「……あれね」
少女が呟いた。
幼い面持ちを残している少女の伸びに伸びた栗色の髪が風のせいでなびいていたが、軽装している少女はそのことを気にせずにある場所を見下ろしていた。
その場所には崖に面した路線がひかれていた。
そこは自動貨物列車専用の線路であり、毎日町に向けて発送している。何故、こんな危険ともいえる場所に線路がひかれているのか、二つ理由がある。
一つ目は線路を作る際に無駄な費用をかけないため。
崖の下には森が広がっており、その中で線路を作るには周りの木を切らなくてはならず、環境にも費用にもあまりよろしくないということで崖を削って作ったのだ。
そして、二つ目は自動貨物列車を狙う犯罪者への対策。
崖にできた線路はその立地から強襲しにくい。並の犯罪者では列車の速度と場所に狙いをつけることができず、諦めてしまうのだった。
だが、それは普通の犯罪者である場合である。
空中を飛べる犯罪魔導師あるいは機動兵器ならばその問題は解決される。
そして、その問題を難なくクリアしている存在がいた。
その数は四。
四人はモニターを通して貨物列車がやってくるのを待っていた。
すると、貨物列車は時間通りに走り抜け、モニターは姿を追う。
「ああ、そこにお前の目的のものがあるはずだ」
茶色の短髪をかき上げている男―ゼストが答えた。
ゼストは全身マントを着ており、少女と同じくモニターを見る。
「けど、本当に一人で行くのかよ。私もついて行ってもいいんだぞ」
少女の肩に乗っていた人形ぐらいの大きさの少女―アギトが少女の事を心配する。その感情の中には大事な人を守りたいという気持ちが込められていた。
「ええ、大丈夫よアギト……ただ、ある物を取って来るだけだから何にも危険はないわ。
それに今回はガジェットも拝借することができたしね。
じゃ、そろそろ始めましょうか……ルーテシア、お願い」
「……うん」
ゼストの近くに長さが違う色違いのコートを着た紫の少女―ルーテシアが答える。
腕をクロスさせ、グローブにつけている丸い宝石が紫色に五本の指の上に線を描き、光りだした。
足元から長方形で隅が丸い魔法陣が浮かび上がる。ルーテシアが転移魔法を詠唱していく。
「……召喚」
貨物列車の周りにルーテシアと同じ魔法陣が幾つも展開された。
そこからT型が魔法陣から這い上がって来る。そこには先日、管理局が確認したV型の姿もあった。
「U型が少し遅れてこちらに来るそうだ」
ゼストがそう言うと少女の顔が険しくなる。
「どういうこと?
私はV型のテストデータを送るという条件でT型を拝借したはずよ。U型までいらないわ」
「どんな敵がやって来るか分からないから私が要請しておいた」
「敵? それって誰よ?」
「時空管理局」
その言葉に反応して少女の顔に憎しみがこもる。
「……本気で言ってるのゼスト。
管理局は事件の対応が遅いってあなた本人が言った事じゃない。こんな早い段階で奴らが来るわけない」
「ああ、そうだ。だが、それは過去の話だ。
今は違う……どうやら、つい最近試験的の部隊ができたそうだ。レリックに関する事件の場合、いち早く現場に向かえる部隊……“機動六課”というらしいが」
「機動六課……」
「何でも少数のベテランと新人だけで編成された部隊らしい。
その部隊がもうこちらに向かってきているとの報告を受けた」
その情報を入手したゼストは用心という意味も含め、U型も回してもらうよう動いたのだった。それを聞いたアギトとルーテシアが少女の事を心配する。
「じゃ、なおさら私も一緒についていく!
いいだろ!」
「……私も。
万が一の場合、転移魔法で逃げることもできるし」
ルーテシアがゼストから少女の方に移動し、何処かの部隊の戦闘服のような服を着ている少女のすそを静かに握った。
そんな二人の暖かい思いに少女は顔を緩めようとしたが思いとどまり、ルーテシアの頭を撫でた。
「ありがとう。
でもね、二人はゼストの傍にいてあげなさい。私は大丈夫だから。
私の実力を知っているでしょ?」
「そりゃ、そうだけどよ……」
「……本当に大丈夫?」
「ええ、目的を果たしたらすぐに退散するわ」
「一つ、聞いていいか」
ゼストが少女に問う。その表情からただの質問ではないと少女は構える。
「……何?」
「もし、目的のために機動六課の奴らが立ちはだかったら……お前はどうする?」
「はっ、そんな簡単な質問?」
少女が殺気を放つ。
それを受け、アギトやルーテシアは少し恐怖を覚え一歩後ろに下がった。
だが、少女はそんな行動に目もくれずゼストの質問に答えた。
「私をこんなにした管理局を許さない。
だから……私の前に敵として立ちはだかるのならどんな奴であろうと殺す」
「あの事件に関係していない者でもか」
「そうよ。そして、分からしてあげるの。
気付かないことの恐ろしさを……それが、どんな悲劇を生むのかをね」
T型が貨物列車の中へと進行を始めた。少女は殺気を放ったままひるがえし、三人に背中を見せる。
これで会話は終了と思った少女だったがゼストはそうではなかった。
「リナ……」
少女―リナの名を呼ぶ。
リナが半分だけ顔をゼストに向け、これ以上関わるなと赤い眼で訴える。
だが、ゼストはそれを紳士に受け止め、さらにリナの心の中に踏み込む
「……何よ?」
「お前は人など殺せない」
場の雰囲気が一気に冷たくなる。アギトとルーテシアは先ほどから吹いている風が皮膚に突き刺さるような錯覚に陥った。
リナとゼストはまったく動かない。
お互い目と目を合わせ、瞬き一つしない。
リナは怒りの目を。
ゼストは哀れみの目を。
それがリナにとって癪に障った。
「……どういう事かしら」
リナが最初に口を開く。
「私には人を殺せるほど覚悟がないと?」
「そうだ」
ゼストはきっぱりと言った。
「心外ね、ゼスト……私のこの憎しみが中途半端だと言いたいわけ?」
「そう言っているのではない」
「じゃ、何よ」
「……こればかりは言葉では表現できない」
「何よ、それ。言葉にできないものに私の覚悟が負けるというの?」
「では、聞くが……もし、俺やアギト、ルーテシアが管理局の局員となった時どうする?」
リナがアギトとルーテシアを見た。
赤い眼に睨みつけられてアギトは驚き、ルーテシアはゼストの背中へと逃げ込んだ。
二人の様子にリナは自分が怖い顔をしていると気付き、冷静になろうとするが先ほどのゼストの質問が邪魔をする。
そのため、表情は変わらず凄みを発する。
「……考えたくないわ」
「それは、俺達を殺したくないと思っているように見えるが」
「……そんな質問は卑怯よ、ゼスト」
「そうだろうか……もし、あの事件に俺が関与していたらどうする」
一瞬、リナは迷いをゼストに見せる。
だが、なかったかのように振舞った。
「そうだったら……殺すわ」
「果たして迷いもなく憎しみで殺すことができるだろうか」
「もういいわ!」
リナは声を大きく出す。
「私が殺す覚悟がないようにみえるんなら今証明してあげるわ!」
リナはそう言って貨物列車に向かって飛んでいった。飛んでいくことで怒りをゼストに向けずにしようとしたように見えた。
リナの姿がどんどん小さくなっていく。
「リナ……!」
ゼストはリナに手を伸ばすが既に形すら見えなくなっていた。
リナの冷静ではない行動にアギトとルーテシアは恐怖より心配の方が勝る。
「ダンナ! 何であんな事を聞いたんだよ!
周りが見えていないときのリナは危なっかしいというのを知っているはずなのにこんな時に聞くなんて!」
「……ゼスト」
ゼストは伸ばした手を戻し、ため息を一つ。
「今だからだ……」
「? 何を言ってるんだ、終わった後でもいいだろう!」
「終わった後では意味がないんだ、アギト」
「意味が分からねえよ!」
「アギト……落ち着いて」
「ルーテシアやゼストが落ち着きすぎなんだよ!」
アギトがリナの事で頭いっぱいになり冷静が欠けているのは明らかだ。
そのおかげで二人は冷静のまま保てているのだ。
「リナについては後で説明する。
今はリナの様子を見守ろう。もしもの時に助けに行くために」
「……分かったよ」
「ルーテシアもそれでいいか?」
「いいよ……」
「その代わり、終わった後にちゃんと話してもらうからな!」
「了解だ」
空中で三人はモニターであるモノを取りに行ったリナの様子を見て、安否を祈るばかりであった。
「ガジェット共がもう一つの貨物列車を襲ってるだと?」
ランスがモニターに映っているグリフィスに声を漏らす。
午前の訓練が終わり、昼休みとなった時に緊急アラームを受け、集合した隊長達とフォワード陣はレリックを乗せた貨物列車がガジェット達に襲われているとの情報を得て、直ちに出発の準備に取り掛かった。
午前の疲れがあるであろうフォワード達も初めての任務という緊張から疲れを忘れ、ヘリへと乗り込み、現場へと向かったのだった。
そして、現場まで後もう少しというところで別の情報が舞い込んできたのだ。
ガジェットが別の場所で配送中の貨物列車を襲っている、と。
「どういうことだ、グリフィス部隊長代理。
レリックを乗せた貨物列車は目の前にあるやつだけじゃなかったのか?」
『いえ、レリックはその貨物列車には積んではいません』
「じゃ、何で別の貨物列車に襲われてるんだ?
こんなおかしな事はないよな、おい!」
「それは……」
対応に困るグリフィス。まるで、自分がいけなかったかのような振る舞いだ。
そんなグリフィスを責めているような言い方をするランスにシズルが後ろからはたきをくらわせた。
ランスは頭を押さえ、後ろを振り向く。
「シズル、何しやがる!」
「落ち着きなさい、ランス。
あなたが取り乱すと皆の士気にもかかわるわ」
「俺は至って落ち着いてるぜ、シズル」
「そうなら……言葉を選びなさい、ランス。
まるで、部隊長代理を責めているように見えるわよ」
「いるようではなく、いるんだよ。
事前に明確な情報を持てなくては戦場では致命傷にもなりえるんだ。
少し暴力的な言葉を使わないとそういう危機に気づく事ができないだろうが、この新人達には」
「……そうね、私が悪かったわ」
一理ある言葉にシズルはあっさりと引き下がった。
ランスなりの心遣いに無茶苦茶な事を言っていると不満を持ったグリフィスも素直に受け止めた。そして、ランスの言葉に自分の置かれている立場を再確認したスバル、ティアナ、エリオ、フィオナ、ユウヤは各々、気合を入れなおし、モチベーションを上げていく。
その様子を見たなのははやはり、ランスはすごいと感心するばかりであった。
任務に経験がないフォワード達は気負いしすぎて空回りをしてしまうのではなかと心配していたなのはだったがランスの一声の後の表情からその不安は微塵にも感じなくなった。
そう考えるとシズルさんのあの介入も予め読んでいたものかもしれないな、となのはは二人の流れるようなコンビネーションにただ、尊敬するばかりであった。
ただ。
そんなランスの言葉を聞いてもなびかない少女が一人。
キャロだ。
先ほどから顔を下に向いたまま何か考え込んでいる。しきりに自分の手を広げ何かを確認しているようにも見える。
普段、見せないキャロの表情になのはは近づいていく。
「どうしたの、キャロ。浮かないような顔をしているけど?」
「え?」
なのはに声をかけられたキャロは顔をあげる。
今まで自分の意識が別の所に行きすぎていたことに気付く。
「キャロ?……もしかして、怖くなったの?」
フィオナが一目散にキャロに駆け寄る。
他のメンバーも心配そうにキャロを見ていた。キャロは心配させないために弁明しようとしたがフィオナの言葉にさっきまで思い悩んでいたものが心のうちで暴れ出した。
“お前の力は”
キャロが自分の故郷を出て行かなくなってしまった理由。
竜を使役するほどの力。
自分では抑え切れることができない力。
そんな怖い力を自分が持っている。
そのせいでキャロは一旦、全てを失った。いや、正確にいうと一つの大切な竜―フリード以外全てを失った。もし、フリードがいなかったらキャロの心はかけがえのない大切な人、フェイトに出会うまでに砕け散っていたであろう。
だから、キャロは絶対に失いたくないと思った。
母親であると思っているフェイトに、自分の事を妹のように可愛がってくれているフィオナ、大切な仲間達、そして機動六課という居場所を。
だから、キャロは自分の力がまた暴れ出して皆に傷つけてしまったらどうしようかと悪い想像ばかりが頭を巡らせていたのだ。
「え、えっと……大丈夫です」
出来る限り悟られないように答えるキャロ。
だが、フィオナはキャロが無理して安心させようとしているのが手にとるように分かった。
自分に己の内を知らせてくれない妹に姉はもう一度、聞く。
「……本当に?」
キャロの目を見るフィオナ。
キャロはフィオナの要望に応えず、その代わりに無理やり作った笑顔を向けた。
「う、うん。お姉ちゃん」
「そんなわけねえだろう」
ランスが即答で否定した。
あまりにも綺麗な即答にフィオナは口を尖らせ、キャロを守るように抱き寄せた。
「……何でそんなことを言うんですか、ランス教導官」
「じゃ、聞くが……まだ、二桁にもなったばかりの子供が危険と隣り合わせの任務が怖くないわけと言えるか?」
「…………」
「このエースオブエースと呼ばれているこの高町だって怖いはずだ」
意外な言葉にフォワード達がなのはを見る。
対応に困ったなのはであったがここは見栄を張らずに己の内を明かした。
「確かに私も任務に出る時は怖いよ」
「なのはさんでもですか?」
スバルが質問する。
「怖く思わない人は愚か者だよ。
それだけ周りに気にしていないということだから……」
「じゃ、そんな高町は何でこんなにも頼れるような雰囲気を出せるか分かるか、フィオナ」
なのはとスバルの会話に無理割込み、元に戻した。
フィオナは少し考え、答えを出す。
「……経験が豊富だから」
「確かに間違っちゃいないな。だが、落第点だ」
「じゃ、答えは……?」
その答えを皆が知りたく、ランスを注目する。本人であるなのはも興味津々だ。
ランスはいつもと違う真面目な教導官モードのまま答えた。
「自分が持っている力を信じているからだ」
「自分の……力」
「そうだ。
自分が鍛え上げた力を信じているからこそ、どんな困難にも怖がらずに向かう事ができる。
だから、キャロ」
「あ、は、はい!」
「自分の力を信じてやれ。
力に善悪は関係ない。力の使い道は自分で決めるんだ……暴力に使いたかったら暴力の力に……だが、大切なものを守るための力だったら守る力へと変えることが出来るんだ」
そこでキャロは自分が何に悩んでいた事をランスは見破っていたのだと気付いた。
キャロがランスの顔を見る。
初日の地獄のせいで今までまともに見ることができなかったが今はちゃんと見ることが出来る。
守るための力だったら守る力となる。
今までこの怖い力をどう抑えつけられるかを考えてきたキャロはまったく思いつかなかった発想だった。
自分のこの力を大切の人を守るために使いたい。
そう思ったキャロの中でランスはただの怖い人ではなくなった。
「まあ、俺は任務に向かう時はぜんぜん恐怖なんて浮かばないがな!」
豪快に笑うランス。
今までの教導官と思える言動や、雰囲気が打って変わって、ただの我侭で人のことを気遣うという事を知らない普段のランスに戻ってしまった。
その変わりようにキャロは笑顔を浮かべた。
フィオナはそんなキャロの心の変化を敏感に反応。安心したと同時に解決さえたであろうランスに少しの嫉妬を浮かべながら。
「最悪ですね……」
「あのままだったら素直に尊敬できるんですけどね……」
部下であるなのはと側近であるシズルはお互い、ため息を吐く。
その気持ちはスバル、ティアナ、ユウヤも同感だった。
『はいはい、一区切りついた所で追加情報ですよ』
軽快な声と共にグリフィスとは別のモニターが皆の前で浮かびあがった。
そこにはカイルがいた。
カイルは事務員でありながら、出動の時は昔の局員での経歴から戦局の状況判断、敵の分析、最新情報を入手するために六課の権限で管理局のデータベースの検索の仕事を任されている。
そのため、カイルはそれを口実にギンガを撒き、保留にしてきたのだった。
昼休みに入った直後の緊急集合にギンガに会えなかったのだと思ったスバルは驚いたことがあり、カイルに向かって指を指した。
「カイルさんが仕事してる!」
ティアナがスバルの発言にずっこけた。
「ちょっと、スバル!
つっこむ所そこじゃないでしょ!」
てっきりギンガのことについてつっこむと思っていたティアナは素早いつっこみを炸裂させる。カイルはここぞとばかりにスバルの意外なボケに便乗し、ギンガについて聞かれないように誘導する。
『おう、今日はちゃんと仕事してるぜ!
えらいだろ!』
「そこ、威張らない!
仕事は毎日あるでしょ!」
すかさずなのはがつっこんでしまう。
そのことでカイルは計画通り、誘導する事に成功してしまう。
その事に気付いていないなのはにカイルはすかさずボケる。
『けど、毎日仕事したら体が持たないだろう』
「その台詞はちゃんと仕事をしている人が言っていいものです!
カイルは仕事してないでしょ!」
『そんな、ひどい!
密かに仕事してるのに! 深夜じゃティアにあんなことやこんなことまで教えているのに!』
「ちょ、ちょっと!
その誤解を招く言い方しないで! 自主訓練に付き合ってもらっているだけでしょ!」
『だから、あんなことやこんなことって言ったんじゃん』
「その言い方がおかしいのよ!」
『それは個人の主観であって皆がティアと同じ事を考えているとは限らないぞ。
ま、ティアがそう思いたいんならいいけどな』
カイルの的確な指摘にティアが頬を染めた。
「そ、そんなわけないでしょ!」
「おい、カイル。戯れるのはここまでにしろ」
少し怒った様子でランスがカイルを制す。
ランスの一言でティアナが冷静を取り戻した。ギンガのことを完全に逸らすことができたことに満足したカイルは仕事モードへと変える。
ランスもまた教導官モードに切り替わっており、カイルのおふざけに乗らずに済んだことに安心したなのはであったがランスのモードの切り替わりの速さに対応が難しい。
なので、カイルの対応をランスに任せ見守ることにしたなのはであった。
「解析係のお前が出てきたという事はもう一つの貨物列車にガジェットが出てきた原因が分かったのか」
『ええ、一つだけ。
あの貨物列車にはロストロギアが運ばれています』
カイルのモニターの近くにロストロギアの映像が現われる。
そこには一つの剣があった。
赤色の独特な装飾が施された剣であり、映像だけでただの剣でないと思えるほど存在感がある。それはカイル達がいる部屋の大型モニターにも映し出された。
『何処の世界で見つかったのかは時間がなかったため、省きました。
このロストロギアは“沈黙の剣”と名づけられています。
その理由は複雑で解読不明な魔導式が剣に所狭しと刻まれており、また大魔力を秘めているので本局は目的不明と判断。ロストロギア指定とし、今日、本局に搬送される予定となっていたのです』
「それは、どれほどの奴が知っているんだ?」
『はっきり言って一握りの人間しか知らない情報です。はっきり言ってこの事態が起こらない限り教えてはくれなかったと思います』
「そうか……で、何でこのガジェット達はそのロストロギアを狙っているか分かるか?」
『推測の域ですが……一つだけ』
「言ってみろ」
『ガジェット達の開発者は技術型の広域犯罪者だと考えられています。
それですと、この沈黙の剣の複雑で解読不明な魔導式に興味を持ったと思われます。そして、あわよくば新たな質量兵器に導入する可能性があると』
「なるほどな。
そんなふざけた態度を取ってるがちゃんと仕事はできるようだな」
『じゃなきゃ、六課になんていませんよ、ランス教官』
何故か対立しているような雰囲気をかもし出す二人。
だが、ランスは気に入ったのか意味ありげの笑みを浮かべる。
「はっ、やっとお前の真価を少し見た気がするな。
よし、部隊を二つに分けて対応しよう。レリックは高町とハラオウンとその分隊フォワード。そして、ロストロギアの方は俺達、ウイング隊が受け持つ……それでいいな、高町、シズル」
「はい。了解です、ランス」
「私も異議はありません」
「シャリオ。戦場に出るやつに敵の数をリアルタイムで知らせろ」
『了解です! 一機も逃しません!』
「よし、その意気だ。
フォワードのひよっこ共!」
狭い場所でランスが左腕を天に上げる。もし、後ろにマントがついていたらなびいていたであろう。
『はい!』
フォワード達が反射的にランスを声に反応。身体も無意識に構えた。
「高町が教えてもらった技術、そして成長した自分の力を信じてみろ!
そうすればこの任務、楽勝だ!」
『はい!』
「よし、ウイング隊行くぞ!
シズルはフィオナを運んで貨物列車に、俺とユウヤは空の敵を相手にするぞ」
「……はい!」
「任せてください!」
立ち上がり、気合たっぷりに答えるユウヤとフィオナ。
既に手には彼らのデバイスが握られていた。顔に恐怖はまったくない。
逆に頼もしく見えた。
「私とフェイト隊長も空の敵を叩くよ。
皆は貨物列車の方を頼むね」
『はい!』
スバル達も負けじと気合たっぷりに返事した。
なのはは自分の部下たちの気分を高揚させたことに感謝する。いつもそうだったのだ。
なのはがランスと一緒に任務にやるときは不安など一切、感じた事がなかった。
頼もしい上司がいたということもあったがこうやって励ましてくれたからこそ自分の力を信じることができ、乗り越えてこれたのだと。
今では自分もちゃんとした部下をもつ教導官。
ランスみたいに自分の部下達を励まし、安全に任務を行えるための技術を教えていきたいと再度、心に刻むのであった。
ヘリのハッチが開く。
風がヘリ内に侵入し、自分の存在を示すかのようにとどろく。
出口へとランスが先陣を切った。
「ユウヤ!
準備はいいか!」
「はい、いつでも!」
「フィオナ、掴まってなさい」
「……はい!」
「じゃ、リイン。スバル達をよろしくね」
「お任せです!」
『敵の情報を逐次、送って下さい。
こっちも分析をし、出来る限り的確な情報を送ってみせましょう』
「了解だ! じゃ、行くぞ!」
ランスとなのはがお互い、自分の責務を表情で確認する。
何があっても守ってみせる。
二人は同時に空への戦いへと真っ先に飛び出した。
「これが……」
リナはある車両にやって来た。
周りには何も詰まれていない空間。
広い車両なのにもかかわらず有効に使おうと考えなかったのはリナの目の前にあるモノの存在のせいだと。
一本の剣だ。
剣の周りには古いせいか文字すらにじんで読めないお札のようなものがこれまた古い印象を受ける箱の周りにたくさん貼られていた。そんな箱の中に赤い布が詰め込まれており、その中心には剣が備えられていた。
真っ赤な剣。
返り血を連想させてしまう剣に影響されないようにこの車両だけは荷物を積まなかったのではないかと思われる。
そのせいでその剣の存在感がさらに浮き出ている。
この剣の名前は管理局では“沈黙の剣”と名づけられた。
リナはゆっくりと剣に近づいていく。
一歩進むごとに後悔の念を感じるが、それを振りきり近づく。
そして、後一歩という所で足を止めた。
「……■■■」
リナの口から意味不明な言葉が漏れた。
すると、今まで何の反応も示さなかった剣が淡い紫色を発したのだ。
剣が反応した事でリナの中で期待が膨らんでいく。
“我を目覚めさしたのは、そなたか”
リナの脳内にしわがれた老人のような声が響いた。
そのことに驚きつつもリナは心の中で答えず、口に出して答えることにした。
それが、これから自分がすることを最終確認するために。
「そうよ……」
“我が力は破滅するだけの力……そなたはこの力を使い、何を果たそうとする”
破滅するだけの力。
その言葉にリナは自分が求めていたものだと確信し、口をつり上げた。
そして、己の目的を剣に教える。
「私の目的は復讐よ」
“復讐……”
「そう、私は私をこんなにした時空管理局を許せない……許す事ができない」
“……許すには我は何をすればいい?”
「あなたが持つ力を全て、私に寄こしなさい。
あなたの力を持って全てを終わらせるために」
リナの決意。
いきなりのゼストの言葉に戸惑ってしまったが私はやってみせる、例えゼストみたいな大切な人が管理局にいようとも。
リナはまるで言い聞かせるかのようにその事を繰り返し、胸の中で呟いた。
それを知ってか知らぬか沈黙の剣は自ら宙に浮き始めた。
そして、リナの元へ近づき、直前に止まる。
“そなたの目的、我は何をしなくてはいけないのかしかと受け止めた。
だが、我が力の全てを使うにはもう一つの我が必要だ”
「分かっているわ……だから、私と契約をしなさい」
赤の剣から膨大な魔力が発生する。
剣を中心に球型に薄い膜みたいなものが広がっていき、それが外に出るという所で止まった。
この車両は儀式のための空間へと変化したのだ。
“了承。そなたを我が主と認識……我がオラクルの元、力を求めてやってきたそなたに全ての力、権限を委ねる”
剣の下から見たことのない紫色の魔法陣が浮かび上がった。
“契約開始”
声がそう呟く。
リナは手を伸ばし、剣の柄を掴む。そして、儀式は始まった。
「■■■……■■■■■■……■■■……■■■……■■……■■■……■■■……■……■■■■■……■■……■■■……■……■■……」
リナは目を閉じ、さっきの意味不明な言葉を喋っていく。
一言を発する度に剣が鼓動するような波動を辺りに撒き散らしていった。
その様子がやって来るであろう敵が来るまで続いていった。
レリックとは別の荷物。
美姫 「どんな能力が」
そして、リナの言う復讐とは。
美姫 「これからどうなるのか、後編も楽しみね」
ああ。それでは、今回はこの辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」