無言で相対する2人の剣士。

 

 片や白を基調とし、西洋風の片刃の長剣を携えるは剣の騎士″。

 片や黒を基調とし、刀身まで黒に染めた日本刀(・・・)を携えるは刀の騎士″。

 

 全てが正反対のようにみえる2人だが、唯1つだけ共有することがある。

それが『届く距離まで近づいて、敵を斬る!』という単純であり、何よりも至難とされる戦闘スタイル。

 

 

 

そんな似て非なる剣士の戦いが、今・・・・・・・・・・・・口火を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはStrikerS Kalt Schwert(凍てついた刃)

 

第2話 『烈火VS氷輪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は・・・・・・午前の訓練を開始する前、ソウシの紹介を前線メンバーにソウシを紹介するところまで遡る。

 

「こちらが、本日より六課に配属になったソウシ・エスクード三等空尉です。私たちと同じで前線担当になります」

「ただいまご紹介いただきましたソウシ・エスクード三等空尉です。よろしく・・・・・・」

「「「「よろしくお願いします!!」」」」

 

 元気いっぱいの新人フォワードとは反対に、ソウシの反応は薄い。

 ハッキリ言えば『無愛想』としかとれない態度である。

 

「(ティア、何かソウシ三尉って愛想悪い?)」

「(確かにそうかもね・・・・・・・・・・・・まぁうるさくないだけマシじゃない。あんたと違って)」

「(ひどっ!)」

 

 そんな念話上でのコントを尻目に、キャロがおずおずと手を挙げた。

 

「あの・・・・・・ソウシ三尉はライトニング隊とスターズ隊のどちらになるんですか?」

「彼は両部隊の副隊長補佐と遊撃担当になるから、実質的にはロングアーチ扱いだよ」

「だからリイン曹長と行動することが多いかな」

 

 スターズ分隊もライトニング分隊も、ロングアーチから指示を受け、それを分隊員に伝えると言う方式をとっているが。

 ソウシの担当である遊撃とは、ロングアーチが独自で臨機応変に動かせるポジションだ。

 それゆえ、現場での前線管制であるリインは、ソウシにとって臨時の指揮官に当たる。

 もっとも、ソウシの方が階級も上で決定権が強いのだが、基本方針はそうなっている。

 

 ソウシの顔合わせが済み、訓練を始めようとした矢先になのはから1つの提案が出された。

 

 

 

「それじゃあ、午前の訓練を始める前にソウシ三尉には模擬戦をやってもらいます」

 

 

 

 その一言でフェイトとシグナムの目の色が変わった。

 

 戦闘マニアで有名なこの2人だが、六課に配属してから模擬戦など1度足りともしていない。

もとより、六課内で私闘まがいの模擬戦をするなどそうそう出来るものではない。

何故なら、いつ緊急出撃するかも知れない状況でいたずらに体力や魔力を消費すると言うことは愚行以外のなにものでもない。

加えて言えば、彼女らは隊長,副隊長という責任ある立場の存在であり、新人たちの規範となるべき存在なのだ。

そんな人間が私事を仕事に持ち込むなどあってはならない。

 

 

だからこそ、2人の目が輝いたのだ。

仕事として、目の前の男と模擬戦が出来るのだから。

・・・・・・・・・・・・よっぽどフラストレーションが溜まっていたのだろう。

 

 

ちょっと危ない気配を出している2人を黙殺し、ソウシがなのはに訊ねた。

 

「なぜ模擬戦を?」

「やっぱり実力を把握しておかないと、いざと言うとき連携が取れなくなるでしょう」

 

 そう、この模擬戦はようするにソウシの力試しなのだ。

 組織や部隊に属する以上、絶対にチームプレイというものが必要になってくる。

 その際に重要になってくるのが仲間への信頼だ。

 極端な話。連携を組むにしても、背中を預けるにしても、信頼関係が築けていなければどちらもこなすことが出来ないだろう。

 そして、信頼を築く一番の方法とは『相手を知ること』に他ならない。

 

正直な話、なのははソウシという男がよく分からなかったのである。

 リインが連れてきた際、他の前線メンバーよりも早くソウシと会ったなのはは色々とソウシに話しかけたのだ。

 しかし返ってきた答えは「はい・・・・・・」「そうですか・・・・・・」などと一言で終了。会話として成立すらしていないという始末。

 他のメンバーと会った時も似たような反応しかしないソウシを見て、なのはには1つの考えが浮かんだ。

 それが『模擬戦を通じて彼という人物を知る』というものだ。

 

『戦い方にはその人となりが表れやすく、真剣勝負の最中にはその人の本性が現れやすい。』

 これらのことはなのはが教導隊で学んだことであり、故郷にいる父や兄が言っていたことなのだ。

 

 だからこそ、なのはは模擬戦を提言したのだ。

 ソウシ・エスクードという新たな仲間を知るために。

 

「そうですね・・・・・・分かりました。で、お相手は?」

 

 危ない気配を漂わせている人たちの眼光が鋭く光る。

そして・・・・・・・・・・・・

 

「それじゃあシグナム副隊長。お願いします」

 

 勝利者がポーカーフェイスを気取りつつ内心でガッツポーズを取り。

 敗者が表面上では苦笑いを浮かべ、心の中で激しく落ち込んでいた。

 

 その心中を察することの出来た一部の人たちとは違い、フォワードたちは不思議そうな顔をしている。

 

「あれ?なのはさんじゃないのですか?」

「彼はベルカ式で剣型のアームドデバイスを使うらしいからね。

 だから、同じ戦闘スタイルのシグナム副隊長となら実力を把握しやすいでしょ」

「確かにそうですね」

 

 騎士見習いであるエリオはそこで気付いた。

 勝敗を決めるものではなく、実力を測るためならば同じ戦闘スタイルの方が力の差が浮き彫りになると。

 

「それじゃあ、2人以外は見学ということで移動するよ」

 

 なのはの支持で皆が動き出し、一斉に訓練場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして両者の戦闘準備が整った時、隊長陣の顔つきが変わった。

 

 ソウシのバリアジャケットは武装隊甲冑のアンダースーツに似たタイプの格好だった。

 前で留めるタイプの黒のロングコートにグレーのズボン。

そして、動きやすさを考慮して甲冑などは付けていない。

それはシグナムのような騎士甲冑″ではなく、リインのような騎士装束″だった。

 

 

 

だが、皆の視線を釘付けにし、隊長たちの顔つきを変えたのはその手にあるデバイスの方だ。

 

 

 

 フォワード陣の眼には奇妙な形の剣としか映らなかっただろう。

 特に騎士見習いであるエリオは、その剣の細さと不自然な歪曲さに怪訝な顔をしている。

 だが、隊長陣・・・・・・特になのはは驚愕を隠せなかった。

 それは、まだ自分が故郷にいるときに幾度となく目にした武器・・・・・・・・・・・・。

 そして、その故郷以外では決して目にしたことの無いモノ。

 

 

 

 それは紛れも無く日本刀″だったのだから。

 

 

 

 だが、そのことを言及するより前にシグナムとソウシが向かい合い、闘気を迸らせていた。

 それを見て何もいえなくなったのだろう。

 なのはは出かかった質問を黙殺し、開始の宣言をする。

 

 

 

「模擬戦、始め!!」

 

 

 

開始と同時に両者は一直線に突っ込んだ。

 そして、

 

「「ハァ!!」」

 

 共に渾身の力で袈裟斬りを放った。

剣がぶつかり合った瞬間、周囲に響くほどの衝撃波が走る。

 踏み込んだ右足の下には、放射状に亀裂が入っていた。

 

「チッ・・・・・・」

 

 数瞬、そのままの体勢で固まっていた2人だったが、

やはり武器の種類からなる戦闘方法の違いからか、力押しではシグナムの方に分があった。

 

「シッ!」

 

 だからこそ、ソウシはシグナムの剣を右下に逸らすことで力を受け流しシグナムの体勢を崩した。

そこで、刀を翻し上から振り下ろす。

 

「甘い!」

 

 だが、シグナムは瞬時にレバンティンでそれを平然と受けとめた。

 そして、それを払い除け、お返しと言わんばかりに斬りかかる。

 

「ヤァァ!!」

「ハァァ!!」

 

 白と黒の剣戟が火花を散らす。一閃・・・・・・また一閃と。

 その数は最早20合を優に超えているが、その太刀が相手にはまだ触れてもいない。

 打ち込み、捌き、切り返す。この単純な動作の繰り返しも、並みの騎士の範疇を遥かに超えているのだ。

 

「フンッ!」

 

 シグナムの力強い剣が頭上から振り下ろされる。

 相対する敵にしてみれば、視認することさえ叶わない神速の一撃。

 だが、ソウシの刀がそれを阻む。

 斜めに構えた刀の切っ先がシグナムの剣の軌道を僅かにずらし、さらには体を半身にすることで攻撃の射程から逃れたのだ。

 これによりレヴァンティンが空を切る。

 その隙にシグナムの首筋を狙うが・・・・・・当然阻まれる。

 

「やるな」

「お互い様です」

 

 剣戟が40合を越えたあたりで戦局が一変した。

 両者ともに、このまま地上で斬りあっていても埒が明かないと判断したのだろう。

 同時に距離をとり、そして・・・・・・・・・・・・同時に空へ飛んだ。

 

(ここだっ!)

 

 先手を打ったのはソウシの方だった。

 シグナムに真正面から突撃する・・・・・・・・・・・・と思った瞬間にはすでに側面に回りこんでいたのだ。

 

「何っ!?」

 

 左・・・・・・かと思えば背後から。

 後ろに意識を傾けた、その次の瞬間には頭上から。

 それはまさしく縦横無尽と呼ぶに相応しい動きだった。

 これにはさすがのシグナムも足を止め、迂闊に動くことが出来ない。

 

「速い・・・・・・な、テスタロッサといい勝負だ!」

 

 シグナムには、フェイトと模擬戦をしているかのような錯覚を覚えるほど、ソウシのスピードに舌を巻いていた。

 だが、その戦いを下から見上げていたフェイトは胸中で密かに呟いていた。

 

(あれじゃあ速く感じちゃうのも無理ないな・・・・・・)

 

 事実としてソウシのスピード確かに速いが、フェイトには劣っている。

 

 

 

ならば何故シグナムは、ソウシの動きについていけないのか?

 

 

 

 その理由は、ソウシの移動方法にあった。

 彼は初速から瞬時に最高速度を出すことと、速度を極力殺さない急激な方向転換という2種類の動きを持っているのだ。

 そのため、人の動体視力ではその動きを捉えきれず、結果としてソウシを見失ってしまうのだ。

 だが、この動きも種が割れていればそこまで脅威とはいえない。

 なぜなら高速移動魔法や高速機動魔法などと比べ、スピードそのものが速くなっているわけではないからだ。

 動きに慣れてしまうか、少し距離をとれば十分に対処できるのだから。

 

 だからこそソウシは空に上がった直後にこの動きを出したのだ。

 相手がこの動きを捉えきる前に。

この一撃で仕留めるために。

 

「ハァ!!」

 

 左斜め後ろ、死角からの一閃。

 体勢、速さ、タイミング、あらゆる要素が万全とされた必殺の一撃。

 これにはソウシも直撃を確信した。

 

 確信した・・・・・・はずだった。

 

「レヴァンティン!」

Panzergeist

 

 その一撃はパンツァーガイスト″の全力展開により威力の大半を削がれてしまった。

 シグナムの騎士甲冑の肩が浅く裂けた・・・・・・が、ダメージなどさしたるものでもない。

 むしろ、攻撃が失敗したこの隙を狙うかのように、シグナムの剣が奔る。

 

「くっ!」

 

 かろうじて刀で受けたが、衝撃で数メートルは後退してしまった。

 

「いい一撃だ。だが、まだ足りん」

 

その言葉を皮切りに、再び剣戟が開始される。

 地上で斬りあっていた時のように、一進一退の攻防が繰り広げられている。

 その戦いぶりにフォワードたちはおろか、隊長たちも舌を巻いた。

 

「シグナム副隊長、本気だね」

「ああ。よっぽどソウシ三尉の実力が高ぇんだな」

 

 などと、シグナムの実力を知るがゆえに、冷静に戦力を分析できているのだが。

 一方のフォワード陣はというと・・・・・・・・・・・・

 

「凄い・・・・・・」

「そうですね・・・・・」

 

スバルとキャロは単純に戦闘に見入っており、

 

「・・・・・・」

 

エリオは、自分の目標とする騎士同士の戦いを一瞬たりとも見逃すまいと、食い入るように眺め、

 

「くっ・・・・・・・・・」

 

ティアナは、己とのレベルの違いをまざまざと見せ付けられているような感覚に陥っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素晴らしい剣技だ、これならばフェイト隊長にも匹敵しかねないな」

「恐縮です・・・・・・」

「だが、こんなものではないだろう?」

 

 確かにソウシの剣を扱う技能はずば抜けている。

 だが、これは実力を測るための模擬戦であり、ソウシは未だ攻撃用の魔法を使っていない。

 だからシグナムは言外にこう告げたのだ。

『本気を出せ!』と。

 

 そして、ソウシの雰囲気が僅かに変わる。

 先程よりもさらに冷たく、鋭いものに。

 

 その瞬間、シグナムに向かい急加速からの突進をした。

 それを迎え撃つため、シグナムがレヴァンティンを振り下ろす。

 

 そこで・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「凍てつけ!」

 

 パキィィン!

 

「なっ!?」

 

シグナムは勿論、下で見物していた全員が驚愕した。

剣を合わせた瞬間、ソウシのデバイスから冷気が放出されレヴァンティンとそれを握っていた腕が肘まで凍りついたのだ。

 ソウシはその隙を逃さず、側面に回りこみ肝臓に向けて刺突が繰り出した。

 

「くっ!」

 

シグナムは体を捻ることでかろうじて直撃はさけたのだが、かわしきれずに攻撃を受けた脇腹に鈍い痛みが走り顔を顰めた。

咄嗟に距離をとるがソウシは攻め込んでこない。

どうやら今の攻撃をかわされたことで警戒を強めたらしい。

 

「今のタイミングで直撃を避けられるとは・・・・・・とんでもないですね」

「そういえば、送られてきたお前のデータの中に書いてあったな。『凍結』の変換資質保持者だと」

 

『魔力変換資質』

これは、魔力を特定のエネルギー体に変換する能力のことであり、

魔力の変換を意識せずに行える一種の資質のことである。

それに加え、資質に基く系統の魔法を習得し易いなどの利点も存在する。

 

その資質は主に3種類に言われ、比較的多くのものが保有する『電気』と『炎』。

そして、滅多に存在しないとされるのが『凍結』である。

ちなみに、六課の中ではフェイトとエリオが『電気』、シグナムが『炎』を保有している。

 

 

 

「ハァァ!」

 

 ソウシの攻撃が再開された。

 先ほどと同じように剣戟の雨を降らせているのだが、決定的に違う箇所がある。

 

「チィ!」

 

 それを防ぐシグナムから苦悶の声が上がる。

 攻めにまったく回れず、受身にならざるを得ない。

何せ、ソウシの剣を受ければ受けるほどその部分が凍り付いていく(・・・・・・・)のだから

 

 

これがソウシの攻撃の要となる魔法フロスト・ヴィルグング″の効果なのだ。

その正体は、自身の魔力を凍結効果に変換して放出するだけの魔力運用に近い魔法である。

 そのため、瞬間的な発動が可能であり、なおかつ効果範囲を自在に設定できるのだ。

 なお、術式を編んだ魔法ではないため、自身を基点として数m四方にしか発動効果は得られず、近距離でしか使えない。

 最も、ソウシの戦術は近接戦闘であり、そのデメリットは然したる物ではない。

 

 

 斬撃の瞬間、凍結効果の魔力を刀身部分を中心に放出することで、防御ごと凍らせる攻撃を繰り出す。

 そのせいか、シグナムは防御一辺倒。

 しかも、鍔迫り合いをすれば凍結箇所が広がることを悟り、攻撃を己の剣で弾いてる。

 

「(ここまで防戦一方になるとはな・・・・・・くっ)」

 

 ソウシの攻撃は留まるところを知らず繰り広げられる。

 冷気の刃がシグナムを追い詰めんとして肉薄する。

 

 そんな折、シグナムの胸中では1つの考えが浮かんでいた。

 

(奴は恐らく誘導型の射撃魔法を持っていないな)

 

 模擬戦を始めてしばらくたつが、ソウシが接近戦以外の戦法を取る様子がまったく見受けられない。

 むしろ、距離を取ることを防ごうとしている節すらある。

 

(奴の戦闘スタイルは、スピードを生かし凍結魔法を駆使する近距離戦闘専門。ならば・・・・・・・・・・・・)

 

 ソウシの猛攻を凌いだシグナムが瞬間的に距離を取り、デバイスを構えた。

 

「レヴァンティン!!」

Schlangeform

 

レヴァンティンからコッキング音が響く、それと同時に刀身に切れ込みが入り幾重にも分かれた。

鞭の特性と剣の融合した形態、その名を鞭状連結刃。

 

「ハァァ!!」

 

鞭状の刃が走る。

弧を描き、螺旋を描き、四方八方からソウシを狙う。

 

「くっ・・・・・・」

 

全神経を集中し、切っ先を見据え全力で回避に専念する。

 その間、連結部分を凍らせようかと試みたが、この縦横無尽に動く刃に絡め取られそうになり、迂闊に近づくことすら出来なくなった。

 そのため、避ける以外の対処法が無く、シグナムから徐々に離れていってしまう。

 

(いい動きだ。だが、かわしきれるか?)

 

 シグナムの攻撃がさらに苛烈さを増した。

 

ソウシの戦闘方法を鑑みれば、このシュランゲフォルム″を選択したのはベストだったと言えよう。

 中距離を制する立体攻撃。

 この近づくことが困難なこの状況では、当然ソウシに勝ち目は無い。

 

 

 

 そう・・・・・・・・・誰もが思っていた。

 

 

 

「『バルムンク』、カートリッジロード」

Schneesturm

 

 ソウシのデバイスバルムンク″からコッキング音が響き、冷気が刀身に渦巻き始めた。

 そして、刀を一閃した瞬間・・・・・・・・・・・・ソウシの眼前からシグナムまでの直線状に存在するレヴァンティンの刃が凍りつき、

 一筋の道″と化していた。

 

「何っ!?」

 

 今まで射撃魔法を使う素振りさえなかったためか、シグナムは瞬間的に硬直してしまった。

 その隙を逃がさず、ソウシは目の前に広がる氷のアーチで出来た道を、温存していた魔法で一気に翔る。

 

Schneligkei

 

 瞬間移動にすら見える高速移動魔法。

 それをもって、シグナムまでの距離をゼロに詰める。

 そして、その移動の勢いを残したまま刺突を繰り出した。

 

 だが・・・・・・・・・・・・

 

「ハァァ!」

 

 ガキィィン!

 

「なっ、鞘!?」

 

 その刃はシグナムの左手に突如現れた鞘によって防がれていた。

 しかも、その鞘にはバリア系の魔法が付与していたのか、バルムンクに込めた魔力が衝突して拮抗し始めた。

 その間ソウシは完全に死に体と化している。

 対するシグナムは左手しか塞がっておらず、右手のレヴァンティンは魔力を込めて相殺し氷が砕け、剣の形態に戻り始めていた。

 

「ハッ!」

 

 その拮抗状態をシグナムが右足での回し蹴りで動かした。

無論、それを防げないソウシではないが、衝撃までは殺せなかったのか、僅かに後退して体勢を崩してしまった。

その間にレヴァンティンの刃が戻りきり、同時にコッキング音が響いた。

 

「これで終わりだ!」

 

 シグナムがソウシに迫る。

 だが、同様にバルムンクからもコッキング音が響き、ソウシが迎撃の姿勢をとった。

 

 

 

紫電 」

氷刃(ひじん) 

 

 

 

そして、共に繰り出すは必殺の一撃。

纏うは炎、自身の変換資質が生み出す炎熱効果により生じる灼熱の刃。

纏うは冷気、自身の変換資質が生み出す氷結効果により生じるは極寒の刃。

 

 

 

「「一閃″!!」」

 

 

 

変換された高密度の魔力がぶつかり合い、目も眩むような爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして煙が消え、そこに飛び込んできた光景は、

 

 

 

 

「俺の・・・・・・負けです」

 

 

 

 

 シグナムの右脇腹から30cm程離れたところで刀を止めているソウシと、

 ソウシの首筋に剣を振り下ろした形で静止しているシグナムの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのデバイスはどこで入手した?」

 

 模擬戦が終わった直後、皆が集まったときにシグナムが唐突に切り出し、

 

「それは私も聞きたいな」

 

 それになのはも便乗した。

 

 

 

「いきなりどうしたんですか?」

「そのデバイスの形状。それは紛れも無く日本刀″だろう」

 

『日本刀』

これは第97管理外世界の小さな島国にのみ存在する稀有な形状の刀である。

 それ故にデバイスとして存在している例など聞いたことは無い。

 事実、シグナムや他の隊長たちですら初めて目の当たりにしたのだから。

 

「それに加えあの剣筋だ。日本刀のことを理解していなければ、あんな弧を描くような太刀筋にはならないはずだ」

 

 日本刀はその構造上、刀身を押すか引くかをしなければモノを斬ることは出来ない。

 だから、振り抜く際に弧を描くような軌道になってしまうのだ。

 無論、それも日本刀の存在同様ミッドチルダ圏内では知りえない知識だろう。

 

「お前は、第97管理外世界に何らかの繋がりがあるのか?」

 

 全員の視線がソウシに集中する。

 そして・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・分かりません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「は?」」」」」」

 

 返ってきた一言に皆が呆気に取られてしまった。

 

「分からない・・・・・・だと?一体どういうことだ!?」

 

 シグナムの形相が訝しげなものから、段々と険しいものに変わっていく。

 だが、肝心のソウシはどこ吹く風と言わんばかりの態度で再度爆弾を投じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は・・・・・・・・・・・・記憶喪失なんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

<続く>

 

 


後書き

 

 皆さ〜んお久しぶりで〜す。と言うより覚えておられる方はいらっしゃるでしょうか?加賀美です。

戦闘描写は難しいと思っていましたが、予想の斜め上を行く難しさでした。見積もりが甘かったか・・・・・・・・・・・・。

 書けば書くほどおかしくなっていき、その都度修正したのですがやっぱりイマイチです。

 

 今回のタイトルにある烈火は、いわずと知れた『烈火の将』であるシグナムさんのことですが、氷輪とは何ぞや?とお思いの人のために解説を入れておきます。

 氷輪とは元々『凍ったように輝く月』もしくは『冷たい月』を意味していて、ここでいう月を、私はソウシ自身と捉えています。

 何故なら、月は温もりの無い荒廃のような場所。まさに人を寄せ付けない今のソウシにぴったりだからです。

 さらには、「凍ったような」や「冷たい」からは凍結の変換資質のことが伺えると言うことで、これしかないと考え、タイトルに氷輪と記載しました。

 

さて、本編ではソウシの敗北で終わった模擬戦ですが。ほかの隊長たちと戦っていたらどんな結果になったか?

 今回はゲストトークの代わりにそれを書きたいと思います。

 

 

まずはVSなのは編・・・・・・勝ち目がまったくありません、と言うか相性が悪すぎます。

 なのはは基本的に中・遠距離で戦う後衛タイプであり、それに加えフロントアタッカー並みの防御力まであります。

 それに比べ、ソウシの攻撃は近距離オンリー。戦闘スタイルは攻撃タイプではなくスピードタイプ。

よって、近づいても防御が抜けず、距離を取られれば射撃や砲撃魔法の餌食となってしまう。

 10回戦えば10回ともなのはが勝つでしょう。

 

 

 次にVSフェイト編・・・・・・接近戦だけを見れば五分五分と言えますが、多彩な射撃を持つ分フェイトが有利。

フェイトはソウシ以上のスピードに加え。ロングやミドルレンジ対応の魔法を持っています。

 なので、接近戦は凍結効果を駆使すればスピードの差を埋めることは出来るでしょうが、

 速度で負けている以上、容易く距離を取られ、射撃や砲撃の的になるでしょう。

近接戦闘の時点で勝負を決められるかどうか・・・・・・それが勝敗を左右するでしょう。

 

 

 最後にVSヴィータ編・・・・・・基本的にソウシの方が有利だが、一撃で戦局が一変することがある。

 ヴィータはシグナムを含めた隊長陣の中で一番オールラウンドなタイプであり、さらに言えば攻撃が主体です。

射撃魔法も使ってきますが、ソウシの方がスピードがあるため距離を詰めることが可能です。

 そして、近接戦闘に持ち込んでしまえば、凍結能力を持つソウシの方が有利です。

ただ、ソウシ自身防御能力が高いわけではないため、ラケーテンハンマー″の一撃ですら大ダメージを負ってしまいます。

 つまり、ヴィータの一撃がソウシを打ち抜くか・・・・・・それより早く凍結をかけ、ソウシが攻め勝つか。

 この2人の戦いはそこが勝負の分かれ目になるでしょう。

 

これらは全て能力限定を受けていることが前提なため、限定解除されれば勝率はガクッと落ちます・・・・・・というか勝てないでしょう。

 

 

 とまあこんな感じでしょうか・・・・・・・・・強いようなそうでもないような・・・微妙だなぁ。

 ちなみに、これらはフルドライブを使わないことを前提として書いています。

 何せ部隊内の模擬戦ですからねぇ、フルドライブなんか使えるわけ無いですし。

 

 さて、次回は本編に沿って『ホテル・アグスタ』の話となっています。

 ソウシがいることによって起こる、一部オリジナルな部分をお楽しみください。

 今回はこれで失礼します。

もし、オリジナルの魔法の詳しい解説が必要でしたら是非言って下さい。次回の話から出すたびに掲載しますので。



記憶のない男。
美姫 「果たしてこれからどうなっていくのかしらね」
しかし、シグナムと良い勝負をしていたようにも見えたけれど。
美姫 「まあ、相性というのはあるからね」
だな。さてさて、これからどうなっていくのやら。
美姫 「今回はこの辺にて失礼しますね」
ではでは。



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