トライアングル IZUMO   

不破たる剣の閃記

 

 

 

13話「オンドゥルルラギッタンディスカ」

 

 

 

 

 

 

「アレがミナカタの砦か・・」

切り立ったがけの先から見渡す恭也の顔は強張っている。

「飛び越えていくのは流石に無理か」

その言葉に困った表情になる面々。

青龍の助言に従ってミナカタの砦に辿り着いてきた物の崖と言う自然の防御施設によって侵入作戦は最初の壁にぶつかっていた。

(正面からでは不可能なほどの戦力差・・・どうあっても気付かれずに進入するしかないが・・)

此方は高校生位の年齢が5人。対する悪霊軍は多少は減っているが指揮旺盛な戦力が十分なぐらいある、少なくとも1個大隊クラスは下らないだろう。

此方が全員ラン○ーで十分な空爆支援と砲撃支援・・・更にAFVに乗って突入できるのならば可能かもしれないが無理と言う物だ。

「此れって・・」

ふと那美が何かの音に反応する。

一瞬の警戒を感じるが正体が分かると安堵の表情が全員に浮かんだ。

「笛の音・・・」

初めて聞く曲だが心休まる音が全員に響く。

「もしかして、お姉ちゃんが吹いてるのかも?」

その言葉に表情を引き締めた

「琴乃・・・勇吾・・オレが必ず助けてみせる!」

其の為に可能な限りの奇襲案を搾り出し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

話は少し遡る

 

 

「恭也さん・・」

砦の窓から外に広がる草原を見渡しながら琴乃は溜息と共に一人の男性の名前を呟く。

今の琴乃には焦りと恐怖が渦巻いている。

「勇吾さんが、変わっていく・・」

それは見ず知らずの地にいる寂しさではない。

今は敷地の一角で意気投合したミナカタと共に訓練に励む一人の男性が彼女を不安にさせていた。

「君は俺が守る」。その言葉は言われると嬉しい物。

だが、その守るという行為は敵である人を平気で・・しかも高揚しながら楽しそうに言う勇吾に琴乃は恐怖を感じていた。

「人が死ぬのに・・・私は怖いです、恭也さん」

そして偶然持ち歩いていた笛を取り出し唇を当てて奏で始めた。

そのメロディは悲しく・・まるで死んでいった両軍の鎮魂歌だった。

 

 

「・・・琴乃」

「ヒミコさん?」

振り向くと其処にはヒミコが立っていた。

そっと歩み寄り横に立つ。

「私は怖いんです」

ヒミコは黙って聞く。

更に琴乃の言葉は続いた。

「死ぬのも嫌・・・殺すのも嫌、だれかが死ぬのを見るのも嫌・・・どうして争わなければならないんですか?」

ある意味で戦争の真理への永遠の問いかけなのだが、今の彼女にとっては其処まで深い意味は無い。

それでも大きく意味はある質問であった。

「あなたは優しいです」

それまで黙っていたヒミコの口が開いた。

「確かに死者との別れは悲しいです・・・それでも私達は戦わねばならない・・・二つの世界があるべき姿に戻る為に・・・必要な戦いなのです」

「・・・・」

自分が正しいとは言わず「必要だから」の一言に全てを託す言葉。

例え一人となっても遣り遂げようとする使命感が彼女から発せられていた。

「貴女に此れを授けます・・・私の呪力が篭ってます。貴女が此れを奏でれば、貴女を守ると力となるでしょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁん!怖いよぉぉぉぉーーー!やっぱ辞めようよ!」

「半分まで来てから言われても遅いんですけど・・」

崖を横断するように備わっているロープにぶら下がりながら明日香は叫びがこだまする。

結論から言えばロープウェイの要領で渡る事になったのだ。

「私、高いの苦手なんですよぉ・・」

 

 

 

 

 

 

 

「疲れたぁ」

「私、手の皮剥けちゃったよ」

途中に那美が落ちそうになったり、落ちかけたり、落ちる一歩手前になるなどしたが全員無事にわたりきっていた。

当然なのだが彼女たちの顔は疲労困憊である、ただ一人恭也を除いてだが・・

「少し休むか?」

言っておくが恭也だけはロッククライミングのように崖を渡っていたのだ。

そして明日香に矢を撃って貰い、それを恭也が結んで渡ると言う作戦。

恭也の負担は1番大きいのだが彼はあまり疲れた感じは見えない。

「ううん!それよりも恭也クンたちの仲間を助けるんだよね?」

「ああ。だが、どうやって探すかだ」

サクヤの言葉に早速第2の難関である。

此の砦は要塞と言うほどではないが、決して小さいという訳ではない。

現代の軍の基地などに比べれば圧倒的に小さいが、逆に戦力が揃ってる以上は警備の厚さは尋常ではないはずだ。

「私にいい考えがあるわ!」

唐突に叫ぶ芹。

だが現実は酷い物だった

「「却下(だ)」」

何かは知らないが恭也とサクヤの声は見事にハモっていた。

「何でよ?!」

芹の抗議に云々と頷く明日香と那美。

だが同時に「大暴れするから、なんだろうな〜」と予想すらしていたりもする。

それが理由だと考えていたが恭也の言葉は予想を斜め上に逝っていた。

「アメリカの関係者が「私にいい考えがある」と言う場合は決まって失敗する・・昔父さんが言っていた・・・」

「うん。うちのお父さんも言っていた」

3人の顔が「はぁ?」となったが彼等は何処吹く風。

アメリカで活躍した某ロボット生命体の総司令官の理屈(実話)の事だが何故にサクヤまで知っているのだろうか?

士郎の友人だからと言えばソレまでだろうし、あえて終わる。

「大丈夫よ、まぁ聞きなさいって!」

それでもめげずに続けようとする芹。

最近ギャグキャラ(神楽歌仕様)の所為で自分の存在意義に不安を感じてるのだろうか?

「お姉ちゃん!」

その芹の発言を無視して明日香が反応した。

同時に全員の耳に昨晩から聞こえてくる笛の音が響いた。

「聞くまでも無いな?」

恭也の言葉に芹以外が頷く。

「え?え?ちょっと?」

驚く芹を置いて恭也達は茂みや木を利用しながら砦に走っていった。

「せっかく・・・もう!」

せっかく「大暴れして正面突破」と言おうとしていたのだった。

まぁ見事に予想したとおりだったのだが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ!と音がすると2人の人間型の悪霊が地面に倒れ付す。

歩哨に立っていた悪霊を恭也は模造刀を使って気絶させていたのだ。

「うわぁ〜なんか凄いね」

少し離れた茂みの中から感嘆の声を上げながら明日香が走ってきた。

「と言うか・・漫画の殺し屋みたいな事出来るのね?」

「父さんと旅してたからな。それよりも明日香。ソレ拾っといた方がいいだろう」

既に恭也の常人が持っていないスキルに付いて「恭也の父」が毎回関連してる事が発覚し誰も突っ込まない。

そして恭也の指示通り明日香までも倒れ付した悪霊が装備してた矢を回収していた。

「さて、行くか」

気絶している悪霊に念のために久遠に電撃を撃って貰ってから片付けてる最中、瞬間に恭也は手で「隠れろ」と合図した。

芹とサクヤは茂みの中。

明日香は近くの蔵の軒下に。

那美は迷ったものの久遠に先導されて砦の中央を横断していた用水路の橋の下に隠れる。

最後に恭也は垂直にジャンプして木に昇っていた。

そして僅かな時間を置いて悪霊が一人で木の下に走って来た。

「悪いな」

何で来たのか理由は語るほど重要でないために割愛されるが悪霊は木の上から恭也の声を聞いた瞬間宙吊りになる。

「必殺仕事人?」

那美の突っ込みどおり枝で逆さづりをした恭也が鋼糸を使い首吊りにしていたのだ。

引っ張り上げる反動の為に地面に着地し周りを見渡す。

そして手で合図を送ると一斉に駆け出した。

 

 

 

 

報告を受けたミナカタの怒声が屋敷の一室に響く。

「侵入者が出ただとぉ!」

恭也達が駆け出して直ぐに事は発覚した。

恭也に宙吊りにされた悪霊が偶然にも歩哨によって見つかってしまったのだ。

「くそ・・・燐達に笑いものにされてしまうではないか・・」

少し前に同僚の燐から「侵入者には気をつけろ」と言われたばかりだった。

その時はカグツチたちに余力無しと思い来ないと判断し、実際だが言った本人の燐も来るとは思っていなかった。

「ヒミコ様の警護を厳重にしろ!」

そう言いつつも何か引っかかる物を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、恭也?」

「何だ?」

夕陽に向かって全力疾走とは言わないが本気で走っている恭也に必死で追い付こうとしている芹が言った。

「何か周りが騒がしいくない?侵入者だぁ!とか、ヒミコ様を守れとかさ?」

不運にも芹の前に出たドーベルマンの様な悪霊を蹴っ飛ばしながら叫ぶ。

同じく鎧武者のような悪霊を徹を込めた一撃で吹き飛ばしながら恭也は事も無げに

「騒がしいのは当然だろ?見つかっただけだろうな」

「そう見つかった・・・ええ!」

最近だが芹は驚いているばかりだが恭也は逆に冷静だ。

念のため言っておきますが芹のファン様ごめんなさいデス。

「見つかっちゃ意味無いでしょう!」

「どーどー、落ち着いて芹おねぇちゃん」

少し遅れて追いついた明日香に窘められて僅かに冷静さを取り戻す。

だからと言って発見されたと言う事への危機感は消える訳ではない。

「でも、恭也さん。笛の方向の音が・・・」

那美の言うとおり琴乃の奏でていると思われた笛の音は騒ぎの所為か止んでしまっていた。

故に琴乃の場所の特定は困難を極めたと思っている。

「それに、此の方向って?」

外から見た限りでの砦の構図から言えば彼等の向かう先には一つしかない。

「オレを信じろ」

何かの確証があるかのごとく恭也は不適に笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体、何が起きたのかしら?」

外の騒ぎを聞きながら琴乃は不安に駆られる。

(また・・戦いが始まるの?)

確かにヒミコの意見も分かるし、相対する人間達が反撃に出るのも頷ける。

理解もしているし納得もした。

だからと言って悲しく思わない理由はない。

何よりも一緒に居る勇吾の変貌も怖い。

「大丈夫さ・・いざとなったらオレが君を守る」

言う勇吾だったが彼は気付いていないのだろうか?

敵と言う事は人間だと言う事を。

そして、その中には自分が知っている人がいる可能性を?

「恭也さん!」

彼にとっては予想もしない名前が唐突に聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

「無事か、勇吾!琴乃!」

ドアを粉々に粉砕して突入してきた恭也は周囲に敵がいないのを確認しつつ叫んだ。

「おねぇちゃん〜!」

姉の身を案じる明日香を筆頭に続々と入ってくるのに、一瞬だが琴乃は呆気に取られたが

「明日香!」

涙を流しながら思わず叫ぶ。

その光景を複雑そうだが微笑ましく見る那美とサクヤ。

「上手く言ったね」

「ほんと、上手くいくとは思わなかったわよ」

恭也曰く「わざと見つかった後に入り口まで走って門を開ける。そして少し館の中に潜伏してから笛の音の場所に向かう」作戦だった。

鳴り止んだ音だが「代々の場所は分かってる」と少し人間離れしたような発言だったが本当に特定までしてたのは余談。

 

 

 

「さて・・・二人とも、準備は良いか?」

「どういうことだ恭也?」

ただ残念な事に二人の会話は既に噛み合ってなかった。

「どういう事だと?ああ気にするな?」

「ふざけてるのか?!」

恐らく恭也自体は助け合うのが当たり前だから問題ないと思っているだけの発言。

ただ勇吾は違っていた。

「帰るのがオカシイのか?ちゃんと用意もしてきてある」

そう言おうとした瞬間、

「何をするんだ勇吾!」

殺気を感じ飛び下がった瞬間、勇吾の持っていた剣が一閃を放っていた。

「どうして・・・邪魔をする!」

明らかな殺意が恭也たちに向けられていた・・・

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


後書き

 

猛:なぁ麻衣・・

北河:何?

猛:なんか作者が二人に見えるのはオレの目の錯覚か?

北河:二人に見えるのは錯覚よ。でも似たような人がいるのは確かね

猛:はぁ?

北河:寝てるのが本人で、脇で立っているのが「神楽歌上司」よ

猛:・・・・

 

神楽歌上司「お前の体は既に限界に来ている!早く体を休めるんだ!」

 

猛:某M87星雲の人デスカ?

北河:最近。エヴォリューションとか19996部作とかみてたからね

 

 

 

 

 

 

 





まずは、ごめんなさい。
美姫 「アップするのが遅くなりました」
うぅぅ、ごめんなさいです。
美姫 「で、今回は勇吾たちの救出に向かった恭也たちってお話だったんだけれど」
何か、勇吾の人が変わってしまったようだよ。
美姫 「一体、どうしたのかしらね」
恭也たちに向けられる殺意。
美姫 「果たして、どうなるの!?」
次回も待っています。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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