この物語はオリジナル主人公登場の魔法少女リリカルなのはASの二次創作です。

  自分の文才の無さが原因で登場人物の人格及び性格が変わっている可能性もあります。その様な事に耐えられない方は気合を入れられて見るかブラウザの戻るを押される事をお勧めします。

 

 

 

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魔法少女リリカルなのはAS二次創作

【八神の家】

 

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「じゃあ買い物に行ってくるわ〜。お昼は食べてくるけど夕ご飯は家で食べるから作っといてな〜」

「ハヤト、何にするか決めてないならガツガツ食べられるやつ作ってくれ!」

「他に要望が有る者はいるか?」

「ウチは特にないで〜」

「私も特に有りません」

≪特に無い≫

「無い」

  特にヴィータ以外意見は上がらなかった。

「特に意見が上がらなかったのでヴィータの意見を採用することにした」

「やったぜ!」

  喜色満面のヴィータ。

「じゃあ晩ご飯任せたで。昼ご飯は冷蔵庫にサンドウィッチが入ってるから3人で食べてや。

  それじゃあ行ってくるで〜」

「行ってくるぜ〜」

「行ってくる」

  そう言いながらはやて・ヴィータ・シグナムは出かけて行った。

  残ったのは速人・ザフィーラ・シャマルだった。

  特に会話も無いままリビングに全員戻っていった。

  ザフィーラは特に何をするでもなく寝ているが、絶えず周囲の警戒は怠っていない。

  シャマルは食器を洗いっていた。

  そして速人はパソコンに何らかの理論を打ち込んでいた。

  基本的に八神家では皆リビングにいる事が多い。が、当初速人だけは用事が無い時は基本的に自室に篭るか外出し、用事がある時(食事等)しかリビングに出て来ず、直ぐにはやてがリビングで出来る事はリビングでしてくれ、と頼んだのでリビングの一角を電子機器で埋め尽くすことで実験が必要で研究所に赴く以外の事は殆どリビングで可能になり、仮眠と睡眠時以外は殆どリビングで暮すことになった。

  そんな速人専用領域ともいえるところで作業をしている速人だったが、シャマルの作業が一段落した時声を掛ける

「シャマル、緊急時に備え逃走用通路の設計が出来たのだが確認してくれないか?それとザフィーラの意見も聞きたい」

「解りました」

  シャマルはそう言い手を拭いて台所から出、ザフィーラは無言でテーブル前に移動し、速人は設計案件を印刷したのを持ちテーブルで待っていた。

  シャマルとザフィーラが席についたのを確認し速人は話し始めた。

「幾つか魔法について聞き、俺なりに解釈した事を事前に話すが構わないか?」

  ザフィーラとシャマルが頷いたのを確認し速人は話し始めた。

「遠隔系の捕縛及び隔離魔法であろうと、対象を捕縛・隔離するには事前にその系統の魔法を設置するか対象の座標を把握する必要があり、対象を定めきれていなければ無作為に放たれた魔法の効果範囲に居ない限りは魔法の効果を受けない。これは間違いないか?」

  また頷く両者。

「故に補足され難い様に地下に逃走用通路を作る予定だ。深度1200mに建設しそのまま海鳴大学病院近くにある地下実験場に繋げる予定だが意見を聞きたい」

「………そのような事をせずともいざという時は別の世界に転移する事が出来ますが?」

「だがそれは無条件で瞬間的に実行できるわけではないのだろう?」

「………たしかにそれなりの準備が要りますね」

「この逃走用通路は避難する為の目的ではなく、一時凌ぎにすることを目的にしている。

  実験場に繋がるのは念の為だ。使用後は高速硬化ベークライトを注入し使用不能にすると同時にここからの侵入を阻害する」

  的確な対処案に舌を巻くシャマル。

(相変わらずすごい思考………。魔法のことも防犯の為に少ししか説明していないのに、僅かな説明で使用制限や対処方を考え付くなんて………)

  シャマルがそんなことを思っている間にザフィーラが質問する。

≪この家に張られた探知防壁は容易くは見破られないが、その逃走用通路を通じて察知される可能性についてはどうなっている?≫

「通路は通常幾つか民家の下に終着するようにしてあり偽装はされている。使用時には即発破開通が行われ地下到着時には開通する仕様だ。また使用と同時に研究所までの通路以外は即封鎖される。また不正な侵入が成された場合即爆破するようになっており、研究所側からの干渉も不正扱いの為この家以外からの使用は不可能になっている」

≪ならば特に反対はない。主の身を護る手段は多いに越したことはない≫

「私も反対ありません」

「賛同者ははやて・ザフィーラ・シャマルと過半数を占めたため、早速施工を依頼する」

  速人はそう言いタブレットを使って早速依頼をしていた。

「…………さっき賛同者の中に速人さんの名前が無かったのですけど、ただの言い忘れですか?」

「言い忘れでは無い」

「なら速人さんは反対派なのですか?なら票は半数に割れるのですけど………」

「提案者は常に中立の存在だ。票数には含まれない」

「?案件を成立させるべくしているなら賛成票に含まれると思うのですけど?」

  理解が出来ない顔をして問いかけるシャマル。

「自身及び自身達では不足しているものを他者の思考により補正する目的が評議だ。否決されようと否決された原因を基に補正し直し再度評議すれば問題はない。自身及び自身達が票数に含まれると補正が不十分なまま可決されてしまう可能性がある」

「なるほど…………」

≪意見の正当性を主張するのではなく、意見の不足部分を指摘される事が目的なのだな。

  我らも見習う必要がある考えだな≫

「いや、戦闘時のような即決定するべき状況ではするべきではない」

  速人の意見に感嘆していたザフィーラの意見を一部否定する速人。

≪何故だ?≫

「評議とは時間的余裕がある時にするものだ。戦闘時の様に時間的余裕がないならば損害と利益と成功率を天秤にかけ、最も妥当な案を最速で決める必要がある」

「しかしそんな案が緊急時にそう出てくるとは思えないのですけど?」

「それを成すのが指揮官及び参謀の役目だ」

≪道理だな≫

  ザフィーラはそう告げ部屋の隅に向かって行き、速人もシャマルに他に疑問点が有るか目で問いかけたがシャマルが首を振った為パソコンに向かって行った。

(はぁ…………速人さんと話していると本当に自分の不甲斐なさが解ってしまって落ち込むわね)

  トボトボとテーブルを離れリビングの掃除の準備に入るシャマル。

(けどさっき見た設計図のような大掛かりな逃走用通路必要になるのかしら?……………って、速人さんが以前邪魔にならない備えはあるに越したことはない、って言ってわね。

  はぁ………本当に私の思考は参謀向きじゃないですね)

  軽く頭を俯け落ち込むシャマル。

(……………はぁー、不甲斐なさを実感するのはまだいいんですけど、あの無機質な眼で見られるのは本当に苦手で………………嫌悪を感じます)

  そう思い、さして前の出来事でもないことを思い出すシャマル。

  シャマルが速人に極度の苦手意識…………嫌悪感とも呼べるモノを自覚した、山積み缶詰転倒事件の数日後に起きた事件に想いを馳せていた。

 

 

 

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「はぁ〜、しっかし速人はんが医師免許持ってたなんて驚きやわ〜」

  感心半分呆れ半分で言うはやて。

「多種の薬品を所持しているからな。医師免許と薬剤師免許は不法所持しない限りは必須だ」

「そやけどそんな資格持っとるなら教えてくれてもいいと思うんやけど?」

「言う必要性を感じなかったから言わなかった」

「いや、速人はんが医者なら病院行かんでもいいと思うんやけど?」

「俺の持つ知識・技術・薬剤は身体破損の処置や身体強化に最適な薬物等の所持が目的の為、先天的な疾患は完全に専門外だ」

「そうか〜。もし速人はんに見てもらえるなら嬉恥しお医者さんごっこならぬ、本当の医者と患者のアブナイ関係なれたんやけどな〜」

  街中で危険発言を炸裂させるはやて。幸い周囲にこの会話を聞いているものは居なかった為不審な眼で見られることは無かった。

「俺がはやてと医者と患者の関係に成れば、知識が足りず最悪死に至らしめるかもしれないというのに、何故危険な関係を態々望む?」

「あ、そう言う意味やなくて…………………………え〜と……………シャマル、説明頼むわ」

  耳年増なはやては知識もありそういう冗談もよく言うが、自分に言われたり聞かれたりするのは苦手という微妙なさじ加減の持ち主だった。

  その為急に説明をシャマルに回したのだが、速人と会話をしたくないシャマルとしては急にお鉢を回され困ったが断るわけにもいかず説明し始める。

「つまりはやてちゃんは速人さんと昼ドラの様な男女の関係を期待したというわけです」

「…………いや…………シャマル…………もうちょい言い方ソフトにしてくれん?」

  あまりに率直と言うより飛躍しすぎた発言に若干ヒキながら言うはやて。

  そしてその言葉を受け考え込む速人。

「つまりはやては俺と愛欲で爛れた生活をしたかったということか?」

「あ!あい!あい!あいよっ!…………………………………………………………………………愛欲て……………」

  顔どころか体中が真っ赤になるはやて。

≪少しは口を慎め。主がお困りだ≫

  ザフィーラが速人に注意を促す。

  それを受け速人ははやてに確認する。

「そう判断したので発言したが、間違っていたか?そして不快にさせたか?」

「いや間違いでも不快でもないんやけどっちゅうかむしろそうなれたイヤイヤまずは友達からってウチと速人はんは家族やからそのまま本当の家族にってイヤイヤ今も本当に家族なんやけど二人で男女の一線を超えイヤイヤ」

  真顔で問い返され完全にパニックに陥るはやて。

  暫く危険な独り言が続いたが、平日の商店街歩道は人通りが少なくはやてが落ち着くまで不審に思われることはなかった

  そしてはやてが落ち着いた頃速人が話しかけた。

「はやては今の俺との関係が不満なのか?」

「え?」

「俺ははやての家族として団欒・調和・扶助・理解に尽力してきたつもりだが、俺が至らない為に別の関係を望んだのか?しかし俺は性欲を実感した事がないので愛欲の関係は結べない。

  俺に不足しているモノや不満があるなら別のもので代替しようとせずにその箇所を指摘してほしい。可能な限り是正する」

  速人の言葉に驚き一瞬足を止めるザフィーラとシャマル。はやては速人に押されて止まる事無く移動し続けながらも驚きながらも落ち込んでいた。

「なんかスッゴク自分が汚れた人間に思えてきたわ………………」

「は、はやてちゃん、元気出してください。はやてちゃんは別に汚れてなんかいませんって」

  はやてが凄まじく落ち込んでいてシャマルが捲し立てるように元気付けており、はやてに質問するのが難しいので速人はザフィーラに質問した。一応ザフィーラの存在がばれないようにザフィーラを見ずに話しかけた。

「俺の発言の何ではやては落ち込んでいるのだ?」

≪……………私に聞くな……………シャマルにでも聞け≫

  主に尋ねさせようと思ったザフィーラだったが、今の状況を見ればさらに落ち込む可能性が有ると判断した為シャマルにお鉢を回した。自分が答えなかったのは単純に羞恥心からだった。

  はやてが有る程度立ち直りシャマルも一息ついた頃シャマルに尋ねる速人。

「シャマル、先程の俺の言の何ではやてが落ち込んだか解るか?解るなら教えてほしい」

「……………どうして私に聞くんですか?」

「ザフィーラに尋ねたらシャマルに聞くように言われた」

  シャマルの無言の視線にザフィーラは素知らぬ顔で返事を返す。

≪女性の心理についての質疑解答は女性が適任だと思ったのでな≫

≪こじつけにしか聞こえませんけど……………≫

  シャマルはザフィーラにお鉢を返そうかと思ったがその前にはやてがそれを遮った。

「ええよシャマル。あたしの事やし、あたしが答えるから」

  はやては自分を押している速人に振り返り顔を見ながら続ける。

「ウチは今の速人はんとの関係に不満はあらへんよ。たしかにもう少し愛想よくしてくれたらて思てるけど、それでも不満と言うほどじゃあらへんよ。ただ他の関係にもちょっと興味があっただけや。

  落ち込んどったのはウチだけ下世話な事考えとったのに速人はん微塵もそんな事考えとらんで…………っちゅうかそんな事実感もしとらんかったかと思うとえらい自分が汚れてると思って落ち込んだんや」

「不満がなかったなら何よりだ。

  それと性欲は人間の三大欲求の一つだ。その欲求があるから汚れているということはないと思う。睡眠欲や食欲と同じく欲求を充足させる手段に恥を覚える事はあっても、欲求そのものを恥だと思う事は生きる事・子孫を残す事が恥だと思うのと同義だろう。

  ただまだ生殖が不可能と思われる身体で、尚且つ虚弱な身で性行為に及ぶのは身体に過度の負担をかけるので控えるべきと注意しておく。するなら第二次成長が終り体力も充溢した頃にするのを薦める」

「…………………………あ…………うん…………そうやね………………」

  またもや体中を真っ赤にしながら俯きながら言うはやて。

  落ち込んでいるのかと思った速人だったが、そうではないようなので特に問題無しと判断した。

≪ザフィーラ、狙って言ってると思いますか?≫

≪いや、恐らく主を立ち直らせる為だけに言ったのであろう。他意は無かろう≫

≪ですよね…………だけどはやてちゃん振り回されっぱなしですね。…………注意するべきかしら?≫

≪その必要は無いだろう。無遠慮だが無思慮に出された言葉でもあるまい。主は天神との会話を楽しまれている。

  主の危機でないならば我らの判断でそれに水をさす事はあるまい≫

≪………………何時の間に速人さんを名前で呼ぶようになったの?≫

≪主たっての願いでな。家族を名で呼ばないのはやめてくれと≫

  ザフィーラの言に納得するシャマル。

  そしてザフィーラとシャマルが秘密の会話をしている間にもかなりヤバ目の話を速人ははやてにしていた。

「若いというより幼い時に性行為に浸ると正常な人格形成が成されない確率が高い。幼い身に性的刺戟は強烈過ぎ、性の虜になるか廃人になるか自閉症になるかが大半だ。

  未知の体験に興味は有るだろうがせめて二次成長が始まるまでは待て」

「あ、あんな、速人はん。速人はんの言う事は良う解ったから。うん。速人はんがウチの心配してくれているんは嬉しいけど、この話はもう終わりにしてや?聞いてるだけでも恥しいのに誰かに聞かれたら恥しすぎて堪らんし………」

「了解した。今後不特定多数に聞かれる場所での発言を控えよう」

「そうしてや……………なんかえらい疲れたわ…………」

「全身朱に染めるほど血管を広げ血液を循環させれば負担も大きいのは当然だ。羞恥心でそこまでの反応があるとは予測外だった。普段その系統の話を頻繁にするので耐性がついているのかと思ったが」

「う…………話すのはよくても話されるのは駄目なんや……………乙女の微妙な匙加減解ってや……………」

「……………乙女とは身勝手なのか?」

「……………速人はん、そのせりふは世界中の乙女に喧嘩売ってるから以後控えるように」

「……了承した」

「うん、素直なのはいい事や。

  さて、乙女の話やけどな、恋に生きる乙女は恋に関しては少しぐらい身勝手でも許されるんや!これは乙女の特権なんや!重要やからしっかり覚えててな」

  凄まじく偏った知識を速人に教え込むはやて。横でシャマルが苦笑しており、ザフィーラは力一杯力説する主とその発言内容に少々驚いていた。

「全く理解出来ないのだが…………」

「それでもそういうもんなんや。恋する乙女の我侭は大抵の事は許されるんや。そやからシャマルも好きな人出来て恋したら少しぐらいワガママにならんと駄目やで?」

「うふふ、そうですね。そんな人が出来たら少し我儘になりますね」

  そんな暖かい雰囲気を一掃する言葉を速人は口にした。

  思案顔をしながらシャマルを見ながら言葉を発す。

「乙女?」

「「≪………………………………………≫」」

  毎度の事ながら悪意一切無しの胸を抉る言葉を放つ速人。

「はやて、シャマルは容姿も精神も乙女と分類される時期を終えたように思うのだが?

  女性を乙女と言う認識に誤差が有るようだが、はやては乙女の範囲をどれくらいにしているんだ?」

  シャマルの女の自尊心を粉砕する言葉を更に放つ速人。

「主観だが乙女の範囲はヴィータの容姿と精神からシグナムの容姿と精神程までと思っている。

  俺は先程シャマルが乙女を肯定する発言をしたのを少々図々しいと思ったのだが」

  止めとばかりの言葉を放ちシャマルの女の自尊心を擂り潰しにかかる。

  言い方は毎度の事ながら無遠慮だが、言っている内容も毎度の事ながら事実と正論で構成されているのでシャマルは激しく落ち込みながら一人ごちる

「どうせ私は乙女と言う歳じゃありませんよね……………ヴィータちゃんは言うに及ばずシグナムも可愛い女の子ですしあの子も乙女ですし…………どうせ守護騎士で私だけおばさんですよ………………ええそうですともおばさんですよ………………密かに未亡人とか言われていたと知った時はショックでしたけどそれが世間の普通の反応ですよね……………未亡人の乙女なんているわけありませんよね………………」

  シャマルの周りに展開される鬱空間。

「ええ一応22歳ということですから乙女と言うにはたしかに図々しいですよね……………ザフィーラが獣人形態なら夫に珍妙な姿を強要する妻ですもんね……………」

  自身の獣人形態を珍妙と言われて些か腹が立ったザフィーラだったが、シャマルを中心に広がり続ける鬱空間を前にするとその憤りも消えた。

  シャマルの落ち込み様を見てはやてが速人に注意する。

「速人はん!女の人は何時でも乙女で在りたいんやからそういう発言は禁句や禁句!そして速くシャマルに謝る!」

「乙女の定義は理解できないが、たしかに俺が歯に衣着せぬ発言をした為傷つけたのは事実のようだ。謝罪する。済まなかった」

  シグナムの時と同じく自身の非を認め、頭を下げ謝罪する速人。

「……………………………謝罪される直前に凄く馬鹿にされたような感じがしましたけど気のせいということにしておきます…………………結構…………いえ、相当ヘコムんで今度からそういう言い方しないで下さると嬉しいです…………」

「了解した。以後不用意に指摘するのは控えよう」

  若干言い方に不満は残るもののとりあえず場は収まった。

  そして速人は場が収まったのを確認してはやてに尋ねそびれていた事を尋ねた。

「はやて、話は戻るが俺がはやての専属医なることを望むような発言があったが、石田女医に不満があるのか?」

「あ!?」

  思い返してみればたしかにその発言は石田女医に不満があるようにも聞こえる事にはやては気付く。そして直ぐに否定する。

「そんな事あらへんよ!石田先生は本当に良くしてくれてる!不満なんて微塵もあらへんから!」

「ならばよかった。はやての不満を見抜けなかったかと思った」

  その何気ない言葉に先の発言は石田女医を気遣ったのでは無いというのはわかったが、はやてを気遣ったものだという事が解り、三者とも驚いていた。

(石田先生には悪いんやけど、速人はんが私を気遣ったくれたんは凄い嬉しいわ…………)

  はやてが感動している時速人は急に進行方向を変え、ザフィーラは速人の後ろに移動し周囲を警戒していた。

「え?どうしたん?」

「ザフィーラ?」

≪主、御説明は後ほど致しますので今は御容赦を。

  シャマル、直ぐに気を引き締めろ≫

  そう言うと疑問の声を無視し、少し小走りで来た道を少し戻り、青信号になっていた歩道を渡り、先程までいた向い側の歩道の路地に入った辺りで普通の速度に戻した。

「説明も無しに付き合わせて済まない」

「急に急いで移動したと思ったらこんな所で落ち着いて、一体どうし―――」

  はやての言葉を掻き消すように鳴り響く銃声。

「先程懐に銃火器を入れたと思しき者が金融機関に入っていくのを見たので、急ぎその場所より離れたわけだ。

  一応この距離と遮蔽物を挟んでいれば大丈夫とは思うが、念の為さらに離れよう」

  その発言にザフィーラは頷き、速人と押されているはやて共に更に移動を始めた。シャマルは慌てて直ぐ後を追う。

  そして現場にミサイルでも打ち込まれない限り大丈夫だろうと思われる距離まで離れると一行は一息ついた。

「ふぇ〜驚いたわ〜」

「私も驚きました。よく事前にわかりましたね?」

「銃社会で暮らしていれば自然と身に付くものだ」

≪あの程度の危機を察知出来なくば盾の守護獣は名乗れん≫

  速人とザフィーラの意見に感心するはやて。

「ふわぁ〜、速人はんもザフィーラも凄いわ。あたしは全然解らんかったわ」

「そこを補正する為にザフィーラやシャマルが同伴している。気にする必要はない」

「それでもお礼はきちんと言わなあかん。ありがとな、速人はん、ザフィーラ」

「ああ」

≪有り難き御言葉≫

  そんな会話をシャマルは複雑な心境で見ていた。

(何も出来なかった…………たしかにザフィーラが危険を察知するのは納得いきますけど、速人さんが危険察知できて私が察知できないなんて……………。

  魔法じゃなくて質量兵器が原因といっても、私が後方支援担当で直接戦闘に関わる事が少ないといっても……………ヴィータちゃんが落ち込んだのも良く解るわ………………。

  魔導師でも何でもないただの一般人に遅れをとればホント守護騎士のプライドずたずた……………)

  シャマルがそんなことを考えているとザフィーラから話しかけられてきた。

  シャマルは自身の失態に対する注意かと思ったがそれは違った。

≪先程の危険を感知できなかったことなら悔いる事はあるまい≫

≪え?≫

≪私も漠然とした危険しか察知できなかったのだ。質量兵器に詳しくなく後方支援を主としているならあの危険を察知できなくても仕方あるまい≫

  ザフィーラのフォローは最もだが、それでも一般人にベルカの騎士たるシャマルが遅れをとったという事実は消えない。

  ザフィーラもそれを感じ取ったのか更にフォローを入れる。

≪天神はたしかに魔導師でもなく肉体的にも未成熟だ。しかし全体を見渡す観察力と周囲への警戒とそれを基に下される判断は尋常ではない。あの無感情さもこれらの代償と思えば納得もいくという程のものだ≫

≪えらく速人さんを買っていますね≫

≪能力は正当に評価する。ここ最近天神を観察していた結論だが、天神は魔法が行使できず身体能力も低いがそれ以外の能力は極めて高い。魔力による探知等は出来ないが、それを用いない危険察知能力は私と然程変わらないだろう≫

(ヴィータちゃんのように信用から来る評価ではなくて、客観的に評価しているのね…………。

  そういえば初めて速人さんを見た時にザフィーラは警戒していたけどあまり嫌悪は抱いていなかったわね………………。ザフィーラも速人さんも全体から一歩引いた感が有るから何か通じるものが有るのかしら……………)

  シャマルがそんなことを考えている間にはやてと速人は発砲事件について話していた。

「そやけど銀行にいる人たち大丈夫やろか?」

「そこのカフェテラスで休みながら内部映像でも見るか?」

「ほえ?そんなこと出来るんか?」

「30秒もあれば出来る」

「それなら直ぐ見せてや」

「了解した」

  速人はその旨をザフィーラとシャマルに告げ、一行は直ぐ近くの発砲事件で多少ざわついているカフェテラスで腰を下ろし速人のパソコンを覗き込む。

  クラッキングの最中に店員が注文を受けに来たので(画面は店員から見えない位置にある)軽食と飲み物をそれぞれ頼み(紙皿にザフィーラの分もはやてが注文した)、店員が去った辺りでクラッキングは終了し店内の映像がモニターに表示されたので全員が覗き込む。

「うわ!立て篭もっとる!」

「と言うよりは何らかの原因で防災シャッターが降り全員閉じ込められていると言った方が正しいだろう」

「銀行がそうしたんやろか?」

「自身の安全より犯人確保を優先したならそうだろうが、この狼狽振りを見る限りは違うだろう」

「ってことは事故なんやろか?」

「操作履歴を見る限り防災シャッターを下ろす操作をした者はいないな。故障か誤った設定をされていたかだろう」

  そう言っている時画面の銃を持った者が次々に防犯カメラを破壊する。そして砂嵐が画面に走った。

「残った監視カメラでは状況は確認できないな。防犯機能でサーモグラフィが出せるが見るか?」

「いや、ええよ……………中の人たち大丈夫やろか?」

  心配げに呟くはやて。シャマルとザフィーラはそれぞれの位置に戻っていった。

  そして丁度注文の品が来たので受け取り、伝票を確保しながら速人は言う。

「余程警察が低能でない限り全滅はしないだろう」

「全滅?」

「銀行強盗にしては不釣合いな銃を2名所持していたからな。予備弾丸の数にもよるが、警官及び民間人合わせて10名程は死傷するだろう」

  速人の言葉にはやては驚いていたが、ザフィーラとシャマルは顔を顰めただけでさして驚きもしていなかった。

  自分一人だけ驚いている事にも驚きはやては声を上げる。

「あ、あれ?なんで私だけ驚いてんの?速人はんも何でそんな淡々としてるんや?」

「俺達に害が及ばないからだが?」

  速人の口から全く人質に対する気遣いが無い事に衝撃を感じるはやて。

「人質の人達可哀想とか思わんの?警察に協力しようとか思わんの?さっき見た画像の事を教えれば簡単に終るかもしれんのに………」

「人質になった者は周囲への警戒が足りていないのが原因だ。注意すれば対処することも出来た。それを怠った者に憐憫をかける道理は無いと思うが?」

「…………それじゃあ警察に協力しようとかは?」

「協力すればクラッキングした事実が発覚し訴訟問題なる。

  それ以前に日本警察は基本的に手柄を奪い合い責任は擦り付け合う機構だ。事件の損害を自身が被らない限り関係を持とうとは思わない」

(………………………………最近私達に気い遣ってくれるようになったから気のせいやと思っとったけど、なんか私達以外に速人はん冷たくあらへんやろか…………)

  胸に湧いた疑問を速人に投げかけてみるはやて。

「速人はん……………なんかウチ達以外に冷たくあらへん?」

「たしかに客観的に見れば冷酷な考えかもしれないが、それがどうかしたか」

「何でウチ達意外に冷たくするん?みんなに優しくしたらいいやん?」

  多少声を荒げるはやてだが、銀行襲撃の事件が周囲に知れ渡りざわついている為はやての声が特に不振がられることは無かった。

「家族を優先すると決めたならば、優先外の物事は扱いが悪くなるのは当然だ。

  ……………先程からどうした?普段の聡明さが伺えないが病気か?」

  その速人の言葉に落ち込むはやて。

(……………最近速人はんがどんどん優しくなってきたと思っとったら、他の人に回す分が私達に回ってきてたんか…………。

  ははは………なら速人はんが最初から持ってたモノは全然増えとらんことになるな…………私一人で速人はんが優しくなったと浮かれとったけど、全然速人はんを理解してなかったんか…………速人はんは最初から変わっとらんかったんや……………)

  自分の今までの浮かれ具合に酷く落ち込むはやて。

  それを見て速人は直ぐにタクシーを呼び家に帰る手配をした。

  普段なら国道に面しているこの位置なら直ぐにタクシーが来るはずなのだが、事件が発生し交通規制がかかっているためか余った料理を詰めてもらい代金を支払ってもまだ来ていなかった。

  ザフィーラとシャマルははやてが落ち込んでいる原因が速人関係であるとは解っていたが、思い返してみても速人に落ち度はなさそうなので責めはせずにはやてを気遣っていた。

  そしてはやては、ザフィーラとシャマルの気遣いの言葉を聞きながらも呆と考えていた。

(私はこの半年以上速人はんの何を見てきたんやろな…………速人はんは私を理解してくれてるのに私は全然理解しとらん…………

  何してきたんやろな…………私………)

  その様子を眺めていた速人は懐からタクシーチケットの束を取り出しシャマルに渡した。

「用事が出来た。はやての帰宅を任せても構わないか?」

  ザフィーラとシャマルを見ながら告げる速人。

  両者共に頷いたの確認し、速人は一人その場を離れた。

  速人がその場を離れると同時にタクシーは到着した。

  タクシーはザフィーラとシャマルと呆然とするはやてを乗せ八神家に向かった。

  それを確認した速人は人気の少ない所に移動し始めた。

 

                                     

 

  はやてが消沈した状態で家に戻ってきてシグナムとヴィータは大慌てした。

  何時も温かい笑顔を浮かべているはやてが見る影も無いほど落ち込んでいるので、診断結果が芳しくなかったのかと思ったがそうでもなく病気でも恐らく無いと聞き、ひとまず安堵したシグナムとヴィータ。

  そして直ぐに気を取り直し落ち込んでいる理由をザフィーラとシャマルに尋ねたのだが、返ってきた返答は、原因及びその一端が速人ということに間違いはないが理由も落ち度も見当たらない、というものだった。

  速人本人に尋ねようにも用事が出来たと言い、未だ戻らず尋ねることすら出来ない。

  自分を気遣う守護騎士達を見てはやてはこれ以上心配させてはいけないと気持ちを切り替える。

(ふぅ……………これ以上落ち込んでみんなを心配させてもいかんし、とりあえず空元気も元気のうちやし元気ださな……………)

  そう思いテレビをつけチャンネルを変えていく。

  料理番組を見る気も起きずチャンネルを変えていたら先の銀行襲撃事件の中継が映っていた。気になりそのチャンネルに固定したら、次々に気になることを喋るリポーターにはやては意識を向けた。

  リポーターが言うには襲撃事件後突如最寄りの警察署にクラッキングがあり、一方的に犯行現場の防犯カメラ破壊時までの映像記録、防犯機能のサーモグラフィの現在までの記録及び現在の映像、犯人と思われる者の所持武器及び経歴、これらがモニターに表示されたらしい。

  監視カメラの映像とサーモグラフィを照合し、犯人の正確な位置を知る事が出来、SITが現在投降を促して続けており、時間が経てばSATが到着し突入準備に入る予定のようだった。

「こ、これって…………」

  呆然と呟くはやてに肯定の意を示すザフィーラとシャマル。

≪恐らく天神がしたことでしょう≫

「どうやったかは解らないですけど、これをする為に一人でどこかに行ったんですね」

  その言葉を聞き速人がしたことだという確信を強め考え込むはやて。

(速人はんは何であんなことしたんやろ…………したく無いとしか聞こえんこと言っとったのに……………)

  落ち込んでいる為普段なら簡単に思い至ることに思い至れないはやて。

  そんな折鳴り出す電話の呼び出し音。

「こちら八神家だ。………ハヤトか」

  その言葉に全員の視線がヴィータに集中する。

「あ、うん、分かった、伝えるよ。って、おいハヤト!お前はやてが元気ない原因知らないのか?

  ……………………………は?原因を除去しに行った?おい、はやての様子変わって無いぞ?ってはやて?………とにかくはやてに代わるぞ」

  はやてが代わってくれと目で訴えた為直ぐに代わるヴィータ。その時相手側の音声をスピーカーモードにするヴィータ。

  シグナムが見っとも無い真似するなと目で訴えていたが、はやてが特に気にしていないのでそのままとなった。

「速人はん」

『こちら速人だ。何だ』

「テレビに出てること……………速人はんがやったんか?」

『この近辺の警察署をクラッキングしたことならはやての結論通りだ』

  想像通りの答えに渦巻いていた疑問を投げかけるはやて。

「……………なんでそんなことしたん?警察に協力したくないって言うてたのに…………」

『はやてが人質救助に助力してほしそうだったと判断した為だが。

  それと訂正しておくが俺は警察に協力はしていない。不正に情報を送りつけ警察署のコンピューターを不正操作しただけだ。警察にしても協力ではなく犯罪行為としか認識していないだろう』

「……………………なんでウチの為に?」

『家族の調和を維持するのは家族なら当然だろう。………………病を患い思考能力が落ちたのか?外出の途中から普段の聡明さが伺えないぞ。消化のいい補助食品でも食べ直ぐに就寝するといい。

  それとシグナムかシャマルがその場に居るならに代わってくれ。居なければヴィータにもう一度代わってくれ』

  そう言われシグナムに代わるはやて。代わりながら今言われた事を基に考えるはやて。

(家族なら当然……………それも他の人に回す優しさが回されたんやろね……………)

  そんなことを考えながらシグナムに話す速人の声を聞く。

『詳細は省くが現在警察に不正を働いた事が発覚しない為に移動中だ。俺とはやて達に繋がるモノは何一つ残していないつもりだが、それでも警察が事情聴取に来た折は白を切り透すか全て話すといい。

  この件で俺とはやて達の接点は一切無い為俺がどれだけ罪科に問われようとはやて達は罪科に問われない。その時最善と思われる選択を評議するかその時間が無ければ応対者が決めるといい』

「解った」

(…………あれ?)

  不意に胸に湧いた疑問を速人に問いかける為に直ぐにシグナムから電話を代わってもらうはやて。

「速人はん、なんでそんな危険なことしたん?」

『……………急性脳炎でも起こしたのか?直ぐに体温を測り体温を教えてくれ』

「いいから直ぐに答えてや。体温はその後測るから」

『…………了解した。理由は先程述べた通り、家族の調和を維持する為だ』

「自分が危険な目に遭うかもしれんのに?」

『そうだがその確率はかなり低い。万に一つも無いな』

  その言葉を聞きはやては少しだけ考え込み更に問いかける。

「………………その万に一つも無い確率を引いてもうたらどうするん?」

『その時は素直に法廷に出頭するしかないな』

「………………お金とか払って揉み消したりせんの?」

『金銭の浪費はするなと言ったのははやてだが?』

「………………………………速人はんが居なくなったら家族の調和が崩れるとか思わんの」

  一番気になった事を尋ねてみたはやてだが、その返答は今までの返答と変わらず淡々としていた。

『崩れはするだろうが然程影響は無いだろう』

  自分の存在の欠落が大事では無いとあっさりと言い放つ速人。

  その言葉にはやてだけでなく守護騎士達も個人差はあるものの驚いていた。

「…………ウチ達が悲しまんと思っとるの?」

  声は静かだが【自分の想いを軽んじたとすれば赦さない】と、言外にその言葉を籠め速人に尋ねるはやて。

「恒常的にほぼ無条件に優しさを振りまくはやてが悲しまないと思う程俺は疎くない。

  然程影響が無いと言ったのは俺の全能力をシグナム達は上回っている為、俺の欠落が全体に与える影響は微々たるものということだ。

  現在俺の家族の中の立ち位置は可動歯車だろう。集団・組織・仲間、呼び方は様々だが群中の可動歯車…………無能者は適当な場面で使い潰すのが正しいあり方だと思うが?」

  はやての問いに対しては微妙な答えだったが、その後の話に全員驚いていた。

  自他に対し何処までも冷徹な判断を下し、己を群の中の一部品として最も有意義な運用を行う事に一切の躊躇いが無いその姿は、群を構成する一個体としては理想の在り方だった。

  度を越した客観性と合理性を持つ故に、自我が在っても自己が欠落しているという、人間として非常に歪な面が浮き彫りになり息を呑むはやて。

(…………そうか…………速人はんは自分が想う事も感じる事も、全部どうでもいい事と思っとるから自分を省みないんか…………。

  自分の痛みに感じるものが無いから他の人の痛みにも酷く鈍感なんや………。

  そして元々他人の痛みに鈍感なら、優先するモノが出来た時容赦無く冷たく出来る。

  …………………………なんや…………速人はんの優しさは他人に冷たくして余ったモノをやなくて、純粋に私達に対して生まれたモノや…………。その結果誰かに冷たくしてもそれは私達に対して生まれたモノや………。

  何勝手に勘違いして落ち込んでたんやろ…………)

  自分の中で速人に対する見識を今度こそ確固とし、そして反省すべき点も見出すはやて。

(今回一番駄目だった点は速人はんが変わってないと思って落ち込んだ事や。

  速人はんが12年も手に入れられんかったモノを、半年で何かの成果を期待した事が駄目駄目や。私が持てる精一杯で頑張り続ければ、何時か成果は出ると信じてひたすら頑張るんや。成果が出ないからて悲しむのはともかく落胆なんてしたらあかん。)

  はやては自身の最大の反省点を洗い出し、反省する。

  そして更に反省しようとした時に速人から声がかかる。

『急に沈黙してどうした?』

  速人のその言葉にはやては会話中だということを思い出し、自身の反省を後回しにしてとりあえず速人の対する文句を言うことにした。

「怒ってたんや。今ウチは物凄お怒っとる。

  速人はん。さっき自分が居ても居なくなっても大したことや無いと言うとったけど、二度とそんなこと思ったら駄目やで。ウチは家族の誰が居なくなっても悲しい。ヴィータも悲しむ。シグナムとシャマルとザフィーラはまだ速人はんと仲良くないから悲しまんかもしれんけど、それでも犠牲になって喜ぶようなことだけは絶対にせん」

『……………まるで理解も納得も出来ない。郡中の不穏分子及び無能乃至低能な者は排斥されるのが正しいと思う。故にシグナムが俺に対して汚物の如く嫌悪し排斥しようとする行為は極めて自然だと思う。

  はやて、家長ならそれくらいの判断が出来るようになるべきだと思う』

「速人はん………無能とか低能とかでウチは絶対に家族を切り捨てんよ………」

  珍しくはやての意見に食い下がる速人に、はやても絶対に引く気は無いと言葉の節々に滲ませる。守護騎士達は急に元気になった主を喜んではいたが、主の怒りにどうしたものかと事の成り行きを見守っていた。

『言い方を変えよう。俺は無能でも低能でもなく害悪だ。

  俺がいるだけで多くの守護騎士の団欒と調和を乱し、俺の能力で扶助可能な範囲は全て守護騎士がより高度に実現可能で、俺は在り方が歪な為他者の理解が困難で他者も俺の理解が困難だ。

  俺は家族の為に尽力すると言った。ならばこれは当然の行動だ』

  自身の発言を遵守する為に徹底的に自分を否定する速人。

「速人はんも家族やんか!なんでそないな事言うん!?」

『たしかに家族だが家族そのものではない。それと落ち着け。話の基点となっているだろう法廷に出頭する話だが、万が一にも起こりえずしかも既に賽は投げられている。今議論しても完全に後の祭りだぞ』

「後の祭りとか関係あらへん!ええか速人はん!これだけは今言わな収まらんから言うとくけど、ウチは何があっても家族の誰かを無駄とか邪魔とか言うて切り捨てるなんてせえへん!速人はんがそんな理由で出て行っても這ってでも探して連れ戻す!!」

『…………………その結果家族全体を危機に晒すのか?はやて一人の独断で』

「そうや。速人はんに限らずシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、誰がそんな真似しようとしても絶対止める」

『…………………………ならば俺を除いた家族の半数を超える者が俺の欠落を認めない限り、俺ははやてのその決断を受け入れよう。それが最大限の譲歩だ』

  その発言を聞きはやては瞬時に考えを巡らす。

(速人はんはこれ以上少しも譲歩する気も無いやろし、迂闊な事を言えば直ぐに交渉決裂でそのまま二度と会わない気や。

  ……………今速人はんが残ってくれる事に賛成するのは私とヴィータ。反対するのはシグナム。賛成はないけど反対もしないかもしれないのはザフィーラとシャマル。賛成者が2名以下なら駄目て言われとったら駄目やったけど、これなら先に反対者だけ数えれば大丈夫や)

  はやてらしかぬ高速打算を展開し、しかし守護騎士達に口裏合わせを頼まず、正々堂々と採決を取るはやて。もし反対者多数の場合は這ってでも追いかける覚悟をして。

「みんな、聞いての通りや。あたしに気にせず正直に答えてや。正直な答えならあたしはどんな答えでも怨まんよ。あたしは嘘で家族を縛る気は無い」

  守護騎士達を振り向き真剣な目で語りかけるはやて。

  その目を見てその言葉に一切の嘘偽りは無いと確信し、速人を心底望みながらも決して不正を働かず清廉潔白であろうとするその姿勢に、改めて敬意を払う守護騎士達。

「速人はんの欠落を認める者は手挙げてや」

  迷わず挙がる手はシグナム。はやてはそれが予想できていたとしても恐怖で身を竦めた。

  そして次いで迷いがちに挙がる手はシャマルだった。それを見てはやてはもう後が無い事に恐怖で身を竦めた。正直な話、泣いて頼んで手を下ろしてもらいたかったが、下唇を出血するほど噛み締めそれを堪えた。

  残るヴィータと何時の間にか獣人形態になっていたザフィーラを見るはやて。

  決して縋り付く真似はしないが、それでもどちらも挙手しない事を期待せずにいられなかった。

  はやての視線を受けヴィータは首を振り挙手を拒否。

  そして全員の視線を受けたザフィーラは静かに目を閉じて首を振り挙手を拒否した。

  それを見て全身脱力するはやて。

  安堵の溜息を吐きながら速人に報告する。

「速人はん。速人はんの欠落を認めるんは2名や。そやからウチの言った事守ってな」

『了解した』

「…………………なんか凄く軽い返答なんやけど……………まぁ何時ものことと思って納得するわ。

  それと、そういうわけやから今度から絶対に自分を使い捨てと思ったら駄目やで」

『了解した。話が以上ならこの電話を破棄して急ぎこの場を離脱したいのだが構わないか?』

「電話を捨てるのもったいないと思うけど、そうも言ってられそうに無いのも解るし、構わんよ。何時頃戻ってくるん?」

『明日の17時までには戻る』

「分かった。それじゃあ出来るだけ速く帰って来てや」

『事を仕損じない範囲で善処する。それと先程述べた通り一応体温を計測し36.5度を超えているなら大事を取り休むといい』

  そう言い残し電話は切れた。

  はやては受話器を本体に設置した後にヴィータに振り向き謝った。

「ゴメンなヴィータ。速人はんと喋りたかった筈なのに勝手に切ってもうて………」

「べ、べつにハヤトと電話で話すことなんてねえからはやてが謝ることないぞ」

「そうやね。ヴィータは速人はんが帰ってきてから話すんやもんね」

「う〜〜〜〜〜〜」

  はやてにからかわれ怒りはしないが唸り声を上げるヴィータ。

  そんなヴィータを微笑みながら見ていたかと思うと、ヴィータをしっかりと見据えて話し出した。

「ヴィータ。さっきは手挙げんでくれて本当に嬉しかった」

  正面から礼を述べられて照れるヴィータ。

「へへ、はやてが嬉しいならアタシも嬉しいぜ」

  はやてはそれに頷き、そして何時の間にか狼形態になっていたザフィーラにも同じ様にしっかりと見据えて話し出す。

「ザフィーラ。さっきは手挙げんでくれて本当に嬉しかった」

  さっきと変わらない言葉ながらも、籠められた真摯な想いの礼を受けてザフィーラは静かに返す。

≪礼を述べられる事は何一つしておりません。が、その御言葉嬉しく思います≫

  はやてはまたそれに頷き、そしてシグナムとシャマルを交互に見据えて頭を下げてまたお礼を言った。

「シグナム、シャマル。さっき手を挙げた時は本当に怖かった。泣いて手を下ろしてってお願いしたい程怖かった。

  だけど嘘で家族を縛りたく無いっていうた言葉を酌んでくれて、嘘吐かずに正直に手挙げてくれたのは本当に嬉しかった」

  恨み言を言わず、今までと同じく感想と感謝を述べるはやて。

  それにシグナムは返事に困りながらも返事をする。

「私の発言で主はやてを不快にさせたにも拘らず寛大な御言葉痛み入ります。

  高潔且つ清廉潔白な貴女が主である事に深い喜びを感じます」

  シグナムは形式ばった言い方ではあるが正直に返事をする。

「……………………………………」

  しかしシャマルは酷く落ち込んでいるらしく、返事をせずに俯いていた。

  それを不審に思いシグナムが声を掛ける。

「シャマル。返事がないがどうした?」

「………えっ!ど、どうしたのシグナム」

「どうかしたのはシャマルの方だろう。主はやての感謝の言葉に返事は無いのか?」

「ご、ごめんなさいはやてちゃん。ちょっとはやてちゃんにお礼を言われて考え込んでしまってて………」

  慌てて頭を下げるシャマル。

「どうして私は手挙げたんだろう、って」

「シャマル…………まさか主はやての問いかけに嘘偽りが在ったのではあるまいな………」

「いえ、手を挙げた時理由は解りませんでしたけど、挙げた事に嘘偽りは微塵もありません」

  シグナムの静かに怒気を孕んだ問いかけにきっぱりと否定するシャマル。

  他の者達はそんな両者を静かに見ていた。

「正直私は速人さんをシグナムの様に否定しているわけでも、ザフィーラの様に評価しているわけでも、ヴィータちゃんの様に信じているわけでもないです。よく解らない不気味さは感じますが、居ても居なくてもどちらでも構わないので、自分から意見をするつもりはありませんでした。ですので中立、若しくははやてちゃんの望む方に就くつもりでした」

  その言葉を黙って聞いている全員。

「ですので自分が手を挙げたのを自覚して驚きました。どうでもいいなら何故はやてちゃんを不快にさせる選択をしたのか。

  そんなことを考えていた時はやてちゃんが正直に手を挙げてくれて嬉しいと言ったのを聞いて、正直に手を挙げる程存在を否定していると仮定したら瞬く間に疑問が氷解しました」

「その理由とは何だ」

「私は守護騎士の中で参謀という立場ですけど、私が行使できる魔法がそれに適しているだけで私自身が適しているわけではありません。だけど速人さんはこれ以上無い程参謀に適しています。冷静に周囲を観察し、蓄えた知識を基に理解を更に深め、不要と判断すれば自分すら切り捨てる冷徹さ。平時は調和を重んじ、扶助する事を厭わない。

  私が理想とする要素を全て持っているにも拘らず、案山子や人形の様に空ろな有様を思い出し、自分の理想の体現者があんなモノだっと思うと……………速人さんの存在を激しく嫌悪しました」

「………そうか」

  シャマルの言い分に思うところはあるが納得したシグナム。

  シャマルははやてに向き直りはっきりと言った。

「たしかに私は速人さんを嫌悪していますし関わりたくないです。けど評価し認めています。

  先程の挙手は感情だけを優先したものでした。申し訳ないですけど先程の挙手は取り消させもらえませんか?」

  その言葉を受けはやては何時も通りの温かい微笑みに苦笑を浮かべながら言う。

「心底嫌悪しているみたいなのは残念やけど、こうまではっきりと理由を言われたら文句も言えへんなぁ。

  それと挙手の取消しやけどな、あたしは構わんけど別にあたしが評議長てわけでもないし、次またこういう時があったときに手挙げなそれで済むと思うで?」

「分かりました」

  そう言い何時もの柔和な面に戻るシャマル。

「うん、なら重苦しい話はこれで終わりや。また楽しく皆で暮そうや」

  はやてが明るい声でそう言ってヴィータを振り返り話しかける。

「ヴィータ、軽食屋に行った余り物のフルーツサンドやけど食べるか?」

「食べる食べる!お〜イチゴ入りもあるぜ!…………ってはやて、なんかこれ余り物にしては量多すぎないか?」

「へ?」

  そう言いながら箱を除いてみると確かに6人前程はある。そもそも箱自体が残り物を包むにしてはしっかりとして不釣合いに大きい。

「あ、それは留守番役へのお土産らしいです。余り物は実は速人さんが持って行っていきました」

「二人へのお土産にしては量多すぎん?」

「多分私達全員分のお土産と言う意味もあるんでしょう。あとよく食べるヴィータちゃんを考慮すれば妥当と思える量ですね」

「ははは、よかったなヴィータ。沢山食べれるで」

「む〜〜〜。何か馬鹿にされてる気がするけど、ま、いいか。

  はやて〜。もう3時だしおやつで食べていいか?」

「そうやね、小腹も空いたし食べようか?」

「おう」

  ウキウキしながら皿を取りにいくヴィータ。

  速人が居なくて若干寂しくはあったが、家族への理解が深められた事に満足しながらはやては皆とお茶を楽しんだ。

 

 

 

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(あの頃から速人さんをとても意識するようになったんですけど、間違っても恋なんて甘いものじゃ絶対無いんですよねー)

  たしかにシャマルが速人に抱く想いや感情は忌避や嫌悪だった。

(別に嫌いたいわけじゃないんですけど、やっぱり苦手意識が全然拭えません)

  シャマルはテーブルを台拭きで拭きながらそんな事を考えていた。

  速人はそんなシャマルの思惑など気にせず新たな開発の基礎理論を構築していた。

  構築した理論を打ち込みながら夕飯の献立を何にすればヴィータの意に沿い、他の者を不快にさせずに済むかを考えていた。

  ザフィーラは周囲を警戒する以外は特にする事も無く、静かな一時を楽しんでいた。

  必要な話以外は話が起こらず・続かず・直ぐ終る、と三拍子が揃った面々ではあるが、それを苦に思う者は居らず、結果はやて達が戻ってくるまで静かな時間が過ぎていった。

 

 

 

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  第五話:波乱より生まれた平穏――――了

 

 


【後書】

  ようやく守護騎士達の速人に対する心象説明が終わりました。今回は恐らく誰が見てもグダグダだらだら中弛みした締まりが無く鬱陶しい展開の話になりました。

  今回は只管に遣り直しを重ねに重ねましたが、その割に全然綺麗に纏まっていないので本当に凹みます。

  次回からはようやくA‘S本編が始められます。ただ本編と相当毛色が違った物になる可能性が高いので見られる際は御覚悟を。

 

  今回も守護騎士達の話のはずですが、見て御解かりの通りはやてが主役になっています。何故か遣り直す毎に当初の予定と大幅にズレ、このような結果に………。

  ザフィーラとシャマルは一応心象説明がありますが、相当薄いです。何度遣り直してもザフィーラは兎も角シャマルの描写が殆ど無く、最終的にザフィーラの説明が相当薄くなりましたがシャマルも説明が薄いと言える程度まで濃くなったのでこの形で落ち着きました。

 

  進歩がないどころか高速で退歩するこの駄SSを掲載して頂いた上、埋蔵金を発掘するかの如く長所を探して感想を書いて頂いている管理人様に深く感謝を申し上げます。

  そしてこのSSを読まれている方、見るに耐えない程幼稚な文を御読み下さり感謝します。




やっぱり速人の考え方は面白いな。
美姫 「あっさりと他者を切り捨てるのね」
で、そうしておきながら家族の調和の為に動いたり。
感情じゃなくて、理論とかで本当に動いているんだなーと。
美姫 「これから変わっていくのかどうかも楽しみな所ね」
だな。シャマルの速人に対する気持ちも分かったし。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待ってます。



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