『HOLY CRUSADERS』
第二幕『暁の旅立ち』
一瞬何が起こったのか二人にはわからなかったが、シルフィは驚き、あわてることもなかった。
それはロゼットも同じで現状把握に努めようとしている。
「すごい音だね。何か爆発したのかな?」
とはいえ、シルフィはこんな状態である。非常事態なのに、緊張感がまるでない。
一方ロゼットは、倒れている人を起こしたり、けが人がいないかどうかを確認している。
「全く、一体何が起こったのよ。」
いくら現状把握をしようにも、みんなパニック状態に陥っていて、どうにもならない。
「とにかく、メモにあったトリスさんって人に会おう。それから対応しても遅くないんじゃないかな?」
さっきのまま、全く緊張感のない口調でシルフィは受付に向かっていく。
ロゼットはパニックに陥っている人を必死になってなだめ、シルフィの後を追う。
しかし、シルフィに追いつく前に、シルフィの方がロゼットの方に戻ってきた。
「どうやら、この人がいるのはこっちのビルじゃなくて隣のビルみたいだ。それと、もっと階は下なんだって。」
どうやら、根本的に場所を間違えていたようだ。まあ、間違えても仕方がない。
同じようなビルが隣にも立っていて、きちんと確認しなければ、間違えてしまうのも頷ける。
「じゃあ、隣のビルに急ごう。何があったかわからないけど、じっとしてるのは危ないわ。」
ロゼットはそういって、階段に向ったが、シルフィが呼び止める。
「ちょっと待って、ロゼット。話によると、飛行機が突っ込んだらしいから、階段でも下りられないよ。」
その言葉にロゼットは立ち止まり大声を上げた。
「はぁ!?飛行機って、あの鉄の塊がぁ!?」
シルフィはうんと、頷いてみせる。周りがパニックに陥っているのはその事実が伝わっているからだろう。
少なからずその事実にロゼットもあわて始めた。
「ちょ、ちょっとどうすんのよ!!私たちも降りられないじゃない!!」
ロゼットはシルフィの肩をつかむと力いっぱい揺さぶる。シルフィはそれを止めるとロゼットの肩をつかんでまっすぐに向っていう。
「大丈夫だって。助かるから。」
そういうとシルフィは隣のビルが見える窓ガラスを持ってきたヤシャで叩き割った。
ロゼットはシルフィが何をするのか検討がつかず、頭に?を浮かべてただシルフィを見ている。
「さて。じゃあ、行こうか。しっかりつかまってね。」
シルフィはそう言ってロゼットを抱き上げる。ロゼットは顔を赤らめながらもシルフィに抱きつく。
シルフィはそのまま割ったガラスの前に立つ。ロゼットはシルフィが何をするのかわかったのか、紅かった顔がだんだん青ざめていく。
「もしかして・・・。」
ロゼットがそういったのと同時に。
「飛ぶよ。」
シルフィは何の躊躇も無く200階ほどの高さから飛び降りた。
「ぎゃあああああああ!!!!」
全く心の準備ができていなかったため、女の子がおおよそ出すような声ではない大声でロゼットが叫ぶ。
しかし、シルフィはただ飛び降りはせず、隣のビルの壁に届くように飛び降りていた。そして、ヤシャを外壁に突き立てる。
外壁はすさまじい音を立てて削れ、シルフィとロゼットの落下速度を徐々に落としていく。
そして、約80回の辺りでシルフィとロゼットは停止した。はるか上には黒い煙と炎を上げるシルフィたちがいたビルがあった。
シルフィは足元のガラスを蹴って割るとそこからビルの中に入る。
「ロゼット、大丈夫?」
シルフィが顔面蒼白になっているロゼットにそうたずねる。ロゼットはふと我に返ると、大声を上げ始めた。
「大丈夫?じゃないでしょ!!死ぬかと思ったわよ!!」
そのロゼットに対し、シルフィは涼しい顔で笑った。
「大丈夫だって。俺は絶対に死なないし、ロゼットは俺が絶対に死なせないから。」
その言葉にロゼットは呆れ顔になって言う。
「まったく、そんな自信、どこから来るのよ・・・。」
その言葉が終わった直後、再び爆発音がビルの中に響き渡った。ロゼットとシルフィは入ってきた窓から上の階を見上げる。
二人の目に映ったのはまさに飛行機が今いるビルに突っ込んだところだった。
「どうやら、のっぴきならない状態みたいだね。」
見た目、平静を装っていたシルフィだが、さすがに少し動揺している。ロゼットは驚きのあまり絶句している。
「脱出しなきゃ。」
ロゼットはそういうと立ち上がってシルフィにどうやって脱出するかたずねる。
「でも、このメモにある人に会わないと・・・・」
「そんなこといってる場合じゃないでしょ!もし崩れ落ちたら確実に死んじゃうじゃない!!」
ロゼットは大声を上げてシルフィに抗議する。
「でもさ、まともに下りるの、無理っぽいよ。」
シルフィはそういって階段の方を指差す。そこには人が団子のようになって集まっていた。
「さっきと同じおり方で・・・・」
ロゼットが同じ方法で下りることを提案したが、シルフィはそれはできないという。
「無理だよ。簡単にやったように感じてるかもしれないけど、あんまりやりすぎたら、俺の方が壊れるし。それに・・・。」
シルフィがそこまで言ったちょうどそのとき、天井が抜けて何かが落ちてきた。
「こいつらを外に出すわけには行かないだろ?」
二人の眼前にいたのはまるで、小説やゲームで出てきそうな姿をした悪魔であった。
パトリシアのから渡された手紙の中にあった内容、悪魔の目撃情報を認めざるを得ない一瞬だった。
「やっぱり・・・いたんだ・・・・!」
ロゼットはそういうと四聖文字砲をホルスターから抜き放ち、悪魔に向って放つ。
発射された光の弾は悪魔に当たった瞬間爆発し、悪魔の上半身を吹き飛ばした。
その煙が晴れると、そこには20匹ほどの悪魔が群れを成していた。
「今回のミッションは悪魔の全滅とこのビルからの脱出みたいだ。」
シルフィはやれやれといった感じでヤシャを抜き放つ。ロゼットも四聖文字砲を構える。
「たぶん、このビルが崩壊するまでにかかる時間は20分。あと、80階ぐらいだろうから、走って下りるのに、15分はかかるね。
制限時間は5分かな。やれる?」
その言葉にロゼットが答える。
「もちろん。やってやろうじゃない!!」
そういうとロゼットは四聖文字砲を悪魔に向って放つ。シルフィも、一足飛びで悪魔の群れに飛び込んだ。
「よっと。」
シルフィは軽い身のこなしで悪魔の攻撃をかわすと一匹、二匹と切り倒していく。その剣閃はやはり、目には映らない速さである。
ロゼットは四聖文字砲の低出力状態でシルフィを背後から襲おうとする悪魔を撃ち倒す。
目視できない剣閃を持つとはいえ、体捌きは剣士としては並みより少し上の部類であるために、
複数相手だとどうしても背後を取られてしまう。そもそも、シルフィの使う剣術が抜刀術であるため、
複数相手にするものではないのである。そして、今回も、その隙をロゼットが後方からの射撃で消すという
かつてと同じ戦闘方法である。
「おかしいな。」
最初に飛び込んだ位置からほとんど動かないまま、そうシルフィがつぶやいた。
「ちょっと!もう、20匹以上は倒したんじゃないの!?」
シルフィの周りにはすでに30匹近い悪魔の死骸があったが、シルフィたちを襲う悪魔の数はいっこうに減っていない。
いや、むしろさっきよりも増えつつある。
「やばいなあ。もうすぐ制限時間だ。そろそろ脱出にかからないと。」
シルフィはロゼットのところまで下がると、その足元をヤシャで斬り、穴を開けた。
二人はそこから下の階に下りるとちょうど隣にあった非常階段のドアを開けてそこから外に出る。
しかし、非常階段もすでに人がたまりにたまっていてどう考えても15分で脱出できないように思われた。
「ねえ、どうするのよ。これじゃ、私たちも瓦礫に埋もれちゃうかもしれないじゃない。」
ロゼットは心配そうな顔でシルフィを見上げる。シルフィは表情を崩さず再びビルの中に入っていき、
そして、ロゼットに普通の階段から脱出しようと提案する。
「どっちも同じじゃないの?どれだけ人がいるかわからないけど、正攻法の脱出ルートだと、
どう考えても後15分で脱出できないと思うんだけど。」
確かに、正規の階段のほうも、人がごった返している上に、上から降りてきたと思われる悪魔たちとでパニック状態になっている。
「確かに。正攻法じゃあ、もう無理っぽいね。かといってさっきみたいに壁に飛びつくわけにもいかないし。」
シルフィはさすがに困ったという表情で頭をかきだした。
「さっきみたいに床に穴を開ければ・・・」
ロゼットのその提案にシルフィはそれはいいといってロゼットのそばによると床に円を描く。
床はその線に沿ってぬけ、ひとつ下の階に着地する。
「よし、じゃあ、ペースをあげるよ。しっかりつかまっててね。」
そういうと再び床を斬り始めた。ロゼットはペースをあげるというのをなるべく早く斬るということだと思っていたが、
それはある意味正しく、ある意味間違っていた。確かに、なるべく早く斬ってはいるのだが、着地する前にすでに床は切断されているのだ。
結果、着地せずに落ちていくわけだから80階から飛び降りるという行為とまったく変わらない。
しかし、シルフィは20回分ほど下りると刀をあけた穴に引っ掛けて急ブレーキをかけた。
ロゼットもしがみついていたからいいものの、しがみついていなければ地面に叩きつけられていただろう。
「ちょっと・・・・」
ロゼットがそういった瞬間、再び降下が始まる。ロゼットはあきらめたのか、
シルフィにしがみついたまま硬く目をつぶって落下に身を任せることになった。
5分後、ロゼットとシルフィは2階のロビーにいた。
「ロゼット、もう大丈夫だよ。」
シルフィがそういうとロゼットは恐る恐る目を開ける。現状を把握し、シルフィから離れるとロゼットは階段を探し始める。
「あった!シルフィ、こっちよ!!」
シルフィはロゼットの声のするほうにかけていき、押し合いになっている階段の手すりに飛び乗って一気に駆け下りた。
二人はロビーにつくと、そのまま回りの人には目もくれず、出口に向ってかけていく。
しかし、階段同様、玄関も人で込み合っていたため、シルフィは壁に穴を開けてそこから脱出した。
二人はそれだけで安心することはなく、自由の女神に向って走り出した。
あそこならば、広場もあって、仮に悪魔が襲ってきても迎え撃つには十分の場所だからである。
二人が自由の女神の前に立ったとき、二つのビルが同時に崩壊した。おそらく、中にいた人は避難しきれていないだろう。
そして、中にいた悪魔ごと全てを叩き潰した。2人はそれを遠く自由の女神の前で見ているしかなかった。
「ひどい・・・」
ロゼットは一言そうもらした。シルフィは崩壊し、砂煙を上げるビルの場所を何も言わずただ、にらみつけるようにみていた。
2人はそこにいても埒が明かないと判断し、教会に戻った。二人が戻ったとき、パトリシアは不在だったため、
聖堂の中に座って時間をつぶしていた。暫くそのままでいたが、突然シルフィが話し始めた。
「今回の件・・・なんかおかしくないかな?あんな低級な悪魔が飛行機を操縦できるわけないと思うんだ。」
「確かにそうね。でも、魔界(パンデモニウム)のいない今、あいつらはどうやって自分の固体維持のためのエネルギーを供給してるのかな?」
2人にとって、今回のこの事件は気にかかることが多いようだ。しかし、いくら首をひねったところで事実、
悪魔は存在していたわけだし、飛行機もビルに突っ込んでいる。理由はともあれ起こってしまった以上は起きたと思うしかないのである。
「2人とも、無事だったのね・・・・。よかったわ。」
突然後ろからパトリシアの声が聞こえた。2人は驚きもせず振り返ると、パトリシアに向かい合う。
「今回の件・・・どういうことなんですか?」
ロゼットの問いにパトリシアは答えず、変わりにパトリシアの方から話したいことがあるといって切り出した。
「今回、二人に行ってもらったのは、そこにいろいろな悪魔の資料があったからなの。
そして、最近、気になる情報が入ったって言う連絡があってその確認をしてもらおうとしたのよ。」
ロゼットがその気になる情報とはなんだったのかたずねる。
「魔界(パンデモニウム)が復活しつつあるという情報よ。」
その一言にロゼットの顔色が変わった。一方シルフィは納得がいったと言う様に頷いた。
「自己再生・・・やっぱり化け物ですね。あれは。」
シルフィの言葉にパトリシアが首を振った。
「第三者の介入の可能性があるの。」
その言葉に、ロゼットだけでなくシルフィも顔色を変える。
「あれを・・・・馬鹿じゃないんですか・・・?」
パトリシアは再び話し始めた。
「可能性だけよ。正確にはわからないわ。ただ、あそこにはそれに関する何らかの情報があったということは確かね。」
「ということは、第三者の存在は明確ですね。手がかりをつかめれたらもれる前に全てを消す。当たり前といえば当たり前です。」
シルフィはそういって第三者の介入を確信する。
「そこで、2人にはこれからやってほしいことがあるの。」
「やってほしいこと?悪魔の殲滅じゃないんですか?」
ロゼットがいまさら頼むようなことではないというよな顔をしたが、パトリシアは続けた。
「確かにそれもあるけど、ある人物の護衛を頼みたいの。」
そういってパトリシアは手に持っていた資料をロゼットに渡す。ロゼットとシルフィはそれを受け取ると2人でそれをみる。
「日下部秋姫。日本人よ。そして、代行者(アポスルズ)よ。」
その言葉に2人は反応した。
「もしも、魔界(パンデモニウム)を復活させようとしているなら、彼女の前に必ず現れるはずよ。
そして、もし、そうならば、彼女を第三者の手に渡すわけには行かないわ。」
シルフィはその資料をロゼットに渡すとパトリシアに向ってはっきりといった。
「わかりました。行きます。」
と。
「ありがとう。既に向こうでの二人の家は手配してあるわ。資料のとおり高校生だから、転入手続きも済んでる。
あと、住む場所はホームステイって形にしてあるから。」
その一言にロゼットの顔色が再び変わる。
「ちょっと待ってくださいよ、私日本語は片言しかしゃべれませんよ!」
ロゼットはそう声を上げたが、シルフィが向こうで勉強すれば言いといってなだめる。
「そりゃシルフィは日本語しゃべれるからいいけど・・・・。」
シルフィは日本人とのクォーターで日本人である祖父に剣術を習っていたために、日本語も流暢に話すことができるのだ。
「とにかく、急いで準備して頂戴。武器関係は持ち込めるように手配してあるからそのままでも十分よ。
あと、生活に必要な服とかは最低限もっていけば、後はこっちから送ってあげるわ。」
そういってパトリシアは聖堂を出て行く。シルフィたちもその後を追って聖堂を後にする。
2人は翌日早朝、教会を後にした。
ちょうど朝日が昇り始め、2人を照らし出す。
これからの戦いに2人を誘うように。
あとがき
はい、HOLY CRUSADERSの第二幕です。ついに物語がゆっくりとながら動き始めました。
(フィーネ)次回は二人が日本に向うのね?
ああ。でも、次回はワンクッション置いて海鳴編だ。ついにとらハキャラが出演するぞ。
(フィーラ)結局、第三幕になっちゃったね。
第二幕で出しても良かったけど、第二幕で出すよりは第三幕を全部使って話を作りたかったんだよ。
(フィーネ)じゃあ、ロゼットとシルフィと出会うのは第四幕なんだ。
一応そういうことになるな。
(フィーネ)そういえば、白木柄の日本刀って珍しいよね。
そうか?基本的に奉納用の部類は大体白木柄だが。
(フィーラ)実践に使うのはっていうことよ。
確かにそうだな。まあ、強度の問題だろ。木じゃあ限界もあるって。
(フィーネ)でも、白木柄なんだ。
まあね。見た目的に好きなんだよ白木柄。
(フィーラ)じゃあ、こんなのはどう?
番傘?そりゃちょっと・・・
(フィーネ)あはっ!見た目にだまされてるね。
へ?
(フィーネ&フィーラ)双水月!!!!!!!!!!!!
仕込み刀っ!!!!????きゃあああああああああああああ!!!!!!
(フィーラ)じゃあ、第三幕『風の吹く町』でお会いしましょう♪
美姫 「良いな〜。仕込み刀か」
良いな、ってお前には『紅蓮』と『蒼焔』という立派な武器があるじゃないか。
美姫 「それはそれ、これはこれよ。やっぱりか弱い乙女としては、護身用の武器がたくさんある方が安全じゃない」
何処がか弱いんだ。それに、か弱い乙女はそもそも武器自体持たないって。
美姫 「うるさいわね〜」
うるさいのか?当たり前の事だろう。
美姫 「はいはい。次回は海鳴に舞台が移るみたいね。とても楽しみ〜」
うんうん。って、誤魔化されてないか?
美姫 「そんな事はないって。それじゃあ、次回を楽しみに待ちましょうね」
おう!