「エリオ君!」
駅のホームから出たすぐの所、先に駅に到着していたエリオ・モンディアルは約束の時間まで立って待っていた。彼の隣にはボストンバッグが鎮座している。
待っている間、エリオは時間を何度も確認する。
果たして彼女は無事にここまで来ることができるか。それだけが心配でしょうがなかった。
そのためにこうしてエリオは集合一時間前に集合場所へと訪れていたのだ。
そろそろ集合時間という時にエリオを呼び声がする。
エリオが振り向くとそこには心配の対象がいた。
やはり迷って急いできたのか少し息を上げているキャロ・ル・ルシエの姿があった。
彼女の上空には若竜のフリードリヒがいる。どうやら、フリードリヒがエリオの居場所を見つけたようだ。
だが、こうして集合時間前に合流する事ができた。
心配が杞憂に終わりエリオはキャロに駆け寄る。
「大丈夫、キャロ?」
「だ、大丈夫、それより時間は?」
「大丈夫。集合時間二分前だよ」
エリオが自分のデバイスに備え付けられている時計を見せた。
そこで、キャロは一息つく。
「はぁ。よかった、間に合って……」
「本当にそうだな」
二人とは違う声がした。
エリオとキャロが振り向く。そこには六課の制服にジャケットを着たシグナムがいた。
二人は慌てながら姿勢を正し、敬礼する。
「お、お疲れ様です! え、エリオ・モンディアル三等陸士と……」
「キャロ・ル・ルシエ三等陸士です!」
二人の行動の初々しさにシグナムは笑みをこぼす。
「遺失物管理部機動六課シグナム二等空尉だ。
長旅ごくろうだったな」
『いえ!』
「ああ。もう、敬礼はいいぞ。ここはいささか目立つ」
駅にいる人達が興味深そうにこちらを眺めながら通り過ぎていく。
エリオとキャロはすぐに敬礼を解いた。
「……さて。
長旅で疲れているだろうから今すぐにでも機動六課に向かいたいところだが」
シグナムが辺りを見渡す。
それに釣られてエリオとキャロも見渡すが対象が分からないので意味がない。
「あの……」
「誰か探しているんですか?」
「ああ、お前達をよく知っている人を、な」
エリオとキャロは最初、フェイトと思ったがフェイト自身が来れないと言っていた。
となると考えられるのは。
「エリオ〜! キャロ〜!」
思い当たった所で二人を呼ぶ声が駅に響き渡る。
遠くから私服姿のフィオナが走ってきた。
スカートをはいているにもかかわらず全力疾走である。
そして、その勢いのままエリオとキャロに抱きついた。
「エリオ、キャロ! 元気だった」
「あ、は、はい」
「元気ですぅ」
思いっきり抱きしめられ二人共苦しそうだ。
「フィオナ……そのまま抱きしめたら死ぬぞ」
「あ、ごめん」
「いえ……」
「大丈夫ですぅ」
嬉しさからかいつもと違うフィオナ。テンションが通常の三割増しだ。
力は緩めたが身体から離そうとしない。顔も緩みっぱなし。
その顔で頬ずりまで始める。
エリオとキャロも嬉しそうだが何処か恥ずかしそうだ。
「お、お姉ちゃん」
「ん? 何、キャロ」
「恥ずかしいよ」
「何で?」
「だって」
キャロが見た先はシグナムだった。シグナムはどうしたらいか分からず傍観に徹していた。
細かく言えば主であるはやてがヴィータやリインにやっている事と同じなので微笑ましく見ていたのだが。
フィオナがシグナムを見てクエッションマークが浮かぶ。
「何で恥ずかしいの、キャロ?」
姉の感性にキャロはずっこけたいが拘束されているためにできない。そのため、笑うしかできなかった。
「エリオも恥ずかしいの?」
間近まで顔を寄せてくるフィオナにエリオは頬を染めた。
「……はい、フィオナさん。できたら抱きつくのも恥ずかしいのでやめてほしい……」
「あー、フィオナさんじゃないでしょ、エリオ」
怒った顔でフィオナはさらに顔を近づける。
ますます頬を染めるエリオ。
「ね、姉さん」
「はい、よろしい」
フィオナは心惜しそうに二人から離れ、シグナムに敬礼した。
「少し遅れました、シグナムさん」
「ああ、気にするな。それでどうだった魔導師試験は?」
「はい、おかげ様で合格しました」
「わぁ、おめでとうお姉ちゃん!」
「おめでとう、姉さん」
「ありがとう」
「お前だったら合格すると信じてたぞ」
「シグナムさんが、時間が空く限り稽古をつけて下さったからです」
「いや、合格したのはお前の実力だ。誇っていい」
「……はい」
「じゃ、お姉ちゃん疲れているんじゃないですか?」
「そうだな、じゃ……」
「あの、シグナムさん」
フィオナが申し訳なさそうにシグナムを見た。
シグナムはそんな表情をさせる理由が思い浮かばず、聞く。
「どうした?」
「……できたら六課に行く前にエリオとキャロに行かせたい場所があるんです」
「それは?」
「……この街にある喫茶店です。そこにあるパフェをごちそうしたいんです」
以前、休日にフィオナのルームメイトと遊びに来た際、寄った喫茶店でのパフェにフィオナは感動を覚え、エリオとキャロにごちそうしたいとかねがね思っていた。
フィオナがシグナムの許可を待つ。
シグナムもどうしたものか考えたがフィオナの懇願の表情とフィオナが絶賛するパフェに興味津々なエリオとキャロ。
局員といえど子供なので表情が隠しきれていなかった。
シグナムはそんな子供の表情を悲しみで染めてはならないと思った。
「いいだろう。試験合格ということで私が奢る」
「え、でも……」
「子供が遠慮するな」
フィオナがそれでも少し悩んでいたがシグナムの申し出を断るわけにもいかなく。
「はい、ごちそうになります」
満面の笑顔を浮かべ、エリオとキャロの手を取り、喫茶店へと足を動かした。
エリオとキャロも笑顔でフィオナの手を取る。
その姿は本当の兄妹のようだった。
「まったく、心配性の母親にはもったいないほどにいい子だな、テスタロッサ」
ここにいないフェイトにシグナムはそう呟き、フィオナ達の後をついて行った。
今回は外伝という形で頂ました〜。
美姫 「フィオナとエリオ、キャロの再会ね」
だな。微笑ましい光景だ。
美姫 「ようやく六課もメンバーが集まりだしたし」
本編の方も楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね」