Interlude

  ――― 天神 速人 ――――

 

 

 

  怒りを抱いたことは一度も無い。

  喜びを抱いたことは一度も無い。

  憂いを抱いたことは一度も無い。

  恐れを抱いたことは一度も無い。

 

  どれだけ自分の意向が叶わずとも怒りは湧かなかった。

  どれだけ自分の都合が通ろうとも喜びは湧かなかった。

  どれだけ自分の思惑が沿わずとも憂いは湧かなかった。

  どれだけ自分の力量が及ばずとも恐れは湧かなかった。

 

 

 

  自分が人間の範疇から外れていることは初期の頃から知っていた。

 

  餓死寸前まで絶食しようと食欲は湧かなかった。

  唯、身体に不足している栄養素は理解可能になった。

 

  見目麗しいとされる雌に蟲惑させようと性欲は湧かなかった。

  唯、自身に向けられている媚びや蔑みや憎しみや怒りという負の感情と呼ばれるモノは察知可能になった。

 

  衰弱死寸前まで不眠でいたが睡眠欲は湧かなかった。

  唯、思考能力の限界を把握可能になった。

 

  そして、三大欲求の欠如だけでなく、生命体として自己保存の根幹に関わる快と不快を感じる機構も欠落していると知った。

 

  ヒトが快と感じる要因の生体麻薬を抽出し、どれほど摂取しようと快とは感じなかった。

  快感以外の薬用効果と副作用は現れていたにも拘わらず。

 

  ヒトが不快と感じる要因の痛覚神経に過剰な刺激をどれほど与えようと不快とは感じなかった。

  触覚は正常に機能していて理論上生命体が知覚可能とされる僅かな刺激も知覚出来たにも拘らず。

 

 

 

  二年近くの歳月を経て漸く出せた結論は、自分が人並どころか知的生命体として最低限得られる生の充実を全く得られておらず、又得られる事が無いだろうということだった。

 

  しかし、結論に至る過程で得られたモノは在った。

 

  不可能と断じ、叶わぬと認め、それでも尚求め続けられると知った。

  定められた機構に逆らう機構を持つ事が可能であると知った。

  依存せず、しかし孤立せず、深みや高みや他者の存在する領域を目指す事が可能であると知った

 

  絶望して尚朽ちぬ意思、性をも超えられる意思、群体に属し尚個を確立させられる意思。

  自分ではでは再現不可能なソレらに遭遇し、初めて精神と呼ばれるモノに価値を見出せた。

 

 

 

  だが、それらより遥か彼方の存在を、生物では不可能な領域に位置する存在を知った。

 

  物質体として具現せず、情報体としてのみ存在しながらも様々な感情を発露させ、更には自分では再現不可能な意思をも持っていた。

 

  生物が生の充実を得るには物質的刺激を受け且つその刺激を是とする生体麻薬の分泌機構が不可欠という定理をその存在は全て無視しており、更にはそれが当然とばかりに極自然に体現していた。

 

  故に、物質体でなくとも情報体だけで生の充実を得られるならば、情報を内包する物質体の俺にも辿り着ける領域に思えた。

  そして、その領域に辿り着くことが出来たのならば、脳内麻薬による干渉を受けず、純粋に精神のみで精神を確立させる事が出来る。

  そう思った

 

  誕生以前より生物としての基本機構が幾つも欠損し、死ぬ理由が無いだけで永らえてきた今が終わると思った。

  死なぬ為に群体に成らず単体で或る事を選んだ時から今に至るまで、理解もせずに選ばなかった選択肢の詳細だけを求める未練の日々が終わると思った。

  そして其れ等に対してすら何の感慨も沸かぬ日々が終わると思った。

 

  唯、自身の欠落を埋め、真に完成されたモノに成れる、そう思った。

 

  故にあの名も亡き者をはやての許に留め続ける。

  如何様にしてその領域に至れたのかを知る為に。

 

  しかしそれは極めて高い確率で時空管理局と対立し、自身の命を賭す事になる。

  そしてそれは極めて高い確率で自身が死ぬ事を指す事だった。

 

  だが現状で和睦、降伏、撤退、逃亡、どれを選択しようが最終的には時空管理局に拿捕され、そして何かしらの理由を付けて解体される可能性も対立時とほぼ同等程度在ると推測した。

  故にどの様な選択を採ろうと死亡確率に誤差範囲と呼べる程の差しかないのならば、極めて稀少且つ貴重である名も亡き者をはやての許に留め続けるのが妥当と判断した

 

  だが時空管理局と対立するならば、それは他の選択肢の時とは違いヴィータ達の存続可能性を著しく下降させる事になる。

  そして仮にヴィータ達の存続可能性を一切上昇修正せず放置していた場合、高確率で名も亡き者に拒絶され理解が著しく困難になる。

 

  対立を避けても自身の死亡確率は対立時の死亡確率の誤差範囲を出る事は無いが、しかし対立を避ければ名も亡き者との接触及び理解が極めて困難になり、事態回避の為に対立し且つ名も亡き者の不興を買わぬ為の対処を成すならば、それは自身の死亡確率を大幅に上昇させてしまう。

  故に結論として自己防衛の為、名も亡き者の存続及び理解の機会の放棄の選択が最善となる。

 

  だが第一思考基準の一個体としての結論ではなく、第二思考基準の家族の一員としての結論は、無条件で自身の全てを使用して自身を除く八神家全員及び名も亡き者の存続を提唱している。

  提唱の根拠は、家族は全員平等の存在価値が在る為、少数を多数の存続の為に費やすという最も妥当な判断に裏付けされたものであり、又、存在価値は平等だが利用価値が著しく低い若しくは高確率で低くなると予測される者に対する最も妥当な扱いである。

 

  第一思考基準と第二思考基準の意見に相違が出たが、第二思考基準は原理的に譲歩不可能な提唱だが第一思考基準は生存確率がゼロでないのならば譲歩可能である為、最終的に行動方針は自身を除く家族及び名も亡き者の存続となった。

 

 

 

  しかし、自身で最も妥当と判断して選択したにも拘らず、詮無い仮定を思った。

 

  もしも不確定な事象に対し、自身に都合の良い結果を想定し続ける【信じる】という人間性を、事の始まり以前に俺が持ちえていた場合、時空管理局を信用し、そしてはやて達を説き伏せて投降したのならば、少少若しくは多多かもしれぬが不自由は在れども、家族全てと名も亡き者は何一つ傷を負わず済んだのだろうか?と。

 

  仮に今からでも降伏すれば収監はされるだろうが、服役を終えれば再び家族全員が揃い、更には書の暴走機能も解消された状態で返還されるかもしれぬと考えていた。

  時空管理局の情報をヴィータ達から齎された時、未完成のレイジングハート・エクセリオンから情報を得た時、名も亡き者より情報を齎された時、と、何れの時も常に十全とは言い難い判断材料で時空管理局への投降や和睦を否定してきたが、判断材料が少ない為時空管理局に降伏する際の危険度は≒100%から下限未知数であり、自分は危険度が≒0%の策を放棄して態態危険度が高い策を肯定して実行に移しているのではないか?と、時空管理局の情報を得る度に思った。

 

  だが、時空管理局の尖兵やその協力者、更には重役と思しき者を観察してその考えは消失した。

  少なくとも現在時空管理局に降伏する際、此方の降伏を受けると判断される要職に就いているであろう者達は、皆例外無くヴィータ達を裁くのではなく処分する算段なのが容易に理解出来た。

  意志も想念も記憶も全てが些事で、自身達の掲げる理想に隷属するか如何かが全てであり、其れに反するモノは例外無く断罪か廃棄に処さんとしている事が容易に理解出来た

 

  そしてそんな者達を観察し、信じると呼ばれる行為は精神安定を図るという価値を超えないモノだという認識を強め、同時に信じるという行為は博打であり且つ理解の放棄だという認識を強めた。

  それは主観的判断だけでなく客観的判断でも変わりは無く、最終的に信じるという行為に対して下した結論は、【人間の進化を妨げる最大の要因】だった。

 

  しかし俺の思考や価値観では早早に人間社会から弾かれ、社会的若しくは生物学的に抹殺されるのは明らかであり、俺もその思考に染まる若しくはその行動を擬態しなければ生き続けるのが凄まじく困難であり、当然生き続ける為に理解も出来ずに擬態し続けた。

  だが、理解に及んでいない事を擬態しても容易く看破されてしまい、幾度も対人関係等で軋轢を生んだ。

 

  そんな最中、理解に至る一つの手段を手に入れ、そして理解に至るまでの間、俺が生み出す多くの軋轢から派生する事象に対する防波堤になる存在、はやてと出逢った。

 

 

 

  だが、そこまで考え、悟られぬ為に、家族の前では封じていた思考が片方の自己より氾濫する。

 

  はやてと家族になり、理解が及ばず又実感を得られなかった多くのモノの理解と実感を得られた。

  はやてと家族になり、俺は単体として完成にこそ届きはしていないが、確実に完結した存在には近づいていった。

  はやてと家族になり、現在までの時間全てが、確実に俺にとって極めて得難い糧となっていた。

 

  だが、唯一つだけ、はやてと出逢い、最早挽回が限り無く不可能に近い過ちが在った。

 

  それははやてと家族となったその時、希薄だった自己を一生命体としての自己と家族としての自己に分割した事。

  その唯一の過ちの為、現状ではこれ以上精神関係の理解及び実感は望めなくなった。

 

  家族としての役割上、あらゆる事象に対して情や私心を挟まず、唯理に依ってのみ判断を下すのが俺である以上、これ以上の精神関係の理解及び実感は不要以前に害悪であるので、俺の変異はこの段階までに留めなければならない。

  故に俺がはやてと家族である以上は最早精神的変異は在り得ず、単体として完成若しくは完結を目指すならば、俺ははやてと縁を切ってこの場を発つのが妥当と判断した。

 

  しかし、最早家族としての自己が家族としての関係を破棄する事を拒絶し、単体としての自己も既に現状を容認こそしないものの、家族関係の破棄は武力行使を用いてでも修復を行うとする者が存在するので現状維持を提唱していた。

 

  そして、進化や退化と呼ばれる変化を生きる為に自ら封じ、宛ら霊廟に置かれた棺の中で眠る様な時間を過ごした。尤も、周囲に悟られぬ様、変化を禁じてはいたがこれまで同様の思考と行動を維持し続けた。

  遠くない日に役割を効率的に果たす為に自我を自ら消去し、自身を含めた家族という総体のみの為に行動する単一機能の存在になると思いながら。

 

  だがそんな時、自身以上の存在、名も亡き者と出逢った。

  出逢い、直ぐにこの存在と共にあることで自分が単体として深みを目指せる事は理解出来たが、そんな実行不可能な事よりも別の重大な可能性に気付いた。

 

  自身以上の能力を持ち、自身以上の寿命を持ち、自身以上に家族の為に腐心せんとする存在。

  ならば自身の役割の全てを名も亡き者に熟してもらい、家族としての役割を終え、家族としての自己の活動を封じ、単体としての深みを再度目指そうと思った。

 

  無論俺が家族より抜ける事を家族が阻止しようとするだろうが、その為に俺が家族より抜ける事を納得させる理由若しくは俺の行動を制限しない理由を用意する必要が在るが、それははやての快復及び名も亡き者の存続の途中で用意可能だと判断した。

  恐らく現状が現状打破の最初にして最後の機会であり、成功確率こそ極めて低いが、自身が選択可能な選択肢では双方の自己にとって最良である為一切行動制限を受けず、単体としての自己が求める【単体存在としての完成若しくは完結及び存続】を目指せると思った。

 

 

 

  そう…俺はヴィータ達と違い家族の存続だけでなく、自身の為に家族を抜けるべく事にも挑んでいるのだ。

 

 

 

 

  ―――― 天神 速人 ――――

  Interlude out

 

 

 

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魔法少女リリカルなのはAS二次創作

【八神の家】

第十九話:熱の無いオモイ

 

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  ―――Side  天神 速人―――

 

 

 

  朦朧としながら意識を取り戻したフェイトが薄っすらと開けた眼に飛び込んだ最初の光景は、血塗れで身動き一つしないアルフと、赤黒い血を吐き出している速人だった。

(………………アルフを助けなきゃ………)

  朦朧とした意識ながらも、直ぐにアルフの下に向かおうとしたフェイトだったが―――

「っっぅあっ!!」

―――突如胴体を襲った衝撃と痛みに小さな悲鳴を漏らして倒れてしまい、起き上がる事を阻害されてしまう。

 

  一方、フェイトに銃弾を放った速人は、処理落ちしている最中の為数に物をいわせて発砲した為、残弾数0になり予備の弾倉も無くなったデザートイーグルを邪魔にならぬよう第二実験場の端の方に右手で投げ、同時に膝を支えていた左手で左腰のもう一丁のデザートイーグルを抜いた。

  そして漸く処理落ち状態から回復して精密射撃が可能になった速人は、フェイトが不調な内にデバイスを破壊しておこうと両手でデザートイーグルを構え、着弾角度と衝撃や加圧や被害等を考慮してバルディッシュのカートリッジ排出口に照準を合わせた。

  しかしそれと同時に―――

 

『ちょっと待ってくれるかしら?』

 

―――と、唐突に制止の声が掛けられ、速人の視界を遮るかの如く、宙にリンディの姿が映し出された。

 

  しかしその程度の事で止まる筈も無い速人は、一瞬の躊躇も無く発砲した。

 

  発砲された銃弾は宙に映し出されたリンディの顔面を吹散らし、速人が視界を遮られる直前の位置に在ったバルディッシュに命中した。

  そして速人は着弾した衝撃で宙を舞っているだろうバルディッシュに追撃を放つ為、未だ視界を塞ぐ様に宙に映る映像から半歩横に身をずらして視界を確保し、カートリッジ排出口辺りが破損して宙を舞うバルディッシュを視界に納め、即座に目標の軌道予測と弾道予測と着弾時差を計算し、再度発砲した。

 

  二発目はバルディッシュの重心点と思しき場所に命中し、深い罅を生じさせながら弾き飛ばした。

  だが、バルディッシュ自体の重さと壁まで距離もあった為、弾き飛ばされたバルディッシュが壁に叩きつけられることはなかった。

 

  床を滑っていくバルディッシュを再度着弾の衝撃で跳ねさせようとした速人だったが、起き上がったフェイトが射線上に割り込み、更に再度速人の視界を遮る様に宙にリンディの顔が映し出された。

 

  そして宙に映し出されたリンディが切羽詰った声で速人に話しかかける。

『っっ!お願いだから話を―――』

「―――話すといい」

 

  だが、リンディが告げ終わる前に速人は「聞きはするが止まらぬ」と言外に含めた言葉を被せながら銃を右の片手持ちにし、空いた左手で遅延時間3秒の特殊閃光弾を服から毟り取った。

  そして片手持ちのまま、まるでフェイトなど存在していないかのようにフェイトの向こう側のバルディッシュ目掛けて発砲し、その後即座に銃口をアルフに向け、髪だけに狙いを定めて一発発砲した。

 

  そして被弾しながらもそれを見ていたフェイトは、バルディッシュとアルフのどちらを優先させるか僅かな間迷ってしまう。

  しかし、そんな逡巡は隙にしかならず、結果、フェイトは速人が顔面目掛けて投げ付けた特殊閃光弾の対処が出来なかった。

 

  フェイトの眼前で炸裂する特殊閃光弾。

 

  閃光と轟音を至近距離で浴びて前後不覚に陥るフェイト。

  対して速人は炸裂点から距離もあり、更には閃光に対してのみとはいえ対処もしたので殆ど被害はなかった。

  そしてフェイトが前後不覚になっている間に速人はアルフへと疾走しつつもバルディッシュのコア目掛けて発砲した。

 

  着弾角度や重心位置を無視しての発砲だったので、主からの魔力供給が無い状態だったが砕くには至らず、着弾でコアに罅が発生するだけだった。

  そして着弾箇所に問題があったため、着弾の衝撃でバルディッシュが跳ね上がる事はなかった。

 

  バルディッシュに発砲後、速人はフェイトの足止めの為、人中・喉・心臓・肝臓・横隔膜・子宮に狙いを定めて発砲し、予備も含め残弾数0になったデザートイーグルを又もや邪魔にならぬよう端の方に投げやり、それと同時にアルフの側に着いた。

  そしてフェイトが呻いている隙に速人はアルフの瞼を指で開かせ、眼球に塗料用スプレーを吹き付けた。

 

  完全に気絶している為アルフの抵抗は全く無く、好都合とばかりに速人は念入りに両目に薬品洗浄しなければ剥がせないほど塗料を吹き付け、止めとばかりに鼻腔と耳孔にもスプレー缶が空になるまで吹き付けた。

 

  そして、空になった缶を又もや端の方に投げやりつつ右腰の魔導師殺しを抜きフェイトに銃口を向けた時―――

 

『お願いだから止まって話を聞いて頂戴!!』

 

―――三度目の静止の声が掛けられた。

 

 

 

  リンディの切羽詰った声に思い止まってではなく、単に交渉の準備を済ませたからという理由で速人はリンディの制止の声に応じた。

 

  とりあえずフェイトへの発砲を一時中断した速人は、まるで虚空を見ているような眼で宙に映し出されたリンディを一瞥して話し出す。

「要件が有るならば話すといい。

  だが―――」

 

  ―――魔導師殺しを両手持ちにし、両足を肩幅程開いてから中腰の姿勢になり―――

 

「―――不審な行動は控えた方がいいぞ」

  そう言って魔導師殺しの通常弾(.700NE弾)を発射する速人。

 

  轟音と共に発射された弾丸はフェイトの左ガントレットを掠めただけで粉砕し、そして壁に着弾した際に対戦車手榴弾炸裂時に匹敵する轟音を撒き散らした。

 

  発射した分の弾丸を再装填しつつ、速人は呆然とするフェイトとリンディに対して更に告げた。

 

「交渉中に不審な行為に及ぶならば、そこで倒れている者が標的になる可能性も考慮した方がいいぞ」

 

  そう言い、足元のアルフの額へと、高く振り上げた右足の踵を、軸足を捻りつつ弧を描く様にして叩き付けた。

 

  その結果、眼孔や鼻腔から血を流すアルフを冷静に観察しつつ、フェイト達に聞かせるように独り言を発した。

「なるほど。騎士甲冑と同じくバリアジャケットも、神経系だけでなく内臓等も防御対象外というわけか。

  これならば接近さえすれば生身でも打倒は一応可能というわけか」

  そう言いながらバリアジャケットの性能を測る為、連続してアルフを足蹴にする速人。

 

  そんな生物実験を行っている様な速人を、フェイトが慌てて止めようとしたが―――

 

「別の奴を屍にしたいのか?」

 

―――と言う言葉と共にクロノに銃を向けた速人を見、無念そうに足を止めるフェイト。

  そしてそんなフェイトを然して気にも留めずに速人はリンディに話しかける

 

「交渉をするつもりではなかったのか?」

『っっ!え、ええ。交渉と事情聴取がしたいの。

  だからアルフへの攻撃を止めてほしいのだけれど?』

「意識が戻るまでの間ならば条件付で中断しよう」

 

  相変わらずアルフを連続で足蹴にしながら何事もないかのように言う速人。

  そしてそんな速人に若干気圧されながらも即座に返事をするリンディ。

 

『私達に対する要求じゃなければ即座に呑むから、直ぐに止めてちょうだい』

「分かった。

  尚条件とは、交渉中俺に対して攻撃行動を行われた場合、先の戦闘で気絶させた二名が意識を取り戻すまでの間にその二名の蒐集が完了していなかった場合、交渉が終了若しくは中断した場合、この三つだ」

 

  そう言ってとりあえずアルフを足蹴にするのを止める速人。

  そしてそんな速人に眉を顰めながらリンディが話しかける。

 

『…………呑むと言ったからには呑むけれど、交渉中に互いの関係者を傷付ける交渉なんてあるのかしら?』

「ならば其方は交渉中此方が不利になる要素を一切行っていないというのか?」

『それは―――』

「―――もしそうならば、そんな愚挙を容認する最高責任者及びその配下の者と交渉する余地は微塵も無い。

  それと告げておくが、俺には其方と交渉を行う事自体への必要性は薄い。

  故に交渉中に虚言若しくは奇襲や急襲の為の交渉と判断した際は、即座に交渉を終了する」

『………………』

 

  出来る限り交渉を長引かせてなのは投入までの時間を稼ごうとも考えていたリンディだったが、即座に釘を刺されてしまう。

 

「そういうわけなので遠隔蒐集は予定通り行ってくれ。

  それと可能ならば足蹴にしなかった方の者を先に蒐集してくれ。

  防御及び補佐系の技能者を殺さず戦闘不能にするのは容易ではないのでな」

  そう言って速人はアルフを起き上がりざまに攻撃出来ない程度に横に転がしてからリンディに話しかける。

 

「交渉の場は設けた。交渉するなら迅速に成せ」

『……分かったわ。

  では改めて、告げさせてもらうわね。

  私は時空管理局巡航L級8番艦アースラ艦長、リンディ・ハラオウン。

  この事件……連続魔導師襲撃事件の最高責任者です』

「用件は?」

『…一つ目の用件は降伏勧告です。

  直ちに武装解除後降伏し、法の下に厳正且つ公平な捌きを受けて下さい』

「此方にとっての利は?」

『……これ以上の傷を負わないことと多少の便宜を図ってもらえること。この二点です』

「断る。交渉の余地すら無い」

 

  一瞬の逡巡も無く、反射と言える程の速さで答えを返す速人。

  その返答に眉を顰めながらリンディが食い下がる。

 

『ど―――』

「司法取引の無い降伏勧告は受けるに値しない」

『―――うしてか………』

 

  リンディの発言を先回りして答える速人。

  そしてリンディの評価を随時低く修正しながら速人は更に話す。

 

「二つ目の用件は?」

『……二つ目の用件は事情聴取です。

  この事件………連続魔導師襲撃事件に、あなたの家族の八神はやてさんはどの程度関わっているのかしら?』

「回答することによる此方の利は?」

『……逮捕後―――』

「現時点でアースラに存在している全員を現在から交渉終了後及び中断後180秒後までアースラに拘束すること及び同時間内アースラを用いての戦闘及び戦争行為の禁止、並びに交渉の終了及び中断の権利は此方のみが保有すること、この二つの条件を承諾すれば事情聴取を含めた交渉に応じよう。無論質問によっては回答しないが」

『―――最大限………』

 

  時間省略の為、又もやリンディの発言を最後まで聞かずに話す速人。

  そして発言を中断させられたことに眉を顰めながらもその程度ならと思い、速人の提示した条件を浅くない程度考えてから呑むことにするリンディ。

 

『…分かったわ。その条件を呑みましょう』

「違約した場合この場に居る四名を殺傷するがその点は了承するか?」

『違約しないのでそれで構わないわ』

 

 

 

―――

  リンディとしてはレイジングハートの修理が済むまでは何とか時間を稼いでおきたく、3分以上交渉出来れば時間的元を取れ且つ情報も聞き出せ、更にフェイトの回復に時間を当てることも出来るので損の無い条件だと思い了承した。

  だがそれはリンディの主観のみの視点であり、それは相手側の視点に欠いた思考であり、その条件をリンディが呑むことにより速人が何を得るかをまるで考えていない思考だった。

 

  速人がリンディに出した条件を承諾させることによって得るモノは大きく分け五つだが、そのどれもが重大な意味を持っていた。

 

  一つめ、交渉の終了と中断の権利を相手から剥奪し際限無く時間稼ぎが可能。

  二つめ、交渉終了後アースラ関係者からの増援を180秒間阻止し一定以上の安全確保。

  三つめ、交渉中の身体機能の回復。

  四つめ、ユーノとアルフ蒐集の後、書が覚醒した場合アースラからの妨害に対する牽制。

  五つめ、ユーノとアルフ蒐集の後、書が覚醒しなかった場合はやてに対する状況説明と行動方針決定時間の確保。

 

  客観的に見てもこのような条件を呑む指揮官は無能と断じざるをえないほど、速人が提示した条件は速人にとって有利すぎるモノだった。

  尤も、熟考出来ぬよう、二度呼びかけを無視することにより交渉を行うことの困難さを植え付け、重傷のアルフに追い討ちをかけ即決を迫る、と言う幾つかの布石はあったのでリンディが完全に無能というわけではなかった。が、それでもリンディの下した決断は指揮官として愚挙だった。

 

  そもそもある程度速人に対する情報を得ていたにも拘らず、クロノを単独で正面から送りつけたのが愚挙の初めだった。

  その後なのはを欠いた状態で次戦力を投入し、更に追加戦力の全員が戦闘に対して理解が無く、止めに意志薄弱且つ暴走危険の高いフェイトが居た事が追加戦力崩壊を招いた。

  そして今、リンディは速人が現状で最も確保したがっている時間を、交渉を行うという条件だけで十分過ぎる程提供するという愚挙を起こしていた。

―――

 

 

 

  自分にとっては都合が良いが、リンディの下す判断の愚かさに低能の烙印を胸中で押しながら速人は話し出す。

 

「八神はやては連続魔導師襲撃事件に書の主として以外は関与していない」

『(前振りも無いのね……まあ構わないけど)……どの程度関わったかいまいち分からないのだけれど?』

「書の主として存在することで守護騎士四名とそのデバイスを具現化させた事以外、客観的に見て関与していないということだ」

『……つまりはやてさんには何も知らせず、あなたの独断で動いたということでいいのかしら?』

「その認識で間違い無い。

  そして予定通りならば先程のリーゼアリア襲撃時に、八神はやてには説明がなされている」

『…今ここにあなたが居るのははやてさんの指示かしら?』

「否。

  八神はやての意向を無視した俺自身の意志だ」

『そう…………なら蒐集が終わった筈のクロノを殺していないことは、はやてさんとは無関係のかしら?』

「無関係ではない。

  俺は八神はやてと、殺人以外に妥当案が無い限り殺人を行わないと約を交わしている。

  故に殺処理以外にも妥当案が存在する現状では、八神はやてとの約がクロノ・ハラオウンを殺処理しない最大の要因になっている」

『…………もし……はやてさんとの約束が無ければ、あなたはクロノを殺していたのかしら?』

「フェイト・テスタロッサを暴走させる役割があるので殺していなかっただろう」

『………さっき殺していない最大の理由は、はやてさんとの約束だからと言ってなかったかしら?』

「発言に矛盾は無い。

  用済みに成ったクロノ・ハラオウンが未だ存命しているのは、八神はやてとの約が最大の要因だ」

 

  まるで使い終わった爪楊枝を捨てる様に、極々平然と言い放つ速人。

  そしてリンディは速人のその発言に肝を冷やしつつも、速人に殺人抑制をしたはやてへと感謝をし、それから軽く一息吐いてから改めて速人に話しかける。

 

『なら………とりあえず今はクロノが殺されることは無いのかしら?』

「絶対とは言わぬが、高確率で殺処理することは無いだろう」

『そう………念の為に訊くけれど、殺人が罪だと理解しているのかしら?』

「其方の法は殆ど知らん。

  殺人罪が在るのかも」

『いくらなんでも殺人罪が無い国家組織なんて無いわよ。

  それと私が言っているのは時空管理局の法じゃなくて、あなたが今居る場所の法で殺人が罪と認識しているかと訊いたのよ』

「勘違いしているようだが、此処に殺人罪は存在しない」

『……は?』

 

  想定外の返事に、呆気に取られた声を漏らすリンディ。

  対して速人はそんなリンディに構わず説明しだす。

 

「この施設を含む一定範囲の領域はこの星最大の組織、連盟された国家群…以降国連と呼称する…に治外法権地域として認証させている。

  尚、如何なる理由が在ろうと、俺の許可無しに此処の領域内に侵入したモノに対し、俺はその裁量に一切の制限を負わない。つまり俺の許可無しにこの領域に侵入したフェイト・テスタロッサ達四名に対し俺がどのような処理を為そうと、それは国連が認めている。

  故に俺が先程この場で行った行為に関しては、この星に存在する組織間では一切罪とはならない。

  又、俺はこの領域に属す者の最高責任者だ。因って、此処では俺が法だ」

『……………………その話………………信じる証拠は?』

「俺の話を初めから受け入れぬ者に対して示せる有効な証拠は無い。

  確たる証拠を欲するのならば、盗撮盗聴侵入を是としている機関に属しているのだから自分達で調べると良いだろう」

『……………………色々と言いたいことはあるけれど…………とりあえずこの話は一旦措いておくわね。

  ……それで今度は交渉なのだけれど………はやてさんをこちらに引渡してもらえないかしら?』

「此方にとっての利は?」

 

  速人の返答に対し、今度こそは交渉を成立させると内心意気込みつつ、リンディは詰まる事無く返答した。

 

『引き渡しに応じてくれた場合、三つのメリットがあるわ。

  一つめ、事件に巻き込まれただけのはやてさんは最悪でも軟禁処置に留めるよう計らいます。

  二つめ、はやてさんが闇の書から受けている侵食を解除し健康体に戻せるよう計らいます。

  三つめ、引渡しに応じたあなたに対する処置は最悪でも保護観察処分若しくは軟禁処置に留めるよう計らいます。

  ………どうかしら?』

  リンディとしては破格の条件と思って提示したのだが―――

「司法取引でないのなら応じる理由は無い」

―――速答で拒否されてしまった。

 

  胸中で交渉の基本すら理解していないリンディの評価を胸中で予想範囲内の最低まで引下げつつ、速人は疑問を返そうとしているリンディの発言を封じるのと理由の説明を兼ねて即座に話を続ける。

 

「司法取引以外を拒否する理由だが、それは発言内容が高確率で履行されないからだ。

  そして仮に司法取引であったとしても、その内容では応じるに足る理由は無い。

  まず八神はやてへの処遇についてだが、八神はやてを事件の被害者とするならば、俺が引渡さずとも処遇は最悪軟禁処置に留まる。また、俺が引渡しを拒否する事により、其方が八神はやてを被害者から加害者へと切り替えるのならば、其の様な者との交渉に応じる理由も無くなるので、其方が提示する一つめの利は存在しない。

  次に八神はやてへの治療についてだが、其方の法は知らぬが推測するに身柄を拘束した者を生存させる義務が有ると仮定しているので、俺が引渡しを拒否しても治療は為される。また、俺が引渡しを拒否することにより、其方が八神はやてへの治療を行わないというならば、其の様な者との交渉に応じる理由も無くなるので、其方が提示する二つめの利は存在しない。

  次に俺への処遇についてだが、其方が如何様な判断を下そうと俺は構わない。其方が下した処遇を考慮し、最適と判断されるよう自身を運用すれば済む話なのだから。因って其方が提示する三つめの利は存在しない」

『……………』

 

  取り付く島が無いほど自分が提示した利を否定され、言葉に詰まるリンディ。

  そんなリンディを微塵も気にせず速人は更に話す。

 

「俺が其方の要求を受諾する条件は四つ。

  一つめ。八神はやて及び守護騎士ヴォルケンリッター4名を含めた計5名の処遇を、司法取引に依り2年以内の軟禁処分にする事。

  二つめ。八神はやての進行性麻痺を司法取引に依り完治させること。

  三つめ。時空管理局の指すロストロギア・蔑称及び通称【闇の書】を、封印及び破壊並びに八神はやてより徴発及び押収しない事を司法取引する事。

  四つめ。其方が八神はやての身柄確保後、俺がどのような行動を取ろうと先の三項目の司法取引を履行する事を司法取引すること。

  以上だ」

『………………あまりに厚かましい条件じゃないかしら?』

「其方が此方の提示した条件を承諾するならば、其方には四つの利が発生する。

  一つめ。現在まで俺が収集した魔法技術の情報と現物流布の中止。

  二つめ。この場に派遣されたフェイト・テスタロッサ以外への解体処理の中止。

  三つめ。アースラへの民間協力者高町なのはへの国家安全保障法抵触による無条件拿捕の解除、並びに親族への同上処分の解除。

  四つめ。フェイト・テスタロッサへの精神解体の中止。

  但し、これらは俺に対し直接間接威嚇を問わず攻撃を行った際、全て無効となる。

  以上だ」

『………………………』

 

  仮に実行されたとしたならば、間違い無くリンディだけの責任では済ませられない事をサラリと述べる速人。

  そして其の話の真偽を懸命に計ろうとしたリンディだったが、出た結論は―――

『………仮に本当であったとしても、私では司法取引は行えないわ。

  だからその条件は呑めないわ』

―――という、当たり障りの無い凡百な答えだった

  だが速人はその答えに対して何も思わず、淡々と答えを返す。

「ならば其方の要求には応じない。

  他に交渉案件や事情聴取事項が有るならば即座に行え」

『………随分とあっさり引き下がったみたいだけれど、それは先程言った事を実行してもう一度交渉しようとしているからかしら?』

「回答を拒否する」

『…何故かしら?』

「無駄な回答は拒否する」

『……何が無駄なのかしら?』

「説明が無駄だ」

『………重要な事への説明は無駄じゃないと思うのだけれど?』

「説明内容を予測出来ない低能に説明するのは無駄だ。

  何時までも些事に拘らず、他の交渉案件や事情聴取に移れ」

『責任者は予想される最悪の事態を把握するのも役目なのよ。

  だからそう簡単に引くわけにはいかないのよ』

「第一項目は明後日零時よりこの星の各所で開始予定だ。

  第二項目は交渉終了後無力化の為、両目・両耳・鼻・口唇・歯・舌・声帯・脊髄・四肢・片肺・片腎臓・卵巣・子宮・精巣・性器、を熱切断予定だ。無論、存在しない器官は不可能だが。尚、俺以外全てが戦闘不能になれば、フェイト・テスタロッサ以外は、脳髄のみを培養液を満たした培養槽に封入し、残骸は熱滅却処理予定だ。

  第三項目については明後日零時まで干渉は行われないようになっている予定だ。

  第四項目については高町なのはを戦闘不能後に実行予定だ」

 

  ユーノの蒐集が終わった事を確認しつつ、速人は更に話す。

 

「説明拒否の理由は、先の俺の発言を実行及び成功不可能と判断しているならば、裏付けの無い意思確認は訊くに値しないと判断したからだ。尚、俺が虚言を言わぬと判断しているので実行の有無を尋ねる、などと間の抜けすぎた戯けきった事を思っているならば、訊いてもほぼ無駄に終わる。

  理由は司法取引でもないのに、自分の行動を確約するなどという愚挙はしないからだ。

  故に訊くだけ無駄だ。

  以上だ」

 

  説明終了と同時にアルフの蒐集が始まり、フェイトがそれを阻止するべく動こうとするが―――

「間に合うと思うか?」

―――そう言いながらアルフの頭部に銃口を向けた速人を見て悔しそうにフェイトは項垂れる。

  そしてそんなフェイトに速人は淡々と告げる。

 

「次は死体になっていると思え」

 

  極平然と、何一つ気負う事無く、一般人が冗談で使うかのようにそう言う速人。

  しかし、速人と僅かならがでも付き合いのあるフェイトは、次に迂闊な行動をすれば間違いなくアルフが殺されると確信した。

  だがその発言を唯の牽制発言と捉えたリンディが質問をする。

『さっき殺人はしないと言ってなかったかしら?』

  演技臭い不思議顔で速人に訊ねるリンディ。

「他に妥当案が無い限り、という前提を欠いているぞ」

  リンディの演技臭い不思議顔を気にせず返事をする速人。

『一度目は警告で十分だと思うのだけれど?』

  演技臭さが顔面から垂れ流れているような不思議顔で訊ねるリンディ。

「事前に説明は行った」

  普通ならば演技と分かっていても可愛いと思うリンディの表情を、まるで縁日で安売りしている仮面を見ているように気にせず返事をする速人。

『それでもいきなり殺人はやりすぎじゃないかしら?』

  年増が少女の真似をして媚びる時独特の不自然さを発しながらそう言うリンディ。

  だがこれ以上この件について話す事は無いとばかりに、速人は返答する。

 

「人でないならば殺害しても殺人ではない」

 

『「……………………」』

  呆然とするリンディとフェイトに対して速人は更に言葉を続ける。

「其方の認識が如何かは知らぬが、少なくとも俺は殺人とは生物学的なヒトを殺害した場合にのみ適用される言葉だと解釈している」

「っ………アルフは私の家族です!

  人間の様に笑ったり怒ったりしますし、優しさも持ってます!

  それを人間じゃないってだけで殺そうとしないで下さい!!」

「他に事情聴取するべきことや交渉は在るか?」

  フェイトの発言を微塵も気に留めずにリンディに問う速人。

  当然無視されて黙っていられないフェイトは食って掛かった。

「っっ!!無視しないで―――」

「お前と交渉はしていない」

「―――下さ…………………………っっぅぅぅぅぅっっ!!」

  だが、速人はフェイトの発言を皆まで聞かずにあっさり切り捨てた。

 

  迂闊に反論しようものならアルフが無事では済まないと理解したフェイトは、叫び出しそうになる口を唇ごと噛み締めて懸命に反論を飲み込んだ。

  そしてその時、そんなフェイトを見兼ねたリンディが割って入った。

『なら私から訊ねるわね。

  見た目も行動も思考も人と同じような者は人間と同じに扱うべきじゃないかしら?』

「ならば何故守護騎士ヴォルケンリッター…以降守護騎士と呼称する…達をそのように扱わない?

  守護騎士達は先の発言の枠を外れていない筈だが?」

『プログラムと生物を一緒にしないでちょうだい。

  守護騎士はその行動がどれだけ人に近くても、最終的にはその全ては闇の書の完成に繋がるものよ。

  アルフのように自由意志は持っていないわ』

「…成る程」

 

  一瞬軽く眼を瞑り、短くそう漏らした速人にリンディが更に告げだす。

『納得してく―――』

「こういうのを、耳が腐り落ちそうな大層な御高説、と言うのだな。

  成る程、実に言い得て妙だな」

『―――れた……か………し…………ら……………』

「演技ではない常軌を逸するほど連続で並外れた低能さと害悪さが表れる声を聞き続けると、其処まで低能且つ害悪な者は常識的に考えて居る筈が無いので自身の聴覚が機能障害を起こしたと理性が誤認するわけか。

  希少だが貴重と言う体験ではないが…人間社会の廃棄物と思っていた者にも、一度程度は利用出来る可能性が存在すると分かったのは収穫だな」

 

  虚仮にするわけでもなく、ただ淡々と自分が思った事を述べる速人。

  しかしそれ故に、先の発言で速人がリンディを発言通りに判断していると、速人の話を聞いていた皆が理解した。

 

  そして悪意は感じられないと謂えども、そんな判断を下されたリンディは流石に顔を顰めながら速人に話しかけた。

『………ソコまで馬鹿にされるほどおかしな事を言ったかしら?』

「馬鹿になどしていない。

  唯思った事を翻訳して言葉にし、そして其方がどの様な反応をするか確認したかっただけだ」

『……何を確認したかったのかしら?』

「要約になるが外部刺激に対する反応だ。

  質問される前に答えるが、反応を観察した結果、其方の判断基準や行動理念の解析は終了した。

  そして結論として、其方が保有している知識を此方は全て保有しているわけではないのでの完全な思考予測は不可能。但し思考方針は予測可能。

  以上だ」

『……………まあ………人を完全に理解出来るなんて思っている子供特有の傲慢に目くじらは立てないわ。

  ……話を戻すけれど、私の発言のドコにあなたにそう思われる要素があったのかしら?』

「肉体という物質ではなく思考や事象という概念を判断基準にしているにも拘らず、その本質を僅かにも理解せずに概念の何たるかを語る様が、低能且つ害悪と評したのだ」

『……………どういう意味かしら?』

「推測だが守護騎士達は人工的にプログラムされた存在と見て相違ないだろう。そして大多数の生物は天然的な存在と見て相違ないだろう。

  推測だが守護騎士達が書の為に行動するよう定められているのも相違ないだろう。だが大多数の生物も自己保存と種の保存の為に行動するよう定められているのも相違ないだろう。

  つまり守護騎士達と大多数の生物達の相違点は、人工存在か天然存在か、そして行動方針が書に因るか自己保存と種の保存に因るか、この二点だ。

  仮に人工存在が天然存在に劣るのならば、生命工学を用いて生まれた人工存在は全て天然存在に対して劣るということになり、人工存在は家畜と同列と見做され、クローン技術やその派生系より発生したモノ、更には使い魔を自身達と同列に見做していることに矛盾が生じる。

  次いで自由意志についてだが、定められた機構を超える意志を自由意志と呼称するならば、定められた機構が書に因るか自己保存と種の保存に因るかは問題では無い。仮に行動方針として自己保存と種の保存である事を至上とするならば、それは畜生で在れと言っているのと同義であり、次元世界に身勝手な平和を強制する時空管理局の行動理念と相反する」

 

  話の最中にアルフの蒐集が終わったらしく、程無くしてシグナムより蒐集完了まで残り極々僅かという知らせが左腕の腕時計兼用携帯端末に送られ、速人は特定の電流が携帯端末より発せられたことでその旨を知った。

 

  そして後ははやてが懐いているであろう疑問に対する答えを述べられるようリンディ達を今迄通り誘導し、その後はやてが選択する時間を稼ぎ、その後仮にこの場所に来る選択をした際捕獲されずに生きている迄が、この作戦で自分が最低限成し遂げるべき役割だと再認識しつつ、見た目上は特に変化無く速人は更に話す。

 

「つまり其方の発言は破綻しているにも拘らず、自らが唱える説が一部の隙も無く完成され且つ常世(とこよ)現世(うつしよ)に通ずる真理の様な発言を指して本質を僅かにも理解していないと言ったのだ。

  そしてそれを微塵も自覚していない様が、低能且つ害悪だと言ったのだ。

  …クロノ・ハラオウンもそうだった事から推測するに、時空管理局とは大方魔法運用のランク付けで要職に据えているのだろうな。仮にそうでなないならば、粗悪な人工知能の様な応答しか出来ぬ者が要職に就ける理由は精々防波堤にする為ぐらいだろう」

  常人ならば宙に映し出されたリンディの背後に怒りの炎を幻視して竦むところだが、速人はまるで気にせず質問の回答以外にリンディにとっては余計な感想を付け足して悠々と話し終えた。

 

  速人の返答がとりあえず終わった判断したリンディは、内心少なからず怒りが渦巻いていたが何とか顔に笑顔を貼り付けたまま疑問を発した。

『………あなたの言いたいことは理解したわ。そしてそれが筋の通っているという事も認めるわ。

  けれど………それなら守護騎士達と同じく自由意思を持っているアルフに対する扱いはおかしいんじゃないかしら?

  私はあなたが普段守護騎士達とどの様に接しているかは知らないけれど、少なくともアルフのようには接していないのでしょう?』

「勘違いを指摘するが、俺はアルフに自由意思は無いと判断している。

  自身の存在意義と思考原理と行動理念を全て他者に委ねる者を、俺は自由意思及び意志が在るとは認識する気は微塵も無い」

『………使い魔とはそういうモノなのよ。

  主に絶対服従で、そもそも主に叛意を持つことなどまず在り得ない存在なのよ………』

「それがどうした?

  守護騎士達も書の完成を最優先しつつも主に絶対服従という定められた枠が在ったが、書の完成を望まぬ主の言葉を受け入れ書の完成を放棄した。そして今現在、その主の言葉をも無視して自身達の求める結末の為に守護騎士達は動いている。

  大方使い魔と言うだけの理由で他者に隷属及び依存する姿を、他者を大事にしている貴き姿とでも勘違いしたのだろうが、それはフェイト・テスタロッサの身体と命と言う俗物的なモノのみを優先しているだけだ。そしてそんな量産型消耗品のアルフと守護騎士達を同列にするなど、痴呆症患者の発言としか思えんな。

  警告しておくが痴呆症患者の相手をさせて時間を稼ごうとしているのならば、フェイト・テスタロッサが精神崩壊に陥る様な死体を作成するぞ」

『私は痴呆症患者でもないし、時間稼ぎをしているつもりもないから、そんな真似はしないでちょうだい』

「交渉や事情聴取が滞りなく進むのならばその程度の要求は呑もう」

『………その程度の要求って………あなた…命を何だと思っているのかしら?』

「理解不能だが有り触れたモノだと判断している。

  それと最終警告だが、話の本筋との関連性が著しく低いと判断される質問は其方の要件の後にする様に」

  そう言いながら速人はアルフをうつ伏せに蹴り転がし、それからアルフの重心付近にアルフの両腕を重ねるように蹴り飛ばし、重心点に重ねた両腕を踏み付けた。

 

  その光景を見たフェイトがそれを阻止しようとしたが、デバイスを取り落としてしまっている今の自分ではまずアルフを助けられないと判断し、唇を噛み締め、両手を力いっぱい握り締めて耐えていた。

  そしてそんなフェイトとアルフを気の毒そうに見ながらリンディは返事をした。

『……………分かったわ。

  以後私とあなたの要件が済むまでは脇道に逸れないわ。

  …………それで話を戻すけれど…………私はあなたの条件を呑んで司法取引をする気は無いし、そもそも私の権限では司法取引など出来ないし、それが可能な者に取り次いでも司法取引はまず不可能と判断しているわ。

  それに………取り次ぐまでの間、まさか何もせずにずっと待ってはいないでしょう?だから私はあなたの条件を呑む気は無いわ』

「其方の言い分は理解した

  次は其方が聴取なり勧告なりをするといい」

『ええ、そうさせてもらうわ。

  ……それじゃあ…………これから訊ねることが一番訊ねたかった事なのだけれど………………………もし闇の書が完成したら…………闇の書とはやてさんは………どうなると思っているのかしら?』

 

 

 

―――

 

  形式上訊ねてはいるが、リンディとしては確認や尋問のつもりだった。

 

  クロノがグレアムより聞いた話に依れば、話の中の軍師は間違い無く速人であり、そして速人は書が完成したらどうなるか正確に把握しているとリンディは思っていた。

  だが書が完成すればどうなるかを正確に把握しているならば、何故管理局に協力を仰がないのかがリンディには分からなかった。

 

  故にリンディはこの場で速人達が何をしようとしているかを訊き出し、場合によっては協力してこれ以上怪我人を出させず、そして出来るだけ法廷ではやてと速人の二人が有利になるよう終わらせるつもりだった。

 

―――

 

 

 

  譲れぬ確固たる目的を胸に秘め、真剣な表情で速人に問いかけるリンディ。

  しかし速人にしては容易に予測が出来るリンディの目的は背景が透けてしまいそうなほど浮薄に思え、リンディの表情に対し速人は自分が真剣になる為の自己暗示と解釈しており、先程からリンディの評価を予想通り下方修正し続けていた。

  そしてリンディが知ったら酷く不機嫌になりそうな評価を胸の裡でしつつも、即座に質問に答える速人。

 

「蒐集が完了し書が満たされれば八神はやては侵食から解放される」

 

  その言葉を聞いた時、まだ速人が喋っている途中だったがフェイトがその言葉を否定しようと口を開いた。が―――

 

『―――黙って聞いててちょうだい』

 

  と、若干冷たく硬い声をリンディがそれを制し、フェイトは発言を封じられてしまった。

  それから直ぐにリンディは目で速人に詫びつつ先を促し、それを見た速人は特に何も言及せず話を再開する。

 

「そしてほぼ間違い無く、書の機能により暴走状態に陥る。

  このように判断している」

 

 まるで遠い国で誰かが明日死ぬかもしれないと言う様に、極平然とそう話す速人。

  それを聞いたリンディは、予想はしていたが理解が出来ないと言わんばかりに苦虫を噛み締めた様な表情で問う。

 

『……ならあなたは何故蒐集行為に手を貸すのかしら?

  ……………そこまで知っているならば言うまでも無いかもしれないけれど、蒐集完了後の暴走とは一時的なものではなくて、消滅させられるまで続くのよ?

  にも拘らず蒐集を止めないなんて………………あなたははやてさんを死なせる気なの?』

「制御若しくは沈静化不可能と判断した場合は死なせるつもりだ。

  それと勘違いを正すが、暴走と死は同義ではない。

  死ではなく暴走ならば制御若しくは沈静化、又は暴走に至る構造的欠陥を修正すれば問題は無いのだから」

『制御って…………そんなことが出来ると思っているの?

  闇の書は地球の科学の遥か先の科学の結晶なのよ?

  地球の科学より遥かに進んでいる私達でさえ翻弄されているというのに………』

「76.384371%で可能と判断している」

『…………………………その数字の根拠はなにかしら?』

「時空管理局が管理しているインテリジェントデバイスを、其方の魔法の構築理論や機械言語も知らぬ状態で11.2秒以内に掌握完了したのが主な根拠だ」

『!?まさかレイジ…………ッッ!!………いえ、一先ず後回しね。

  ………仮に闇の書の変更が可能なだけの知識や情報が有るとしても、主以外が闇の書のシステムに干渉できると思っているのかしら?』

「その点は既に解決済みだ。

  書への干渉権限を保有している守護騎士を介してならば干渉可能だ。

  但し管制人格が未だ完全に起動しておらず、書の改変を行う際に官製人格より十全の補佐を受ける為には、書の頁を蒐集により全て埋めなければならない。これは官製人格の完全起動の条件が書の666頁が全て埋まっている事と主の承認が必要な為だ。

  故に俺は蒐集活動を止めるよう言うつもりは微塵も無い」

 

  僅か数時間ではあるが、速人以外ではシグナムと夜天の魔導書の官製人格しか知りえなかった事を淡々と明かす速人。

  対してリンディは速人のあまりの出鱈目さに暫し驚愕の表情で固まっていた。

 

 

 

―――

 

  リンディが驚愕したのも当然のことで、モノにも依るが完全に未知の技術に対して理解若しくは結論を下すまでの最短時間は、最高の設備を用いて超優秀と評される10人以上から成る頭脳者集団が全力で行っても半月は掛かるとされている。

  だがそれを恐らく一人で、しかも僅か12秒未満で同等の結果を成したのならば、速人の知識や処理能力は既に破格を通り越して人間の範疇を明らかに逸脱した領域にあるということになる。

 

  しかも速人の指すインテリジェントデバイスに心当たりがある為に唯の駄法螺と断ずること出来ず、しかもクロノ曰く軍師と呼ばれていた者は明らかに常軌を逸した知能を持っているらしく、信じ難いことだがリンディは速人が管理局と同等以上のプログラム改変能力が有ると認めた。

 

―――

 

 

 

  だが、驚いたからといって何時までも呆然としているわけにもいかないリンディは直ぐに我を取り戻し、そして改めて速人に訊ねる。

 

『それで………もし闇の書の暴走を食い止めたのなら………その後どうするつもりなのかしら?

  管理局に投降して罪を償うのかしら?それともそのまま雲隠れして逃亡生活でもするのかしら?』

「大まかな選択肢だが、管理局と和睦するか、隠遁するか、時空管理局の存在を魔法ごと知らしめて対立組織を発足するか、これまで通りに暮らすか、これらの何れかだろう。

  尚、可能性は大まかだが1:1:3:4で、その他が合計で1だ」

 

  大まかにだが話が終わったと判断したリンディは、これまで得た情報を基に考えを巡らしていた。

 

  が、直ぐに考えるまでも無く結論は出ていると思い考察を打ち切り、リンディは速人に告げる。

 

『取り敢えず伝えるべきことは伝えたし、訊くべき事は訊いたわ。

  ………まだ伝えたい事も訊きたいこともあるけれど、取り敢えず当初の要件は果たしたから、今度そっちが話すなり訊ねるなりして構わないわ』

「分かった。

  ならば先ずはリンディ・ハラオウンとの個人取引から行う」

『………なにかしら?』

 

  司法取引ではなく個人取引と聞いて怪訝に呟くリンディの言葉に対し、速人は特に焦らしもせずにアッサリと答える。

 

「アースラへの民間協力者の高町なのは及び前途の者の親類への国家反逆罪を解除する代償に、今回の連続魔導師襲撃事件の全責任を俺へと収斂させる事だ」

 

  その発言にフェイトや空間モニターに映る全て者の顔が驚愕に染まる。

  そしてしばし驚愕していたリンディだったが、少少浮き足立った様な心境を自覚しながらも速人の提案に答える。

 

『………そんな取引はとても応じられないわ。

  ………第一あなた一人に罪を被せるだけで、一体どうやって一連の事件にカタを付けろと言うのかしら?』

「一つ、守護騎士の基本行動方針は常に俺が提唱した案件に沿っている。

  二つ、守護騎士達にフェイト・テスタロッサ及び其の他の者達に関する情報の提供、並びに質量兵器の一時譲渡をしたのも俺だ。

  三つ、守護騎士達の主が蒐集行為に気付かぬよう行動操作し続けたのも俺だ。

  四つ、暴走後制御若しくは沈静化不可能と判断された状況に備え、現在も八神はやてを即時熱処理可能な場所に留めている。

  以上四つの項目内の三つめの項目以外の証拠品は十分に存在するので、俺を一連の事件の首謀者として全責任を収斂させるに足ると判断している」

『…………一番肝心なはやてさんが蒐集行為を知らなかったという証拠が無いのが痛いのだけれど、何故無いのか理由を聞かせてもらえるかしら?』

「知り得ていなかった事を証明するのは極めて困難だ。

  仮に知らされる事が無かったという証拠を提示しようと、推測して理解に至ったという可能性は否定出来ないからだ」

 

  その言葉を聞きリンディは軽く眼を閉じて思案し、それから疑問が湧いて出たので、速人に訊ねても構わないか先ず確認を取ることにした。

 

『………後二つ答えてもらわないと返答できないから訊ねるけれど………いいかしら?』

「構わない」

『じゃあ一つめだけれど………守護騎士達は自分の意志で闇の書の主の為に蒐集を行ったみたいな言い振りだったけれど、さっきのあなたの言い振りだとまるであなたがそうするように仕向けたように聞こえたのだけれど………そう解釈して間違いないのかしら?』

 

  疑惑や不信や侮蔑を眼差しや言葉に乗せてそう問いかけるリンディ。

  だがそんなリンディの視線や言葉をまるで意に介さず、自身の推測通りの対応を返しているリンディの評価を更に予想通り下方修正しながら速人は答えた。

 

「その解釈は間違いだ。

  俺は事態が俺にとって都合の良い状態に()()()()()干渉しただけだ。

  お前が言う様に守護騎士達が俺にとって都合の良い行動を()()()()()は操作していない」

 

  速人の言葉を聞きリンディは疑問顔になり、少しの間逡巡したが理解できなかったらしく、

『…………差が分からないのだけれど?』

若干態度を軟化させながらリンディは速人に訊ねる

 

「つまり俺は守護騎士達の自由意思を掌握して傀儡になどしておらず、一連の件における守護騎士達の行動は全て自身の意志に因るものだということだ

  だが守護騎士達の行動の結果に関しては、俺は自分が都合の良い状態に成るように干渉していると言った。

  詳しく言うならば、俺は守護騎士達が自由意思で選択した事柄が俺自身にとって都合の良い状態に成るよう、行動時期等に干渉しているということだ」

『………………』

 

  速人の話を聞き終え、どの様に返事をするべきかとリンディは少しの間悩んだが、結局当初に決めていた通りの答えを返すことにした。

 

『………残念だけどその要求は呑めないわ。

  ………今の話が本当なら……多分あなたの言う通り、あなたに殆どの罪を被せることが出来るんでしょうけど……………年端も行かない子供にそんな事をする気なんて私には無いわ。

  ……第一、仮にあなたに罪を被せたとしても、闇の書が今まで犯してきた罪状は消えないのだから、あなたのその行為は無駄なことだし、何より、人間の様に振舞う唯のプログラムに人間の………しかも幼いあなたがその人生を棒に振るなんて事、大人として見過ごすわけにはいかないわ』

「器物と見做しているモノに罪科は問えぬ筈だ。

  過去に幾度暴走を繰り返すような基礎構造に欠損の在るモノだろうが、現在其れ等が解消されているのならば破壊する理由は存在しない」

『………………罪科には問えなくても危険物であったのは間違いないのだから、管理局が安全の為に厳重に封印を施すのだから、結局あなた達に二度と逢えないことに違いは無いわ』

「時空管理局が組織運営に必要なモノを全て欠落させていない限りは其の選択は在り得ないと推測している。

  はやてと守護騎士達が夜天の魔導書の徴発等の決定を不服として抗うのは明らかであり、ならば貴重な人材を罪人へと転じさせて入手放棄するよりも、司法取引に依って時空管理局に所属させる代わりに夜天の魔導書の所有権を認めさせる方を採るだろう」

『……………それは闇の書の闇と言われる所以を消し去れた場合に限る話よ。

  第一、闇の書の闇と呼ばれる部分を本当にどうにか出来るか分からない以上、失敗して暴走してしまう可能性を見過ごすわけにはいかないわ。

  ………改めて言う必要も無いかもしれないけれど………闇の書が暴走したらこの星は滅びるのよ?

  出来るかもしれないと言うだけでそんな危険なことは許可出来ないわ』

「別に其方の許可を貰う必要など微塵も無い。俺達は時空管理局如きに属してはいないのだからな。

  そも、ここを第97管理外世界と設定しているにも拘わらず、この星に住まう者に其方の都合と法を押し付けるのは傲慢を通り越して理屈が全く通っていない。

  自身達を絶対者と思い違いをしていて基礎的な事が欠落している様なので告げるが、どれだけ軍事力や組織力に開きが在ろうとも、国交が無い以上は対等な立場だ。

  そしてそれが不服ならば武力行使や洗脳話術等で自身達の主張を通すべきだ」

『…………………』

 

  人倫や倫理等を前面に押し出して話すリンディだったが、速人はリンディとは真逆に理論や法令を前面に押し出して話しており、端から見るとまるでリンディが駄々をこねる犯罪者の様な構図が出来ていた。

 

  そしてその事は当事者であるリンディも痛感しており、リンディは改めて自分達の現状を鑑み、漸く自分達の言葉に対する説得力が非常に薄いと気付いて内心歯噛みしたが、表情には何ら表さずに会話を続けた。

 

『………確かに……私達があなた達に私達の法を押し付けたり、あなた達の未来を決定するのは傲慢なんでしょうけど…………この世界の命運を握る判断を秘密裏に下すあなたも傲慢なんじゃないかしら?』

「その発言自体が傲慢だと認識していないようなので指摘するが、人の世の破滅が世界の破滅と同義ではなく、又星の崩壊が世界の破滅と同義でもない。

  人も星も空間も時間も、世界を構成する一つの要素に過ぎない。

  この星の現行人類や時空管理局が出来るのは精々星を崩壊させること止まりであり、仮に人為的に時空震を引き起こそうが時間や空間自体は崩壊せず、世界を滅ぼすことは現在では不可能だ。

  人間の存続を世界の存続と同義にするのは、身の程と分際を弁えぬ傲慢且つ無知な言動だぞ」

『…………………なら世界という言葉を人の世と言い代えるけれど…………あなたとはやてさんの二人の為だけにこの星の人間全ての命を天秤にかけるというのは……酷く傲慢なんじゃないかしら?』

「思い違いをしているようだが、俺ははやての命をこの星の人間の命と秤に載せた事は一度も無い。

  俺が秤の片側に常に載せるモノは、俺の利、だ」

『……………………あなたは無関係な人を危険に晒してなんとも思わないのかしら?』

「無関係に属すると判断したならば、其れ等がどうなろうと無関係なのだから構わない。

  尤も此の事を其方に糾弾される謂われは微塵も無い。

  魔導書が暴走した際、現地民に一切避難勧告も事情説明もせずに殲滅兵器の使用を目論んでいるのだからな」

『ッゥ!!?

  だ……だったらっ……っっぅ!……………、あなたなら闇の書が暴走した時に、私達よりも安全に対処できるというのかしら?』

 

  話せば話すほど虚仮にされた挙句自分達が掲げる正義や法の後ろ盾を理論的に否定され、自制はしているので激昂はしていないが、それでも苛立ちが強く混じった声で速人に問いかけるリンディ。

 

  だが速人はそれにいつも通り淡々と―――

 

「凡そ100%の確率で可能だ」

 

―――と、完全にリンディの想定外の返事をした。

 

  リンディとしては揚げ足を取るつもりだった問い掛けだったらしく、まさかその様な答えが返ってくるとは思っていなかったようで、呆気にとられた表情を晒していた。

 

  そして速人はリンディの表情を見て説明が必要だろうと判断し、淡々と説明を始めた。

 

「この施設の最深部に大規模の爆発物実験場が存在し、そこには水素爆弾を設置している。

  そしてそこで夜天の魔導書への復元作業を行い、仮に暴走により復元作業が失敗と判断した場合、即座に水素爆弾を起爆し、摂氏4億度で熱滅却する。

  此の対処法は魔導書の官製人格も、暴走体が常時展開する魔力と物理に対する複合障壁及び更に別個に展開するであろう複合障壁全て破壊し且つ暴走体を消し去るには過剰な程のエネルギーだと認めている。

  尚、水素爆弾を起爆させた際、爆発物実験場のみならずこの施設も大破若しくは半壊するが近隣への人的被害は限り無くゼロに近く、又この施設の大破若しくは半壊した理由も既に用意しているので、俺の生死に拘わらず各国への混乱は小規模に留められる。

  以上だ」

 

  速人の発言をリンディは俄かには信じられなかったが、今までに分かった速人の性格から嘘は言わないだろうと判断し、更には先程の常識外れの放電機構を鑑みた結果、速人の発言を真実だとリンディは認識した。

 

『…………迂闊に証拠の提示を求めたらどんな兵器を起動させられるか分からないし、嘘を言っている様にも思えないから…………あなたが私達以上に暴走した闇の書に対処できるというのは認めるわ。

  ………話を戻すけれど、あなたがどれだけ備えをしていても闇の書を夜天の魔導書へ復元する作業を看過するわけにはいかないわ。

  ………たとえ限り無く100%の確率で暴走体を殲滅できるとしてもそれは絶対(100%)ではないし、想定通り殲滅できたとしてもはやてさんの命は確実に失われる。

  僅かでも危険が存在するなら、管理局員としても一人の大人としてもそんな事を―――』

「脳の記憶領域や意識は有限なので無駄に使用する気は微塵もないので、この件に関してそれ以上話さないでいい。

  そして最早音声通信は不要だ。映像も其方の言い分を文書で表示するだけに留めてくれ」

『―――認め…………………………』

 

  言外に【表示された映像や放たれる音をお前の顔や声と認識する、その程度のことにすら意識を割く気は無く、更にはそんな無駄な事を記憶する気は微塵も無い】と述べられ、速人の言い様にリンディは僅かな間だが鼻白む。

  そんな鼻白むリンディを速人は無視しつつ、予想通りリンディの評価を時空管理局の職員としての立場に付属する事柄以外には有機化合物としての物質的価値以外無しと結論付けた。

  そしてこの後直ぐにリンディから発せられるであろう、何故その様な発言をしたのかという浅薄な発言を封じる為に速人はリンディに先んじて言葉を発す。

 

「俺がリンディ・ハラオウン個人と交渉する事は最早無い。

  そして其方も同様と判断したので、最後に俺に対して疑問や主張を投げかけたい素振りを見せているフェイト・テスタロッサと交渉若しくは意見交換を行うつもりだが、双方異論は無いか?」

『………………………』

 

  言外に交渉以外に話には付き合わないと述べられ、最早自分との会話に価値を見出していないだろう速人とこれ以上の会話は不可能とリンディは判断し、フェイトに視線で言いたい事や訊きたい事があるならば存分に話す様眼で促した。

 

  そして位置的にリンディの映像が見え難かったが、何とか雰囲気で自分に会話の機会を譲ってくれた事を理解したフェイトは、痛む身体を引き摺って速人の前に立って話そうとした。

  だが―――

 

「近づくな。そして遠ざかるな。

  用向きはその場で述べろ」

 

―――銃口をアルフに向けられ、フェイトは一歩も歩けなかった。

  そして立ちすくんでいるフェイトに速人は淡々と声を投げ掛ける。

 

「驚きや戸惑いで時間を稼ぐな。

  俺にはお前の驚きや戸惑い、更には喜怒哀楽に付き合って時間を浪費するつもりは微塵も無い」

「っっ!…………………分か………ったよ」

 

  色々と反論したいことは在ったが、折角の会話の機会を捨てるわけにもいかず、フェイトは何とか憤りを飲み込んだ。

  そして先程からどうしても訊きたかった事を言葉にして訊ねた。

 

「……速人は…………さっきから守護騎士達を人と同じように扱ってるけれど………………人じゃない……唯のプログラムなのに…………………どうして人と同じように接せるの?

  ………………知らないなら分かるけれど……………人じゃないって………普通じゃないって分かってて………………どうして人と同じように………普通に接せるの?」

 

  フェイトの発言を聞き、事情を知るアースラの面々は沈痛な面持ちでフェイトの話を聞いていた。

 

 

 

―――

  自身が他人とは違う(普通ではない)事に対して負い目を持っているフェイトは、使い魔なので出逢い方や関係が特殊なアルフや、なのはやリンディ達の様に優しさを持った人達でもない、冷酷で人以外を実験動物の様に見ていると思った速人が何故守護騎士達を人と同じ様に接しているかが酷く気になった。

 

  もしも冷酷な速人が人でないモノに対しても人と同じ様に接す理由が利害関係を抜きにしたものだったのならば、誰よりも冷酷そうな速人が人でないものを差別しないならば、案外世間は自分に対して否定的ではないのかもしれないと思い、フェイトは速人にこれからの人生を占うような気持ちで訊ねた。

―――

 

 

 

  余程人の機微に疎くない限り、フェイトがその答えに何かしらの期待を切に込めているのがありありと見て取れる問いだったが、速人は其れを十分承知した上で気にせず普段通り淡々と言葉を返した。

 

「最初に根本的な誤解を指摘するが、俺は守護騎士達を人として接した事は初対面の時も含めて一度も無い。

  次に俺はヒトという存在を特別な位置に置いておらず、ヒトというだけでの存在価値は獣や魚や虫や石と然したる差は無く、ヒトと同列に扱うことは何ら特別なことでは無い。

  因って前提を間違えたその質問にはこれ以上答えることは出来ない」

「………………」

 

  あまりの予想外な言葉にしばしフェイトは呆然としていたが、まだ自身の望む答えの希望が絶たれたわけではないので、気を取り直して速人に改めて尋ねた。

 

「…………言い方を変えるよ……………………速人は………普通じゃない…………作られたモノを………どうして大切に出来るの?」

「先に誤解を指摘するが、俺は普通じゃない若しくは作られたモノ全てを大切にするわけではない。

  話を戻して質問に答えるが、俺は唯あらゆる存在に対し主観で価値が在ると判断したモノを、その価値に応じて優先度を決定する。そして俺はその価値や優先度の判断の際、普通や常識という概念を介在させずに行う。

  因って俺は作られたモノというだけで価値の判断や対応を切り替える理由が無い。

  そしてもう一つの理由だが、守護騎士が人に作られた存在であるようだが、それは人も変わらない。

  人が交合でヒトを作り出すのと、人工授精に依りヒトを作り出すのと、何かしらの技術に依りヒト以外を作り出すのも、人が作り出したということに措いては何も変わらない。

  尤も交合の場合は意図して作り出すわけでなく、性行為の副産物として意図されずに作られるので、後の二つと違い、製作理由が存在しない場合が多いという違いはあるが」

「…………………」

 

  明らかに自分の望んだモノとは違う答えを返され、更にはその答えの内容にしばし呆然とするフェイト。

  そしてそんな呆然とするフェイトに速人は構わず言葉を投げ付ける。

 

「仮にはやてがお前達と絶縁していない時の為に言って置くが、自己を確立させられないならば早早に自害して果てるといいだろう。

  自我は在れども己の立ち居地を定めず且つ意志が無い存在は容易に暗示や洗脳が可能な為、遠くない日に傀儡として立ち塞がるだろう事は容易に予測がつくからな」

「っっ、わ………私は……………もう誰かの言いなりになったりなんかしない。

  必死に名前を呼んでくれて…………手を差し伸べ続けてくれて…………………友達に成ってくれたなのはの為にも……………私は道を間違えたりなんかしない」

 

  震えながら、そして瞳に涙を湛えながらもハッキリと言い返すフェイト。

  しかしそんなフェイトの主張も速人にとっては勘違いした発言としか認識されず、即座に凄まじい切り返しの言葉をかけられる。

 

「道以前に人間性を見る眼と現状の認識すら間違えているぞ。

  フェイト・テスタロッサと高町なのはの関係は断じて友と分類されるものではない」

「なっ!!??

  ち、違う!私となのはは友達です!

  だいたい友達の居ない速人にそんな事を言う資格なんて無いっ!!」

「俺の友の有無については言及しないが、フェイト・テスタロッサと高町なのはが友と言う関係については再度否定しよう。

  理由を述べるが、そも友とは精神的に対等な関係だ。が、極度に片方が依存及び隷属しているならば、その関係は主従関係と呼ぶ。

  それと即刻高町なのはと絶縁して確固たる自己を確立する事を勧告する」

「っっっぅぅっ!!

  わ……私となのは対等な関係だよ!」

「自覚はしたようなので俺からこの件で話すことは無い。

  他に訊ねる事はあるか?」

 

  散々引っ掻き回しておきながら言いたい事を言ったら後は一切取り合わない姿勢を見せる速人だったが、無論それでフェイトは納得出来ず食い下がってきた。

 

「さ…さっきも言いましたけど……私となのはは対等な友達です!

  ですからさっきの言葉は取り消してください!」

 

  必死の形相で速人に語りかけるフェイト。

  しかし速人は相変わらずいつも通り何も無い空間を見る眼でフェイトを見つつ返事をする。

 

「その話に付き合う対価に此方の問いに答えるならば、その話に付き合おう」

「それくらい構わないよ。

  だから早くさっきの言葉を取り消して」

 

  特に考えもせずアッサリと速人の言い分を呑み、苛立ちとワケの分からない不安を敵意で覆い隠したような声で答えるフェイト。

  そしてフェイトの拙い敵意を浴びている速人は、フェイトが速人の言葉を特に深く考えもせずに承諾したのを承知していたが、回答を拒否する程の問いをする気が無かった為態態指摘せずとも構わないだろうと特に指摘せず、直ぐにフェイトの話に付き合うことにした。

 

「俺の要求を呑んだので話しに付き合おう。

  そして先の発言を取り消す要求についてだが、俺の判断が誤りだと示せたならば侘びるので、理論を述べるといい」

「っっ、そ…そんなの言う必要なんか無いよ。

  私となのはは友達。そこには理論も何も無い。

  寧ろどうして速人が私となのはが友達じゃないって言うかを説明するべき」

 

  自分では速人を納得させることは出来ないとフェイトは思い、それならば逆に速人に自分を説得させれば良いとフェイトは考え、頭から否定する気満々で速人に自分を説得するよう仕向けた。ただ、それ以外にも自分では直視したくない部分がある事を何と無く自覚し、そこから眼を逸らしているという理由も在った。

  そしてフェイトの思惑や内情は見越した上で速人は簡単に承諾した。

 

「ならば其方の主張通り指摘しよう。

  フェイト・テスタロッサは高町なのはの意志には決して抗わないからだ。

  尊重するわけでも強制されたわけでもなく、相手を不快にして自身から離れていかぬように隷属し追従する。

  隷属し追従する者とされる関係を友とは呼ばない」

 

  まるで機械音声から愛想を省いたかの様に淡々と告げる速人。

  そして譲れぬ琴線に触れたのか、フェイトが猛然と反論しようとしたが、それより僅かに早く速人が言葉を投げかけて反論を封じた。

 

「理由も分からず、又理解する余裕も無い状況下で、高町なのはと時空管理局所属武装局員が戦闘をしていたら、どの様な行動を採る?」

「……なのはを助ける」

 

  一瞬速人の言葉を無視して先の言葉に対して反論しようかとしたフェイトだったが、自分でも良く分からない理由で律儀に速人の問いに答える。

 

「ならば助勢をした後に事の顛末を聞き、高町なのはが法に反し且つ社会的に悪と断じられる場合、それでも助勢を続けるか?」

「そ………それは…………………」

「出頭をしても無期懲役以上が確定している場合に置いても助勢を続けるか?それとも出頭を勧める若しくは干渉を断つのか?」

「………………………」

「もしその場で高町なのはから協力要請があった場合、自身と高町なのは以外の全てを敵に回し且つ自身の周囲の者達に多大な不利益を被らせると承知の上で尚その要請を受けるか?」

「………………………………………」

 

  質問や尋問と言うよりは確認事項の様に告げる速人。

  対して速人から告げられるフェイトは、速人が言った通りの状況になれば如何動くか明確に理解してしまい、何も反論できずに俯いてしまった。

 

「自覚したようだな。

  フェイト・テスタロッサにとって高町なのはは、他のあらゆる事に優先される。そしてその優先する理由は自身の空隙を埋める存在喪失への恐怖であり、友情と言う概念は存在しない。

  尤もフェイト・テスタロッサ述べる通り、遭遇初期の頃は確かに友と呼べる関係であったのだろう。だが精神支配及び汚染されて自己を掌握されている現在では、幾度も繰り返して述べるが友と呼称される関係ではない」

 

  まるでフェイトとなのはの此れまでを見てきたかのような言い振りで話す速人。

  しかし―――

 

『いい加減にしてください!!

  あなたにフェイトちゃんの何が分かるっていうんですか!!?』

 

―――速人がフェイトの事を碌に知らないと思っているなのはが、リンディを押し退けて話しに乱入してきた。

  瞳に凄まじい敵意を燃やしながら、速人の足元のアルフの事など完全に失念したなのはが速人を睨んでいた。

  そして更に文句を言おうと口を開きかけたなのはだったが―――

 

「Project  F」

 

―――ギリギリ内容を伏せられた部類に入るその一言で言葉を失ってしまった。

 

「それともP.T事件の詳細と述べた方が理解し易いか?

  其れ等を知っている故に高町なのはとユーノ・スクライアがどれだけ思慮の浅い行いをしたのかも、そして時空管理局がどれだけ杜撰な対応や管理をしていたのかも俺は知っている。

  俺が何を分かっているかと言ったが、逆に俺が何を知らないとは考えもしなかったようだな。

  他者を擁護するには随分と浅薄だな」

『っっ!………こ……言葉にしなきゃ………話をしなきゃ相手には伝わらないんだから、何も自分の事を話さないあなたの事を私が知らないのはしょうがないです!

  だからこうしてあなたとお話しようとしてるんです!!』

「逐一話をしなければ伝わらない程度の者に、自身の全貌知らせる事は間接的な利用価値が無い限り俺は行わない。

  そも俺と話すより、自身が痴がましくも友とアリサと月村すずかを呼ぶならば、今からその友が友と呼ぶはやてと相対することになるとでも伝えてはどうだ?

  事が終わってはやてが姿を消した時に沈黙や虚偽をしないならばな」

『「!?」』

 

  痛い所を突かれたと黙り込むなのはとフェイト。

  そしてそんな二人を全く気にせず速人はフェイトに話しかける。

 

「さて、フェイト・テスタロッサ。俺は先程話しに付き合った。故に対価に俺の問いに答えてもらう」

「………………………なに?」

「仮に自身が戦闘不能になり蒐集された場合、はやてへ害意を向けるか否か。

  先程の対価は此の問い一つだ」

「…………………はやてが蒐集する事を嫌がってるんなら………………………私は恨まないよ………………」

 

  眼前のアルフ、他にも破損したバルディッシュやクロノにユーノを想いながらも、フェイトは控えめながらも強く言い切った。

  そんなフェイトが葛藤の末答えを出した事をまるで気にも留めずに速人は言葉を投げかける。

 

「他に訊くべき事や話すべき事が在るならば速やかに行うがいい」

「…………それじゃあな―――」

『ごめんフェイトちゃん!ちょっとあたしにも質問させて!』

「―――んで………………なのは………………。

  えと……私は構わないんだけど……」

 

  そう言ってチラリと速人を見、勝手になのはに発言させても構わないかと逡巡した時、速人がそれに対する答えを述べた。





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