『確実に死ぬと判っていながらそれに対して何もしないのは自殺になると思う? 』

(耕野知裕 学生)

終末の過ごし方 アボガドパワーズ

 

 

 

 

とらいあんぐるハートSS

「IF」Prologue

 

 

 

 

 

 

目に入ってくるのは白色だった

 

 

包み込む白色

 

圧倒的な白色

 

暴力的な白色

 

 

全てが邪悪なまでの白色によって塗り潰されて行く

それを彼は空中で眺めている。自分から飛んだのではない。それは彼であるが故に起きた偶然からであって必然ではない

着地

否、着地と言うほどそれは優しいものではなかった。彼は着地という行為に対する最良の態勢を取れぬまま地面に抱擁を行った

背中から叩きつけられ、そのまま数メートル程勢いのままに地面を転がっていく

結果、彼の体は彼に失神という行為を強要した

 

 

 

 

 それから、どれだけの時が経ったのだろうか?

一分かもしれない

十分かもしれない

はたまた一時間かもしれない

もっとも彼はその時そんなことはどうでも良かった

彼は地面に横たわったまま、じっとその光景を眺めていた

彼がさっき空中で呆然と眺めた白色は完全に消えうせていた

だが、それで終わったわけではない

代わりに現れたのは赤色。白色のように瞬時に全てを包みはしないが、各所から発生した赤色は確実にその場の全てを包み込もうとしている

彼はその光景が怖かった。彼は年齢にしては恐ろしく冷静、そして素晴らしい勇気を持っていた。しかし、それはあくまでも「年齢にしては」に過ぎない

同時に彼はいくつもの希望を頭に描いていた。だが、それはそうではなかった

彼は自分がその赤に塗りつぶされることがないように、自己の思考によって防衛を行ったのだった

 

 

 

 

 そして彼の希望は全て潰えた。

そう、悪魔とは希望を与えてから、悪夢に満ちた絶望を押し付けると相場が決まっているのだ

人に与える絶望がより大きいモノになるからである

 

 

 

 

「…………っ!……夢か…」

 彼はがばっと布団を押し上げて体を起こす

全身にはさっき夢で味わっただけの悪寒と汗をびっしょりかいている。次いで、少し息も荒い

彼にとってその夢は馴染みの光景であった。毎晩毎晩夢という己の無限の世界の中で何度も何度も繰り広げられる光景

だが、馴染みだからといって慣れることなど有り得ない。だから、彼にとってソレは永遠に悪夢だった

「お兄ちゃん…大丈夫…?」

隣で寝ていた彼の妹が心配そうに話しかけてくる

彼女は昔からずっと彼にべったりで、どこに行くにも彼女は彼に自分を連れて行って欲しいと懇願した

だが、彼はそれを拒絶したりすることはなかった。彼女は彼以外に頼るものが何一つなく、それを彼も理解していたからだ

「問題ない。大丈夫だ」

「…本当に?」

「本当だ。明日も早いんだから早く寝ろ」

「うん…おやすみ、お兄ちゃん」

「ああ、おやすみ…美由希」

美由希はまた布団に入ってすぐにまた寝息を立て始めた

さっきの光景はここ数年で幾度となく展開された光景だった

悪夢を見て飛び起きる彼。そしてそれに反応して隣で寝ている美由希が起きる。彼が大丈夫だ、と言い、美由希は安堵してまた眠りに落ちる

勿論、美由希は自分の兄が大丈夫だと言ったところで額面通り受け取るなどという程暢気者ではない

彼女は自分の兄がまだ壊れてはいない、というところに安堵しているのだ

 

 

 

 

 彼の朝は早い。彼は美由希といつも朝は鍛錬に出かけるが、その前に朝と昼の弁当の食い扶持を確保せねばならない

昼は買っても良いが、それは金がかかる。金はそこそこにはあるが、いざという時の為に少なからずの量を残すことは必須である

彼らに父親はいない。母親は数年前に置手紙だけを残し蒸発してしまって、後の行方は知れない

時々、置手紙にあった銀行の口座に金が入ってくるから、生きてはいるようだがどこで何をやっているのかはまったくわからなかった

この家の台所事情は彼の領域。美由希は料理という行為全般が破滅的に下手だったから、美由希の役目は料理以外の全ての家事となっている

彼女は料理の練習を時々しているようだったが、彼はもうどうにもならないモノとして諦めていた

まず朝飯の用意

米を洗って炊飯器にセットし、味噌汁を出汁からとって作り、あとは大型食料販売店で安売りされていた鰯の干物を焼くだけという所で止める

昼の弁当は冷蔵庫を眺めながら数秒思考し、玉子焼き、ウインナー、野菜炒め、それと御飯と決める

美由希の弁当には尚且つ、プチトマトなどの野菜を入れて色を鮮やかにすることを忘れない。それに関してもちょっとした思い出があるからである

三十分ほどで全ては完成、次は美由希を起こし鍛錬に出かける

 

 

 

 

 彼と彼女が学ぶ剣、それは御神と言う

いや、御神は剣ですらない。御神とは人を殺すありとあらゆる手段を取る流派であり、剣を使うからといって御神を剣法と断定するには誤りがある

御神が剣の他に一般に使う手段として、鋼糸と飛針がある

世に言う、有名な剣道では鋼糸も飛針など絶対に使用しない。剣道とは昔はともあれ、今はどんなに言いつくろうとも所詮スポーツに過ぎない

彼らが学ぶのは正確には、如何に人を効率よく殺すかただそれだけでしかない

 

 

 

 

 そして鍛錬が終って帰宅。美由希はシャワーを浴び、彼は着替えてに朝食の仕上げ。仕上げが完了した頃に美由希も着替えて食卓にいる

着替えた服は勿論制服、彼らが住んでいる地域、つまり海鳴市では平均的な学園となる風ヶ丘の制服である

二人だけの食卓ではあるが、美由希が色々と喋り、彼もそれに応じて喋るので静かではなくにぎやかな食卓となる

朝食が完了すれば、彼は美由希に対して今日の弁当を配布、そして家の戸締り

「美由希、忘れ物はないか?」

「うん、大丈夫だよ」

彼は返事を聞いて、彼と彼女が住んでいる巨大な灰色の人口建造物―つまり、マンションにおける彼らの居住区画の扉を閉めて鍵をかける

登校は兄弟で一緒に。ついでに言うなら下校も兄弟で一緒。彼女は彼と離れることを容認しなかった。離れるのは授業中だけとなっている

彼女が下の学園にいた時も、一緒に帰っていたのだ

おかげで彼らは極度のシスコンとブラコンいう噂が流布されていたが本人達は一向に気にしなかった

それは半分は事実なのだ

 

 

 

 

 学園に到着すれば下駄箱で美由希と別れる。美由希はいつも別れる時に酷く寂しそうな顔をするが、それを押して教室へ

いつも通り、彼の教室に到着した

机に座って授業の準備をしていると、友人が話しかけてきた

「よう恭也、今日は遅かったな」

「勇吾、お前が早いだけじゃないのか?」

彼は恭也の友人、赤星勇吾。恭也が下の学園にいた頃から何かとウマが合うので(言ってもどっちも認めないだろうけれど)親友というやつだ

「御名答、実は今日は剣道部の朝練がなかったんだ」

「そりゃテスト前になったんだから部活はないだろう」

「ま、習慣と言う奴だ、自然に目が覚めたんだ。俺はそんなに頭が良くないからな、この期間にちゃんと勉強しないとエライことになるんだよ」

「勇吾、知らない奴が聞いたら嫌味に思うぞ。お前の成績はかなり良い方じゃないか」

「恭也、知ってる奴が聞いてもそれは嫌味に聞こえるぞ。お前の成績は学年一桁じゃないか」

勇吾は溜め息をついて目の前の完璧な友人を見つめる

容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能など、この世の全ての美辞麗句はこの男に当てはまる

それでもって性格もすこぶる良好、驕る事は欠片すら持ち合わせず、目上のものにはきっちり敬語を使用する

当然のごとく、女に鬼のように好かれる。男の自分から見ても完璧にしか見えないのだ。好かれない原因がどこにあろう?

「どうした勇吾、いきなり黙り込んで」

急に静かになった勇吾を見て、恭也は怪訝な表情を作る

「あー、いや、なんでもない。さて、そろそろHRが始まるから席に戻っとくよ」

「? ああ」

恭也は疑問の表情を浮かべたが、勇吾はさっさと席に戻ってしまった

 

 

 

 

 チャイムが鳴り、その内に担任殿が入室してくる

「起立、礼ー」

学級委員の号令が響き、生徒全員が座ったことを確認した担任教師は出席を取る、と大きくもない小さくもない声で告げた

まず最初に赤星勇吾、と呼ばれる。すぐにはい、と返事が返る

それ以後も滞りなく出席の号令は続いた

そして彼の番

「御神恭也」

「はい」

御神恭也は教師の出席に対して煥発入れず、返事した

     

      


あとがき〜

えー、あけましておめでとうございます。新年1発目のSSを書かせて頂きました

なんとなく書き上げてみた物ですが、楽しんでいただけると幸いで(土下座

では、また次のお話で




あけましておめでとう!
美姫 「今年もガンガン頑張るわよ〜」
最早、何をとは聞くまい。
と、シスコン、ブラコンの恭也、美由希物語。
美姫 「ちょっと違うと思うけど……」
かなり楽しみですよ、もう。
美由希がお兄ちゃんだぞ、お兄ちゃん。
美姫 「どうどう、落ち着け〜。新年早々、それなの?」
す〜は〜、す〜は〜。よし、落ち着いた。
次回から、どんな物語が紡がれるのか、楽しみにしてます。
美姫 「それでは、今年も宜しく」



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