あたしが負けた?

混迷する意識の中、軽いショックと共に気づいた

鉄槌の騎士であるあたしが、一撃でやられるなんて……

捉えたと思った瞬間、姿が消えて気づいたら後ろに回りこまれていた

直後に、脳に強い衝撃を受けた

騎士甲冑を、凄く上回っている威力ではなかったハズなのにだ


「くっ!」


ん? その声はザフィーラ


「はぁぁぁ!」


それと、知らない声

戦闘しているみたいだ

ってことは大分時間が経っちまってるんだろうな

早く起きて加勢しないと

でも、体は意志に反して動かない

くそ! あたしは、こんなに弱かったのかよ!!

これじゃあ、はやてを…………はやて?

そうだ

はやてを、助けるためにあたしは戦ってたんだ

大好きなはやてのために…………

脳裏に、浮かぶはやての姿

近づこうとしたら、あたしを倒した黒い奴が現れた

遠のいていくはやて

必死に叫ぶが振り向いてくれない

そして、あたしを見て笑う黒い奴

あたしの、あたしの…………


「邪魔すんじゃねぇー!」


さっきまで鉛のように重かった四肢が自然と動いた


「ヴィータ!」


「何!?」


ザフィーラの声にも反応せず、直に恭也を見つける

ちょうど、シグナムがフェイトの魔法を受け、体勢を崩したところに恭也が距離を詰めようとしていたところだった


「あぁぁぁ〜!」


もの凄いスピードで一直線に恭也向かって突進する

そして、恭也の小太刀が漆黒の風に包まれるのを見ると、取り出した銀の弾丸を前方投げる


「シュワルベフリーゲンッ!」


弾丸は、魔力を纏い、バラバラの方向から恭也目掛けて飛んでいく

例え、戦闘中でも普段の恭也なら反応できないこともない

だが、運悪く恭也はチャンスなばかりに全力をかけていた


「ッ!?」


恭也が、気づいたときには弾丸は回避不可能の位置に来ていた

直後、爆発音と爆風が視界を覆った








        魔法少女リリカルなのはA'S

          〜漆黒の王者〜

  第五話 見出した光








「シュワルベフリーゲンッ!」


「ッ!?」


声に反応し、首を捻ると先ほどまで気絶していたハズのヴィータがいた

チッ、徹をこめた一撃を脳に喰らわしたっていうのに、もう動けるのか

普通、最低でも一時間は動けないハズなんだがな

しかも、攻撃までしてくるとは

全方向からの攻撃

今、攻撃対象を変えれば防げるが、その隙をシグナムは見逃さないだろう

だが、かわすことも不可能

フェイトの、援護は間に合わない

…………仕方ない


――御神流 奥義之歩法・神速――


今日、二度目の神速

訓練では、日に三度、四度使うが、やはりと言うか実戦だと疲労感が全然違う

脳が、悲鳴をあげるのを無視し、モノクロとなった世界を動く

できれば、薙旋を放ちたいが、そこまでの余裕がなかった

髪を、掠めるようにして銀の弾丸が通り過ぎた


「ハァハァハァハァ…………」


「恭也さん!」


そのまま、フェイトの横に移動する

すると、突然現れた俺にフェイトが驚きの声をあげる

まぁ、誰が見てもかわせそうになかったしな


「チクショウ!」


「どうやら、切り札をかくしていたようだな」


憤慨するヴィータと、驚きながらも冷静に分析するシグナム

いざとなったら神速を使ってシグナムの隙を作るつもりだったが、知られてしまった以上そう簡単にはできないだろう

それに、二対一じゃなく二対二になってしまった

援護を期待したいが、ヴィータがいなくなったことにより自由になったザフィーラを相手にしている二人は無理だろう

他の魔導師と考えても、結界が張られている限り、ここに来ることすらできない

なのはも、あのダメージじゃ動けないだろうし、いても逆に邪魔になる


「フェイト」


「はい」


フェイトも、状況を飲み込んだようで裏に緊張を隠した声で返事をくれる

やることは、ほとんどさっきまでと一緒だ

少し違うのは、フェイトは俺の補助と自分の身も守らなければいけないということだ

どんなに捌くのに集中しても、あの二人相手ではいつまで持つかわからん

お互い、カートリッジも少ないから隙を見せたほうが負けだ


「いくぞ!」
















「助けなきゃ……」


戦いの行方を、朦朧としながら見守っていたなのはは自分に言い聞かせるように呟いた

赤い閃光が加わってから明らかに黒と黄色が押されはじめた

黄色い光は、フェイトちゃんだ

黒い光は、見間違えじゃなきゃ恭也君

なんで、どうして、そんな疑問も思い浮かぶけど、それ以上に心を占めてたのは幸福感だった

一緒に、暮らし始めて三週間しか経ってないけど、彼が心に闇を抱えているのは漠然とわかっていた

そして、三日前の日に見た光景で、はっきりとした




その日は、天気予報がはずれて雨が降っていた

だから私は、早く家に帰ろうと走っていた時だった

ニャーと猫の鳴き声が聞えて、そっちの方を見てみるとダンボール箱の中を覗いてる恭也君がいた

声をかけようとしたけど、やめて様子をみることにした

何故なら、今にも泣きそうな顔をしてたから


『悪いな。俺は、何も守れないんだ』


最初は、何に話しかけてるのかと思ったけど、続いて聞えてきた泣き声でわかった

多分、捨てられた猫

よくあることだとは知ってたけど、実際に見るのは初めてだった


『守りたい。そう、願うけど恐くて足がすくんでしまうんだ

あの日から…………。だから、お前らを俺は見殺しにするんだ」


懺悔のようで、でも違う

偽善とかじゃなくて、心からの謝罪

お兄ちゃんと同じで気配で人がいるかどうかわかる恭也君が私に気づいていないのが証拠だった


『ニャー、ニャー』


『ふっ、そうだな。お前らに言っても仕方がないことだな。…………なのはなら』


突然、自分の名前がでで心臓が飛び出しそうになるくらい驚いた


『彼女なら、躊躇うことなくお前らを助けたんだろうがな』


『ニャ〜』


『ん? ああ、なのはと言うのは俺が居候している所の娘さんだ。おもしろい奴だぞ

素直で、優しくて、いじりがいがある。多少、無鉄砲な部分もあるんがな。それと…………』


いじりがいがあるって酷いな、と思いながら言葉の続きを待つ

期待しているわけじゃないけど、心のどこかでやっぱり期待している自分がいる


『守りたいと思い始めた奴だ』


ドクンと、心臓がはねるのがわかった

顔が、熱くなってくる


『ニャーニャー、ニャー』


『自分たちはかって? そこまで、余裕がないんだよ。本当に、自分なんかが守れるのだろうか

臆病な心を仮面で隠し、その身を機械を化す。そんな事をしなければ戦えないんだ』


私は、恭也君の過去を何一つ知らない

ただ、地獄を見た少年だとお兄ちゃんがくれた手紙には書いてあった

何で、私だけに言うんだろうと最初は不思議に思ってたけど今は何となく理由がわかるような気がする


『そろそろ、いくな』


『ニャー、ニャー、ニャー、ニャー』


名残惜しそうに恭也君は立ち上がるとゆっくりと歩き始めた

猫も、悲しそうに泣き声をあげる


『………約束する』


歩みを止めて静かに語る


『もし、守ることができた時、俺はお前らを迎えに行く』


それだけ言うと、恭也君は二度と振り向かずに帰って行った




恭也君が、魔導師だと知らなかった私は守ってもらう事はないかと思ってた

でも、恭也君は今、目の前にいる

私を、守るために

傷跡を仮面の下に隠して…………

だから、私も戦う

そんな私の意志に答えるようにレイジングハートが輝き羽を広げる


「……レイジングハート」


<Let's shoot it.“STAR RAIGHT BREAKER”>


なのはが名前を呼ぶと、レイジングハートがスターライトブレイカーを要求してきた

なのはが持つ、最強の攻撃力を誇る魔法

でも、負荷ももちろん大きい

今のレイジングハートだと、ちょっとコントロールを間違えると壊れてしまう


「そんな、ムリだよそんな状態じゃ」


レイジングハートは、撃てると断言する

しかし、なのはには自信を持てなかった


「レイジングハートが壊れちゃうよ!」


瞳に涙を浮かべながら叫ぶ

それに、レイジングハートは静かに言葉を紡ぐ




<I believe my master.>




なのはは、少しだけ考える素振りを見せた後、ゆっくりと顔をあげた

そこには、涙などなく、成功させるという意志だけが読み取れた


「……わかったよ。レイジングハートが私を信じてくれるなら」


同時、桃色の巨大な魔法陣が眼前に形成される

杖から伸びる光の翼が輝きを増す


「私も、レイジングハートを信じるよ」


杖を空へと向けると、全力で魔力をこめる


(私が結界を壊すから、タイミングをあわせて転送を!)


同時に、恭也達に念話をおくる

白熱する戦いの中、余裕がないけどもボロボロの体を無理やり動かす友人に言葉を送る

なのはは、一人一人の言葉に嬉しさを感じながら更に集中を高める


(何も考えずに、唯全力で撃て。フォローはする)


(恭也君…………。ありがとう!)


最後に届いた言葉で、なのははクスッと笑みを漏らしてしまう

あんな、激しい戦いをしてるのに彼の声は家や学校で話すのと同じように落ち着いている

もう、何も不安がることはない

シグナム達は、なのはがやろうとしていることに気がつき食い止めようとするが、その進路を恭也達がふさぐ


「この先には一歩たりとも行かせん!」


御神の血ゆえか、守る対象であるなのはがいると、その戦闘能力は上がっていた

次々と襲い掛かってくる鉄槌と剣をことごとく捌く

痺れを切らしたヴィータが、銀の弾丸を放ち強引に抜こうとする

だが、恭也は上下左右から襲い掛かってくる弾丸を全て叩ききった

先ほどまでかわすことしかできてなかったため驚愕に顔をゆがめるヴィータ

その隙を見逃さず、恭也はシグナムの方へフェイトと戦っているヴィータを弾き飛ばす

もちろん、シグナムはヴィータを受け取り、フェイトの攻撃範囲から逃れるため後退する

同時に、魔力の収束も最大になる

それにあわせ、なのははレイジングハートを大きく構える

そして、もう一度レンジングハートをしっかり構え魔法を放とうと――






ずぶり、と何かを貫くような音がした






「…………なの……は?」


夢でも見ているのか、なのはの胸から手が突き出ていた

だが、なのはの後ろには誰もいない

空間魔法の一種なのだろう

手は、何かを探すように世話しなく動かし、浮いている光を掴んだ


「なのはぁぁあ!」


フェイトが、叫び声をあげてなのはの所に行こうとする

しかし、それを邪魔するようにシグナムが剣をふるう

恭也も、どうにかして近づこうとするがヴィータが許してくれない


(恭也! 恭也! あれは多分リンカーコアだよ! 下手したらなのはちゃんの命が!)


慌てふためくプレッヂとは違い、恭也の表情にはこれといって焦りも憤怒もなかった

ただ、無表情

冷静に、ヴィータの攻撃を捌く

交差するとき、その表情を見たヴィータはどうしようもない恐怖に襲われた


――御神流・奥義之肆 雷徹――


注意を、怠ったのはほんの一秒足らずだった

しかし、気づいたときには恭也は小太刀を振りかぶっていた


「ぐっ」


何とかグラーフアイゼンで受け止めるものの、その威力に吹き飛ばされてしまう

その事を確認することもあく、恭也はシグナムの方へと駆け出す


「なのはぁぁあ! なのはぁぁあ!」


フェイトが、狂ったように叫びながらもシグナムをぬくことができていなかった

焦りと不安で、隙だらけだが、何故かシグナムは邪魔するだけで倒すことはしなかった


(あの時もそうだったな……)


フェイトの姿に、恭也は昔の事を思い出した

目の前で倒れていく大切な人を必死に助けようとする

でも、近づくことすら出来なかった

無力感に襲われ、心が絶望に彩られる


「なのは?」


恭也の眼になのはがうつった

過去の映像が重なる

泣き伏せる自分が横にいた

過去の恭也は、キッと恭也を睨むと一言


『逃げるのか! その力は何のために手に入れた!?』


思い出される、なのはとの思い出

血塗られた俺に向けてくれる純粋な笑顔

その笑顔を守りたいと俺は思った

今、彼女に笑顔はなく、虚ろに誰かの名前を口ずさんでいる

聞えるわかえがないのに、この時だけははっきりと聞えた


「恭也君……」


この一言が全てだった


「なのはぁぁぁあ〜!!」


一直線になのはの元へ行こうとする

だが、その前にシグナムが現れる


――御神流・奥義之歩法 神速――


三度目の神速

これじゃあ足りないと本能が言う

恭也は、その意志に従い躊躇わず先の世界へと進む


――神速二段がけ――


下手したら、いや下手しなくても体はただでは済まないだろう

子供の体で、神速二段がけはありとあらゆる神経をダメにするかもしれない

でも、恭也の頭にはなのはを守るということしかなかった


(今、この瞬間だけでいい。父さん、俺に力をかしてくれ!)


恭也の眼に一筋の光がうつる

体が、動くままにその光に小太刀を振りぬく


――御神流斬式・奥義之極み 閃――


シグナムの体が、力なく崩れ落ちる

何が起きたのか、一部始終見ていたヴィータ達にもわからなかった

ただ、恭也がシグナムを倒したという結果以外は


「どけぇぇぇ〜!」


神速を使っていたこともあり、文字通り一瞬でなのはの所に現れた恭也は手を小太刀で切ろうとする

だが、手も状況に気づいたのか素早く逃げた


「……す…………スターライト、ブレイカァー!」


同時に、なのはが最後の力を振り絞って魔法を放った

少しすると何かが割れる音がした

誰も破れなかった結界も、なのはの魔法の前には五秒もも耐えることはできなかった


「なのは!」


倒れるなのはを恭也が抱きとめた

すぐさま、容態を確認する


(衰弱状態とほぼ同じか。だが、魔法ゆえに油断はできない)


「「「なのはっ!」」」


確認し終わると、フェイトと使い魔、そして管理局の人間が降り立ってきた


「今すぐ、運んでくれ。出来る限り早急に対処できればできるほどいい」


「大丈夫なんですか!?」


「ああ。ただ、衰弱が激しいだけだ。だから、連絡を早く」


最初は、警戒したような視線を送っていた使い魔と管理局の人間だったが、フェイトとのやり取りで少しは信用したのか直に通信をしてくれた

ただ、やはり正体不明の魔導師として一緒に来てもらうとの事だ

フェイトと共闘した時から覚悟はしていたため、恭也は真剣な表情で頷いた


(俺は、守れたんだろうか…………)


無言で空を、見上げる恭也の視線の先には月が淡い光で恭也達を照らしていた


「恭也さん!?」


ドサッと何かが倒れる音と同時に視界が動く

倒れたんだと気づいた時には視界は闇で埋め尽くされていた







閃に辿り着いたみたいだな。
美姫 「なのはを守るためとは言え、凄いわね」
だな。だが、神速の複数使用に加えて二段掛けはそうとう負担が掛かったみたいだな。
美姫 「倒れた恭也、どうなるのかしら」
管理局への説明もしないといけないし、次回はどうなるのかな。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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