この話はオリジナル主人公登場の魔法少女リリカルなのはA‘Sの二次創作です。
自分の文才の無さが原因で登場人物の人格及び性格が変わっている可能性もあります。その様な事に耐えられない方は気合を入れられて見るかブラウザの戻るを押される事をお勧めします。
またこの物語は外伝ではなく幕間に位置していますが、殆どが本編には直截関係の無い話で構成されています。
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魔法少女リリカルなのはA‘S二次創作
【八神の家】
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「うっ……………う〜〜〜ん♪ふゎぁぁ〜〜、食べた食べた。
いやぁ〜速人はんに手伝ってもらった御節は冷えても美味しいわ。っちゅうか冷えた方が美味しかったな〜」
上機嫌に話すはやて。そして速人ははやての話を余った御節や保存に適さない生菓子等を包み、神社に供え物として持って行けるように竹の皮に包みながら聞いていた。
「口に合ったのなら何よりだ。
だが口に合っているのなら保存に適さない生菓子だけでなく、保存に適した御節まで全て供え物にするのは何故だ?」
「いや、それは流石に此方に都合の悪い余り物ばっかりお供えするのは気が引けるから、キチンとした物もお供えしとこと思ってな」
いつもならばはやてが包む作業をするのだが、大晦日の晩から夕食に菓子に年越し蕎麦と食べて未消化のところに結構な量の御節を食べ、動かない方が良いと判断した速人に休んでいるように言われ、はやては素直に速人の言葉に甘えてコタツに顎を乗せてダレながら速人に話している。
その話を聞き、はやてに話しかける速人。
「はやて、食せ又食す予定がある物を供物とするのは無駄ではないのか?」
その言葉にはやては居住まいを正して答えようとしたが、食べすぎで苦しくまたダレた姿勢に戻りながらも子供の疑問に答える母親の様に、若しくは兄に頼られて嬉しい妹の様に微笑みながら答える。
「たしかに世界の何処かで飢えに苦しんでいる人がおるのに、食べれるモンを結果的に捨てる真似をするのはたしかに無駄かもしれんから速人はんの指摘は正しいと思う。
速人はんもそう思ったから無駄って言ったんやろ?」
「俺は飢えに苦しむ者の事とは無関係に無駄だと言ったのだが、それ以外ではほぼその通りだ」
「……………まぁそれは措いといて、たしかに無駄かもしれんけど粗末にはしてないとうちは思うんよ。
食べれるモンを、好きなモンを捧げる事で謙虚な心で居続ける事が出来る日本のお供えっちゅう文化から見れば、無駄かもしれんけど決して粗末にはしてないと思うんよ」
「自己の在り方を制御乃至変化させるのに食物を供物にするのはやはり無駄と思うが?」
「そりゃ自分の意思だけでどうにかなるならそれが一番なんやろけど、そうでないなら毎日とはいかんでも偶にお供えするぐらいは構わんとうちは思うんやけど?」
「一応保存食はある程度常備され、また金銭的にも余裕が有る為さしたる負担にならないので、はやてにとってその行為に意味があるのならば止める理由は無い」
いまいちはやての言わんとしている事に感銘も納得もしていない速人。
そしてそんな答えを返されたはやては少しムッとしながら速人に話しかける。
「速人はん、お金があるからって理由で無駄なことしたり認めたりするんは駄目やで?
いつも心に勿体無いと思う気持ちを持たなアカンで?」
「無駄にされることを惜しいとは思わないが、無駄は無くすべきとは思っている。
よって勿体ないとは思えないが無駄を無くす様に思考することならば了解できる」
「あ、……………うちの言い方が悪かったな。どう感じるかを強制するんはやっちゃいかんかったね。
ごめんな速人はん。速人はんがどう感じるようになるかまではうちが口出しすることやなかったね」
食べすぎで苦しい筈だが、そんなことを微塵も感じさせない動きで居住まいを正して速人に向かって頭を下げるはやて。
「納得いかなければ拒否するので遠慮無く発言して構わない。
それとはやてが優しさや思いやりを失した発言や行動をしたとは認識していないので、はやてが謝罪する理由が見当たらない。何に対しての謝罪なのだ?」
「……………速人はんが何を求めとったのか忘れて出来もせんこと言うたやろ?速人はんにとって大切な事を忘れとったから謝ったんや」
俯いて落ち込んだ声で答えるはやて。
「失念していた事が優しさや思いやりを失したことにはならないと思うが?」
「何があっても忘れちゃイカン事があるんや。それを忘れてもうたなら、その後何しようと優しさも思いやりも無いんと同じなんや」
「…………………つまり他者と付き合うならば他者の求めを失念する事は不可だという事か?」
「…………………他者っていうか家族や友達や恋人とか、とにかく大切な人の大切なことを忘れるのは駄目やってことや」
「理解した。家族たるはやてが大切と思っていると判断する事は失念せぬようにしよう」
相変わらずの無感動さで淡々と告げる速人。
「うちも速人はんの大切なことを忘れんようにする。それとさっき忘れてもうたこと、ほんとにごめん」
「全く気にしていないのではやても気にする必要は無い。
それと話を戻すが、供物にする事の無駄を問う気は無いがはやてがそれに随伴する必要性は無く、二人で供物を奉納しに参るのは無駄だと思うが?」
「………………サラッとうちの謝罪を流すなぁ〜。おまけに全く気にしていないっちゅうのがまたムッとくるけど、うちがそれに怒るのも筋違いやから、速人はんが大切なモノ手に入れられるようにうちも頑張るという事にしてこの話は一先ず終わりにするわ。
で、二人で奉納行くんわ無駄やって話しやけど、奉納以外に初詣も兼ねとるから無駄やないで。
あと初詣も無駄やないで?神社で神頼みする際自分の叶えたいコトや目標とかを明確にするんや。…………っちゅうのは半分建て前で、本当はお祭り事に速人はんと参加したいんやけど、………駄目かな?」
上目遣いに期待と不安の入り混じった眼で速人を見ながら返事を待つはやて。
可憐な少女にこのように尋ねられたならば、和むなり慌てるなり何なり、兎に角何かしらの反応があるのが普通だが相変わらず道端の石を見るような眼ではやてを見ながら即座に返事をする速人。
「構わないぞ。ただ出かけるならばこれから1時間以上経過し、はやてが胃の内容物をある程度消化してから出かける事を推すが」
「うん、それで構わんで。
〜〜♪去年はテレビに映った神社に頭下げる寂しい初詣やったけど、今年はきちんとできそうやな〜」
演技で頼んでいたわけではないので速人の無反応にもはやては特に気にせず、去年の細々としすぎた初詣と違い今年は本格的に…………一人ではなく二人で参拝できると心躍らせていた。
「と、そうや!折角やからどっかで和服借りてからお参りせん?」
名案だとばかりに満面の笑顔で速人に提案するはやて。
「和服を着て参拝に赴く理由は無く借りるのは散財に該当すると判断するので反対だ」
「う〜〜、まぁたしかに和服着て行く必要は無いから速人はんの意見は最もやな。……………浮かれて危うく無駄遣いするところやった」
そう言いながら知らずに散財しそうになっていた自分を戒めるはやて。
しかし未練があるのか残念そうに一人ごちる。
「……………そやけど速人はんと和服着てお参りしたかったなぁ………………」
はやては既に頭の中で振袖を来た自分と何故か浴衣を着た速人と一緒に参拝している姿を思い浮かべていたので非常に残念そうだった。尚はやてが思い浮かべた想像の速人は浴衣の前を着崩して開けており下駄を履き脇差を帯刀している姿で、異様な程似合っていた。
そんな軽く落ち込んでいるはやてを見ながらフォローというわけではないが、気になったことを尋ねる速人。
「はやては何故自身と俺が和服を着て参拝しようと思ったのだ?」
「いや、折角やから振袖着てみたかったかし速人はんの和服姿も見たかったんや。それとうちの振袖姿の感想や和服着た感想も聞きたいと思うたんよ」
その言葉を聞き一瞬だけ逡巡した後にはやてに返事をする速人。
「その様な理由ならば特に反対する気は無い。
はやてが俺に何かの感想を求めようとしているならば俺はそれに基本的に反対する気はなく、またその行為及び行動は俺にとって有意義な可能性も高いので基本的に賛成だ」
「え!?それじゃあ和服借りても構わんの!?」
「耐用年数や着用回数等を考慮したなら購入した方が割安なので購入を勧める。その際は30分以内に配送させるようにしよう。
和服を借りようとしているのならば失念しているようなので話しておくが、この近辺で和服を貸し出す店は正月に開店していない筈だ」
「あ……………そやった……………。
………………え〜と、もし買うんやったら安いので送料込みで幾らぐらいなんや?」
凄まじい値段が飛び出してくるのを覚悟しながら尋ねるはやて。
「無料購入権利があるので年に5着までなら送料込みで無料だ」
「え!?そんなモンあるんか!?」
「先日株を購入した際に取得した。
株を保有し、その株の発行元の会社が一定の経営を維持している限りはこの権利は行使できる」
「あー!あの時、夕方売りぬいた時に儲け分でなんか大量に買っとった株やね!
……………そっか、株ってそんな特典もあるんか。今度時間ある時に株の特典とか教えてもらうとして、今はその特典を使って和服を買おうや。
たしか2時から海鳴の神社で神楽舞があるはずやから、それに間に合うようにしよや」
「了解した」
速人はそう言い、直ぐにノートパソコンを起動させて画面に無料購入可能な和服を表示させ、はやてと和服を選んでいった。
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色々あったが無事和服を購入し、はやては振袖を着付けさせてもらい、速人は着流しを自分で着た。
そしてはやてが似合うかと速人に尋ねたが、身の丈に合っているという実に速人らしい感想を返し、はやてが別の感想を求めたら「一般的には可憐と分類されるだろう」という実に微妙な答えを返すという事があった。
また速人は自分が和服を着たことについての感想は「動きやすいが人目に付くので日常の外出着としては利用価値が低い」だった。
そしてそんなやりとりも終え、二人は目的地まで移動していたのだが神社の直ぐ傍まで来てはやては頬を引き攣らせていた。
「あ、あはははは〜。そうやったね。階段があるのすっかり忘れとったわ」
そこには石段が車椅子での参拝を拒否するように存在していた。
「えーと、念の為聞いとくけど、速人はん、この石段以外から神社に行ける?」
「山林を経由すれば可能だ。が、舗装されていない場所を車椅子で移動するには時間が掛かるので14時までに境内に到達するのは難しい」
「やっぱり駄目か………………………………。
………………………………しゃあないな、速人はん、うちはここで待っとるから一人で参拝して奉納してきてや」
一気に意気消沈したらしく、凄まじく落ち込んだ様子でそう言うはやて。
「それは構わないが、何故参拝することを止めたのだ?」
「いや、それはこの石段見れば解るやろ?この石段は車椅子を押して行けるスロープは無いし、抱えてもらって行ける距離やないやろ?」
八つ当たりはしていないが答えにいつもの元気さが窺えないはやて。
しかしそんなはやての言葉に速人はサラリと答えた。
「俺ははやてを抱えていくつもりだったぞ」
「ぅうえっ!こ、ここを抱えて上るつもりやったんか?」
「そうだ。今から抱えて石段を上るが暴れないようにしていてくれ」
そう言いながら素早くはやてを片手で胸に抱え、空いた右手で車椅子を掴んで石段を上り始める速人。なお供物は車椅子に結び付けられている。
またもやお姫様抱っこされ、しかも前回と違い人目も多く和服を着ているので注目度も前回より遥かに高く、恥ずかしさに縮こまりながらもはやては速人に話しかけた。
「いや、速人はん。運んでくれるのは嬉しいんやけど、上まではいくらなんでも無茶やろ?」
「はやては30kg未満で抱きやすく、車椅子は15kg未満で抱えやすく、時間的余裕もあるので14時までに到達は十分可能だ」
「………………なんで30キロ未満て解るん?」
「自身の筋肉や脂肪の付き方で精度は変わるが、持ち上げたモノは180kgまでの質量までならば誤差50g以内で計測する事が可能だ」
それを聞き注目されたことによる羞恥で赤かった顔が更に赤くなるはやて。
「えと………………それじゃあうちの体重とかは……………」
「以前抱えた際に計測済みだ。はやての体重は2――――」
「ストップや!それ以上は女の子の秘密やから解っとっても言うたらあかん。いいか?あかんのや」
小声ながらも有無を言わせないという意思を込めて速人にしっかり釘を指すはやて。
「―――……………はやての主張を全面的に呑む気はないが、医療関係の話以外の時は不用意に話さないようにする。これで構わないか?」
「ホンマに頼むで?速人はんに知られただけでも恥ずかしいのに、それを速人はんの口から言われたり、その上知らない人にまで聞かれたらかなわんからなぁ…………」
「了解した」
簡潔にそう述べ、黙々と速人ははやてと車椅子を抱えて石段を登る。
大人でも体力の無い者は途中で小休止をしているのに立ち止まらずに上り続ける速人と抱きかかえられているはやてはかなりの注目を浴びていた。
そして石段を半分ほど登った所で速人の額から汗が伝いだした時に速人がはやてに話しかけた。
「はやて、このままだと汗がはやてに垂れ落ちるので汗を拭き取ってくれるか?」
「あ、うん、それは構わんのやけど………………速人はん、抱えるより背負った方が楽なんやない?」
「抱えた方が重心は安定し易く、転倒する際は重心が前方に有る為高確率で前方に転倒する為転倒時の対処も後方に転倒する時に比べ容易だ。
よって背負うという案は危険度が増す為に選択する気は無い」
「いや、おぶってればいざという時はうちがクッションになるやろ?それやったらそっちの方が楽やからいいやん。抱えられてうちは楽しとるんやから、それくらいの役には立たないかんやろ?」
「後方に転倒した際にはやてが緩衝材になったところで踊り場まで転倒は止まらないと予測されるのであまり役に立たない。あと俺は労力を惜しんで危険度を上げる選択肢を選択する気は無い。
それと抱えて階段を上りきるまでは会話を控えたい。呼吸の規則性が乱れ安定した酸素供給が行えず運動効率が下がる」
無表情に息も乱した様子も見せずにそんな事をいう速人。しかし汗だけは徐々に額から流れ出る量が増えてきていた。
「あ、ご、ごめんな。それじゃあ上に付くまで黙って汗拭いとるわ」
自分が少しでも速人の役に立とうと思って言った事を、冷静且つ無遠慮に役に立たないと言われ少し落ち込むはやて。
しかしその後速人から話しかけられた言葉にそんな想いは霧散した。
「任せた」
短い一言。しかしその言葉を聞き嬉しそうに微笑む……………、いや、堪えきれない喜びで笑顔になるはやて。
(「任せた」て言うてくれた………………。一人で何でもしそうな速人はんが………………、他人に自分の事頼みなさそうな速人はんが「任せた」て言うてくれた……………。
〜〜〜〜〜♪なんか無性に嬉しいわ〜。しかもうちに汗がかからんように気遣ってくれたのがまた嬉しいわ〜。
よし!速人はんが初めて任せてくれたんや。速人はんの負担にならんようにあんまり動かずに、そやけど速人はんの目や口に入りそうなのを視界を遮ったり呼吸の邪魔をせずに拭き取って、そして頼まれたうちに垂れ落ちそうな汗もしっかり拭こう)
恥ずかし気な表情は何時の間にか満面の笑顔に変わり、はやては細心の注意を払いながら速人の汗を拭き取っていった。
黙々と和服の少女と車椅子を抱えて石段を上る和服の少年を、多くの周囲の人々は少年の身体能力に驚きながらも温かい視線を向けていた。
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周囲の人々の好奇と驚愕の視線に晒されながらも無事石段を頂上まで上り終えた速人。
そしてその場で直ぐにはやてを降ろさず、鳥居脇の人通りが少ない場所で畳んでいた車椅子を広げ、そこではやてを車椅子に乗せる為腕から降ろす速人。
速人ははやてが車椅子に乗ったのを確認すると車輪のロックを外し、車椅子に結び付けていた供物をはやてに渡す。
「汗を拭き取り続けたことに感謝する。
尚現時刻はイチサンニイロク。神楽舞を至近で観賞するならば現地で場所を確保する為に行動する時間だろう」
はやてが細心の注意払って速人の視界を遮ったり呼吸を阻害せぬように汗を拭いていたことを速人は理解していたが、感謝の一言にそれら全てに対する礼を籠めて個別に賞賛するような事はしなかった。
そしてはやても速人がはやての意図に気付き、汗を拭きやすいように微妙に顔を動かしていたことに気付いていたので特に怒らずに素直に短い感謝の言葉を受け取った。
「うちの方こそずっと抱えてもらってありがとうな。おかげで小さい頃背負ってもらって来た時以来ここに来とらんかったのに、速人はんのおかげで久しぶりにここに来れたわ。ホントありがとな」
「大層な事をしたのでも無いので過度の礼は不要だ」
一月の寒空で結構な汗をかいたにも拘らず本当に何でも無い事と思って返事をする速人。
「いや、十分大層なことやで?いくらうちが子供やからって大人でも上るだけで息切れしかねんのを抱えて上るなんて大層なことやで?」
「大学の山岳部部員にでも頼めば、階段の往復移送料と5時間の待機料を支払っても2万円は越えないだろう。
容易に代替案が得られる事は大層では無いと思うが?」
「速人はん、うちは別にお金のこととか抱えて上れるとかのことを大層と言うたんやないで?
平気な顔しとるように見えるけどあの汗見たらどれだけしんどいかも解るし、文句も言わずに自分からうちを抱えて上ってくれたし、汗が落ちるのを気遣ってもくれた。おまけにうちが汗を拭きやすいように気い遣って微妙に顔動かしてもくれたやんか。
こんな事出来る人ってそうそうおらへんで?」
「家族間は相互扶助を行うものだ。家族間ならば大層な事では無いと思うが?」
「いくら家族でもあそこまでしてくれるんは普通おらへんって」
その言葉を聞き僅かな間速人は逡巡し、そして見当外れな問いを放った。
「ならば俺はその普通と呼ばれる対応をした方が良かったのか?」
「ふぇ?」
「はやては普通と呼ばれるモノの範疇から外れることを嫌っているように俺は判断しており、それを考慮するならば先程の謝辞と思われた言葉は皮肉だったのか?」
「え?え?え?」
「もし先程の謝辞が皮肉ならば皮肉ではなく直接問題点を指摘してくれ。
俺は家族の概念を基に最善ではないが最適な判断を下したと思っているので、どの行動がはやてを不快にしたか特定――――」
「―――って、ちょいと待った!」
あまりの話の展開にはやては混乱気味だったが、このまま黙って聞いていたら自分の気持ちを誤解されるどころか速人がはやての為にした行為を自分で否定しそうなので急いで止めた。
「あ、あんな速人はん。さっきうちが言った普通じゃないって褒め言葉やで?
それとな、たしかにうちは普通の生活に憧れとるけど、全部が全部普通を求めてるんやないで?今の世の中家族間でも無関心で不干渉が普通に成りつつあるんやけど、うちはなるべく一緒に居たいと思える暖かい関係で、そして困ってる時はお互い助け合うような家族関係になるつもりなんや。
そやからさっきの速人はんの気遣いや行為はホントに嬉しいんやで?」
懸命に速人の誤解を解こうとするはやて。
そんなはやての懸命な言葉をいつも通り無感動に聞いて解釈し、自分の考えを述べる速人。
「理解した。そしてはやての求める家族関係に関しては問題無いだろう。
俺は現在はやての傍に居続けようと思っており、はやてが困窮している際は扶助しようとも思っている。発言者たるはやてが己が発言に反しない限り、はやてが述べる家族関係を維持出来るだろう」
「うん。うちも速人はんと一緒に居たいと思っとるし、困っとる時は助ける気満々やからこれからもそうであろうな?」
「約は結ばないがそう足らんと尽力はするつもりだ」
「うん。その答えで十分や。
……………ふふふ、いつもみたいに了解て約束してくれるより嬉しいわ〜」
ニコニコとしながら誰に言うでもなく一人呟くはやて。
「はやて、不確かな発言の何が嬉しいのだ?」
「うん?ああ、それはやね、こういう家族の一番大事なことは約束で縛らんで自分の意思で選び続けるもんやと思うんや。
たとえその結果家族が終わるとしても、約束とか嘘で縛って続けていくよりは悲しいけれどよっぽど価値のある終わりやと思う。
………………尤もうちは簡単には諦めんけどな。終わるその瞬間まで足掻きに足掻きぬく気満々やからな?」
不適に笑っているつもりなのだろうが、悪戯っぽく笑っているようにしか見えない笑顔を浮かべながら速人に言うはやて。
「……………………はやてが物事の根幹を自由意志に委ねているのは理解出来た。また俺からすれば危険且つ非効率的な思考だが、はやてにとっては家族を維持する以上に家族の価値を維持し続ける重要な選択だとも理解出来た。
存在の維持と価値の維持を秤に乗せ価値の維持を選択できるならば、それに関する取り決めははやてに任せる。異論がある場合は発言するが」
「きちんと自分の意見も言うてくれるみたいやから、ど〜んと任せてや♪」
「ではその事に関しては頼む。
話は変わるが現在時刻はイチサンサンヨン。神楽舞を見るならばもう移動するべき時間だろう。それと供物を奉納するならば関係者が居るだろう今の時間に渡すのが良いだろう」
「あ!いつの間にか結構話し込んでしもうたみたいやな。
それじゃあ時間も押しとるし神社の人にお供え物渡して、それから場所取り行こうか?」
「了解した。それと境内は現在混雑しているので裏手を回って移動するが構わないか?」
はやては速人の言葉に境内を見た。するとそこは鮨詰め状態とはいかずともかなりの人ごみで、車椅子の自分がそこを通過すると迷惑だろうと容易に判断できた。
「そやね。ぐるりと大回りしてから行っても時間はまだ平気やろし」
「では移動を開始する」
「了解や」
そして車椅子を押してはやてと移動を始める速人。
はやては周囲の自然を興味深そうに眺め、速人は何時も通り周囲に警戒を払いながら移動していた。
境内からの喧騒が沈黙している二人の間を駆け抜け沈黙している感を強調するが、はやてにとってこの沈黙は苦では無く、速人は沈黙自体を苦としておらず、気まずさは流れず暖かと言うより穏やかな清流の様な時間が流れていた。
そんな時間に身を置きながらも特に感じるモノが無いのか何時も通りの無表情だった速人だが、獣の鳴き声と言い争う様な声が聞こえ音源地を見やった。
静かな時でも木々の枝葉に邪魔され声が届くかどうかギリギリの距離からの声を聞き取り、一瞬で音源地を割り出して見た先は幾重もの枝葉に隠れて見え難いが、巫女服を着た者が数名に言い寄られているようで、また少し離れた場所で小動物が横たわっている光景だった。
(この神社の関係者で服装から察するに神事の際に着用する服装なので神楽舞に参加する者の一人だろう。
言い寄られているのならば救助する報酬に至近で神楽舞を観賞可能なように交渉するという案もあるが、そのために逆恨みを買う可能性を容認する価値のある選択肢では無いと判断。
他の関係者に供物を渡す際に誰かを探しているようならば小動物の鳴き声が聞こえたと言いこの場所に案内し、手間はかかるが中止の可能性を減らす方が適切と判断)
一瞬で放置するという選択肢に至り、速人的には何事も無かったのでその場を普段通りに通り過ぎようとした時、一際大きな声が先程速人の見た方向から聞こえてきた。
「うん?速人はん、ちょっと止まってくれへん?」
会話をしていれば聞き逃したであろう程度の声だが、二人は沈黙していた為境内の喧騒に邪魔されながらもはやても聞き取れたらしく不審気に山林の方を向く。
「速人はん、何か今声がせんかった?」
「声は先程から境内の方から聞こえているので今に始まったことではないが?」
「いや、そうやなくて、なんかそっちの山の方から聞こえんかった?」
声が聞こえたかという質問と言うより、速人なら自分以上に何か知っているとはやては思って尋ねた。
「2時の方角、距離は約167mより聞こえてきた。発声者は神楽舞用と思われる衣服を着用、また衣服より女性と判断。尚周囲に4名以上の人物と小動物も存在。
客観的に見るならば女性と仮定される者の意思を無視した交際若しくは性行為が目的と推測。接近する事は危険と判断されるので通報若しくは神社の関係者への連絡が適切と判断する」
「ふえっ!そこまで解るん!?っちゅうかそこまで解っとるならはよ助けに行かな!」
「神楽舞を行う者の一人と判断される為神楽舞を観賞するならば救助する必要性は少なからず存在するが、不用意に逆恨みを買う危険性を容認する程の必要性が有るとは判断していない。
また戦闘になった際、近辺にはやてが居ればはやてを護りながら行動しなければならず、著しく不利になり俺とはやての危険度も高い。高確率で戦闘行為になると予想される現場に赴く案は反対だ」
「うちの心配してくれるんは凄い嬉しいんやけど、だからて目の前の困っとる人見捨てんでや」
「捨てるという言葉が適用される程あの場に居る者との間に何かを構築した覚えは無い。
それに関係者への連絡及び司法機関へ通報をしようとしているのだ。第三者としての対応ならばこれで十分と思われるが?」
「そ、そやけど速人はんなら助けられるんやないか?」
「断定は出来ないが高確率で可能だろう。だが先程も述べたが逆恨みを買えばはやても危険に晒されるぞ?」
「それでもうちが了解すればその人を助けてくれるんなら助けてや。速人はん、お願いや」
車椅子を半回転させ向き合う形で頭を下げるはやて。
一方速人は僅かな間逡巡した後にいつも通り無感動な応えを返す。
「先程困窮しているならば扶助すると言っていた通りはやての意見を受け容れよう。
ただしはやては人ごみの中にいてくれ。その車椅子には発信機が付いているので神楽舞の要員と思しき者の安全が確保されれば直ぐに迷う事無く合流出来る」
「解った。こっそり後を付いて行って困らせたりせんから安心して行ってきてや」
「30分以内に戻らない場合は通報して帰宅してくれ」
それだけを言い残し速人は先程声が聞こえた方向に駆けていった。
・
・・
・・・
僅かな間はやては速人が駆けていった方を見やっていたが、直ぐに速人の言った通り人ごみを目指し移動した。
(舗装されとらんトコを動くのはこんなにキツイんやな………………)
先程までは速人に押されていた為気付かずただ周囲の自然を楽しんでいたが、一人になるとそんな余裕も無くなり、寧ろ山林が侵食してくるような不気味ささえはやては感じていた。
そしてはやては黙々と移動して神楽舞が行われるだろう場所に到着した。そして速人が言った通り人ごみの中ではやては一人待っていた。
当然車椅子のはやては注目を浴び、様々な視線に晒される。
(…………………速人はんと一緒の時は全然気にならんかったけど、こんなに好機や同情や侮蔑の視線が在ったんやな……………………。……………………それに周りは知らん人ばかりで怖いな…………………)
速人が傍に居た時は周りの活気がとても楽しげに聞こえ、周囲の人々も気分を高揚させる存在だった。しかし一人になったはやてには周囲の活気に空しさを感じ、周囲の人々は自分に様々な嫌な視線を向ける自分を鬱にさせる存在になっていた。
(……………………なんか急に和服着とる自分が馬鹿に思えてきた……………。周りの人は車椅子に乗ってる奴が着飾って何しとるんやろて思うとるんかな…………
できるだけ人目の無い場所に行きたいけど、約束したからそういうわけにもいかんしな………………)
せめて交通の邪魔をして邪魔者扱いされる視線から逃れる為、人目には付くが人の通行の邪魔にならないドラム缶のゴミ箱の近くに移動するはやて。
(…………………10分も経っとらんのに凄く寂しいな………………。
…………………それに凄く不安や………………)
喧騒や笑い声ではやては一人だということを痛感し、様々な無関心や攻撃的な視線にはやては怯えていた。
(速人はん……………早く戻ってきてや………………)
荒事の経験が皆無なはやては片方若しくは双方に死亡乃至重傷者が出る可能性も有るという事を完全に失念しており、勝っても負けても速人が無事で戻ってくると些か甘い考えを持っていた。
尤も双方に死亡乃至重傷者が出かねないと危険性が有ると認識していれば、はやても見ず知らずの他人の為に速人に現場へ行ってくれと頼まず、大声で周囲に助けを求める案を選んだであろうが。
(あれから13分か…………………。一秒毎に体が締め付けられる様な感じがするな…………………。一人は………………辛いな…………………)
はやては周囲を見回し速人の姿を探すが周囲の視線に耐えられなくなったら、周囲の視線から逃げるように時計を凝視して時間を確認するという事を繰り返していた。
と、周囲を十分見回していたつもりだったはやてだったが急に横手から人が現われ、驚きと不安に駆られながらも急ぎそちらを向いた。
そしてそこには待ち望んだ者の姿が在った。
「あ!速人はん!」
先程までの鬱な様子が払拭された顔と声で呼びかけるはやて。
しかしはやての心情等全く気にした様子の無い速人は淡々とした話し方と内容で返した。
「只今戻った。
神楽舞に参加する者は身体に負傷無く此方に到着したのを確認したので目的は完遂した。
尚現場に居た者との交渉に失敗した為戦闘へ突入したが襲撃者全員を一時戦闘不能にすることに成功。殺害及び拘束の処理を施せば過剰防衛として起訴される可能性有りと判断した為、警察機構への通報のみの対処で済ませ現場を離れ急ぎ帰等した」
「はは、なんかえらい堅苦しい…………まるで軍隊での話し方みたいやけど怪我もせんで平和そうに解決して戻って来てくれてなによりや。
……………ホント……………戻って来てくれてなによりや…………。………………………………情けない話やけど一人は心細かったんや………………」
「その様な心理状態になる事を予測していなかったのならば、次回からは他者の身を案じて行動する前にそれにより起こる自己の変化及び周囲への影響を考えることだ」
その言葉に暖かさは一切無く、そうなったのははやての浅薄さが原因なので以後改めろと速人は告げていた。
「それと忠告しておくが無差別に他者を救済しようとすれば何れ自滅するだろう。
俺ははやてが自滅するのを是としていないのでその思考は矯正してくれ」
「速人はん………………うちのこと心配してくれるんか?ありがとな♪」
「家族ならば自ら滅びに向かっている事に気付いていなければ、忠告により自戒を促して家族の維持を図ろうとするのは当然だと判断したのでそのように行動した。
だがはやてが心配し礼を述べるという事は、俺の採った行動は当然の範疇から逸脱したものなのか?」
「…………………………ええとな、別に当然の行動でも感謝とか色々思うところがあるモンなんよ?
少なくともうちは家族だから当然の事て何も思わずに受け入れたりせんで、互いに些細な当然の事にも感謝し合える家族を目指しとるんや。
そやからあんまりうちの感謝とかを深読みせんで受け取ってくれると嬉しいんよ」
「理解した。
些細な事柄に感謝が出来るかは不明だが、何に対しての礼かが不明でない限りははやてからの礼はあまり思考せずに受け入れる」
「うん、自分の意見もしっかり言う素直で良い返事や♪」
はやては自分も気付かぬうちに速人と会話をしている間に速人と別れる前の楽しい気分に戻っていた。一方速人はその変化に気付いていたが、出会った頃から十分解っていた事なので特に気にしていなかった。
「と、何時ん間にか神楽舞が始まるみたいやな。速人はん、もうちょい前いって見ようや」
「了解した」
そして二人は神楽舞を見る為に舞台の近くに移動した。
その時のはやての表情は周囲の奇異の類の視線を全く気にしていない眩しい笑顔だった。
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
「ふわぁ〜〜〜。綺麗やったな〜〜。しかも鈴の音と葉擦れの音だけであんな感動できるなんて………………」
ついさっきまで見た舞の余韻に浸りながら更に感想を述べるはやて。
「ホント二人とも綺麗に動いとったなぁ〜。しかも動きだけやのうて鈴持っとった人は可愛かったし、枝葉を持っとった人は女の人やったけど格好よかったなぁ〜」
呆としているはやてとは対照的に速人はいつもの無感動且つ無表情な顔で神社の関係者が近くに居るので、適当な場所に奉納するよりも関係者に渡した方が問題無いと判断したので関係者の傍にはやてを乗せた車椅子を押しながら移動していた。
そして未だ感動しているはやてを乗せたまま舞台の近くに移動し、偶々近くを通りがかった先程舞っていた者を速人は呼び止めた。
「そこの神社関係者と思われる方、供物を奉納したいので受け取って頂きたい」
いつもの口調で話して諍いを起こして家族に迷惑をかけない為にある程度配慮したいつもと違う口調で速人は話していた。
「うん?私に言うちょるんか?」
「そうです。奉納場所が別に存在しているのならばそちらに奉納するので場所を教えて頂きたい」
既に普段着に着替えたらしく、先程枝葉を持っていた女性は子供らしかぬ発言をする速人に少々驚きながらも受け取る。
と、今まで呆けていたはやてだったが目の前に先程舞っていた人物が居ると解り驚き、慌てながらも先程の感想を述べ始めた。
「あ、あの!さっきの舞!スッゴク感動しました!袖とか袴とかの動きも綺麗やったし、あの枝の動かし方も全部綺麗で感動しました!」
「ふふふ、剣舞を流用した舞だからそんな力一杯褒められると恥ずかしかけど悪か気はせんね。褒めてくれてありがとう」
「いえ!もうベタベタな感想しか言えんですんません!
あ!あと、これ!うちが作った御節も入っとるんで、神様に捧げんで食べてくれても結構ですんで!」
「流石にいきなりうちが食べる訳にはいかんやろから、今日一日奉納してからありがたく食べさせて貰うよ」
「は、はい!是非そうして下さい!」
はやては未だ興奮冷めやらぬ感で暴走気味に話しているが女性は気を悪くした様子は無く微笑みながら応答していた。
しかしはやてが車椅子に乗っている事を今更ながら考慮したら疑問に思った点が出てきたのか女性ははやてに尋ねてみる。
「ところで車椅子に乗ってるようやけど、坂も無いのにどうやってこの神社まで来たんかな?」
女性のその質問にまた興奮気味はやてが答える前に速人が会話に割り込むようにはやてに注意してきた。
「はやて、興奮するのをそろそろ控えなければ自身で歩けぬはやては循環器系の機能が常人より低いので心臓に過度の負担がかかり健康を害するぞ。
それと少し落ち着いて話した方が良いだろう。自身が何を言っているかあまり把握しきれていない言葉を発しても意思疎通は難しい」
「っと、そうやね」
速人の指摘にあっさり頷き何度か深呼吸をするはやて。
そして落ち着きを取り戻し再び話し始めた。
「どうも取り乱してもうてすんません」
「いや、気にせんで良かよ。それよりどうやってこの神社に来たんか教えてくれんかな?」
「あ、はい。それはそこに居る速人はんがうちと車椅子を抱えてここまで運んで来てくれたんです」
「抱えて来たんか?あの石段を?」
「はい」
「へえ〜、優しくて強い兄さんじゃないか。大人でもそうそう出来る事じゃないよ」
「!?兄さんて、うちら家族に見えますか!?」
「うん?仲の良い妹さんとお兄さんの家族やと思ったんやけど、違ったかな?」
他人から家族に見えた事が嬉しくまたもや感動しているはやて。
そして今度は興奮しながらではなく喜色満面で話すはやて。
「いえ、うち達は家族です。違う事なんて全然ありません♪」
「?………何だか込み入った事情が有りそうやから聞かんけど、機嫌を悪うしたんやないならよかったよ。
と、那美を待たせっぱなしやった。それじゃうちは用事があるからこれで失礼させてもらうよ。それとお供え者は後で美味しく頂かせてもらうよ」
「そうしてくれたら嬉しいです。あと、生菓子は今日を過ぎたら食べんほうがいいです」
「解った。それじゃあ」
「はい、また今度」
「………………」
速人は軽く頷く程度に頭を下げ、はやてはニコニコとしながらその場から去ってく女性を見送った。
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女性と別れた後はやてと速人は縁起物売り場に移動し、様々な縁起物を購入していた。
購入しているのは全てはやてだが、速人用の縁起物も大量に購入していた。
「速人はん速人はん、お守りも破魔の札も矢も買うたから、次は御神籤しようや?」
「解った。
しかしはやて、厄除けと魔除けの効果を議論する気は無いが、安産・懐妊・結婚・恋愛等の祈願と成就とどう考慮しても現在の俺とはやてに不要な物と判断されるものが数点混じっているが、これは字面通りの効果をはやては期待しているのか?」
「あ、あれ?うちそんなん買うたかな?」
「買っていた」
「あ、あははは〜。ちょっと浮かれすぎて目に付く縁起物を片っ端から買うてしもうたみたいや」
「俺からすれば縁起物自体が散財なので何を購入しようと特に異論はないが、先程破魔札や破魔矢を奉ると言っていたが何処に奉るのかを尋ねる」
「………………………玄関やテレビの上とか、どやろ?………………………」
「奉る場所で効果の有無があると判断しているのではないので異論は無い。
話が逸れた、今からはやての提案通り神籤を引く為移動するが構わないか?」
「あ、うん。え〜と、御神籤売り場はあっちやね」
行き先をはやてが示しそれに従って速人がはやてを乗せた車椅子を押す。
人込みの間を縫う様に移動しているが、それでも車椅子のはやては普通の人物より人の通行の妨げになっていて邪魔そうに見られることに何度も遭ったが、後ろに速人が居ると思うと申し訳ないとは思っても萎縮することはなく、存分に初詣を楽しんでいた。
御神籤売り場に到着し、順番を待ちながらはやては速人に話しかけた。
「速人はん、せっかくやから速人はんも御神籤引かんか?」
「はやてにとっては散在では無いのかもしれないが、俺にとっては散財なので拒否する」
「う………………ま………まぁ………無理強いはせんけど…………」
普通ならば罪悪感に駆られて直ぐに前言撤回するほど一気に落ち込むはやて。
しかし罪悪感とは限り無く遠い速人には当然罪悪感から前言撤回をする効果は無かった。
ただ罪悪感は無くともはやてが落ち込むことは速人の本意ではないので、その状態を修正するために速人は疑問に思ったことをはやてに尋ねてみた。
「はやて、何故そこまで虚脱状態になっているのか尋ねても構わないか?」
自身の発言が原因だとは解っていても、何故はやてが落ち込んでいるか解らない速人。
「…………………………うちとしては速人はんと色んなこと一緒にやって楽しみたいし、速人はんにも楽しんでほしいなぁーと思うとったっんやよ…………………………」
その言葉を聞いた速人は即座に返事を返した。
「そういうことならば構わない。
今朝方俺に感想を求めるような事は基本的に反対しないと言ったが、あと俺に何かを感じさせようとしているならばそれも基本的に反対しない。
それと俺では好機を認識出来ず棒に振る可能性が高いと今の遣り取りで判断したので、その二つに該当しているならばその旨を伝えるか、尋ねるのではなく誘うよう頼めるか?」
このセリフだけ聞くならばはやてへの思い遣りなど皆無に近いが、その前に速人ははやてがショックを受けた理由を知って立ち直らせようとした僅かな気遣いにはやては気付き、ただ嬉しそうに返事をした。
「了解や。そういうことなら遠慮せんでガンガン誘うから覚悟してな?
っと、丁度順番周ってきたし御神籤引こうや」
「何を覚悟するのかは不明だが、こちらの提案を了承してくれたことに感謝する」
「ふふふふふ〜、覚悟は沢山誘われる覚悟や。
っと、話し込んですんません。御神籤二人分お願いします」
代金を支払いはやてと速人は御神籤を引き、とりあえず御神籤売り場を離れた。
そしてとりあえず通行の邪魔にならない場所に移動すると、御神籤を開くはやてと速人。
はやてはワクワクしながら、速人は淡々と紙に書かれた内容を呼んでいく。
「う〜ん、御神籤っておめでたいことしか書いてないと思うとったけど、意外とそうでもないんやな〜。
速人はん、うちは中吉やったけど速人はんのは何て書いてあったんや?」
速人の結果が気になるのか興味津々に聞くはやて。
「速人はんは両極端やから大吉か大凶やと思うんやけど、意外と末吉って中間的なところもありなような気がするんやけど…………」
「本人の人格や性格などで御神籤の結果が決定される事は無いだろう」
「まぁそうかもしれんけど、なんとなく速人はんは人が普通巡り合わんようなことに巡り合う強運というか凶運の持ち主な気がするからそう思ったんよ。
で、結局何て書いてあったん?」
興味津々に尋ねるはやての言葉に返ってきた言葉は、はやての予想を遥かに超える答えだった。
「振分比率表」
「…………………………………は?」
まるで想定外の答えが返ってきて目が点になるはやて。
しかしそんなはやてを無視する様にもう一度読み直して更に読み進める速人。
「振分比率表。大吉1:中吉2:小吉5:吉7:半吉10:末吉15:末小吉30:凶10:小凶7:半凶5:末凶2:大凶1」
「………………………………………………………………………」
神籤の御利益を粉砕するような実に速人らしい物を引いた速人。
「はやて、呆然としているようだがどうかしたのか?」
「いや……………なんちゅうか……………自分で言うとってなんやけど……………本当に速人はんの運の凄さ……………奇運ちゅうか?それに呆れてたんや……………………」
「何度も引くならば何かしらの因果関係を疑うが、一度引くならば確率の問題だろう。
奇運と言う程のモノでも無いと思うが?
あとはやての神籤は凶札ではないようだが、枝に結ぶのか?」
「え?おみくじって引いた後は枝に結ぶんやないの?」
不思議そうに問い返すはやてに、手に持った紙を畳みながらはやてに返事をする速人。
「吉凶にかかわらず持ち帰って構わないらしいが、凶札がでた場合は【凶を寺社に留めて良い運勢が結実し給え】と念じながら枝に結ぶらしい。またその際利き腕でない方で結べば困難を達成し修行を積んだ事になり、凶が吉に転じるという説がある。
尚吉札は身に付ける物に忍ばせ自らの戒めや教訓にするのが古来の習わしらしい」
「……………なんか速人はん興味なさげやったのに、なんでそないなことしっとるんや?」
「民俗学の資料を閲覧した事があり、その際に知った」
速人は自分の神籤とも言えない畳み終えたメモ紙をポケットに入れながら、これからどうするのかを尋ねてみた。
「はやて、奉納も済み、神楽舞も終わり、目ぼしい縁起物は購入したが、これからどうするのだ?」
「あ、そやね、うーん………………あとは温かい甘酒でも速人はんと飲んでから帰ろ思とるけど……………速人はんは何かしたいこととかあるか?」
「初詣で特にしたいことは無いが、甘酒をこの場で飲むことは拒否する。そして可能ならばはやてにも控えてもらいたい」
「?御節食べる時に御屠蘇飲んどったけど、なんで甘酒は駄目なん?」
「甘酒ではなく今アルコールを摂取する事が問題なのだ。
石段を降りる際にアルコールで平衡感覚に狂いが生じていれば転倒する可能性が高いからだ。またはやてがアルコールの摂取で脱力状態になっても危険なので、甘酒を飲むなら帰宅してからにすることを強く推す」
「あ……………………そうやった……………………今度はあの石段を下りなあかんかったね…………………………」
「そういうことなのだが、納得いったか?」
「そういうことならお酒は飲めんな。
ま、家に甘酒用の酒粕買うてたのがあるから、帰ったらそれ使って飲もか?」
「200CC未満ならば構わない。
それでは特にすることもなさそうなので今から石段を下りるが構わないか?」
石段を下りる時に備えて、先程買った縁起物を詰めた袋を車椅子に括り付けながら速人は問いかける。
「そやね。空いとるうちに下りてしまおうか」
「了解した」
簡潔にそう応え、上りより更に危険な下りに平然と向かって行った。
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
転倒することもなく無事石段を下り終え、はやては速人に気を遣って直ぐにタクシーで帰って速人に休んでもらおうと思ったが、「はやてさえよければ整備体操代わりに家まで押して行きたい」と速人が言ったので、現在速人ははやてを乗せた車椅子を押しながら八神家に向かっていた。
二人の間にあまり会話はないが、流れる沈黙を二人とも苦にしておらず、速人はいつも通り無感情な顔ではやてを乗せた車椅子を押し、はやては笑顔で正月の雰囲気が漂う町並みを見ていた。
(なんかこういう正月独特の閑散とした静かな雰囲気の中移動するんもいいもんやな。
ちょっと寂しい感じもするけど、なんか綺麗な水の中にいるような感じがするし)
まだ空が黄昏色になりかけた時間帯にもかかわらず、既に住宅街では人の姿がはやてと速人以外には無く、国道も殆ど車が通らない疎らさがいかにも正月らしかった。
人が居る筈なのに人があまり出歩かない正月特有の厳かさの中を二人は移動していたが、八神家近くの公園の入口に差し掛かった時にはやてが声を上げた。
「速人はん、ちょっと公園に寄ってかんか?」
速人は日が沈みかけているのでそのまま帰宅することを推そうかと思ったが、はやてから誘われているので何かしらの意味があるのだろうと誘いを受けることにした。
「日が沈む前に八神家に到着出来るのなら異論は無い」
「それじゃあちょっと寄ってこか」
はやてはそう言うと振り返って速人の手を車椅子からやんわりと離すと自分で漕いで公園の敷地内に行ってしまった。残された速人はとりあえずはやての後を追った。
公園の敷地内に人の姿ははやてと速人以外に無く、普段は十分人が居る時間帯にも拘らず誰も居なかったことが夜中の公園より寂しさを漂わせていた。
そんな公園の敷地内で、さして入口から離れていない場所ではやては止まって地面を見ていた。
少し遅れてその場に到着した速人もはやてに倣って地面を見たが、特に他の場所の地面と変わった様子は見られなかった。
ただ何故はやてがこの場所を見ているかくらいは速人にも解っていた。尤も何を思ってその場所を見ているのかまでは解らなかったが。
・
・・
・・・
暫く無言のまま二人して地面を見詰めていたが、やがてはやてが速人に話しかける。
「…………………………まだ1週間と半日足らずしか時間経っとらんのやね…………………………」
「俺とはやてが出逢ってからということならばそうだな」
主語が抜けているため独り言とも取れる話かけに何時も通りに応える速人。
そんないつも通り場の雰囲気を一切考慮しないような発言に苦笑しながらもはやては独り言の様に更に話しかける。
「ほんの1週間程前までは毎日世界の時間の流れから取り残されたような寂しさしか感じとらんかったんがまるで嘘のようや………………………」
「………………………」
はやての言葉に特に返事をする必要も無いと判断した速人は黙ってはやての言葉を聞く。
「毎日が楽しくて嬉しくて…………………………明日を楽しみに眠れる日が来るなんてホント驚きや………………………」
「………………………」
速人からの返事は無いが、聞いていないわけでないのは知っているので更に話しかけるはやて。
「まだまだ速人はんのこと解らんことだらけやけど…………………………これからも仲良うやっていって、色んなこといっぱい知りたいと思うとる………………………」
そこまで言うとはやてはくるりと車椅子を方向転換して速人に向き直る。
「二度目になるけど、今年も一年よろしくな」
一緒に喜びも楽しみも…………それ以外の嫌な事も一緒に共有していこうという想いが籠められたはやての言葉にいつも通り淡々と返事をする速人。
「了解した。此方も宜しく頼む」
はやては自分の想いがどれだけ通じ、そして速人の返事にどれだけの想いを籠められているのか、どちらも殆ど解らなかったが、いつかは当然の様に通じ合えるような関係になりたいと思いながら笑顔を浮かべて頷いた。
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幕間二之二話:楽し恥ずかしの初詣――――了
【後書】
軽い話で構成する筈だった幕間編でしたが、気が付けば本編の様な感じになってしまいました。やはりHDDが逝って鬱状態になったのが多分に影響した為でしょう。専門業者に修理を頼んでも買い直す10〜20倍のお値段になるのはキツイです…………。というか保障は新規購入分の代金を負担するだけで、データのサルベージを保障するものじゃないとその時に知りました。
今回の幕間はSS本編ではやてと速人の絆の様なものが一切描かれずに守護騎士達が登場してしまったので、この幕間で少しでも補填できたらいいかな〜と思い今回の話を書きました。が、今回は本編で回想として出した方がいい展開が多分に混じっているので、幕間としてはイマイチでした。読み返してみると当然ダラダラしていて面白く無いですね。
だいたい初期の頃からはやての速人に対する好感度とか無警戒心度とか、兎に角全てのフラグが立っている状態の為、今更どうやって二人の中が発展するのかサッパリ解らずこんな話になってしまいました。正直はやての速人に対する理解度とかは精神感応能力でも持ってない限り在りえない程ブッチギリで高いですし。
毎回多くの投稿SSがあるにも拘らず御読み下さり、御感想付きで掲載してくださる管理人様に感謝を申し上げます。誤字修正版も掲載して頂いて本当に申し訳ありません。
そしてこのSSを御読み下さっている方、拙い文と誤字が多いにもかかわらず御読み下さり感謝します。
和服、着物!
いやー、良いよね。
美姫 「まず最初の感想がそえれなの!?」
あははは。でも、騎士たちが来る前の二人が分かった良かったよ。
まあ、御神籤の何が当たるかという確立まで出てくるとは、流石は速人というべきか。
美姫 「まだこの時点ではね」
本編でもまだまだだしな。
こういうお話も良いですね〜。
美姫 「うんうん。楽しませてもらいました」
本編も楽しみにしてます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」