『失礼します』
頭いっぱいまで茶色のフードをかぶせた二人組みが部屋に入った。端から見ると怪しい二人ではあるが、部屋の主は二人の姿を確認し作業の手を止めて笑顔を向ける。
二人はフードを取る。そこには制服姿のはやてとカイルの姿があった。
ミッドチルダ北部に存在する大聖堂・聖王教会。
そこにある一室にはやてとカイルはこの部屋の主に会うために訪れていた。
「久しぶりね、はやて」
部屋の主がはやての名を呼ぶ。
カリム・グラシア。
ここ、聖王教会の騎士団に所属しており、今回の機動六課設立に支援をしてくれた一人である。カリムは席を立ち、二人に近づく。
それをはやては笑顔で迎え、カイルは真面目な表情で待ち受けた。
「それと、初めまして。聖王教会の騎士団カリム・グラシアです。
以後、お見知りおきを」
「いえ、こちらこそ恐縮です。
自分もこの席に参加できることを感謝しております」
はやては普段のカイルの態度とは大きく離れているため、耐え切れず笑う。
「……何ですか、八神部隊長。
何かおかしな所でもありましたか?」
「いや、なんていうか……そのしゃべり方がな……違和感がありすぎて、あはは」
「いつも通りでいいですよ。はやてとは個人的に友人ですから」
「……では、お言葉に甘えさせてもらいます。
はやて。お前、笑いすぎだ」
「ええやない。いつもうちが笑われっぱなしなんやし、こういう所で清算せな」
「その代わりに、新人達とはうまく馴染めてるだろうが」
「それとこれとは別問題や。
その倍ぐらい恥ずかしい思いしとるし」
「ふふっ……本当に仲がよろしいんですね」
カリムははやてとカイルの会話の様子を見て、うまく部隊をやっていけているのだと思い、内心、安心する。
「いえいえ、できたら騎士・カリムとも仲良くしていきたいと思ってますよ」
カイルが自然にカリムの手をとる。はやてはカリムまでちょっかいを出そうとしているカイルをはたこうとするがカリムは動じずに笑顔を浮かべる。
「カリムと呼んでください。そうですね、私も仲良くなりたいと思ってます。
機動六課でのはやてはどんな風なのか聞きたいですし」
「それは山ほどありますよ。
主に面白、恥ずかしい話がたくさん。よかったら、幼少期から教えてあげますよ」
「あら♪」
「あら♪ やないよ、カリム!
その大半がカイルのせいでそうなっただけや! それに、幼少期まで持ってこんでええ!」
「ここで人がどうというのは関係ないさ、はやて。
はやてがどんな風になったかが問題だ。それに、幼少期の頃のはやてを友人に知ってもらうのはいいことではないか」
「あんたの場合、捏造するやないか!」
「捏造はしなしさ。
ただ、表現を派手にしているだけで」
「それが、あかんのや!」
「まあまあ、いいじゃないはやて。
私も知りたいわ。小さい頃のはやてを」
「カリムまで!」
「さて、区切りがいいから一旦、ここで止めよう。
ね、カリムさん」
「そうですわね。今日は面白いお話が聞けそう。
さあ、こちらへどうぞ」
カリムが案内する。
「全然、区切りじゃないやん!
てか、二人共仲よおなるの早すぎや!」
はやてが喚こうが二人はただ、笑顔を見せるだけで先に歩いていってしまった。はやてはこの二人は会わせるべきではなかったと後悔するばかりであった。
「で、今回。二人に来てもらったのはこのためです」
カーテンが閉められ、電気も切り、部屋は暗黒に満ち溢れる。その中で三人が用意された椅子に座り、お菓子や紅茶などが用意された机の上に出ている複数のモニターを見た。
そこにはガジェットといわれている機動兵器の映像だった。
T型とU型。
そして、図体がでかい丸型のガジェットのような映像もあった。その隣では厳重に封じられた箱の姿がある。
「これガジェット……」
「見たことない形だな、新型か?」
カリムはモニターを操作する。新型と思われるガジェットの等身が表示される。人よりも幾分か高い。大型兵器が開発されたということは開発者側の資金も潤いが出てきたという事実にはやてとカイルは眉をひそめる。
「戦闘性能はまだ不明だけどV型は大型ね。
本局には正式報告はしてないわ。監査役のクロノ提督には触りだけ報告したんだけど」
「U型もつい最近、出てきたばかりだというのに……よほどのバックが存在しているのか」
「それと、開発の方もやね。生産ラインができてきとるという風にも思える」
「そして、V型が発見されたきっかけだけど……これなの」
カリムが箱の映像を中心に持ってくる。
「これが今日の本題……おととい付けでミッドチルダに運び込まれた不審貨物」
「レリックだな。何度も見てきたから間違いない」
「やはりね……V型が発見されたのも昨日からだし」
「ガジェット達がレリックを見つけるまでの予測時間は?」
「早ければ今日、明日」
はやての中で疑問が浮かぶ。
「そやけどおかしいな。レリックが出てくるのはちょい早いような」
「だから、会って話したかったの。これをどう判断すべきか。
どう動くべきか……そして、ガジェットの背後にいる人物が誰なのか」
「それで、俺を呼んだってことか」
カリムがカイルの方を向き、頷く。
「レリック事件もその後、起こるはずの事件も対処を失敗するわけにはいかないもの」
レリック事件という言葉にカイルはわずかに身体を動かしてしまった。
その様子をはやては見逃さなかった。
「カイル……」
「大丈夫だ、はやて。俺も昔の自分じゃない。
いつまでも悲しんではいられないからな」
カイルは笑顔を向け、はやてを安心させる。そのカイルの心遣いにはやても笑顔で応えた。
「……うん」
その微笑ましい様子をカリムは温かく見守っていたいのだが心を鬼にし、カイルに立ち向かう。
「それで、カイルさん。
フェイト執務官からはやてを通じてあなたは送り主は不明ですけどレリックの送り先を判明したと言っていらしたみたいですけど……できたら、教えていただけませんか?」
カイルが鋭い視線でカリムを見る。
その人を探るような眼をカリムは逸らすことなく見つめる。緊迫の空気へと変わった雰囲気にはやては内心、心配ではあったが表情に出さないように演じる。
はやてが幾度か聞こうとした情報。
どうしても教えてくれなく、その度に話を逸らされ、聞ける事ができなかった。
そこで、カリムがその役を買って出た。
これから起きりえる事件のために。それと、カイル自身のためにも。
「どうしても教えなくてはだめなのか?」
カイルは笑顔を浮かべつつ拒絶のオーラを出す。そのことを予想していたカリムは怯まずに攻撃を続ける。
「ええ」
「……会って間もないがはっきり言わせてもらう。
教える気はまったくない」
「じゃ、何故あなたは機動六課に入ったのですか?」
「それははやてとの約束を果たすため、サポートとして入ったんだ。
別に情報提供するために入ったわけではない」
「そして、独自にレリック事件を調べるためですよね?」
カイルが言葉に詰まった。
「はやても私もレリック事件について解決したいと思っています。それでしたらお互い情報交換するのは効率がいいとは思えませんか?
それとも私達の情報は役に立たないとでも?」
「いや、そういうわけではないんだが……」
渋るカイル。これはダメかと思ったはやてであったがカリムはそんなはやてを見て、心苦しく思ったが情報を聞き出すために用意していたものを提示する。
「それとも、その情報を手に入れるためにどのような事をしたか大切な人に知られたくないからですか?」
カイルの表情が一気に変わった。今まで、柔らかい笑顔で対応していたが核心に触れたため、カリムに敵意をむき出しになった。
はやて自身もカリムが言った内容とカイルの変わりように驚く。
カリムだけは厳しい表情を変えず、カイルの反応を冷静に受け止めた。
「お前……」
「そのご様子ですと真実みたいですね。
悪いと思いましたが調べさせていただきました……あなたが裏社会でレリックについて調べていたのもそこで“収集者”と呼ばれていたことも」
「ちょ、ちょい待ってや、カリム!」
はやての制止にカリムは一旦、はやての方を見る。
その眼は迷いを見せないために冷めたように見せる。カリムの演技にはやては騙され、怯えた。カリムはそのまま演じ続ける。
「何ですか、はやて」
「カイルが裏社会にいたってどゆことや!」
「……はやて、私はそれぐらい予想していたと思っていたんだけど……それとも、できていたけど否定したかったのかしら」
的確な攻撃にはやてはそれ以上何も言えなくなる。
「管理局でも入手ができていない情報を握っているということはそれなりの道でそれなりの対価を払わないと入手なんてできないわ」
カリムは二人を押し黙らせたことを確認して追撃する。
聖王教会騎士団であり管理局の理事会であるカリム。相手の裏を読むのが日常茶飯事の世界に生きていた人の前では二人など赤子同然だ。
相手の内心を見る読心術と相手に自分は恐ろしい存在だと知らしめる演技。
その二つを兼ね備えているカリムにはやてが対峙できるわけがない。それはカイルも同じことが言えるはずだった。
「カイルさんは随分、裏社会で名の通った存在みたいですね。
そして、やってきたことも」
「……何処まで知っている」
カイルは押し黙らなかった。先ほどよりか冷静さを取り戻し、ポーカーフェイスを気取ろうとするが時は既に遅し。わずかな抵抗をするカイルにカリムは畳み掛ける。
「……さあ、何処まででしょうか。
私がいえることはあなたがやってきたことははやての傍にいていい人ではないと思っています」
カリムがモニターのボタンを押し、ガジェットのデータを閉じた。次に手紙のようなアイコンを出現させる。
「ここに、私の権限を使ってあなたについて調べてきた報告書があります。
あなたが管理局をやめてから何をやってきたか。ほとんど記録できていると思われますが」
それを聞いたカイルの脳内には最悪の展開が思い浮かぶ。
カイルは一瞬、はやての方を見る。はやてはその手紙の映像に釘付けとなっていた。
「……お前はそれをどうしようと思っている?」
「それは、あなたの行動次第です。
賢いカイルさんならば解かると思いますが?」
時間が空く。
カイルはカリムを敵として睨み続ける。カリムはカイルの事を許せなくて睨み続ける。
その両者の様子を見て怯えていたはやてであったが立ち上がる。
二人共はやての行動に視線がはやてに集中する。
そこには怒りを心に秘めているはやての顔があった。
「カイル……今日の所はもう帰り」
「何を言っているはやて。俺は用事を済ませてない」
「ええから、帰り。部隊長命令です」
「だが……」
「カイル!」
はやての怒声にカイルは無言で頷く、立ち上がる。
「今日は楽しい日にできませんでしたことをお詫びします、カリム」
「いえ……今度、会ったときに楽しい日であることを願います」
「私もです……では、失礼致します」
「お送りする者を扉の向こうで待機していますのでその方に申してください」
「はい……では」
カイルはお辞儀し、部屋を退出した。
それを確認したはやては椅子に座り治す。だが、以前としてはやての表情は変わっていなかった。
「どうしたの、はやて……後、もう少しで聞きだせるはずだったのに」
はやての妨害により後もう少しで届きそうだったものがかすった程度で終わってしまった。
カリムははやてからの願いだったのにはやて自身がそれを妨害したことに疑問を浮かべる。
「カリム……今日はどうしたん?
今日のカリムはいつものカリムじゃないよ」
「それは、どういう意味かしら?」
「あんな言い方はおかしいよ、カイルが怒るのも当たり前やないか」
「怒るって……はやて、そういう話じゃないのよ?
今のカイルさんの反応を見て分かったでしょ、彼、ひどいことをしてきているのよ?」
「それは知っとったよ。
フェイトちゃんから話は聞いてたから。でも、あんな言い方はないやない」
「“あなたがやってきたことははやての傍にいていい人ではない”ってこと?」
はやてが無言で頷く。
「うちはそれを承知で機動六課に入ってもらおうと思って誘ったんや」
「だから、傍にいていいと?」
「……そうや」
「けどそれって昔のカイルさんにでしょ」
はやてが怒りに任せた攻撃が優勢かと思ったがカリムは冷静に場の雰囲気を読み、反撃に転じる。
「どういう意味や、カリム」
「はっきり言わせてもらうけど、はやてがカイルさんを入れようと思ったのは局員時でのカイルさんであって今のカイルさんではなかったはずよ」
「…………」
「これも調べたのだけど昔のカイル執務官は明るく、仕事はあまり真面目にしてないけど能力が高く、悪戯好きなで何故か人望が厚かった人……それが、はやてが知っているカイルさんではなくて?」
「……そうや」
はやては追い詰められ、表情が引きつる。そんなはやての表情を見たくないカリムではあったが危険な事をしている妹に姉は心を鬼にして理解させようとする。
「けど、今のカイルさんはそうじゃないってはやても分かっているわよね?」
「…………」
返事がないことをカリムは肯定と取る。
「それに、彼の存在は危ないわ。
査察なんか入られてカイルさんのことをつっこまれたらどうするの?
瞬く間に潰される可能性もあるわ。せっかく作り上げたはやての部隊が」
「……そんなことはさせへん。
それに、罪を犯しているんならうちが起こした闇の書事件みたいに機動六課で償っていけばええ」
はやてのわずかな抵抗にカリムはため息を吐く。
「はやて、大人になりなさい。
あなたは分かっているでしょう、それには莫大な時間がかかるし償いきれるものでもないかもしれないって」
「……それは」
「それに……管理局にも汚い所はある。
正しい事がやりにくいということを……そして、犠牲も必要な時があるってことも」
「せやけど、うちはカイルを犠牲にしたくない!」
はやては断固、拒否する。
その執念ともいえる真意にカリムは眼を尖らせた。
「それは、何故?」
「自分の部隊ができたら入って欲しいと約束したから……それと」
「それと?」
「カイルの鎖を解いてあげたいと思っとる」
「……鎖?」
「カイルはレリック事件で恋人を亡くしとる。そして、事件の真実を見つけるために全てを犠牲にして調査をしているんや」
カイルと再会した際に聞いたカイルの目的。
そして、彼はレリックという鎖に縛られていることを知った。それと同時に解いてあげたいとはやては思った。
はやてもエリのことは大好きだった。普段は大人しくて優しいのに、変なところで意気地になったりする所があり、それで喧嘩したこともあった。
だが、はやてはエリのことを一度でも嫌いになることはなかった。
そのエリがカイルの中では悲しみの対象にされていることが耐えられなかった。
「……その約束のために部隊の危機に瀕していいと?
輝きしい未来がある新人達に迷惑をかけていいと?」
それを言われてはやても気持ちが揺らぐ。自分の我侭のせいで才能に満ち溢れた新人達が犠牲になってしまうという恐怖。
しかし、ここではやてはとんでもない提案を提示する。
「そうなった時はうちが犠牲になる!」
はやての予想外の答えにカリムは思考を止めた。
そして、次に怒りを覚えた。はやてのために言ったのにその本人は自分を犠牲にしていいと言っている。カリムは正直、カイルのことを恨んだ。
ただの厄災ではないかと。
カリムの表情も厳しいものへと変わる。
「あなたの犠牲だけで抑え切れるものじゃないのよ」
「その時はその時や、全ての権限を使ってうちだけにしてみせる」
はやてとカリム、両者はにらみ合う。
お互い、譲れないもののために。
カリムは妹のようにかわいがっているはやての幸せのために。
はやてはエリとその恋人だったカイルの呪縛を開放させるために。
静かな時が流れる。
だが、それもすぐに終焉を迎えた。終焉を迎えたのはカリムだ。
カリムは一旦眼を閉じ、次に開けた時には普段のカリムへと変わっていた。カリムがモニターを押す。
手紙のモニターがはやての元へと流れる。その行動にはやてはカリムを見る。
「か、カリム?」
「一応、それは預けておくわ。
そこにはカイルさんを解放するためのヒントが隠れているかもしれないわ……だけど、時が来たら私は全力ではやてを守るわ。それがはやてにとって苦しいものとなってもね」
カリムは自分のことを心配して今まで心を鬼にして言っていたとはやては知る。
そして、自分が言ってきたことが彼女を苦しめていた事も。
それを全て踏まえた上で優しい姉は自分が納得させるまでの時間を与えてくれた事に気付いた。
「ごめんな、カリム」
はやてはカリムに感謝する。カリムは優しい笑顔をはやてにプレゼントする。
「いいのよ。
はやては言っても聞かないのは知っているから」
「……本当にごめんな」
「謝るぐらいならカイルさんを……機動六課を守る算段をしましょ?」
「うん!」
はやては極上の笑顔をカリムに向けた。
「……どうしたものか」
聖王教会から機動六課に戻ってきたカイルは仕事に戻る気もせずに辺りを散歩していた。
普段ならからかうネタを考えているカイルではあるが今はそんな気分ではなかった。
その原因は騎士カリムが調べたという自分の事について。
カイルは自分のやってきたことが知られるのが嫌で被っていた表情を崩したわけではなかった。カリムがはやてを守ろうとしていた気持ちを知ってしまったからだ。
「あんなことされちゃ、俺はどうすればいんだよ……」
カイルはため息を吐く。
やはり受け入れるべきではなかったのか。
カイルは今になって後悔の念を感じずにはなかった。
自分の心が既に綺麗なものでないということは自覚していた。
だから、せめて自分を知る人の前では昔の自分を演じようとカイルは考えていた。
悪戯好きで相手の心にずかずかと入っていく執務官だった自分に。
一人の最愛の人のために手を汚している自分を隠して。
端から見たら悪魔に魂を売った者と変わらないであろうとカイルは自己嫌悪に陥る。
「……やっぱ、今すぐにでもここを出て行くべきか」
そう言うがカイルに迷いが生まれる。
この数週間、気を置ける友との仕事がカイルの中では心地よい居場所となっていた。
それとレリック事件のことも積極的に調べられる環境も整っている。
この二つがカイルをこの場所へと引き止めていた。
機動六課という場所を。
「だが、しかし……」
果たして、自分はそんな資格があるのかと考え込む。
管理局が自分をここに置いておくのが疑問だったカイルは独自にその理由を調べた。その中で機動六課はかの三提督が密かに支援していることが判明すると共に、一部の者が自分をダシに機動六課をいつでも潰せるようにするために置いていることが分かった。
このままではせっかくはやての夢の部隊ができたというのに自分がいるために崩壊しやすくなっている。
その事実を知ったカイルは何度も六課のメンバーをやめるべきだと考えたがさっきの事とはやての台詞が頭から離れない。
“うちは、あなたを歓迎します。うちが部隊長である限り、経歴のことであなたのことは誰にも責めさせたりはせえへん”
カイルは正直に嬉しかった。
裏社会へ身を置いていたカイルはぼろぼろになった。
汚い現実にどうにもならない事実。
そんなものを毎日、見てきたカイルはいつからか心が冷めてしまった。
そこにはやての優しい言葉。
心が暖まっていくの感じた。今までのことが幻のように思えたぐらいだ。
「……保険をかけておくか」
そんな人を自分のせいで傷つけたくない。守らなくては。
そう思ったカイルはできるだけ自分が六課にいれるように対策を考え始めた。
そこにある人物がやってきた。
「カイルさん!」
それはスバルだった。
訓練用の服を着ており、周りには誰もいなかった。
駆け寄ってきたスバルがカイルの目の前で止まる。
「おう、どうしたスバル。ティア達はどうした?」
なるべく心が乱れていることを悟られないようにカイルは振舞う。
スバルはそんなことに気付かず、質問に答えた。
「ティア達はご飯食べに食堂に向かったよ」
「ああ、そうか。今、お昼時か」
モニターで確認すると時刻は昼を刻んでいた。
「じゃ、何でお前はここにいるんだ?」
その理由に気付いているカイルであったが一応聞く。
スバルは何処か気まずそうな表情を浮かべ、用件を言うのを渋っていたが、意を決して口を開く。
「実はこの前も言ったけど……カイルさん、ギン姉に会ってくれない?」
やはりとカイルは内心で呟く。
カイルは今ははやてを守る事で頭がいっぱいだったので何とか誤魔化そうと頭を回した。
「ギンガか……あいつは元気か?」
「元気だよ」
「そうか、それを聞けてよかった。じゃ、そういう……」
「そんな誤魔化し方はないと思うよ」
がっしりとスバルに引き止められるカイル。
ナイーブになっているカイルの心理状態ではこの程度の誤魔化しか思いつかなかった。
何とか振りぬこうとするがスバルは結構力が強いので抜けることが出来ず、カイルは諦める。
「ねえ、どうしてカイルさんはギン姉に会いたくないの?
嫌いだから?」
「いや……別に嫌いなわけじゃ」
いつもの仮面が被れないカイル。
スバルの攻撃をかわすことができず、受け続ける。
どうしたものかと思ったカイルはある事に気付いた。その違和感をスバルに指摘する。
「そういえば、スバル……お前ってそんなに胸って大きかったっけ?」
不純な意味でなくスバルの胸囲が普段より大きいようにカイルは感じた。
だが、スバルの方からしたら不純としか見えず、胸を両手で隠すと思ったが違った。
一気に場の雰囲気が変わった。
スバルがカイルの腕を握る力が強くなる。
「あ、あれ……スバルさん?
この挨拶代わりのセクハラ発言にご立腹ですか?」
腕の感覚がなくなりながらもカイルはスバルの表情を確認しようと見下ろす。
そこには今まで見たことがない無表情のスバルがあった。
そして、眼が何処か怖い。
「怒ってないよ……カイルが言っていることは正しいもん。
だって……」
スバルが意味不明なことを言う。その言葉の意味を考える時間が与えられず、スバルはカイルの腕を握っていた右腕を解き、自分の顔に置く。
そして、皮膚を引きちぎった。
余りにも意外な行動にカイルは呆然となるが次の瞬間、驚愕へと変わった。
「お、おまえ……!」
「スバルじゃなくてギンガですから」
そこにはギンガの顔があった。
ギンガは外見の魔法を解きつつ、カツラを取り、身なりを整える。
そして、髪をかき上げた。
ギンガの鋭い視線がカイルに注がれる。
拒んでいた相手との再会。
妹とシズル、ティアナのおかげで実現する事ができた。それを無駄なものにしないためにも、これは戦いだという意気込みで乗り込んだギンガであった。
だが、カイルは何とか自分を取り直していた。
空いている方の腕をギンガに差し向ける。
そして。
「……そうか、さてはお前は数年後のスバルだな!」
カイルの反応にギンガはずっこける。
「何でですか! それに、私、ギンガって名乗りましたよね!」
カイルはわざとらしく気付いたかのような顔をした。
「あー、ギンガか。
久しぶりだな、じゃそういう……」
「だから、そんな誤魔化し方はないです!」
がしっ、とギンガはカイルを逃がさないように右腕を掴む。
ギンガは今までの思いをカイルに伝えるためにカイルの眼を見た。
「どうして、逃げるんですか!
私がどんな思いで今まで来たと思ってるんですか!」
ギンガの嘆きにカイルは押し黙った。
逃げていた問題がこのタイミングにやって来た。その最悪のタイミングにカイルはどう対処したものかと困っていた時に突如、アラームのモニターが出現した。
カリムの悪役を買ってまではやてを守ろうとする姿は良いね。
美姫 「カイルの方もそれに気付いたみたいよね」
だが、実際問題査察とかになると突っつかれそうな部分ではあるけれどな。
美姫 「どんな保険をかけるのか、ちょっと楽しみね」
だな。そして、遂にカイルとギンガが会ったわけだけれど。
美姫 「何かあったみたいだから、話はまた持ち越しかしらね」
さてさて、どうなるのかな。
美姫 「それでは、この辺で」
ではでは。