から立ち上がった所で教室の入り口の方からざわめきが聞こえてきた。

「何だ?」

「お、佐藤真理じゃないか」

付近にいた男子が入り口の方を見て言う

「一体こんなクラスに何の用だろうな、我が学園のマドンナが」

「さぁ?どうせ俺たち一般人には関係ないだろう、食堂行こうぜ」

その言葉に祐介が返す。

「まったくだ、行『祐介くーーーーん!』」

言葉が突如大声でかき消される。

祐介は思った

へぇ、祐介って奴を呼んでるのか。俺も一応祐介だけどもう1人このクラスに祐介って居たんだな。きっと頭が良くてスポーツも勉強もできる万能人間なんだろうな。

まぁいい。どっちにせよ俺には一生関係のないことだ。とっととメシにしよう。

そう結論付けて、食堂に向かおうとした時だった。

「祐介くんってば!無視しないでよ」

その件の彼女に祐介は腕を掴んで引き止められた。

「・・・はい?」

「一緒にお昼食べよ」

その言葉にクラスがざわつく。

『なんで林が佐藤さんに!?』

クラスの気持ちは1つになっていた

しかし、ここまで来ても祐介はまだ自分が呼ばれたことを信じていなかった。

「えーと、人違いじゃない?俺は林祐介であって、このクラスにもう1人いるであろう祐介じゃないんだけど」

「・・・・私がお昼御飯に誘ってるのはその林祐介くんなんだけど」

真理が(さすがに)呆れたように祐介に言う。

「なんで俺が」

「昨日告白したじゃない」

キノウコクハクシタジャナイ―

教室の空気が凄まじく凝結する。

音は吸い込まれるように消え、耳に痛いほどの静寂が周辺を支配した。

「ん?あー?そんな事実はなか・・・・いや、あったか」

1人だけ平然としている祐介は首を傾げながら「あれって夢じゃなかったのか?」と呟いている。

真理は一瞬顔を歪めたが、すぐ通常の笑顔の表情に戻し「じゃあ行こ」と言って祐介の腕をを掴んで教室から出て行った。

あとには氷のように凝結したクラスメイトが残されている。

 

 

 

 

「んじゃ俺が取ってくるから・・・佐藤は席頼む。何にする?」

「A定食お願いー」

「了解」

祐介は配膳列の最後尾に並ぶ、もう昼休みが始まってからかなり時間が経ってしまったのでかなり混み合ってしまっている。

真理は手頃に2人分空いている席をなんとか確保し、座った。

それにしても、と真理は思った。

あの林祐介とい男はかなり厄介ね。私の笑顔とかがまったく効かないし、お昼御飯に誘っているのにまったく様子が変わらない。

私が告白して演技も完璧にこなしてキスまでしたというのに、彼はまったくなびかない。

 真理は生まれて初めて手強いライバルに遭遇したような印象を受けていた。

―その実はまったくすれ違っていたのだけれど。

     

     


あとがき

かなり間が空きましたが、こっちを作りました。今回のこれはかなり実験的な物にしてみました。

良ければ感想を頂けると幸いです。Snowdropも鋭意製作中です。

では、また次のお話で。

         

         

     


これは、中々面白い展開だね。
美姫 「自分になびかなかった祐介に、半ば意地で接する真理」
果たして、二人の関係はどう変化していくのか?
美姫 「早くも続きが気になるわね」
うんうん。次回も楽しみにしていまーす。
美姫 「それじゃあ、頑張って下さいね」
ではでは。



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