『HOLY CRUSADERS』
第九幕『兇刃』
閑静な住宅街。時間は夕刻になっていて、そろそろ、仕事帰りのサラリーマンたちが姿を現す頃だ。
しかし、そんな人はおろか、一区画すべての家から人の気配が感じられない。
どうやら、ありえないことに忍の家のある一区画すべての家に人がいないようである。人がいればこの戦闘に気付かないはずがない。
忍の家の前庭。そこで、悪魔と人間の戦いが幕を開けていた。悪魔の数は3体。多くはない数だが、全てが中級クラスの悪魔だ。
いくら悪魔との戦闘経験が豊富なロゼットとはいえ、正直、きつい状態だ。まして、恭也は悪魔との戦闘経験は少ない。
恭也は何とか一匹魔を殺したが、二匹目、刀が全く通らず、飛針も鋼糸も気休めにもならない。正直、どうしようもない相手だ。
と、そのとき、その悪魔はちょうど恭也の胸辺りの高さで真っ二つにされた。恭也は一瞬何が起こったか理解できなかったが、
すぐにイレインが斬ったということに気づいた。正確に表現するなら、
イレインとノエルの戦闘に巻き込まれて巻き添えをくったと言った方が正しいだろう。
イレインは恭也に目を向けることなく、ノエルを追う。ノエルもブレードで応戦するが力の差は歴然。
ノエルのブレードがイレインを捕らえることはなく、頼みの綱のファイエルもかすりさえしない。
ロゼットも、忍を守りながらの戦闘だ。闘いにくいことこの上ない。しかも、持っている銃は四聖文字砲一丁。
最大出力で撃てば、悪魔どころか、最悪、衝撃で忍にも被害が及びかねない。と、その悪魔は高く飛び上がった。
どうやらロゼットを押しつぶすつもりらしい。しかし、かえってロゼットにとってそれは好都合だった。
かなりの高さにいる悪魔に四聖文字砲の照準を合わせると最大出力ではなつ。
当然だが、その威力に悪魔は見るも無残に吹き飛ばされてしまった。何とか、悪魔を倒しきったそのとき、家の中で爆発音がした。
見るとノエルたちの姿がない。どうやら家の中で闘っているようだ。
二人は急いで援護に向おうとしたが、入り口の前に、今まさにノエルと闘っているイレインが2体も現れた。
「オプションつきって・・・・もう!!不運(ハードラック)もいい加減にしてよ!!」
ロゼットは叫ぶやいなやイレインに向って低出力で四聖文字砲を撃つが、オプションとはいえ、スペックはイレインとほぼ同等。
もちろんかすることもなく、すべて避けられてしまう。恭也もオプションのイレインと刀を交えるが、零距離では単純に力の差で押し負け、
かといって離れればその鞭が恭也を襲う。どの間合いでも当たれば即死と言うのはたまったものではない。
と、家の中で二回目の爆発が起きた。それは一回目とは比べ物にならないほど大きく、その衝撃で恭也たちは吹き飛ばされてしまった。
しかし、オプションはそんなものどこ吹く風、体勢を崩した恭也たちに襲い掛かる。
が、その瞬間、何者かによってオプションは庭の植え込みの木にたたきつけられて昨日を停止した。その体には四箇所の刺し傷。
恭也は起き上がってオプションを吹き飛ばした相手を探す。しかし、恭也にはそれが誰かは既にわかっていた。
こんなことができるのは知りうる範囲では一人しかいないと。
恭也が起き上がったと同時に、もう一体のオプションも何かに吹き飛ばされ家の壁にたたきつけられて機能を停止した。
果たしてそこに彼がいた。手には鋼鉄製と思われる重厚なガントレットと二本の打刀。
そして、かつてミリティアと呼ばれたころのマダグラの服を着たシルフィがそこにいた。
「やっぱり、二本のほうが射抜は撃ちやすいや。」
シルフィは飄々とそういって二本の刀を鞘に納める。
「シルフィ、まだ中でノエルが・・・!!」
恭也は一見して戦闘解除したようなシルフィを見てそういった。シルフィはわかってるよと言って家のほうを見る。
「憑き物だからね。壊すには惜しいから、刀は使わないだけだよ。」
シルフィはそういうと既にかなり日の回った家に向って歩き出す。
「ちょっと、シルフィ!!」
ロゼットがシルフィを呼び止めたが、シルフィは振り向いてロゼットに刀を預けて大丈夫と言ってそのまま家の中に入っていった。
恭也はシルフィの言っていたことの意味がわからず、シルフィのほうを見ていたが、再び気配を感じて身構える。
その目線の先には3体目のオプションがいた。恭也とロゼットは当然のことそれに向っていく。
しかし、当然今までのオプションとスペックは変わらない。恭也の斬撃を受け止め、ロゼットの銃はすべてかわされている。
(持久戦は不利になるか・・・。次で決める!!!)
と、恭也は神速を発動させ、同時に『薙旋』を放つ。いくらイレインのオプションとはいえ、その速度にはついていけず、
薙旋の直撃を受けて機能を停止した。
忍の家の中。そこにイレインとノエル、そしてシルフィの姿があった。ノエルはシルフィの出現に驚いて、
「シルフィ様!危険ですから外に・・・!!!」
と叫ぶ。しかし、シルフィには聞こえていないのか、ノエルの隣まで行くと襟首をつかんで窓の外に放り出した。
「ここからは俺の仕切りだから避難しててください。」
とシルフィは言ってイレインに向き合う。
「で?どうする?イレイン。まさか俺に勝てると思ってるわけないよね?いや、イレインと言うより、
デーモン・オブ・マリオネットといったほうがいいかな?」
シルフィはイレインにそういった。
「はははははっ!!!さすがはミリティア!!いや、あんたらの中じゃあ『憑き物』のイレインは有名だったな!!」
イレインは高らかに笑いながら言った。シルフィは
「で?どうするんだ?ちなみに、その体がお前にとって居心地が悪いっていうのも知ってるよ?」
シルフィは冷静に、炎の中に身を置いているとは思えないほど冷静に聞いた。
「そんなことどうでもいいさ。この仕事が終われば新しいからだが手に入るからな。」
イレインがそういって一歩近づく。
「で?誰がくれるんだい?」
シルフィは尋ねて一歩下がる。
「これから私の体になる奴が知る必要はないさ!!」
イレインは言うやいなや事前動作なしでシルフィに跳びかかり、左手のブレードで斬りつける。
しかし、シルフィはそれを両腕でしなやかに、受け取るように受け止めるとそのまま体を滑らせイレインの腹に肘を打ち込む。
イレインはその想像以上の威力に弾き飛ばされた。シルフィは間髪いれずに体を捻り崩拳を同じく腹に打ち込む。
最初の一撃でイレインの体は浮いてしまっていたため、二発目の崩拳で吹き飛ばされ、壁にたたきつけられた。
「このっ・・・!!!」
しかし、イレインもその程度で倒れるわけがない。右手の鞭を振るいそれをシルフィに向かって放つ。
シルフィは避けることなく、それを左手で受ける。イレインは薄笑みを浮かべ、シルフィに突貫する。
イレインの右手の鞭、「静かなる蛇」は流電性の鞭である。イレインはそれで確実に動きが止まると思ったのだろう。
しかし、シルフィはその鞭を思い切り引っ張り、突貫するイレインの体勢を崩し、
突貫と言うより引っ張られてきたイレインの腹に膝を打ち込む。引っ張られる力と膝蹴りの力でイレインの体はくの字に曲がった。
シルフィは膝を下ろし、零距離で逆足のローリングソバット打ち込む。再びイレインは吹き飛ばされ壁にたたきつけたれた。
「ちなみに、このガントレットは絶縁体だよ。」
シルフィはそういって鞭を引っ張ってイレインを無理やり起こす。
「このやろう・・・。」
イレインは激しい怒りを顔に表し、シルフィを睨む。
「悪魔はエクソシストには勝てないよ。じゃんけんでグーがパーに勝てないのと同じようにね。」
シルフィは鞭を手からほどきながら言った。
「もういい!!殺してから体を奪おうと思ったが、今ここで貴様の体を貰い受ける!!!」
イレインが叫ぶとその体から黒い零体の様なものが現れた。イレイン自体は糸の切れた操り人形のようにその場にへたり込む。
そして体から抜け出たそれ、デーモン・オブ・マリオネットの本体はシルフィに向かって襲い掛かる。
「DUST to DUST!!!AMEN!!!」
シルフィは握った拳から一発の福音弾を中に投げ、その拳で殴りつけた。それはデーモン・オブ・マリオネットの体を捉え、
轟音と閃光を放ち炸裂した。
「まあ、そういうふうにでてくるのもわかりきってたけどね。おかげさまでいちいち結界張ってイレインから引き剥がす手間省けたよ。」
シルフィは床に寝そべったままのイレインを抱え上げるとそのまま既に火の回った家の中をさながら英雄が凱旋するかのように
堂々と玄関に向って歩いていった。
「シルフィ!!」
シルフィが玄関から出てきたのに気付いたロゼットは駆け寄って知る日の無事を確認する。
恭也たちも駆け寄って無事でよかったとそれぞれ口にしている。
「シルフィ様、背負っているのは・・・」
と、ノエルがその背中にかるっているイレインに気付いた。シルフィはそれがイレインだと軽い口調で返事をした。
その言葉に驚いて恭也たちは身構える。しかし、
「あ、大丈夫だよ。」
シルフィはそれだけ言うとイレインを地面に座らせた。恭也たちはなぜ大丈夫なのかさっぱりわからず、シルフィから少し距離をとった。
「ほ、本当に大丈夫なの?」
さすがに信じきれないのか、忍がそう聞いてきた。まあ、悪魔のこと、ノエルに対するイレインの態度から見て大丈夫であるはずがない。
「大丈夫だよ。イレインはもともと憑き物だったから、今までのあれはイレインであってイレインでないといったところだから。
って言うか、そもそもイレイン自体起動してないんだし。」
シルフィは大丈夫だと言うことを強調したが、如何せん会話がかみ合っていない。シルフィはイレインに対する知識があるが、
恭也たちにはイレインが自動人形ということしかわかっていない。ロゼットですらイレインがヤバイという事しか知らなかったのだ。
そのために、予備知識のない高校生にドイツ語を教えているようなものである。
「すまない。詳しいことを説明してくれ。何がなんだかさっぱりだ。」
さすがに恭也がシルフィに理解不能だと説明を求めた。と、そのとき消防のサイレンが聞こえだした。どうやら忍が呼んでいたらしい。
消防車は間もなく到着し、消火を始めた。シルフィは詳しいことはこの始末がついてからだねと言って燃え盛る忍の家を眺めながらいった。
「せっかくの火、消してんじゃねえよコラ。」
と、燃え盛る忍の家からまるでスピーカを使っているような声が響いた。と、同時に今までにない爆発が起き、そこにあった消防車両、
消防士を粉々に吹き飛ばした。その火力はすさまじく、延焼もろくにしないまま一瞬にして消し炭にしてしまった。
あまりに凄惨な出来事に、恭也と忍は何が起こったか理解が追いついていない。シルフィは声の先をまっすぐ睨みつけている。
「はははっ。いい瞳だ。さすがはステラの息子なだけはある。」
少しずつその声の持ち主が館の中からあらわれた。それはシルフィたちには面識のない、
しかし、以前屋上に現れたアラビア風の服を着た女性だった。その女性はシルフィたちの前方十メートルほどのところで立ち止まる。
「いやいや。まあ、こんなところでやられるとは思ってなかったが、実に見事な手際だな。見てるこっちが惚れ惚れするよ。
が、案の定本気は出さなかったな。」
アラビア風の服を着た女性はシルフィ一人に向っていった。シルフィはそれに答えることもなく、ただその女性を見つめている。
「ああ、自己紹介が遅れたな。私は黒炎のフランマ。古神四大神が一柱だ。ステラの息子にはこれで十分だろう?」
フランマはシルフィの返事を待たずに続ける。
「まあ、イレインはそこそこ頑張ってくれたよ。おかげでこいつを手に入れる時間は十分にあったからな。」
フランマはそういうと手の平に一つの懐中時計―それはロゼットが以前使っていたあの懐中時計だったのだ―を取り出した。
「そ、それは!!」
それがすぐに何かわかったロゼットが驚きの声を上げた。あの懐中時計はアストラルの流れをせき止める一種のダムのようなものなのだ。
使い方しだいではとてつもない量のアストラルを集めることができる。それこそ、パンデモニウム復活に必要な量であっても。
「ああ、これの持ち主はもともとあんただね。ま、そんなことはどうでもいいか。パンデモニウム復活には必要だし。」
その言葉にはじめてシルフィが反応する。
「何でまたあんなものを復活させようとしてるのかな?」
シルフィのその言葉にフランマは
「目的に理由はないよ。何事もそうじゃないか。目的を達成することが手段っていうなら手段にも理由はないだろう?
おっと、目的のためって言うのはナンセンスだぞ。まあ、これ以上は哲学的になるからやめようか。
ま、そういうことだ、ステラの息子さん。また近いうちに逢うことになるだろうしな。
それじゃあ、それまでに最高の不幸と最低の幸せがお前たちに訪れますように。じゃあな。」
フランマは勝手に話を打ち切るとその場から消えるようにいなくなった。と同時に忍の家が轟音と爆音の中、倒壊し始めた。
それこそ狙い済ましたかのように。
「かあさん・・・」
シルフィのその呟きをかき消すためであるかのように。
暗闇の中、天を焦がす炎に照らされて
古神と名乗るものたちとの
壮絶にして凄惨な闘争劇が幕を開けた。
あとがき
(フィーネ)さて、やっとこさ九話ね。さて、次の話は?
(フィーラ)ついに明かされる敵の正体とシルフィの謎。
(フィーリア)って言うことは物語は次のステップへ?
(フィーネ)んー・・・。その前の閑話休題ってとこじゃない?でも、結構重要な話にはなりそうだけど。
(フィーラ)でもでも、シルフィの謎って言うのは?
(フィーリア)ラストの台詞についてじゃないかぁ?って言うかそれ以外なさそうだし。そうでしょ?お兄さん?
(フィーネ)フィーリア、あいつは今、周防灘の藻屑になってるわよ。
(フィーラ)今回、上げるのとてつもなく遅かったもんねえ。仕方ないと言えば仕方ないかな。
(フィーリア)ちょ、ちょっとやりすぎなんじゃあ・・・
(フィーネ)あら、やけにあいつの肩もつのね。
(フィーラ)そういえば、顔立ちからしてフィーリアの好みっぽいし・・・。
(フィーリア)ち、ちがっ・・・!!お、お兄さんはお兄さんであって、そういうことは・・・・!!
(フィーネ)うわぁ!!妹に先越されたぁ〜〜〜!!!!!
(フィーラ)い、いや、まだ付き合ってるってわけじゃないんだから・・・・。
(フィーリア)そ、そうそう。まだ・・・・
(フィーネ)あんな奴のどこがいいいのよぉ!!?アニオタで少女マンガスキーでパソゲースキーで、まあハイエンドはしてないけどさ。
確かに高校時代は学校の文系トップだったけど、今や見る影もないし、今もダンスの練習してるって言ったって
ウィンド・ミル一つできない運動音痴で、彼女いない暦=年齢のいいとこなしのあんなやつがぁ!!!
(フィーラ)ちょ、ちょっとフィーネ・・・
(フィーリア)お、落ち着いてよ姉さん。
(フィーネ)殺す。
(フィーラ)は?
(フィーリア)ちょ、ちょっと・・・
(フィーリア)殺す!全殺し!!ブチ殺す!!!轢殺(れきさつ)!!!壊殺!!!!斬殺!!!!!殴殺!!!!!!
四肢解体(ばら)して四条河原に生首さらして、残りの部分粉々に砕いて家畜の餌に混ぜて喰わせて首も野良の餌にしてやる!!!
妹を誑かした罪償わせてやる!!!
(フィーラ)壊れちゃった。こうなったら暫くはやばいままね。あの人、匿ってあげなさい。
(フィーリア)いいの?
(フィーラ)いいよ。はい、これ鍵ね。
(フィーリア)ありがと♪
(フィーラ)頑張ってね。じゃあ、次回『現神と古神』であいましょ♪
(フィーネ)うがぁ!!!!!!!!!!!あの野郎、ブチ殺す!!!!!!!!!
ガクガクガク。フィーネさんが暴走してるよ……。
美姫 「果たして、無事に次回のあとがきを迎える事ができるのか」
何か、別の意味で緊張する次回。
美姫 「次回、怪盗Xさんは無事なのか!?」
と、とりあえず、続きを待ってます。