とらいあんぐるハートSS

「IF」第三話

 

 

 

 

 アリサはアルバイトを始めた。海鳴商店街の喫茶翠屋のウェイトレスとしてだ。

 結果としてアリサは翠屋の即戦力となった。元々の頭が良いのか、一度された注文を一語一句たりとも間違えることはなかった。更に彼女は動作が機敏で見ているものを清々しい気分にさせたし、そしてなによりもプロポーションと美貌が抜群であった。故にアルバイトを始めて数日だというのに、彼女目当てに来店する客も出てきたくらいだった。

 しかし、あっと言う間に注目の的に成り上がった彼女には問題が山積みだった。依然として失われた記憶が戻る気配(小学校くらいの子供が着ていた制服になんとなく見覚えがあるくらいだった)はなかったし、バイト代が出るまで自分は居候に過ぎなかった。それに、同居人達が朝と夜に怪しい動きをしているのも気になった。一度、美由希にその事を尋ねたことがあった。美由希の返答は『朝晩にジョギングしてるだけだよ』だった。…ただし、声は裏返っていた上に、言葉の端々はどもりまくっていたので返って不信感は増した。

 そこで、彼女は夜半に兄妹が行動する際に後をつけることにした。朝は低血圧で起き辛いので諦めた。

 いつも通り兄妹が家を出た後を付けて、到着したのはアリサがまだ所在を知らなかった神社だった。しかし、兄妹が本職の陸上選手が顔色を無からしめるほどの速度で走っていたので、追いかけたアリサは息絶え絶えになっていた。距離は短かったので見失わずに済んだのは幸いだったが。

 息を整えながら、見付からないように二人の方を見た。二人は刀を抜いて対峙している。刀が光を弾く。

 ――剣道……か?

 一瞬そんな考えが浮かぶがすぐに打ち消す。アレは真剣だ。剣道にそんなものはないはず。しかも、アレは――二刀流。

 心の中で推察を適当に述べた所で美由希が動いた。

 恭也に対して右の刀で切りかかった。恭也は余裕を持ってそれを弾く。だがそれで終わりではもちろんない。左の刀も迫る。受け流す。続く美由希の乱撃。恭也はその全てを完全に流し、弾き、避け、切り返す。恭也が不意に右手を動かす。切りかかる動作ではない。何かを向けられた美由希は慌てて体を避けるように動かす。美由希は恭也の放った何かに捕らえられる。刀で切断した。その隙を突いて今度は恭也が攻める。反応した。しかし、美由希は恭也がやったほどに上手く回避しきれていない。受けきれずに体勢を崩した。恭也が刀を首に突き付ける。それで勝負あったのか、美由希は首をがっくりと下げ、立ち上がった。

 影から見ていたアリサは呆然と全てを目撃していた。

 月光を弾いて、軌跡を描く刀。それを当然だと言わんばかりに待ち構え、相手が弾き、受け流す。一連の熟練した動作が瞬く間に行われる凄まじさ。一種の舞踏のようにありとあらゆるものが流れる様。

 彼女は思った。なんて美しい―――、と。

「さて、と。アリサ、いるんだろう?」恭也は苦笑を浮かべながら声を上げた。

 アリサはその声に驚いたが、すぐに道理に気付いた。恭也は最初からアリサが見ていることを知っていたのだ

 美由希は気付いていなかったのか、驚きの表情でアリサを見ている。

「恭也、意外に意地が悪いわね…。どこで気付いてたの?」

「どこで気付くも何も、家を出るときに後ろから物音と気配がしたから最初から気付いてたさ」

「呆れた。見なくても居場所がわかるなんて」

「剣士ならこれくらいできないとな」恭也はまた苦笑した。

「美由希は判ってなかったみたいだけど……」

「……美由希、お前は一度この方面を鍛え直す必要がありそうだな」

「うう…面目ないです……」

美由希は俯いて申し訳なさそうにしている

「まぁ、それはいいんだけど。見ていていいかしら」

「見る分には構わんが」恭也は真剣な表情でアリサの顔を見た。「その、怖くないのか?」

 恭也と美由希が使うのは剣術。そう、それは剣術であって、剣道という全てが永遠に変質してしまったモノとはまったく違う物だ。剣術とは如何に人を効率良く殺すか。それのみに発達している。御神の場合は剣だけでない。無手、つまり体術面の技も存在する。鋼糸、飛針といった飛び道具も存在する。この平和な時代に明らかに殺しに特化しているこの剣術を見せたりしたら、普通は引く。美由希もそれで過去に精神的に痛い思いをしたことがあった。

 だから恭也は尋ねたのだ。俺達が怖くないのか?という意味で。だが、恭也は判っていなかった。彼女は普通ではなかった。普通の人間なら行き倒れそうになったりなんかしない―

「そう?綺麗と思うけど」

「……綺麗?」

 美由希がオウム返しに言葉を返す。

「うん。あ、じゃあ、近くで見てても邪魔になるだけだろうから離れてるわね」

 アリサは離れていった。残ったのは今の言葉に唖然としている二人。

 二人とも自分のやっていることが綺麗などと思ったことも言われたことも一度もなかったのだ――

 

 

 

 

 

 


あとがき

短いです…はい(汗 

自分でももう少し話を入れたほうが良いのではないか?と思ったのですが、話の組み立て的にいらないなぁ、と思ったのでこのままにしました。

ですが、これでなんとか話の土台が固まったので、次は話をばしばし進めていきたいと思います。

あと、書き方が気持ち悪いほど変化しまくってますが、自分の書き方を模索してる最中なのでお許しを…。

では次のお話で。




恭也と美由希の秘密を見てしまったアリサ。
美姫 「でも、彼女はちゃんと受け止めたわね」
うんうん。良かった、良かった。
美姫 「さて、それじゃあ、次はどうなるのかしらね」
早速、次回を読むとしますか。
美姫 「そうしましょう、そうしましょう」



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