この物語はオリジナル主人公登場の魔法少女リリカルなのはA‘Sの二次創作です。
自分の文才の無さが原因で登場人物の人格及び性格が変わっている可能性もあります。その様な事に耐えられない方は気合を入れられて見るかブラウザの戻るを押される事をお勧めします。
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魔法少女リリカルなのはA‘S二次創作
【八神の家】
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11月の最後の日曜の午前中、八神家のリビングで速人は足元に書類や本が目一杯詰まったダンボールを幾つも置き、半速人専用領域で速人は書類や書籍を読んでいた。
速読の為普通はただ頁を少し遅めに連続して捲っているとしか捉えられない速さで読み進め、稀に重要度の高いと思われる文章が有るとパソコンに1分で300文字以上の速さで打ち込んでデータベース化していた。
そして読み終えるかデータベース化した資料はある程度ジャンル分けして机に積み上げていき、そして纏まった量になれば業者にデータベース化してもらう為にダンボールに移し、一時保管場所と玄関に置いていた。
そしてはやてはリビングの机で勉強していた。
休学しているといっても勉学を疎かにするわけにはいかず、勉強をしながら人を待つのが最近習慣になった事だった。
待ち人が来るまでの間はやては勉強していたが、解らない箇所があり速人に尋ねる為速人の傍に移動した。
「なぁ速人はんちょっといい?」
はやては一旦断りをいれ、速人は作業を一時中断しはやてに向いた。
「この文なんやけど、手間暇かけて作ったってあるんやけど、手間は解るんやけど、暇って何やろ?
寝る間も惜しんで作った物が暇かけて作ったってなんか変なんやけど?」
はやては教材の問題には直接関係はないが、疑問に思った事を度々速人に尋ねていた。
最初の頃は質問に関係ない箇所まで尋ねるのは気が引けたのだが、速人は「学ぶべき事の中に不明な点が有るなら無関係では無い」と言い、はやてはそれを聞き遠慮せずに尋ねることにした。
そして質問された速人は即座にその疑問に答えた。
「暇とは用事………この場合は仕事という意味合いが強くそれに束縛されていない自由な時間という意味と、前後に用事がある内の限られた貴重な自由時間という意味も有る。
この場合の手間暇かけてと言う意味は、労力と貴重な時間を費やしてという意味だろう」
「何で二つ意味が在るん?」
「暇とは平安時代頃までは隙間風が入るという言葉等で使う隙をひまと読んでいた。
この頃のひまという意味は空間的な隙間を意味していたが、徐々に時間的な隙間の意味にとって替わった。
江戸時代に入ると更に変化し先程述べたように二つの意味に分かれた。
しかし元々は何かと何かの隙間というのが暇の語源で、自由な時間と束縛された時間もその前後には何かしらそれ以外の時間があるのでどちらもその語源からは外れてはいないので二つ存在するというだけだろう。
俺が知る事はこれくらいだ」
その話を聞きはやては感心しながら礼を述べる。
「速人はん、ありがとや。辞書で調べても全然解らんかったのに、アッサリ答えれるなんて速人はんはホンマすごいな〜」
「それほどの事ではない。
それと広辞苑に載っている単語の意味以外は、たとえそれが事実だとしても公式では認められない場合が多い。俺が今言った事は文献を読み、推測していったモノに過ぎない。公式見解ではないので人に伝える際にはそこを忘れぬよう注意する様に」
「解ったわ。それじゃあウチは勉強に戻るわ」
そう言いながらテーブルに戻るはやて。
しかしその背に速人が声をかける。
「はやて、月村すずかが来た。勉強はそれで終了し交流を深めるといいだろう。
俺はシャマル達に戦闘訓練をつけてもらいに地下研究所に行く。家にはヴィータが残る予定だが構わないか?」
「構わんけどあんまり無茶せんといてな?」
「無茶をしなければ得られないモノも在るのでその提案を呑む事は出来ない。しかし入院が必要な怪我を負えば中断して治療は受けるようにしている」
「まぁ約束守ってくれとるみたいやから文句は言わんけど、それでも怪我せんようには努めてな?」
「怪我を負う事が目的では無いので、その要望ならば善処しよう」
その言葉と同時に鳴り響くチャイムの音。
そしてはやてに代わり誰かが応対しに玄関に行ったようだった。
「あ、来たみたいやね。ちょっと出迎えに玄関行くわ」
はやてはリビングで待っていればいいのに、律儀に出迎える為に玄関へ向かった。
速人がパソコンの電源を落とした時に丁度リビングにはやてとすずかと一足先に応対に行ったであろうヴィータが入ってきた。
「あ、速人さんおはようございます」
「おはよう」
片付けの手を一瞬止めて挨拶をし、再び片付けの作業に戻る速人。
相変わらずの無愛想にすずかは苦笑するが、しかし気分を害した様子は特に無い。
この【月村 すずか】というはやてと同学年に相当する女性は、速人が図書館に赴こうと言った次の日にはやてと友好関係が結ばれた女性であった。
双方とも以前から見かけて気になっていたらしく、はやてが高い位置にある本を取ろうと少々苦戦している時に、代わりに本を取ってもらいそのままあっという間に仲が良くなった。
そしてそれを遠巻くから見ていた速人は、友人関係を結ぶには行動や口調以前に人格と性格が重要視されるので、自分ではまずほぼ実現不可能だという結論に早々に辿り着いた。
少なくとも人心掌握術等を心得、他者の思考を理解・分析し行動を高い精度で操作できる自分が友人関係を結ぶには、相手の能力か自我乃至人格を理解・分析しきれない者が最低条件で、そうでなければ対象に興味も関心も持つことが無いと結論付けた。
速人がそんな結論を出した時にはやてがすずかを引き連れ速人の傍に来てすずかを紹介した。それに速人は商談等の時に使う話し方で接し、はやての交友関係に干渉しないように努めた。結果すずかは速人に悪印象も好印象も持たず、【特に気にならないはやての家族】と認識した。
そしてすずかと分かれた後はやてから、すずかに接する態度が硬いと注意され、「家族でない者が家族と接触したなら警戒するのは当然だ」と守護騎士達も同様の意見の主張をしたが、「ウチの友達やからそんなん必要無い」と言われ、全員に危害を加えられない限り警戒しないようにと深く釘を刺され渋々皆それを呑んだ。その後直ぐに速人がワイヤー針タイプスタンガン(ガスや火薬でなく強力なバネ式なので合法)ですずかが不穏な行動をした場合即座に無力化可能なように見張っていたと知り、守護騎士達は護衛として当然と評価したが、はやては心配は嬉しいが友人を警戒されるのは嫌な為もうしないでくれと注意だけした。
色々有ったがその日のはやては昨日に引き続き上機嫌で、他の面々も安全面は心配が残るがはやてに友人が出来たことを素直に良い事だと思った。若干ヴィータは焼もちを焼いていたが。
それから平日はほぼ毎日はやてとすずかは図書館で会い親睦を深めていった。そしてはやてはすずかに余所余所しく喋らなくていいと速人に言ったので、すずかに接する態度が素の状態になり、すずかは速人の認識を【変だけど気軽に話せるはやての家族の変な人】と相当な変人と認識を改めた。尤もはやてを気遣った態度や言葉をすずかは感じ取っているので、変人とは認識しているがかなりの好印象を抱いていた。
そして今日のような休日はすずかは八神家に尋ねに来、最近では守護騎士達もかなり警戒を緩めていた。
この月村すずかという存在のおかげで、平日はやては図書館で勉強しながら下校するすずかを待つので、蒐集作業が捗り30日足らずで500ページを超えていた。
休みの日は今日の様にすずかが八神家を訪れるが、速人が戦闘訓練の回復役にシャマルと訓練指導役に二名引き連れて家を出、疲弊していない方が蒐集に出かけるという事をしていた。
なおはやての護衛に残るのは一番疲弊していない者である。
速人は片づけが済みすずかも来たので、今から戦闘訓練に行くことをはやてに伝えた。
「はやて、先程言ったとおり今からヴィータ以外の面々と出かける。構わないか?」
「あ、うん。いってらっしゃいや」
「行って来る」
速人はそう言いリビングから出て行き、直ぐに現れたシャマル達が挨拶していく。
「それでははやてちゃん行って来ます」
≪行って参ります≫
「ヴィータ、留守は任せたぞ」
「任せろ」
シグナムがヴィータに留守を任せるのをヴィータの戦闘能力を知らないすずかは微笑ましく見ていた。
「それでは行って参ります」
一礼してシグナム達は去っていった。
「はやて〜、今日はすずかと一緒にケーキ作るんだろ?だったらイチゴの沢山載ったケーキにしようぜ!」
ヴィータのそんな声がリビングから漏れているのを玄関で速人達は聞きながら外に出た。
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
あの後何時の間にか速人が呼んでいたタクシーに全員乗り込み、速人宅に移動した。
そして誰にも見られない所でシグナムは蒐集の為に別行動になり、残った三名はいつもの様にシャマルは管制室で待機、そして残る二名は訓練をしに通い慣れ大分汚れてきた第五実験場ではなく、今日は第三実験場に速人は案内した。
そして場所が替わってもすることは変わらず直ぐに戦闘訓練が初められた。
凄まじい轟音とマズルフラッシュを撒き散らしながらザフィーラ目掛けて1発弾丸が放たれる。
それを障壁で防ぎ回し蹴りを放とうとしたザフィーラだったが、障壁が破れかけていることに驚き、回し蹴りを中断して障壁に力を注いで何とか防御した。
今日速人が使用している弾丸は.600NE弾という大型獣狩猟用のライフル弾で、使用している銃は何時ものデザートイーグルではなくそんなライフル弾を強引に発射して世界最強の拳銃の称号を得る為に作られた回転式拳銃プファイファー・ツェリスカ。
何時もの.44マグナム弾や.50AE弾とは一線を画した威力の弾丸は、手抜きで展開された障壁を一撃で貫通しかけたが流石に百戦錬磨のザフィーラは急遽障壁に力を注ぎ込み何とか防ぎきった。対して速人は反動で関節を痛めていた。
戦車の装甲すら貫通できる弾丸を強引に拳銃で発射しているのだから反動はかなりのもので、銃本体の重さも6kgとかなり重く、手首・肘・肩と重さと反動で相当痛め、反動は未成熟な身体の速人では全装填数を一息の間に連続して発砲すれば脱臼しかねない程で、銃に対して速人はかなり役者不足だった。
しかしその代償に見合うだけの威力はあり、たった一発の弾丸で相手の突進を止められるなど初めての事で、不意打ちに全弾撃ちこめば障壁を破壊して騎士甲冑越しにも中り所次第では決定打も与えられるだろうと速人は認識した。
だが彼我の実力差はやはり圧倒的で、油断をせずに障壁の出力を上げて対処されれば今まで通りあしらわれて終わりであるとも速人は認識していた。速人が守護騎士達を打倒するには攻撃力以上に油断を誘い、不意を突き、一気に戦闘不能にする事が不可欠である。どんなに攻撃力が上がろうが防御力や体力等はまるで話にならないので、どうしても1回の好機で仕留めなければならず、今までの全ては不意をつけても騎士甲冑で防御されて反撃で粉砕骨折や内臓破裂等で返り討ちに遭っていた。
尤も速人が戦闘訓練を受ける最大の理由は先天的にもっているかもしれないレアスキルを発動させるか、後天的にリンカーコアかレアスキルを取得するのが最大の目的で、潜在する能力の発動や新たな能力獲得は今も昔も変わらず生命の危機に発動するのが殆どであるので、怪我することはけして無駄ではなく寧ろ望む処であった。
そして速人の認識通り障壁を強めに展開して弾丸を防ぐようにしたザフィーラは速人に向かって疾走する。
速人だと反応不可能な程の速さで放たれた蹴りは事前に予測していたのか蹴り足に3発放ちつつ、発砲の反動を利用するようにザフィーラの蹴る方向に跳躍し回避した。
ザフィーラは蹴りを中断し本気で障壁を展開して弾丸を防ぐ。盾の守護獣の名に相応しく小揺るぎもしなかったが、本気で展開しなければ恐らく障壁を貫通していただろう負荷を障壁に与えた。
そして蹴りの最中に障壁を展開した為に体勢を崩し、僅かにザフィーラに隙ができた。
速人はその隙に更にザフィーラから離れるべく跳躍しつつ、0.5秒以内に炸裂するよう調整した特殊閃光弾を作動させながら投げつける。
既に体勢を立て直し追撃に移っていたザフィーラはそれを防ぐべく障壁を展開した。
障壁に接触する前に音と光を撒き散らして炸裂する特殊閃光弾。
ザフィーラは咄嗟に目を閉じその場より離れ、速人は目を瞑ったまま1発ザフィーラが移動したと思われる場所に放ち、残弾数が0になったプファイファー・ツェリスカを手から離し、即座に左腰に固定していたもう一丁のプファイファー・ツェリスカを握る。
光と音が一段落する前にまだ視力が回復していないザフィーラは速人の居る位置に突進した。しかし速人は目眩ましが長く続かないことを理解していたのか2秒後に炸裂するようにしてあるDIME(高密度不活性金属爆薬)作動させ真上に放り投げつつ後ろに跳躍する。
そして速人に詰め寄ったザフィーラは正拳突を放つ。後ろに跳躍していてなお内臓を破裂させかねない威力を速人に与えながら殴り飛ばした。
速人を殴り飛ばした後即座に障壁を展開し目の前に落ちてきたDIMEに備えるザフィーラ。
爆発するDIME。金属片を撒き散らすのではなく金属粒子を撒き散らす攻撃手榴弾で、殺傷範囲が手榴弾にしては極めて狭く、高さ1m半径2m程しかなく、範囲外には殆ど被害が及ばないが、直撃すれば人体を容易にすり身にし、体内に金属粒子が残留する為外科手術で取り除く事も不可能に近く対象のみに致命傷を与える事が出来る優秀な兵器だが、展開された障壁にその威力の全てを阻まれた。
一方速人は殴り飛ばされて炸裂地点から4メートルも離れている為爆風以外の影響は受けておらず即座に飛び起きながらザフィーラ目掛け2回発砲した、が、またもや障壁で全て受け止められる。
速人の銃撃も爆撃も障壁が無くとも騎士甲冑に阻まれ、単発だと痛手は与えても決め手には成らない。正確には決め手には成るのだろうが、決め手に成って尚圧倒的な実力差の為にその後の反撃で速人は対処不能になる。しかしザフィーラの攻撃は手加減されているにも拘らず戦闘服越しに生命維持に支障をきたす程の威力が籠められている。
しかし現在携帯している兵器でまず決定打にならない事を承知していたから速人はこの実験場にザフィーラを招いた。
今までの戦闘訓練から障壁の耐久性や守護騎士達の反応速度を考慮すれば、障壁を貫通し、回避する前に命中させる事が出来ると速人は判断しており、これが効果を上げれば対魔導師の有効な兵器になると考えていた。
切り札を直撃させる為に、ザフィーラに全弾発砲し、懐のリモコンのスイッチを押そうとした。
しかし瞬間的に白い光の線…………いや柱が床や天井を突き破るように現れた。そして瞬時に絡め取られ身動ぎ一つ取れなくなる。
床や天井の破片が速人にも幾つか襲い掛かるが、身動ぎすら出来ない状態では当然回避も迎撃もできずその身に浴びていく。結果直ぐに止血すれば自然治癒で完治する程度の傷を負うが、放置し続ければ失血死する程の怪我ではある。
白い光の柱を伝い流れ落ちる速人の血。
「これまでだな。何をやろうとしていたのかは知らぬが、最早指先一つ動かせないその状態では手の打ちようはあるまい」
完全に速人を拘束した為一息吐くザフィーラ。
(手加減したとはいえ、そして何らかの薬物を使用しているとはいえ、ここまで粘るとは……………。そしてAランク程に加減したとはいえ奥の手の光の軛を発動させるとは驚きだ。
反応速度を超えた攻撃に悉く対応している事から、こちらの攻撃を予測しているのだろうな。魔法が使えれば優れた魔導師か騎士に成れただろうに……………。
もし並程度の魔力資質でもあれば、痛みを恐れず、恐怖に怯まず、冷徹冷静に物事を見極め実行に移す素晴らしい存在になっただろうに……………全く持って惜しいな………)
ザフィーラは胸中でそう評価していた。
一方速人は身動き一つできず拘束されている為、止血する事が出来ず流れ続ける血は衣服を朱に染めたり、床に血溜りを作ったり、……………………………白い光の柱を伝い床下の情報回線に触れた。
その瞬間管制室でモニター越しに訓練の様子を見ていたシャマルはモニターに急にノイズが走り、今までとは別の視点からの映像に切り替わったり戻ったりしているモニターに驚き周囲を見回すと、幾つかの計器類が異常を示したりシステムに不正介入があり警報音が鳴り出した。
警報音は実験場内部にも鳴り響き、ザフィーラは施設を破壊した為と思い光の軛を解除しようとした。
が、突如壁の一部に丸い穴が開き、そこから目に見えない何かが放たれた。
それは光の軛を数本貫通し、速人とザフィーラの横腹を抉った。
情報回線に食い込んでいた光の軛が消滅した直後警報音は停止した。
ザフィーラは何が起きたか解らなかったが、とりあえずはこのまま拘束していると速人が失血死してしまう為光の軛を消し、相当量失血したがふら付きながらも立っていた速人を無造作に肩に背負い、管制室に居るシャマルに治してもらう為に実験場を後にした。
速人は運んでくれるなら特に拒否理由がないのでされるがままにされた。
速人は移動中先程頭を駆け巡った情報の氾濫について考えていた。
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失血は命に関わる前に止血でき、事前に出血に備え増血剤を飲んでいたので然程問題にはならず、裂傷もシャマルが癒して事無きを得た速人はこの研究施設兼避難所の全システムに自己診断をさせて異常個所が今すぐに修正及び修理が必要で無いと判断してザフィーラとシャマルに向き直った。
「特に今すぐに修正及び修理する箇所は見当たらない。話を始めてくれて構わない」
その言葉を受けシャマルは話し始めた。
「恐らく速人さんは見当がついていると思いますが、先程起きた事態は速人さんの血液を介してこの施設のコンピューターに速人さんが直接接続した為起きた異常事態と思います」
その言葉を聞きザフィーラが疑問を口に出す。
「それは血液を用いて機械に接続できるように設計されているということか?」
「電気さえ通せば血液に限らず何であっても接続できる設計でしょうけど、接続できても指令を送るだけの電力がない限り接続しても何も起こりません」
絶縁体でない限り情報回線に触れればそれを経由してコンピューターにアクセスする事は一応理論上可能ではある。しかしアクセスできるといってもアクセスするだけの電気指令を送れない限り接触しても何も起こせない。人が情報回線を握った所で電気指令を送る能力どころか電気指令に必要な電力を安定して生成する能力すらない。
つまり何かしらの外部要素か、認められていない内部要素が在ったという事だ。
その結論に思い至ったザフィーラはシャマルに尋ねる。
「電撃系の魔法を血液に乗せ機械を操作したのか?」
「恐らく違います。魔法でそれを行うには電圧・電流・放電と三項目を精密調整しなければならず、いきなり実行できるとはとても思えません。」
たしかにコンピューターの電気指令は精密で、服を脱ぐ際に生じた静電気程度で容易く壊れる程基盤等は弱い。
それほど精密且つ緻密な構成や理論が必要な事を、魔法を一度も使用した事がない者が即座にそんな魔法を行使出来るとは非常に考え難い。
シャマルは少し言葉を切ってから話し出した。
「確証は持てませんが技術と理論に因る能力ではなく、資質と感覚に因る能力、レアスキルに分類される能力だと思います」
「……………………………………生来の突然変異か生後の突然変異かは解らぬが、まさか本当に手に入れるとは……………………虚仮の一念というやつか………………」
「詳しい能力は判りませんが、魔力資質は然程変化が無いんです。はっきり言って最低ランクのFランク以下程度の魔力しかなく、そんな能力を行使出来る程の魔力は無いんです。
恐らくですがこの能力が発動出来たのは血が高魔力体の近くに在ったので、その魔力を使って能力の動力源にしたからだと思います」
それを聞き考え込むザフィーラ。そしてそれで結論に至った速人はシャマルに確認を取る。
「つまり一応リンカーコアはあり特殊能力…………レアスキルが在るが、自力で行使する事は出来ないと?」
「その認識で間違いありません。あと蒐集を行えば死亡する可能性が極めて高い貧弱なリンカーコアです」
幾度も戦闘訓練を行い、偶然身に付けたか発見したかは解らないが兎に角手にした能力は、まるで状況を変える力は無かった。
普通なら落ち込むところだがそんな素振りは微塵も見せず、そして事実落ち込んでいない速人はシャマルに問いかけた。
「この能力を現状で何かに活かせるという案はあるか?」
「その能力…………接触感応…………いえ特殊接触感応と呼称しますが、詳しく調べるほどの機材が無いので詳細は解りませんが、恐らくコンピューター関係に直接アクセスできる能力だと思いますけど、単独で使用が不可能な以上破壊工作に用いる事は出来ませんし、破壊工作をするにしても管理局に潜入する必要があるのでどの道まず使用する機会はありません。
現状でその能力を何かに貢献させる案は私には全く思い付きません。残念ですが現状では無用の能力です」
「レアスキルと呼ばれるモノを複数所持している者はいるのか?」
「いるのかもしれませんが少なくとも私は知りません。はっきり言ってこれ以上の戦闘訓練をしても然程得るモノは無いと思います」
「そのようだな。忌憚無い意見感謝する」
「いえ……………」
本来は落ち込むはずである速人に代わりシャマルとザフィーラが落ち込む。
速人は回復役のシャマルが居て尚且つ疲弊していない時は頻繁に戦闘訓練をしており、一応はやてに約束した通り入院が必要な怪我を負えば即座に訓練を止め治療はしていたが、治療が済み入院の必要は無いと判断すればまた戦闘訓練を開始するということを繰り返していた。
骨が折れては治癒し、内臓が損傷しては治癒し、無茶な動きで靭帯が断裂しては治癒し、薬物強化の副作用で倒れては治癒して休養を取り、幾度も戦闘訓練を繰り返す速人を見て、ヴィータは半泣きになり、ザフィーラは顔を顰め、シャマルは目を逸らし、シグナムは眉を顰め、それでも只管戦闘訓練を続けてきた。
骨折や靭帯断裂や内臓損傷を1日の戦闘訓練で20〜40回も負う訓練を、シャマルが治療するからといって10回以上も自発的に挑むその意志の力に守護騎士達は少なからぬ畏敬の念を抱いた。
文字通り血反吐に塗れ粉骨砕身で挑み続け、凄まじく低いとされた確率を乗り越えてようやく手が届いたのは、珍しいが現状で全く役に立たないと断定された能力。
あまりの結果に落胆というより不憫さが先に立つザフィーラとシャマル。
(僅かな期間だが凄まじい苦難に塗れ、時には加減間違いで何度も死にかけた果てに手に入れたモノがあれとは…………正直憐れでならんな…………)
(普通の人なら訓練回数がそのまま自我か人格崩壊起こす訓練をここまで続けてこの結果……………流石に不憫すぎます…………)
そんなザフィーラとシャマルの考えを余所に速人は少し考え込み、結論が出たのか話し出した。
「シャマルの言う通り戦闘訓練は現状では最早無駄と判断した。
これからは代わりに魔法についての知識を可能な限り教授してくれ。知ってさえいれば使えなくても有る程度対処が可能なのはこの戦闘訓練で確認は取れたからな」
それにザフィーラとシャマルが頷き場は締め括られた。
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
はやてがシャマルとお風呂に入っている最中にザフィーラはリビングで今日の戦闘訓練であったことを話した。
速人は相変わらず自分が会話する下地ができるまでパソコンに何時も通り向かっていたが、シグナムはザフィーラとシャマル程ではないが気落ちし、ヴィータは露骨に落ち込んでいた。
「なぁザフィーラ………そのレアスキル、もう少し詳しく解らないのか?」
≪その後何度か試したのだが、光の軛に血が伝って回線に触れた時のみ発動した。それと天神に直接魔力を流してもみたが能力は発動しなかった。
つまり血が高魔力体から漏れる魔力を動力にして能力は発動できるが、天神に魔力を送っても魔力を対象に伝える能力が無いのか眠っているのかは定かではないが兎に角能力は発動しなかった。それとシャマルが能力の触媒に血が必要な可能性も有るとは言っていたがやはり詳しくは解らない。
結局現状で役に立つような能力でないという認識は覆らなかった≫
「そっか………………」
ヴィータはガックリと項垂れた。
ヴィータは接近戦を好むがオールラウンダーな為、速人は出来るだけヴィータと戦闘訓練をするようにしており、地下実験場を使った戦闘訓練回数が一番多いのはヴィータで、半分以上を占めていた。
一応シャマルは回復役として皆勤賞だったが、速人がどれ程の苦難に遭ってきたかヴィータは自分が一番知っていると自負していた。尤も治療を要する怪我から致命傷まで負わせた回数が一番多いのも自分だとヴィータは不承不承認めていたが。
(あんなになってまで頑張ってたのに…………………手に入ったのはワケ解んない力かよ…………ちくしょう…………)
ヴィータとしては何かに八つ当たりしたかったが、八つ当たりする理由が速人が碌な力を手に入れられなかったからという理由で八つ当たりすると、今までの速人の苦難を踏み躙りそうなのでぐっと堪えた。
(まぁ都合が良い話がそうそう在る訳は無いと思っていたが………儘成らないものだな)
シグナムは速人の事を他の守護騎士達の様に全面的に認めていないが、だからといって足掻き続けた結果が無残なモノだった事を嘲笑う様な性根の持ち主ではない。
大なり小なり二人が落ち込んでいるところに速人が話しかける。
「最大の目的は一応達せられ、これ以上の戦闘訓練で得るモノは少ないと判断したので戦闘訓練は今回で終了し、次回からは魔法の講義と実証をやってもらいたいのだが構わないか?」
「…………随分と簡単に切り替えられるな?努力が散ったというのに何も思うとこが無いのか?」
「思わない。それと思うとことは何なのか教えてくれ」
「…………天神、お前にとってあの訓練は力を得る為のものではなかったのか?」
「そうだ」
「ならば何故―――」
「やめとけシグナム」
そこにヴィータが割り込む。
シグナムは目でヴィータに続きを促した。
「ハヤトは少なくともやることあって出来るなら、そういうの感じる感じないは別にして全部後回しにするぞ。第一ハヤトが気にして無いならアタシ達が気にしたってしょうがないだろ。それにあんまり話し込むとはやてが風呂から上がっちまうぞ」
「…………そうだな。
それで天神、先程講義と実証と言ったが具体的には何をさせる気だ」
意外と冷静なヴィータに驚きつつ速人にたずねるシグナム。
「対立するだろう勢力が保有すると思われる全魔法の紹介と説明、そして可能ならそれらの再現。この二つだ。なおザフィーラとシャマルの了承は既に採ってある」
「その程度のことならさしたる手間でもないので私も構わない。出かける口実も必要であるしな。
ただお前は対立するだろう勢力…………管理局と戦う気なのか?」
「緊急時には戦うだろうが、その場合は襲撃ではなく迎撃になるだろう」
「…………お前の意志力や思考速度や判断力は買うがやめておけ。
たしかに並の魔導師なら打倒は可能だろうが、主はやてやお前に危険が及ぶ時に相対する者は高位の魔導師だ。余程防御が不得手でない限りお前の攻撃は全て無効化される。迎撃は出来ない」
今迄の戦闘訓練を思い出しながらシグナムは言う。
シグナムが知る限りの速人の戦闘能力では高位の魔導師達に遠く及ばないのは明らかであり、たしかに今でも居ても構わないが出来れば居ない方がいいと思っているが、だからといって当初の様に死なせようとは思ってはいなかった。
先程の会話で相変わらず案山子の様だという認識は変わらなかったが、それでも家族の為にと血反吐どころか破損した内臓を吐瀉してなお訓練に挑む姿を見、少なくとも今すぐ不穏な行動は起こさないだろうとシグナムは判断し、かなり態度が軟化してきた。
そんなシグナムの僅かな気遣いをあっさり否定する速人。
「先程の戦闘訓練で光の軛を幾本か貫通しザフィーラの身体を抉る事が出来た。
手加減されたものだという事は理解できるが、それでも高位魔導師に相対するには十分な結果だと思うが?」
「……………ザフィーラ、本当か?」
俄かには信じられずザフィーラに確認を取るシグナム。
≪事実だ。Aランク程に加減したが、不可視の攻撃が一瞬にして数本の光の軛を貫通し私の身体を抉った。
おそらく障壁を貫通する事も出来るだろう威力を秘めているはずだ≫
「……………天神、その攻撃はなんなのだ?」
「不可視帯域のコヒーレント光、レーザーと言っても構わない」
「…………名前だけでなくどのようなものか説明してくれ」
「要約すると光を収束させて拡散しないようにさせて照射することだ。
銃火器等と違い完全な対物兵器で、用途次第では核融合を引き起こしたり絶対零度に冷却したりも可能だ」
「…………結局ザフィーラに放ったレーザーとやらはどれ程の威力だったのだ?」
「1秒間の照射で、厚さ30mの鉄板を貫通可能な熱量を持ったレーザーだ。
この攻撃で高位魔導師の迎撃は可能か?」
速人はシグナムの疑問に答え、そして最大の問題点を尋ねた。
「直撃すれば余程防御に秀でた魔導師でない限り、まず障壁を貫通し致命傷を与えられるな。というよりそのような物があるなら迎撃でなく襲撃しても構わないと思うがな」
シグナムの疑問に速人ではなく別の者が答えた。
「あ、シグナム。それ出来ねえぞ」
今まで黙って聞いていたヴィータが速人に変わって説明する。
「レーザー撃つには滅茶苦茶電気が必要で、1回撃つのに凄く電機溜めたりする必要があるし、送電線のせいであまり動かせねえんだ」
ヴィータの意見が合っているかシグナムは速人を見、その意図を察したのかヴィータの意見と同意を示す首肯を返した。
それを見てヴィータは得意そうに胸を逸らしながら言った。
「ふふん。この前はやてと星間戦争っていうDVD見てたんだけど、ハヤトにそれに出てきた武器造れないか色々聞いたんだ。
…………って、話戻すけど、たしかにアタシ達でも直撃したらヤバイ兵器が在っても、あの実験場にノコノコ敵が来るとは思えないぞ?」
「だが敵がこちらを拿捕しようとすれば出向くしかないだろう。
迎撃するのは、追い詰められた時に逃走する為の時間稼ぎが最大の目的だ」
「ま、そう言うことならアタシとしては特に反対する理由はねえな。第一断ったって備えするの止めそうにないし」
「ヴィータの言う通りみたいだな。断られても自分で考え備えをされるぐらいなら、こちらが情報を提供しある程度どの様な備えがあるか把握している方がまだ良い」
「了承されたものと見て構わないか?」
「ザフィーラ、シャマルとお前は賛同しているのだな?」
≪ああ、殆ど今の会話と変わらぬ内容を事前に聞いた上で賛同した≫
「アタシも賛成だぞ」
自分以外の意見を確認しシグナムは速人の問いに答える。
「了承と取って構わない」
「了解した。それでは外出する際の名目はシャマルを回復役にし、残り二名が模擬戦で、俺がその情報を収集し解析するということにするが構わないか?」
「一応シャマルが戻ってから話し合うが、特に変更することも無いだろう」
それに速人は頷き、もう話すことが無いのか作業に戻っていた。
それを横目で見て、シグナムは思い出したようにヴィータに話しかけた。
「そういえばヴィータ、天神が戦力にならない能力を手に入れた知った時、意外と平静だったが予想でもしていたのか?」
シグナムはシャマルからヴィータが半泣きになりながら速人に戦闘訓練をつけている事を聞いており、はやてを優先するのは変わらないがはやてと同じほど速人に懐いているのを考えると、先程割とアッサリその事を流したヴィータの態度は不思議に思えた。
「別に予想してねえよ。ハヤトが求めたモノが手に入らねえのは可哀想だけど、もし戦力になる能力でも手に入れたら、訓練の時の事考えると信じられねえ無茶して直ぐ死ぬかもしれねえだろ?
もしハヤトが死んだらはやて絶対泣くだろ?そう考えると役に立たない能力で良かったかもって思ったんだ。アタシもハヤトに死んでほしくねえし」
それを聞き納得するシグナム。
たしかに速人が現在戦力になる能力を獲得し、そして参戦したならあっという間に重症か瀕死、若しくは死体になっている可能性が余りに高すぎる。そうなればはやては間違いなく嘆き悲しむ。そう考えるとシグナムも聞いていたザフィーラもこの結果もけして悪い事じゃないと思えてきた。
「っと、丁度はやてが風呂上がったぜ」
「なら次は私が入るがそれでいいか、ヴィータ?」
「いいぞ〜」
シリアスモードは終わったらしく、気のない返事が返えすヴィータ。
その返事を受け着替えを取りに部屋にシグナムは戻り、リビングは静かになった。
ヴィータはテレビを点けて適当な番組に合わせて寛ぎ、ザフィーラはいつもの様に伏せて静かにしていた。
そしてシグナムが出て行き5分程時間が経った頃、リビングにはやてが現れた。
「ふぃ〜、良いお湯やった〜。
速人は〜ん、あの入浴剤、もの凄〜気持ちええわ〜。今迄のより今回のがウチは好きやな〜」
大満足という顔で話しかけるはやて。
「気分を害さず何よりだ」
そう言いながら作業を止めてはやてに近づく速人。
「では何時も通り整体を行うが、座って受けるか寝て受けるかを選択してくれ」
「うっ……………なぁ速人はん。気持ちは滅茶嬉しいんやけど……………効果無さげやしこれ止めん?」
満足顔を急に引き攣らせながら言うはやて。
「効果なら確認されている。脚が動かせるという直接的な効果は出ていないが、車椅子に乗り続ける事で腰に掛かる負担等を、整体して筋肉を解し骨格を矯正する事で腰だけでなく身体全体に掛かる負担を減らしている。
睡眠不足でない限り、翌日に疲労が残るという事は一切ないはずだ」
「そうなんやけど………………………………………………………胸とかお尻とかも触るから恥ずかしいんよ……………………」
真っ赤になりながらはやては言う。
はやての言う通り速人は文字通り全身を整体(マッサージ込み)するので、胸筋や括約筋、即ち胸部や臀部も遠慮無く揉む。
当然最初は激しく抵抗したが、速人から説明を受けたヴィータははやての健康の為に渋々、シャマルはニヤニヤしながら喜んで協力し、ザフィーラは嫌な予感がしたのか事前に消えていた。
そして胸部や臀部を速人が整体していたのだが、はやての悲鳴というか嬌声というか、そんなものが響けば当然風呂に入って事情を知らないシグナムは駆けつけるわけで、現場を見たシグナムが速人を一撃で殴り殺しかけてもそれは仕方ない事だった。
ちなみにその時速人が負った傷は、気管支破損・両肺損傷・心臓破裂寸前・蜘蛛膜下出血、これらが命に関わる怪我で、それ以外の骨折や打身等は数えるのも馬鹿らしい程の数で、10tトラックが時速100km以上で衝突した時以上の怪我だった。
その後止めを刺そうとしたシグナムをはやてとヴィータが懸命に説明して鎮め、シャマルが急いで治療し何とか速人は生き長らえたが、5日間はベッドで寝たきりとなった。尤も速人は人工透析機や栄養剤の点滴一式を持っていた為、不自由せずに寝たままノートパソコンを動かしながら5日間過ごしたが。
そしてある程度治った後にはやての全身整体は改めて行われた。
寝て過ごしている間に守護騎士達に、はやてに整体等をする目的を速人は話していた為、はやては守護騎士達に取り押さえられながら強制的に治療を受ける事になった。
守護騎士達がされた説明とは、東洋系の医療を主とし新陳代謝を活性化させ、活力ある状態にすればリンカーコアが侵食される速度を緩和できるだろうという速人の考えだった。シャマルも少しは刻限を引き伸ばせると言った為守護騎士達は速人がする治療に協力することになった。
尤もはやては最初の頃はこの世の終わりの様な顔をしながら「お嫁にいけなくなった」とぶつぶつ呟きながら落ち込んでいた。
1週間程続けたら凄まじく恥ずかしがるだけになったが、それから更に2週間以上経った今でも恥ずかしがる度合いは変化していなかった。
真っ赤になりながら喋るはやてに速人は淡々と返した。
「俺にされるのが嫌ならば前に言った通り出張の整体士を呼び寄せるが?」
「て言うかその人達みんな男の人やろ?速人さんでも恥ずかしいのに、そんな見ず知らずの男の人に身体触られまくるかと思うとそれだけで嫌過ぎなんやけど……………」
「遠方から女性の整体士を呼び寄せ、近場に住居を提供して整体を受けるという案も有るが?」
「ウチ一人の為にそんな事してもらうのは悪いから遠慮する。それに他にも鍼や灸の時、服脱がなあかんのも恥ずかしいんやけど、それでまた同じ事になりそうやし…………」
思い出したのか益々顔を赤くするはやて。
ツボを探す際速人は素手ではやての素肌を触診するので、初めてされた時は恥ずかしさや他色々諸々あり気絶する程だった。更に起きた時に身体に鍼や灸を据えられたままの裸体を速人に晒し続けていたと聞いて暫くの間呆然としていた。唯一の救いは医療目的100%の為下心等が一切無い事だが、自分の身体を見て何も思われないのも癪という乙女心がはやてを苦悩させていた。
「代案を実行する気が無いなら大人しく受けてもらおう。それと鍼と灸は5日に一度なので出張にしてもらうのは十分可能だと言っておく」
「お願いします」
てっきり住み込みになると思っていたので遠慮していたはやてだったが、そうと分かれば即座に頭下げて頼みこむはやてだった。
「了解した。腕が立ち外部に情報を漏らさない女性に頼もう」
それを聞いて拳を握り締めて無言で喜ぶはやて。
(やったで!!これであの恥ずかしい時間とはおさらばや!!
速人はんが100%善意でやってくれとるんは解るんやけど、恥ずかしくて敵わんしな〜。………………それにこのままやと私が若い身空で危ない道にハマリそうでちょ〜怖いし………)
そんな事を思っているはやてに速人が声をかける。
「さてそれでは整体をするが、座ったままから始めるが構わないか?」
「よ、宜しくお願いします………」
鍼と灸の羞恥心から開放はされたが、整体の羞恥心からは開放されていないのを思い出し、羞恥と緊張と諦めの混じった声ではやては答えた。
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「うぅ〜、速人は〜ん、今日の整体少し激しいような気がしたんやけど〜?」
ソファの上で羞恥と脱力感の為顔を伏せながらはやては喋る。
「はやては立てない分負担が下半身に分散されず上半身に集中し、骨格の歪みや筋肉の凝りも常人よりも進みが速い。
ケーキ等を作れば自覚していなくても相当身体に負担は掛かる」
「それってケーキ作るなって事なんか?」
「違う。その程度は身体を動かしたほうが良い」
今日のはやての病状やその他諸々をノートに書き込んでいる速人。
「それに趣味に興じているはやては意欲に溢れている。少々身体に負担が掛かるがそれは十分許容範囲だ。入浴で血流を良くし、その後整体で骨格の歪みと筋肉の凝りを解消すれば問題は無い。
月村すずかという存在のおかげではやての世界は広がり、現在未知のモノに対する好奇心等で気力が充溢している。それを規制するような行為は病状が深刻的に悪化しない限りしないので心配は無い」
「あ、あはは…………………毎度毎度サラッと黒い理由を言うな〜。………もしかして外出して友達作れみたいな事言ってたのはこの為なんか?」
「活力を充溢させるための人材を余所から調達しようとしたのは事実だが、その一点さえ満たされるならば、はやてと交友関係が結ばれる必要はないと考えていた。つまり友人を作れという言は呼び水のようなモノだ」
普通は第三者にしか言わない理由を当事者にアッサリ話す速人。
「え、え〜と、動機の話はともかく、今速人はんはすずかちゃんをどう思っとるん?」
「はやての気力の充溢に貢献し、家族に敵対行動をとる可能性は極めて低い者。貴重な人材と認識している」
「すずかちゃん自身を速人はん個人がどう思っとっるか聞きたいんやけど?例えば良い子やな〜とか、綺麗やな〜とか」
「特に思う処は無い。有象無象の一人としか認識していない」
問われるままに発せられた答えは、冷たくも温かくも無い空虚な答えだった。
(家族と仲がいいのは嬉しいんやけど、それ以外がさっぱりなのは相変わらずやな………。
ああ、でもさっき速人はんが言ったように、速人はんもせめて友人の一人でも出来れば変わるんやろか?やけど…………そもそも最初の一人目がどうやったら出来るんやろか?
私は自分の殻に閉じ篭りがちなのが原因で友達が出来んかったみたいやけど、速人はん他人を必要としなかったり、他人と価値観が大幅に違ったり、友人作る気皆無だったり、第一印象が悪くて基本的に誰も関わろうとしなかったり…………。アカン、問題点多すぎや。何より友達作る気が無いってのが一番の問題点やな…………、せめてこれだけでも何とかせな……………)
はやては速人に倣って自分達家族で速人を変えられないなら、余所にその人材を求めることにした。
そう考えた時に今日すずかが言っていた事を思い出し、すずかには悪いが渡りに船と利用させてもらうことにした。
「速人はん、明日すずかちゃんがウチさえよければ友達に紹介するって言うてはったんやけど、速人はんも一緒に紹介してもらおうや?」
「はやてに随伴するので紹介ぐらいはされるだろう」
「あ、違う違う。『すずかちゃんの友達として紹介されて、ウチと一緒に友達になろう』って意味や」
「俺は月村すずかを友人と認識していないし、月村すずかも同様の認識だと思うが?」
確かに速人の言う通り、速人自身は元よりすずかも速人を友人とは認識していない。良い人とは認識していても、あくまで友人の家族といった認識でしかない。
「俺に友人を作らせたいと思っているなら、月村すずかの友人として紹介せずとも構わないだろう。友人の友人で無ければ友人関係が結べないという訳でもないしな。
尤もどちらであっても俺に友人関係が構築できるとは考え難いが」
アッサリとはやての目論見を看破する速人。
「あ、あはははは〜。あっという間にバレてもうたなー」
バレてしまったからには目論見は費えてしまったと思い、ガックリと肩を落とすはやて。
しかしそれを速人本人が覆す発言をした。
「はやてが俺に友人関係を結ばせる事が必要だと判断したならば、出来るかどうかは別にしてその思惑に従う事に異論は無い。
無駄と推論した事を証明するのも少しは有意義だろう。何度もする気はないが1度くらいならば構わない」
「初めから無駄て決めてかかるとっるのはどうかと思うけど、折角友達作ってくれる気になっとるんやから特に文句は言わんよ。
…………うん。絶対に速人はんに友達作って見せるわ。明日は全力で頑張らんと……」
それを遠巻きに聞いていたヴィータとシャマルがこそこそ話し出す。
「はやてには悪いけど、なんか壊滅的な展開になる気がする…………」
「若しくは大きなトラブルでも起きてお流れになるか………」
速人の一般常識を隔絶した価値観とトラブル遭遇率を考え、二人は自分よりも速人に友達を作らせようと燃えているはやてを可哀想に見ていた。
その後はやては速人と守護騎士達に、初めてすずかに会った時みたいに警戒するなと何とか言い含めた
尤もはやてにコミュニケーションの枠を超えた危害を加えれば、はやての守護を最優先にし、その上で危険因子は排斥すると速人と守護騎士達は譲らなかったが。それとヴィータだけは速人に同じ真似してもそうすると言っていたが。
速人に友達を作らせるべく息巻いているはやてと、何時も通り淡々としている速人を守護騎士達は見ながら全員の胸中に浮かんだ言葉は、【せめて何事も無く終わるように】、だった。
闇の書の頁は500ページを超え、順調に進んでいた。
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第八話:無用の力――――了
【後書】
ようやくはやて達以外の人物が現れたにも拘らず、僅か一言しか喋っていません。
しかも出すはずだった者は次回に繰り越された挙句、次回の話だった速人の能力獲得は描写不十分な今回にされ、本当に今回は今まで一番グダグダした話になってしまいました。
見苦しすぎて申し訳ありません。
【作中武器説明】
【プファイファー・ツェリスカ】
ライフル弾を、拳銃でそのまま撃ち出そうという常軌を逸した試みの基製作された拳銃。
最大装填数は5発の回転式拳銃で、発砲と同時にガス噴出孔にマズルフラッシュのエネルギーの一部が排出され反動を抑えるので辛うじて発砲が可能になっています。
重さは6kgととても重たいうえ反動も酷く、実用性を無視して世界最強の拳銃の称号を獲得する為だけに作られたとみて間違いない銃です。
完全手作りでお値段は日本円で約200万円ほどです。
尚、速人はシングルアクション(撃鉄を逐一手動で起こして引き金を引いて発砲する方式)だけでなくダブルアクション(引き金を引けば連動して撃鉄も起きて発砲可能な方式)でも撃てる様に改造込みで注文しています。
【.600NE弾】
60口径の大型獣狩猟用のライフル弾で、こんなものを近距離で撃たれればSATのポリカーボネート製の盾でも貫通します。
初速約462m/s・弾頭重量約58.3gと人に撃つには明らかに度が過ぎた弾丸です。なおデザートイーグルに使用される実用性を考えれば最強と言われる.50AE弾は、初速約419m/s・弾頭重量約19.5gで、.600NE弾に比べればエネルギーは約18.7%しかありません。
【DIME】
高密度不活性金属爆薬のことで、金属片による攻撃ではなく金属粒子で対象を擂り潰すのを念頭に置いた兵器です。
範囲外は殆ど殺傷能力が無く、また殺傷範囲も極端に狭く縦1m横2mの楕円空間外の者にはまるで脅威になりません。
ただ一度その身に受ければ、毒性のある金属が粒子状で身体に入り込む為外科手術での摘出はほぼ不可能で、患部を切除するしか対処方法はなく、また極めて高い発癌性の物質も有るので負傷後は発癌の可能性に怯えなければなりません。
威力と治療の困難さと対象以外を巻き込む事が少ない優秀な兵器に分類される攻撃手榴弾です。(非難はされていますが)
【作中武器説明終了】
ようやく速人が能力を持つに至りましたが、手にした能力は無用の長物のうえ単独行使不能という使えなさ。豚に真珠というより無人島での大金といった方がぴったりです。
自他共に認める程乱雑なSSを掲載して頂き、貴重なお時間を割いて御読み頂き感想を下さる管理人様に深く感謝を申し上げます。
前回と今回はもう呆れ返るほど酷い出来にも関わらず御読みくださった方、心の底より感謝を申し上げます。
レアスキル開眼!
美姫 「だけど、魔力は低いままで使い道が今の所これといってないのね」
いやいや、意外とおおうっていう発想で活躍とかするかもよ。
美姫 「今後の展開のお楽しみの一つね」
うんうん。着々と、というか淡々と事を進めている速人に。
美姫 「ページをしっかり蒐集しているシグナムたち」
次はどんなお話になるのか楽しみです。
美姫 「次回も待ってますね〜」