この物語はオリジナル主人公登場の魔法少女リリカルなのはASの二次創作です。

  自分の文才の無さが原因で登場人物の人格及び性格が変わっている可能性もあります。その様な事に耐えられない方は気合を入れられて見るかブラウザの戻るを押される事をお勧めします。

 

 

 

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魔法少女リリカルなのはAS二次創作

【八神の家】

 

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  11月の中旬前、速人宅の地下研究施設権避難所の第五実験場でシグナムは瞑目しながら立ち、虚空に向かって喋っていた。

「何時も通りデバイスと騎士甲冑を装備せず手加減すればいいのか?」

  凛とした佇まいでここに居ない速人に話しかけるシグナム。

『いや、騎士甲冑を纏い、デバイスと魔法を使用しながら手加減してほしい。そうでなければ態々ここに招いた価値が無くなる』

  スピーカーから聞こえる速人の声に眉を顰めるシグナム。

「お前は自分がそれほどの力量を持っていると思っているのか?」

  たしかにシグナムの言葉は正論だ。

  速人は時間が空いているシグナムかヴィータかザフィーラに戦闘訓練を施してもらっており、目立つという理由で騎士甲冑もデバイスも装備していなかったがそれでも全戦全敗。

  基本能力が全く違うので、シグナムには庭の地面に頭をめり込まされ、ザフィーラには体当たりで5m以上飛ばされ、ヴィータにはハリセンで腹部を叩かれ内臓破裂寸前にされた。(尤もヴィータは相当乗り気で無いらしく最初から難色を示していたのではやてが攻撃しても平気な物としてハリセンを渡したのだが、額面通りに受け取り全力ではないが手加減せずに打ち込んだ結果重症手前まで追い込み、はやてと一緒に深く落ち込んでいた)

  それほど基本能力に差があるのに速人が言う事は自惚れと取られて当然の言葉だった。

『こちらは武器と兵器を使用する。直撃を受けた時を考慮すると騎士甲冑装備は必要だろう。

  そしてその実験場は様々な観測機が存在し、魔法を解明しようとしている。ここで魔法を出し惜しみされたら招いた価値があまり無い』

  別室で戦闘装備をしている速人の声がスピーカーから流れてくる。

「…………非殺傷設定とはあくまで魔力が人体に与える負傷を最小限に抑えることだ。

  魔力攻撃で死ぬことは無いだろうが、非魔力で斬られれば普通に斬られる。手加減はするが覚悟はしておけ」

『理解外の事象を調べようとすれば危険は仕方ない事だ。第一戦闘訓練なら危険は当然だ』

「…………危険を理解しているならば特に言う事は無い」

  そうシグナムが述べた後管制室から声がかけられた。

『速人はんもシグナムも怪我せんといてな』

「御心配には及びません、主はやて。一般人相手に私は傷など負いませんし、天神にも格の違いを知らしめる為に無傷で降伏させましょう」

『うん。あたしはどっちも傷つくのは嫌やから、どっちも無傷で終ってくれるのが一番や。

  ……………ただ速人はんが武器だけやのうて兵器と言うたのが気になるんよ。何持ち出して来るか解らんからシグナムも気をつけてな?』

「この身を案じて頂きありがたく思います。しかし直ぐに杞憂だったと御覧に入れてみせます」

  シグナムがそう言った直後第五実験場のドアがスライドして開かれ速人が現れた。

  シグナムもモニター越しにそれを見ていたはやて達も驚いた。

  機動性を重視した服なのか、上は袖無しランニングシャツのようであり、下は動きを阻害する事が少ない袴の様であり、防御用に頭には鉢金が巻かれており、靴は頑強そうな安全靴、指貫の手袋にガードスリープを肩近くまで長くした物、そして服の軽装を帳消しにする程全身に装備された武器や兵器の数々。

  服の表面に装備されているだけでも銃2丁、手榴弾10個、刃物4つ、これらが装備されていた。そして一番目を引くのが動きやすい服装の機動性を帳消しにする膝まであるマント。奇天烈な格好だがそれはコスプレなどではなく、戦闘装備というより戦争装備だった。

  はやてが恐る恐る速人に尋ねてみた。

『速人はん………………それ本物?』

「全て本物だ」

  そう言いながらドア近くのパネルを操作して第五実験場のドアを閉鎖した。これで専用の解除コードを打ち込まない限り内部からしか開けられなくなった。

「天神、今何をしたのだ?」

「この実験場を一時封鎖した。これで内部である程度の爆発が起こっても外部に支障はない。

  一般住宅1つ程蒸発する程度の爆発なら、2回この空間の何処で炸裂させても施設本体に影響は無い」

「……………念の入った事だな。私はその様な広域魔法を使用する気は微塵もないので必要は無いぞ」

「制止しに来たはやてが巻き添えになるという事態を避ける処置も含まれている。専用の解除コードを打ち込まない限りドアは開かない。ただし2時間経過するかこの開閉ボタンを5秒以上押せば自動で開くようになっている」

  そう言い一応開閉と書かれているボタンを指差す速人。

「備えは万全のようだな、ならば始めるか」

『ちょっとまってや!速人はん、もしかしてウチが止める程酷いような訓練するん?』

「試す事を遣り終えるまでは命に別状が無い程度の怪我なら止める気は無い。恐らくはやてが止めるだろう傷を負う確率は高い」

『って、そこまでせんでもいいやろ!?』

「最近ヴィータに聞いたが、魔導師の集う組織があるらしいのだが、稀に突如干渉してくる事があるらしい。その時の備えとして実戦使用される魔法と魔導師がどれ程のものか事前に知っておかねば対処が出来ない」

  何時も通り淡々と言う速人だったが、何らかの組織と敵対しているように聞こえるその発言に守護騎士達は冷や冷やした。

『その組織と敵対でもしとらんなら必要ないやろ?』

  尤もな意見を述べるはやて。

「概要をヴィータに聞いただけで他の視点からの意見がないのではっきりとは言えないが、この星の全ての国家及び機関を軽く超える程、傲慢且つ横暴且つ好戦的且つ分不相応に自尊心が高く、そして内部確執が根深く暴走の危険が極めて高い組織だと解釈した。

  そういうモノ相手にいくら備えをしたからといって無駄には成ら無いだろう」

  普段なら危険の一言で済ますはずだが、他者を侮蔑する言葉を並べ立てる速人。

『……………………もしかして速人はん腹立っとらん?』

「俺は平静だが」

『………………う〜ん言い方が悪かったんやな。…………………速人はん、その組織嫌いとか恐いとか、何か感じるもんないか?』

「見苦しさ、醜さは感じる」

  その言葉を聞き嬉しそうに喋るはやて。

『そっか〜。人を大事とか大切とかそうでないかとしか評価しなかった速人はんが………………とうとうそんな人間らしい気持ちを抱くなんて…………………。

  ……………………………ウチは感動した!感情とは呼べんかもしれんけど大きな前進や!今日は御馳走や!!』

「美的感覚から来る判断がそんなに大事なのか?排泄物と同じ美的評価をしているだけだが?」

『いやいや大事や。うん………そうか………ついに速人はん育成計画の効果が出始めたんか…………』

  感極まった声が第五実験場内に流れる。

  その言葉の直後にはやての近くに居たシャマルの声が聞こえてくる。

『はやてちゃん…………その名前はちょっと如何わしいと思うんだけど…………』

  しかしそんな言葉ははやてには一切届かず興奮気味に速人に話しかける。

『うん!始めに興味や関心を持った事を思う存分させるのは育成の基本や!速人はんいくらでも備えして構わんで〜』

  初めは速人の行動に疑問を抱いていたはやてだったが、速人の変化というか成長というか、そういうモノを感じた瞬間あっさりと承認された。

「了解した。それでは訓練中音声が入らないように、其方からの音声通信を遮断するが構わないか?」

『分った。それじゃあ速人はんもシグナムも少しの怪我ならともかく、大怪我だけは絶対せんどいてな?』

「善処する」

「御要望に沿えるように努めます」

『シグナム〜、やりすぎんなよ〜。あとハヤト〜、シグナムの驚く顔見せてくれよ〜』

『まぁ大丈夫とは思うけどやり過ぎないようにね』

『程々にな』

  はやて達の声が一段落した時に音声通信は遮断された。尤も管制室は実験場内の画像や音声は拾えているが。

 ともあれ速人の装備はあまり突っ込まれずに流されたので入室した時のままの状態だった。

  速人はシグナムが待つ中央付近に移動した。

  この第五実験場は爆発にも備える為に広く作られ、半径30mの半円空間だった。

「それでは改めて始めることにするが構わないか?」

  その言葉にシグナムは瞬時に騎士甲冑を身に纏い、レヴァンテインを構えて応えた。

「何時でも構わん」

  次の瞬間速人は両腰に下げたデザートイーグルの左腰に有る方を右手で抜き、直撃すればレベルUのボディアーマーも貫通する.44マグナム弾を躊躇無く眉間・右肩・左腰へと狙いを定めて発砲した。

  右腕が利き腕なら右肩と左腰辺りの攻撃は捌き難く、眉間と他の箇所を一直線で弾いても一箇所は被弾するだろうと考えられた発砲だった。

  そしてシグナムの油断もあり左腰に一発着弾した。

  騎士甲冑に阻まれ貫通はしておらず骨にも異常は無かったようだが、何度も同じ箇所に被弾し続けると何れ骨に異常を来たす程の衝撃がシグナムに叩き込まれた。

  速人は一瞬でそれを分析した後、服表面に安全ピンとレバーが固定されている手榴弾――M67型手榴弾――を外し、その場を反転して全力でシグナムから離れた。

  振り返り様に漠然とシグナムに照準を定めて3発放った。

  しかし突如シグナムの身体を光りが包み、回避も捌きもせずに全弾その身に受けた。

  何らかの魔法を行使されて防がれたのだと判断した速人は更にシグナムから離れるように前方に跳躍し、跳躍中に身体を反転させ持っていた手榴弾をシグナムに投げつけ、レヴァンテインを狙い2回発砲した後、肌が露出している箇所をマントで覆った。

  シグナムはレヴァンテインに2発銃弾が命中したが手放す事無く保持し続け、足元の手榴弾を蹴り飛ばそうとした。

  しかし改造され遅延時間が3秒に短縮された手榴弾は蹴り飛ばされる前に爆発した。

  5m以内なら相当の重傷を負い、15メートル以内でも十分な殺傷能力を持つ爆発を至近距離で浴びるシグナム。速人は跳躍中なので爆風で後ろに大きく押され、様々な防御能力を付加されたマントと服を爆風と破片が叩くが、爆心地から10mほど離れていることもあり無傷で済んだ。

  一方シグナムも吹飛ばされてはいるものの全くの無傷だった。

(物質だけでなく熱も遮断したようだが衝撃は防御不能なようだな。ボディアーマーの延長上のものと判断。常時展開型か限定時間展開型更に機能維持型か消費補填型かは不明)

  一瞬でシグナムが展開したモノの特性を考慮・分析する速人。

  既にこちらに突進する体制に入ったシグナムを見ながら遅延時間1秒の特殊閃光弾を服から毟り投げ、残段数0のデザートイーグルを後ろに投げながら反転しシグナムに背を向け前方に身を投げ出しながら目瞑り耳塞ぐ。

  タイミングを狙ったわけではなかったがそれはシグナムの眼前で炸裂し、音と光を撒き散らした。

  速人は効果を確認する前に蛙の様に両手両足を付きそのまま全身のバネを使い左に跳躍した。

  一時的に視界を潰されながらも最後に速人がいた場所にシグナムの横薙ぎの斬撃が放たれた。

  あのままその身に受ければ肩口まであるガードスリープごと腕が切り落とされ、胴体半ばまで斬り裂かれる程の攻撃だったが、間一髪で右脇腹を斬り裂かれるだけの被害に留める事に成功した。

  加減を間違え、軽くない傷を負わせてしまった事を手応えで理解したシグナムだったが、初めて会った時は物理的に行動不能になるまで行動を止めなかった事を思い出し、視力が回復するまで距離を確保する為に後ろに跳躍した。

  それを確認した速人は遅延時間を3秒に改造したM67型手榴弾を前方に放り投げ、それを追い越すべく全力でシグナムを追走した。そして手榴弾が爆発する前にマントで頭を包み跳躍した。

  近距離で爆発する手榴弾。当然その破片と爆風は近場にいる速人に襲い掛かる。しかし優れた防御能力を付加された衣服により、衣服に命中した破片は布越しに少々肌に食い込んだ物も在るが全て布表面で止まり、剥き出しの肩は少し抉られるだけに済み、そして爆風で吹き飛ばされるだけで済んだ。

  そして吹き飛ばされる方向は当然シグナムの居る方向だった。

  バランスを崩しながらも空中でチタンナイフを右手で握りシグナムに切りかかった。

  露出している顔を狙っての攻撃で、刃筋も立てた攻撃だったが全く傷を付けられず、衝撃でナイフが手から弾き跳びながら速人はシグナムに衝突した。

  シグナムは速人がこの短時間で自分に接触できる距離まで移動できた事に驚きながらも速人を腕で振り払い、即座に蹴り剥がした。

  しかし蹴り剥がされる前に速人はシグナムの服の内側、胸元に一つM67型手榴弾を捩じ込んでいた。

  ほぼ零距離で爆発したが、光に包まれているシグナムはやはり無傷だったが、しかし流石に衝撃までは全て耐え切れなかったのか体勢を崩していた。

  蹴り剥がされて宙を待っている速人は右腰のデザートイーグルを左手で抜きながらシグナムに照準を合わせて連射した。

  しかし直ぐに体勢を立て直したシグナムは依然その身を光で覆っており、銃弾を無視しながら速人に体当たりをした。

  速人は銃を取り零し服に固定されている手榴弾を2個残して弾き飛ばされながら、速人は10メートル以上弾き飛ばされた。

  床に背中から落ちそのまま5m程転がっていく。当然服に固定されている手榴弾はその衝撃で幾つか外れる。

  殺傷範囲から離脱不能と判断し、転がりながらもマントで頭を包む最中に体当たりで外れた特殊閃光弾3つが炸裂する。その光と音で意識を失わないようにしながらマントで頭を包んだ直後体当たりで外れたM67型手榴弾1つと転がっている最中に外れた特殊閃光弾1つが爆発した。

  爆風と破片と短時間意識を刈り取る音と光を近距離と至近距離で浴びながら速人は吹き飛び、そして爆風で速人を追い越した、転がった時に外れたM67型手榴弾が速人から3m程の位置で爆発し、急に逆向きの力が身体全体にかかり骨格と内臓が負荷で幾つか破損しながらワイヤーアクションの様に空中で急に動きを変えた。

  受身も取れず床に叩き付けられながら転がる速人。

  驚異的な意識保持力により意識は保っていたが、平衡感覚は完全に狂っており上下感覚すら解らず、骨格が軋んでいる上激しい打身・打撲で筋繊維が幾つも断裂しており、物理的に立てないことはないが普通なら激痛で気絶するか悶絶する程の怪我を負っていた。

  それでも速人は震える手で懐からスタンガンを取り出しながら立ち上がりかける、が、その喉にシグナムがレヴァンテインをピタリと触れさせた。

「…………………………」

  無言で速人に降参を促すシグナム。

  それを察しスタンガンを手から落とし速人は降参を告げる。

「降参だ」

  そう告げた直後速人は後ろ向きに倒れた。

  気絶こそしていないものの呆と虚空を見ながら喋った。

「左腰部に被弾させたが平気か?」

「平気だ」

  そう言いながらシグナムは直ぐにこの場に来るであろうはやて達の為にドアを開けに向かった。

 

 

 

                                   

 

 

 

  第五実験場に一番近い仮眠室(2LDK)のベッドに速人は寝かされシグナムは立たされていた。

  あの後はやて達が直ぐに第五実験場に現れ、満足に行動できない速人を手近な仮眠室のベッドに寝かせてシャマルが治療を施した。

  一見速人は大事に至らなかった様に見えるのだが、捻挫・脱臼・亀裂骨折の総数は50を超えており、筋肉や腱も打身で断裂した箇所が8箇所で、内出血は大小合わると3桁を超えており、右脇腹は肋骨と肝臓と腎臓と3つ纏めて斬られており、手榴弾の熱で剣が加熱されていた為か出血が少ないのが不幸中の幸いだったが普通なら出血多量で命に関わる状態だった。

  会話を打ち切って1分もしないで重傷人になった速人と、手榴弾のほぼ零距離爆発を受けたシグナムがとりあえず命に別状は無く、シグナムに至っては左腰の被弾がほんの少し痣になっている以外は全く異常無しとシャマルは診断し、ほっと一息ついた後急に目尻が吊り上り、怒り心頭状態になるはやて。

「さて……………シグナムの攻撃にも色々言いたいんやけど………………………、それよりも…………………………いきなりシグナムに発砲したり、手榴弾の爆発で加速したり、滅茶近くで手榴弾の爆発を2回受けても立ち上がっても訓練……………っちゅうか殺し合いにしか見えん事続けようとした大馬鹿君、………………………………………………………………………………………感想はなんかあるか?」

  凄まじい怒りが言葉に滲み出ているはやて。

  守護騎士達が少しヒク程の、笑みに見えなくもない表情で問いかけるはやてに淀みなく応える速人。

「有意義な時間だった。次はヴィータかザフィーラで行いたい」

  その言葉を聞きはやては一度深呼吸をし、それから捲し立てるように怒鳴り始めた。

「大怪我せんでって言って1分以内になに大怪我しとるんや!?お腹斬られても止まらんし、手榴弾を自分に使うわ、爆発の直撃受けて立ち上がろうとするわ!一体速何考えとるんや!」

「最後に立ち上がろうとしたのはスタンガンがまだ試してはいなかったからだ」

「あんなボロボロの状態でシグナムに触れられるわけないやろが!なんでやめんかったんや!」

「放り投げれば命中する可能性は少ないが存在すると判断し、命中せずとも剣で弾くか破壊した際、感電させらせる事が可能かを知る目的もあった」

  その言葉を聞きはやてはこのまま怒り続けても暖簾に腕押し状態だと判断し、感情的にならず冷静に問いかけてみる事にした。

「……………………速人はん……………………うちが最初に大怪我せんでって言ったの覚えとる?」

「覚えている」

「そうか〜、覚えといてくれて嬉しいわ〜」

  目も顔も笑わず声だけ陽気に発するはやて。

  守護騎士達は頬を引き攣らせ更にヒク。

「で、今の状態はどうやろ〜か?」

「意識レベル合計15点。気道・呼吸、双方異常無し。出血はあるが生命維持に支障が無い量であり循環問題無し。頭部・上顎・下顎・顎部・胸部・腹部・骨盤・四肢、触診と視診の結果重大な損傷無し。高エネルギー外傷の為潜在的危険は精密検査しなければ否定は出来ないが、現在は生命維持に一切問題無し。

  尚、潜在的危険は視認不可能な体内をシャマルが理解し治療している事を考慮し、その旨を伝えられていない事からその危険は極めて低いと判断。

  こう判断している」

「…………………………………………………」

  一応医師免許を持っているので冷静に自身の診断結果をかなり省略してだがはやてに伝える速人。

  はやてはそう聞くと大した怪我ではなかったように思えたが、直ぐに気を取り直し聞き直した。

「大怪我しとらんと思っとるんか?」

「そうだ。

  今更だが俺は大怪我が重傷の事と解釈していたがはやては違うのか?」

「ウチもそう思っとるけど?」

「ならば大怪我はしていない。言葉通り善処し要望に沿っている」

「…………………………あんだけ傷負ってたんやけど?」

  怒りがまたもや滲み出したはやての言葉を受けても平然としながら速人は答えを返した。

「重傷とは怪我の多さではなく治療にかかる日数により定義されており、30日以上治療を要する傷を重傷と定義されている。

  亀裂骨折は骨の隙間を外部圧力により埋め、筋繊維及び腱断裂も縫合し、腎臓と肝臓も摘出及び縫合し、全項目の全治にかかる時間は4週間未満だろう」

  毎度の事ながら正論で話す速人。

  たしかに速人にしたらはやての要望に沿うように善処し、それを果たしている。

  はやてもそれが解っている為強くは言えず、いつも通り次に同じ事態を起こさないように釘を刺す。

「怪我の事はウチの言い方に問題あったからもう文句は言わん。

  けど、次からは入院が必要な怪我はせんようにして、もしそんな怪我したら続けようとせんで即止めること。いいな?」

「了解した。

 戦闘闘訓練では入院が必要とされる自傷行為は控え、入院が必要と判断される負傷を負った際は速やかに戦闘訓練を中止する」

「うん。素直でよろしい。

  …………………さて………………あとは今速人はんが戦闘訓練て言うたけど……………あれ、どう見ても殺し合いにしか見えんのやけど?」

  再び怒りが滲み出してきたはやてに速人は普段通り答えを返した。

「模擬戦や戦闘訓練が殺し合いにしか見えないというのは比較的有る事だろう。

  軍や特殊部隊の編入試験は追い打ち等をしないだけでほぼ殺し合いの試験が大半だ。

  高技能保持者との戦闘訓練はその様なものだろう」

「……………………別にシグナムをどうこうしようと思っとったわけやないんやね?」

「シグナムとの戦闘訓練と、魔法の効果と解析と実感、これらが目的だ。

  シグナムを傷つけようとしたのは副次的なものにすぎず、これはシグナムの斬撃にも言え、戦闘訓練で負傷した怪我は全て負傷した側の非力さ・未熟さが原因だ。

  先程シグナムを糾弾しようとしていた発言があるが筋違いだと先に述べておく。

  シグナムの攻撃は全て俺が予測できる範囲の攻撃に加減されており、予測さえ出来ていればここまで負傷することはなかった」

  実際はシグナムの攻撃で斬撃と体当たりは加減間違いで、斬撃は戦士としての習慣で痛手を被った際に全力とはいかないが本気に近い手抜きの斬撃で、体当たりは手榴弾の事を考慮せずに行っており、手榴弾の外れるタイミングが転がり終わる頃に全て集中していたら最悪死んでいる可能性もあった。が、しかしそれらは速人が述べたように事前に予測する事は可能であり、予測さえしていれば対処できた範囲の攻撃なのも間違い無く、速人はシグナムの加減間違いだという事は予測が付いていたがシグナムが加減を間違えていたことを理解していると判断し、態々はやてが注意する必要も無いと判断し調和に波風を立てないように事前に釘を刺したのだった。

「そうなんかシグナム?」

  速人の言葉を聞きシグナムに尋ねるはやてにシグナムは一瞬瞑目した後に毅然と答えた。

「たしかに天神を傷つけたのは副次的なものです。ただ斬撃と体当たりは加減を間違えています。

  結果的に天神が予測できる範囲の攻撃かもしれませんが、それは私が意図したものではありません。ですから天神の負傷は天神の非力さや未熟さもあるでしょうが私の未熟さも多分に含まれています。そしてそれは天神も理解しているはずです」

「え?速人はん、シグナムが言う様に加減間違いって気付いとったん?」

「シグナムが自身は指導が不得手と事前に述べており、脾腹を斬った後僅かに気遣う視線を考慮したなら高確率でシグナムが想定していた加減とは異なっているという結論はその時思い至れた」

「あれ?さっきはシグナムが加減してるて速人はん言ったやろ?それと矛盾するんやけど?」

「矛盾はしていない。シグナムが本気なら脾腹ではなく頭蓋を断ち割られていたか首を刎ねられていただろう。

  今俺が生きているという事はそのままシグナムが手加減した事に繋がる。

  シグナムが意図した手加減にはなっていないだろうが、俺が最低限望んでいた手加減には十分なっているので、俺がシグナムの攻撃を納得しているのだからシグナムがはやてに非難される謂れはないぞ」

  つまり単純に速人とシグナムが想定していた手加減が食い違っていたので、双方の意見に誤差が生じただけであった。

  速人は自分が死なない攻撃が手加減の範囲であり、シグナムは速人を傷つけない攻撃が手加減の範囲であり、シグナムは速人に怪我を負わせて加減間違いだと思い、速人もシグナムが加減を間違えたと思っていることに気付いたのだが速人の想定している手加減とは異なっていなかった為問題視していなかっただけであった。

  はやてはその事に思い至りどう答えたものかと一瞬悩んだが、好意的に解釈する事にした。

「え〜と、つまり速人はんはシグナムをフォローしたと思っていいんか?」

「大分曲解しているように感じられるが、概ねそうだと言って問題ない」

「そうか〜……………さっき速人はんがなんかの組織に感じ入るものがあったのも嬉しかったけど、こうもシグナムを庇うなんて…………ウチは感動した!」

  天井を見上げ感動しているはやてに水を差す事をサラリと述べる速人。

「俺が戦闘訓練を頼んだのから当然の行為だ。不快な思いをされ次回以降の戦闘訓練をシグナムだけでなく他の者にも断られるわけにはいかない。そして加減を間違えたと理解している者に態々叱責して調和を乱す必要は無い」

  黙っていれば綺麗に纏まったのだが、沈黙と不理解の優しさをまるで歯牙にかけない速人だった。

「打算と今まで通りの事で構成されてましたね」

「まぁ急に沢山変わらねえ気はしてたんだけどな」

「誤解させたままにしないのが思慮ある行為なのかどうか判断に悩むな」

≪天神らしいとしか言えまい≫

  守護騎士達の感想が飛び、それを聞きながらガックリすると思いきや、気にせず瞳と拳に力を籠めてはやては言った。

「今までなら相手の気持ちは考えても心象までは考えんかったのに、今は相手の心象だけでなくて周りの心象も考えて行動しとる。打算だろうがなんだろうがこれは大きな一歩なんや!

  うん………………なんかの組織に対する備えが要因でそういう風に変わったみたいやからその組織とかに対する備えは……………入院せん程度にガンガンやって構わんで!」

「了解した」

「うん。これで説教はお終いや。

  さてそれじゃあ家に帰って御馳走………………って、シャマル。速人はん自分で動けるほど回復しとるんか?」

「一応動かしても悪化しない程度には治っているんですけど、動くとかなり痛みます。

  どうも速人さんは常時生命力が低いのか魔力を沢山注いだ回復魔法は殆ど効果が無くて、手加減して治さないと効果が現れないので全治してはいないです。

  あ、生命力が低いと言っても自己治癒力が低いとかそういう意味ですから、寿命が短いとかそういう意味じゃないんで心配しなくても大丈夫ですよ、はやてちゃん」

「ああよかった。速人はんが早死にするかと思った。

  しかし動くと痛むんやったら歩かせるわけにはいかんな……………。ザフィーラに乗せてもらう……………って、駄目や、意外と疲れそうや………………。肩を貸してもらう……………って、やっぱり駄目や。速人はんの身長じゃ高かったり低かったりで余計負担が掛かる」

  その言葉を聞きザフィーラは内心安堵の息を吐いた。

  たしかに速人を嫌ってはいないが、主でも無い男性を背に乗せる趣味はザフィーラには無く、しかも精神的にとても子供に思えない速人は尚更乗せる気は無かった。………………一応はやてに頼まれたら不承不承だが了承はするが、それでも自発的にするのは余程の非常時でもない限り断固拒否するつもりのザフィーラだった。

  そして少し考えたはやては、にや〜と言う擬音が似合う笑みを浮かべながら爆弾発言をした。

「そうや、初めて会った日速人はんがしてくれたお姫様抱っこがあるやんか〜。

  そういうわけでシグナム、あたしの代わりに速人はんをお姫様抱っこしてくれん?」

  爆弾の投下先にされたシグナムは驚き、慌てて言葉を返す。

「わ、私がですか!?」

「そや」

  さらりと返すはやて。

「本当はあたしがしたかったんやけど、あたしはこんな身体なんで出来んから、シグナムに頼むことにしたんや」

「あ、主はやての代わりを勤めさせて頂ける事は光栄ですが、何故私で、しかもその…………お姫様抱っことやらをしなければならないのでしょうか?」

  狼狽しながらはやてに問いかけるシグナム。

「あたしが初めてされた時はバスに乗る時で、段差を気にしてくれた速人はんの気遣いが嬉しくて、そしてみんなの視線がそれはそれはもう恥ずかしくて恥ずかしくて恥ずかしくて……………………………………。いつか同じ目に……………………こほん………………………いつかお礼をしようと決めとったんや。

  シグナムに頼んだのは怪我の原因はシグナムと速人はんの戦闘訓練やろ?どっちもひどい怪我しとるんなら別やけど、片方が平気やったらもう片方を世話するんは当然やろ?」

  動機は兎も角判断理由は至って正論だった。

  そしてはやて第一主義者のシグナムがはやてを危険に晒すわけではないはやての頼みを断るわけも無く、納得はしていない感であったが返事を返した。

「解りました…………天神を抱いて移動します」

「うん。ありがとなシグナム。

  じゃあそういうことで速人はん…………………シグナムにお姫様抱っこされて帰ってもらおうか?」

  堪えられない笑みを浮かべながら速人に笑いかけるはやて。

  シャマルはシグナムがお姫様抱っこするのを見たく興味津々で、ザフィーラは自分が獣人化してお姫様抱っこするという案が出てこず安堵し、ヴィータはどこか面白くなさそうにしていた。

  そんな中もう一人の渦中の人物の速人が声を出した。

「その様な事をせずとも其処に台車が在るのでそれに俺を乗せ、押すなり引くなりすれば態態シグナムの不快感を募らせる行為をせずとも済むと思うのだが?」

「うん、いい案やね。だけどな、その案はヴィータやザフィーラの時だけや。

  ただでさえスキンシップの少ない速人はんとシグナムはこういうときにスキンシップしとかんとな」

  聞く耳一切持たないと速人の意見をにこやかに、しかし力強く速人の言葉を流すはやて。

「と言うわけでバスに乗って家に帰るまで大人しくお姫様抱っこされとってな。

  ちゅうわけでシグナム、暴れてるからって気絶させたら面白…………気絶させるのはやりすぎやから、なんか動かなくするような魔法とかあったらバシバシかけてお姫様抱っこのまま家まで連れてってな?」

「お、お待ち下さい主はやて!まさか地上でタクシーを呼ばず、天神を抱いたままバス停まで歩く気ですか!?」

「そうやで。シグナムと速人はんの恥ずかしいいう意見は全面却下や。戦闘訓練で怪我したんなら片方が助けられるならそれを助けなあかんしな」

  にこやかにそう言われ沈黙するシグナム。

「管制室に一度立ち寄れ、その後2時間以内に八神家に到着するなら俺は構わない」

  一縷の希望として速人の拒否等を思っていたのだが、あっさりと受け入れられてしまい、残るは自分だけになり諦めるシグナム。

「……………解りました。謹んで拝命させて頂きます」

  そう言い、シグナムは速人を抱きかかえた。

 

 

 

                                   

 

 

 

  見目麗しい女性が無愛想で無表情な少年を運んでいる姿はとても目立った。それもお姫様抱っことくれば尚更目立つ。

  通りすがる人達から遠慮無く注がれる好機の視線にシグナムは心の中で念仏のように「主はやての為、主はやての為、主はやての為、主はやての為、主はやての為」と只管繰り返し、見た目平静を装っていた。

  ……………シグナムとしてはだが。

「う〜ん、真っ赤になってシグナム可愛いな〜、デジカメ持ってこればよかった〜」

「主はやて、この姿を後世に残そうとするのは御勘弁願います」

  はやての方を振り返り真剣に頼み込むシグナム。

「ははは。態々デジカメ取り戻ったり買ったりする気は無いから安心してええよ」

「…………宜しくお願い致します…………」

  力無くそう返すシグナム。と、そこにシャマルから声がかかった。

「だけど今のシグナムは速人さんの異母か異父か義理の姉に見えますね。若しくはただの美少年好きとか」

「…………………………シャマル。両腕が自由になった時は覚悟するがいい」

「怒らないでよシグナム。お詫びにこの画像をプリントしてプレゼントするから」

  そう言いながらシグナムが振り返ろうした時の画像を携帯の画面に映しシグナムに見せるシャマル。

  それはシグナムが速人に口付しようとしている様にしか見えない画像で、偶然シャマルが携帯のカメラ機能で写したときに撮られていた。

「な!何だこれは!?お前いつの間にこんな画像を作り上げた!?」

「これはさっきシグナムが振り返る時の画像で、何も修正していないわよ?」

「どれどれ、どんな画像なん?

 ………………………………………………………………って、これは洒落にならんなぁ〜。お姫様抱っこからキスの王道展開にしか見えんな………」

「断じてその様な事は御座いません。そしてそのような事をする気は微塵も御座いません」

  毅然さと憮然さが入り混じって声で答えるシグナム。

≪少し落ち着けシグナム。天神程動じるなとは言わぬが周囲への警戒がかなり疎かになっているぞ≫

「…………解った」

  ザフィーラに自身の警戒能力の低下を指摘され、少し間を置いて頭を冷やしてから返事したシグナム。

  と、シグナムが何とか落ち着こうとしている時にはやてが先程から不機嫌そうに黙っているヴィータに声かけた。

「…………ヴィータ、さっきからずっと黙っとるけど何でそんなに不機嫌なん?」

  ヴィータは何でもないと言おうとしたが、はやてに嘘を言いたくなかったので正直に話し始めた。

「シグナムが滅茶苦茶嫌そうにハヤト抱いて運んでるのがムカつく」

  はやては黙って先を促す。

「アタシが怪我させた時は、腕の長さが短くて上手く抱えられないし、身長が足りなくて肩貸せないしでシャマルが治した後も運べなかったのに、運べるシグナムが嫌々しているのを見てたら腹立ってきた」

  たしかにヴィータでは腕の長さの関係上抱きかかえる事は出来るが、抱きかかえたら強く自分の方に引き付けないと落としてしまう短さで、それほどの強さで手前に引き付けるとかなりの負担が相手に掛かるので抱える事が出来ず、肩を貸そうとすると速人は中腰になる必要があり余計負担が掛かってしまう。抱きかかえて高速飛行するなら問題はないが、抱きかかえて歩くとなるとヴィータは完全に役者不足だった。

「まぁたしかにヴィータが出来んことを嫌々やられたら腹立つのは分かるけど―――」

「たしかにそれも腹立つけどハヤトが降参した後シグナム気遣ったのに、シグナムが全然ハヤトを気遣わないのにもっと腹立ってる」

  ヴィータははやてに喋っているが当然他の面々にも聞こえている。

  それを聞きシグナムは思い返してみるとたしかに自分が速人を気遣っていないことに思い至った。

  はやてもそれに思い至り自分の不注意を詫びた。

「ヴィータ、それに速人はん、気付かんでごめんな」

「別にはやてが悪いわけじゃねえよ」

「問題無い」

「うん。本当気付かんでごめんな。

  ……………もう説教はお終いと言うてもうたからこれは注意やのうてお願いになるんけど、シグナム、今度怪我させた時には気遣ってやってくれへん?」

  はやてに頭を下げて頼まれ、是非も無く直ぐに答えるシグナム。

「頭を下げる必要はありません、主はやて。たとえ怪我するのが前提であっても相手に気遣ってもらいながらこちらが気遣わなかったのは私の不徳とするところ。ヴィータの苛立ちも尤もです。

  以後手当てが必要な程の怪我を負わせてしまったなら、手当てをする際気遣うよう致します」

  シグナムがそう言い、はやてはにこやかに微笑み、ヴィータも納得し、一件落着した時にバス停に到着し同時にバスも来た。

  はやてが先にシャマルにお姫様抱っこされて乗車し、続いてヴィータが車椅子を運び込むのは珍しいと思われた程度で然程注目は浴びなかった。

  しかし麗人が無愛想極まりないが、注意深く見れば間違いなく美少年に分類される者をお姫様抱っこして乗車してきた時は違った。

  内心は衆人環視の中で己の行為に対する羞恥でかなり動揺しているが、顔は凛としており、背筋も綺麗に伸ばし速人を抱えて移動するシグナムは注目されまくった。

  視線から逃れる為、しかし急ぎ足にならず堂々とした足取りで速人を席に座らせ、瞑目し周囲の視線からシグナムは逃げた。(つもりだった)

  瞑目する麗人。無愛想で無表情に外を見る美少年。見事な絵になる状況は携帯のカメラ機能等で多数記録されたがシグナムは瞑目していた為全く気付かなかった。

  常時と違った雰囲気がバスの中を満たしながらバスは出発した。

  はやて達はそんな光景を微笑ましげに見た後、はやては申し訳なさそうに、ヴィータとシャマルは愉快気に後ろを振り返った。

  そこには乗車拒否されたザフィーラがバスを追走する姿があった。

 

 

 

                                   

 

 

 

  多くの注目をシグナムと速人とザフィーラが集めながらも何とか八神家に到着したはやて一行。

  八神家の敷地内に入った瞬間シグナムに礼を言い自分で歩き出した速人を見てシグナムは自分の今までの行為に疑問を感じたが、シャマルが速人は重度の筋肉痛並の痛さに苛まされていると言われ、ある程度溜飲が下がった。

  そして全員リビングで一息吐いた時にはやてが話しだした。

「速人はんの恥ずかしがる姿は見れんかったけど、代わりにシグナムの可愛い姿が見れたのは良かったけど、ザフィーラに疲れる目に遭わせてもうた…………。ごめんな、ザフィーラ」

  今まで病院等の遠出は行きがけタクシーで帰りは徒歩で買い物だった為、ザフィーラがバスに乗れないのを先程まではやては失念していた。

≪あの程度で疲れはしないのでお気遣い無く≫

「そうだぜはやて。ザフィーラはあの程度じゃ疲れやしないって。だから今度もザフィーラが居る時バス乗ろうぜ〜。後2〜3回くらいは見てて笑えるはずだしな〜」

「それに飽きたら『山に捨てはずの犬が主人を慕い戻ってくる!!』とかのドキュメンタリーテープにして、動物系の番組に渡せば少しは家計の足しになりますよ。協力してくださいね、ザフィーラ」

≪…………ヴィータ、シャマル、……………覚悟はいいか?≫

  ヴィータに笑いの種にされ、シャマルに犬扱いされ、静かに怒りがこみ上げてくるザフィーラ。

「大丈夫や、ザフィーラ。バスに一生懸命ついて来るザフィーラを見飽きたり、ザフィーラを山に捨てるなんて真似、絶対あたしはせんから」

  若干ズレたフォローを誠心誠意でザフィーラにするはやて。

  主からの心温まる言葉を受け、怒りが霧散するザフィーラ。

≪我が身に染みる有り難き御言葉≫

「ま、さっきのは殆ど冗談にしても、ザフィーラが居る時はタクシーになるな」

「私もさっきのは殆ど冗談ですけど、ザフィーラが居る時はタクシー以外の交通機関は殆ど使えませんね」

  殆どが付くが一応冗談と先程の言葉を否定した両者の言葉に笑いながら話すはやて。

「あ〜、その心配なら要らんと思うよ。あたしがこの街から出るなんてまず無いやろし」

  喜ぶべきか悲しむべきか微妙な答えを返すはやて。

「大丈夫ですよ、ザフィーラ。いざとなったら私が免許でも取得してレンタカーで遠出するという選択肢もあります」

「他にも獣人化してコスプレだって言ってバスとか電車に乗ればいいし」

「最悪追走してもらうという案もある」

  ヴィータとシグナムの容赦無いフォローに多少の憤りは感じるが、主を励ます為と思いそれを無視してはやてに話しかけるザフィーラ。

≪このように言われているので私の事はお気になさらず遠出してもらって結構です≫

「気遣ってくれるんは嬉しいんやけど、本当に行きたい所て特に無いんよ」

  しんみりとした雰囲気が流れるが、一人会話に加わっていない速人のキーボードを打つ音がリビングに響いていた。速人は先程の戦闘訓練のデータを管制室で全てモバイルに移し、現在解析している最中であった。

  流石に「空気読め」という視線が守護騎士達から集中し、半速人専用領域からはやて達を振り返る速人。

「何だ?」

「…………天神、お前は主はやてに何も言わないのか?」

「遠出をするという事は基本的に近場の時よりも備えが薄くなる。

  危険度が高くなる選択を強制する気は無い」

  安全面的には全く以ってその通りなので反論できないシグナム達。

「速人はんの言う通り遠出したら病院とか色々問題でてくるからあたしはこの街から出る気は特に無いんや。それに行きたい所も特に無いし」

  そう言われたらそれ以上何も言えないシグナム達。

  しかしそんな事をお構い無しで喋るのが速人だった。

「遠出を勧めはしないが外出は薦める。

  はやての対人関係は狭く、健全に精神的成長をするには適度な他者の悪意なり善意なり無関心なりを感じる必要があるだろうと判断し、人の集まる場所に通う等して多くの人物の会話を見聞きし、可能なら自身もその会話に参入し私的交流を持つことを推奨する。

  尤も社会不適格者の俺が精神的成長について言える立場では無いが」

「社会不適格者て…………」

  はやては直ぐ否定しようとしたのだが、たしかに社会に適応しているとは考え難い為言葉を詰まらせる。

「それを気にする必要は無いぞ。はやて達に迷惑は被らせぬように尽力はしているし、欠落しているモノを自覚しないとそれを埋める事はできない。

  話を戻す。多感な年齢を足に障害があるからといって狭い関係の中だけで過ごすのは止めた方が良いだろう。

  手頃な案としては図書館で年齢の近い者に適当に話しかけ親睦でも深めるといい」

「ウ、ウチはべつに家族だけの関係で満足なんやけど…………」

「家族の関係を否定する気はないが、それ以外の関係を知っておかなければ色々と弊害が出る可能性が高い。

  今まで一人で図書館に居て交友関係が発生しなかったのは生気が薄いのが原因だろうと思う。最近出来ない理由は大きく年齢が離れて見えるシグナムやシャマルが少なからず相手に威圧感を与えているのと、ヴィータだと仲が良すぎて話しかける機会が失われているせいだろう。

  そういうわけでそこを踏まえてこれから頻繁に図書館に通うことを推奨する。そしてその際先程の理由で、シグナムとシャマルとヴィータには同行を拒否したい。できればザフィーラも頻繁に図書館前に居られると苦情を言われるので拒否したい」

  話を振られた守護騎士達は考え込む。

  真意はどうであれ、ここで頷けば楽に蒐集活動に行ける。しかし主の護衛を疎かにする案を安易に呑む訳にもいかないと考えていたら更に速人から声がかけられた。

「別にはやての護衛を放棄しろと言っている訳では無い。遠巻きに護衛してもらう分には何も問題は無い。そして家で待つのが暇ならばそれぞれ外出でもし、その時印象に残った事をはやてに話せばはやての見聞も広がる」

  速人は守護騎士達に堂々と家を空けられる言い分と、それに矛盾しない護衛方法を提示した。

≪(私は天神の意見に蒐集活動が終わるまでは賛成しておくべきだと思うが皆はどうだ?)≫

  シグナムが他の守護騎士達に問いかける。

≪(私も同意見です。蒐集活動が終われば適当な理由をつけて速人さんも護衛に復帰させてくれるでしょうし)≫

  速人が蒐集活動の為にその様な事を言っていると解釈して、シャマルも賛成の旨を伝える。

≪(蒐集しない時はやてと一緒にいる時間が減るのは嫌だけど、蒐集さえ終われば元に戻れるみたいだし賛成だ)≫

 少々不満はあるようだが、背に腹は変えられないので賛成するヴィータ。

≪(今日のシグナムとの立ち回りを見ればこの世界の余程の者でも天神が問題なく迎撃し、魔導師ならば遠距離でも我らが感知し護衛するので護衛に関しては問題無い。よって賛成だ)≫

  全員一致で賛成となり怪しまれない為に口頭で採決を採るシグナム。

「私は主はやての見識を広め精神的に成長すると言うことには賛成であり、安全面では魔導師ならば我らが感知でき、一般人ならば天神が撃退できるので問題は無いと思っている。仮に撃退できなくとも我らが駆けつけるまでの時間稼ぎは十分に出来る実力は有していると判断している。

  無期限に認めるつもりはないが今年度末までは様子見で承認しても構わないだろうと思うが皆はどうだ?」

  それにシャマルが答える。

「たしかに少々心配ですが、護衛はたしかに問題なさそうですし、可愛い子には旅をさせるべきですしね」

  ザフィーラがそれに続く。

≪シグナムと同じく無期限に認めるつもりはないが2ヶ月弱程ならば構わない≫

  そして演技ではなく本当に不承不承にヴィータが続く。

「まぁそれくらいならはやての為と思って我慢する。けど、何でハヤトははやてと一緒にいるつもりなんだ?はやてが友達作る邪魔にならないのか?」

  賛成の意と一緒に疑問を速人に投げ掛けるヴィータ。

「図書館に資料を配送させているのでそこで資料を閲覧する為に同行する。そしてはやてとの接触は必要最低限に留めるので邪魔にはならないはずだ」

  その言葉を聞きヴィータは不承不承納得し、速人ははやてに向き直り話しかけた。

「シグナム達の了解は取れた。あとははやての意思だけだ。

  別に強制はしない。ただ可能ならば案件を呑んでもらいたい。

  他者が友人関係を構築する過程を近場で観察もしたいしな」

「……………さらりと最後に本音が漏れた気がするんやけど………………」

  苦笑いしながら答えるはやて。

「それも理由の一つだ」

「あはは、それが無かったら感動するような場面やけど、やっぱりオチが付いてもうたな〜。

  ………………………………………うん、速人はんに友達の作り方を教える為にもウチが頑張って実践せんとな。

  うん。速人はんの言う通り色んな人と話して見聞を深めたり、友達を作れるように頑張ってみるわ」

「了解した。では明日からでも赴こう」

  淡々と言う速人。

「う〜ん。こういう状況でもやっぱり何時も道りなんよね〜。何とか笑かしたり脅かしたりできんやろかな〜。

  ……………………………って、あ!そういえば速人はん、シグナムにお姫様抱っこされとった時、ドキドキとか、ムラムラとか、ハァハァとか、なんか感じるようなことって無かったか?」

「衝動や情動等、特に感じるモノは無かった」

  何時も通りの答えが返ってくるが今回はそこではやては諦めず食い下がった。シグナムを大いに困らせる発言をしながら。

「本当になんも感じんかった?シグナムのおっきい胸間近で見てなんも感じんかった?ジャンプすれば揺れるほどやで?」

  その言葉を聞き顔が真っ赤になりながらも、意見は話が終わってからにしようと羞恥心で身を震わせながらも我慢するシグナム。ヴィータとシャマルは会話を御興味深そうに聞いており、ザフィーラは興味が無いのか伏せて適当に聞き流していた。

  そこに更に羞恥心を煽る事を言うはやて。

「男の人の夢らしい胸の谷間に顔埋めるとかも可能やで?普通は触りたいな〜とか思うはずやで?つうかウチはそう思ったから触ったんやけど」

「……………運んでくれた手前文句は言いたく無いので黙っていたが、強いて言えば眼前で胸が揺れ、シグナムが振り返る時に肩と連動し腕も動く為胸が顔を圧迫するので、胸が鬱陶しかったとは思った」

  さらりとシグナムが気付いていなかった恥ずかしい事を暴露する速人。

  さらに真っ赤になったシグナムを、笑いを堪えながら見るヴィータとシャマル。

「顔に触れたんか!?ウチもまだやっとらんのに…………」

  その言葉を聞きシグナムはいつか自分の胸にはやてが顔を埋めるだろと感じ取り途方に暮れた。

「とにかくシグナムの胸に触れたんなら柔らかいな〜とか、今度は自分から触りたいな〜とか思わんの?」

「乳房は脂肪が多いので柔らかいとぐらいは感じた」

「…………………いや、たしかに脂肪やけど…………」

「乳幼児でもないのに乳房に特別な感情を持つ要因の殆どは男性なら性欲、女性なら劣等感か優越感からというのは理解できるが、俺は性欲を実感していないので特に感じるものは無い。柔らかい物を触りたければラードの塊を触ればいいし、乳房を触りたければ搾乳でもすれば済むと思っている」

  世の女性の胸を馬鹿にしているとしか思えない発言を述べる速人。

  シグナムは別に速人の為の胸ではないが、ラードの塊やホルスタインと一緒にされ流石に憤慨した。

  はやてとヴィータとシャマルは苦笑いしながらそれを抑えようとしたが爆弾発言を述べる速人。

「それにシグナムの胸なら既に触っているぞ」

「「「「≪………………………………………………………………………………………≫」」」」

  興味無く流し聞きしていたザフィーラも含めた全員が唖然とした。

  長い沈黙の果てはやてが速人に問いかけた。

「速人はん………………………………………………………それってすれ違う時に手が触れたとかそんなんよね?」

  あっさりと肯定してほしいと思いながら乾いた声で問いかけるはやて。

  そして速人はあっさりと答えた。

「抱きついて胸倉を掴み胸元に手を差し込んだ」

  間違いなく一般生活で起こる事象では無い。

「……………………………………………………………………………それって合意の上?」

「事前にそうするとは言ってなかったが、そういう事がある可能性も十分あり、シグナムも考慮していたのか特に文句は今に至るまで言われていない」

  全員の視線がシグナムに集中する。

  そんな男女の睦び事な展開は、全く身に覚えが無く急いで否定しようとした。

  しかしそれより先にとてもとても楽しげににこにこニヤニヤしながらシグナムに話しかけるシャマル。

「も〜お、シグナムったらいつの間に速人さんとそんな仲になっていたのよ。水臭いわよ。一言言ってくれたらお祝いしたのに」

  楽しくて楽しくてしょうがないといった風にシグナムに言うシャマル。

「なっ!!?まてシャマル!私と天神はお前が思っているような関係では断じて無いぞ!!」

「ふふふ〜、照れなくてもいいのよ。それに照れたからって秘め事をした相手をそんなポイ捨てするような言葉は感心しないわよ?

  騎士以前に女として減点よ?」

「だから私は天神とそのような関係ではない!!断じてひ、ひ、ひ、………秘め事などしていない!」

  それに怒髪天状態のヴィータが怒鳴りつけた。

「やって無いなら吃らないだろ!!

  シグナム!お前ハヤトを誘惑したな!

  何も解ってないハヤトに何させやがった!!」

「私は誘惑などしていない!」

「うわ!?やってる事自体は否定してねえ!!

  ハヤトを捨てるなんて許さねえぞ!このおっぱい魔人が!!」

「まてヴィータ!その呼称は何だ!!?」

  普段の冷静などとっくに消え去り、混乱状態にあるシグナム。

  そこにザフィーラの落ち着いた声(思念)がかけられた。

≪落ち着けシグナム≫

  その声に多少落ち着きを取り戻したシグナム。

  しかし次にかけられた言葉でまた混乱に陥る。

≪守護騎士の本分を忘れぬ限り特に文句は無い。潔く仲を認めろ。見苦しいぞ≫

「だから違うと言っている!」

「そんな照れて否定せんでもいいのに、照れ過ぎやでシグナム」

  そこに凄まじい不機嫌さを撒き散らしたはやてがシグナムに話しかける。

「あ、主はやて………」

  向日葵の様な笑顔と瞳と声で話し掛けるはやて。だが、不機嫌さが周囲に伝播しているので却って恐ろしい。

「まさかあたしの知らんうちにそんな事が起こっとったなんて本当吃驚やわ………………………………………………………本当に……………………………………………吃驚やわ」

  最後の一言が凄まじく低い声で言われ、思わず戦慄するシグナム。

「照れるんは分かるけどあんまり速人はんを蔑ろにする事言うのは止めてや。シグナムの口からそんなの聞きたくないんや…………」

  泣きそうな顔でそんな事を言われたシグナムは益々焦り、ただ主を不快にさせぬ事だけを考え言葉を紡ぐ。

「御顔を上げて下さい、主はやて。私の行いが貴女を悲しませるのなら私はその行いをする事はありません。御安心下さい」

  はやての目線に合わせる為に膝をつき、はやての目を見ながら言葉を紡ぐシグナム。

「うん…………安心した……………ありがとな、シグナム。

  …………………うん、シグナムならしょうがないか。シグナム、速人はんと交際しても構わんけど節度を守ってな?」

「御安心頂けて何よりです」

  ほっとした表情に僅かな微笑を浮かべながら応えるシグナム。

  それを見ながら少し悔しそうにはやては言う。

「やっぱりシグナムは綺麗やし可愛いな〜。たしかにこんな顔を見たら誰でもイチコロやな〜」

  寂しさと悲しさが入り混じった声でそんな事を言うはやて。シグナムは何故そんな表情をはやてがしているのか考え、誤解されたままだった事を思い出し慌てて否定しようとしたがそれより先にはやてが速人に話し掛ける。

「やけどいつの間にそんなことしたんや、速人はん?」

  その時はやてがシグナムも疑問に思っている事を速人に尋ねた為とりあえず黙り込むシグナム。

「今日だが」

「ほえ!?今日って…………………ウチとヴィータと一緒の部屋おったのに………………まさかウチらが寝取る横で!?」

「そうでなく、先程の戦闘訓練の最中にシグナムの胸元に防御手榴弾を捻じ込んだ際の出来事だ」

  沈黙、というより、唯間が空く。

  そして暫く経った頃、またもやはやてから確認の声がかけられた。

「え〜と、シグナムと男女の仲と言うかそんな仲には………………」

「シグナムと性行為をした覚えは一切無く、シグナムと男女の仲と言われるような覚えも一切無い」

  その言葉にはやては安堵しながらも脱力し、ヴィータは機嫌が直り、シャマルは残念そうな顔をし、ザフィーラは呆れ、そして散々弄られたシグナムは―――

「ふふふふふふふ……………………………………………………天神、……………………………………………………………庭に出ろ」

  嘘は言っていないがそれで収まるはずも無く、何故か込み上げる笑みを顔に貼り付けるように浮かべながら、平淡な声で言うシグナム。

「もう一度戦闘訓練をしてやろう」

  何時の間にか騎士甲冑を身に纏いレヴァンテインが凄まじい密度の炎を纏っていた。

  その後全員が慌てて止めに入ったが相当腹に据えかねたらしく、10分以上シグナムは暴走していた。

 

 

 

                                   

 

 

 

  空が黄昏色から茜色に染まっていく時間帯、速人は自室でノートパソコンを起動させ、未読の電子カルテ等はやての病状に僅かでも関係する事のデータを見ていた。

  あの後暴走したシグナムを何とか速人以外の全員で静め事なきを得た後、はやては上機嫌に戦闘訓練前言った通り御馳走をすると張り切り今現在も台所で調理している。

  そして料理が出来るまで疲れているだろうから部屋で休むよう速人は言われ、現在横になりながら未読情報を閲覧している。他の面々は、はやては言わずと知れた調理中で、ヴィータははやての手伝い、シャマルは掃除や風呂の準備等、ザフィーラはリビングで休息中、シグナムははやての前で醜態を晒した事で落ち込み風に当って来ると言い外に出かけた。

  尤もシグナムは3時間にも満たない時間を蒐集時間に当てたのだが、言っている事は本当だった。

  そんなそれぞれの時間を過ごしている時に速人の部屋にヴィータが入ってきた。

  ノックもせずに入室する事を別段咎めもせず、さして気にする事無く画面を見ている速人。

  ヴィータは扉を閉め机に備え付けられている椅子に座り、暫く速人の様子を見ていた。

  そして2〜3分程経過した時にヴィータは話しかけてきた。

「なぁハヤト…………」

  ちらりと視線をヴィータに向けて先を促し、再び画面に視線を戻す速人。

「お前…………………最近眠って無いだろ?」

  ベッドの淵に座りながら答えを返す速人。

「効率的に眠っている。不眠という事は無い」

「………………………言い方変える。ハヤト…………………最近1日何時間眠ってる?」

  小さな声で速人に問いかけるヴィータ。

「2時間程眠っている」

  その言葉を聞き、何となく先の読めている質問ではあったが尋ねてみるヴィータ。

「寝る時間削って何してるんだ?」

「緊急時に対する備えだ」

「…………はやての病気について調べてんだろ?」

「その通りだ」

  あっさりと認める速人。そして顔を俯けながら喋りだすヴィータ。

「……………言いたく無いけど、無駄だから止めろ。この世界の医学で治るなら苦労してねえ………………」

「全く持ってその通りだ」

「じゃあ今すぐ眠れ。お前アタシ達と蒐集活動の事話した日からろくに眠ってねえだろ」

「その通りだ。

  それと質問するが何故それに思い至れた?眠気を堪える表情をした覚えは無く、四六時中見張っていたわけでもないだろうに」

  その問いにヴィータはあっさりと答える。

「移動してる時や食べてる時とか、とにかくハヤトから話しかけるのが減ったからなんか考え事してるって思った。で、そんな考え事しても解決しねえのははやての病気ぐらいしか考えられねえし、そう思って見ていたら仮眠するて言ってノートパソコン持って移動するし、仮眠して部屋から出てきたはずなのに3時間ぐらいでリビングで少しだけ眠ったりとか、そんなの見てたらすぐに眠って無いって解ったし何時頃からかも直ぐに解った」

  ヴィータのその言葉に速人はやはりヴィータは聡いと思い賞賛した。

「まさかそれだけのことで確信に至るとは賞賛に値する。観察眼や推理力もそうだが、疑問に思えるというのが素晴らしい」

  たしかに不審な点を見つけ推理して原因が解っても、そこで終わればあまり役に立たない。原因に疑問を持ち更に調べないと観察眼や推理力も大抵は宝の持ち腐れになる。

「褒めてくれるのは嬉しいけどさっさと眠れ。お前気付いてないかもしれないけど、瞬きで目を瞑る時間が最近少し長いぞ。相当眠たいだろ?」

「それは断る。未読情報がまだ有る」

「…………………さっきやってること無駄だって認めなかったか?」

  僅かに怒りを滲ませながら問いかけるヴィータ。

「たしかに無駄だろう。

  だが万が一蒐集活動をしなくても治る方法が見つかるかもしれない。何か不具合が生じた際集めた知識が役立つかもしれない。

  実際そんな事は無く蒐集活動は終了するだろうが、念の為でも備えをして不具合は生じないなら実行するべきだろう。

  特に天秤に乗っているのは家族の命だ。備えすぎて損をするという事は無いだろう。

  ヴィータは俺に無駄に終わる可能性の高い備えは止めて惰眠を貪れと言うのか?」

  その言葉を聞き俯くヴィータ。流石にはやての為の備えなんて無駄だとは言えない。

  だから代わりに別の事を言った。

「なら家に居る時は少し肩の力抜け。お前家に居る時も…………って言うか、はやて達が傍に居る時は家族の安全とか思って四六時中周囲を警戒してるだろ?

  ハヤトは多分一人でこの家に居ない時にしか気い抜いてないだろ?」

「その通りだ」

  素晴らしい観察眼に内心賞賛を贈りながらあっさり肯定する速人。

  シグナムやザフィーラは速人の警戒能力を評価しているが、家でまで外と変わらない程警戒しているというのはヴィータしか知らない。

  シグナムもザフィーラも家では多少は気を抜き休息しているが、速人は周囲に八神家の面々が居らず、家族が住む八神家以外の場所でのみ気を抜いていた。ようするに八神家の中と家族が傍に居る時は一瞬たりとも気を抜かないのである。

「警戒する事が間違いとは言わねえ。だけどハヤトは警戒しすぎだ。

  少しはアタシ達を頼れ。一人で背負い込みすぎだ」

「十分頼っている。

  仕組みは解らないが魔導師の探知方法から逃れる処置を施してもらい、戦闘訓練に付き合ってもらってもいる。

  警戒している事に関しては自分が警戒しなければならないとは感じていない。念の為にしているだけだ」

「………………念の為で四六時中気い張っているのかよ?」

「そうだ」

「……………………………………お前……………………アタシ達と一緒に暮してて楽しいか?重荷に感じてねえか?」

  それははやても強く感じていた事。特にはやてはヴィータ達が現れる前はかなり速人に頼りきりになっていた為、自分の存在が重荷になっているかもしれないという強い引け目を感じている。そしてはやてはその問いが怖くて一度もした事が無かったが、ヴィータはどうしても知りたくて問い質した。

  それに何時も通り淡々と答える速人。

「楽しいという事等を感じたくてここに居る。そして重荷には感じていない。

  寧ろ俺が足枷になっていないかと危惧している」

  一切誤魔化さず今この場に居る理由を述べる速人。

「……………………………………………………………………………………………もし他でハヤトが求めてるモンが手に入るなら……………………………………………………………………………………………ここを出て行くのか?」

  この家に住む誰もが速人に一番聞きたい核心を問いかけるヴィータ。

  嘘を言わずに喋る速人は素直に胸の裡を話すだろう。しかしその答え如何では家族とは呼べなくなり、そしてそれを危惧して沈黙しても同様である。

  しかも以前速人は目的を果たせば出て行くと一度はやてだけには告げており、あれから半年以上も経過し、速人も色々と変化しているが、どのような返答が出てくるかは全くの未知数であった。

  ヴィータは速人が過去に一度そういうことを述べている事は知らないが、自分が発した問いがとても危険なものである事を理解していたが、危険な蒐集作業が終わるまで自分がシグナム達に対して抱く様に全幅の信用を置けるかどうか考え抜いたがどうしても理解できない部分があり、危険を承知で知りたくて…………蒐集作業の事と関係なくてもただ知りたくて、そして願わくは自分の信頼と信用に応えてくれる事を切に求めながら……………とうとう尋ねてみた。

  ヴィータの複雑な胸の裡などお構い無しにやはり何時も通り淡々と胸の裡を語る速人。

「それは無い」

  ………………………短いがはっきりとした否定。

(やった………………………やった…………………やった…………………やった……………やった……やった、やったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやったやった!

  やったあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!)

  心の中で大喜びし、顔は満面喜色で、身体を震わせ拳を握り、全身で喜びを表し噛み締めているヴィータ。

  そんなヴィータを無視するように話し続ける速人。

「たしかに好意も嫌悪も感じていないが、それでもようやく執着できるモノが得られたのだ。手放す気は微塵も無い。

  他所で手に入るというなら手放さず、持ったままそこまで此方から近寄る。

  尤も執着しているモノが、自分の存在が原因で壊してしまうなら手放すが」

  寝返る事を完全に否定してくれた速人に大満足し、物凄く眩しい笑顔で速人に話し掛けるヴィータ。

「ありがとなハヤト!!その言葉が聞けて滅茶苦茶嬉しいぜ!!

  …………………うん!ハヤト!!アタシの1番ははやてだけど、お前をシグナム達と同じ2番にしてやる!!何が起きても信じてやるし理解しようとしてやるからな!!」

「感謝する…………………いや……………………有り難う………」

  本来有り難うとは、有りえ難い事に万感の感謝の意を籠め言う言葉である。

  速人はその言葉こそ相応しいと思い態々言い直して礼を述べた。

  一方ヴィータはその様な事は知らないが、単に初めて有り難うと言われた事に喜んだ。

「うん、初めてハヤトの口から有り難うって聞いたぜ!」

  そして興奮冷めやらぬ状態で速人に話し掛けるヴィータ。

「と、さっき家に居る時気い抜けって言っただろ?アタシが居る時ははやての次にだけど必ず守ってやるから気い抜け。お前眠ってる時も気い抜いてねえだろうし、本当ぶっ倒れるぞ?」

「一応3時間に15分間仮眠しているので大丈夫だが、たしかに気を抜くというか警戒を解けば負担は激減する。作業効率も上昇するのでその申し出に甘えさせてもらう」

「まかせろ!眠る時間については蒐集が終わるまで止めそうにないから、あまり文句言わねえけど蒐集終わってはやてが元気になったら直ぐ休めよ?」

「了解した」

  何時も通り淡々と言う速人だったが、先の言葉を聞いたヴィータとしてはそんな言葉でも嬉しかった。

  ふと窓の外を見たら茜色が暗灰色になっており、そろそろまた自分が手伝える事が出て来る時間帯だと思いヴィータは立ち上がった。

「それじゃあアタシは料理の手伝いに戻るぜ。眠ってても起こしてやるから眠っててもいいぜ?」

「解った。眠っていたら起こしてくれ」

「おう。じゃあな〜ハヤト〜」

  ヴィータはそう言い部屋から出て行った。

  部屋に静寂が戻り、速人はしばし呆と先程までの事を思い返し、自身の発言に少なからず驚きながらも横に崩れ、眠りに落ちた。

 

 

 

  僅か30分足らずの時間しか眠らなかったが、速人が覚えている限り初めて無警戒で眠った。

  僅かな睡眠だが速人が覚えている限り始めて良質で深い睡眠だった為、身体の疲れはあまり取り除かれてはいなかったが、思考はとても冴え渡っていた。

  やたら上機嫌で今まで以上親密に速人に接するヴィータにはやて達は不思議に思ったが、何か上機嫌になるような事が有ったのが要因だろうと思い追求はしなかった。

  ヴィータは先程の会話を誰にも喋っていなかった。

  ヴィータは先程の質問の答えは自分でして自分で得るモノだと思い、たとえはやてでも強く言われない限り言う気は無かった

  速人の成長を喜び上機嫌なはやての笑顔と、速人の深い胸の裡から自分の求めた言葉が出てはやて以上に上機嫌なヴィータの笑顔に満たされながら豪勢な夕食は終わった。

  11月の中旬前、現在闇の書の蒐集頁は100頁足らずだった。

 

 

 

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  第七話:執着するモノ――――了

 

 


【後書】

  ようやく完全にA‘S本編へ移行したはずでしたが、蒐集行為の説明は最後の一行だけで、他はどんな風に行っていたのかという説明は一切無い話になってしまいました。

  本来は速人の現在の戦闘能力を明確にし、魔導師になるかならないかを描くはずだったのですけど、終わってみれば戦闘訓練終了後か全く違う話に…………。しかも途中の馬鹿話がまるで意味が無いです。

  他のSS作家さんの作品を参考に何とか学習してこの作品に活かそうとしているのですが、またもやまるで活かせず凹む出来になりました。

  100KB前後に話を纏めようとしているのですが何故か60KB以上オーバーし、前後編に分ける難しさを痛感しました。

 

 

 

  作中説明です。

 

 

  【デザートイーグル】

  .357マグナム弾だと9発で、それ以外だと8発が装填数で、事前に銃に装填していれば1発装填数が増えます。

 

 

  【M67型手榴弾】

  米陸軍やカナダ軍が使用しており、遅延時間約5秒、爆心地から5m未満で死傷し、5m〜15メートル未満でも十分な殺傷能力があります。記録によると破片は200メートルを超える程飛散した記録もあり、強力な防御手榴弾です。通称アップル・グレネード、若しくは単にアップルとも言う。

 

 

  【特殊閃光弾】

  閃光手榴弾は本来光だけですが、それに音響手榴弾の能力も付与された物。

  誤解されがちですが光や音で相手の感覚を狂わせる事が主目的の兵器でなく、光と音で意識を数秒間刈り取るのが主目的です。

 

 

  【速人の服】

  全て耐弾・耐刃・耐火・耐冷繊維で出来ており、更に不導体処理・対光学兵器処理・撥水加工も施されています。

 

 

  【速人のマント】

  服に比べ全体の性能も格段に底上げされており、更に多種多様な薬品や波長に耐性や遮断効果があり、ミサイルを打ち込まれても煤ける程度で、ダイヤ・チェーンソーで切ろうとしても皺すらつかず、落雷を受けても表面で僅かに帯電する程度で、液体水素に漬け込んでも多少硬くなる程度で凍結しないチート能力を持ったマント。

  宇宙空間で比重の違う物質を掛け合わせたり、陽子数を強引に変えたりと、莫大な手間と金額を投入して作成した一品。

  本来は服にするつもりだったが、継ぎ目の問題や精製速度やその他諸々問題の結果マントになった。が、速人は顔を覆う等の応用が利くマントを好ましく思っている。

 

  尚後日外に来て行こうとした速人をはやてが懸命に止めるという話や、マントに憧れたヴィータに強請られたりするという話もあった。

 

 

  【地下研究所兼避難所】

  一応全ての管理とある程度の修理は速人一人で可能ですが、当然その広さから速人一人では管理しきれず平時は点検用のロボットが管理をしています。そして点検用ロボットでは対応出来ない場合は自身が対応し、さらにそれでも対応が追いつかない場合は闇業者から作業員を派遣させ、用件を済ませた後はその作業員を例外無く殺処分し、遺体は徹底的に解体され生体部品扱いで補完され、外部に秘密が漏れない措置をとっています。当然はやて達は知りません。

 

 

 

  説明終了。

 

  前回はやての出番少なくなる様な事を書いていましたが、この話だけでなく次の話まで蒐集活動があまり描かれない予定なり、必然的にはやての出番はまだ多めで、フェイト登場はお流れになる予定なりました。残念です。なのはは登場するでしょうが。

  なお日常速人が着ている服も高い対刃・対弾・耐熱能力の繊維に注文し直しており、はやての服も想い出の品以外は全てそうなっており、想い出の品に下着が含まれていなかったのではやての下着まで(はやては知りませんが)その様になっています。守護騎士達は本人達が不要と言い速人も不要と判断しているので普通です。

 

  いつもながら稚拙で益体のないSSですが、掲載し励みになる感想を贈ってくださる管理人様、本当に感謝します。

  そしてこのSSを読まれている方、独自キャラ設定が強くなりだし暴走気味にも拘らず御読み下さり感謝します。




いや、今回は何よりもヴィータが可愛いな。
美姫 「速人の言葉に内心で喜んでいる様は本当に可愛いわよね」
うんうん。ヴィータと速人は結構仲良しになっているみたいだな。
で、今回は戦闘訓練だったんだけれど。
魔法対近代兵器。流石に爆弾はないかと思ったけれど。
美姫 「手榴弾とか出てきてたわね」
いやー、凄い訓練だった。
美姫 「次回はどんなお話になるのか、楽しみにしてますね」
待ってます。



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