「さあ、出でよ鬼達! 今こそ憎っき人間達に裁きを!」
酒呑童子が叫ぶのと同時に次々と鬼が現れる
その数は少なくとも一万以上だろう
「「「「「「「「「ウオオオオ!」」」」」」」」」」」
鬼の咆哮が鳴り響く
「さあ、始めようか。人間と鬼、いったいどちらの死が運命に書かれているのか」
酒呑童子の言葉と同時に雛見沢は虹色の光に包まれた
一方その頃、圭一は雛見沢の上空にいた。何故か黒のマントを羽織っている
「こちら、悟史準備はいいよ」
首に下げている神清綬から悟史の声が聞こえる
圭一が了解と返すと、また声が聞こえてきた
「こちらレナ、魅ぃちゃんが今……準備完了したよ」」
「こちら、未来の姉妹♪準備完了です♪」
「羽入そっちは?「大丈夫ですよ〜」こっちもOKよ」
「よし、わかった。全員そこから離れた後は作戦どうりだ」
圭一が返事をしたと同時に鬼達の咆哮が聞こえた
「始まったか……」
圭一は、いつの間にか手に持っていた剣を上空に掲げ一言
「輝け」
圭一の言葉と同時に虹色の柱が四本現れる
その光が圭一の剣へと集まり光出す
光が納まると雛見沢には人は七人しかいなかった
圭一は地上へと降りた圭一の瞳は今までに……レナの時の演技の何万倍、何億倍冷たい瞳をしていた
「死の運命のラストステージが開幕だ」
ひぐらしのなく頃に
〜裏運命編〜
第四話 雛見沢・人鬼戦争
決戦前夜・圭一宅
圭一宅のリビングでみんなが机の上に広げられている地図を見ていた
「いいかお前ら。あいつらはここ雛見沢の中心の山から民家に降りてくる。だから俺らは――」
「「「「「「「四つにわかれて中心を目指す」」」」」」」
「よし、大丈夫だな。一応言っとくがメンバーはレナ&魅音、沙都子&詩音、梨花&羽入、そして俺&悟史」
今までの練習で一番合性が良かった組み合わせである
それに、どの組み合わせにも攻撃と補助がいるというバランスの良さもある
「後それから、これを俺が言うポイントに埋めてくれ」
圭一は、そう言うと机に四つの石を置いた
見た目はただの石だが内にはかなりの魔力が感じられる
「これは俺の魔法の補佐をしてくれるものだ。これで雛見沢の人たちを転移する」
「どこに転移するんですの?」
「簡単に言えば擬似の雛見沢にだ」
「擬似ってどう意味なの?圭ちゃん」
「う〜ん、創造の魔法の応用らしい」
腕を組んで頼りなさげに言う
「らしいって。そんなんで成功するの?」
圭一の物言いに不安を隠せない悟史
だが、圭一は逆に得意げな顔をして
「それは大丈夫! 師匠がやってくれるから」
「あうあう、それなら安心なのですよ」
みんなも安心したのか不安な表情をしている人はいなかった
実際に圭一以外は師匠という人にあったことが無い
けれどここまで信用されているのは圭一が信用していると言う一点である
「実際これは助かったよね。いくら圭一君でも戦いと創造の両方を同時にやるのは不利だからね」
みんなが圭一の強さを絶対的に考えている中、レナだけは違った
レナほど現実を考えている人はいない
悟史も不安には思っているが圭一が負けるとは微塵も思っていない
敵は未知の鬼――酒呑童子もいるのだ。できる限り――特にメンバー最強の圭一は余力を残していたほうが良い
レナは心の中では圭一を守るためなら命を差し出す覚悟まであった
それは勝利の確率だけでなく、圭一への想いが大半を占めていた
レナは気付いていなかった
永遠に続く六月を越えても、みんなが揃っていなければ意味がないことを
レナがいなくなれば圭一が、どうなってしまうかを
・・・・・・・・・・・・
圭一は今までの世界の大半の記憶を持っている
それにより圭一の心は何かきっかけがあれば壊れてしまうまで擦り減っていることを
それはレナに限ったことでない、しかし特にレナと魅音に関しては他の人より酷くなる可能性がある
・・・・
あの世界、唯一圭一が狂気に陥り仲間を殺してしまった世界
思い出が深いぶん、あの時の事を心優しい圭一は悔いていた
しかし、圭一はそんな事を微塵も感じさせないで笑顔でみんなを見て
「よし! 絶対勝つぞ!」
「「「「「「「おお〜!」」」」」」」
そして、夜は更けていき決戦の時を迎える
生き残るのは人間か鬼か最初で最後の決戦が始まる
レナ&魅音 side
「よし、それじゃあ行こう」
「うん、魅ぃちゃん」
レナ達は北から中心のを目指す
四分の一を行った所で前方に鬼達の姿が見えた
どれも背丈が三メートル近くある
その数は1500体ぐらいにのぼる
しかし、レナ達の表情に怯えはない
「今回は簡単にはやられないよ!」
まずはレナが先行する
「虚炎咆龍!」
レナが手に持っていた鉈を振ると、そこから炎の龍がでてき前方にいる鬼を焼き尽くし進む
龍が消えると、そこには大きな亀裂ができており鬼の姿はなかった
「レナやるね〜! じゃあ次はおじさんの番かな」
魅音は懐から銃を取り出し前方の敵に狙いをつけて
「裂風鬼弾!」
放たれた弾には最初は小さな風しか纏っていなかったが敵に到着した瞬間、竜巻へと変化して木もろとも敵を喰らい尽くす
風が止むと、先ほどとは違い何もなかった
レナ&魅音 1500体撃破
沙都子&詩音 side
「どうやら、お姉達が戦い始めたようですね」
「そうみたいでございますわね。それとこちらも戦闘開始みたいですわ」
沙都子と詩音の周りには900体ぐらいの鬼がいた
「レディーの周りに群がるのは失礼ですわよ」
「津震招災」
沙都子が指をならすと突然、周りの地面が裂け地割れが起きる
少しすると地面は戻り、鬼がいなくなったことを除いて、元の光景と変わりはなかった
「いっちょ、あがりでございますわ」
不敵な笑いをする沙都子に
「油断大敵よ、沙都子」
詩音は、そう言うと手を上にあげ
「来雷破災」
上空から攻撃を仕掛けてきた鬼達は、猛然と荒れ狂うように襲い掛かってくる雷に一瞬で消滅した
沙都子&詩音 1400体撃破
梨花&羽入 side
「派手にやってるわね」
「ボク達も派手にやりましょう」
「そうね」
そう言うと梨花は前を向いて
「氷原」
言葉と同時に梨花の足元が凍り、急速に広がり鬼達の下に達する、それと同時に鬼達の足が凍り始めた
三秒ぐらいで鬼達は全て凍りつき砕け散った
「あうあう、ボクだって戦えるんですよ」
「聖神無水」
光の粒子みたいのが鬼の周りに集まる
すると、粒子は突然水へと変化し、その場にあった全てを飲み込んでしまった
梨花&羽入 2800体撃破
圭一&悟史 side
「お疲れ、圭一」
「ああ、でもまだ一息つけそうにないな」
二人に4000体ぐらいいるであろう鬼の大群が押し寄せてくる
「僕が先に行くね」
「閻魔黒死」
闇が広がり鬼達を包み込む、そして悟史が魔力を込めると闇が急激に質量を持ち敵に纏わりつく
どんどん重たくなっていき最後は鬼の体が持たず潰れた
「さてと、とっとと片付けるかな」
「光明輪唱」
圭一が持っている刀を振る度に光の刃が発生し鬼を襲う
一瞬で光に包まれて消える、まるで光が輪唱しているかのように光の刃が煌く
「殲滅完了。先を急ぐぞ」
圭一&悟史 4200体撃破
レナ&魅音 side
「どうやらレナ達が一番早いみたいだね、だね」
「この状態でその言い方は何か緊張感がないね」
「魅ぃちゃん酷い〜!」
「ハハハッ! ごめん、ごめ……レナ後ろ!」
魅音の言葉を聞き、とっさにレナはバックステップをする
すると先ほどレナがいた場所に何者かが攻撃してきた
その人物とは
「「富竹さん!」」
富竹ジロウだった
「やあ、レナちゃん、魅音ちゃん突然だけど死んでくれるかい」
言うのと同時に地面を蹴る
その速さは正に半鬼化したといっていいほどのものだった
「ハッ!」
レナがとっさに鉈を振るが富竹は直前で横に跳び、木で跳ね返ってレナを襲おうとするが魅音が横から風を喰らわしふっとばす
「大丈夫レナ!」
魅音が直にレナに近づく
「魅ぃちゃん。ありがとう」
レナは魅音にお礼を言った後、富竹がふっとんだ方を見て鉈を構える
完璧に無防備な所に入ったが、これだけで倒せるとは思ってないし、殺してはいけない
「なんとかして、これを当てる隙をつくらないと」
レナは呟き首にかけている神清綬を握る
この神清綬は圭一が師匠と作ったもので、通信機能だけでなく半鬼化した人を治せるらしい
らしいと言うのは、まだ実際に使ったことはないからだ
レナは、もう一度決意すると富竹のほうを見る
しかし、草に隠れて見えないが起き上がる気配が感じられない
おかしいと思って魅音の方を向くと今、正に魅音を襲おうとしている富竹の姿が眼にうつった
「魅ぃちゃん!」
魅音は富竹に気がつきかわそうとするが遅く何とか拳を銃で受け止めるが吹っ飛ばされる
普通なら銃ごと貫かれるが圭一の魔法で強化されていたため銃が貫かれることはなかった
「この、よくも!」
怒りを内にレナが鉈に炎を取り付かせながら切りかかる
「甘いよ」
富竹は掠っただけで燃え尽きそうな熱量を持つ鉈を紙一重で交わす
「はぁぁぁ!」
単発だとかわされると判断したレナは連続で攻撃することに切り替えた
レナパンレベルの速度で放たれる鉈
だが富竹は焦った様子もなくかわし、しかも時折カウンター気味にレナへ攻撃する
それを、レナは体を巧みにズラしてかわす
今でこそ互角だが、このまま言ったらレナは負ける
殺してはいけないため、どこか攻撃に躊躇いがあるし
富竹は少しづつレナの攻撃のパターンを覚えカウンターを放つ回数が増えている
そして
「あっ!」
レナの攻撃は交わされ足払いをくらいバランスを崩す
「お終いだね」
「あんたがね」
富竹の手が迫ってきレナの喉に届くかと思った瞬間
魅音が神清綬を富竹の背中に当てられていた
すると、神清綬は体の中に吸い込まれるように入っていった
「ああ〜!! ウォォォ〜!」
富竹は奇声を上げ倒れた
そして、その体が霞んでいき完全に消えた
これは、神清綬の力である
半鬼化を解いた後、自動的に擬似の雛見沢に送られる仕組みになっていた
「さて、行こうか」
「うん」
沙都子&詩音 side
「もう、少しで頂上でございますわ」
「鬼もあれから出てこないわね。なんか拍子抜け」
「油断は禁物と先ほど詩音さんが言ったではありませんか」
「でもね〜……誰!?」
先ほどまでのおちゃらけた雰囲気は直に真剣なものに変わり前方の木に向かって叫ぶ
その意味を理解した沙都子も戦闘態勢にはいる
相手は観念したのか木の影から出てきた
「まったく詩音さんは本当に勘がいいんですから」
「監督……」
沙都子が相手を見てポツリと呟く
無理もない相手――入江京介はメイドが関わると変態だが、それ以外の時は自分達に何かと気を使ってくれた人物なのだから
そんな沙都子の様子に気付いた詩音は沙都子の前へと出る
「監督あなた今、どうな気持ちですか?」
「そうですね。あなたがたを今から倒して私のメイドにできるのですから最高です!」
「は?」
沙都子は、すっとんきょんな声を上げる
当たり前だ。何故なら今から殺し合いをすると思っていたのに監督は実質殺さないと言っているのだ
しかし、詩音はやっぱりと呟いて沙都子のほうを向いて
「沙都子、あれはメイドヘブンを発動している時と同じよ。だからいつもどおりふっ飛ばせばいいわ」
入江京介――半鬼化してもメイドへの想いは消えない、すごい男
沙都子は口を引きつらせて笑った後、いつもの大胆不敵な顔になって
「それなら、おまかせあれ」
沙都子が指をならす
すると自分の想像に興奮してる監督の足元が崩れる
「へ?」
間抜けな声と共に監督はバランスを崩し転倒
しかし、そこは半鬼化しているだけあって咄嗟に受身を取る
監督が顔を上げると
「お疲れ様でした」
神清綬を持って綺麗な笑みを浮かべている詩音がいた
そして、監督は神清綬を喰らい気絶した後、消えていった
「なんとも、あっけない幕切れですわね」
「監督のメイドへの執着心が初めて役に立ったわね」
二人とも、どこか釈然としないものを感じながら頂上へと向かう
梨花&羽入 side
「ふう〜、さすがにちょっと疲れたわね」
「そうですね。いくら精神年齢が高くても梨花の体は、まだ幼いからですね」
「そこまで、精神年齢高くないわよ」
「あうあう、高いのですよ。証拠にたまに年寄りじみたことするのですよ」
「羽入〜、そんなにキムチが好きだったの? 知らなかったわ?」
どこからか、とりだしたキムチを羽入の前で揺らす
羽入は、それを見て顔を青ざめている
そんな羽入を楽しそうに見る梨花
だが、そんなやり取りはすぐに終わることになる
「あらあら、神様と楽しそうなことしてるじゃない、私も混ぜて欲しいわ」
誰よりも、そうある意味梨花以上に雛見沢に縛られた女性――鷹野三四だった
前の時、山狗を指揮していた時と同じ漆黒の服装
あの時の鷹野の眼を梨花は忘れることはないだろう……あの悲しみと怒りと羨望が混じり合っていた、あの眼を
しかし、今の鷹野の眼は感情というものが薄く感じられた
魅了された中で一番強くやられたのだろう
神になりたかった彼女は今は神と対極に位置するものになってしまったなんて皮肉な話だ
だからこそ、梨花達は鷹野を救いたかった
惨劇の前、自分達に見せてくれた笑顔が本物だと信じて……
「どうしたの? 来ないならこちらから行くわよ」
「羽入」
梨花は一言だけ言う、しかし羽入にはそれだけで通じたらしく同時に動き出す
梨花は左に羽入は右に
鷹野の横で向きを変え鷹野へと必殺の一撃を放つ
「「氷弾!(水弾!)」」
無数の氷と水の弾が鷹野を襲う
簡単な魔法ではあるが、それゆえ術者の力量で大きく変わる
今の二人が全力で撃てば鬼を軽く3000体は殺せる
弾が炸裂した時に起きた砂煙が晴れると、そこには倒れている鷹野がいる……はずだった
「あら? 今のでお終い? 歯ごたえ無いわね」
そこには無傷の鷹野がいた
「「なっ!?」」
梨花たちは驚愕を隠せなかった
故に隙を作ってしまった
鷹野は、その隙を見逃さない
ここらへんが圭一とみんなとの大きな差だ
魔法使いたるもの自分が最強と思う奴は長生きできない
だから、どんな必殺の一撃だろうとも警戒心は解かず、もし格上と戦う時の技も用意しておかないといけない
しかし、魔法を覚えて二ヶ月に梨花達にそこまで教える時間がなかったのも原因の一つであった
「梨花!」
接近してきた鷹野に気付いた羽入が梨花をかばうため前に飛び出した
そして、鷹野の人間離れした蹴りをモロにくらい吹っ飛ぶ
そのまま、何本か木をへしおり最後に巨大な岩に激突して落ちるように倒れる
「羽入!」
梨花は鷹野の存在を忘れて羽入の名を呼ぶ
しかし、羽入はピクリとも動かない
梨花は、糸が切れた人形のように座り込む
一度羽入が梨花のまわりからいなくなった世界があった
あの時も梨花は笑えなくなった
普段はイライラさせられたり、怒鳴ったりしているが羽入は自分の半身でもあるのだ
「神様もあっけないわね。さてと、じゃあね梨花ちゃん」
鷹野は羽入のほうを一瞥して梨花を持ち上げる
梨花はあきらめたのか動かない
そして鷹野が梨花を殺そうした瞬間
「結界一式・光球」
「ぐっ!」
梨花の体が光の球体に包まれ、鷹野の腕が弾かれる
梨花は、結界を作り出した人物のほうをゆっくりと向いた
声を聞いた瞬間からわかっていた
そこにいたのは
「圭一!」
前原圭一であった
鷹野は邪魔してきた圭一の方を向く
その表情は正に鬼だった
しかし、圭一は鷹野の眼光に怯えもしないで飄々と
「悪いが鷹野さん、あんたにはここで退場してもらう」
二人の間にピンと張り詰めた空気が流れる
最初に動いたのは鷹野だった
ものすごい勢いで圭一へと接近して
その異常に伸びた爪を圭一の喉へと伸ばす
しかし、圭一はそれをバックステップすることでかわし逆に回し蹴りを鷹野の腹に叩き込む
かわされるとは思っていなかったのか鷹野は圭一の一撃を喰らって吹っ飛ぶ
なんとか着地し態勢を整えるが目の前には既に圭一が迫っていた
「くっ!」
顔面に向かってくる拳を弾くと圭一の顎目掛けて足を蹴り上げた
圭一は、それを首を少し逸らすことでかわし背中の鞘から剣を抜き一閃
「ぐわぁぁあ〜!」
鬼の力を手に入れたことで切れはしなかったが衝撃波で吹き飛ばされた
致命傷ではないが痛みで注意力が一瞬なくなった
コンマ一秒もない時間だが圭一には十分すぎる時間だった
「結界五式・時空創意」
鷹野は五角形の結界に閉じ込められた
最初は暴れていたが、だんだん大人しくなっていき最後には倒れた
それを確認してから圭一は結界を解いて鷹野に神清綬を付ける
そして鷹野が消えてから圭一は梨花の方へと歩いてきた
「け……け…………圭一……は……はにゅ…………羽入が」
年相応のように泣きじゃくる梨花の頭を圭一は優しくなでる
泣きやみ圭一の顔を見てきた梨花に圭一は優しく微笑み
一緒に立ち上がり羽入のほうへと行く
「「…………」」
そして沈黙した
何故二人が沈黙したかと言うと原因は羽入にあった
今、羽入は二人の足元にいて
「もう食べられないのですよ」
(いくら、なんでもベタだな)
圭一はちょっと、がくっとしたが羽入が生きていて嬉しいと思っている
一方、梨花は羞恥と怒りのせいか顔を真っ赤にし肩をワナワナと震わせ
さきほどと同じようにキムチを取り出し
「どこから、出したんだそれ?」
圭一の疑問を無視して一気にキムチを食べる
その瞬間、羽入が悲鳴を上げて宙を舞ったとか舞わなかったとか
「で、圭一は何でここにいるの?」
「ほうです(そうです)。へいいしははとしといっひょのはふでは?(圭一は悟史と一緒のはずでは?)」
圭一たちは今、頂上を目指して走っていた
さっき色々あって時間を喰ってしまったからだ
その時になって梨花はやっと圭一がいることに疑問を持った
「それは、あいつがある敵とは自分一人で戦うから先に行けって」
「「ある敵?」」
「…………北条鉄平だ」
圭一&悟史 side
話は圭一が梨花を助ける少し前に遡る
今、圭一と悟史はある人物と対立していた
圭一は相手を仇を見るかの様に見、悟史は驚愕に眼を開き体を震わせながら相手を見る
この二人にとっては、ある意味、鷹野より憎むべき存在――北条鉄平。悟史の叔父で悟史に苦渋の選択をさせた人間の一人
「悟史。久しぶりじゃけんの」
二人の様子など気にせづに話しかけてくる
「……」
悟史は何も言わない否、言えなかった
自分の奥底から湧き出てくる黒いものを抑えるのに必死だった
しかし、そんなこと知らない鉄平は悟史が何も言わないので機嫌を悪くし悟史を睨む
そのせいで悟史は、さらに湧き出てくる感情を抑えようと必死になる
悪循環だった。しかしこの場には、もう一人の人間がいた
「半鬼化してもクズはクズだな」
鉄平の態度にイライラしたのか、その言葉には蔑みを隠しもせず言い放つ
「なんじゃと!」
元より物事を考えず力ずく全てやってきた鉄平は簡単に圭一の間合いに入り胸倉を掴もうとする
圭一は、そんな鉄平の腹に峰打ちを―――
「圭一!」
鉄平の腹の直前でピタッと剣が止まっていた
圭一は鉄平へ牽制しつつ悟史の方を向き
「何だ?」
低く威圧感をもった声が響く
「……叔父の相手は僕がやる」
圭一の眼光に耐えながら答える
「しょうがないな悟史に譲ってやるよ」
案外あっさりと圭一は剣をしまって鉄平から離れる
「先に行ってるぜ」
それだけ言って圭一は姿を消した
「悟史〜! いい度胸じゃけんの!」
先ほどまでの表情と一変して憤怒の表情をする鉄平
自分より一回りも年下にいいようにやられたのがプライドを傷つけたのだろう
つくづく小さい人間だ
悟史は、そんな鉄平は無視して精神落ち着かせる
(僕は過去に……闇に飲まれない!)
悟史はギッと鉄平を睨む
その眼光に鉄平は一瞬、怯みながらも悟史に突っ込んでくる
「遅い!」
悟史は鉄平の拳を受け流しカウンターを喰らわす
拳に魔法を纏わしているため、その威力は一撃でコンクリートをも砕く
「がっ!」
しかし鉄平は、よろめきもせず逆に悟史の肩を殴る
それだけで悟史の体は十メートルぐらい飛ばされる
元から腕力が強かったため半鬼化した今は、そのパワーは尋常じゃない
悟史は何とか立ち上がったものの片腕が折れてしまっていた
(やばいな、腕を直してる時間はないし。あいつを倒すだけの技をだす時間はくれそうにもないし)
先ほどの攻撃……悟史の攻撃が効かないわけではない
実際今までの悟史だったら鉄平にダメージを与えることができた…………だが与えられなかった
やはり心の底では叔父に怯えているのだ
そのせいでいつもの実力の半分もだせていなかった
万全なら勝てる
だが肩を折ってしまった
悟史には、鉄平の対処法が思い浮かばなかった
まさしく、絶体絶命の危機、その時、悟史は奇妙な声を聞いた
(コロスノヲタメラウナ。アノ、オトコハイキテイルカチガナイニンゲンダ)
その声とは自身の闇だった
実際この状況でも鉄平の生死を気にしないなら方法は何個かある
(ダメだ!殺してはいけない!じゃないと、あの時みたいに……)
(ソウダ、アノトキカラ、モウオマエハサツジンハンダ、イマサラアイツヲコロシテモモンダイナイ)
一歩一歩近づいてくる鉄平を見て
自身の闇に飲まれそうになった時――
『悟史! お前はそんなに弱い奴だったのか!』
「え? 圭一?」
いるはずがない圭一の声が聞こえた
『悟史君! 頑張って!」
『詩音の恋人なんだから、そんなんじゃ困るよ!』
「レナ……魅音……」
『にーにーは強い人ですわ。でも、それ以上に優しい人ですわ。だから闇になんか負けないですわ』
「沙都子……」
『悟史君……私は、私達はいつでも悟史君の傍にいるから、自身の闇に負けないで!』
「詩……音」
奇跡だった……仲間を思う気持ちが起こした奇跡は悟史の闇を吹き飛ばし光を与える
「これで、終わりじゃ!」
鉄平の拳が迫る
しかし、悟史は微笑み
「至光・無闇」
悟史と鉄平の周りに闇が現れ上空から悟史たちにむかって一筋の光が堕ちてきた
まるで、闇を祓うかのように……
閃光が悟史たちの視界をうめる
視界がクリアになり現状を見ると
鉄平を優しい瞳で見ている悟史と今、正に消えようとしていた鉄平だった
鉄平は激痛に顔をゆがめながら悟史を見て
「なんで、殺さなかったんや。その方がお前らのためやろ」
しかし、悟史は首を振ると
「いろいろなことはあったけど、お母さん達が死んだ後、僕らの面倒を見ていてくれたのは叔父さんたちだ」
その言葉がよっぽど意外だったのか鉄平は狐につままれたような顔をした後、涙を浮かべて
「すまんかった。ほんま、すまんかった。こんな、わしでもまた悟史たちの叔父でいいんか? あっ、での沙都子が許してはくれんだろうな」
「大丈夫ですよ。沙都子はいい子ですから叔父さんが、きちんと謝ったら許してくれるよ」
「そうか。そうか。なら絶対生きて帰ってこいよ。そうしないと誤ることもできんのだからな」
「はい」
消えていく瞬間に悟史に向けてきた瞳は今までと違い憑きものが堕ちたように澄んでいた
悟史の技は自分だけでなく鉄平の闇をも晴らしたのだった
「ええ。絶対戻ってきます。みんなと一緒に」
悟史は鉄平が消えた後、そういい残して、その場を去っていった
圭一&梨花&羽入 side
悟史が鉄平を倒した時、圭一たちは空から降り注ぐ光を見た
その光を見て圭一は自然と微笑み
「闇を乗り越えたか……」
「圭一?」
呟いた言葉を梨花に聞かれ不思議そうな顔で覗き込んでくる
「悟史は勝ったみたいだな」
圭一の言葉を聞いて梨花と羽入は安堵の息をつく
先ほど相手が鉄平と聞いて今すぐ悟史の所に行こうとする梨花たちを圭一が必死に抑えた
それほど心配だったのだろう
無理も無い相手が悟史にとって天敵の鉄平なのだから
「そういえば、なんで圭一は悟史が勝ったとわかったのですか?」
羽入が首をちょこんと傾げて聞いてきた
「あの光の柱は悟史がだしたものなんだ。あれが出たら、どう転んでも鉄平が勝てないからだよ」
「ちょっと待って、悟史は闇の魔法のハズだけど」
梨花の問いに圭一は言ってなかったなと言って
「闇と光は例外で闇を使うものは光、光を使うものは闇を同等に使えるんだ。詳しいことはわからないが中国の陰陽の考えでいいと思うぞ」
陰陽――森羅万象、宇宙のありとあらゆる事物をさまざまな観点から陰と陽の二つに分かれるという考えだ
「う〜ん、よくわからないのですが、とりあえず悟史は勝ったんですよね、ならいいですか」
梨花たちには難しい話だったのか、理解するのをあきらめた
(羽入はわかっても可笑しくないはずなんだがな)
圭一は、そう考えたが深く考えるのをやめた
「それじゃあ、急いで頂上に行こうぜ。俺達が一番遅そうだし」
「「うん」」
圭一たちは足を速めた
それから、五分程度で頂上に着いた
そこで圭一たちが見たのは
「はあっ!」
悟史が青年――酒呑童子に向かって拳を繰り出す
しかし、酒呑童子は悟史の拳を無造作に掴むと、そのまま投げる
「グハッ!」
そのまま、木へとぶつかってズルズルと倒れてしまった
周りには血まみれで倒れている、みんながいた
レナは鉈が破壊されていて頭から血を流しながら酒呑童子と対峙している
魅音は岩の上で仰向けに横たわっている
沙都子は先ほど悟史がいた後ろで木を背にして、もうろうとこちらを見ている
詩音は悟史の横で倒れている
「「「みんな!」」」
レナへと繰り出してきた攻撃を圭一は防ぎ、レナを抱えて沙都子の所に下がる
梨花は魅音を羽入は悟史と詩音を診ていた
「いったい何があったんだ!?」
圭一はレナと沙都子を同時に治療しながら怒鳴るように聞く
レナが答えようとしたが、その前に
「見ての通り、そいつらは我に戦いを挑んで破れたのだ」
酒呑童子が答えてきた
180cmぐらいの身長、赤い瞳、ある程度の長さで揃えられた髪
見た目だけは人間のようだが、それは人間を圧倒するオーラを出していた
「それにしても、遅かったな前原圭一、こいつらでは前哨戦にもならなかったぞ」
最後の言葉を聞いて圭一はバッと酒呑童子を見る
その瞳は怒りで染められていた
魔法使いの圭一じゃなく普通の人としての圭一がでていた
「そう怒るな。そいつらは殺してはいないぞ」
確かに、みんな重症だが命に別状はない
「我が興味があるのはお前だけだ。さあ戦いを始めよう。でないと、そこら辺にいる下等生物を殺してしまうかもしれないぞ」
まるで、みんなをゴミ扱いするかのような一言に圭一の堪忍袋の緒は切れた
魔法使いの自分へと切り替えると心を氷とかした
「梨花ちゃん、羽入、二人を頼む」
そして一瞬で梨花の所に移動すると二人をそっと降ろした
その後、できるだけ、みんなから離れた場所へ移動し
「それじゃあ、始めようか。決着をつけよう。酒呑童子!」
「我の前に膝まつかせてやるわ。行くぞ! 前原圭一!」
人と鬼
運命が選ぶのはどちらの種か
人と鬼との最大バトルが今、始まる
雛見沢……否、世界の人々の命を背負って今、圭一は人生で戦うだろう最も強い敵と戦う
ひぐらしの声が圭一の勝利を願って静かに鳴いていた
あとがき
どうも〜幻龍こと幻です
梨花「アシスタントの美少女古手梨花なのです」
自分で言うかよ
梨花「黙ってなさい」
イエス、マム
梨花「次回は第五話圭一VS酒呑童子なのです」
あれ? ち、ちょっとストップ! もう、あとがき終わりですか!?
梨花「速く先を書くためなのです」
え〜、かったるい
梨花「氷原」
ギャァァァ〜! か、体が凍るぅぅぅ〜!
梨花「裏運命編も残すは三話絶対読むのですよ。にぱ〜☆」
…………(凍りつきました)
いよいよ始まる戦い。
美姫 「うーん、今のところは何とかなってるわね」
問題の酒呑童子は次回か〜。
美姫 「一体どんな戦いが……」
気になる次回はすぐ後!