「ハアハアハアハア…… 由美…………ごめん」
ひとしきり走った僕は、膝に手をつけ荒い息を整える
あの場所にいたら気持ちが揺れてしまうかもしれなかった
由美が見えなくなった後も耳から由美の最後の言葉が離れず
身体が止まるまで無我夢中で走った
でも、由美の言葉は今でも残っていた
「最後が涙の決別ってか、できれば笑顔で別れたかったけど虫が良すぎるな」
苦笑いしようと思ったけどうまくできなかった
笑うだけでなく苦笑いまでできないなんてな
「僕も相当まいってるって事か」
気持ちは押さえ込んでも抑えきれるものじゃないな
決別を言った僕がこれだけ辛いのだから由美はもっと辛いだろうな
「ああ〜!! 何で由美の事ばっか考えてんだか!!」
他の事を考えよう
じゃないと由美の所に戻ってしまいそうだ
……メールはきてないって事は、まだ到着してないか
ヤバイな下手に動いたら宗谷達に見つかりそうだしな
「ってかもう見つかってたり」
いくら宗谷でも直には見つけられ……
「「「正解」」」
見つかってますね
予測できたようなできなかった展開だな
とりあえず笑顔で何か言っとかないと
「よっ! 一日ぶりだな!」
「ああ確かに一日ぶりだな」
「どっかの誰かが嘘の時間教えるから」
「それでそいつの罰どうしょうか?」
スッゲー怒ってます
これでもかってくらい怒ってます
殺る気満々ですよ
「ま、まあそいつも反省してるだろうから許してやろうよ!」
「それでもな〜」
「腹の虫はおさまんないんだよな〜」
「そ、宗谷お前はそんなこと言わないよな?」
そんなあからさまに楽しそうな表情しないでくださいよ
何で最後の日までこんな感じなんだろう……
「そりゃ和人が黙って去ろうとしたからだろ?」
「心読むな!!」
本当にこいつは油断ならないな
人間の皮かぶった化け物だったりして
「まあ、遠からず近からずとだけ言っておこう」
「マジ?」
「宗谷ならありえそうだよな」
「色んな意味で人間外だしな」
やっぱり、そう思うか
「って、お前らも人の心を読むな!!」
「いやだって和人わかりやすいからさあ」
「何でも顔に書いてある」
「顔で、どこまで的確に読んだるんだよ!!」
まったく、どんな顔だったらそこまでわかるんだか
「そういう顔」
何か会話が成り立ってる……
もはや突っ込む気力さえ無くなった
「だからさあ…………。お前が宮乃の事で悩んでんのも丸分かりだぜ」
どうせどっかで見物してたんだろうな
「和人を探してる時、宮乃が走っていくのが見えてな付いていったら」
「たまたまシリアス展開だったんでよ」
全部見てたのか何となく誰かいるような気はしてたけどね
僕だって心は読めないけど親友の性格は把握している
だから、こいつらが次に言う言葉は
「「「それで、和人は後悔してないんだな?」」」
だろうな
こいつら……。いや僕らがいつも言ってたことだからな
どんな時でも後悔しない
アクシデント続発でみんながあきらめていた体育祭の時も僕等は後悔はしないの精神の元に頑張り
それを見た他の生徒もやる気を取り戻し逆転優勝した
文化祭も企画を決める時、作る時、本番も全て後悔だけはしないようにやってきた
「後悔は……」
思い浮かぶは由美との思い出
「後悔は………」
春、夏、秋、冬いつでも僕らは一緒だった
「後……悔は…………」
輝く太陽のようであった笑顔と去り際の絶望に包まれた顔
「こ…う……か…い……」
僕を求める悲痛の叫び
「後悔している……」
「「「そうか」」」
そうだ僕は後悔していたんだ
色々思い浮かべていたのは気付かないため
一度、気付いたら誤魔化せないから
だけど、気付いたなら僕のやるべき事は一つだ
「悪い正門に家の車が来るから遅くなるって言っておいて」
僕はカバンと携帯を宗谷に放り投げると返事を聞かず走り出した
もう一度やりなおすために
もう一度あいつの笑顔を見るために
さっきの全力疾走で疲れていたハズの身体からは先ほど以上のスピードがでていた
「和人………和人……和…人」
私は和人が行ってしまった後もその場で彼の名前を呼び続けていた
もしかしたら、和人なら
そんな思いを持ちながら、でも和人はやって来なかった
「何でだろう……。私達両思いなのに」
今まで体験したことのない胸の痛み
彼が去れば、もうあの微笑みを見ることはなくなる
それだけでなく私に向けてくれてた私だけの微笑みを他の誰かに向けるかもしれなお
そう考えるだけで私の胸は張り裂けそうな痛みを感じる
「気付くタイミングはいくらでもあったハズなのに」
和人と私はずっと一緒だった
いるのが当たり前だった
春も夏も秋も冬も和人が私の隣にいない時はなかった
「好きだよ和人…… だから戻ってきてよ…………」
どんな時でも最後には困った顔をして許してくれた和人
だから、和人から別れをキッパリと言われたとき私は何も言うことができなかった
こんなに和人の事が好きなのに!!
「和人がいてくれなきゃ私やっていけないよ……」
みんなが抱く私のイメージ
活発で元気あふれる子
でも、それは和人がいてくれたから元気でいられた活発でいられた
現に今、私は和人を追うことすらできない
「でも……行かなきゃ」
そうしないと和人が取られてしまう
彼の私だけの微笑みが見れなくなってしまう
それだけは何としても阻止しないといけない
だって、彼は私の全てなんだから
もしかしたら彼女はもういないんじゃないかと思った
だって、あんだけ決別の言葉を言ったのだ
愛想をつかされても仕方ない
いなかったら、それは自分のせいそう思ってた
だから……
「か…ずと」
「由……美」
まさか彼女が息を切らして走ってくるとは思っていなかった
あの場から帰る途中なのかもしれないとも思った
けど、彼女の眼をみたら僕を追ってきたことは直にわかった
「ちょっと今から時間ある?」
だから、僕は声を発することができた
「う、うん」
どうやら少し戸惑ってるみたいだ
しょうがないけどね
逆の立場だったら驚いてるだろうし
「じゃあ、屋上行こうか」
再会の場所に
時間は結構遅かったが運よく屋上のドアは開いていた
この学校は屋上にベンチなどがあり昼休みにここで弁当を食べたりすることなどができた
「ここにいると思い出すね」
さっきまで一言も喋らなかった由美が言葉を発した
「再会した時のことだね」
そう僕らはここで再会した
由美は何故いたか知らないけど僕はあの時、新しい環境になれず何となく屋上にきた
『あれ? あんた確か同じクラスの』
『蒼井和人だよ。ええ〜と』
『私は宮乃由美よ』
『宮乃さんか』
『ここであったも何かの縁。仲良くしましょうね』
『こちらこそ』
結構人見知りが激しいはずなのに由美とは自然に喋れた
あとで聞いた話だと由美も人見知りするタイプらしい
最初から僕たちは通じる所があったのかもしれない
「あの時はこんな事になるなんて思ってもみなかったね」
由美もあの時のことを思い出していたのか、どこか昔を懐かしむ感じでいた
「そうだね。まさか両思いになるなんてね」
「ほんとにね」
さて、そろそろ本題に入らないとな時間もないことだし
「あ、あのさ由美」
「何?」
「由美は、まだ僕のこと好き?」
僕の質問がおかしかったのか由美は驚いた表情でこちらを見てきた
どこか、おかしいところあったっけ?
「ええ、好きにきまってるじゃない」
良かった……
これで嫌いだ何て言われたら飛びおりてたな
「それなら…………僕と付き合ってくれないかな」
「え?」
「身勝手なのはわかってる。だけど宗谷達に言われて気付いたんだ。僕は由美が好きだ! たとえ離れようと君が好きだ!!」
正直オーケーされるとは思っていない
さっきあれだけ由美の好意を無残にしたのだ
「バカ」
やっぱりか……
「いいに決まってるじゃない」
そうだよなやっぱ………………え?
「い、今なんて?」
僕の聞き間違え者ないよな
「だ・か・ら、付き合ってあげるって言ったの」
「で、でも僕さっき酷いこと言ったし」
僕が信じられないって感じに言うと由美は笑顔になり
「でも、今は付き合ってくださいって言ってくれたじゃん。それだけでチャラどころかお釣りがくるよ」
「そ、そっか」
「それで〜どうしていきなりそうなったわけ?」
「ああ、それは……」
聞かれたので僕はあの場の後にしたあとの事を簡単に説明した
すると由美も僕がいなくなってから思ったことを教えてくれた
その想いを聞き僕はちょっと涙を流してしまった
そして少しの間、話をし僕は最後の事へと話を進めた
「それでさ由美、僕は今日からこの学校からいなくなる」
「うん……」
「でも絶対に帰ってくる!!」
高校生の時は無理でも大学にはいる時なら問題はない
キチンと一人暮らしできる様に練習し親を説得する
「だから、その間まっててくれ」
あえて待っててくれないか、じゃなく待っててくれ
もう僕は由美を他の男にやる気はまったくない
いざとなったら宗谷達を使ってでもどうにかしてやるつもりだった
「ふふっ、それじゃあ和人が帰ってきた時びっくりするくらい綺麗になってるからね」
「そっか、じゃあ僕ももっといい男になって帰ってくるよ」
僕は、由美と見つめあった
辺りは薄暗くなりそろそろタイムリミットに近づいていた
「由美……」
「和人……」
僕らは、そっと口付けをかわした