「俺は今でもあの時の夢を見るんだ」
圭一は独り言を言うかのように呟いた
縁側で一緒に満月を眺めている梨花は圭一の悲しげな表情を痛々しげに見ていた
「しかも夢だけでなく、現実でも手を見るとレナの血がついてる幻覚が見えるぐらいにな」
まぁ、かなり回数は減ったがなとカラ笑いする圭一
誰が見ても無理しているのがわかった
「……でも、あの時はL5を発症していたから仕方がないのです」
最後の言葉に圭一の肩がピクリと動いた
「それに圭一はレナのことを助けたのです。それではダメなのですか?」
それに気づかず梨花は喋り続ける
すると、圭一がゆっくりと梨花のほうを向いた
必死なのがわかる梨花の表情とは対称に圭一は無表情だった
その表情に梨花は少し威圧された
「仕方がない……その言葉は許されないんだよ
それで納得してしまったら例え人を殺してしまっても仕方がないで済ましてしまうようになる」
「で、でも圭一が理由なしに人を殺すわけが無いのです!」
「理由なんて関係ない
どんなことであれ過ちを犯したら、それを背負わなければならない」
それが魔法使いの決まりごとでもあるんだと呟き圭一は梨花から視線をはずした
視線がはずれたことに梨花は内心安堵していた
そして圭一を元気付けることができず情けない自分が嫌になり涙眼になっていた
「だから梨花ちゃん俺……って! ちょっと待った泣かないで!」
「み〜、俺の次はなんなのですか」
「あっ、えっとそのだから俺はどんな敵からもみんなを守る
だから、仕方がなかったなんて言葉を安易に使いたくないんだ」
そう言って圭一は微笑み梨花の頭を撫でた
圭一の心の内を少し知った梨花は圭一の手の温もりを感じながら優しく微笑んだ
ひぐらしのなく頃に
〜裏運命編〜
第五話 圭一VS酒呑童子
「はっ!」
圭一の斬撃が酒呑童子を襲う
「甘いわ!」
人間の枠の内ではトップレベルであろう攻撃をあっさりと回避する
しかし、圭一は休む暇も与えないくらいの連続攻撃を仕掛ける
魔力を通して光輝く剣の威力は絶大なものだが当たらない
逆に体力が削られて不利になるばかり
「闇雲に剣を振り回しても我には当たるか!」
酒呑童子は斬撃の嵐を掻い潜り圭一の目の前にに現れる
そのままカウンターぎみに圭一に拳を放つ
「くっ!」
何とか剣で拳を受け止めるものの衝撃で一瞬手が痺れた
ほんの数秒だが酒呑童子には、それで十分だった
直に距離をあけたが酒呑童子は一歩で飛ぶように近づいてくる
そのまま、とび蹴りを圭一の腹へと繰り出す
「この〜!!」
圭一は、普通にやったらかわせないと判断すると剣を左手に持ち替え相手に突っ込む
蹴りは圭一の肩を削るように当たるが圭一も酒呑童子の腹を切り裂く
致命傷ではないが深い傷を負った酒呑童子は何故か楽しいそうに顔を歪めると突然笑い出し
「その戦いのセンス! この威力! そして、この一瞬の判断力! やっぱり貴様は我が選んだ人間だ!」
「そんなことは、どうでもいいんだよ。それより、さっさと続き始めるぞ」
圭一は、肩の治療をしながら鋭い目つきで睨む
しかし酒呑童子には、それさえ愉快なのか笑みを絶やさない
すると、いきなり真剣な表情をすると
「やはり貴様を殺すのは惜しい、我の部下とは言わない同士にならないか? もちろん、そこにいるお前の仲間は殺さない」
「別に、そんなの俺が勝てば関係ないだろ」
「ふむ、やはり力の違いを教えないといけないらしいな」
酒呑童子はやれやれと言ったふうに肩をすくめた
そして、その姿が掻き消えた
「なっ!?」
突然圭一の目の前に酒呑童子が現れた
消えたのではなく一瞬で移動したのだった
そのスピードからさっきまで手を抜いていたのが覗えた
「くっ!」
圭一は体が反応しないのか酒呑童子の動きを呆然とみていた
そして酒呑童子の手刀が圭一のレッドゾーンに入った瞬間、体が勝手動き剣で防ごうとしたが飛ばされてしまう
「チッ!」
しかし、圭一は慌てず酒呑童子に向かって体当たりする
まともに喰らってバランスを崩した酒呑童子に
「光弾」
無数の光の弾が酒呑童子を直撃し砂煙を舞い上げる
その隙にとばかりに圭一が剣を取ろうとするが――
「あの程度の攻撃が足止めになると思っていたのか」
何時の間にか上空へと飛んでいた酒呑童子が圭一目掛けて飛び降りてくる
圭一は必死に剣へと手を伸ばすが一歩届かず酒呑童子の攻撃を横っ飛びで交わす
そのまま一旦、距離をとろうと跳躍した時
「隙ありだ」
酒呑童子は圭一の剣を抜くと、それをものすごい速さで投げつける
剣は一直線に圭一へと向かっていく
(ダメだ! かわせない!)
「「圭一!」」
梨花と羽入が声を上げる
そして剣が圭一の腹を突き刺すかと思われた瞬間――
「圭一君!」
「え?」
圭一の前に何かが飛び出し代わりに剣に貫かれる
「「「レナッ!!」」」
レナは最後の気力を使って圭一の盾へとなった
圭一は酒呑童子と戦っている時より早い速度でレナに近づいた
「レナッ! レナッ! 眼を開けてくれ! 頼むから! 死なないでくれ!」
圭一は倒れこむレナを抱きかかえると泣きそうな声でレナの名を呼ぶ
その声に反応したのかレナは、うっすらと眼を開け
「圭一君……ごめんね。でも良かった圭一君を守れて」
「喋るな! 今、治療するからな! 大丈夫だ! レナは死なない!」
必死に傷口を防ごうとする圭一
だが損傷が激しすぎるため一向にふさがる気配がない
「圭一君……私ね……私ね」
「喋るなって言ってんだよ! 頼むから喋らないでくれ!」
両目から涙を零しながら悲痛な叫びをあげる
そんな圭一の頬を愛おしそうにさわる
「こ…………んな……場面で……言うのは…………反則……だけど」
閉じそうになる眼を一生懸命開いて掠れながらも言葉を紡いでいく
「私……竜宮レナ……ううん……竜宮礼奈…………は……前原圭一の……ことを…………あいし………………」
最後まで言うことなくレナの眼は閉じられた
そして、さっきまで圭一の頬へと伸ばしていた手もゆっくりと地面に落ちた
そんなレナを呆然としながら圭一は見つめる
梨花たちも眼に涙を溜めながら嗚咽を我慢している
すると、上空から冷たい滴が落ちてきた
ポツ…………ポツ……ポツ……ポツポツ
雨が降ってきた最初は弱かったが、だんだんと強くなってきた
「レナ? レナッ! レナッ! 何でだよ……」
雨が圭一とレナを二人の空間を作る
圭一は両手を地面につけて四つん這いになるようにして
「くそっ! くそっ! 何がみんなを守るだ! 結局またレナを……殺してしまった」
雨は圭一の心を表すかのようにさらに強くなっていく
このまま、時間が進まないのではないかと錯覚させるぐらいの沈黙を破ったのは
「ふむ、一人殺してしまったか」
今まで圭一の様子を覗っていた酒呑童子だった
言葉には特に何の感情も含まれていなかった
酒呑童子にとってレナとは、そもそも眼中にないのだ
そんな酒呑童子言葉に梨花と羽入はギッと睨みつける
しかし、酒呑童子は人なら殺せるんではないかという二人の視線を受けても平然としている
否、そもそも視界に入ってすらいないのかもしれない
酒呑童子の興味はこれから圭一が、どうなるかの一点であった
((もう我慢できない!))
二人が正に酒呑童子に飛び掛ろうとした時
「ハハッ…………ハハハッ……ハハハハハハッ!」
圭一が突然笑い出した、それも最初は自虐的に、それから笑うかのように、そして最後は狂ったかのように
自分のせいでレナが死んだことによりギリギリの均衡を保っていた圭一の心のバランスは崩れた
「ハハハハッ! 殺す! 酒呑童子! お前は俺が殺す!」
圭一は凶暴な笑みを浮かべながら剣を取り立ち上がる
するとパリンとガラスが割れるような音がした
「圭一の剣が!」
「真っ黒な剣……」
剣の外装が割れたかと思うと中は真っ黒に染まっていた
そう……正に圭一が着ているマントの様な漆黒の色
圭一は漆黒になった剣を構えると酒呑童子に向かって突撃するかの様に突っ込んでいく
魔力で限界まで強化していたハズなのに先ほどより速く酒呑童子レベルで突進した
圭一の走った場所に魔法の粒子が煌いていた
そうなのだ圭一は足から魔法を噴出し爆発的な速度を可能にしていた
だが一直線に向かっていっただけだったので酒呑童子は焦ることなく腕を振るった
すると衝撃波らしきものが発生し地面を抉りながら圭一へと接近してきた
「へっ! この程度か!」
圭一はジャンプで衝撃波をかわすと同時に回転しながら酒呑童子を飛び越すかと思われた
瞬間、圭一が稲妻のように下に落下し肩を切り裂いた
「ぬっ!」
切り落とすまでとはいかなかったが、かなり深い傷を与える
それより驚いたのは圭一の動きだった
ジャンプは走りと同じだろうが攻撃のほうは全くわからない
だが圭一は誇ることもなく当たり前の感じだ
その様子と雰囲気から明らかに先ほどより強いだろうと思われた
酒呑童子は自分の腕を見て
「ふっ! どうやら我も全力で行くべきのようだな。ヌンッ!」
酒呑童子が気合を込めると骨格が動き出し
人間の様だった容姿は鬼へとなり
眼は十個になり
角が生えてき
背丈が五m近くになる
その姿は正に酒呑童子と呼ぶに相応しかった
「こうなったら、潰してくれるわ!」
その巨体から全てを潰すかの様に放たれた拳を紙一重で交わし
「動きがとろいんだよ!」
抜刀するかのように構えた
両手で持っていたが片手で持つと
「闇舞剣の舞」
一発目は神速にそしてその後は少し速度は落ちるが連続で切りつけた
無数の闇の真空波が発生し舞うように酒呑童子を切りつける
しかし、その体には浅い傷はつくものの、それ以上の効果はない
「効かないわ!」
「チッ」
浅い傷は一瞬にして再生する
驚異的な回復力だ
「それにしても剣はやっかいだな。我も出すか」
酒呑童子が地面に手をかざすと地面が割れ、そこから巨大な刀が出てくる
酒呑童子が刀を軽く振ると、それだけで真空波が発生して雨を切り裂く
刀を構えたことで、さらに威圧感が増す
常人だとこれだけで気絶してしまうだろう
しかし圭一は、そんな酒呑童子を見ても余裕そうに否、楽しそうに歪んだ笑みをますます深くする
「刀を持ったから、何だって言うんだよ!」
圭一の剣が真っ黒なオーラを放つ
そして、そのまま酒呑童子目掛けて切りつける
一撃に集中させた威力は酒呑童子の体に深手を負わせることもできるだろう……当たればの話だったがな
「なっ!?」
圭一の必殺の一撃を酒呑童子は刀で受け止めると、何故か圭一の剣に漂っていた真っ黒なオーラが消え
逆に酒呑童子の刀が真っ黒なオーラを放つ
「闇の力が我に効くわけがないだろう!」
「くっ!」
刀で弾かれ飛ばされるが圭一は空中で体勢を整えると綺麗に着地する
何故、圭一の闇の力が聞かないかというと
酒呑童子の刀は、さまざまな人を殺してきた
その負の力が圭一の負の力を上まり圭一の力は逆に吸収されてしまった
いくら圭一の自責の念が強くても何千何万の人々の気持ちを越えることはなかったと言うことだ
そして、闇の力を使うようになってから圭一は初めて顔を歪めた
その表情を見て酒呑童子は優越感が漂う表情になる
そのまま、二人はにらみ合う
沈黙が場を占め雨の音だけが響いていた
数分が否もしかしたら数十秒だったかもしれない時がたつ、すると雷が大きな音をたてながら強烈な光を放つ
これが合図だった、二人は同時に動き出し相手目掛けて武器を振るう
「ぐぁぁぁ!」
「「圭一!」」
梨花たちが悲鳴を上げる
圭一は酒呑童子に剣ごと力ずくに吹き飛ばされて岩に激突する
その岩を少し抉った所で止まり圭一はズルズルと滑りながら力尽きて倒れた
酒呑童子は手首から先がなくなった右腕を一瞥した後
「ふふっ! やはり我の勝ちだったようだな! ハハハハッ!」
酒呑童子は何がそんなにおもしろいかと言いたくなるぐらいに笑い続ける
そんなの知ったこっちゃないという風に梨花は圭一の場所へと急ぐ
「圭一! 嘘でしょ!? 死なないで!」
圭一の所に着くと圭一を膝の上にのせ一生懸命声をかける
圭一は一度血を吐くと眼を開けた
その瞳は、もう狂気の色ではなかった
圭一は、ああと呟くと
「俺、負けちまったのか……」
過去形で話す圭一に涙を流しながら梨花はどうしようもない悲しみを感じた
「死んじゃ嫌よ! もう、この世界が私の最後の希望なんだから! もう、私は大切な人が目の前で死ぬのに耐えられない!」
圭一と同じで梨花もたくさんの時を過ごしてきて心は限界に近かった
どんなに慣れたと言っても計り知れないほどの痛みが心を傷つけていたのだろう
それが、この世界で希望を見て、未来を信じ夢みた梨花の心の最後の扉すら開けていたのだろう
なのに実際は梨花の周りには勝利の雄叫びを上げている敵と傷つき倒れている仲間、そして今まさに死へと向かっている最愛の人だった
(私は無力だ……)
梨花の心は無力感が覆っていた
この戦いでも結局のところ圭一に守ってもらっているだけだった
レナのように圭一の盾になるわけでもないし
みんなの様に敵わないとわかっていながらも酒呑童子に戦いを挑むこともない
ただ敵に憎しみを感じながらも、仲間がやられて悲鳴を上げても、何もしていなかった
「ねえ、圭一……」
すでに話すこともできなくなり、ぐったりと横たわっている圭一に無意識に話しかける
そんな圭一をギュッと抱きしめる
圭一の体は血まみれだから梨花にも圭一の血が体につく
雨は、梨花の心を重くするだけで血すら流してくれない
「これは、きっと悪い夢だよね」
圭一の髪を優しく撫でる
「きっと終わる……全部終わる――」
雨だと言うのにひぐらしの鳴き声が響いていた
「そう、ひぐらしのなく頃に…………」
あとがき
幻と
梨花「梨花の」
幻・梨花「あとがきコ〜ナ〜」
いや〜早いもので、もう決戦も最終段階だね
梨花「絶対絶命なのですよ」
まぁ、勝てるんじゃない? 主人公だし
梨花「根拠が適当なのです」
まあまあ、そんなに睨まないでさ恐いから
梨花「み〜幻の言葉にいちいぢ反応してたらキリがないのです」
酷いいいようだな〜
梨花「と、言うことで無視することにしたのです」
え?
梨花「次回は第六話運命の崩壊なのです」
あ、あの梨花さん?
梨花「ここまで読んでくれた、みなさん後二話なので最後までよろしくお願いするのです」
だ、だから
梨花「バイバイなのです〜」
……では次回のあとがきで!
ああー、とってもピンチですよ!
美姫 「このまま敗北してしまうのかしら」
それとも、奇跡の大逆転が!?
美姫 「一体どうなるの!?」
ハラハラドキドキしつつ次回を……。
美姫 「待ってますね〜」