00754月 ミッドチルダ

臨海第8空港臨海 廃棄都市街

快晴。

青空に雲が浮かび、別世界の丸い輪郭がはっきりと浮かんでいた。気温も春のような陽射しで、心地よい風が吹いてくる。外出するにはとても快適な日である。

そんな天気の下、一機のヘリコプターが鳥のように大空を駆け巡っていた。

ヘリコプターにはパイロットの他に一人の少女がいた。

「お、さっそく試験が始まっているなぁ」

管理局の茶色の制服を身にまとい、肩までの短髪、そして特徴的ともいえる関西弁で喋る人物。時空管理局一等陸佐、八神はやての姿があった。

はやてはヘリコプター内の椅子に座り、目の前に展開されている数個のモニターを操作し、今行われている魔導師試験の様子を伺っていた。そこには彼女の使い魔であり、融合デバイスでもあるリンフォースUの姿があった。リンフォースはモニター越しから今回試験を受ける魔導師一人に対し、説明を行っている最中であった。

リンフォースは今回の魔導師試験の現場責任者、運用を携わっており、はやては事前から準備をしてきたリンフォースの姿を重ね、うまくやっていると確認し、一安心する。

「この二人がはやてが見つけてきた娘だね」

はやての隣にもう一人の少女が口を開く。その少女ははやてとは少しデザインが違う真黒な制服を着ていた。腰まで伸びた金髪、そしてゆったりとした言葉遣いで喋る人物。

時空管理局執務官、フェイト・T・ハラオウンだ。

フェイトもはやてが展開したモニターを見て、今回試験を受ける一人の受験者を確認する。

そこには顔立ちに幼さが残る二人の少女がいた。一人は青い髪で活発そうな娘とオレンジ色の髪をした真面目そうな娘。

二人とも真剣にリンフォースの説明を受けており、フェイトも自分にもこんな時があったなと懐かしんだ。

「うん。なかなか面白みがあるええ素材や」

「今日の試験の様子を見ていけそうなら正式に引き抜き?」

今日、二人がただ魔導師試験を見学するためにここにやってきたのではない。今度、設立される古代遺失物管理部「機動六課」に必要な人材を求めにやってきたのだ。

技術員、サポート員、事務員などの人材が集まりつつ中、育てればダイヤモンドにも匹敵するであろう輝きを秘めた原石のような戦闘員が見つからなかった。

しかし、フェイトや戦技教導隊に所属している高町なのはの協力により、納得のいく人材を見るける事ができたのだ。

それが、今リンフォースの説明を受けている二人なのである。

「うん、直接の判断はなのはちゃんにおまかせしてるけどなぁ」

「そっか」

「部隊に入ったらなのはちゃんの直接の部下で、教え子になるわけやからなぁ」

「で、こっちも直接ではないけどなのはに教えてもらうことになるかもしれないしね」

フェイトが展開したモニターをはやての方に持ってくる。そこには、さっきの二人とは別の場所にいる二人の男女の姿があった。

「これが、フェイトちゃんが見つけてきてくれた子やね」

「見つけたというか、私は何もしてないよ。男の子の方はなのはが見つけてきた子だし、フィオナの方は、ね」

フェイトの表情に不安が浮かぶ。

しかし、はやてはそんなフェイトに同調するのではなく笑顔で答える。

「“立ち向かうための意志を持った子”

大丈夫、フィオナもそれをちゃんと持っていると確信したからこそ、うちは候補生として取り上げたんや。だから、変な所で気にしちゃいけないよ、フェイトちゃん」

「……うん、ありがとう、はやて」

「お、リインの説明が終わったようや。

今度はフィオナ達の方の説明やね」

フェイトとはやては説明が終わった二人の少女のことを気にしながら、もう一組の方に注目した。

 

青い空、白い雲。

そして、気持ちが良い風。

既に町として機能を失った所に私は立っていた。何一つちゃんとした形を留めていないビルの並び。そんな中の一つであるビルの屋上に私は立っているのだ。

錆びたフェンスの向こうには本日、試験を行う会場がある。空には今回、敵となる機械があちこちと姿を見せている。

多分、ビルの中にもたくさんの機械が配置されているはず。

自然に私は両手に握っている少し長めの双剣に力が入る。

私は巧みに体を動かし、両手にある剣をふる。抵抗を感じず空を切る音が一度、三度を続き、動きを止めた。うん、今日は調子が良いようだ。魔力量も昨日、たっぷり寝たから満たされている。

身体に重さが感じず、訓練していた疲れも取れていた。

私は剣を両腰に収め、試験開始を待つ。

しかし、そんな万全の体制である私には不安なことが一つだけある。

「もう一人が来ない……」

今日、一緒に試験を受けるという人物の姿がまったく見えないのである。今回受ける試験はいつもとは違い、特殊な試験となっている。それは、もう一人とのコンビネーションも試験の対象となっているのだ。しかも、陸士と空士の試験であるので敵は陸だけではなく空からもある。

よって、陸士にとっては空からの攻撃は難敵で、空士にとっては陸からの攻撃は厄介なのである。だからこそ、コンビネーションがどれほどとれているのかが、キーポイントとなってくる。

そのため、打ち合わせするために早めに来たのにもかかわらず、未だに姿を現さない人物に苛立ちを覚えていた。

時間を調べる。開始五分前。

その時、何かが横切った。何かと思い、横切った方向を見るとそこには、長杖を持った栗色の髪に短髪の少年が浮いていた。

その少年は管理局で支給されている空士の戦闘着を着ている。ぴっちり身体にくっついた服の上に防御性を高そうなジャケットを羽織っている。少し不恰好にも見えるが動きやすそうである。私が着ている服もお母さんが今日のために用意してくれた服でとても動きやすく、とても気にいっている。

急いできたのか、少年の顔から汗が出ており、息を上げていた。

少年は私を見つけると笑顔を浮かべ、降りてきた。

「遅れてすいません! 今日一緒に試験を受ける人ですか?」

少年は私の前に降り、一息つき、汗を拭いた。

「…………」

「えーと、試験受ける方ですよね?」

「…………」

頷く。

「よかった。自分はユウヤ・キノシタ三等空士です。本日は、よろしくお願いします!」

少年―ユウヤ三等空士は敬礼をし、笑顔を向ける。

「……フィオナ・T・ハラオウン三等陸士です」

私も釣られて敬礼をする。すると、ユウヤ三等空士は手を差し伸べてきた。

「堅苦しいのは嫌いなのでユウヤでいいですよ。こっちもフィオナて呼んでいいですか?」

また、笑顔を浮かべる、ユウヤ三等空士。その笑顔を見ているとお母さんの言葉を思い出した。

(相手が笑顔の時は自分も笑顔を出すんだよ)

そう思い出した私はできる限り、慣れない笑顔を浮かべ、頷き、手を取った。

ユウヤ三等空士、いやユウヤの手はとても暖かかった。お母さんとはまた違ったにくもり。

「どうもすいません。こんな試験直前に着いてしまいまして……」

「どうして、遅れたの?」

この試験は私にとってはとても大切な試験なのだ。それは向こうだって同じことなのではないだろうか。

「謝罪は後で……今日の試験のことですけど」

「おっはようございます!」

突如、目の前に大きなモニターが浮かんできた。そこにはリインの姿があった。

何の偶然か、彼女が今日の試験の現場責任者。リインの姿に和まされ、緊張が緩みそうになる。

「今日、特例魔導師試験を受けるユウヤ・キノシタ三等空士とフィオナ・T・ハラオウン三等陸士でよろしいですね?」

『はい!』

「では、今回の試験の内容を説明致します。この特例魔導師試験は全て戦技だけで判断される特別な試験です。筆記試験などは行いません。その代わりに空士と陸士との合同試験となっています。仮想敵はより高度な戦略が必要となるガジェットと呼ばれるものを採用しました」

ガジェットとはレリックと呼ばれるロストロギアにだけ現われた謎の機械の名前。自律判断が可能なAIを搭載しているとおり、魔力結合を無効化にするフィールド魔法AMFを保有している。

空を見る。

先程、見えたのは飛行型のガジェットU型ということになる。ビルの中にはカプセル型のT型が潜んでいるのだろう。これは、苦しい試験になりそう。

「察しがついていると思いますが地上にはT型が配置されています。AMFも搭載されているのでフィオナ三等陸士はユウヤ三等空士と力を合わせて頑張ってください」

ガジェットU型はAMFを搭載されていない。その代わりに機動力がT型に比べて遥かに上で、ユウヤも厳しい戦いになる。

「では、五分後には試験開始です。準備を開始してください」

『はい!』

モニターが消える。私は隣にいるユウヤに顔を向ける。

「……それで、コンビネーションなんだけど」

私が一番気がかりであったコンビネーションについて話を持ち出す。

「うん、フィオナの武器はその双剣?」

私は頷く。腰から双剣を抜き取る。

「となると、接近戦のスタイルだね」

「そっちは空士だから遠距離の砲撃魔導師?」

「そうだね。

だから、初めに空と地上で各個撃破に当たって状況に応じて念話でお互いのガジェットの位置を教えていくのでどうかな?」

「けど、コンビネーションはどうするの?」

それでは、ただの空戦と陸戦との戦いだ。

「そっちが危険になったら後方支援をするよ。

そのためにも空のガジェットを早く撃破した方がいいと思う」

それは、私が空のガジェットには手も足も出ないと思っているのだろうか。そう考えているとしたら心外だ。

私だって私なりに空に対する対策を練ってきたというのにこのユウヤは初めから私を空では戦えないと思っているのだ。

私は抗議しようと口を開きかけた時に試験開始のメッセージが浮かんできた。

「じゃ、頑張ろう!」

ユウヤはビルから飛び降り、空を飛ぶ。そのまま、U型の元へと加速していった。

「…………」

私のビルから飛び降りる。魔力を使い、減速しながら地上に降り立つ。既に何機かT型の姿が出現していた。

「……こっちの方こそさっさと終わらせて支援してみせる」

そして、さっき言った言葉を撤回させてみせる。

私はT型に向かってブーストを駆けた。長い戦いが今、始まった。

 

身体が空気に包まれる。

台風のような轟音を耳で聞きながら、目の前の風景が刻一刻と変わっていく。さっきまで遠かったU型の姿が今では自分の攻撃が通る有効範囲に入った。

「……ふっ!」

急停止。

身体に来る衝撃を緩和しながら、脳内で編んだ魔法を実現させる。自分の周りに射撃魔法誘導操作弾が八つ。獲物を見つけた狩人のように敵に向かって飛び出した。

三機いたU型に一つずつ、魔法弾が回避されないように不規則な動きで惑わしながら襲い掛かる。

しかし、U型に到達する前に魔法弾は塵のように消えていった。

「っ、U型にAMF!?」

驚く。魔導師の間で難敵とされている機械、ガジェット。

AMFという魔力結合を無効化してしまうフィールド魔法を独自に搭載されているため、純粋魔力魔法などは無効化されてしまう。

自分が使っている魔法はミッド式という純粋魔力魔法が主流であるため苦戦を強いられている。だが、今までAMFが搭載されていたのはT型だけ。

U型に関しては搭載されていなかった。その代わり、機動力があったがミッド式の魔導師でも対抗できていた。

が、しかし、今自分の目の前にいる敵はAMFが搭載されている。よく見ると少しだけ今までのU型のデザインが違っており、エンジン辺りに何かを載せていた。

これは管理局が近い将来、AMFを搭載したU型が出現する事を想定して作られたということに気付く。

……これは、きつい試験になりそうだ。

今回、試験の敵はガジェットではないかと自分の中で予想はしていた。空士と陸士との合同試験。それをクリアする仮想敵はガジェットぐらいしか該当しなかったからだ。

だから、過去に空士の演習で戦技教導隊の人と一緒にT型、U型と戦闘したことがある経験を持っていたのでAMFを持っていないU型を殲滅し、陸士のフォローに回ろうとした。

だが、その考えは甘かった。

演習でやったことと同じことをするのは試験ではない。今まで経験したものを使って困難を乗り越えるのが試験。それを深く考えていなかった。

U型がこちらに標準をつけて装備されているミサイルを発射した。火薬を詰め込んだ無数の鉛弾が詰め寄ってくる。

片手を前に差し出し、バリアを生成する。バリアとミサイルが衝突し、爆音が当たりに響き渡る。

攻撃は続く。後方に回った他のU型が同じくミサイルを放つ。それをバリア生成時に発生させていた魔力弾で迎撃する。ミサイルを貫き、爆発が起きる中、相殺されなかった魔力弾がU型に向かって行くが、当たる前に消えていった。

残りのもう一機が下から同じ攻撃を行おうと照準を合わせようとしていたが、こちらも準備は完了している。杖の先端に魔力が溜まり、早く放てと杖から聞こえてくる。

「受け売りだが……直射砲撃魔法ディバインキャノン!」

開始直前から他の魔法と並列に処理を行っていた魔法を発動する。杖を下に向け、青白い魔力の塊が狙いを定めていたU型に向かって真っ直ぐ落ちていった。

U型はAMFを発動していたが、エネルギーが膨大すぎて衝撃を相殺することができず、下にあるビルに向かって落ちていった。ビルは崩れ、U型は瓦礫の下敷きとなる。

周りにいた一機のU型も魔法の際に発生した風によって安定が取れなくなり、吹き飛ばされ、近くにあったビルに衝突し、破壊された。

「……ふぅ」

始まって早々の全力の直射砲撃魔法。魔力も大部削られてしまった。辺りを見回すと、他のU型の姿がない。これで終わりなのかと思ったがこの数だけで済むはずがない。

今までのが準備運動で、これからもっと来るのだろう。そう思うとこの一時の静けさが不気味さを増す。

「……あっちはどうなっているだろう」

もう一人の試験者の姿が脳裏に映し出される。あまり口数が多くないように思われる黒髪を後ろに縛っている少女。細い身体にもかかわらずに両手に剣を持っており、大丈夫なのかと思った。

だけど、透き通るような翠色の目からこの試験に対する覚悟と勇気を感じた。彼女もちゃんとした意思を持った戦士なのだと確信した。

空から見下ろす。

フィオナがいる場所はすぐに判明した。ビルの中からちょうどフィオナが飛び出したからだ。表情から苦戦しているようでフィオナの後に数機のT型の姿が現われる。そして、別の場所にもT型の姿があり、フィオナを挟み込もうとしていた。

すぐにフォローに回ろうと思ったが目の端に何かが映った。その方向に振り向く。

そこには先ほどとは数が違いすぎるU型の姿があった。よく見るとAMFを搭載されていないものまである。

(フィオナ!)

念話でフィオナを呼ぶ。

(……っ。何!)

フィオナの声は荒れており、相当追い込まれているのが分かる。

(別の方向からT型が迫ろうとしている! このままでは挟み撃ちになる!)

それを聞いたフィオナは方向転換し、やり過ごした。だが、厳しい状況は一向に変わっていない。このままでは、二人共脱落してしまう。

それは、絶対にダメだ!

せっかくあの人に推薦してもらったというのにそんな結果で終わらしたくない。

この特例魔導師試験はある程度の地位がある人からの推薦と戦技についての試験審査を通過された人だけが受けられる試験だ。

年に一度あるかないかの試験で、推薦をもらった人は試験審査を受けることとなる。

試験審査の基準は年齢に比例してどのぐらいの実力を持っているのか魔力量、戦略、戦術、身体能力などで測り、審査を行っていく。そして、そこをクリアした者だけが特例魔導師試験を受ける資格を得る事ができるのだ。

特例魔導師試験の内容は以下の二つ。

実践に近い模擬戦と、陸士と空士とのコンビネーション。

空と陸の敵を二人の力を合わせて乗り越えろというもので、一緒に組む人はどんな人かどんな敵と戦うのかなどの詳細なデータは知らされない。実践ではそんなことが分からないことが当たり前なのでそういう処置を取っているのだろう。

試験審査が通った時は心が躍った。嬉しさを抑えきれず、多忙である人に連絡し、結果を通知した。頑張ってこいと言われた。

空士の訓練に力が入り、今までやっていた自主練習のメニューを増やし、こなしてきた。あの人の期待と自分の夢のためにひたすら頑張ってきた。多彩なシュミレーションの数をこなし、新たな戦術を学び、陸士とのコンビネーションについて考えてきた。

だから、ここまで来て結果を残せないのは絶対にやってはならない。

杖を構えなおす。

(フィオナ、空にいるU型にもAMFが搭載されている。そっちに行かせないようにするけど気をつけておいて。できるだけ早く殲滅してみせるけど、そっちはまだ持ちそう?)

(はぁはぁ……持つけど)

息が上がっている。このままでは、T型に囲い込まれてやられてしまうのが目に見えている。

(ねえ、ユウヤ。私達は……)

(ごめん。出来るだけ早くフォローに回るから、何とか持ちこたえて!)

(あ、ちょっとまっ……!)

念話を切り、U型の迎撃に移る。周りに魔力弾を発生させる。

八から十六、二十四!

「シュート!」

二十四個の魔力弾がU型を襲う。二十四個も操作ができるわけがないので、その中から八個だけ操作し、AMFを装備していないU型に狙いを定める。

だが、装備されていないU型は悠々とその攻撃を避け、こちらに向かってきた。

「くっ、機動性がさっきと全然違う!」

無数のミサイルが駆け巡る。その全ての標的が自分。

あれだけの数を防ぐのは不可能だ。

しまった、と思った。

向こうはAMFを搭載していないU型を攻撃してくると読んでいた。そして、その機動性を生かして回避し、流れるような攻撃をしてきたのだ。

ミサイルを回避するために下降し、やり過ごそうとする。だが、向こうはそれをすらも読んでいたかのように回り込み、ミサイルを連射した。

時にはバリアで相殺し、シールドで反らしたりした。魔法弾などで数機撃破していたが、まったく数が減った感じはしなかった。そして、とうとう処理が追いつけなくなった。

数ある一機に後ろに回りこまれた。

バリアを発生したばかりで対応ができないし、動く事もできない。

U型のミサイル発射管がゆっくりと開く。

四つの鉛色が姿を現し、こっちに向かって突撃してきた。

ああ、ここまでか。

今まで苦労してやってきた訓練を思い返す。辛い訓練。やるせない思い。それでも叶えたい夢。その全てがこんな鉛弾によって打ち砕かれてしまうのか。

不意にある記憶が蘇る。

長い間、自分の大部分を占めているある記憶を。

自分が空士になり、絶対に戦技教導隊に入ると決めた夢を。

だから、こんな所で……

「そんなもので打ち砕かれてたまるか!」

出来る限り、処理を行い、バリアを形成しようと杖を持った右手を差し出す。だが、一向に右手からは防御の魔法が発動しない。

例え、身体に重大なダメージを受けたとしても戦うと覚悟した瞬間、自分の前に何かが立ち塞がった。ミサイルはそれと衝突する。

爆風が起き、身体が吹き飛ばされる。

「くうううぅぅぅ……!」

何とか体勢を整えようと魔力を安定の方に回す。何が起こったのか確認すると、後ろからガラスが割れる音がした。後ろを振り向くと立ち並ぶビルのガラスが割れている。

だが、一つだけ人が飛び込んで割れたようなガラスがあった。

「まさか!」

再度攻撃してくるU型に向かってバリアのために溜めていた魔力を別の事に使う。自分の周りに目映い光が発生した。その直前に眼を閉じ、一目散にその場所に向かって飛んでいった。

 

「……くうぅ」

使い古されたデスクが所々に転がっているビルの中、私はガラスの破片にまみれて倒れていた。中はデスク以外に何もなかったために勢いは殺されずに壁に激突した。

全身に痛みが走りめぐり、衝撃により一瞬息ができなくなった。

今でも痛みは治まらず、呼吸するのがままならない。

視界が歪む。今、どういう状況になっているのか把握することができない。

「大丈夫か!」

割れた窓から誰かが入ってきた。必死に確認しようと歪んだ視界を正常に戻そうとする。二重に見えた風景が少しずつ一つに重なっていった。

そこには、心配した顔で駆け寄ってくるユウヤの姿だった。

「だ、いじょう、ぶ……っ!」

無理して立ち上がろうとすると左腕に鈍い痛みが走って座り込んでしまった。どうやら、壁に衝突する時に咄嗟に左で庇ったようだ。その代わりに他の所は痛みが引いていく。

「まさか、左腕が?」

あまりにも鋭い痛みのせいで隠すことが出来なかった。

「動くか?」

ユウヤが膝を崩し、優しく私の左腕を取った。肩からゆっくりと手に向かって揉んでいく。肘の所で痛みが起こった。

「っ!?」

「肘か……ちょっと待って」

右手を私の肘の所に当てる。少し経つとユウヤの右手から淡い光が出る。その光が私の肘の周りに覆う。すると、さっきまで痛かった痛みが徐々に引いていくのが分かった。

「砲撃手なのに、回復魔法」

「うん? ああ、何か自分は怪我をよくする体質でね。

適性はあまり高くないと言われたんだけど頑張って覚えたんだ」

口で簡単に言っているが、並大抵ではないことである。適性である人が一日で十学べるとしたら、適性がない人は一、または二しか学ぶ事しかできないのだ。

普通の人なら時間の無駄と感じ、やめてしまうものだが彼は根気よくやって習得したのだろう。

静かな時が流れる。

光がなくなり、ユウヤが手を離す。

「これで、大丈夫だと思うんだけど、どう?」

そう言われてゆっくりと左腕を曲げる。うん、さっきまでの痛みが嘘のように消えていた。

「そういえば、敵は?」

今が絶好のチャンスであるはずなのに敵は一向に襲ってくる気配がない。

「あぁ、目くらましを使ったから今、策敵している最中じゃないかな。

今、魔法を使ったからこっちに向かっているかもしれない」

ユウヤが応える。その表情はとても険しい状況で最悪であることを語っている。

けど、私はいつ敵が襲ってくるか分からないのにも関らず別のことに考えていた。

この周りを顧みない突撃思考の空士に言っておかなくてはいかないことが。

「ねえ、ユウヤ」

「ん、大丈夫だよ。U型に対する行動パターンは読んだからすぐに終わらせてみせ……」

パン。

乾いた音かビル内に響いた。

私は彼の頬を叩いたのだ、治ったばかりの左で。

「……あなたは人の話を聞かない人なの?」

ユウヤも予想外の攻撃だったのが唖然としていた。だけど私は構わずにしゃべり続ける。

「私だって今日のためにできる限りの事はやってきた!

空の敵に対する対策もしてきたし、コンビネーションのことも考えてきた!

なのに、あなたは私の意見を聞かないで一人で何とかしようとしている! 自惚れないで! あんな状況を一人で何とかできるわけないじゃない!」

今まで思っていたことを全て吐き出す。コンビネーションだというのに一人で戦っているような感覚。確かに空からは攻撃はなかったけど、いつ上から襲ってくるか心配でしょうがなかった。

まったくもってユウヤを信用することができなかった。会ってからそんなに経っていないのにそういう関係になれるわけがないとは知ってはいるけど……

“会ったばかりの人にはお互い思っていることを言葉にしなきゃくちゃいけないんだよ”

お母さんの言葉を思い出す。お母さんは嘘をつかない。自分が経験した事から得たことを自分に教えてくれているからだ。

だから、私はお母さんの言った事を信じる。

「けど、二人だったら何とかしていける……お互いの事を思っていれば乗り越えられる事ができるはずだよ」

私は近くに転がっていた愛剣を拾い上げる。汚れてしまった所を服でとる。

ごめんね、けど守ってくれてありがとね。後ろからU型に襲われそうになっていたユウヤを守るためにT型に囲まれていたため無理な状態から空中に跳び、できる限りバリアを張り、二つの愛剣を前に差し出した。

爆発はバリアで防ぐ事はできたからその後の爆風には耐えられなかった。身体は今いる場所まで吹き飛ばされたのだ。

「……悪かった。確かにフィオナの話を聞こうとしなかった」

ユウヤは立ち上がりながら謝った。その目は今まで辺りを気にしていた時とは違い、ちゃんと私を見ていた。

「フィオナの話を聞かせて」

「……それはパートナーとして?」

パートナーという言葉にユウヤは少し驚いた様子だったが。

「ああ、パートナーとして」

と、今までに見た笑顔の中で最高の笑顔を浮かべた。今なら分かる。

それは本心から出た笑顔であると。

「……じゃ、言うけど。ユウヤも異議があったら言って。

それこそ、パートナーだと思うから」

「分かった」

ユウヤは頷く。

呼吸を整え、私の考えをユウヤに話す。

この状況を乗り越えるために。









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