「高町なのはの発言は認めない。

  傲慢な癇癪にこれ以上付き合わせるのならば、先に述べた様にアリサと月村すずかに事情説明を行うのだな。

  事態がはやて達の一定期間の軟禁処置のみ等で済んだ場合、解放後はやては其方を気遣い、不本意な虚言を吐かねばならぬ状況に成りかねないのでな」

『……ま…魔法の事をこの世界の人には話せないんですから、そんな事は出来ません………』

「偽り、欺き、其れを是とする、か。

  しかも大層徒労が好みの様だな」

 

  馬鹿にはしていないが、なのはからしてみれば馬鹿にされたとしか思えない言葉を述べる速人。

  当然そんな事を言われたなのは猛然と反論する。

 

『っっぅ!た…たしかに嘘を言ってるし騙してもいますけど!……それが良い事なんて思ってません!!』

「ならば即座に改善するがいい。

  稚拙で粗雑な虚言や謀略で欺ける程アリサと月村すずかは愚鈍ではないからな」

『〜〜〜ぅぅっっ!!それが出来たらとっくにしてます!!

  だけど………魔法を知らない人には話してやれないんですから、そんなこと出来ません!』

「其れが自身の主張ならば其れで納得するといい。

  自身の意思で痴がましくも友と呼ぶ者を時空管理局の言い分に従い、偽り又欺く事を選んだのだからな」

『好きで騙してるんじゃありません!

  話せるならとっくに話してます!!』

「なら話すといい。

  そも、時空管理局に所属していない者が時空管理局の言い分に従う理由など無いのだからな」

『だ………だとしても言えません。

  魔法に関わったら危険なメに逢うかもしれない……………そうなったら力が無いアリサちゃんやすずかちゃんは大変な事になっちゃう……………』

「そう判断しているのならば即座に縁を切るのだな。

  高町なのはを支配下に置こうとしたならば、アリサと月村すずかの存在は極めて有効だ。

  理解していないようだが、話す事が関わることではなく、知っている者の傍に居る事が関わるという事だ。無論関わり方の度合いは違うが」

 

  速人の言っている事は正論だが、正論とは大抵言われた側は容易に受け入れられぬばかりか神経を逆撫でられるモノであった。そしてなのはもその例に漏れず速人の言い分が正論だと理解はしていたが受入れられず、正論で指摘された怒りに加え速人の冷淡とも取れる平淡な物言いに怒りを覚え、結果感情任せになのはは反論を始めた。

 

『あたしはあなたと違ってそれが一番だからって友達を切り捨てたりなんて出来ません!

  それにもしアリサちゃんやすずかちゃんが狙われたなら管理局の人が手伝ってくれる筈です!

  だいたい魔法が使えないアリサちゃんやすずかちゃんは魔法の事を知っても何も出来ないんですから知らずに暮らしていた方が良いに決まってます!!』

 

  捲し立てる様に文句を言うなのは。

  だがそれに対する速人は、なのはのみならずフェイトやリンディにとってすら完全に予想外の言葉を述べた。

 

「先も述べたが、大層徒労が好みのようだな。

  アリサと月村すずかからの連絡を確認していないようなので知らぬだろうが、二人は現在はやてと共に居る。そして現在の状況を説明された二人は、フェイト・テスタロッサ達3名がこの場に現れた時より現在に至るまでの状況を通信により見聞きしている筈だ。

  因って先程からの会話は既にアリサと月村すずかの知るところだろう」

『……………………………………』

 

  速人の言葉を聞いたなのはは愕然としつつも急いで携帯電話を取り出して電源を入れてメールを確認した。

  そして速人の言う通り二人がはやてと共に居る事を告げるメールが確かに存在し、更にはつい今し方送られた伝言が存在し、震える指で再生ボタンを押した。

  僅かなノイズがスピーカーから流れた後保存されたアリサの声が再生され、それは高性能な集音能力を有すアースラの集音機がその音を拾い、空間スピーカーからフェイトにもその内容を伝える。

 

<………あたしの友達同士が戦うってのに蚊帳の外にする気なんて………………フザケンじゃないわよ……………。

  あと自惚れ過ぎよ。何様のつもりよ。

  ……………………………終わった後に説明しないようなら本当に絶交よ>

 

  静かな声に怒りや憤りや蔑みの他に感慨深い諦めの様な感情を乗せた声が辺りに響いた。

  それを聞き、なのはとフェイトはアリサが本気で絶縁半歩手前になるほど怒っていると理解し更に呆然としていたが伝言は未だ終わらず、更にすずかの声を再生し始めた。

 

<………せめて……付き合いの長いなのはちゃんからは……説明が欲しかったな……。

  …………………………それと…………終わったら私も説明が欲しいよ…………。

  あと………終わった後でも友達同士が敵対したことへの説明をなのはちゃん達から聞けなからったら…………私…前みたいになのはちゃんと一緒に居る自信な>

 

  伝言時間が終わったらしく、すずかの台詞が急に途切れ、その後伝言された時間を機械音声が場違いな明るい声で告げた。

  放心状態のなのはの手から携帯電話が滑り落ちるのと同時に、速人は微塵も空気を気にせず告げた。

 

「逆探知を防ぐ偽装工作が終了する1039秒後までははやて達へ電話でのは連絡は不可能だ。

  尤もアリサと月村すずかが八神家から一定以上離れれば即座に連絡は着くが、先の話から察するに暫くは八神家で此方の状況を把握すると予測されるので、偽装工作終了までは連絡不可能だろうがな」

 

  二人に釈明の電話しようとしていたなのはに釈明はほぼ不可能と平淡な声で告げる速人。

  それを聞き、なのはは釈明もできないと知って俯いたまま黙ってしまったが、フェイトはなのはと違ってアリサやすずかの存在はそこまで重大ではなかったのでなのは程衝撃を受けておらず、未だ冷静な思考で一つ疑問に思った事を速人に訊ねた。

 

「……速人………アリサやすずか達がここの様子を知れるって事は………少なくてもここで話せば通じはする……んだよね?」

「此方の様子を確認しているのであればその通りだ。

  だが此方側に残された時間は少なく、その様な時間稼ぎに転用される行動は認めない。

  因って主張があるならば交渉終了後高確率で突入するだろう戦闘時に行うように。

  尚、異論を一度唱える度に此処に倒れ伏しているものの四肢が一つ以上欠けていくと思うことだな、高町なのは」

 

  速人のその台詞の直後、フェイトは自らが出せる最高速度で空間モニター(なのは)を見やった。

  そして目に映ったのは案の定怒りの表情を浮かべたなのはだった。が、空間モニターは正常に機能しているようだが、空間スピーカーからは一切音が出なくなっていた。

  空間モニターに映し出されるなのはの剣幕から速人に何かを叫んでいるようだったが、寸での所でエイミイが音声送信を停止させたのでなのはの後先考えない反論は速人に届かず、そのことにフェイトは深く安堵すると同時に音声送信を停止させたと思われるエイミイかリンディに内心で深く感謝し、先程なのはが会話に乱入してきて訊きそびれた事を速人に改めて訊ねた。

 

「えと………さっき訊きそびれた事を聞くけど……………………何で私の質問に答えたの?

  …………私の質問に答えたって速人は何も得しないのに………」

 

  他にも訊きたい事があるフェイトだったが、途中から自分の疑問に答える速人を不自然に思い、最後に訊く筈だった事を繰り上げて訊ねてしまった。

  そしてフェイトが多分答えないだろうと思って発した問いだったが―――

 

「意志と意識の誘導、これらが可能ならば問いに答える価値は在る。

  無論其れをするに値する価値が在る場合に限るが」

 

―――速人は極平然と答えを返した。

  言外にフェイト自身とその問いには然したる価値は無いと籠めて。

 

「…………………じゃ………じゃあ……………今までの話は……全部デタラメだったの?」

「少なくとも俺にとっては出鱈目では無い。

  尤も、俺の発言が戯言か否か。戯言でなければそれは自身にとって聴く価値が在る言か否か。そして聴く価値が在る言ならば其れが自身の真実か否か。其れ等は全て自身が決めることだ」

「……………………………」

 

  自分で決めろと言われたフェイトだったが、自我も自己も希薄で行動理念や判断基準の殆どがなのはに依存しているフェイトには到底決められる筈も無く―――

 

「…………速人を捕まえてから決める。

  今はとりあえず聞きたい事を全部聞く。」

 

―――と、後回しにする事にした。

  そしてフェイトのその言葉を微塵も気にしていない速人は、沈黙でフェイトに質問を促し、フェイトは質問を続ける。

 

「………質問に戻るけど……さっき血をたくさん吐いてたけど……………病気なの?

  ………………それとも……………もしかして最初………私がぶつかった……せい?」

「フェイト・テスタロッサとの衝突で負傷はしたが、其れは吐血の主な要因ではない。

  吐血の主な要因は長期間に渡り薬物服用した事に因る副作用と過労による衰弱だ。

  尚病気についての問いだが、病と仮定するならば精神病に分類されるが、病と判断するかは個個人に依り異なるので、その問いに関しては解答しない」

「………………じゃあ薬って何なの?

  そんな血を吐くほど危ない薬を飲んでたの?」

「服用していたのは主に麻薬に分類される物だ。

  尚、薬物の服用だけでは吐血に至らないが、約半年の間服用していた事に加え度重なる負傷と睡眠不足の要因も合わさり、既に衰弱死寸前の状態で先の様な運動を行った事が吐血に至った原因だ」

「…………え?…………」

 

  幾つか聞き捨てなら無い単語が在ったが、とりあえずフェイトは順に確認することにした。

 

「………あの………麻薬って………痛み止めとか……の?」

「其の用法も在るが、俺が使用していた物は凡そ快感を得る為の物だ」

「……えと……………あ…新しい薬の実験台……とか……だった………の?」

「使用目的の殆どは快感を認識する為だ。

  尚、使用した薬物の殆どは臨床実験が終了していたので、臨床実験を目的として使用した薬物は殆ど無い」

「…………………………………」

 

  速人の言葉に衝撃を受けたフェイトは暫く黙り込んでいたが、何とか気を取り直して質問を口にした。

 

「な……なんで薬なんかに手を出したの?

  速人には大切に想ってくれてるはやてが…………家族が居るのに……………。

  薬なんて自分どころか自分の大切な人も傷つけるのに…………」

「先も述べたが使用目的は快感を認識する為だ。

  それと思い違いをしている様なので告げておくが、医師及び学者としての判断で薬物を服用しており、治療若しくは矯正、又は補助として薬物を使用していた」

「えと………それじゃあ何で薬を使ったの?」

「再三述べるが快感を認識する為だ」

 

  見当外れの答えが返って来て少々苛立ったフェイトだったが、直ぐに質問の仕方が間違っている事に気付き、質問をし直す。

 

「じゃあなんで……か………かい……………えと……………気持ち良………じゃなくて……その………………えと………………」

 

  質問し直そうとしたフェイトだったが、聞く分にはサラリと流せたが、言おうと想うと存外に恥ずかしくて快感と言えず、赤面しながらしどろもどろになってしまった。

  そしてそんなフェイトを見た速人は、予定以上に話の進行が遅いのでフェイトの言葉を待たずに話し始めた。

 

「何故薬物により快感を認識しようとしたかについてだが、俺は肉体及び精神的刺激で快感を認識した事が一度も無い事が起因する。

  故に薬物を用いて快感を認識し、精神の変化を目的とした」

「?……………えと…………………あの…………ごめん………速人……良く分からないんだけど…………」

「要約すれば俺は完成された単体、若しくは完全なる単体に成る為、精神を人工変化させる過程で薬物を補助に用いたという事だ」

「…………………………………ごめん…………やっぱりよく分からない………。

  そもそもなんで精神を変える時に薬が必要なのかが分からないし………」

「先も述べたが精神の人工変化の際に薬物を併用した理由は、俺は肉体及び精神的刺激で快感を一度も認識した事がないからだ。

  故に薬物を用いて快感を認識し、其れを基に快と不快を設定し、更に其れを基にして擬似人格を作成し、最終的には擬似人格を纏って社会から弾かれぬ事を目的とした。

  限界まで要約すれば生きる為に行ったという事だ」

「…………………………………ごめん……………………まだ分からない。

  ……そもそも生きるだけなら……私はよく分からないけど速人はお金を一杯持ってるから…………はやてと…………家族と不自由なく一生暮らせるはずだよね?」

 

  余程自分の価値観から速人が外れている為か、未だ速人の言わんとしている事が理解できずに困惑しているフェイト。

  そして予測通りの反応を示すフェイトを見つつ、速人ははやて達家族との関係に一石を投じる言葉で以ってフェイトの疑問に答えた。

 

「金銭は目的を達成する一手段でしかなく、はやて達と家族であるのも目的を達成する一手段でしかない。

  俺は自らが発生してから今に至るまで常に求め続けているのは、単体として完成若しくは完全なる単体になることだ」

「っっっ!?!?」

 

  微塵も躊躇せずにはやて達との関係を手段と言い切る速人。

  そしてその言葉を聞き絶句してしまうフェイト。

  だがそんなフェイトに一切構わず速人は話を続ける。

 

「人間という群体が繁栄し続ける事を目的としているように、俺は自身を永久機関にして永遠に存続し続ける事を目的にしている。

  だが現在この星での最大勢力は人間であり、人間は秩序の為に異端を決して容認しない。

  故に自らの肉体を永久機関にするまでの間、人間より殺処理されぬ為に利用価値を提示して存続をしていた。が、非効率的と判断を下し、現行案の代案に処世術の一環としての人心掌握術の精度を高める為、俺ははやてと一時的に家族関係を構築すると事にした。

  因って俺ははやて達と暮らしを存続させることだけが目的ではない」

「……………………………………」

 

  予想外過ぎる速人の台詞に呆然とするフェイト。

  そしてそんなフェイトを速人は見、これ以上の会話の誘導は非効率的と判断を下し、現状を確認しているだろうはやて達に向けて話しだす。

 

「アリサが高町なのはに先の様な伝言を行うとは、推定実行確率の低さから対策を放棄していたが、…此方の思惑に沿わぬとは流石はアリサと言うべきか。

  若しくは俺が度し難い程に未熟なだけか」

 

  突然独り言の様に語りだす速人にフェイトは呆然としながらも怪訝に思ったが、速人は構わず語り続ける。

 

「交渉の基本の一つに相手から尋ねさせるというモノが在るが、事此処に至れば其方から尋ねさせる様に話を誘導するのも時間の浪費だな。

  故に其方が疑問に思ったであろうことを此方が推測して告げよう」

 

  未だ呆然としているフェイトにこれから矢継ぎ早に話していくと告げる速人。

  そしてそのことにより、呆然としたフェイトが告げられる情報を処理出来なくなる可能性を十分速人は承知していたが、八神家に居る者達が理解すれば其れで構わないと判断して一方的に告げ始める。

 

「何故目的を異にする俺が守護騎士達と行動を共にしているのかという点だが、守護騎士達には家族の存続を第一にしていると話しているからだ。

  尚、その時の言葉は虚言ではなく、家族としての自己が出した紛れも無い事実だ」

 

  そう述べた時呆然としているフェイトの近くの空間モニターに映っているリンディが疑問の眼差しを速人に投げかけた。(音声はなのはが未だ暴走しているので切られている)

  そしてリンディの視線を受けた速人はリンディが疑問に思う事を予測していたので、アッサリとリンディの疑問の答えを告げた。

 

「俺は約半年前より殆どを家族として設定した自己で思考及び決定及び行動をしている。

  だが先程フェイト・テスタロッサに告げた目的は、【家族としての自己】以前より存在する【単体としての自己】のモノだ。

  そして同一の肉体に異なる多数の自己を内包する事を解離性同一性障害の一種と定義するならば、単体としての自己の発言は家族としての自己が発した発言に何一つ責任を負う事は無い。

 

  概略は省くが、多くの解離性同一性障害とは異なり、俺は相互の自己が互いを認識している。

  そして最大の相違点だが、俺は家族としての自己を意図して作成した。

  尤も、初期設定に不備が存在した為、現在単体としての自己と家族としての自己が互いを排除せんとしているが」

 

  再び眼で疑問を問いかけるリンディ。

  其れを又眼で問われるまでも無く告げるつもりだった速人はリンディの方を見もせず、既に蒐集が終わって無力化されているアルフの傍から離れ、バルディッシュとフェイトを底辺にした二等辺三角形を形作るような位置に移動しつつ話す。(無論フェイト達や空間モニターから閃光が放たれないかを警戒したままで)

 

「初期設定の不備とは二つ。

  一つめは単体としての自己と同列に家族としての自己を作成した事。

  二つめは家族としての自己に家族増加を禁止しなかった事」

 

  理解が追いついていないフェイトやリンディに構わず速人は構わず告げる。

 

「単体としての自己が目的の為に家族としての自己を作り上げたにも拘らず、同列の存在に設定してしまったことに因り主張が異なる場合、互いの自己が妥協点を模索するまでの間、状況に因っては生命維持に必要な行動以外は行動不能状態に陥る事態も存在した。

  これは単体としての自己と家族としての自己、双方の肉体の制御権が同等の為起こる現象だ。

 

  そして家族増加を禁止せずに自身を家族という総体の一部として希釈する事を防がなかった事に因り、はやてと二名の時ならば最終的に自身を優先しても問題が無かったが、総体の一部と成った事に因り自身を優先させる事が不可能になり、結果単体としての自己と頻繁に対立することになってしまった。

  これは二名の時ならば自身とはやての価値が同等ならばどちらを優先しようと問題が無いと判断し、且つ既にはやてに親族が存在しないと知っていた為に起きた不備だ」

 

  完全にリンディやフェイトを置き去りにして告げ続ける速人。

  尚、速人は移動先の情報をある程度(一般的には凄まじい情報量)調べて赴くのが普通であり、その際未成年の一人暮らしの者という事で顔こそは確認していなかったが稀少なので事前に調べていただけであるが、特に話す必要も無いだろうと速人は其れを告げなかった。(海鳴で有名な翠屋関連も既にこの時に調べてあった)

  そして空間モニターに僅かに映るエイミイの唇からレイジングハートの最終調整終了が800〜1200秒と読み取り、残っている時間が少なくなってきたので速人はリンディ達にではなくこれを見ているであろうはやて達に向けて話す。

 

「単体としての自己の最終妥協点は自身の死亡を前提としたモノ以外であり、家族としての自己の最終妥協点は総体の維持に絶対的に必要では無い事であり、この二つを両立させるには家族の総数を以前と同等の2名に戻すことだ。

  だが当然その様な案を家族としての自己は決して容認しない。

 

  そして家族増加より半月もせず単体としての自己は主張対立時に肉体が一時制御不能状態に陥る事を危惧し、最終妥協点を侵さぬ限りは家族としての自己の行動に基本的に干渉せぬようにした。

  しかし蒐集行為開始以降、時空管理局の情報を得る度に、事態終結後司法取引等で俺を含めた家族が時空管理局に所属した際、何れ自身の死を前提とした仕事を凡そ100%の確率で時空管理局が下すと判断した。

  そしてその際家族としての自己が総体維持の為にそれを了承する事は明白であり、結果双方の自己が対立し行動不能に陥った段階で詰みに成ってしまう。

  故に現在、家族としての自己と対立する事無く家族を抜ける為、今此の場に居る」

 

  リンディ達の驚きを全く取り合わず、速人は更に八神家に居るだろうはやて達に話しかける。

 

「詳細は時間と戦略の関係上述べぬが、家族の維持の為に俺を処分するのが最善な状況への誘導が最も被害が少ないと判断している。

  そして此の案を家族としての自己は総体維持の為に最善と判断し、単体としての自己は極めて高い確率で死亡するが死亡が前提とされていないので容認した」

 

  速人は八神家に居る面面がどの様な反応をするか事前に予測していたがそれを微塵も想像せず、更に八神家の面面に向け話しかけた。

 

「理解出来ぬだろうし出来ぬのが当然だ。

  既に俺の思考は、他殺の域の自殺思考だ。更に統合失調症と診断も可能な状態だ。

  自身で自身の発言や思考の不合理性や矛盾点が自覚可能な程、今の俺は極めて不安定だ」

 

  そして今度は八神家に居る面々にではなく、理解が殆ど追いついていないリンディ達に速人は告げる。

 

「因って時空管理局の者及び縁の者に告げておく。

  仮に魔導書の侵食を停止させ且つ守護騎士達が存在し続ける案をこの期に及んで若しくは敗北濃厚及び必至の時に提示しようと、最早俺は其れでは止まらない。

  時空管理局は兎も角、リンディ・ハラオウン達が自身達に属さぬ存在にどの様な対応を行うかは凡そ予知の領域での予測が可能だからだ。

 

  そも、魔導書が完全に覚醒すれば俺を完全に凌駕する存在…第五の守護騎士とも言うべきモノが顕現するのだ。

  家族としての自己ならば、自身を超える存在が自身の役割とそれ以外すらも受け持つのならば拒否する理由は無い。単体としての自己は言わずもがなだ」

 

  長い話が漸く一段落したとリンディは認識し、ツッコミ所が満載な話を聞いた為に多量のツッコミを入れたかったが既に自分との交渉は終わっており、現在交渉権を持っているフェイトに色々と訊ねる様目配せした。

  そしてリンディに目配せされたフェイトは速人の言った事の半分も理解出来ていなかったが、それでも訊ねるべき事だけははっきりしていたので視線で速人に質問してもよいかを訊ね、特に拒否されなかったので早速訊ねた。

 

「速人……………正直私は今の話の半分も分からない。

  だけど……………この二つだけは訊ねなきゃいけない…………」

 

  自失や動揺気味ながらも決意を瞳に籠めたつもりで話したフェイトだったが、速人は浮薄な自己暗示としか受け取らず、特に気にする事無く視線で先を促す。

  そして自分の決意に速人が全く揺れない事に若干苛立ちながらも、フェイトは速人に訊ねる。

 

「速人ははやてが…………………自分を大切に想ってくれる家族が大事なんじゃなかったの?

  なのにどうしてそんな簡単に自分から手放そうとするの?

 

  それに………罪を償う為に管理局に入ったとしても、管理局は死ぬ為の仕事なんて出さないよ?

  第一、もしそんな仕事が出たとしても、みんなで抗議すればそんなのきっと中止になるよっ」

 

  大声こそ出していないが、次第に語気が荒くなっていったフェイトの言葉に時空管理局の歪みを八神家に居る面面に知らせるのに好都合な箇所が存在したので、速人は八神家の面面に聞かせる意図を多分に含めてフェイトの問いに答える。

 

「思い違いをしているが手放すのではなく、はやて達に絶縁させようとしているのだ。

  総体の意思に逆らえぬ以上、自身の存在が総体に害成すと判断したならば総体より排斥される様にするのは当然の事だ。

 

  そして時空管理局が死ぬ為の仕事を出さないと言っているが、死ぬ為の仕事ではなく死亡を前提とした仕事を出すと俺は言った。

  具体例を挙げるが、最も高確率なのは現在までの魔導書の関係者の溜飲を下げる為、俺を魔導書の主と偽装させて死地に送り出すことだろう」

 

  フェイトは直ぐ様「そんなことは無い!」と声を出そうとしたが、それより早く速人が告げる。

 

「それをせねば現在までの魔導書の関係者が暴走するのは自明の理だ。

  魔導書が暴走した際に巻き添えになる者を切り捨ててアルカンシェルを放つ程度の判断力と実行力の在る組織が、管理外世界の非魔導師一体を生贄に使用しない道理など無い。

 

  さて、他に訊く事は在るか?」

 

  然して価値が無いフェイトの二つの質問に関する問答を一方的に打ち切り、速人はフェイトに尋ねる。

  だが速人はフェイトの言葉を待たず―――

 

「320秒後に再度尋ねるので思案するのだな」

 

―――と告げ、フェイトの反応を待たず、この状況を見聞きしているだろうはやてに話しかける。

 

「さて、はやて、現在までに得た情報を基にどの様な判断を下すかを選択する時だ。

  降伏するか、逃亡するか、和睦するか、無視するか、敵対するか、それとも其れ等以外を選ぶか。

  だが、どのような選択をしようと俺は止まるつもりは無く、俺を止めるつもりならば俺が考えた以上の案を用意することだ。尤も、半分とはいえ、家族の為でなく自身の目的の為に行動する俺を止めようとはしないだろうが。

  そして選択を行ったならば、迷いや躊躇いをも利用して成し遂げるよう心がけるといい。覚悟をすれば精神の安定を得られる代償に思考範囲が狭まるからな。

 

  それと忠告だが、【自身の稀少且つ貴重な能力や資質を活かす為】等という選択肢はせぬ事だ。

  自身を構成する一要素に過ぎない能力や資質の為に自身の行く末を決める必要は無い。仮令その結果多くの者が死傷しようともその原因ははやてではなく、死傷した者達自身の力不足とその者達を守る位置に存在する組織の力不足が原因だ。

  選択を決する際、善悪で選択を決してしまえば高町なのはの如く主体性の無い存在になり、誰かの為と選択を決してしまえばフェイト・テスタロッサの如く他者に依存した存在になる。

  ゆめそれを忘れず選択することだ。

 

  後、途中で俺が死んだ場合に備えて更に忠告するが、時空管理局の言を決して鵜呑みにせぬ事だ。

  時空管理局は正義や平和の為と嘯きながらも、自身に属していない者を拉致して自身達への従属か能力封印かを強い、戦闘や戦争への耐性訓練を施さずに戦場に幾つかの能力が高いだけの未成熟な存在…即ち子供をを投入し、自身達の落ち度で他所の地を危険に晒そうと現地民へ現状の危機を通告せぬ以前に自身達の存在ごと事件を隠す。

  仮令どれだけ尤もらしく聞こえる言葉を連ねようと、時空管理局の本質は自身達が悪若しくは邪魔と判断したモノを処分し続けるだけの組織であり、平和を敷く事が目的ではなく、自身達が繁栄する事が目的の組織だ。

  故に其の言葉の細部に至るまで常に思考する事を止めぬ事だ。明確な悪が存在せぬにも拘らず正義を謡う組織は絶えず敵を作り上げ続けねばならぬという歪みを内包しているので、警戒を怠れば即座に組織維持の生贄にされるだろう」

 

  そこで速人は一旦言葉を切り、少し間を置いてから再度話し出した。

 

「判断を下す際にはアリサに意見を尋ねると良い。

  意見こそ主観的だが思考は客観的なモノの筈であり、類推された情報の精度も高精度だろう。

 

  最後に二つ忠告するが、自身の潜在している能力を覚醒させるのならば、覚醒した瞬間にはやてが友と呼ぶ者の自身を見る眼が変わると思うことだ。

 

  一般人と呼ばれる者が届かず触れえない領域を魔法が行使可能な者は届き触れえる事が可能であり、それは足が地より離れて空を駆け、手の届かぬ範囲外の物を壊す事が出来る存在ということであり、その様な存在を一般人という括りで纏める程アリサも月村すずかも愚かではない。

  誰が何と言おうと魔法を行使する者はこの地の大多数の存在とは明確に異なる存在なのだ。それを見当外れ甚だしい博愛精神や思い違いした余裕で一般人と然して変わらぬなどと嘯くのは、高町なのはやフェイト・テスタロッサといった傲慢な視野狭窄者程度だ。

  故に判断を下す際にその事を留意するように。

 

  そして覚醒させる選択をした際、後日仮に魔法を行使可能な事が知れ渡れば、その時は自身のみならずアリサや月村すずか、更にはアリサや月村すずかの血縁者や友人や想い人をも巻き込む可能性もある。

  故に覚醒した際には最早この地に居場所が無いと自覚する事だ。尤も、巻き込むのを承知で居続けるならばその限りではないが」

 

  それでとりあえずは言うべき事を言い終えた速人は、他は事態終息後に語っても構わないと思い、改めてフェイトに質問の有無を尋ねることにした。

 

「さて、改めて尋ねるが、何か尋ねる事や主張する事は有るか?」

「………………事件には関係の無いことだけど……………どうして速人は一人で何でもしようとするの?

  一人で何でも出来るわけじゃないし、一人で何でも出来るようになる必要なんてどこにも無いよ?

  それに自分一人じゃ出来ないことでもみんなで力を合わせれば出来るようになるんだから………。

 

  私も前一人で抱え込んでたから分かるけど……………一人でやれることには限界があるよ。

  だからそんな時に手を差し伸べてくれる人が居るってのがどれだけ大事で大切なことかも分かる。

  だから………………………今の速人みたいに差し伸べてくれてる手を振り払って一人でやろうとしてる事が間違いだって分かる…………。

 

  だから………………お願いだからこんなことやめて。

  …………今色んな人の手を振り払ったら…………後で凄く後悔しちゃうよ?」

 

  他にも訊くべき事は有るが、差し出されている手を振り払って何かを成さんとする姿に過去の自分を重ねたのか、フェイトは過去の自分を非難するように速人を非難した。

  が、そのフェイトの言葉に返ってきた言葉はいつも通りの平淡な声ながら強烈な内容だった。

 

「個個の力が加算や乗算が可能ならば、逆に減算や除算される可能性も在る

  意識統一や連携訓練をしていない者達が力を合わせようと試みても高確率で失敗に終わる。又、単純な作業ならば成功はするだろうが、その場合は他で代替は容易に可能だ。

  第一力を合わせた結果、説得に失敗した挙句ポッドの中の者共共虚数空間に落下したのだから、集団や組織での限界が必ずしも個体や単体の限界を超えているわけではない。

  理解していない様なので告げるが、恐らくフェイト・テスタロッサが単身で説得に赴けば迎撃はされたろうが、ポッドの中の者が覚醒した後に僅かばかりは労うつもりで彼の地へと連れて行く気は存在しただろう。尤も高町なのは程度の情報保有量から演算した予測なので精度に欠けるだろうが、それでも説得を成功させる事が目的ならば集団や組織の力を行使した事は最悪手だろう。

 

  それと個人での能力や行動に限界が在る事など十分承知している。無論集団や組織にも限界は在るが。

  だが、限界だから諦めろと?

  他者に心労かけるから諦めろと?

  お前は先の俺の話の何を聞いていたのだ?

  俺は単体としての自己及び家族としての自己の双方とも設定された事を成すだけの存在だ。

  諦めるなどという思考は俺には存在しない。

  繰り返すが、俺は定め設けられた事柄を思考して行動するだけの存在だ。

  俺は守護騎士達の様に設定された事柄を放棄可能な自由意思は持ち合わせていない。俺の知能若しくは精神と呼ばれるモノは、この地の現代の人工知能と然して変わらない程度のモノだ。

 

  後、差し伸べられる手が大事で大切と言っているが、そんなモノはNGOや坊主や神父や修道女や他諸諸が大量に差し伸べていて珍しくもないぞ。

  そんなモノを大切などと言っていては程度が知れる。

  それと何故差し出された手を掴まなければならない?

  差し出す事が自由ならば掴む事も自由である筈だ。

  他者の善意を無制限に受け取れと言っているようだが、それは騙されて死ねと言っているのと同義だぞ」

 

  サラリと母親が説得出来ずアリシアと一緒に虚数空間に落ちた事を指摘され、更には説得の方法が間違いだったと指摘され、フェイトは唇を強く噛み締め、そして両手を握り締めて俯いた。

  だが速人はそんなフェイトに興味は無いとばかりに告げ始めた。

 

「残り約400秒から約600秒でレイジングハートエクセリオンの調整も済むと予測しているので、質問や主張に付き合うのは次で最後だ。

  質問や主張がが有るならば60秒以内に発言し終えるように」

 

  ほぼ正確に調整終了までの時間を言い当てられリンディやエイミイは驚き、何所からかアースラにクラッキングをかけているのかと懸念したが、まさか単純な事前予測とエイミイの唇から読み取ったのが原因とは思いもしていなかった。

  対してフェイトは最後の質問や主張ということで何を言おうか迷っていたが、主張ならば戦闘中でも出来ると思い質問をすることにした。(リンディに視線で指示を仰ぐことはかなり前より忘れている)

 

「…………本当は他にも色々訊きたい事があるけれど……最後だってことだからこの質問にするよ。

  …………どうして………………アルフ達を殺さなかったの?

 

  …………さっきリンディさんに答えたのはが理由の全部じゃないよね?

  もしはやてやアリサとの約束の為だけだとしたら、速人は約束の穴を突いたりそもそも約束しないようにしようとするよね?」

 

  その言葉にリンディ達も速人に視線を合わせて言葉を待った。

 

 

 

―――

  長長と話しているせいで緊張感が薄らいでしまっていたが、クロノやアルフ達と相対した際の速人の苛烈とも言える行動と異常とも言える的確且つ素早い判断を見る限り、蒐集を行う為や約束を守る為だけに殺さなかったとはどうしてもフェイトには思えなかった。

  そもそも速人が単独で殺さずに無力化出来る可能性を考慮したならば、蒐集は不可能になるが確実に殺害して危険因子を排除する方に利が有るのは間違い無く、更に約束を守る為ならばその難易度と危険度からそもそも戦闘を行わないのが一番であり、はやての為に何かをするならば単独で行うよりもシグナムなどと共に行動をしていた方がどちらの面から見ても理に適っているとフェイトは思った。

  ので、速人のその理に反した行動には何か自分達が知らない重大な思惑等が隠れていて、もしかしたら気付かぬ間にアルフ達に何かをしたのではないかという警戒心も働いてフェイトは質問をした。

―――

 

 

 

  そしてフェイトやリンディの疑問を予測していた速人は淡淡と答えを返した。

 

「殺さぬ理由は事態終結後に拿捕乃至捕縛された際に、はやてが法廷で有利で在る為だ。

  またその労力を惜しめば事態終結後に守護騎士達に粛清されると判断したので、保身の意味合いも在る。

 

  それと先に告げておくが、この件ではやてが友と呼び且つアリサとの約が在るフェイト・テスタロッサと高町なのはの殺害は、俺にとっては禁則事項なので安心して俺を殺しにかかるといい。

  又、高町なのは及び親類にかけられた国家安全保障条約違反や、俺が特定機器に長期間情報双方向回線で送受信しなければ流布される魔法の証拠等は気にすることもないだろう。その様な事柄は時空管理局の管轄なのだから。

  その事を踏まえて過剰な力で持って俺の捕殺乃至捕縛を行うといい。

  非殺傷設定を行える魔導師が俺を傷つけ、更には死に追いやる行動をするほどに法廷で此方が有利に立ち回れる。そして仮に俺を殺害したならば、其の場合は其方の立場が著しく悪化し、相対的にはやて達の立場は飛躍的に安全になる」

 

  フェイトやなのはを嗾けている様で攻撃意欲を殺ぐという、両者に馴染みの無い搦め手を使う速人。(尤も搦め手とも言えない程愚直な唯の精神攻撃だが)

  そしてそれに反応したフェイトが何か言葉を返そうとするが、それより早く速人が喋りだす。

 

「さて、之で其方の質疑への応答は終了した。

  本来ならば即座に交渉を終了し戦闘へ移行するのだが、その前に此方の都合に幾つか付き合ってもらう」

 

  即座に戦闘に移行せずに独り言とも言える主張を述べるという速人を怪訝な眼で見るフェイト達。

  そして自身に集まる視線を一切気にせず、速人は他人事の様に淡淡と語りだした。

 

「既に単体としての自己と家族としての自己が混在しており、行動や目的が単一化されておらず幾つもの矛盾や非合理性を孕んでいるが、それでも尚変わらぬ認識を告げる。

 

  半端な混乱と半端な災禍を撒き散らす時空管理局は、創造理念や行動理念自体が俺の双方の自己と悉く異なるモノだと判断した。

  仮令降伏しようと洗脳を施されて異なる精神構造の物に作り変えられてしまう。故に降伏は死亡と同義だ。

  因って俺は誰が何と言おうと時空管理局に降伏などは行わない。

  俺の自己や家族の意思は各のモノであり時空管理局のモノではなく、又、それは各以外が持つモノではない。

  仮にそれを明け渡す事に因り更に生き長らえる事が出来るとしても、俺は生かされるのではなく生きていく事を選ぶ。

 

  故に、時空管理局の意の下で動く者達に告げる。

  邪魔だ。

  存在が、行動が、意図が、理念が、其の全てが邪魔だ」

 

  主義主張等と呼ばれる表層的な利害関係の不一致に因る対立ではなく、在り方を成す根幹の対立に因る利害関係の不一致という、相手の存在そのもの以前に存在理由や存在方法とも言うべきモノと相容れぬと言う速人。

  そしてそれは宣戦布告というよりは、後戻りが出来ない明確な決別の言葉だった。

 

  少なくともリンディは速人の言葉を聞き、自身達の言葉では決して止まらず、司法取引を行おうにも自分達の信用度はゼロ同然なので、最早武力行使に依ってしか止められないと確信した。

  だがフェイトやなのはは自分達なりに誠心誠意で話せば必ず止められると思っていた。仮令話を聞く気が無くとも、戦闘中に自身の主義思想を全力で告げ、そして想いの丈を攻撃に乗せれば必ず止められると(死傷して止まるということや自身が死傷して止まるとは両者微塵も考えてはいない)、

 

  しかし相変わらずそんな其其の考えを無視して速人は更に告げる。

 

「最後に交渉終了へ移行する前にフェイト・テスタロッサに警告する。

  デバイスを取り落としている現在の状況での勝率は凡そ0%だ。

 

  交渉終了後0.1秒以内に放電可能なクロノ・ハラオウンへ浴びせた電撃や、先程発砲した銃弾等をその身に受けたならば即座に戦闘不能となる。

  そしてそれを承知で降伏を行わないつもりならば、脳以外を破壊してでも戦闘不能化しよう。

  無論致死率が高いので可能な限り五体満足での戦闘不能化を行うが、それが行えずに脳以外が著しく破損して戦闘不能化にした場合、後程破損した身体より複製体を作成し、複製体完成後は複製体完成まで冷凍保存していた脳を解凍してその複製体に搭載し、日常生活に支障無き様対処はする。

 

  さて、これらを踏まえてフェイト・テスタロッサに降伏するかの否諾を問う」

 

  いきなり命の決断とも呼べるモノを迫られるフェイト。

  咄嗟に降伏を否定する言葉が口を突いて出かかったが、迂闊な事を言えば間違い無く最悪は脳髄摘出コースを辿る事になると理解した為、辛うじてその言葉を飲み込んで急ぎ思考しようとするフェイト。

  だが又しても速人はフェイトを無視して言葉を発する。

  しかも完全にフェイトにとって予想外の言葉を。

 

「尤も、降伏しないと言うのならばデバイスの回収程度は妨害しない」

 

  その言葉を聞き、言葉の意味は理解出来たが真意が全く理解出来ず呆然とするフェイト。

  そしてそんなフェイトと、更には似たような感じのリンディ達に向けて速人は告げる。

 

「最大の理由は其方にこの星の人類が扱う質量兵器とそれを繰る者の性能を知らしめる為だ。

  ソレを成さねば此方が仕掛けておいた幾つもの布石や保険は効果を発揮せず、この選択は当然の措置だ。

 

  容易に量産可能な質量兵器とそれを繰る凡人、対してほぼ偶発的に発生する稀少な天才。

  双方の能力が均衡しているのならば、どちらに分が有るかなど語るまでも無い。

 

  故に痛感させねばならない。

  強大な魔法を使えるだけで戦闘に関する知識や判断能力が皆無なのモノは、戦闘に関する知識と判断能力を有した凡人と其の者が繰る質量兵器に拮抗若しくは敗北する、と」

 

  まるでフェイト達を質量兵器の広告塔に使うかの様な台詞を述べる速人。

  そして相変わらずフェイト達の反応を無視して速人は更に述べる。

 

「因って交渉終了の合図後10秒間はデバイスを回収する時間を認める。

  更にデバイス確保後1秒後迄は準備時間として、此方はフェイト・テスタロッサに対して攻撃行動を起こさない。

  但し11秒の時間を認めているのではなく、10秒以内にデバイスを回収すれば残時間は消滅し、そこに1秒追加されるだけだ。

  其の事を考慮して行動を起こすのだな」

 

  そこまで述べて速人はフェイトを視界の中央に据え且つ焦点を合わせながら告げる。

 

「其方が此方に対して主張していないことや問い質したい事は多量に在るのだろうが、一度双方が示威行為若しくは武力行使の後に行わなければ双方とも妥協も譲歩もせずに平行線だろう。

  因って唯今を以って交渉を終了する」

 

  そう言って合図として肩の高さまで上げた右手を軽く振るう速人。

  そしてほぼ同時に苦虫を噛み潰したような顔をしたリンディや喚いている様ななのはを映した空間モニターは消失した。

  それから2秒近く遅れはしたが、気持ちを切り替えたフェイトは、自身が相棒と思っているバルディッシュに向かい全力で駆け出した。

 

 

 

  ―――Side  天神 速人―――

 

 

 

 

 

 

  Interlude

  ――― ?????? ――――

 

 

 

  憤慨と自責、二つの感情が綯い交ぜになった感情が烈火の将から伝わって来る。

  未成熟で本来騎士として守るべき者を、しかも家族を死地になるだろう場所に一人置き去りにして来たのだ。

  それが最善の判断だとしても、それを選択せざるをえない自身の力不足と、そして家族全体の為に家族の一員を見捨てたこと、この二つが烈火の将を苛んでいるのが痛い程に解る。

  そして直に守護騎士の各各とこの感覚を共有するかと思うと、心が圧し潰されてしまいそうで…………正直怖い。

  だが、私の心が壊れるよりもこの事を主が知った時、どれだけ悲しまれるかを思うと、其方の方が遥かに辛い。

 

  全てを語る事は無かったが、少なくとも家族を大事に思っているのと同じ程に家族を…いや……自身が家族である事を疎ましく思っているのを感じられた。

  提案された案の節々に家族を抜けんとする明確な意思を感じられた。

  だがそれでも家族を大事に思っているのが明確に感じられた。

  そして双方の妥協点として、自身の死亡率を上げる事で双方の目的を成し遂げようとしていると感じられた。

 

  正直、主や守護騎士達の許を離れんとする事は許し難いものだ。

  だが、家族の為と迷わず躊躇わず自身の命を賭し、そして今までどれだけ家族の為にと腐心してきたかを思うと、家族の許に居るよう説得してこれまで通り家族の為に身を削らせ続ける様な真似はしたくなかった。

  たとえ主や守護騎士が何と言おうと、家族である限り常時自身の命を削り続けて維持しようとするのは明らかなのだから。

  特に呪いから開放されて管理局の追跡を受けているならば、間違い無く自身の命を用いて管理局の追跡を振り切るような案を実行するだろう。

  それも主や守護騎士達に真意を知らせず。

 

  そう考えると今が別れの時なのかもしれないと、何所か納得が出来た。

  家族である限り自身に特別な価値は無いと消耗品として扱い続け、遠くない日に周囲の者の心に大きな傷痕を残した挙句自滅するのならば、家族という絆が切れるという悲哀の念はあるが、恐らくこれが双方にとって最も傷付かずに済む妥当な事であると納得していた。

 

  ただ………双方が相手に深い傷を与え続けると承知で共に在り続けられたなら………………いつかは互いを傷つける事無く共に在れるかもしれないと夢想した。

  双方深く傷付いた挙句結局別れを選択しなければならないかもしれないが、………傷付き、裏切り、諦観に塗れて終わりかねぬと受け入れ………、それでも尚不確かな都合の良い未来の為に全てを賭け続けられるなら………………、それは結果に拘わらず素晴らしい事だと思えた。

 

 

 

――――??????――――

Interlude out

 

 

 

 

 

 

  ―――Side  天神 速人―――

 

 

 

  交渉終了後若干遅れてだが行動を開始したフェイトは、速人が指定した時間内にバルディッシュを無事確保する事に成功した。

  そしてバルディッシュを確保したフェイトは即座に宝石部分に亀裂が入ったバルディッシュに無事かどうかを確認しようとした。が―――

 

Defensor Plus!≫

 

―――それよりも速く、バルディッシュはフェイトが使用可能な魔法で最も防御力の有る魔法を自動で展開させた。

  まるでそれがフェイトの問いかけようとする事に対する答えだと言わんばかりに。

 

  防御魔法が発動して効果が現れて0.2秒も経っていないが、既にフェイトがバルディッシュを確保して1秒経過しており、猶予の時間は終わったとばかりに速人は魔導師殺しの通常弾(.700NE弾)をフェイト目掛けて発砲した。

 

  膜状のバリアの様なモノが.700NE弾を防ぐのではなく逸らそうと効果を発揮する。

  が、一点での貫通性能はヴィータのラケーテンハンマーをも越える.700NE弾を完全に逸らすことは叶わず、軌道角度を2度も逸らせずに終わった。

  尤も、速人は初めからフェイトでは無くバルディッシュに照準を合わせており、伸ばした腕の先にバルディッシュが存在した為、フェイトは全くの無傷であり、バルディッシュは僅かに軌道が逸れたのでコアと思しき宝石部分ではなくその周囲の部分を抉られるだけで済んでいた。

  そしてバルディッシュを握って2秒もせずにフェイトは自分がどれだけ甘い思考だったのかを痛感した。

 

  フェイトは速人のような高速思考は不可能だが、それでも漠然とだがバルディッシュを心配するという事に意識を割く余裕すら無く、況してや自身の思いの丈を告げる為に妥当な言葉を考えるなど自滅行為でしかないと理解した。

 

  しかし戦闘の最中に自身の甘さを認識するなど甘いと言わんばかりに速人は再び魔導師殺しをフェイトに向けた。

 

「っっぅ?!」

 

  速人に銃を向けられたフェイトは息を呑み、射線上から外れる為に全力で横に移動した。

  が、銃口は全くフェイトから逸れず、そして移動中のフェイト目掛けて一発発砲された。

 

  発射された.700NE弾は狙い違わずフェイトの右足のアキレス腱に命中して抉り散らし、更に周囲の骨や筋肉だけではなくバリアジャケットの装甲をも抉り散らし、右足首の関節を破壊する。

  だが魔導師殺しより発射された.700NE弾は関節やバリアジャケットの装甲を破壊しただけに効果は止まらず、フェイトは右足首に瞬間的に多大な圧力が加わった為に右足首を払われたように宙で半回転し、フェイトは高速移動中に肩を床に叩きつけてしまい、その結果.700NE弾はフェイトに怪我を負わせただけでなく派手に転倒もさせた。

 

  そしてフェイトが転倒している最中、速人は即座に魔導師殺しの弾倉の固定を解除して弾倉を振り出し、奇術師顔負けの手先の器用さで信じられない速度を以って排莢と装填を行った。

  本来ならば通常弾とはいえ速人の未成熟な体ではリーゼアリアに発砲した1回でダメージ許容量が既に限界ギリギリで、2回目からは反動で既に手首から肩の間接を痛めてしまうので、今行った史上屈指とも言える排莢と装填速度の実現は痛みにより普通は不可能なのだが、両手持ちで且つ発射の反動を大幅に軽減できるよう故意に発砲後銃を固定せず、まるで素人が銃を撃って転倒する様に発砲の反動で上半身を逸らせて床より足を離し、しかし転倒せぬ為にその場で一回転するという曲芸で反動を大幅に抑えていた。

  尤も、転倒時に比べて隙は少ないが、約0.6秒の隙が出来るので、精精相手に対応される2〜3回が限度の一発芸に近いモノなので、最早速人はおいそれとこの射撃法を行う気は無かった。

 

  そして装填を済ませた速人はフェイトとバルディッシュの一連の行動から、バルディッシュの自己判断を失えばフェイトは然して脅威では無いと結論付け、フェイトよりもバルディッシュの撃破を優先することにし、再びディフェンサープラスの干渉で弾道がどのように逸れるかを計算し、計算が終了して発砲しようとした時―――

 

Jacket Purge!≫

 

―――バルディッシュが又も独断で行動を起こしていた。

  転倒しているフェイトが未だ体勢を立て直せず、防御魔法で逸らそうにも逸らされた先が目標であるよう誤差修正されて発射されると瞬時に判断したバルディッシュは、無防備になるのを承知でフェイトのソニックフォームを強制的に瞬間開放し、その反動でフェイトを床から弾き飛ばし、何とか速人の射線上から外れることに成功した。

 

  そして床から弾かれたフェイトが着地するまでの間、バルディッシュはバリアジャケットを防御能力の高いライトニングフォームで再構築しようかと逡巡したが、速人の攻撃の前では防御力は期待出来ないと判断し、それならば速度が上昇するソニックフォームがマシであると判断し、即座にバリアジャケットをソニックフォームで再構築し始める。

  尤も、如何に速度が上がっても注視された状態で視線から外れることが可能な程の速度ではなく、速度任せの移動しか出来ないフェイトでは速人の射線から逃れる事は困難であり、ソニックフォーム使用の上にブリッツアクションを使って漸く射線から外れられる可能性が有る程度だった。

  はっきり言って移動技術をまるで習得しておらず且つ速度任せにするにしては絶対的には程遠い速度しか出せないフェイトでは、並外れた行動予測が可能且つヒトの限界とされる領域の眼の性能を保有している速人との相性は、この閉鎖された空間内では最悪と言えた。

 

  だが、そんな事は言われるまでも無く既にバルディッシュは理解しており、このまま後手に回り続ければ後10秒もせずに自身が破壊され、その後即座に主が無残な姿で敗北してしまうとも十分理解していた。

  そして状況打破の為には危険度が高かろうと強引にでも攻勢に転じなければならないとも理解しており、ディフェンサープラスやラウンドシールドの展開を放棄して又もや独断でバルディッシュは行動を起こした。

 

Plasma Smasher!≫

 

  フェイトから勝手に魔力を引き出して起動させているのでかなり威力は減っていたが、その代わり発射速度や数を可能な限り本来の状態を維持してバルディッシュは起動させた。

  だが、速人は迫り来るプラズマスマッシャーを前に一歩も動かず、外套で体を覆い、サーチャーから手と口元を隠しながら―――

 

   

 

―――と、手の中の遠隔操縦機に呟いた。

  そしてその一瞬の後に速人に殺到するプラズマスマッシャー。

 

  その結果に迎撃後必斃や必壊の反撃が来ると思っていたバルディッシュは驚いた。

  如何に威力が激減しているとはいえ雷撃を伴っている為、アレだけの数を生身で瞬時に受ければ非殺傷設定であろうと感電死してしまいかねず、一瞬やりすぎてしまったかとバルディッシュは思った。

  そしてそれは今までまるで状況についていけなかったフェイトも同様であり、まさか死なせてしまったかと思い、急いで速人の許に飛行しだした。(右足首粉砕の激痛は、虐待経験時に培われた無自覚の拙い痛覚遮断で何とか堪えている)

  が、弾幕で張られた煙の中に佇む人影の存在を確認した時、バルディッシュは自らの迂闊さを痛感しながらも、フェイトの飛行方向を独断で転換させた。

 

  突如自身の意思とはまるで違う方向に飛行して驚いたフェイトだったが、それとほぼ同時に先程自分が居た場所に先程の弾丸と思しき物が放たれたと、発砲音と近くで風を切る物体が通過した感覚で理解した。

 

  壁に弾丸が着弾した為鳴り響く轟音の中、再び飛行制御が自身に戻ったフェイトは急いで空中で体勢を立て直した。

  そしてその最中フェイトが眼にしたのは、煙を掃う様に外套を片腕で翻し、もう片腕で自分に向けて銃を向けている速人だった。

 

 

 

  ―――Side  天神 速人―――

 

 

 

 

 

 

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  第十九話:熱の無いオモイ――――了

 

 


【後書】

 

 

 

  え〜、色々とツッコミ所はありますが、今回の話は見ての通り速人の内面についての話です。

  今まで家族最優先で実は身内には優しいタイプと思われた速人を気に入って下さっておられた方、御覧の通り速人は実は初期に定めた機構に従っていただけという事が暴露されましたが、受入れてもらえましたでしょうか?

  あとドコゾの名探偵の様に麻薬服用していた過去があったりと、もう健全な主人公とは対極の位置に居ると暴露されたりと、今回の話しで速人の株は大暴落でしょう。(麻薬の後遺症のせいで身体機能低下って、………本当に主人公なんでしょうかね………)

 

  と言うかそれ以上に速人の支離滅裂具合への反応にビクビクしています。

  一応意図して支離滅裂にしたのですが、どうにも上手くいかず、手を加えれば加える程速人の言動ではなく話が支離滅裂になっていってしまいました。

 

  それとリンディ達へのツッコミは事態終結後か他のキャラに任せることにしました。

  正直、そこまで速人単独で話は引っ張れないというのを痛感しました。

  少なくても速人の周囲に理解者が居ないと、もう話が進まない以前にそもそも話を全くしないので盛り上がらない事この上ないです。

 

 

  IF二つめの後書の時点で三つに分けようかとか悩んでいましたが、結局あまりに雑然とした部分を削って改変し直して二つに分けることにしました。(まだかなり雑然としてますが………)

  という事なので速人の対物質量兵器を用いた戦闘は次回に持ち越されました。楽しみにされていた方、本当に申し訳ありません。

  一応少し戦闘描写を捻じ込みましたが殆どおまけの領域です。

  ですので次回は持ち越された速人が対物兵装を使用している戦闘と、はやて達との合流が見せ場になる予定です。

  ………というか、IF二つめの続きでの戦闘描写が先になりそうです。

 

 

 

  毎回誤字修正版も多数投稿して御手を煩わせた上感想を頂ける管理人様と御読み下さった方に沢山の感謝を。

 

  それと管理人様の御感想や掲示板での御感想は本当に嬉しいです。

  一感想毎に気合が入り、その度に少しずつですが文章が出来上がっていきます。

  自身以外での視点の感想や意見は本当に貴重なので、もう批判だろうと歓迎です。後、要望はもっと歓迎です。

 

  それでは改めて御読み下さった方に沢山の感謝を………。

 

 

 

                                     

 

 

 

【作中補足】

(読まなくても問題ありません。

  寧ろ18話と19話に名前が挙がっただけで使用されていない物の詳細も有る為、ある意味20話のネタバレになる可能性もあります。

  尚、特に説明する必要も無いだろうと思った物は独断で省いてあります)

 

 

 

                                     

 

 

 

(本当に読まずとも問題は無く、兵器の薀蓄が好きでない方は読み飛ばされる事を強くお奨めします)

 

 

 

                                     

 

 

【地下研究所の概要】(ほぼネタ)

 

 

  日本の領土に有りながら、国連認定の治外法権領域。(一般人には知られていません)

  如何なる理由で在ろうと速人に許可無く進入したならば、侵入者に対し無条件であらゆる対処が認められている超危険領域。

 

  内部は一世代先(複葉機とジェット機並みの世代差)に限定的に手が届く程の科学水準で、国連に大量の技術や理論提供が可能な造りになっています。

  また並外れた発電量を誇り、磁気単極子(モノポール)を使用した発電所3機により、3機全力運転で日本の総発電量の約80%を発電可能です。

 

  尚、モノポールはヴィータが蒐集作業中偶然発見して(と言うか偶偶ポケットに紛れ込んでいた)持ち帰り、5つに分割されて3つが実験を兼ねて発電設備に充てられ、残り二つの内の一つを国連(というかアメリカ)に渡し、残り一つを予備として速人が持っています。(核融合炉ではないので発電所はかなり小型です)

 

 

                                     

 

 

【荷電粒子砲】

 

 

  砲弾と為る荷電粒子を粒子加速器によって加速させて発射させる兵器です。

  勘違いされがちですが、光学兵器ではなく運動エネルギー兵器に属しており、弾速は光速ではありません。また発射時には多大な反動が発生します。(極端な話、熱された砂粒を高速で打ち出している感じです)

 

  現実(2010年01月現在)では不可能ではないというだけの兵器で、莫大な電力を必要とするので事実上兵器としての運用はありえません。(最低でも約1万MW(メガワット)は必要な為)

  更に他にも実用化されない障害としては、大気圏内での飛程距離(荷電粒子の発射から停止までの距離)が遠距離兵器にしては短すぎるという問題が在り、【ヱヴァンゲリヲ●新劇場版:序】の【ラミエ●】や【陽電●砲】並に莫大なエネルギー源が無い限り長距離間ではまず使えません。

  尤も、それに見合った威力はあり、恐らく運動エネルギー兵器としては最高の威力を誇ります。

 

  尚、速人の地下研究所にある荷電粒子砲は、砲身限界を考慮せずに発射すれば、範囲は狭いですが3秒程は新劇場版ラミエ●の零号機が被弾したモノ級の威力は撃てます。(尤も、放熱により近くに居る速人が焼死する可能性が高いですが)

 

 

                                     

 

 

【不可視帯域コヒーレント光】

 

 

  一言で言えば可視光域外の光を収束したレーザーです。

  要するに見えないレーザーです。

  又荷電粒子砲や放電と違い、光ですので速度は文字通り光速です。

 

  尚、レーザーについての説明は有名ですので詳細は割愛します。

 

 

                                     

 

 

【粒子加速器】

 

 

  荷電粒子砲にも使われていますが、これは荷電粒子砲の一部品ではなく、これは自爆兵器として独立しています。

 

  この粒子加速器は重イオンコライダーと言い、新しい物質の生成に使われる物ですが、加速する粒子が非常に重い為、空気中に発射すると空気中の原子と衝突して核融合を引き起こし簡易核爆弾に速変わりする超危険自爆兵器です。(荷電粒子砲の粒子加速器は、レプトンコライダーと言う電子や陽電子等の軽い粒子を加速させるので、余程の出力に成らない限り気体と反応して核爆発は起こりません)

 

 

                                     

 

 

【水素爆弾】

 

 

  概略ですが、原子力爆弾を起爆させ、その高温と爆圧を以って水素(最近は重水素)に負荷を与えて核反応を起こさせる爆弾です。

  尚、太陽も水素に圧力を加えて核反応を起こしていますが、太陽は自身の重力で水素を圧縮して核反応を起こしています。

 

  原理的に太陽と同じですが、太陽が重力による集束と爆発による飛散の関係で水素が燻る様にしか核反応していないのに対し、水素爆弾は一瞬で核反応を引き起こすので発生する熱等は太陽を凌駕します。(太陽の中心温度は推定約1500万度で水素爆弾の瞬間最大温度は現在摂氏約4億度です)

  尤も、瞬間的な熱量等は太陽を越えていますが、規模や持続時間はまるで比較になりません。

 

  現在人類が保有している中で間違い無く最大級の火力を誇る兵器であり、物に因っては衝撃波が地球を三周しても尚観測される程の威力があり、数と起爆場所さえ揃えば本当に地球を破壊する事が可能な兵器です。

 

 

  余談ですが、これで闇の書の闇を消滅させられないのならば、質量兵器を禁止する意味が時空管理局には無い筈です。

  仮に結界が在ったとしても、術式を解読しての解除以外に一定以上の魔力での単純攻撃で結界破壊が可能ならば、質量兵器でも破壊可能でないと理屈が通らないと思いますし。

  それに物理干渉無効化とか、何処かの型月界の様な真似が出来るならば、取り締まるほど質量兵器は危険ではなくなり、レジアスがとっととアインヘリアルを実用化させていたと思いますし。

 

 

                                     

 

 

機械言語(マシンヴォイス)

 

 

  一語に約1万文字前後の情報を内包した、コンピューターの圧縮言語の音声版。

  本来人間が基本的に発声不可能とされる音域を用いた、遠隔高速精密操作という速人の切り札。

 

  尚、発声音域は象〜蝙蝠程で、別の使い方をすれば一部の盲目者の様に音波の反射で物体認識が可能となっています。(一部の一般の盲目者より高精度です)

 

 

 

                                     

 

 

 

  尚、一見すると速人が最強っぽく見えてきていますが、それは研究所という陣地(というか処刑場)の中で戦闘をしているからです。

  仮に野外戦でなのはに勝利するならば、極超音速のミサイルによる瞬殺か、物量攻撃による鏖殺か、核による滅殺か、日常生活時での暗殺か、何れかの四択しか有りません。荷電粒子砲やレーザーカッターは出力の問題上有効範囲がかなり狭いですし。

  というか、なのはのような遠距離攻撃主体は質量兵器にとって相性が悪い部類に入ります。特にはやてのような超長距離攻撃主体は相性が最悪の部類です。そして全距離対応が可能なリインフォースは最早天敵です。

 

 

 

                                     

 

 

 

【おまけ】(とある日常の風景)

 

 

 

(…………背中にゴキブリが100匹這いずり回るような嫌な予感がして慌てて帰ってみたら…………原因はアレかよ………)

 

  乾いた笑みに死んだ魚の様な目をしたヴィータは台所での奇怪な行動を繰り返すシャマルを見ていた。

 

(……………ニンジンにジャガイモにタマネギ…………あとイカに………よく分かんねえけど魚か……………。

  う〜ん、シーフードカレーか?もしそうならなかなかイイチョイスだな)

 

  カレーならば少々どころか多々の失敗もルーと一緒に煮込めば大体隠されてソコソコ食べられる代物になると思い、ヴィータはほっと一息吐いた。

 

(………っておいおい!野菜は包丁で切れよ!なにミキサーで粉砕してんだよ!

  っつうか何でセロリとかネギとかも入れてんだよ!青汁作る気かよ!)

 

  ネギ系特有の刺激臭とセロリの独特の臭いが辺りに充満してヴィータは鼻を摘みながら更に様子を窺う。

 

(おいおいおい!何で水入れてない鍋にイカを突っ込んでんだよ!?

  って、しかもイカ生きてんじゃねえか!)

 

  墨を吹きながら火に掛けられた鍋から慌てて離れようとするイカ。

  しかし鍋からはみ出した足を蓋で押し潰し退路を塞ぐシャマル。

 

(アイツ………イカになんか恨みでもあんのか?

  なんでイカが鍋の中でもがいて暴れてるって知ってて、あんなさわやかな笑顔出来んだよ…………。

  イカ……すまねえ。絶対美味い料理に成らなくて無駄死にになっちまったけど、後でアタシが供養してやっからシャマル以外は祟んねえでくれよ)

 

  胸中で料理に成らず炭になるであろうイカに詫びるヴィータ。

  そしてそんなヴィータとは関係なくシャマルは次の行動に移った。

 

(…………なんでカレールーの100倍以上チョコが在んだよ…………そんだけ有ったら味が隠れねえだろうが!っつか、そもそも別の料理に成るだろが!

  てか、チョコは湯で温めたガラスの器で溶かすんだよ!火にかけて溶かそうとしたら焦げるに決まってるだろが!!しかも失敗したって分かってんのに更にそこにルー突っ込むなよ!!?)

 

  ネギ系やセロリの臭い以外にイカの生臭さにチョコの甘い匂い、更に焦げたイカとチョコの臭いが合わさり、悪臭と呼ぶべきモノに成っていた。

  その悪臭の只中に居るヴィータは、身体に纏わり付いた臭いを感じ、後で絶対に風呂に入ろうと心に固く決めながら更に様子を見た。

 

(おいおいおい!なんで米を洗剤で洗ってんだよ!?

  しかもなんでそれで普通に炊こうとすんだよ!?)

 

  既に調理実習と理科の実験がごちゃ混ぜになった様な混沌とした状況になっていく台所。

 

(おいおいおいおい!何で茹で卵作ろうとして失敗するんだよ!?

  鍋の底に置けばいいのに、何で鍋の上から落として入れるんだよ!?

  割れるの当たり前だろ!)

 

  清清しいまでに料理以前に調理の基本が存在しないシャマルを見、ヴィータはそろそろ止めようかと思ったが、迂闊に踏み込めば味見という名でいつかのザフィーラの様に毒殺されかけてしまう可能性を考えて踏み込むのを止めた。

 

(…………騎士は敵と戦って主や仲間を守るんだ。だから仲間と戦うことはねえよな。

  ………うん………戦ってねえからには、アタシは逃げてねえよな)

 

  理論武装というよりは自己弁護をしながらヴィータは、素人が黒魔術の儀式をしているようなたどたどしい怪しさを醸し出すシャマルを更に観察する。

 

(……………魚の内臓を楽に取り出す裏技は口から割り箸二本入れて回転させて引き抜くだろうがよ………。

  口から刺身包丁入れて回転させてどうするよ…………。

  しかも失敗して腹を切り裂いて内臓撒き散らしてるし………。

  生きてたらエグ過ぎだな)

 

  供養するリストに種類も分からない魚を追加しつつ、更にシャマルを観察するヴィータ。

 

 

 

 

 

  その後紆余曲折あったが、シャマルが用意した食材は見るも無残な加工を施されてカレールーとも言えない物の中に姿を消した。

  しかもそのルーは多量の味が隠れない焦げたチョコだけでなく、水分追加の為に色が似ているということでコーラと醤油を加えられた闇鍋状態の物だった。

  特にミキサーにかけた野菜の強烈な臭いと揮発した洗剤が眼に痛く、食材を無駄にしただけの物だった

 

(…………福神漬けとピクルスが良い味ですって…………それ作ったのははやてとハヤトだぞ……)

 

  カレー以外の端休めやオヤツ代わりにも大活躍しているはやて作の福神漬けと速人作のピクルスが食えない物の中に消えていき、内心涙ながらに見届けるヴィータ。

  そして一応の終結を迎えたらしいシャマルの謎物体作成儀式。

 

(……………………この前はやてと速人が石鹸作ってた時の方が料理している様に見えたり美味そうな匂いしてたのって………どうことなんだ…………)

 

  つい先日自家製石鹸作成の為食用可能なオリーブ油を基本に、他にも牛乳に卵に菠薐草に蜂蜜にパプリカに其の他諸諸を使用しており、正直苛性ソーダの存在を含めてもケーキ作りと言ってしまえば納得出来てしまいそうな光景であった。(実際買い物から帰ってきたシャマルがケーキと誤解して石鹸を一切れ摘み食いしている)

  しかし今ヴィータの目の前に広がる光景は、子供が泥団子を誰かに食べさせる為に作っているのを極限まで悪意的に拡大解釈して再現した様な光景だった。

  だが、どう見てもそうとしか見えなくとも、シャマルには食べた人に喜んでもらったり見返そうという気持ちしかなかった。(特にはやて)

  そしてそれが解っているだけにヴィータは表情を曇らせた。

 

(……………悪意が無くて一生懸命なのがタチ(わり)ぃ。

  これで面白半分でやってたらぶん殴って止めんだけどな………)

 

  流石に一生懸命やっている者を下手だからと………それも常識外れに下手なせいで人災レベルに発展しそうだからと止めるのは、流石にヴィータには出来なかった。

  特にまだ料理を始めて今回で4回めなのだ。

  回を重ねる毎に爆発的に悪化している感がしないでもないが、ヴィータは初心者の失敗と広い心を意識してそう納得することにした。

  だがそれでも一つの決意をヴィータはした。

 

(とりあえずアレは現場を見たアタシが責任をもってはやて達の口に入らないようにしよう。

  シャマルには悪ぃけど…………体が弱いはやての命を守る為にも、全力でアレが入った鍋をひっくり返させてもらうぜ)

 

  そう決めたヴィータは怪奇物体が入った鍋の中を何故か麺棒で攪拌しているシャマルに突撃して行った。

 

「シャーマルー、なんかオヤツ―――」

「―――あら?お帰―――」

 

  攪拌中にヴィータの声が聞こえて振り返るシャマル。

  しかし体ごと振り返った為、麺棒が腕と一緒に麺棒も体の正中線上に移動した。

  結果、

 

「「―――……あ゛」」

 

ヴィータの目論見通り鍋の中の怪奇物体は宙にばら撒かれることになった。

  但しシャマル向かって突撃しているヴィータに向かって。

  そして自分に向かって、まるで意志を持っているかの如く不気味な粘性触手を広げた様に襲い掛かってくる人造怪生命体モドキを見ながらヴィータはふと思った。

 

(沸騰した粘っこいヤツを浴びたら大火傷だな。

  ……ていうか口は開けたままだし、アレが口から腹に入ったら多分死ぬな。

  ……………すまねえ、はやて。

  多分ココでアタシ死んじまうぜ。

  ……………まあ、シグナム達も居るし、速人も居るから心配ないか。

  ……………………だけど…………最後にはやてや速人を見たかったなぁ……)

 

  冗談2・本気8の比率でそんな事を思いながらヴィータは闇の洗礼とも言うべき汚濁をその身に浴びて意識を失った。

 

 

 

  後日、闇の洗礼モドキを受けたヴィータは火傷も酷かったが、胃に流れ込んだ汚濁が原因で3日間水も満足に飲めない状態になった。

  更に髪にこびり付いた汚濁がシャンプーでは殆ど落ちず、醜態を晒す上に悪臭を放ち続ける事に耐え切れず、速人が成分分析して中和剤を作成する5日めまで部屋に篭りこんでいた。

 

 

 

                                     




今回は速人とリンディの交渉がメインって感じかな。
美姫 「流石は速人と言うか、相手が誰でも変わりなく」
いやー、もう清々しいまでにやってくれてますな。
美姫 「さしものリンディもちょっとお怒りモードっぽかったしね」
まあ、当初の予想通りに交渉は決裂と。
美姫 「共に時間を稼ぐ意味合いもあったけれど、速人側の方がちょっとばかり有利かしらね」
色々と速人に関しても分かってきたし、次回がどうなるのか。
美姫 「とっても楽しみよね」
うんうん、次回も待ってます。
美姫 「待ってますね〜」



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