この物語はオリジナル主人公登場の魔法少女リリカルなのはA‘Sの二次創作です。
自分の文才の無さが原因で登場人物の人格及び性格が変わっている可能性もあります。その様な事に耐えられない方は気合を入れられて見るかブラウザの戻るを押される事をお勧めします。
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魔法少女リリカルなのはA‘S二次創作
【八神の家】
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速人が述べた到着予定時刻の約10分前に身動きが難しいなのはに代わり、マンションの玄関口で速人を待とうとしていたフェイトは、一足先に到着して待っていた速人の姿を見て驚いた。
「は、速人…………そ、その頭………………」
「無駄話をするより用件を素早く済ませたい。あまり動き回らずに安静にするべき傷だというのは自覚しているからな」
「あ……………で…………できたら聞きたいこともあるし、話してみたいって言ってる人が居るから家に来てほしかったけど……………やっぱりいいよ」
フェイトは速人の顔半分を覆っている包帯と左首筋に見える包帯を見て、流石にこの状態の怪我人を招いて質問攻めにしようとは思わなかった。
(昨日は気付かなかったけどこんな大怪我してたんだ…………。
包帯の巻き方で怪我の酷さが解る訳じゃないけど、それでも頭の怪我が危険なことは解る………………。
アリサの事とか詳しく聞きたかったけどこの状態の速人を質問攻めにするのは出来ない……………)
フェイトが速人の怪我に遠慮してスタンガンを受け取るだけにしようとした時、何時も通り抑揚の無い声で速人が話しかけてきた。
「遠慮する必要は無い。元元スタンガンを受け渡すだけの用事ではないと判断したので態態出向いてきた。スタンガンを受け渡すだけで済むならば配送させている。
無駄足を踏ませたいならば嫌がらせと言う名の遠慮をしても構わないが、回復後に態態質問に付き合う気は無いと言って置く」
速人としても態態虎穴に侵入したくないのだが、はやての前で余計な会話が展開される可能性を潰す為にも、はやてが居ないこの状況で何としても今の内にフェイト達の疑問等に答える必要があった。
そして速人の容赦の無い意見を聞き、たしかにその通りだとフェイトは思い、速人をなのは達が待つ自分が住んでいる家に招いた。
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
「え〜と、速人を連れてきたんだけど……………………」
帰宅したフェイトは家に速人を招き入れ、皆が待つリビングに招く前にリビングに入り気まずそうに後ろの速人をチラチラと見ながら話した。
「え〜と……………なんて言うか速人は今凄く警戒しているみたいだから、みんな近づかないようにして。
………………多分無闇に近づくと攻撃されると思うから………………」
フェイトに悪気は無いのだが、会う前から速人の印象を更に悪化させる事をフェイトは口走っていた。(待ち時間の間になのはから敵意を籠められた説明を三人は受けていた為、両者共速人に少なからず悪印象を抱いていた)
そしてそんな事を知らないフェイトは速人に目線で合図してリビングに招いた。
フェイトに招かれ現われた速人の姿を見て少なからず驚くフェイト以外の面面。
しかし速人はそんな驚きを無視して一人で話を進める。
「これが昨日高町なのはに使用したスタンガンだ。なお非可逆性の調査をするのならば先に減価償却費を減算した価格を支払ってもらう。
高町なのは、放り投げ渡すが受け取れるか?」
「ふえっ!?あ、だ、大丈夫だよ?」
速人の顔に巻かれている包帯に面食らっている為か多少物腰が柔らかくなっているなのは。
「4kgを超えているので注意するがいい」
「え”っ?」
なのはの不可解そうな声を聞きながら速人はスタンガンを放り投げた。
なのはは身の危険を感じ、受け取らずに布団を転がり回避した。
そしてなのはが布団を転がり出た直後矢鱈低くて重い音を立てながらスタンガンは布団にめり込んだ。
「「「「「…………………………」」」」」
リビングのドアから窓際に敷かれたなのはが寝ていた布団まで距離があるといっても、放り投げられた為それほど加速がついていなかったにも拘らず、まるで大の男が布団を殴りつけた様な音を発して布団にめり込んだスタンガンをなのは頬を引き攣らせてみていた。
受け損なっても死にはしないが場所が悪ければ骨が折れかねない程の威力だったのは全員見て取れた。
沈黙する一同を気に留めずに一人マイペースに話を進める速人。
「フェイト・テスタロッサ、俺に聞きたい事があると言っていたが何だ?」
フェイト以外にも布団にめり込んだスタンガンを凝視している四名を、気にも留めずに尋ねる速人。
そして尋ねられたフェイトは気を取り直して速人に話しかける。
「あ、そ、その前に自己紹介しない?速人のこと知らない人がいるから…………」
「天神 速人」
フェイトへの返事すら省略し、素っ気無い自己紹介をする速人。
相変わらずの自己紹介をした速人をフェイトは乾いた笑いで見ながら、速人が知らないと思っている面面に自己紹介するようにアイコンタクトするフェイト。
それを受け各各自己紹介を始めた。
「僕はクロノ・ハラオウン。この家にフェイト達と一緒に住んでいる」
速人程素っ気無くはないが、それでもかなりの素っ気無さで自己紹介するクロノ。
どうやらなのはに攻撃したこととなのはからの事前紹介と先程からの態度でかなりの悪印象を抱いているようだった。
「私はリンディ、リンディ・ハラオウンよ。この家の家長で苗字から解る通りクロノの家族よ。呼び方は好きに呼んで構わないわ」
クロノと違い自分で速人の評価を下そうと穏やかそうな笑顔を湛えて速人と接するリンディ。
どうやら見た目は笑っているが、先程なのはに放り投げたスタンガンが異常なまで危険な品物と漠然とながらも判断して僅かに警戒しているようだった。
「あたしはアルフ。フェイトはあたしの家族で主人だ。
フェイトにちょっかい出したら病院で天井の染み数えてもらうから覚悟するんだね」
アルフは悪印象が相当強かったのかかなり攻撃色が強い発言をし、フェイトが視線で窘めたがあまり気にした様子は無かった。
一通り自己紹介が終わり全員の視線が速人に集まるが特に気にせず速人はフェイトに話しかけた。
「自己紹介は終わったようだが、まだ尋ねも話もしないのか?
沈黙するという時間の使い方を認められる程健康では無いので、無駄無く効率的に素早く終わらせたいのだがそれは理解しているか?」
「あ…………………ご、ごめんなさい…………………。
で、でも今の自己紹介で何か質問が有ると思ったから…………………」
「知りたい事はあるが答えられる類では無さそうなので尋ねる事は無い」
速人のその言葉を聞き、瞳を細めて警戒しながら速人を見るなのは達。
「それって…………………どんなこと?」
「答えが返らないと判断していることを態態言う必要は感じられないので話す気は無い。
尋ねたい事とは俺の思考についてか?そうでないのならば即座に本題に移れ」
「…………………答える答えないは僕達が判断する。君の判断で決め付けるのは早計だと思うが?」
「俺はお前達の下僕でも奴隷でもない。判断は自分で下す」
「……………………やけに僕達に尋ねたい事を言わないみたいだけど、何か疚しいことや聞き難いことでもあるのか?君の言葉にはそう聞き取れる要素があるんだが?」
「尋ねない理由は先程述べた。会話をする気が無いのなら疑問点を紙面化して渡すがいい。その方が遥かに効率的だ」
敵意を持ってかなり感情的に接するクロノと、興味も関心も無く無感動かつ無感情に接する速人。
いきなり険悪なムードが発生するが、それは一方的にクロノから発されていた。
「……………………君は僕達に尋ねたい事があるから来たんじゃないのか?何も聞かずに手ぶらで帰る気か?」
「用件はフェイト・テスタロッサと高町なのはにある。それと何故初対面のお前達に俺が尋ねる事が有ると思えるのか不思議だ。自意識過剰か?」
「…………ならフェイトとなのはへの用とは何だ?」
「先程も述べたが俺はお前達の下僕でも奴隷でもない。対象が近くに居る状態で態態本人以外に話す必要は無い。
お前と話していても脳の記憶領域と体力と時間の無駄遣いと判断した。疑問点があるならば紙面化して問え」
クロノから強烈な不機嫌さが発せられるが、速人は相変わらず興味も関心も無いのが言葉の節節からはっきりと感じ取れた。
僅かな時間でなのは以上に速人に苦手意識や嫌悪感を持つようになったクロノ。対して速人はクロノと喋っていても話が進まないと判断したのでフェイトに改めて話しかけた。
「フェイト・テスタロッサ、俺に尋ねたい事が有るようだが何だ?」
「え?……………あ……………えと……………」
フェイトはクロノの方を向いてどうするべきかと思ったが、速人が既にクロノと話す気がないというのが解ったので躊躇いがちに話し出す。
「…………アリサが無事なのかどうかを教えてください」
「本人に確認するがいい」
即座に尤もな答えを返す速人。
そしてその言葉に即座に反応するなのはとフェイト。
「何処に居るんですか!?アリサちゃんの家に電話してもまだ帰ってないってアリサちゃんのお父さんが言ってましたよ!?」
「なのはの言う通りです。アリサは何処に居るんですか?」
「既に安全圏と判断される場所に送り届けた。本日中には本人から無事と言う連絡が聞けるだろう。
なおアリサの現在地に関しては話す気は無く、アリサの容態も生きているということ以外に話す気はない」
「っ………どうして!?アリサちゃんの無事を知りたいだけなのに、どうして答えてくれないの!?」
「一つははやてをこの様な話に深く関わらせたくないからだ。フェイト・テスタロッサも高町なのはもどちらもはやてに話す可能性が高く、また喋らずともはやてはまず両名の反応から何が起きたかを推測して理解してしまう。
もう一つは当事者たるアリサ以外が話すことではないと判断しているからだ。
これ以上の説明はする気は無いのでこの件に対してこれ以上俺に尋ねても平行線だろう。あとそれに答えられるだろう人物は既に紹介しており、所謂大人の思考と呼ばれる考え方が出来る者ならば思い至るのは容易なので、俺や紹介した人物以外に尋ねても簡単に知る事が出来るだろう」
「「……………………………」」
なのはもフェイトもあまり納得出来なかったが、少なくとも自分たちがアリサの詳しい容態を知れば自分達が口を滑らせてはやてにも伝えてしまい、はやてが血生臭い事に関わる度合いが強くなることは理解出来た。
そしてなのはとフェイトが今一番身近に居る大人の考えが出来そうなリンディに視線を向けた時に速人が先回りして尋ねるのを封じた。
「誰かに確認を取るにしても俺への用件が済んでからにしてもらいたい。少なくともスタンガンの事に対して聞きたい事があるので招いたのだろう?」
その言葉を聞き今まで黙っていたリンディが会話に入ってきた。
「二人ともこれ以上速人君に尋ねても答えは多分返ってこなさそうだし、理由なら私が想像付くから後で話してあげるから話を進めましょう。
あとクロノ、ちょっと喧嘩腰過ぎよ」
軽くクロノを窘めてからリンディは速人に向き直って話しかける。
「それで速人君。あなたと別れた後のなのはさんは呼吸困難が酷かったし、酷い眩暈や頭痛や嘔吐感を伴ったそうよ?
後遺症が残らないかを知る為にもあなたがなのはさんに使ったスタンガンのことを詳しく知りたいのだけど教えてくれないかしら?」
「スタンガンを貸すのでそちらで調べるといいだろう。俺から聞いて納得するならば態態借りずともいいはずだ」
「そうだけどそれは速人君が一から設計した場合だけでしょ?
私達はあなたから聞いた情報を足がかりにして、その後は此方で調べようとしているの」
リンディはまず速人がなのはに自分が使った物がどれだけ危険なものかを認識して使用したかと言うことをハッキリさせようとしており、なのはと認識しての攻撃かどうかは一先ず措いておき、自分が使用している物がどれ程の物か知りもせずに攻撃を加える者かどうかを見極めようとしていた。
「つまり俺の意見を裏付けも取らずに前提として受け入れるという事か?」
「そう捉えてもらって構わないわ」
リンディとしては上手く会話を誘導したつもりだったが、しかしその発言は速人からスタンガンを借り受ける最大の口実を自分から放棄する事になった。
「ならばスタンガンを借りる必要は無いだろう。即座に返してもらおう」
「え?………どうしてそうなるのかしら?」
怪訝そうな顔のリンディとは対照的に理由に思い至ったフェイトとなのはは【しまった!】という顔をしていた。
「そのスタンガンは全て俺が設計した物だからだ。護身具を態態手放さずに済んでなによりだ」
そう言いながら速人は周囲に細心の注意を払いながらなのはの傍に行き、布団にめり込んだスタンガンを回収しながら気付かれないように布団近くの窓を肘で小突いて防弾ガラスや強化ガラスの類で無いのを確認した。
そして態態リンディやクロノを横切って元居た位置に戻るよりも、緊急時はガラスを割り破って飛び降りて逃走する算段を立てながらその場で会話を続けた。
「情報機器の端末に接続させるかメールアドレスを知らせれば今すぐに設計図を転送する。口頭で知りたければそれでも構わない。その全てを拒否するのならばこの場を離れて12時間以内に紙面化した設計図を配送して到着させる」
隙無く話され、今更「調べたい事があるし話だけでは信用できないからスタンガンを貸せ」とは言えなくなったリンディ。
なのはから頭が良いと漠然とは聞いていたが、学生レベルでの頭が良いでは無く、科学者や技術者レベルでの頭が良いとはリンディ達は思わなかったようだった。
リンディ達の今さっきまでの速人の評価は【頭が良い大人びた子供】だったが、今の速人の評価は【世間慣れした科学者若しくは技術者】に変わりつつあった。
「どうした?これ以外の効率的な選択肢は、俺の発言を裏付けも無しに前提として受け入れるという言葉がある以上存在しないように思えるが?」
もはやリンディの前言を撤回しなければ速人からスタンガンを借り受けられなくなってしまいどうしたものかと全員思っていたが、汚れ役にクロノが立候補した。
「僕は君の言うことは信用出来ないので君の御託はさて置いて借り受けたいんで君が持―――」
「リンディ・ハラオウンからの返答が無いので当事者たる高町なのはが返答してくれ」
「―――っている……………」
クロノの話をまるで意に介さずになのはに話しかける速人。なのはは急に自分に話が振られてどうしたものかと困っていた。
一方まるでテレビやラジオの音声の様に見事に自分の話を無視されたクロノは更に不機になっていた。しかし速人の話は正論であり、寧ろ会話を無視した速人より当事者を差し置いてはっきりと信用していないと発言したクロノの方が遥かに失礼なので怒るに怒れずにいた。
そしてなのはは不機嫌なクロノとリンディと速人を見てどうすれば良いか悩んでいたが、速人は悩んでいるなのはを見て更に話しかけた。
「先程リンディ・ハラオウンが話していた内容を否定したところでリンディ・ハラオウンが前言を撤回したことにはならない。
思考を否定している者の言葉や情報が当てになら無いのは普通だ。無駄な気遣いをするならば話を進めもらいたいのだが?」
「い、いえ、そこまであたしは嫌ってないんだけど…………………」
「それはどうでもいい。兎に角話を進めてくれ」
「………………………それじゃあ貸してください………………」
なのはとしてははっきりと信じていないと言うのと同じなので、バツが悪くて下手に出ていた。
それに速人は何時も通り淡淡と答えた。
「分かった。俺の話は裏付けが取れないので省略するが構わないな?」
「………………はい…………………」
「貸す際の注意事項だが、非可逆性の調査をするならば減価償却費を計算したそのスタンガンの値段を支払う事になるが異存は無いな?」
「………………えと………………言ってる意味がよく解りません…………………」
気まずくて小さな声で謙って応対するなのはを特に気にせずに話す速人。
「借りた状態に戻せない調査を行う際にはそのスタンガンを中古として買い取ってもらうと解釈すれば大差無い」
「あ、はいそれなら構……い………ま…………………、えと、……………それって幾らですか?」
値段に一抹の不安を覚えて了承を踏み止まって尋ねるなのは。
「万単位未満切り捨てで54万ドルだ。領収書と契約書は作成するので面倒事の心配は無い」
「え〜とリンディさん……………54万円って結構高いですけど大丈夫でしょうか?」
なのはがリンディに振り向いて確認を取るが、リンディだけでなくフェイトもクロノも呆れた様な驚愕の表情を浮かべていた。アルフだけはよく解らなかったらしく特に変化は無かった。
「高町なのは、単位は円ではなくドルだ」
「え?………………えと、それじゃあ円換算で…………………」
「1ドル=105円として5670万円」
「な!?何でそんなにするんですか!?高くても精精100万円ぐらいでしょ!?」
「裏付けの無い発言になるので話す気は無い」
「構いませんから言ってください!このままじゃ、あんまり高すぎて調査するのも怖くて出来ません!」
予想外の値段でバツの悪さが薄まったのか、地が出始めてきたなのは。
「たしかに金銭の大小に関係無く理由の説明は必要だな。不適切な発言をしたようだ。謝罪しよう、すまなかった」
軽く頭を下げて謝る速人をクロノとリンディとアルフは個人差はあるが驚いて見ていた。
「その金額になった理由だが、店頭販売されているスタンガンは約5万V〜約150万Vで約0.8A〜約1Aだが、このスタンガンは1V〜600万Vで20Aと500Aだ。
通常の約4倍の電圧に約500倍の電流だ。電圧を高める変圧器、電流を確保する電池、逆流を防ぐ絶縁機能と物質、製作する手間、これらを計算すると妥当な金額だと思うが?」
速人のその言葉を聞きフェイトが恐る恐る速人に声をかける。
「速人……………なのはに流した電気ってどれくらいなの?」
「放電時間が0.05秒で、750MW。WSに換算すれば1万5千MWS」
冗談の様に高い数値を聞き、その危険性を十分理解したフェイトは文句を言おうとしたがそれより早く速人がなのはに話しかけた為、出鼻を挫かれてしまった。
「値段の説明は納得がいったか?」
「………………………よく解らないけど何となく納得いきました……………」
頬を引き攣らせながら答えるなのは。
一方クロノとリンディは速人が提示した冗談のような金額に頭を抱えたい思いで念話をしていた。
≪(母さん、そんな大金家には―――)≫
≪(―――当然無いわよ。なのはさん、速人君て資産家なの?)≫
≪(よく解らないですけど、2兆円ぐらいのお金を稼いだみたいです)≫
≪(な、何だその出鱈目な金額は!?もしかしてコイツは麻薬生産者か!?)≫
≪(たしか軍事転用できるものだった筈だけど詳しくは解んない……………)≫
≪(兎に角値段や性能を聞いた限りでは、レイジングハート不調の原因としての可能性が更に強まったな)≫
クロノ達が念話で話している最中に速人がなのはに話しかけた。
「高町なのは、返事はまだか?俺は体調が悪く、先程は幻聴らしきものを感じたので可能な限り話の進行速度を速めてくれ」
「あ、ごめんなさい。もうちょっと考えさせてください」
なのははそう言って直ぐにクロノ達と念話で会話した。
≪(今のって私達の念話を幻聴って思ったのかな?)≫
≪(解らないわね………。念話の手応えが微妙すぎて解らないのよね。クロノはどう思う?)≫
≪(僕も手応えが微妙すぎて判断はつかない。ただこれほど魔力資質が低いならやはりレイジングハートの沈黙は、そのスタンガンが原因と考えるのが妥当だと思う)≫
≪(私もそう思う。なのはに攻撃した時から別れる時まで速人が魔法を使った様には全然見えなかったし)≫
≪(………………なら結論だけど、速人君は魔導師でなくてレイジングハートの不調は速人君が持っていたスタンガンが原因で偶発的に起きた事故って解釈して、速人君は白とするけどいいかしら?)≫
その念話になのはとフェイトとクロノは眼で肯定した。
≪(アルフはどう思うのかしら……………って、どうしたの?速人君の方を見て)≫
リンディは今まで会話に全く参加していなかったアルフに疑問を投げ掛けた。フェイト達もリンディと同じく先程から喋らないアルフを疑問に思った。
≪(フェイト、あいつ、何か頭の形が包帯巻いてるから解り難いんだけど、何か抉れてる様に見えるんだけど元から抉れてたのかい?)≫
≪≪≪≪((((え”?))))≫≫≫≫
≪(傷口見てないからはっきりも言えないけど、多分頭蓋骨に穴が――――)≫
「―――支払う金銭が無いならば、この場に居る俺を除く全員がはやてにこの場でのことを一切伝えないという条件を受け入れるならば譲ろう」
速人の提案を聞き、なのはは先程のアルフの指摘を忘れて名案だとばかりに飛びついた。
「あ!それならあたしは構わないです!」
「な、なのは。もう少し考えた方が…………」
「フェイトの言う通りだ。もし話した時何を要求されるか分からない以上、軽々しく要求を呑むのは控えた方が無難だ」
「クロノ、その発言は約束を破るのが前提としか捉えられないわよ?」
「あたしは別に構わないよ。会うとも分からないような奴に話さないってことくらいどうでもいいしね」
賛成したなのはと先程のアルフの指摘はとりあえず措いておき、それぞれの意見を述べるフェイト達。
そしてフェイトがクロノの疑問を本人に尋ねた。
「速人、約束を破る気は無いけど、もし破ったらどうなるの?」
「何も請求しない。第一約を違える者に何を請求しても無駄だ。
つまり約を結び、それを違えても一切金銭的に損はしないということだ」
「どういうことだ?僕達の口封じにそれほどの価値があるとは思えないが?」
「はやてが健やかに過ごせるのならばその100倍ぐらいまでは支払う気だ。下衆の尺度で測るな」
「な!げ、下衆だと!?」
「落ち着きなさいクロノ。だいたいクロノが全面的に悪いわよ。さっきから失礼なことばかり言っているわよあなた?」
「たしかにクロノ君さっきからスッゴイ喧嘩腰だよね」
「私もそう思う」
「あたしもそう思うね」
口口に言われ更に不機嫌になるクロノ。
「……………それで、答えを聞きたいのだが?」
「…………………速人君、約束を破っても何も請求しないなら約束の意味は無いように思うのだけど?」
「意味なら約を違えるような者という事が判るという意味がある。
それと言っておくが、はやての健やかな生活を邪魔した者を放置する程俺は慈悲深い馬鹿でも思い遣りのある間抜けでも無い」
言外に報いを与えると言っている速人に納得するリンディ。
「…………………ここで断るということはそのはやてさんの健やかな生活を邪魔すると言っているようなものだし、さらには約束を破った時の速人君の行動を恐れるという約束を破るという前提での不誠実な理由ということになるわね。
となると断ることは私には出来ないわね。………………というわけで私は賛成よ」
「………………私も賛成」
クロノを除く全員が賛成し、クロノに視線が集まる。
速人並に他者の視線を気にしない者でもない限り、クロノに集まる視線は賛成を促す効力が有った。
そしてクロノはそこそこ他者の視線を気にするので呆気無く賛成する事になった。
「……………………僕も賛成しよう………………」
ただ凄まじく不承不承で「何でこんな奴と約束しなくちゃいけないんだ!」という心情が態度と雰囲気で周囲に伝わっていたが。
「約は交わされた。では先程の位置に置く」
ただスタンガンを受け渡すだけでとんでもなく長引いてしまったが、速人の狙い通りの展開になっていた。
速人はワザと場を引っ掻き回し、クロノが自分に嫌悪感を抱くように仕向け、払えないだろう正当な金額を要求し拘束力の無い約を交わした。
ワザと場を引っ掻き回したため、フェイト達はレイジングハートを速人が意図的に不調状態にしたのならば態態波風立てる様な会話はしないと思わせる事に成功した。
クロノにワザと強烈な嫌悪感を持たせ、クロノが非難される為に喧嘩腰になるように仕向け、相対的に自分の評価を高め、更にクロノの疑念を嫌悪感と摩り替える事に成功した。
払えないと理解している額を請求し、この場に居る全員にはやてに対する口封じの約を取り付け、はやてと面識の無い者に積極的に接触することへの足枷を付ける事に成功した。
残る目的は速人がなのはを攻撃したのは事故で、レイジングハートの不調は速人の意思が介在していないと思わせることだけだった。
ただそれ以外にも可能ならばこの場に居る者の能力の解明若しくは減衰もあるが。
現在までに得られたフェイト達の情報を基に大まかな誘導方針を決めながら、速人は先程放り投げた際にめり込んだ布団の位置にスタンガンを置く。
スタンガンを置いた後その場の全員を軽く見回して問いかける速人。
「他に何かあるか?」
その言葉にフェイト達を代表するようにリンディが速人に話しかけた。
「よければなのはさんにスタンガンを使った前後の説明……………というか、アリサさんの容態や経緯は話さなくても構わないから、昨日速人君が廃ビルに突入した辺りから大まかな説明をしてくれるかしら?」
「詳細までは説明せず、其方の問いかけ等を説明終了後にするのならば構わない」
「それで構わないわ。……………そういうわけだから速人君の説明が終わるまでみんな質問はしないようにね?」
その言葉に他の面面が頷いたのを確認してリンディは速人に話を促す。
「前置きとして言っておくが、説明を遮り質問をしてくればそれで説明は終了する。その事態を回避したいならば別の場所で話すという選択肢も有ると告げておく」
「………………という訳だから、驚いたりしたからって質問しないようするように」
リンディの言葉にまたもや頷くフェイト達。ただクロノは「何様のつもりだ」と言わんばかりに顔を顰めていたが。
クロノの様子に内心で嘆息しながらも再度視線で速人に話を促すリンディ。
「では説明に入る。
昨日アリサが居ると思しき場所に突入した際5名と戦闘になった。
5名全てを無力化するまでに左側頭部に被弾し意識が不明確になり、その後応急処置の時間を確保する間も無く接近して来る者を迎撃に移った。
警察の関係者で無いと判断していたので対象を明確に視認せずに迎撃に移り、2名の内の片方を無力化して残りを無効化しようとした際に対象がフェイト・テスタロッサだと視認した。
その後フェイト・テスタロッサと高町なのはをその場より退かせ、アリサに異常が無いか検査できる施設へと連れて行き、検査が終了しアリサの体力がある程度回復した後に海鳴の安全確認が取れている場所に送り届けた。
説明は以上だ」
その言葉を聞きフェイトとなのは直ぐに速人に話しかけた。
「その頭の怪我って打ったとか切ったとかじゃないの!?」
「平気そうな顔してますけどどれくらいの怪我なんですか!?というか動いてもいいんですか!?」
二人の質問に他の面面も同じことを聞きたいらしく速人を見ていた。
「先程述べたが頭部の怪我は被弾したものだ。怪我の度合いは硬膜の一部欠損で、頭部に一定以上の衝撃等を与えない限りは死にはしないので、それを考慮すれば死亡せずに行動は可能だ」
「ビックリしたぁ〜。動いても平気なくらいの怪我なんですね」
安堵したなのはといまいち怪我の度合いが解らなかったアルフ以外は速人が述べた怪我の度合いを聞き驚愕していた。
「な、何でそんな怪我で出歩いてるんですか!?今すぐそこに寝ててください!」
「君は死にたいのか!?衝撃どころか興奮して血圧が上がっただけで死ぬ可能性があるんだぞ!?」
「直ぐに救急車を呼ぶから大人しく待っててちょうだい!」
口口に速人を避難めいた意見をする三名になのはとアルフはいまいち怪我の度合いが解らないため事態の深刻さが理解できず、フェイトに尋ねようとしたがその前に速人がリンディに話しかけたので話す機会を逃した。
「俺は医者にかかるならば自身で医者を決める。
俺は自身で評価を下していない医者の診察・診断・治療を受ける気は無いので呼ぶ必要は無い。
通報するのならば通信機器を破壊し、それでも通報しようとすれば通報者を行動不能にする」
窓の鍵を開けながらリンディになのはに渡したのとは別の同型のスタンガンをワイヤ針タイプモードにして向けながら速人は言い放った。
フェイト達は速人の行動に驚き、そしてクロノは取り押さえようとしたが迂闊に衝撃を与えれば即死する可能性があまりに高い為踏み止まり、アルフはフェイトが制止した。
そして速人にスタンガンを向けられ通報する寸前だったリンディは携帯を一先ず閉じながら速人に問う。
「……………どうしてか聞いてもいいかしら?」
「不用意に他者に自身の命を預ける気は無いからだ。第一俺は自身で診察・診断・治療を施した。
それと先程の説明に対する質問以外は、この質問に一段落ついた後はもう受け付ける気は無い。先程の様にスタンガンを渡すだけで20分以上も時間をかけたくないのでな」
「素人が少し齧った程度の医学で診察・診断・治療で済ませられる怪我の度合いじゃないというのは解っているのかしら?」
「たしかに医学を少し齧った者の診察・診断・治療で済ませるには危険なものだろう。
しかし俺が医学を少し齧った程度と判断しているのならば、俺の診察と診断を真に受ける事は矛盾していると思うが?」
尤もな事を言われ沈黙する一同。
「それに俺は医師免許を取得しており、脳についての論文も発表し、博士号を得る程度の理解力もある」
その言葉を聞き驚くリンディとクロノに、以前の会話を思い出したフェイトとなのはがその時に知ったことをリンディ達に話した。
「……………そういえばアリサがトランクケース三つ分に詰められた速人の免許証や称号とかを見たって言ってた…………………」
「たしか偏差値が110以上とも言っていたよね。どれ程凄いのかはよく解らなかったけど………………」
二人から俄かには信じられない程常識外れの話を聞かされ驚くリンディとクロノ。対してアルフはいまいち意味は解らないが、話の邪魔をする気も深く考える気も無いのか静観していた。
二人が驚いている隙に速人は脇道に逸れた話の流れを修正し、これ以上脇話が道に逸れないようにした。
「医師免許と博士号の免許証及び認定書の画像を記録させているので閲覧させても構わないが、今聞きたいことは高町なのはへ攻撃したことについてなのだろう?
水掛け論や本題ではない質疑応答を繰り返して俺を疲弊させるのが目的でないのならば話を進めてくれ」
暗に無駄話を止めてさっさと話を進めろと言う速人。
速人の発言にリンディは治療を受ける意思が無い者を治療させる難しさを知っていたので治療させることを断念した。
「……………………分かったわ。ここで治療を受けさせようと説得するよりは、用件を早く終わらせた方がいいみたいだしね」
その言葉を聞き渋渋納得するフェイト。あまりよく解っていないが納得したなのはとアルフ。そして病院に叩き送れずに何となく負けた感がして不満気に納得するクロノ。
「それでは本題に入るけど、なのはさんを攻撃したのは故意にしたこと?」
「そうだ」
一片の迷いも躊躇いも無く断言した速人の言葉を聞き驚くリンディ達。クロノは速人が僅かでも不穏な動きをすればバインドで拘束しようとしている。
リンディは驚きながらもクロノを眼で制止し、そして速人に視線を向けながら尋ねた。
「何故故意になのはさんを攻撃したのかしら?」
「攻撃対象だったからだ」
「……………………何故攻撃対象だったのかしら?」
「その時の状況下で一般的に考えるならば、警察関係者でないと判断される者が接近しているならば攻撃対象になる」
微妙にズレた答えにまさかと思って質問の前提を変えるリンディ。
「念の為に確認しておきたいのだけど、なのはさんと確認して攻撃したの?」
「確認せずに攻撃した」
「……………………どうやら私の質問の仕方が不味かったみたいね……………………。
改めて質問するけれど、あなたはなのはさんと確認してスタンガンで電流を流したの?」
「高町なのはと確認せずにスタンガンで電流を流した。
ただし床から高町なのはの胸元の高さ程までは視認しており、また足音からの体重計算等を考慮した事を確認したと解釈するならば確認している事になるが」
あの時点で速人は接近してくる者をなのはとフェイトと断定していたが、確認はしていなかったので今の発言はギリギリで嘘になっていなかった。
「どうして胸元程度までしか視認していなかったのかしら?」
「足音から小柄と判断される部類の者と判断でき、そのような者の攻撃方法は大抵銃撃の為、被弾率を下げる為に前傾姿勢で突撃し、顔を上げずに上目にしつつ手の位置を把握していた為だ」
リンディは速人の言葉を聞き、なのはとフェイトの二人に視線を向けた。
「……………本当です。転びそうな程の前傾姿勢で私に突撃してきたし、顔も伏せていて見えなかった………………」
「なのはの言う通りあの体勢で顔を上げてなかったらなのはの顔はまず見えないと思う」
二人の言葉を聞き暫しの間熟考するリンディ。
そして感想とも質問とも取れる言葉を漏らす。
「見たところクロノより年下みたいだけど、そこまで素早く戦闘を組み立てられるものなのかしら……………?」
リンディの口から漏れた呟きを速人は質問と捉え、返答をする。
「飛び道具を持った者を制圧する方法は投石から銃撃まで先人達により幾つも考えられている。俺が選択した行動もその中の一つで然程珍しくも無い思考だろう」
「そうなの……………………。あと速人君、あなたはなのはさんが倒れた後スタンガンを口の中に捻じ込んだって聞いたけど本当かしら?」
「間違いない」
「…………………私はその行動は室内の状態を二人からはやてさんに話させない為と思ってるのだけど、間違ってるかしら?」
「概ね当っている。なおその言葉に含まれていない理由は話す気は無い。自分で考えるがいい」
「そう………………」
速人の言葉を聞き、リンディは再度熟考する。
(……………話さない理由はアリサさんの救出は間に合わず乱暴されたからでしょうね……………。
理由を話せばアリサさんが乱暴されたと態々話すということ。アリサさんの容態を生死以外述べていないのもその為でしょうね。
若しくは次回以降同様の事が起きた時、沈黙した場合に察せられないように無事にも拘らず知らせていないだけということ。
……………………この考えを詳しく二人に話してもアリサさんが無事だったのかは分からないし、態々二人に心配の種を植え付ける必要は無いわね……………。
………………………………速人君の言葉に嘘は無いようだし、魔導師という線も否定されたし、これ以上速人君に質問して彼の気遣いを態々踏み躙るような真似をすることはないわね)
昨日フェイトがアリサのいる室内に押し入ろうとした際、それを理由に蒐集行為の障害になるなのはに電流を流して瀕死に追い込ませようとした速人のもう一つの理由は、リンディ自身が自身の望む美しい理由をつけた為もう一つの理由はそれに隠された。
クロノをダシに使われて速人の評価を高く錯覚し、命を危険に晒してでもアリサを救出したという美談や、速人が嘘を言っていないと判断したことや、なにより子供と思って油断した事が原因でリンディは自分の思考の幅を狭められていた。
もしこの後クロノが速人のもう一つの理由に僅かでも気付いて指摘しても、速人は怪我と出血を理由に意識が不明瞭だったと惚けて質問を回避して終わり、リンディ達はクロノが速人に一方的に悪感情を抱いていることが原因の悪意的な解釈と思ってしまい、さらに速人が無力化されたなのはに止めも刺さなかったり魔導師の可能性も否定されていることも速人に有利に働き、僅かな疑わしさはそれを上回る疑わしさや誤解や誤認や自分にとって都合の良い解釈に阻まれて否定される。
リンディは自分の意思で納得のいく最善の選択を選び続け、且つ自身の望む尋問指針に沿って自身が望む予測の内外の答えが聞け、この尋問に何一つ違和感を抱いていなかった。
尋問は十分成功したと思ってリンディは速人に対する尋問を打ち切ることにした。
「………………話せない理由は想像が付くし、それを含めて速人君の話は納得できたからもうなのはさんに攻撃したことについて色々詮索する気は無いわ。
ただ最後にどうしても聞いておきたい事があるのだけど………………………」
リンディはそう言いながらアルフを見ながら速人に話しかけた。
「アルフの姿を見て全く驚いていないようだけど…………………どうしてかしら?」
リンディの言う通りアルフの姿は一見人間だが頭頂部付近から獣の耳と臀部から尻尾と思しきモノが生えている。作り物にしろ本物にしろ普通はまず気に止めるものであるにも拘らず、速人はまるで気にしていないのをリンディは不審という程ではないが気になったので聞いてみた。
「獣の耳と尻尾と思しきモノを指して言っているようだが、それが装飾品ならば特に此方に害が無い以上どうでもいいことだ。そして遺伝子干渉で作り出された生身のモノでも同じことだ」
「装飾品ならば兎も角本物ならば何かしらの興味や関心は持つと思うのだけど?」
「人工的に遺伝子干渉をして形成されていないということを本物と言うのならば研究材料にしたい程度の興味はあるが、満足な戦闘行動が取れる状態で無い以上戦闘行為になることは控えるつもりでいるし、はやての友人を悲しませてはやてを悲しませるような真似をする気も無い」
「……………私がはやてと友達じゃなかったら速人はアルフを捕まえてたの?」
「生死を問わずに確保させるようには仕向けるだろうが、俺自身が直接捕縛することはないだろう」
「……………」
暗にフェイト達を速人自身はどうでもよく思っていると告げられ、解ってはいたがはやてやアリサとの扱いの差に何ともいえない気持ちになるフェイト。
「ちょっとあんた、フェイトにあんまりフザケタ事言うと張り飛ばすから口の聞き方に注意しな」
アルフが速人の先の発言に頭にきたのか敵意を滲ませながら凄んでみせる。が、速人は返事をすること無くこの場の全員に尋ねた。
「他に尋ねる事は有るか?無ければフェイト・テスタロッサの保護者が居るならば保護監督責任を追及したいことが一つあるのだが、さして重要事項でもないので拒否しても構わない」
「ちょいと待ちな。あたしの話は終わってないよ」
「フェイト・テスタロッサへの対応を指図される謂われは無い。第一相手の返事を聞く気が無い警告ならば会話は不要だ。独り言がしたいならば壁に向かって勝手にしていてくれ」
「………………いい度胸だ………………喧嘩売ってるみたいだね……………」
「現在の身体状況を考慮すれば僅かな攻撃行動でも致命なので、僅かな攻撃行動でも生死を問わずに迎撃する」
「上等だよ。やってみな」
そう言って戦闘体勢に移りながら速人を睨み付けるアルフ。
しかし当然そんなアルフの行動を見逃しはしないフェイトとリンディが注意した。
「アルフ、私はそんなに気にして無いからやめて」
「少なくとも速人君の言う事は正論よ。それに質問に嘘も言わずにはっきりと答えているようだから寧ろ評価するべきよ」
意外と言う程ではないが速人を評価している二人に諌められるアルフ。
二人に諌められ反論はしなかったが不承不承感がはっきり判る程不平そうに黙るアルフ。
フェイトが小声でアルフを諌めている間にリンディが速人に話しかける。
「ごめんなさいね。それで一応フェイトさんの保護監督責任者は私という事になっているけれど、何の話なのかしら?」
「昨日自らを魔導師と自称し廃墟ビルに高町なのはと訪れた事は保護監督責任を放棄していると思われるので、以後注意してほしいと思っただけだ」
「「「ッッッッ!!!」」」
速人の指摘を受け当事者のフェイトとなのは以外は息を呑んだ。
フェイトやなのはは特に気にされることなくサラッと流されたので、レイジングハート不調の原因を考えている間に皆に話すのをすっかりと忘れてしまったのだった。
「悪魔の証明の様に無いと証明することは出来ないが、意識が不明瞭になる一撃を頭部に受けた直後の俺に容易く迎撃されるようならば魔導師の真偽に拘らず、その場に向かわせるのは保護監督責任の放棄だろう。
昨日現場に現われたことは最早どうでもいいが、身の程を弁えずに危険事に首を突っ込み自滅してその結果はやてが悲しむのはあまり好ましくないのだが、生きていてもはやてを巻き込む可能性もあるので注意せずに放置して早めに自滅してもらっても俺としては構わない。
故に注意するかしないかだけを答えてくれればいい。注意するのであれば以後危険と判断される現場で生存していて、家族の害に成らず暇があれば連絡若しくはある程度の護衛と護送はしよう。注意しないのであればその時は不穏要素として排斥するか野晒しにする」
「……………普通は魔導師とか聞くともっと驚いたり胡散臭がったりすると思うのだけど、全然そういうところが無いみたいだけど何故かしら?」
「既存の常識の範疇外を全て否定する程今の常識が絶対とは思っていないだけだ」
「…………だけど速人は昨日私の言うことをまるで信じていなかったけど?」
「魔導師の真偽ではなく現場に現われるに足る力を持っていないと判断しただけだ。
それと魔導師ならばはやてにその事を打ち明け秘密を共有しようとするなと言って置く。
はやてが健やかに暮らす事をこれ以上邪魔しようというならば、はっきり言っておくが合法非合法問わず如何なる手段を用いてでも排斥する。二人が魔導師かどうかの真偽は俺には関係ないが、魔導師ならば既にはやてと友人であるフェイト・テスタロッサと高町なのは以外は接触しないようにしてもらおう」
「はやてさんに話そうとすることを貴方に止める権利はないように思うのだけど?」
「話したいという意思を抑制する気は無く、話したいならば好きにするがいい。ただその場合先程述べたように合法非合法問わずに排斥するだけだ。
それと高町なのは、そちらの保護監督責任者に話すとはやてに話が伝わる可能性が高いので連絡する気は無い。この場で以後己の力量を弁えずに危険事に干渉しないと言うのならば、以後危険と判断される現場で生存していて、家族の害に成らず暇があれば連絡若しくはある程度の護衛と護送はしよう」
「…………昨日フェイトちゃんが言いましたけど、出来ると思ったからアリサちゃんを助けに行ったんです。
だいたいそんな大怪我している人に力を弁えていないと言われても説得力ありません」
「大怪我と言う程のモノではない。iPS細胞で傷口を埋めたので10日もすれば日常生活に支障は無くなる。
それと俺が大怪我を負ったと言うならば、その大怪我をしていた者に一撃で迎撃された者は一体何なのだ?」
正確には速人の傷が10日前後で日常生活が可能程度に治るには、高酸素治療と細胞に電気刺激を与えて活性化させ続けなければ幾らiPS細胞(万能細胞)でもそんな短期間で回復は不可能である。
だが怪我の重さもイマイチ理解できなかったなのはがそんな医療専門用語や標準回復日数などを知る筈も無く単純に10日で治ると解釈し、その後の言葉の大怪我の速人に一撃で迎撃されたことをどう返すか考えていた。
そしてどうせ深く考えても速人を納得させられる話し方は自分では出来ないと諦め、思いの丈をぶつける事にした。
「友達を助けようとするのはそんなにいけないことなんですか?力が無かったら大人しく待ってるだけなんですか?」
「己の力量も弁えず、そしてその力量も足りずに助けると息巻き事態の介入を図る者は、善悪と正邪に関係無くただ邪魔なだけだ。
それと力の有無は戦闘能力の有無とは違う。はやては待っている間にアリサが戻ってきた時の為に見舞い品として何かを調理していたようだった。俺ではアリサの精神的外傷を癒す術を持っていないのではやての判断は適切だと思う」
「…………………………」
速人の言葉に反論できずに押し黙ってしまうなのは。
速人が言ったように戦闘能力で役に立たなくても心に傷を負ったアリサを癒す為に出来ることも確かに在った。
「それで次回から己の力量を弁えて行動するのかどうかを聞きたいのだが、話したくないならば話す必要は無い」
速人はフェイトとなのはとリンディを見ながら尋ねる。
しかし三人は渋面を浮かべて答えようとはしなかった。
己の力量を弁える事は一朝一夕で身に付くものではなく、また仮令それが身についてもフェイトもなのはもまた同じような事が起こった場合、何を措いても助けに行く気であったし、リンディもそれを十分に理解していた。
三人としてはこれ以上速人に不穏当な発言をさせてクロノやアルフに悪感情を抱いてもらいたくないという思いが有り、フェイトとリンディは速人の口からあまりそういうことを聞きたくないという思いもあった。しかしだからといって誠実かどうかはさて置き、ここまで徹底して嘘を言わない速人に自分達の都合だけで嘘を吐くというのも憚られ、どうしたものかと三人で悩んでいたら三人の苦悩を水泡に帰すような事を速人が話し出した。
「アルフ及びクロノ・ハラオウンが俺に悪感情を持つのを回避しようとしているようだが、既に両名に悪感情を抱かれ、クロノ・ハラオウンには蛇蝎魔蝎の様に思われている以上手遅れだろう。
それと他者が他者に抱く感情を抑制しようとするならば距離を取らせた方が遥かに効率的だ。特に俺とクロノ・ハラオウンの思考体系は大きく異なっているので、俺の意見を聞けば聞くだけ俺に悪感情を持つだろう」
「だ、蛇蝎魔蝎って…………いくら何でもそこまで嫌ってはいないと思うのだけど…………」
頬を引き攣らせながらクロノを見るリンディ。と、その時アルフがフェイトに話しかけた。
「フェイト、だかつまだつって何なんだい?」
「えーと、人に害をなすこの世のモノでは無いおぞましいモノ、って意味だったはず」
「あ〜、たしかにあたしは嫌っちゃいるけどそこまで嫌っちゃいないね」
フェイトの返答にアルフはあっさり嫌っていると告げ、アルフとフェイトはリンディとなのはに倣いクロノを見た。
四人の視線を受けたクロノは憮然そうに喋りだした。
「…………………少なくともこれほど思考体系が違うと感じるヤツは過去一人もいなかったし、正直二度と会わないだけでなくてこの世から―――」
と、そこまでクロノが言ったがリンディが眼でその先を封じる。
「―――………………………兎に角二度と関わり合いになりたくない。意識するだけでも気分も機嫌も悪くなるので、争い事になれば喧嘩では済まない。
僕としては一刻も早く話を終わらせて、直ぐにここから出て行ってもらいたい」
嫌悪感や憎悪ではなく、ただ存在を全否定するクロノ。
一方は時空管理局の法を守護する立場で、時空管理局が掲げる世界に秩序と規律と平和を敷く理念を己の理想とするクロノ。もう一方は何れの組織にも属さず、自分と身内以外は身内に不利益が無ければ世界が無秩序と無法と戦乱で覆われていても構わない速人。
全てを救わんとするなのはとも相性が悪かったが、秩序と規律と平和を敷くという理想を掲げて他者に一方的に干渉するクロノと他者への干渉を基本的に良しとしない速人との相性は最悪に近かった。
「このようにクロノ・ハラオウンの俺に対する評価は既に評価に値しない程低く、アルフの評価も今更上昇修正されることも無いだろう。 無駄な気遣いをするより速く会話を打ち切り俺がこの場を離れることが両名にとって一番望むことだろう。
第一深く考える必要は無い筈だ。自身で考え選んだ選択肢ならばそれに対するあらゆる責は自身で負うモノだ。自身の決断で被害を受けるのは自身であり、リンディ・ハラオウンがフェイト・テスタロッサの方針を決定した場合、フェイト・テスタロッサが自身の意志と関わり無く被害を受ける場合リンディ・ハラオウンは保護監督責任者として甘んじてそれを受け入れるべきだ」
「…………言っている事は尤もだけどそれを子供に強いるのはどうかと思うのだけど?」
「自身の行く末は老若男女問わず自身で決断させ、その結果不利益が発生しようとそれは甘んじて受け入れるべきだ。
保護監督責任者は思考を制限するのではなく情報を提示して選択肢の幅を広げ、そして不都合が発生すると判断した場合行動を制限する、若しくは発生した際にそれを肩代わりするのが在るべき姿だと思うが?」
「………全く以てその通りだと思うけど、さっきは私に思考を制限するように言ってなかったかしら?」
「思考ではなく行動を制限する旨を促す発言をしたが、何か問題があるか?」
「……………二人への対応にかなり差があるように見えるのだけど?」
「俺は特に差が在る様には感じていない。尤も効率的な選択をしているだけだ。
フェイト・テスタロッサの行動をリンディ・ハラオウンに制限してもらおうとしているのは、フェイト・テスタロッサは若干戦略を理解しているのでリンディ・ハラオウンに行動を制限させ、高町なのはがそれに倣えばよし、倣わずとも猪突猛進の考え無しで行動している以上単独で行動すれば早早に自滅するだろう」
毎度毎度凄まじく他者の機嫌を損ねることを隠しもせずに堂堂と述べる速人。
速人がなのはを直接殺そうとしているわけではないが、有事の際に出来るだけ死に易くなる様に根回しをしようとする速人のセリフを聞き、怒りの上限値を振り切った為か無表情になったクロノが静かに速人に話しかける。
「……………君はなのはを死なせたいのか?」
無表情だが声には怒りが満ち溢れているのがはっきりと解り、また津波が来る前兆として水が引くような静かな言い方だとも容易に窺えた。
それを十分理解して尚何時も通りに話す速人。
「はやてに害を成さないようになるのならば生死は問わない。死のうが転居しようが俺はどちらでも構わない」
「君の戦闘能力がどれ程かは知らないが、万一の時なのはやフェイトを守る事は出来ると思うが何故それをしようとしない?」
「先程述べたが自身の力量も弁えずに危険事に干渉する者ははやての害になる可能性が高く、そのような者を積極的に生存させるつもりは無い。
それと自身の意志で決めて実行し、その際に生じた不都合な事を他者に解決させようとするのは筋違いと思うが?」
「強き者がその力を以って弱き者を守るのは当然の事だ。
どの様な能力であれ、突出した能力を持つ者はその能力を社会や弱者に貢献するべきだ」
「個人の能力は個人のモノだ。それを一方的に施す程ゆとりが在るわけでも博愛精神を堪能したいわけでもない。
それに個人の能力は個人の資産でもある。それを無償で使用を強制若しくは活用しようとするのは恐喝や窃盗の類と思うが?」
「君が持ち得ているモノは何も君一人で持ちえる事が出来たわけでは無い筈だ。君が認識していない多くの者との繋がりの果てに得る事が出来たモノの筈だ。
ならばそれを還元しようとする事は当然の行為の筈だ」
「あらゆる事象はあらゆるモノがその要因に成っているという考えは否定しない。
だがその理屈ならば不都合な状態に遭遇したのは、世に蔓延る飢餓や戦乱は、人間が悪心を抱くのは、………この世全ての悪とされる事も自分にも要因が在るということだ。
話を聞く限りではそこまで考えず自身は清廉潔白と言い、社会や組織に都合の良い与えられた理屈のみを語っているようだが、そんな理屈に従う程俺の思考原理は惰弱ではない」
会話の度に一方的にクロノだけ怒りが募り、後1・2回速人が喋ればクロノの怒りが大爆発するだろうという時、流石にこれ以上会話させるのは危険と判断したフェイト達が会話に割って入った。
「クロノ君落ち着いて。何時も冷静なクロノ君らしくないよ」
「そうだよ。速人は別に何もしていないし、言っていることも間違いってワケじゃないし」
「ま、あたしがフェイトが一番にしてるのを端から見たらこんなもんかもしれないし、よくよく考えてみると別におかしな事言ってないよ」
「社会の一員としてではなく個人として速人君が言っている事は至って普通よ。ただ言っている事は普通だけどそれを言うという事は普通じゃないけれど。
だいたい思考体系が違うと解っているのに会話した挙句怒ろうとするのはやめなさい」
四人がかりで宥め諌められ何とか溜飲を飲み込み、そして怒りを堪えるように瞳を閉じて瞑目するクロノ。
その姿を見てとりあえずクロノの怒りが爆発する事は避けられたと四人は解って軽く安堵し、そして速人に再び話しかけようとしたリンディより先にフェイトが速人に話しかけた。
「…………リンディさん、速人の言う通り私の事は私が決めます。………それにリンディさんがどんな決定をしても本当に大事な事は自分で決めて行動すると思うから………」
フェイトにそう言われ溜息とは違う息を漏らして話すリンディ。
「そんなに恐縮することはないわ。子供の自由意志を大人はなるべく尊重するものなんだから。
…………ただ本当に危険で周囲の人にも迷惑と判断した時は行動を制限させてもらうからそれだけは覚悟しといてね?」
「はい。
………………速人、私はまた今回のような事に遭ったらじっとしてないで助けに行く。たとえそれで私が死ぬ事になってもそれは変わらない」
フェイトの決意表明になのはも追随した。
「あたしも同じです。自分の命が危険だからって力になれるかもしれないのに、ただじっとしてるなんて事は出来ません」
二人の決意表明を特に何も感じず聞き、そして何時も通りさして興味も関心も無く淡淡とした言葉で返す速人。
「理解した。
それでは双方話す事は無いと判断したので退席する」
そう言いながら細心の注意と最大限の警戒を払いながら玄関に向けて移動しようとする速人に静止の声がかけられた。
「ちょっ、ちょっと待って。何も返事は無いの?」
「あたし達の決意を無視するんですか?」
前後から挟むように移動してきたフェイトとなのはに速人は懐からハンカチをフェイトの眼前に広げるように投げつける。
ただ目の前に広がったハンカチはフェイトの視界を遮っただけだったが、フェイトの顔からハンカチが落ちる間に速人はフェイトの腕の間合いギリギリ外を移動してリビングのドアの所に移動していた。
速人はドアを開け、廊下に身を置きながら何事も無かったかのように話し出した。
「フェイト・テスタロッサと高町なのはがした決意表明に今更言うことは無い。既にその選択をした際の事は話している」
「って、なに平然と話進めてるんですか!?それとなんで今さっき逃げる様に移動したんですか!?」
全員の疑問を代弁するように尋ねるなのは。
「後方に居る高町なのはの手元には使用可能状態のスタンガンが有り、前方には立ち塞がる様にフェイト・テスタロッサが存在していた。
警戒してその場を離脱する理由としては十分だと思うが?」
「そんな……………あたしは理由も無く人を攻撃したりしません!」
「理由なら幾らでもあるだろう。高町桃子を意気消沈させた事、アリサと月村すずかを囮に使った事、アリサが攫われた現場を調べるのを無駄と言った事、俺に攻撃された事、救助に来たと言うフェイト・テスタロッサと括って邪魔と評した事、アリサの容態を説明しなかった事、口内にスタンガンを捻じ込まれた事、友人と目されるクロノ・ハラオウンの機嫌を著しく害した事、身の程を弁えずに危険事に干渉した際邪魔ならば処分すると言われた事。大まかに列挙してもこれだけ理由が在る。
今なら俺を殺害しても事故として処理されるので俺を殺すには打って付けの状況だ。俺に対して攻撃する動機の有る者の接近を許してしまうような状況下で、俺が採った行動は至って普通だと思うが?」
「…………っ、たしかに怒ったりするような事は有りましたけど、それでも殺すような攻撃なんてしません!」
「今の俺は顔面に平手打ちを受けて顔が横に振れただけで死ぬ可能性も高い。引き止めるつもりで服の裾を掴み首が仰け反っただけでも死に至ることも十分に有りうる。
それと殺す様な攻撃はしないと言ったがどの様な攻撃ならするつもりだったのだ?」
「う………………そ、それは…………………」
実際今までの恨みで服の裾を強く引っ張るぐらいはするつもりだったなのはは言葉を詰まらせる。
「予測では今までの恨みを籠め、服の裾を強めに引っ張り引き戻すぐらいはするつもりだったのだろう。だが殺さぬつもりの行動が相手を殺し、殺すつもりの行動が相手を生かす等というのは往往にして存在する。主義や信念や想いが現実に直接影響を及ぼす事は無い。
殺すつもりの無い攻撃は相手を殺さないと思い違いしている者は、殺す意思を持った者と同じく危険な存在だ」
理路整然と尤もな事を言われ意気消沈しているなのはに変わって不審気な顔でクロノが尋ねてきた。
「先程から気になっていたんだが、君のその頭部は本当に怪我をしているのか?
硬膜まで欠損する怪我を負った者の行動にはとても思えなくてな」
クロノが指摘した事はリンディとフェイトも同じように感じていた。二人は速人が嘘を吐いている様にも思えないが、それでも納得しきれないこともあった。
「仮に俺の怪我がそうでないとして、それが関係するような事が有るのか?」
「関係するような事なら有る。
もしその怪我が嘘ならば、それは君がこの場に来て話した事全てが嘘かもしれないという事にも繋がる」
「つまり怪我を確認させろと言う事か。断れば俺の話に信憑性が置けないという免罪符を掲げ、はやてにでも尋ねると言うわけか」
「理解が早くて手間が省ける。
さて怪我を確認させるか、それとも確認させずにそのはやてという子に連絡されるか、好きな方を選ぶといい」
完全に脅迫しているクロノを諌めようと各各が注意しようと口を開くよりも速く速人が返事をした。
「消毒した手で患部を触診して怪我を確認する人物を此方で選べ、その現場を事故に装い殺された場合に備えて記録することを了承するならば怪我を確認させても構わない」
速人の提案にその場の全員が驚いた。
特にクロノは今まで自分をやり込めていた速人が煩悶する様が見れるかと期待していただけに悔しさも多分に混じっていた。
そんな面面を気にも留めずに喋り続ける速人。
「確認する者は高町なのはに指名する。それでよければ高町なのはは石鹸で手を丹念に洗い、泡を擦らずに水流で洗い流し、この包装された無菌ハンカチで手を拭いて後に触診してくれ」
「えっ!?ま、待って下さい!どうしてあたしですか!?あたしは危険だってさっき言ってたし、第一あたしはそんな気味の悪い事したく無いです!
それに触らなくても見るだけで十分だと思います!」
急に指名され、軽くパニックになっているなのはに速人は淡淡と告げた。
「もし俺を高町なのはが殺害した場合、暫くは少年院に入院しはやてに接近する事は無くなり、高町なのはが暴走してはやての身に危険を及ぼす懸念を一時の間消し去れる。
視診でなく触診する事は後から視覚トリックと言われるのを防ぐ為だ。
本来ならばクロノ・ハラオウンに触診させるべきだが、殺害された場合クロノ・ハラオウンが少年院に入院しようと家族の益には成らず、また事故と主張する可能性も高いが、高町なのはならば殺害したのなら故意にしたと主張する可能性が高く、自ら少年院に入院するのを望むと判断した為に高町なのはを指名した」
「待て。僕は殺したのならば言訳せずにその事実を―――」
「―――状況が変わったことを理由に約束を反故にしようとした者の人格と性格に関わることをその者から聞く気は最早無い。
兎に角先程の条件で怪我の確認をするかどうかを問う」
何時も通り淡淡とした口調でクロノの主張を斬って捨て、自分の条件を呑むかを尋ねる速人。
(難関だがこれで怪我を納得させれば万一の時の追求も惚け通せる。
だが触診時に攻撃されれば極めて高い確率で死ぬが、その場合はやては高町なのはを拒絶し高町なのはとの接触を回避すると予測されるので今よりはやての安全確率は上昇する。
事前に俺が死亡する可能性のある行動を指摘しているので、高町なのはが俺が死亡する可能性のある行動を採る確率を引き下げたので高確率で高町なのはに殺害される可能性を回避できるだろう。が、クロノ・ハラオウンに殺害される可能性が当初の予定よりも大幅に上昇してしまった。大声を出して高町なのはの身を竦ませて殺害を試みる可能性もあり、高町なのは以上に注意を払う必要があるな)
なのは達から返事が来るまでの間、十分周囲を警戒しつつ速人はそんな事を考えていた。
(当初は生き延びる為の技術を身に付ける為と思いはやてと暮らし始めたと筈が、ヴィータ達が現われた時に自身と同等の扱いをし、今では家族の核として自身の命を使うに足る存在に成るという想定外の事態になるとは思わなかった。
生物としてははやてとの出遭いは凶事だったのだろうが、俺個人としては)
感慨と言う程では無いが、感想と呼べることを考えていた速人の思考は最後まで達する事無く、結論が出たらしいなのは達からの返事を聞きそれを思考する為に打ち切られた。
「一応視診だけでも私達は納得するし、なのはさんがトラウマになりそうなことは遠慮してもらいたいのだけれど……………」
「触診する理由と高町なのはを指名した理由は述べた」
「……………それだと速人君が納得しないみたいね……………。という訳なのだけど、なのはさん、どうかしら?」
話を振られたなのははリンディには返事をせず、代わりに速人に気になっていたことを尋ねてみた。
「……………あなたは自分の命を他人に握られるのは平気なんですか?」
なのはの速人のイメージとしては誰かの為に自分の命を懸けるとは思っておらず、最後には自分の命を優先する人物と思っていた為、速人の提案が解せずに尋ねみた。
「それが一番効率的且つ合理的に物事を目的に対して進められ、そして理念に反しないのならば自身の生殺与奪を他者に握られる事に躊躇いは無い」
「………………それははやてちゃんの為なら何でもするということですか?」
「自身の理念等を語ると、それを盾に脅迫行為に移る可能性が極めて高い者が居るのでその質問には答えない」
「………………もしあなたが死んだらはやてちゃんが悲しむとは思わないんですか?」
「恒常的にほぼ無条件に優しさを振りまくはやてが誰かの死を悼まないと思う程俺は疎くない。それと俺が死んでもその精神的外傷を癒そうとすると思われる者は数名居るので問題は無いだろう。
それとそのような話をするのは、俺を殺害する気が有ると解釈しても構わないのか?」
「っ!そんな事はありません!」
「そうか。ならば触診する気が有るのならば早く手を洗ってきてくれ」
「……………………」
了承したのか速人から包装された無菌の手拭を受け取り、黙って洗面所に向かうなのは。
なのはが洗面所で手を洗っている間場に沈黙が降りるが、直ぐにフェイトが速人に話しかけてきた。
「速人…………………、速人とはやては血が繋がってないんだよね?」
「戸籍が改竄されていなければ三親等以内という事は否定されている」
「…………………………………………………………………元いた家族じゃないのに、どうして赤の他人と家族になれるの?」
一瞬止めるべきかと思案したリンディだったが、当事者の速人が拒絶しない限りはフェイトの好きにさせようと思い、フェイトの好きにさせるリンディ。
アルフとクロノと洗面所まで会話が聞こえているなのはは、フェイトの家庭内事情を知っているため沈痛そうな面持ちで聞いていた。
そして尋ねられた速人はそんな雰囲気を一切気にせずに普段通り淡淡と答えた。
「俺は生存している遺伝子提供者に情報機器を媒介せず双方見たことが無く、また親族と呼ばれる者も同様だ。
故に元の家族というモノに思う所は無い。
それと補足だが、誕生前の胎児の時に胎内を見たことが遺伝子提供者を見たという事に数えるならば、一名は生存状態を見ていることになる」
「……………速人のお母さんは速人を生んで直ぐに死んじゃって、他の人は生まれる前に全員死んじゃってたんだ………………」
血縁者じゃない者達が家族になっていることから両親や親族が死んでいるのは予測していたが、そういう返事が返ってくるとは思っていなかったらしく速人の出生を聞き驚きと不憫さで質問したことを後悔するフェイト。
しかし直ぐに速人からフェイトの言葉を否定する言葉が発せられた。
「その解釈は誤りだ。
俺が誕生して母体が死んだのではなく、母体が死んでから俺が誕生し、親族が死滅したのは俺が誕生して10年以上経過してからだ」
「え?…………………………お母さんが死んでから生まれたって…………………………」
「死体の腹を内側から破って這い出てきた。当然指や腕の靭帯や骨は殆ど破損したが」
サラリととんでもない事を述べられて驚きで固まるフェイト達。
驚きで固まるフェイト達を気にせずに話しを進める速人。
「血縁関係の無い者と家族に成れる理由を聞いていたが、それは俺もはやても誰に強制されるでもなく自分で決めて互いに家族になったからだ。尚必要だったから家族になったのか、不可欠だから家族になったかまでは答えるつもりはない。
それと血縁関係が有ろうと然るべき手続きを踏めば家族という関係を無効にすることが出来るのならば、血縁関係と法的意味合いの家族には血縁関係と法的な価値しかなく、概念的価値は無いだろう」
速人の出生についても驚かされたが、はやてと家族に成ったのは速人の意思に因るものだと知り更に驚くフェイト達。
そんなフェイト達を特に気にも留めずに洗面所に居るなのはに話しかける速人。
「無駄話を聞くのは構わないが手を止めずにするべきだ。それと注意されたからといって急がずに兎に角汚れと雑菌を手に残さないことを優先してくれ」
速人の指摘を受けて直ぐになのはが手洗いを再開する音が聞こえてきた。
そしてなのはが手洗いを再開すると殆ど同時にフェイトがまた話しかけてきた。
「………………速人はお母さんやお父さんと一緒に仲良く暮したいと思わないの?」
「俺を殺す目的で自殺を試みる者や俺を消耗品として使い潰そうとした者と団欒を築く気は無い」
「え?…………………………………なに……………………………………それ?」
またもや速人の言っている事が理解できずに問い返すフェイト。他の面面も同じらしく速人を見ている。尤も洗面所に居るなのはは速人の顔は見ようとはせず、今度は手を止めずに聞き入っていた。
「俺は既に潰れた企業の最高責任者が後を継がせるに足る存在を製造する為に適当な女性を何名も和姦乃至強姦して孕ませて生まれた者の一名だ。
俺の母体となった者はどうやら強姦された類らしく胎児の俺を呪う言葉を吐きながら毒を体内に取り込んだと記憶している。
孕ませた方は生まれた者に様様な技能を修得させる為、――――」
「速人、もういいよ。ゴメン、それ以上は聞きたくない………………………………………」
「―――嬰児に投薬及び生、…ならばこの話は此れで終了する」
気分が悪くなったのか真っ青な顔をして速人の言葉を遮ったフェイト。他の面面も同じ様な反応だった。
そんな中不快な話を聞き不機嫌に顔を顰めながらリンディが問いかけてきた。
「速人君はどうしてそんな話を私達に聞かせたのかしら?」
「いつかはやてが俺の出生を問うた時、それに答えた際に気分を害すかどうかを判断する為にここにいる者の反応を参考にする為に話した」
「…………………………速人君はその話をはやてさんに話していないの?」
「話していない」
そのセリフにフェイトが速人に食って掛かるように話しかけてきた。
「どうしてそんな大切なことはやてに話さないんですか!?」
「他者の受精から誕生までの経緯や意図等は殆どの場合が重要では無い。そして俺の受精から誕生に至るまでの経緯ははやてに報告する程特殊では無い」
「十分特殊です!愛し合っていない両親の間に生まれるなんて……………そんなの普通じゃ有りません!」
「至って普通だ。特に戦時下や一定以上の利権を得ている者達の間では。
制圧下の女性を強姦して孕ませて子を産ませ、幼児まで成長したら戦い方を仕込み、錬度により自爆兵士にするか一般兵かそれ以上に鍛えるかを分ける。
他にも貧困地帯ならば労働力として子を得る為に一時娼婦になり妊娠中の金銭を貯め、妊娠すれば辞めるという者もおり、又、要職に就いている者はその権力を行使して性的暴行をすることも珍しくない。
これを考慮すれば俺の生まれは特殊ではなく至って普通だろう。
他には政略結婚や売買春等や性行為をする友人関係も在る事を考慮すれば、俺の境遇は至って普通だろう」
女性の貞操観念や出産に対する希望や喜び等を粉砕する言葉を放つ速人。
フェイトやなのはには刺激が強かったのか、フェイトは呆然と俯きなのはは手の動きを止めていた。
他の者もフェイト達程ではないが、十分刺激が強かったらしくとても不愉快に顔を顰めていた。
しかし速人はそんな事は一切構わずに喋る。
「高町なのは。手洗いを再開してくれ。俺はこの場で時間を浪費するつもりは無いので、さして時間を費やさずに済む作業を長引かせるのは止めろ」
「は、はいぃ!」
若干驚いた感じの返事と同時に手洗いを再開する音が聞こえ、直ぐになのはが速人の目の前に現われ無菌ハンカチで丁寧に手を拭いていた。
壁に携帯端末を下げ一部始終を録画送信させて殺害された時の保険とする作業を既に済ませていた速人は、頭部の傷を覆う物を全て取り払ってなのはが触診しやすいように膝を折って屈んだ。
なのはは泣きそうな程嫌な顔しながらも渋渋速人の傷に触れた。
「ッッッ!!!」
ips細胞はまだスライムの様な感じで抵抗感は無かった。
だが傷口周辺の頭蓋骨断面と思われる堅い感触、乳白色の脳を包んでいる硬膜の弾性と硬性を併せ持つ奇妙な感触、そしてなにより硬膜を押した際に内部に不均一な柔らかい物が在ることが指先から容易に窺えた。
耳の付根から指を這わせ傷口周辺の瘡蓋が少し盛り上がった感触。そして抉れた骨が僅かにささくくれた感触。頭部を這わせていた指が落とし穴に落ちた様に僅かに落ち、その先に不気味な柔らかさに受け止められる感触。
全ての感触が嘘ではなく本物の感触だと理解した瞬間、なのはは我慢の限界だとばかりに弾かれた様に手を離して洗面所に行って先程よりも念入りに手を洗い始めた。
・
・・
・・・
なのはが手を洗い終えてリビングに戻るとそれを待っていた速人は前置きを抜いて淡淡と尋ねる。
「高町なのは、先程触診して俺の傷が真偽のどちらと判断したのかを述べてくれ。他の者との談笑や慰められるのはそれが済んでからにしてくれ」
気遣いゼロの我が道を行く発言の速人の発言に気を悪くした者も居たが、たしかに今まで話が脇道に逸れすぎて碌に進んでいないのを思い出し文句を言うのを堪えた。
事実要件のみなら10分もせずに終わるはずが、気付けば40分を超える程時間が経っていた。尤も速人が人心掌握術を行う為に意図的に脇道に逸らせていたので、脇道に逸れていた一番の原因は速人だが。
そして当然そんな事を思ってもいないなのはは慌てて結論を述べた。
「あ、はい。えと、あんまり思い出したくないけど、見た目も触った感じも間違い無く本物の傷だと思う。
……………骨の感触も……………白い膜を押した時の気持ちの悪い感触も……………手に付いた血の匂いも……………全部が本物のとしか思えない……………」
「高町なのはははこう結論を下したらしい。高町なのはの結論や判断に異論が有るならば、俺に確認ができる今この場でするがいい。後で疑問点が出てきたので調べさせろというのは受け付けない。
先程も述べたがはやての友人の高町なのはとフェイト・テスタロッサ以外この場に居る者とはこの場を離れた後に関わり合いになる気は無い」
「……………なのはがああまで言っているんだ。流石にもう疑う気は無い」
速人は視線で残りの者に問いかけたが、フェイトもアルフもリンディも特に意見は無いらしかった。
というより速人が傷口を晒した時に漂うキツイ薬品の匂い、そしてそれに紛れるように存在する血とは違う生臭い身体内部の匂い、そして凹んだ箇所からの僅かな出血がその凹みに僅かに作る血溜り。これらの要素だけでなのはの判断を聞かずとも十分本物の傷と判断していた。
「特に疑問点も無く納得したのならばこれで終了だな」
それだけ告げてもう話し合うことは無いと玄関に歩き出す速人。
しかしその背中になのはの声がかかった。
「ちょっと待って下さい!」
「拒否する。議論すべき事は終わった。これ以上この場に留まるつもりは無い」
なのはの制止の声を即座に一蹴し、不用意に屈んで脳圧を無闇に上げないように注意しながら靴を履く速人。
「何故俺が怪我を負ってまでアリサの救出に向かったのかを尋ねたいのだろうが、俺にとって高町なのはにそれを話す事は瑣末事だ。足を止めて話す必要は無い」
速人はもう一度応急処置をし直さなければ脳圧の変化で30分もせずに行動不能になると判断しながら、靴を履き終えたので何事も無い様に玄関の扉を開けて、外に出るのを少し先に延ばしながらなのは達に話しかけた。
「今日この場での事を一切はやてに伝えぬ事に了承したことを各自忘れぬよう。
如何なる理由であろうと違約すれば、法に抵触してでも此方の判断で対処する」
それだけ告げると、なのはが何かを言う前に外に出て扉を閉めた。
外に出ると冷えた空気が包帯の隙間からゲル状の蓋が無くなった傷口に直接触れ、脳が膜一枚隔てて一部が急に冷やされた為、その部分の脳内血管が収縮し、気絶しそうな程の血圧が脳にかかるが気にした素振りも無く携帯でタクシーを手配し、平然とした顔で速人は歩く。
そして普段ならば階段を使って降りるところだが、動き回ると危険な為エレベーターを使って降りようと待っている間にフェイトが駆け寄ってきた。
「速人、待っ……………待たなくてもいいから話をして」
「依頼したタクシーが到着するまでならば構わない」
あっさりと了承を得られ、都合は良いが若干肩透かしを食らったフェイトだったが、あまり時間が無い為急いで話し始める。
「さっきなのはが言っていたけど、どうしてそんな怪我を負ってまでアリサを助けたの?」
「負傷した状態で戦闘域から離脱及び降伏するよりも、場を制圧した方が合理的と判断したので制圧した。アリサの救助に繋がったのは結果だ」
「そうでなくて!どうしてアリサを助けようと思ったの?速人ならどんな危険があるかくらい十分解ってるはずなのに…………」
その言葉と同時にエレベーターが到着し、二人は無人のエレベーター内に乗り込む。
行先を1階に指定しながら速人は返事をした。
「アリサははやての友人で、アリサが死亡乃至負傷したのならば、はやての精神衛生上悪影響になると判断したからだ。
そしてアリサの安全の確保がはやてにとって必要と判断したので行動に移した」
アリサに説明した時よりさらに幾つかの思惑を伏せてフェイトに告げる速人。
「…………アリサは速人の友達じゃないの?友達だから助けたんじゃないの?」
「友人関係の是非は俺には判断がしかねる」
「………………………………………友達って言わないんだ………………」
フェイトはなのはと違って速人がアリサを友人と思っていると判断していたので、なのはの疑問を簡単に納得させられる答えが返ってくるとばかり思っていたが、出て来た言葉は友人を想っての言葉とは程遠いもので、裏切られたという落胆が呟きに色濃く籠められていた。
しかしそんなフェイトの心境などお構い無しで速人はフェイトに尋ねる。
「二つ問うが、俺の判断がフェイト・テスタロッサから見て誤り乃至悪だとしたならば、その判断の下アリサの安全を確保した行動も誤り乃至悪になるのか?仮にそうでなくとも、俺の判断が誤り乃至悪としても俺が成した都合の良い結果だけを搾取しそれ以外の全てを否定するつもりなのか?」
「そ………それは………………」
「返答しなくても構わない。その反応だけで返答としては十分だ」
もう興味も関心も無いと言わんばかりに淡淡とフェイトに告げる速人。
それから少しの間沈黙がエレベーター内に漂ったが、直ぐに1階に到着した到着音と案内音声が流れて沈黙は破られた。
速人はエレベーター内から出、マンション内からタクシーが来た際に見える位置でタクシーが来るまで待つことにした。
そして直ぐに速人の横にフェイトが並び、遠慮と決意が混ざった複雑な表情で話しかける。
「速人は…………………………………………………自分の一番大切な人が自分を否定していたら………………………………………………どうする?」
血を吐く様な想いでフェイトが尋ねた一言に、いつも通り即座に淡淡と返す速人。
「俺を否定することでその者に不利益が生じない限り通常通りの対応をし、不利益が生じる場合はその不利益を排除する」
「………………………………………………認めてもらうとか………………………………………思わないの?」
「不利益を排除する際それが最も合理的且つ効率的な方法ならば認めてもらおうと思う」
「………………………………………………………………………………………………その人が死んだ後その人の立場に他の人が就こうとしたら………………………………………………どうする?」
泣き出しそうな程申し訳なさそうな顔で速人に問いかけるフェイト。
その表情を見ながら、昨日レイジングハートエクセリオン(未完成)から得たフェイトの家庭環境情報から、どのような対応をすればハラオウン達との関係に溝と壁を生じさせられるかを逡巡するフリをする速人。
返答は既にここに来る前に用意しているが、即座に返答するより逡巡して述べた方が効果的と判断したので逡巡するフリしてから速人は返答した。
「…………………排除乃至放置、若しくはその場より離脱する」
「…………………………理由を聞いてもいい?」
「逝った者が遺したモノを後に就く者が損なうのならば排除し、何もしないのならば放置し、それ以外の理由若しくは排除しきれぬ場合可能な限り遺されたモノと共にその場から離脱する」
「……………………………………何一つ遺されたモノを損なわずに自分を満たそうとしてくれているなら………………………………………………どうする?」
「放置する。
それと此方から尋ねるが、代替が不可能だから大切なのではないか?
喪っても替えが在るならば大切とは言わないだろう。
尤もフェイト・テスタロッサが言う大切な者が、便利で都合の良い消耗品を指しているならば話は別だが」
「………………………………………………………………………………………………」
「返答はしなくても構わない。その反応だけで返答しては十分だ」
母と呼ぶ者の死による精神的外傷を容赦なく突き、ハラオウン達との間に溝と壁をフェイト自ら生じさせて精神的にフェイトを追い詰め、戦闘になった際の思考力を削いでおこうという速人の目論見は見事に成功した。
ただ速人はシグナム達にこの様なことをするとは言っておらず、もし事前に相談したならばほぼ確実に止められると判断していた為、現場の判断という裁量で実行した。
それから直ぐにタクシーは到着し、俯いているフェイトをそのままに速人はタクシーに乗り込み八神家に向かうようタクシードライバーに指示をした。
後には俯いて葛藤しているフェイトのみで、速人の目論見通り、既に喪った母と呼べる大切なプレシアの立ち位置にリンディが代わるのを認めると、自分のプレシアへの想いを全て否定してしまう気がして無自覚にリンディとの間に自ら溝と壁を作り、リンディと家族のクロノにまで同じく溝と壁を作ってしまった。
その後直ぐにフェイトはなのは達が待つ部屋に戻り見た目は平静を装っていた。
だがフェイトの変化は一見して気付かない程小さなものだったが、戦闘になれば直ぐに精彩を欠いていると解る程酷い精神状態だった。
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
タクシーの中で本当に応急処置としか言えない処置を施して八神家までタクシーで移動している最中、前方から八神家に戻った筈のヴィータが此方を…………タクシーの中の速人を正確に見ているのを速人は理解し、タクシーにヴィータを乗せて理由を尋ねるより外で会話した方がいいだろうと判断し、ヴィータが居る辺りでタクシーを止めるように速人は指示し、直ぐに指定した場所にタクシーは停車し、速人は代金を清算してタクシーを降りた。
するとヴィータは速人の身体を見回して特に異常が無いと解ったがそれでも心配そうに声をかけた。
「ハヤト!無事か!?」
「戦闘行為及び準戦闘行為も起きていない。詳細を述べるにはこの場は不適切なのでこれ以上は述べないが、何一つ攻撃は受けていない」
「フウゥ、そっか、無事ならなによりだ!」
にこやかにそういうヴィータに速人は八神家に戻った筈のヴィータがなぜこの場に居るのかを尋ねてみることにした。
「ヴィータ、質問だが何故この場に居るのだ?」
「う………………………………………」
速人の質問に途端に顔を引き攣らせて視線を泳がすヴィータ。
「あーーー………………………………、あ、あの後家に帰ろうと思ったらそこの公園でちょうど爺ちゃんや婆ちゃん達がゲートボールしてんの見えてさ!挨拶とか話とかしてたらこんな時間になっちまってたんだ!」
その話を聞き、速人は即座に嘘では無いが動機は隠していると看破したが、ヴィータ本人が隠しきれるとも思っていないと見えるにもかかわらず尚隠そうとしているのを、態態踏み込んで問い質す気も起きずにそれ以上の追及を打ち切った。
「理解した。特に緊急の用事がないのならばヴィータと合流したので、もう一度地下研究所に赴きたいのだが同行してもらって構わないか?」
「へ?あ………ハ………ハヤト、なんでまっすぐ帰らなかったのかとか聞かねえのか?」
まさかあれで納得されるとは思っていなかったヴィータは逆に速人に尋ねる。
「その理由が先程のヴィータの返事なのだろう?」
「あ………………いや……………そうだけどよぉ………………」
あまりにあっさり追及を逃れられたので、ヴィータは自分の事を軽んじられているように感じてしまった。
「ううーーーっ、ハヤトはアタシがなんでここに居たのか気にならねえのかよ?」
「気になったので尋ねたが?」
「ぅぅぅぅーー、だってアタシはハヤトの質問に答えてねえだろ?アタシがなんでここに居たのか気にならねえのかよ?」
追及されたくはないが簡単に追求を振り切れると軽んじられているようで不機嫌になるので、もう少しぐらい追求してほしいと少少我儘なことをヴィータは思っていた。
「ヴィータは直情径行型だが短絡的でも浅薄でもない。そして自身の行いが過ちで自身のみで修正できなくとも、それを隠匿して事態を悪化させる真似はしない。
ならばヴィータが話そうとしないことは、ヴィータのみの私的なコトなので俺が追求することではない」
「うぅぅぅーーー、だから、アタシのこと気にならねえのかよ?」
「動機が気になるかという問いならば、可能ならば知っておきたいが返答する可能性は低いと判断したので、ならば態態ヴィータに問い質して不快にさせることもないと判断したので追及を打ち切った」
「………………………」
ヴィータの動機を知りたい理由がイマイチ解らなかったが、少なくともヴィータを不快にさせないという速人の気遣いを聞けたのでヴィータはそれで納得することにした。
「………………………まあその返事で納得すっとすっか………………………。
んで、さっきもう一度地下研究所行くって言ってたけどなんでだ?」
「先程のような応急処置的治療ではなく本格的な治療をする為だ」
「?…………家に帰ってシャマルに頼めばいいだろ?」
「それだと回復が速すぎて怪しまれる。
説明可能な医療技術で外部が回復するまで1週間、内部が回復するまで2週間。これより速いと疑われるので2週間は自身で治療する」
「治しても怪我したふりしとけばいいんじゃねえのか?
はやても隠さないとバレるからって言えば、隠すの納得すっと思うぞ?」
「傷の深さはアリサに話してあり、高町なのはとフェイト・テスタロッサと他3名に確認をさせているので完治している事が発覚する可能性を考慮するならば得策ではないと判断している」
「確認させてるって……………………まさか傷口見せたのか?」
「そうだ。高町なのはには触診もさせているので、完治した事が発覚する危険性を考慮するならばシャマルに治療してもらうのは2週間後になる」
「あ〜〜〜、なら仕方ねえな。それじゃあさっさと行くか!
…………っと、その前に挨拶してくるからそこで待ってろよな?危なくなったら直ぐ来るけど、それでも危なくなったら呼べよな?」
「状況が悪化しないと判断した場合は呼ぶつもりだ」
「毎回毎回イマイチ釈然としねえ返事だけど、納得するとすっか。
それじゃあちょっと待っとけよー」
そう言うとヴィータは公園の敷地内に駆けて行き、ゲートボールをしている老人達に挨拶をしに行った。
速人も何度か現場を見た事があるが、ヴィータは相変わらず老人達に人気があり、挨拶を告げたヴィータは多くの微笑みに見送られながら速人のいる場所に戻ってきた。
「よっし、挨拶も済んだし行くとすっか!」
「了解した。ヴィータが何処にも立ち寄らないのであればタクシーで移動するが構わないか?」
「ああ、アタシは別にどっかに行くつもりはねえし……………」
そう答えながらヴィータは先程速人と昼ご飯でも食べてくるようにと老人達から貰ったポケットの中の3千円(500円硬貨6枚)を弄っていた。
(う〜〜、せっかくお金貰ったんだしハヤトと食いに行きてえけど、ハヤトかなりヤバそうだから持ち帰りで頼むのも出来そうにねえな……………………。あーあ、せっかくハヤトと食ったり出来ると思ったのにな……………。
お金は今度会った時に返すとすっか……………)
少し俯きながらヴィータがそんな事を考えていると、少しの間逡巡した速人がヴィータに話しかけた。
「ヴィータ、食事をする時間ぐらいは十分あるので気を遣う必要は無いぞ」
「!?な………………なんでそんなこと言い出すんだ?」
「先程老人達とそのような会話をしているように見聞きしたのでそう判断した」
「って、ハヤト、まさかあそこまで離れてても声聞こえるのか?」
驚きながらヴィータは先程まで自分が居た辺りの位置をもう一度見た。
速人が立っている場所からヴィータが立っていた場所まで凡そ50m以上離れていて、普通は会話が聞こえる距離ではない。
ヴィータがそう判断して驚いている時に速人から詳細が述べられた。
「自動車のエンジン音で少少聞き取り難いので、読唇術が有効範囲なので読唇術を行使して会話を理解した。
但し此方から唇が見えない者は読唇術の対象外なので、音声で会話を知るか会話の前後から推測するかになったが」
「いや、結局声聞こえてるってことじゃねえのか?それって」
「聞こえてはいるが先に述べた通り少少聞き取り難く、音声による判断だけだと正確性に欠ける。
尚食事の話に戻すが、75分ならば食事に限らずヴィータの用件に時間を振り分けられる。ただし不衛生な場所や危険度の高い場所への随伴は拒否させてもらうが」
「………………………う〜〜〜、やっぱいいや。
気い遣ってくれるのはメチャ嬉しいけど、とっとと治療して寝たほうがいいぞ」
苦笑というよりは嬉しさと残念さの入り混じった顔でそう話すヴィータ。
そんなヴィータを見て速人は食事をしたがっているというのは理解できたが、ヴィータ自身が食事に赴くことを拒否しているならばそれ以上話す事も無いと思って会話を打ち切った。
「………」
が、少しの間を置いて速人はもう一度逡巡し、そして何かに思い至りヴィータに話しかける。
「ヴィータ、外食をすると時間を限界時間近くまで消費するが、料理の持ち帰りならば時間消費は少なく済むので何処かで持ち帰り品を買いに行かないか?」
「………………………………は?」
「聞き逃したようなのでもう一度言おう。外食をすると時間を限界時間近くまで消費するが、料理の持ち帰りならば時間消費は少なく済むので何処かで持ち帰り品を買いに行かないか?」
「………………………………………」
速人から話しかけられた内容を聞きヴィータは少しの間呆然としていたが、徐徐に言われた内容が浸透していった。
(……………ええと、今のはアタシと飯買いに行こうって誘ってくれたんだよな…………………………。だけどハヤトん家に食い物一杯あるから買って帰る必要なんて無えし、寄り道するぐらいならとっとと怪我治した方が良いのもハヤトは解ってる…………………。つまり買い物する必要なんか無えし、それにさっきとっとと帰ろうとしてたからアタシとどっか行く気も無かったんだよな……………………。ってことはアタシが昼飯代貰って…………………………………ああああああああああ!こんがらがってきた!
とにかくアタシはハヤトの提案断った。だけど今度は誘ってきてくれたんだよな……………)
若干混乱しながら考えていたが、最終的にその結論に達したヴィータ。
そして直ぐに提案ではなく誘ってきているとあらためて気付く。
(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぅぅぅぅぅぅぅぅっっっっ!!!!!誘ってくれたのか!!!???提案ばっかしかしなかったハヤトが………………………………優しいし話せば応えてくれるけど用も無く話しかけたりしなかった速人が………………………………しなくてもいいことで誘ってくれたのか!!!???)
そう思った時にはヴィータの顔は喜びに溢れていた。
そして直後に即座に速人の誘いを了承する返事をした。
「行くぞ!絶対に行く!!たとえメチャマズイ飯しかなくても絶っっっっ対に一緒に買う!!!」
「解った。指定したい店などがあるならば早めに言ってくれ」
「それなら大分前にハヤトがはやてとシャマルとザフィーラと行ってお土産にサンドイッチ買ったとこにしてくれ!」
「解った。ならば今からそこに向かおう」
「おう!!!」
ヴィータが満面の笑顔で速人に応え、駆け出さんばかりに歩き出そうとした時、ヴィータはくるりと老人達の方に向き直り物凄い速さで手を振りもう一度挨拶をし、老人達も微笑みながら手を振り返した。
挨拶が済んだらヴィータは場所も知らないのに速人の手を引き歩き出した。
上機嫌に速人の手を引きながらふとヴィータは思う。
(ハヤトの怪我…………………………………ヤバくなったらシャマルのとこに直ぐに連れてくけど………………………それまでは……………………………このまま一緒だ………)
ヴィータは速人の怪我についてどうするかを決めたら思考は直ぐに再び喜びと楽しみに染まり、速人に案内されながらも速人の手を引いて歩いて行った。
買い物は何事も無く終わり、速人とヴィータは直ぐに地下研究所に向かった。
地下研究所に到着した速人は直ぐに手術で的確な処置を行い、術後直ぐに一緒に食べる為に待っていたヴィータと買ってきた物を食べた。
味ははやてや速人が作る物に比べればはるかに劣っていたが、それでもヴィータは味に文句など感じ無い程楽しく速人と一緒に食事をした。
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第十四話:踏み躙る者――――了
【後書】
今回でA゜Sのキャラクターは殆ど速人と出合ったと思ったのですが、出会っていないのが士郎、美由希、ユーノ、エイミイ、レティ、グレアム、リーゼアリア、リーゼロッテの8名と考えると約1/3は出会ってないということに気付けました。正直レティとグレアムは速人と出会わないだろうな〜と他人事の様に思っています。
それと今回速人が頭に怪我を負って尚行動したりしていますが、硬膜(髄膜の最外層でこの下に蜘蛛膜があります)が欠損して24時間以内で日常生活を認める医者は、業務上過失致死若しくは殺人未遂に問われるでしょう。脳とは頭から地面に接触するように転んだのが原因で数日後死亡する可能性があるほど繊細な器官です。正直腎臓破裂して動き回っている方が遥かに危険度は低いです。
あと、今回はHDDごと走り書きが消えたり、ウィルスで書き直したのが消えたりして、書き直している最中に「書いた本人も書いていること、全部覚えているわけじゃないんだなぁ〜」と痛感しました。
次次回辺りから蒐集行為の最終段階に突入予定です。恐らく一対一ならばまず守護騎士達を圧倒する仮面の人にどう抗うのか…………………………全く考えていません。
なお今回なのは達が速人に念話を向けていて微妙な手応えで悩んでいましたが、速人は守護騎士達の念話も普通の人ならば気のせいにするほど受信度合が低いです。しかし僅かな変化でも速人は感じ取る為リインフォース(闇の書の意思)やザフィーラの念話が理解出来るというわけです。
最近新規投稿と一緒に誤字修正版を投稿していて、もう平謝りするしか無い程ご迷惑かけているにもかかわらず毎回全て掲載して下さる管理人様に感謝を申し上げます。そして御読みして頂いた上に感想も頂け本当に楽しみです。
そしてこのSSを御読み下さっている方、オリジナルキャラの大暴走がしているにもかかわらず拙い文を御読み下さり感謝します。
いやー、速人絶好調というか、やっぱりクロノとはそりが合わないみたいだな。
美姫 「速人はいつも通りに行動しているだけだけれどね」
まあな。とことん、クロノは気に食わないみたいだけれど、このやり取りはちょっと楽しいかな。
美姫 「そうよね。クロノが熱くなって、逆に速人は変わらずに淡々と」
クロノは嫌がるかもしれないけれど、この二人の絡みはまた見てみたいかも。
美姫 「次回がどうなるのか、楽しみにしてますね」
待っています。