『HOLY CRUSADERS』





      第三幕『風の吹く町』







 海鳴市某所。夜の闇に紛れ交錯しあう男と女の二つの影があった。互いの両手には二本の小太刀。

それが撃ちあったかと思うと、互いにはなれる。が、それもつかの間、離れた瞬間に互いに移動を開始した。

ほんの一瞬前二人がいた場所には飛針が突き立っていたのだ。その戦いは既に人間の限界をとっくに超えていて、

もはや、まともに目視すらできない状態である。

「・・・・っ!!」

 一瞬の隙を突かれて女性の持っていた小太刀が一本弾き飛ばされる。

続けて斬劇を出す男性の小太刀をもう一本の小太刀で受け止めるが、重い一撃に体勢を崩す。

女性はその隙を突かれることを防ぐために蹴りを放つ。が、無理な体勢からの蹴りであるため、容易に受け止められてしまい、

逆に軸足を払われてその場に倒れこむ。


「これで終わりだな。」

 その女性と戦っていた男性は小太刀を突きつけてそうはなす。

「うう〜。今日はいいところまでいったのに〜。」

 しりもちをついたまま、女性はそういって立ち上がる。

「確かに、以前に比べていい具合に仕上がっている。この調子だ。美由希。」

 そういって美由希に向って背を向け、再び間合いを取る。

「さて、じゃあ、もう一回お願いします。師匠。」

 そういって再び立ち上がり、美由希は構える。その前に立った男性、双翼と呼ばれる剣士、高町恭也も構える。

次の瞬間、再び人知を超えた戦いの火蓋が切って落とされた。





 翌朝高町家。やはりそこは朝から騒がしかった。

「おいレン!!今日の朝ごはんの準備は俺だろうが!!」

「やかましい!あんたが起きるのが遅いからウチが変わりにしてやりよんや!!」

 大声を上げて口げんかをする城島晶と鳳蓮飛。その時点で朝食の準備が止まってしまった。

「起きるのが遅い!?まだ六時半じゃねえか!」

「アホいえ!今から作りよったら7時になる!」

「十分じゃねえかよそれで!!」

「せやからお前はおサルなんや!ご飯食べてすぐ動いたら消化に悪いこともわからんのか!?」

「ガキじゃねえんだからそんなことねえよ!!消化がとろいのはカメだけだ!!」

「なんやと!!!」

「やんのか!?」

 口げんかはどんどんとエスカレートしていき、最終的にはただの喧嘩になりつつある。

「邪魔や!どいとけ!!」

 レンはいうが遅いか、晶に向って掌底を放つ。が、晶も負けてはいない。

体をひねりそれを避けると空手の試合では禁じ手であるはずの顔面へ拳を走らせる。

とはいえ、レンも中国武術の使い手。左手一本で晶の右拳をいなすと左胴回し蹴りを放つ。

晶は飛びのき気味に後退すると互いの踏み込んだ攻撃が紙一重で当たらない間合いを取る。

「ちっとはやるようになったやないか。おサルの割には学習能力はあるみたいやな。」

 レンは構えると晶の出方を伺う。

「多少速くなったじゃねえか。カメには変わりねえけどな。」

 晶も構えるとレンの出方を伺う。張り詰めた空気の中、互いが動こうとしたとき。

「こらーっ!!!朝から喧嘩するんじゃありませーん!!!」

 キッチンの横から大きな声が聞こえた。いつも二人の喧嘩を止めるなのはのこえだ。

「二人とも朝から喧嘩するんじゃありません!そもそもなんで二人はそんなに喧嘩するんですか!!」

 いつもどおり、なのはの説教が始まった。どうやら朝食はまだまだできないようだ。





 風芽丘学園。恭也、美由希の通う学校である。いたって普通の学校である。その3年G組。

恭也はいつもどおりの時間に登校し、自分の席でただボーっと外を眺めていた。

「おはよう。高町君。」

 声をかけてきたのは隣の席の月村忍。恭也のクラスメイトで、数少ない友達のひとりである。

「ああ。」

 そっけなく返事をする恭也。正確には、これが素であるために、そっけなく思えるだけである。

「今日も眠そうだね。」

 忍は席につきながら恭也に話しかける。

「そういう月村こそ、目の下に隈ができてるぞ。」

 確かに、よくみてみると忍も眠そうである。

「新しいゲームがねー・・・・なかなか面白くって・・・」

 どうやら徹夜したようだ。忍はじゃあ、暫くお休みといって持ってきたマイ枕を机に出すとそれに突っ伏して静かに寝息を立て始める。

(どうせ昼休みまで起きないんだろうな)

 恭也はそういいながらも、忍と同じように眠りに落ちていった。



 昼休み。恭也は学食にいた。しかし、少し出遅れてしまったため、学食は飢えた狼でいっぱいになっている。

恭也は仕方なしに割り込んでいこうとしたが、ある人影を見つけて声をかけた。

「大丈夫ですか、那美さん」

「あ、恭也さん。大丈夫・・・なんですけど・・・・大丈夫じゃないです。」

 確かに、さっきからあっちに流されこっちに流されを続けている。このままでは食事の確保という面で大丈夫ではなくなるだろう。

「何を食べるんです?良かったら買ってきますよ。」

 恭也はそういって那美が買おうとしていたものを聞くと飢えた狼の中に一人突入していく。

お目当てのものを買い、那美に頼まれたパンを渡すと恭也は自分の分のパンを持って屋上に向った。

そこで昼食をとると恭也は再び教室に戻り眠りにつく。授業中は起きていようとするものの睡魔に負けてしまうこともある。

確かに、深夜、あれほどの戦闘を繰り広げれば昼に体力を回復せざるを得ないのは当然といえば当然である。




 放課後、恭也の姿は商店街の中にある洋菓子屋兼喫茶店『翠屋』にあった。

恭也は母がマスターを勤めるここで、時折仕事を手伝っているのである。

「あ、恭也。ごめーん、レジおねがーい」

 厨房の奥から若々しい声がした。恭也の母、高町桃子の声である。恭也は服を着替えるとレジスターとして働き出した。

「あ、恭也。きてたんだ。」

声をかけてきたのはフィアッセ・クリステラ。光の歌姫といわれる歌手であるが、今はこうやって翠屋のチーフウエイトレスをしている。

「ああ。この時間帯は忙しいと思ってね。」

 恭也はそういうと支払いを済ませた客にありがとうございましたと挨拶をする。

それから2時間、翠屋の手伝いをし、ひと段落がついた頃に帰宅した。





「あ、そうそう。ちょっと話があるの。」

 夕食の後、リビングで一休みしながらテレビを見ていたとき、桃子が急にそういい始めた。

「話?」

 それぞれ言葉は違うものの、何の話か興味があるようだ。桃子は、自分に注目が集まっていることを確認すると話し始めた。

「うん。この前、ホームステイの話があったじゃない。あれ、どうやらウチに決まったらしいのよ。」

「そういうことは、ここに来るんですか?」

 晶が桃子に確認を取る。

「そう見たいね。ちなみに明日来るそうよ。」

 その言葉にみんなが一瞬固まった。みんなの顔は「は?そんなの聞いてないよ?」といっている。

「かーさん。その話、聞いてないんだけど・・・。」

 美由希のその言葉に桃子は真顔で切り返す。

「うん。驚かそうと思っていってなかったから。みんなに言ったのは今日が始めてよ。」

 その言葉にみんながあきれ返った。そして同時に、「ああ、この人はそういう人だったよな」と思っているに違いない。

「ところで、どこの国の人なの?」

フィアッセが桃子に、ホームステイに来る人の情報を聞く。

「えっと、確かアメリカ人よ。あ、一人は日本人とのクォーターだったはず・・・・」

「一人じゃないの?」

 美由希が桃子の言葉の一人はという点に反応した。桃子は来るのは二人ということを軽く告げる。

「一人がアメリカ人の女の子で一人が日本とアメリカのクォーターの男の子よ。」

「珍しいね。二人来るなんて。」

 フィアッセはそういってテーブルの上の紅茶に口をつける。たしかに、ホームステイに二人来るというのは珍しい。

桃子は続けて名前を口にする。

「名前は男の子がシルフィ・H・ヒースクリフで、女の子がロゼット・クリストファだったわね。確か。」

 恭也は始終黙って聞いていたが、話が一段楽したことを見計らうと、桃子に話しかけた。

「かーさん。部屋はどうするんだ?」

 桃子はその質問に指を振って答える。

「何のために日曜日に二階の使ってない部屋を掃除したと思ってるの?あそこならそこそこ広いし、二人でも狭くはないはずよ。」

 そうやっていたずらをした子供のように舌を出して笑う。恭也はかなわないなという表情で肩をすくめて見せる。

「と、いうことで明日は土曜日だし、歓迎パーティーの準備、するわよ〜!!」

 そういって拳を振り上げる桃子。リビングに居合わせた皆もその気になって拳を振り上げる。どうやら明日は宴会のようだ。



 同日深夜、恭也と美由希は先日と同じように真剣で稽古を積んでいた。やはり先日同様恭也の方がまだ余裕を持って美由希に勝つ。

三度ほど刀を交えたあと、二人は小休止ということで近くにあった石に座っていた。

「美由希。何度も要っているように足に頼るな。お前はいつも体勢を崩すと足を出してくる。

一回だけならまだしも、パターン化してるから対応しやすい。」

 恭也は美由希との戦いの間に注意すべき点を見つけてそこ指摘する。美由希はその忠告を聞いて頭の中でイメージを作っていた。

と、そのとき恭也がふと立ち上がった。

(気配・・・しかし、何だ・・・・この気配は・・・?)

 恭也は周りを見渡すして妙な気配の出所を探す。暫くしてふいに恭也と美由希の間に一本の木が倒れてきた。

美由希も立ち上がって小太刀を持つ。ただ事ではないと悟ったようだ。

二人で木の倒れた先を見ると、果たしてそこにいたのはシルフィとロゼットがアメリカで倒した悪魔だった。

(何だ・・・?これは・・・?)

 二人はその場で固まってしまった。漫画や小説、ゲームにしか現れないような自分たちの前にいるのだ。

前にいるのが銃を持った人間なら話は早いが、正体不明のものとなると話しは別だ。未知の相手には下手に手を出すわけにも行かないし、

そもそも、自分に対して敵意を持っているとは限らない。場数をふんでいる恭也ですら動揺している。

と、次の瞬間、恭也に向ってその悪魔はその体躯からは想像のできない速度で接近した。恭也は危険を察知し、バックステップで後退する。

ついさっきまで恭也のいた場所は悪魔のその太い腕でえぐられていた。

(どうやら、友好的ではないみたいだな。)

 恭也は悪魔を敵とみなし、小太刀を抜きはらう。一方、美由希は未だに現実を受け入れきれていないようだ。

再び悪魔が動いた。それとほぼ同時に恭也も動く。相手に刀がつうじるとは限らない。

しかし、恭也は何のためらいもなく太い腕をかいくぐって悪魔の腹に小太刀を突き立てる。

それは案外簡単に、ごつい見た目とは裏腹に何の抵抗もなく突き刺さった。恭也はそのまま腹に刺さった小太刀から手を離し、

時計回りに回転しながらその首をはねた。相手の正体がわからない以上、中途半端に止めた場合、動けるかもしれない。

恭也はそう考えたのだろう。見た目からして人間であることが明白であるというのも一因かもしれない。

悪魔はその場に倒れこみ、動かなくなった。

「恭ちゃん!!」

 美由希はふと我に返り、恭也に駆け寄る。恭也に怪我はないようだ。

「な、何なの?これ・・・・・?」

 美由希は悪魔を見て恭也に聞く。しかし、恭也とてそれがなんなのかわからない。

「わからないな。しかし、何であれこのままにしておくわけにはいかないだろう。とにかく、リスティさんに電話してみよう。

あの人がわかるとも限らないが・・・・。」

 恭也は懐から携帯電話を取り出すとリスティに電話をかける。15分後、リスティが現場に現れた。

リスティは地面に横になっている悪魔を見て首をかしげる。

「こんなもの、僕も見たことないね。人間とは思えないし・・・かといって動物でもない・・・。」

 リスティもさて困ったという表情で考え込んでしまった。恭也たちはどうすることもできないので、ただそれをじっと眺めていた。

「仕方ない。ここに埋めよう。」

 リスティの答えは警察のものとは思えないほどぞんざいだった。

「い、いいんですか・・・?」

 驚いた美由希がリスティに質問する。まあ、正体不明のものを埋めようとはいい加減にもほどがあるように思える。

「仕方ないよ。同僚を連れてきても意味ないだろうし、どこかに搬送するにも送り場所がわからないよ。

下手にマスコミにかぎつけられたら最悪だ。」

 リスティのいうことが正しいという結論になり、結局その悪魔はその場に掘られた穴に埋めたれることになった。

リスティはわかる範囲で調べてみると言い残してその場を後にする。恭也たちもその後に続いて帰路につく。

これから、その正体不明のものとの戦いが待っているとその時点で誰が予想しただろうか。



 恭也たちが悪魔と闘った翌日、海鳴駅前に二つの影があった。

「ここが私たちの住む町かぁ。」

 ロゼットは感慨深げに英語でシルフィに話しかける。

「そうだね。いい風の吹く町だ。」

 

 シルフィがそういったそのとき。



 そこにやわらかい風が吹いた。



 新しい土地での期待と、これからの戦いの不安を拭い去る



 やわらかい風だった。









 あとがき





第三幕です。ついにとらハキャラが出ましたね。

(フィーネ)じゃあ、次回でシルフィとロゼットは・・・

ああ。恭也たちと会うことになるな。

(フィーラ)シルフィも抜刀術の達人だからね〜。恭也との闘い、期待してもいいんでしょ?

まあ、強いもの同士、会えばその先どうなるかは必然的に決まるだろ。

(フィーネ)うーん。私も強い奴と戦いたいなぁ。

おまえはいい。それ以上強くなられたらこっちの体が持たん。

(フィーラ)そうよ。あんまりオーバーキルし過ぎると続きがかけなくなっちゃうわ。

そうそう・・・って、ちょっとまて!!そんな言いかたしたら・・・・

(フィーネ)じゃあ、加減ありならOK?

(フィーラ)うん。

うん。じゃない!!!いいわけあるか!!

(フィーネ)じゃあ、殺っちゃお〜♪♪

やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!

(フィーネ&フィーラ)乱れ雪月花!!!!!

いやああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!

(フィーラ)じゃあ、第四幕『白煌と双翼』で会いましょ♪


遂に登場、とらハキャラ〜。
美姫 「果たして、どんな出会い方をするのかしら」
そして、悪魔との戦いは。
美姫 「次回も楽しみ〜」
秋の夜長に読書をし過ぎて、昼頃にうたた寝しつつ待て!



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