この物語はオリジナル主人公登場の魔法少女リリカルなのはA‘Sの二次創作です。
自分の文才の無さが原因で登場人物の人格及び性格が変わっている可能性もあります。その様な事に耐えられない方は気合を入れられて見るかブラウザの戻るを押される事をお勧めします。
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魔法少女リリカルなのはA‘S二次創作
【八神の家】
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１０月も残り僅かという日の深夜、速人の自室がノックされた。
現在時刻はおよそ０３時。この時刻に尋ねるのは今でも稀に同衾しようとするはやてや、それを追いかけて来るヴィータだが、両者共まずノックはしない。
速人は侵入者の可能性を考えたが魔法でも行使されない限り侵入はまず不可能と言え、魔法を行使する者が不正侵入を果たしているのなら態々ノックなどしないと考え家族の中の誰かと言う結論に至り、念の為に違法改造スタンガンを持ちながらドアを開けた。
するとそこにはヴィータ、ザフィーラ、シャマル、シグナム、と、守護騎士が全員揃っていた。
「話したい事がある。部屋、入るぞ」
ヴィータはそう言うと返事を待たずに部屋に入ってきた。速人はそれを特に咎めず、後ろにいるザフィーラ達にも入室を促しながら上着を羽織、その内ポケットにスタンガンを納めた。
全員入室し部屋に明りを点け、守護騎士達をベッドに腰掛けるように促し速人は部屋に一つしかない椅子に座る。
そして速人は話を促す。
ヴィータが話し出そうとしたが、シグナムはそれを制止し自身が話し出す。
「話したい事は主はやてについてだ」
シグナムはそう述べ、はやての病状の原因について語った。
要約すると長年傍にあった闇の書が原因ではやての身体に異常を齎しているということ。
それを解決するには魔導師の核、リンカーコアというモノを蒐集する必要があるということ。
シグナムの話を聞き終わり速人はまず本題に入る前に確認する事を尋ねた。
「何故その話を俺にした？」
「家族なら話すべき、知らせていないと不審に思われる、お前の下す判断を参考にしたい、これらの意見が出た為だ」
「解った。なら疑問に思ったことを尋ねるが構わないか？」
「何だ？」
「１．書の頁を蒐集し終えればはやては健康体になるのか。
２．蒐集作業完了がはやて死亡迄に間に合うのか。
３．蒐集途中及び蒐集完了後、蒐集された者達若しくは属す組織、それらが報復若しくは拿捕乃至逮捕に及ぼうとする危険性についての対策。
以上３点が確認したい事だ。特に蒐集行為がはやての治療に繋がる所が凄まじく疑わしい」
簡潔に問題点全てを列挙され、シグナムはどれから答えるかと考えていたところヴィータが話し出した。
「ハヤトも蒐集して治るというのがおかしいと思うか？」
ヴィータは仲間を見つけたような目で速人を見て言った。
「おかしいと言う程俺は闇の書と呼ばれる物の機能については知らないが、腑に落ちない点は幾つかある」
「何だ？教えてくれ」
「それは構わないが俺の質問に答えはないのか？」
その言葉にシグナムが応える。
「ヴィータ、とりあえず天神の質問に答え終わってからにしろ。
さて質問の１つ目についてだが、長期間蒐集行為を行わない事が原因で主はやてのリンカーコアを侵食しているのだ。原因を排除すれば治るのは当然だろう。
２つ目だがそれは如何なる手段を用いてでも間に合わせる。
３つ目だがその全てから主をお守りするのが我ら守護騎士達の役目。そして主はやてが覚醒されればそのような者達物の数にもならない」
その答えを聞きしばし思考し、新たに発生した疑問を投げ掛ける速人。
「蒐集活動の不安定さと不確定さを考慮すれば、２・３番目の質問に明確な答えが無いのは仕方ないが、１番目の質問の答えはやはり腑に落ちない。
蒐集を行わないと持ち主を侵食する機能を有す代物が、侵食条件を排除したからといって持ち主が何の不利益も被らずに利だけ得られるとは思えない。持ち主を侵食するのは書の頁を完成させる為持ち主に対する強制手段の一つと思え、強制手段ならば書の目的は持ち主に使用される事ではなく持ち主を利用し何かを成す事、俺はこう思う。
…………最も現状でそれ以外に解決案が無いのなら選択の余地は無いだろうが」
「選択の余地がないならお前は蒐集活動に賛成なのか？」
「まだ質問がある。書が完成した時にはやてに力を行使させ、向かって来る者を死傷させる気か？念の為に言っておくが余程の事がない限りその選択をはやてはしないだろう。そして仮にその選択を採っても後に一人で落ち込むのは容易に予想できる。
初めからはやてを当てにするのは止めておけと言わせてもらう」
そう言われ瞳を閉じしばし瞑目するシグナム。
「そうだな。主はやてに屍山血路を歩むことを強制することはしない。そしてそうならぬように最大限力を尽くそう」
「それがシグナム達の総意ならば、蒐集行為に疑問はあるが反対する気はない」
「そうか」
それを聞き、話が終るまで黙っていたヴィータが話しかけてきた。
「ハヤト、蒐集に疑問持ってるのに反対しないのか？」
「先程述べたが選択の余地はない。何も行動を起こさない場合遠からずはやては死に至るだろう。死を回避する為に少なからず危険を伴うのは仕方ない。
詳しくは知らないが蒐集行為を行わないという類の約をはやてと結んでいるようだが、それを遵守されると家族が崩壊するので俺としては両者に譲歩してくれとしか言えない」
「な！？ハヤト知ってんのか！？」
ヴィータは驚いて声を荒げながら聞き、他の面々も若干驚いた表情で見ていた。
「相談を受けた時に思い至れた。約を交わしていないならばははやてに事情を説明するか秘密裏に蒐集行為に勤しむかの大きく分けて二択だ。
しかし事情を説明してもはやては自身の命が天秤に懸かっているからといって他者を傷つけることを良しとしないので蒐集行為を実行しないよう言い渡されるだけだ。秘密裏に動く場合俺に話せばはやてに話が伝わる可能性があるので話す道理はない」
「…………そっか」
ヴィータは小さく呟き納得し、他の面々も納得した。
「………………なぁハヤトは…………蒐集するの良い事と思うか？」
「思わない」
ヴィータの弱弱しい質問を即否定する速人。
驚くヴィータに話しかける速人。
「危険無く、約を違えず事を進めるのが理想だ。蒐集する案は最善かもしれないが理想とはまるで違う。
理想を実現できず代替案を選択するなら、支払うモノや背負うべきモノは少なからず発生する。それが不服なら実行しないか少しでも理想に近づけるように尽力するしかない」
「……………そうか……………。
たしかに他に遣り方が有るかもしれねえのに、見つける時間も力も無いのはアタシ達の力不足だもんな。
……………うん。全部終ったらはやてに謝るけど、今は謝らずに頑張るぜ。はやてが死ぬのは絶対いやだからな。良くない事でも何でもすると決めた」
力強くそう言いきり決意を固めたヴィータ。
「で、俺は当面の間は口裏を合わせるだけでいいのか？」
「そうだ。頻繁に単独で動くと怪しまれるので、適当な理由をつけてお前と共に外出するという事もあるだろう」
「解った。外出の折は適当な理由を用意しよう」
「そうしてくれ」
それで話は終ったが、シグナムは物足りなさそうというか意外そうな顔で速人を見ていた。
それを見てヴィータは鬼の首でも獲ったかの如く得意気に言う。
「どうだシグナム。ハヤトはそんな事言わなかっただろうが」
「言い忘れ…………という事は有るまいし、確かに私の天神への理解が不足していたようだな」
潔く自分の理解不足を認めるシグナム。
当初シグナムは速人が闇の書自体を消滅させることにより、はやての治療を打ち出すと思っていた。つまり自分達を犠牲にしてはやてを助ける案を打ち出すと。
それゆえに話し合いは平行線になり最悪主はやてに報告されると考えた為に、速人との話し合いをシグナムは無駄と思いする気は無かった。
しかしそれにヴィータが待ったをかけた。『ハヤトは最初からそんな事は絶対に言わねえ！』と言い、ザフィーラも『家族の調和を重んじている者が最初からそんな事は言うまい』とヴィータと同意見で、シャマルは『話せば何か得られる事が有るかもしれませんし、平行線になるかもしれません。ですからどちらでも構いません』という事になり、結果話すことになった。
そして実際はヴィータとザフィーラの言った事は正解だった。速人は蒐集完了し実行可能な策を全て実行し尽くし尚状況が改善されない時は闇の書の破壊をするつもりでいた。ただ最初からその旨を伝えない事は速人なりの気遣いというか、単にこれまでの経験から直前まで言わない方が調和を乱さないと判断した為だった。
ヴィータは自分の信用に速人が応えてくれた為御満悦で、ザフィーラは自身の観察眼が間違っていなかった事に満足気だった。シャマルは蒐集行為への疑問点を提示した速人に感服とも呆れともとれる念を抱き、同時に乗り気で無かったヴィータの聡さに少なからず驚いていた。そしてシグナムは、
（質は違えどヴィータとザフィーラの信を勝ち取り見事それに応えるか……………。そしてシャマルは信を置いていないが認めている。
もはや我ら守護騎士で天神への処遇を決めようにもヴィータとザフィーラの信を得、シャマルに認められている以上、能力はさておき扱いは我らと同等のものになるか…………。
全く持って甚だ不本意極まりなく凄まじく遺憾だが、家族と認める事はしないが協力者としては認めねばならぬか…………）
と、不承不承ながらも協力者として速人を認めることにした。尤も今でもシグナムは隙有らば速人を処理しようとしているのは変わらないが。
そして渦中の人物たる速人はその話に興味もないのか何の話かも聞こうともしなかった。
「何を話していたかは知らないが、蒐集行為を行う前に質問と提案が在るが話しても構わないか」
「っと、何だハヤト？」
「その蒐集行為は生命維持に支障をきたさず後遺症を残さない類だが、極度の疲労や衰弱を伴うモノなのか？」
それにはヴィータではなくシャマルが答えた。
「そうです。強引に行えば生命維持に支障や後遺症を残す事も有りますが、少々手順を踏めば疲労や衰弱のみで済みます」
「なら同一対象から再度蒐集を行う事は？」
「一度蒐集を行った対象からは、書が白紙化するまで再度蒐集する事は出来ません」
「ならば最初にこの場に居る者から蒐集を行う事を提案する」
「何故だ？」
敵意とまではいかないがかなりの不信感を顕わにしながらそう述べるシグナム。それに対してヴィータとザフィーラはどういう理由なのかとただ疑問顔で、シャマルはその真意を図ろうと思考していた。
「可能性は低いだろうが蒐集を行っている際に、自身の操作不手際及び他者からの干渉で自身が蒐集される可能性を潰せるのは価値が有り、僅かな数だが外部に知られる事なく蒐集が行えるのは大きいと思う。
事を起こせば最早立ち止まる事は出来ず、逼迫した状況下でそのような策は取れないからな」
その言葉に考え込む一同。
たしかに蒐集を続け、後の逼迫した状況下で自身を対象に蒐集するなど危険極まりなく、尚且つ無いとは思うが自身が戦地において自身が蒐集される可能性を完全に潰す事が出来るのは決して不都合な事ではない。
そんな事を考えている守護騎士達に速人は更に続ける。
「この案の欠点は何事も無く蒐集が終る時に比べ初速が遅れることだ。
ある程度の保険を得る代わりに時間を失うか、保健が必要になる可能性に目を瞑り時間を得るか。
俺ははやて死亡までの時間と蒐集された者が回復に要する時間が解らない為、折り合いがつくならこの案を推奨するとしか言えない」
利点と欠点を提示され迷うシグナム達。
「私としてはこの案はたしかに貴重な時間を消費するとは思うが賛成だ。
蒐集行為の後半あたりで管理局が気付く可能性も考慮に入れるならば、僅かとはいえそれを完成間際まで遅らせる事が出来るこの案は決して無駄では無いと思う。
時間を消費する分は自身を蒐集した疲労や衰弱から回復する時間を削り、消耗した状態でも蒐集を行える者に挑むことでそれを補えば良いと思う。初めの頃は管理局も気付いていないので危険も低いと思うが皆はどうだ？」
自分の意見を述べ皆に意見を求めるシグナム。
≪私も賛成だ。時間の遅れは危険度の低い初期に挽回しておけば問題はないだろう≫
「私も賛成です。欠点を補えるのならば僅かな事でも備えはするべきです」
「アタシも賛成だ。
それにはやてとの約束破っちまうんだから、せめてケジメとして最初に蒐集するのは自分にする」
ヴィータの言葉を聞きシグナム達は少し驚いたが、直ぐにその通りだと無言で頷いた。
その光景を特に何も感じず見ていた速人が何時も通り淡々と尋ねた。
「話は纏まったようだな。それと確認したいのだが俺を使って蒐集する事は可能なのか？」
速人の何気無い質問に即答するシグナム。
「まず無理だな。天神の魔導師資質は調べないと解らないが、今のところ最低ランクのＦにも届かず蒐集に値するランクには程遠い。
仮に蒐集できたとしてもその時には書にリンカーコアを吸収され尽くされて死ぬな」
「俺から蒐集することで起こる不利益は何かあるか？」
「何を聞いていたのだ？お前ではまず蒐集に値しない。仮に蒐集に値したとしても今のお前では衰弱死するのは避けられない。そう言ったのが解らなかったのか？」
シグナムの多少苛立たしげな言葉を平然と聞きながら更に同じ問いを返す速人。
「俺は俺に蒐集行為を行う事による不利益を尋ねている。俺が蒐集された際俺が被る不利益など尋ねていない」
その言葉に少々考えていたシグナムだが答えを出した。
「特に無いな」
「そうか。
…………ならば俺が蒐集に値する事が出来る手段、若しくはその可能性がある手段はあるか？」
またも淡々と尋ねる速人。それにシグナムはまたも少々考え込み答える。
「たしかに後天的にリンカーコアを手に入れる事例はあり、その場合大抵は強力な能力か特殊な能力を得る者が殆どだ。しかしそのプロセスは不明で、後天的にリンカーコアを手にしようと思えば精々魔法受けて瀕死になるか死んだ後に自力蘇生するぐらいだな」
「その確率も低いと？そして死んだ者から蒐集は行えないと？」
「そうだ。死んだ者から蒐集しようと思えば恐らく死亡直後で尚且つ死体が原形を留めている必要があるだろうが、試した事がないので詳しくは解らないが」
シグナムの言葉を聞き考える速人。
そして何かの結論に至ったのかシグナムを見ながら事も無げに言う。
「後天的にリンカーコアを入手するのは一応可能のようだな。なら試しに身体が原型を留める程度に魔法を直撃させてもらえるか？リンカーコアが発生すれば回復させて蒐集し、発生しなければ一応蒐集行為を行い成否に関わらず死体は隠滅してくれ」
他人事の様に自分を殺せという速人にシグナムだけでなく聞いていた全員が目を見開き驚いた。
「ハヤト！おまえ何言ってやがるんだ！そういう事言うなってはやてと前に約束しただろうが！」
防音対策のある部屋の為部屋の外にヴィータの怒声は漏れなかったが、もし無かったら近所迷惑な程の声だった。
「ただ試せる選択肢が目の前にあるから実行しようとしているだけだ。生きてはやての病気について研究しても解決できるとは思えず、戦闘能力的に蒐集活動を行う事も出来ない。
自身の効率的運用法を考えた結果の答えだ。自身を使い捨てとは考えていない。」
「まず失敗して死ぬ事の何処が使い捨てじゃねえんだよ！」
「今の俺では使い物にすらならない。そんな俺が使い捨てと自分で言うのは過大評価だ。
第一使い物になる時は回復を頼んでいるので使い捨てにはならないはずだ」
たしかに言っている事は間違っていないのだが、今回は双方に認識のズレが生じていた。
速人の物言いに頭にきたのかヴィータは顔を真っ赤にしながら怒鳴る。シグナム達は防音機能について知っているのか特にヴィータを抑えようとしていない。
「ふざけんなよ！命を使い捨ての道具にするなってはやては言ったんだ！そんな死ぬのが前提みたいな真似認められっか！！
第一お前を殺したらはやてになんていって謝ればいいんだよ！！」
「俺が死んだ事に対する釈明は必要ないぞ。事故死になるように細工しておくから気兼ねなく死なせられるぞ。良心の呵責なら魔法はこの星では公式に認められていないからそれで死んでも天災と同じ事故死扱いで法的には無罪だ。気にする必要はないぞ」
「っ！いいかげんにしろよ……………はやてが悲しまないとでも思ってんのか？」
怒声ではなく憤怒の念が滲み出ている声で話すヴィータ。
「…………………僅かでもはやての生存率を上げようと思ったのだが、ヴィータと他の面々を見る限りでは実行できそうに無いようだな。僅かな事でも不利益無しで行使できる案があるというのに実行しないのは理解できないが仕方ない、次善案として緊急時に備え適度な戦闘訓練を暇な時にでも施してくれ」
はやての為と言われれば強く言う事が出来ずに押し黙るヴィータ。
代わりにザフィーラが話しかけてきた。
≪お前が死ねば主は悲しまれるというのが解らぬわけでもないだろうに、なぜさして利もない事を命賭してまで行おうとする？≫
「単に念の為だ。成否に関わらず不利益を被る事が無いなら行使しても問題ないだろう。
はやてが悲しむ事に関しては、約を違え悲しませるだろう者達に言われる道理は無いと思うが」
≪……………主を悲しませる事についての言及は、たしかに我らが口出しできる立場で無いのは解った。
しかしお前は念の為で死ぬというのか？≫
「死ぬつもりは微塵も無い。蒐集された際の自身の生存率を上げる為に極低らしい可能性に挑んでみることにしただけだ」
≪………………………なるほどな≫
その言葉にザフィーラは納得しなかったが、一応考えを理解したので会話を打ち切った。
「天神、お前はなぜそこまで自身の命を平然と危険に晒せる？他者一人の命と自身の命を天秤に乗せた時に他者の命を選択しろと言うほど我等は狭量ではない」
「はやてが死ねばシグナム達は消えるのだろう？
ならば天秤にははやて以外にシグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマル、と計５名乗っている。１対５で迷う道理はない」
「１対５で自身を危険に晒すなら以前は更に多くの命が危機に瀕していた時に何故助けようとしなかったのだ？」
「狭義的意味の他者が幾名危機に瀕していようが自身の命を懸ける理由にはならない。しかし家族なら能力価値は個体差があるが、全員が同等の存在価値なので多数の存在の為に少数が命を懸けるのは当然だ。
……………この話はこれ以上の進展が望めないのでここで打ち切りにすることを薦める」
「そうだな」
そう呟きシグナムは考えていた。
（やはり感情も無く合理性のみで動くこの男は信が置けん。
主はやての命が我らの存在を繋ぎ止めているという一点が、最優先で主はやての為に動いている要因なのだろうな）
ほぼ間違いなく速人の判断基準をシグナムは見抜いていた。
そして沈黙したシグナムを縫ってヴィータが声を掛ける。
「けっ、家族って思ってた事に免じて特別に許してやるよ……………………。
だけど二度と念の為とかで死ぬ様な事しようとするんじゃねえぞ。今度しようとしたらぶん殴るぞ？」
「了解した。その時は抵抗せずに殴られよう」
「って！全然解ってねえー！」
咆哮するヴィータにシャマルが助け舟を出した。
「ヴィータちゃん、その場合二度としないように、とか約束させないと駄目よ」
「そうか！おいハヤト、二度とそんなことするなよ。約束だぞ！？」
「了解した。念の為で極度に死亡率が高い選択肢は選択しないようにする。
それではその代案としてはやてに英気を養ってもらう事にする」
その返答に満足気に頷くヴィータ。
そして英気を養う案が何かとヴィータが聞こうとした時に急に扉が開いた。
科学・魔法問わずに侵入者の存在を感知していない為内部の者という事は明らかで、今この場に居らずこの家に残っている者は八神はやてのみで、当然はやてが車椅子で現れた。
「あ、あれ？何でみんな速人はんの部屋に居るん？」
「えう！？はやて！？あ、い、いや、これは……………」
挙動不審を言葉と態度でこれ以上無い程に表しているヴィータ。
「こんな夜中にこっそりとみんな集まって、あたしに聞かれたらいかん事の話し合いなん？」
冗談で言ったはやてだったが、
「！！？？い、いや、そんな事ねえぜ！うん！」
ヴィータの挙動不審さが一掃激しくなり、それを窘めるように見たシグナムの視線をはやては見逃さなかった。
「ヴィータ？シグナム？何あたしに隠しとるん？」
優れた観察眼でこの状態に露骨に不審さを感じ初めてきたので問うはやて。
もはや笑って誤魔化せる状態ではなく、納得のいく説明をしなければ何を話していたか問い詰められるのは明白だった。
≪おいシグナム！どうする！？滅茶苦茶ヤバイぞ！≫
≪原因の殆どはお前だろうが！今考えている！≫
≪シグナムがアタシを見るからこうなったんだろ！とにかく何とか時間稼いでくれ！その間にザフィーラとシャマルとで何か考える！アタシじゃ時間稼ぎできねえ！≫
そんな事を思念通話している時に先程より強く不審さを感じてきたので声をかけるはやて。
「なんかあたしに聞こえんように話とらん？」
素晴らしい観察眼と直感でシグナムとヴィータを追い詰めるはやて。
≪マジでヤバいぞ！どうするんだよシグナム！このままじゃ約束破るだけじゃなくて嘘まで吐かなきゃならないぞ！≫
≪それで済めばいいが納得させられる嘘が無いので十中八九更に問い詰められる！
シャマル！ザフィーラ！何か妙案はあるか！？≫
≪あれば言っている！≫
≪無いです！あああああ！はやてちゃんの目が露骨に不審がってきました！バレるのは時間の問題ですよ！≫
はやては返事の遅い守護騎士達から視線を外し、速人に視線を向け聞いてみることにした。
「速人はん。ここで何するつもりやったんか教えてくれるか？」
「構わないが、そこにいると身体を冷やすから部屋に入って掛け布団でも羽織るといい」
「あ、そやね」
あっさりと説明を承諾してくれたので素直に室内に入り速人の掛け布団を羽織るはやて。
守護騎士達は速人の説明を止めようとしたが最早嘘をついても納得させられず、問い詰められて自白させられるのは時間の問題だった為観念したかの様に速人を見ていた。せめて少しでも誤魔化してくれと思いながら。
そんな中やはり普段通り淡々と喋りだす速人。
「先日診察を受けた際にはやての病状が芳しくないと解り、それを何とかできないかと話していたところだ」
隠す気ゼロとしか思われない直球ど真ん中の言葉を吐く速人。
「しかし現代医学では病因が全く解らない。それなら病は気からということでせめて英気を養い気力を高めてもらおうと祝い事でもしようと思っていたところだった。
こういう祝い事は本人に知らせずに行うのがいいと思うが、問われたので話す事になった」
「そうやったんか…………それならヴィータもシグナムも言えへんな……………。疑ってごめんな、ヴィータ、シグナム。
それと説明した速人はんを怒らんでやってな。あたしが説明してて言うたから説明したんで、悪気はないはずやから」
あっさりとはやてを丸め込んだ速人。しかも祝い事の話ははやての英気を養うという案であった為、隠し事はあれども何一つ嘘は吐いていなかった。
「まあバレちゃったなら仕方ないですね。脅かす事は出来なくなりましたけど、代わりにはやてちゃんのリクエストを思う存分聞くことで良しとしましょう。ね？ヴィータちゃん？シグナム？」
速人の言葉にここぞと乗っかるシャマル。
それに続くシグナム。
「そうだな。主はやての意向を伺えるという事でよしとするか。
天神、説明してくれて感謝する。あのまま説明が無ければ主はやてに不快感を抱かせたままだったからな」
言外に場を納めてくれた事に対する礼を込めて軽く頭を下げるシグナム。
「はやてに何か聞けるからそれでよしとするか！はやて！何かしてほしいことあるか！」
ヴィータは速人の言葉に嬉々として乗った。
はやてはそんなヴィータ達を見て嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとな。その気持ちだけで嬉しくて元気が出てくるわ。
………こんな優しい家族がいて私は本当に幸せ者や………」
大抵の者なら得られる珍しくもない心遣いに幸せを感じるはやて。
しんみりする場面で何時もの淡々とした声ではやてに声かける速人。
「今容易に得られる幸せを否定するつもりはないが、もう少し得難い幸せを求めても構わないと思うが？」
「たしかに脚が治る事は今でも求めて止まんけど、それでも家族と一緒なのが今は一番なんや。
ウチはこんな時間が何時までも続けばええと思っとる。速人はんは違うんか？」
「寿命があるので何時までもとはいかないが、調和と団欒を維持しつつ腐る事無く過ごせる事は良い事だと思う」
「あはは、相変わらず堅苦しい考え方やな。
…………でも………本当に家族全員で何時までも幸せに暮したいな………」
静かに………しかし強い想いを籠めて呟かれた言葉。
守護騎士達はこの言葉を実現する為にいかなる汚名も苦痛も受け入れると心に誓った。
そして僅かな沈黙の後にはやてに就寝を薦める速人。
「もう寝るといい。ここで寝るなら寝ても構わない。俺はする事が出来たので暫く起きているので先に寝てくれ。ヴィータもはやてと共に寝るなら着替えてくれ。
祝い事の要望を聞くにしても日の昇っている時間帯にするべきだろう」
「そうやね。じゃあ今日は速人はんのところで寝るわ。元々その為に来たんやし。ヴィータも一緒に寝るか？」
「おう。じゃあ着替えてくる」
そう言い着替えに行くヴィータ。
「それではおやすみなさいませ、主はやて」
「おやすみ、はやてちゃん」
≪おやすみなさいませ、主≫
そう言い皆部屋を出て行き、残されたのははやてと速人のみになった。
「…………なぁ速人はん」
誰も居なくなったのを確認してはやては速人に声をかける。
机に置いたノートパソコンに向かっていた速人は振り返り視線で先を進めた。
「速人はん嘘吐かんからさっき言った祝い事の件は本当やって分かってる。
……………でもそれだけやないやろ？」
一応疑問形だが確認を取る程に確信を持っているはやて。
「そうだ」
それにあっさりと答える速人。
「やっぱりな。………まぁ念の為聞いとくけど教える気ある？」
「事が終るまで説明する気は現在一切無い」
「やと思った…………。
速人はん嘘言わんけど都合悪い事喋らない時があるからな」
「虚言を述べずに場を纏められる様に配慮してくれた事に感謝する」
「やっぱ分かってたんや」
先程はやては速人に【何をしようとしていたか】と質問したが、【何を話していたか】と尋ねるのが普通である。
はやては直ぐに問い詰めた事を失敗したと思った。普段なら直ぐに話しくれるのにここまで隠そうとするのは余程の事で、命令でもしない限りに話さない程の事だと直ぐに解ったし、命令する気ははやてには無かった。だから言葉を取り消そうと思ったが取り消したところでシコリは残る。だから速人に騙してもらおうと騙し易いように問いかけたのだった。
「ごめんな。速人はんなら何とかしてくれると甘えてもうた……」
「気にする必要は無い。寧ろ今も一人で何か抱え込んでいる事を考慮するとはやては甘え下手な方だろう」
特に気にした風も無く淡々と速人は言う。
「ははは、やっぱお見通しか。…………うん、抱えきれなくなる前にきちんと速人はん達に相談するわ」
「可能と判断すれば解決に協力するが、不可能と判断すれば断る。それでも構わないなら相談するといい」
「ここは【どーんとまかせろ】って言うとことちゃう？」
「不可能に挑んで心中する気は無い。協力と解決を求めるなら大事になる前に相談する事を推奨する」
「ふふふ〜、可能と思えば心中するかもしれん事してくれるんか？」
楽しそうに…………そして嬉しそうに速人に尋ねるはやて。
「心中する気はないが共倒れになる事なら挑む時もあるだろう」
「共倒れになるんは勘弁やからせんでいいって言っても止めんやろうから、そん時はウチが一生懸命支えるわ」
「そうしてくれると助かる」
会話が終り辺りに満ちる静寂。
防音設備の施されたこの部屋は室外の音を通し難い為ノックしても聞こえない程室外と隔離された静けさが満ちていた。（叩かれた振動をセンサーが解析して室内に放送するという仕組みなので、ノックすればそれが分かる様にはなっている）
ヴィータが着替えてこの部屋に来るまでさして時間が無いだろう、そんな中はやては虚空を見て呟く様に尋ねた。
「なぁ…………みんながウチに内緒で何しようとしてるかは解らんけど…………血生臭いのだけはごめんや…………だから…………人を殺したり殺されたりするんわ…………せんといてな………」
心の底から紡ぎだされた言葉に対してもやはり何時もと変わらぬ調子で返答する速人。
「それとなく伝えておこう」
「…………速人はん…………約束してくれへんの？」
「何をしていても死ぬ時は死に、殺す気がなくても殺す事もある。出来ない約束はしない」
「…………………………………………」
反論せずに黙り込むはやて。
その落ち込み様を見て返答を誤ったと判断した速人は、先の言葉で何処まで譲歩できるかを考えてもう一度答える。
「人を殺す事は他に妥当な案が無い限り行わない、殺される事もそれが最善で無い限り力及ぶ限り回避し続ける。これでは不満か？」
確約はしないものの最大限考慮すると速人は言った。
その意を酌んだのかはやては微笑みながら応えた。
「満足とはいかんけどそれでええよ。速人はん、その場逃れにしもせん事言わんもん」
「満足いく答えを返せず済まない」
速人はそう頭を下げ、はやては微笑みで返した。
そしてはやては速人にずっと気にかけていた事を尋ねようとした。しかしその時部屋の扉が開いた。
「はやてー、まだ寝てないよな？」
大声ではないが眠った直後ならまず起きる程の声を出しながらノックもせずにヴィータが部屋に入ってきた。
「まだ起きとるよ」
「よかった、じゃあハヤト、先に寝るぞ〜」
「速人はんもあんまり遅うならんうちに寝てな？」
速人は夜更かしすることが比較的多いが朝には起床しており、疲れを溜めない為に昼の空き時間で就寝するのに影響が無い程度仮眠も取る為、はやてはあまり速人の夜更かしに口出ししていなかった。
「既に遅いと言われる時間帯なので無理だが、早く片付けるように善処しよう」
「うん。それじゃあおやすみ〜、速人はん、ヴィータ」
「おう、はやて、おやすみだ。ハヤトもおやすみな〜」
「おやすみ」
深夜だったという事もあって直ぐに寝息が聞こえてきた。
そして速人は寝静まったのを確認したらノートパソコンを起動させ、ほぼ無駄になると知りつつも世界中の電子カルテからはやての病状に酷似した症例を検索し、紙面カルテは取り寄せるように手配し、更には西洋医学のみでなく東洋医学からの見地、神話や伝承でそのような病を患った者がどうなったか、不治の病を治したといわれる温泉や湧水、果ては漫画等での治療方に至るまで僅かでも関連すると思われるあらゆる情報を収集し始めた。
その数日後はやての病気回復を願ってパーティーが催された。
とても嬉しそうなはやて、楽しそうに笑うヴィータ、微笑を浮かべながらそれを見ているシャマル、若干無愛想ながらも主の笑顔に頬を緩めているシグナム、その全てを見守るように穏やかな雰囲気を出しているザフィーラ、いつも通りの速人。そんな写真をアルバムに追加しながらパーティーは過ぎていった。
守護騎士達の胸にははやてのこの笑顔を守り抜くという想いがあり、はやてはただこんな日がいつまで続くことを想い、速人ははやての病気を治す理論を考えながらパーティーは終った。
後日全員が行動不能にならないように、ヴィータ・シャマル、シグナム・ザフィーラ、と分けて蒐集を行った。
闇の書の頁は強力な魔力を持つ四名を蒐集したとはいえ、まだ圧倒的な割合で空白の頁が占めていた。
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第六話：薄氷上の日常――――了
【後書】
ようやく完全にＡ‘Ｓ本編へ移行しました。
いきなり守護騎士達から蒐集した為、闇の書完成最後の引き金としてヴィータが蒐集される事は確実に無くなりました。
公式設定で守護騎士はリンカーコアを蒐集されると無条件で消滅するとは書かれていなかったので、守護騎士が消滅したのは衰弱していたのと消滅させる気満々で蒐集されただけと解釈しています。
もしこの解釈が間違っていたら、この話丸ごと破棄する事態になり赤恥モノです。
あと実は花火とか海水浴とか旅行とかをこの話の前にするつもりだったのですが、そんな事をしたら話が全く進まなくなりそうなので中止になりました。正直誰も見たくなさそうですし。
今回は珍しくはやての出番が少なめな話です。尤も美味しいところは攫っていますけど。
次回からは蒐集活動に移るので多分はやての見せ場は当分無いはずなのですが、やはり予定は未定です。
毎度毎度何も学習していない事が丸分かりなＳＳを掲載して頂き、八つ葉のクローバーを見つけるかの如く長所を探してお優しい感想を書いて下さる管理人様、深く感謝を申し上げます。
そしてこのＳＳを読まれている方、未熟というのもおこがましい程不出来な文を御読み下さり感謝します。
まさか最初の蒐集がシグナムたち自身からとは。
美姫 「益々、どんな展開が待っているのか楽しみになったわね」
だな。今回は蒐集を始める前って所だけれど、はやても何かあるのではと思っているみたいだし。
美姫 「これから蒐集するに辺り、どんな展開が待っているのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」