この物語はオリジナル主人公登場の魔法少女リリカルなのはA‘Sの二次創作です。
自分の文才の無さが原因で登場人物の人格及び性格が変わっている可能性もあります。その様な事に耐えられない方は気合を入れられて見るかブラウザの戻るを押される事をお勧めします。
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魔法少女リリカルなのはA‘S二次創作
【八神の家】
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Interlude
――――八神家――――
速人とヴィータを見送った後はやて達は全員リビングに集まってアリサの話を聞く事にした。
相変わらず全身から怒りのオーラが滲み出ているアリサだったが、いきなり自分が言いたいことから話し出すようなことはせず、まずは心配したであろうはやてへ謝罪した。
「色色言いたいことはあるけど、まずは心配かけてごめん。
あたしが自分の立場をもっとしっかり自覚して行動してればこんな事にならなかった」
そう言って深く頭を下げるアリサ。
未だ胸に怒りが渦巻いてはいるものの、だからといって自分の非を認めぬ程アリサは狭量では無く、誠意を込めて謝っているのははやて達にも容易に見て取れた。
「そ、そんなべつにアリサちゃんが謝ることなんて何も無いやん。
悪いのは全部アリサちゃんを攫った人達やんか」
はやての言葉に守護騎士達も頷き、追随しようかと思ったが、アリサとはあまり縁の無い自分達が話す事は特に無いだろうと思い、アリサの用件の時までは黙っていることにした。尤もザフィーラは狼形態なのでどのみち喋るわけにはいかないが。
「はやてからしたらそうかもしれないけど、あたしからすれば送ってもらうなりそもそも行かないとか色色対策も有ったのに、自分の立場に付いて周る危険性を忘れて迂闊な行動をしたあたしがあたしから見れば一番悪い」
「そんな何でもかんでも自分のせいって思うことないで?
だいたい法律でも人攫いは犯罪って書いてあるんやし、悪いのは全部攫った人達でアリサちゃんが悪いことなんて何にも無いやん?」
「たとえ悪くなくてもあたしの迂闊さが原因で起こったことは間違い無い。
用心すれば防げた筈の事を怠った報いをあたしは受け、みんなに心配かけて…………………………そして助けに来てくれた速人が怪我した……………」
それはべつにアリサのせいではなく、やはりアリサを攫った者達のせいだろうとはやては言おうとしたが同じ事の繰り返しになりそうなのは明白であり、またアリサは罪悪感だけでそんな事を言っているのではなく客観的に見てそう言っているのがはやては理解でき、自分がただ攫った者達が悪いと言ってもアリサの考えは全く変わらないだろうと思い、何よりアリサを惨めにさせると思ったので喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。
そして弁護の代わりの言葉を話す。
「アリサちゃん、………………速人はんも怪我しとったけど、アリサちゃんも怪我し取るの?」
「あたしは命に別状は一切無いわ。ただ速人が受けた傷は命に関わる傷よ」
「っっっ!?!?!?」
アリサからの返答に息を呑むはやて。シグナム達も声にこそ出ていないが皆驚いていた。
その様子を見て落ち着かせる為に、はやてが慌てだすより早く次の言葉を述べるアリサ。
「慌てなくて大丈夫よはやて。怪我した時にショック死さえしなかったら、頭に血を巡らせすぎて脳圧上げたり頭を叩かれたりしない限りはまず大丈夫。
ただ速人が10日はほぼ寝たきりになるって言ってたけど」
アリサは早口でフォローを入れ、はやてとシグナム達がとりあえず安心したのを見てから今度は早口ではなく普通の速さで喋るアリサ。
「という訳で、改めてはやて………………いえ、速人の家族に言うわ。あたしが無用心だったばかりに攫われてしまって、そして助けに来てくれた速人が怪我をしてしまった。……………………ごめんなさい」
再び深く頭を下げるアリサ。
直ぐに頭を上げる真似はせず、はやて達にアリサが本当に申し訳無いと思っていると伝わる時間程には、アリサは頭を下げていた。
ただ声がかかるまで頭を下げ続ける様な卑屈な真似はせず、自分の判断でアリサは頭を上げた。
「…………………………さっきも言うたけど、べつにアリサちゃんのせいなんて思うとらんよ?
それにそんな事言うたらあたしにもそんな酷い怪我するかもしれんのに一人行かせてもうた責任がある」
はやての言葉にシグナム達は頷き、自分の意見とシャマルやザフィーラの意見をシグナムが代弁する。
「我らも同じ答えだ。
原因はアリサ・バニングス一人だけでなく、それに関わった者全てが多かれ少なかれ原因になっている」
「…………………………べつにあたしは自分一人が原因と思ってないわ。
ただあたしが原因の一端で速人が怪我したのは間違いないから謝ったの。速人が動いた理由の全てがあたしだったなんて思う程自惚れているわけでも悲劇のヒロインを気取ってるわけでもないわ」
正義感や罪悪感からだけの謝罪ではなく、客観的に下した判断を元に自分に少なからず非があると認めた故の謝罪だった。
「……………なんか速人はんみたいな考え方やな…………」
守護騎士達もはやての言う通り、アリサの判断基準は兎も角思考体系は速人に似ていると感じ、そして少なからず速人がアリサと友人関係を築こうとし続けている事に納得した。
「……………とにかくあたしのことはこれで話を終わりにするけどいいわね?」
「あ、うん。
今まで何が起きたかなんて、アリサちゃんが無事なのに聞く気なんて無いし」
「それじゃああたしのことの話はこれで終わり。
で、ここからははやて………………………いえ、速人の家族全員に文句があるわ……………………」
先の話の最中はある程度なりを潜めていたが、改めて話すとなると怒りと言うより憤怒とも言えるオーラを立ち上らせるアリサ。
はやて達はアリサが自分たちに向ける怒りに全く身に憶えが無く、はやては若干戸惑いながら、シグナム達は不振がりながらアリサの話しを待った。
「色色聞きたい事も言いたい事もあるけれど…………………………、まずどうしても聞きたい事から聞くわ。
……………はやて達は速人をどんな人物だと…………………………思考や評価じゃなくて、どんな理念の持ち主だって思ってるの?」
「え?」
いきなり深い質問をされ、はやては声を出して戸惑い、シグナム達も声こそ出さなかったが改めて問われると多少戸惑う類の質問の為少少戸惑っていた。
言い直すような事はせず、じっと答えが返ってくるのをアリサは待ち続けた。
そして僅かな間沈黙が降りたが、直ぐにはっきりとした答えがアリサへと返ってきた。
「自分を含めた自分の大切な人の為にだけ行動する人。
あたしはそう思っとる」
はやての言葉にシグナム達も頷く。
その仕草の言外に「はやての言葉に異論が無い限りは喋らないので気にせず素早く進めて構わない」というのを感じ取り、それを僅かに頷いて了承の意を返して素早く話を進めるアリサ。
「…………………………念の為に聞くけど、速人がはやてといる時に危険事や厄介事に首を突っ込んだ事ってある?」
「あるで。両手の指で足りない程」
間髪いれずにはやてから発せられた返事はアリサの逆鱗に直撃した。
「っっ!!それならどうして速人の異常に気づかないのよっ!!はやてはあたしなんかと違って長い間速人と一緒に暮してたんでしょ!!?」
いきなり怒声を浴びせられ、はやては戸惑いはしたが萎縮する事無くはっきりと返した。
「速人はんが喜んだり怒ったり哀しんだり楽しんだりせんのは感情が無いからやってのは十分解っとる」
「違うわよ!!そんな表面的な事なんかじゃないわ!!
その理由………………………どうして感情が欠落してるか考えたことある?!!解らないでも真剣に考えたことある!!?」
「……………………………………………………」
「無いでしょ!!?もしあったなら普段の行動と一緒に考えれば直ぐに気付くはずよ!………………………真っ当な人生を送れず送らず、そしてそのせいで何か大事なモノが無いって!!」
そう言われてはやて達は全員口を噤んだ。
はやて達は速人の一般常識の欠落した物騒な判断を何度も見聞きしているが、何時でも速人の判断は物騒さ以上に知識や合理性に満ちており、悪意や害意を含む判断ではないので【日本より少し危険度が高い場所に住んでいた】程度の認識で、速人の思考や判断を一つの個性として捉えており、珍しいとは思っても何故とは思った事が無かった。
特に守護騎士達は速人がレアスキルを手に入れる為に痛めつけていた頃、速人がそれに挑むのを家族の為に合理的に動いているとしか思っていなかった。が、少し考えればレアスキルを獲得する確率と死亡確率、更に獲得したレアスキルの実用性の有無や死亡した際のはやての心労による病状悪化の可能性、これらを考慮すれば間違い無く愚策だが、速人の存在があらゆる意味でどうでもいいという前提ならば逆に上策に変化するということに誰も思い至れなかった。
「あたしも自分で疑問に思って考えたんじゃなくて速人から相談されて思い至っただけだから偉そうな事言えないけど………………………………だけど………………………………………あんた達は速人の何見て何聞いてきたのよ………………………。
過ごした時間の長さが絶対とは思わないけど、半月も経ってない付き合いではやて達よりも圧倒的に積み重ねてきたモノが少ないあたしが気付けてどうしてあんたたちが気付けないのよ……………………………………。
あたしよりずっと気付く場に恵まれてたあんた達が気付けないってどういうことなのよ………………………………」
怒りよりも悔しさや哀しさが勝ってきたのか怒鳴り声はなりを潜め、代わりに声は震え始めていた。
そんなアリサに戸惑いながらもはやてが静かに話しかける。
「アリサちゃん。あたしらが速人はんの何を知らんのか、情けない話やけどあたしはそれすらも解らん。
本当なら自分で気付かなあかん大切な事やっていうのは想像がつく。
そやけど直ぐにあたしらが気付かなあかんから怒りながらも話してくれとるんやろ?」
「…………………………………………………………………そうよ」
自分の心情や思惑をあっさりと看破しながら、しかし速人の重大な事に気付かなかったのが堪らなく腹立たしいが、何とか癇癪を起こさずに平静になるよう努めて返事をするアリサ。
「…………………………順を追って話すわ。
速人とあたしに何があって何を話してたか………………………………」
トラウマになりかけていることを態態自分から克明に話すことに、そして速人が当事者以外に知る者がいないようにしたことを無駄にしてしまうことに強い抵抗感はあったが、それでも迷わずにアリサは話し出した。
途中何度かアリサは嫌悪感や恐怖を思い出して身が竦んだ。が、その時自分に速人が言ってくれた慰めでも励ましでもなく、ただアリサの価値を認めて賞賛してくれた言葉と、自分が速人に出来る数少ないことを投げ出すわけにはいかないという想いを支えに、アリサが憶えている限りの事をはやて達に話した。
ただうろ覚えだがなのはと何故かフェイトの様な声を聞いたような気がしていたが、話にまず関係が無く、また自分を信用して話してくれた魔法と言うことを話しのおまけみたいに言うわけにもいかず、何よりいまいち記憶が定かでないのでその辺りは省略されていた。
それと気絶する寸前に自分に向かって述べてくれた賞賛の言葉はアリサの大切な思い出で、どうしても話さなければならない限りは速人が誰かに話したとしてもアリサは自分から話すつもりはなかった。
しかしそれ以外はほぼ全てをアリサは話した。
自分が半ば襲われた事。寸前で速人が助けてくれた事。その時に酷い怪我を負った事。目が覚めた時に疑問を投げ掛けられた事。そしてその疑問に答えた事。
全てを話し終えたがアリサは特に胸の痞えが取れたりする爽快感や達成感は無く、ただ最低限伝えるべき事を伝えた小さな安堵感だけがあった。
一方はやて達はまだ半月も付き合いが無いアリサが速人の在り方を自分達以上に正確に見抜いたことを驚いていた。そして同時に少し考えを巡らせたならその結論に辿り着けたことに、程度の差はあれ自責の念に駆られたシグナム達は顔を僅かに俯けていた。
しかしシグナム達が俯くなか、はやてだけは俯かずにアリサを見て話しかけてきた。
「アリサちゃん、速人はんを理解してくれて……………速人はんの為に怒ってくれて…………………………ありがとな……………」
「………………………………………べつに速人の為にやったわけじゃないわよ。
ただあたしが速人の事知りたくて勝手に理解して、そしてあたしが我慢ならなくて勝手に怒っただけよ。
あたしはあたし以外の為に何かした憶えは無いから、お礼を言われる憶えは無いわ」
「それでも、や。
たとえアリサがちゃんが自分の為だけにしたとしても、礼を言わんわけにはいかん。…………………………ありがとな……………」
もう一度感謝の意を述べ、そして今度は頭を下げるはやて。シグナム達も言葉こそ述べなかったがはやて同様頭を下げた。ただ、ザフィーラだけは狼形態の為軽く顎を引くだけだったが。
一方はやて達の感謝の意を受けたアリサはほんの僅かな苦笑をしながら溜息を吐いた。
「あ?……………あれ?
アリサちゃん、そない溜息吐いて……………………あたしらなんか呆れられる事した?」
「うん?ああ………………………べつに溜息吐くほどはやて達を呆れたわけじゃないわ。
ただ、速人なら「拒否されて尚返礼しようとするのはただの迷惑行為だ」とか思った事を言葉に変えてズバッと言えるんだろうけど、あたしは言う言わないは兎も角、思ったことを言葉にも変えられないかと思ったら溜息が漏れただけよ」
「う………………………………………………もしかしてあたしらからの感謝って……………………………………迷惑やった?」
「………………………………………迷惑とは思ってないわ。嬉しくも思ってないけど」
「アリサちゃん…………………………アリサちゃんも結構ズバズバ言う方やと思うけど?」
「そう?
少なくとも速人に比べたら相当控えめだと思うわよ?」
「いや…………………………速人はんと比べたらあかんやろ…………………………。
速人はん以上に誰にでもズバズバ言う人なんて、まず居らんて」
はやてのその言葉を聞いたアリサは目を細め、視線を鋭くしながらはやてに言葉を放った。
「はやて…………………………言い間違えか認識不足なのかはあえてツッコまないわ。
だけどね、速人は誰にも遠慮なんてしてないでしょうけど、少なくともはやてには……………………いえ………………………はやてに関しては配慮して喋ってるわよ」
はやての目を射抜くような視線を言葉と同時に納め、アリサははやてが何か言い出す前に立ち上がった。
「?アリサちゃん、急に立ち上がってトイレか?」
「違うわよ。言いたい事言ったから帰るのよ」
「え!?」
驚くはやてを尻目にアリサは速人から教えてもらった送迎と説明を兼ねた要員の電話番号を押し、直ぐに繋がったのを確認した後に自分の名前と現在住所を述べた。
電話が終わるのを待っていたはやては、アリサが電話をし終えたのを確認したら急いで話しかけた。
「ちょ、アリサちゃん!まだ話し終わっとらんのとちゃう!?」
はやての全員を代弁するような言葉にアリサは、速人から貰った速人が使用している携帯の予備を一瞬だけ優しげな表情で見ながらポケットに仕舞いこみつつはやてに返事をした。
「さっきも言ったけど言いたい事はもう言ったわ。
………………………………本当ははやてが一体何知ってて何を考えてて速人と接していたのか徹底的に問い詰めたかったんだけど…………………………………速人の配慮を無駄にして少し頭が冷えたら……………………………それってべつにあたしが文句言うべきものじゃないって気付いただけよ。
あたしは速人からはやてとの関係で相談されたわけでもなし。当人同士が納得している関係にあたしが首突っ込むのは筋違いも甚だしいしね」
「………………………………それでもアリサちゃんはあたしの速人はんへの対応………………………納得しとらんのやろ?
そないあっさりと言いたいこと引っ込められるんか?」
一人勝手に玄関へと向かいかけていた足を止め、アリサは少し沈黙した後にはやてへと振り返りながら話しだした。
「………………………………………べつに喧嘩するぐらいの意見のぶつけ合いぐらい構わないんだけど…………………………さっきも言ったけど当人同士が納得していることにあたしが首を突っ込むことじゃないわ。ましてや当事者を一人欠いて意見ぶつけて喧嘩するなんて馬鹿みたいじゃない。
正直速人への対応をとっとと変えてほしいけど…………………………それははやての自由よ。そしてその対応に納得がいかなければあたしがその対応で生まれる害を打ち消せるほどの対応をすればいいだけだしね」
不敵とも取れる言葉と笑顔をアリサははやてに向ける。
そしてはやてが少し驚いている間に畳み掛けるように更に言葉を放つ。
「ま、あたしは速人も気に入ってるけどはやても気に入ってるのよ。この前なんか夢に二人出てきて延延といつもの掛け合い漫才なんかして笑わせてもらうほどにね。
だから喧嘩するならできるだけ筋違いや当事者を抜いた喧嘩をしたくないのよ。ま、ようするに八つ当たりなんていう相手に甘えた真似したくないのよ。
納得いった?」
「あ…………………………うん」
「よっし!それじゃあ辛気臭い話はこれでお終いね!
家に帰ったら暫くは徹底的に休ませられるはずだから今度は何時会えるか判らないけど、今度会った時はいつも通り楽しく過ごしましょう?」
今までの重い雰囲気を一掃するような明るい笑顔ではやてに尋ねるアリサ。
そしてそれを眩しそうに見ながらはやては声を返した。
「了解や。
あ、それと速人はんの怪我治ったら中止になってもたお泊まり会、もう一回しような?」
「いいけど、多分その場合あたしより両親が今回のことトラウマになってるはずだから、あたしの家でお泊まり会することになるわね。
そしてその際に男の速人が居たら【父VS娘の男友達】の構図の闘いが始まるわよ?」
「あ」
「十中八九速人がガードマンとか全員叩き伏せるでしょうけど、お泊まり会の雰囲気は消し飛ぶわね。間違い無く」
「う…………………………」
「いっそのこと速人を女装させて泊り込みさせるっていう―――」
「アリサちゃん、それはやめた方がいいで」
「―――ても……………って、どうしたの?何か苦虫噛み潰したような顔して?」
アリサの疑問に1年近く前の出逢った時の出来事を思い出しながらアリサに忠告するはやて。
「アリサちゃん……………女としてのプライドを大事にしたいんならその案は止めた方がいいで……………。
大分前に一度ふざけて速人はんにゴスロリの服を着せたんやけど………………洒落にならんほどに似合っとったんや…………………………。
他にも和服の着崩れた姿とか濡れた服を絞る仕草とか洒落にならん色気とかあってな、あたしがおんなじことしても絶対に出せへん色気出しまくられて女としてのプライドを根こそぎ壊されたで…………………………。
悪いこと言わんから、速人はんに女装させるのは止めた方がいいで?」
特に最近は後ろ髪が背の中ほどまで伸びているので、色白気味の肌や細い身体と相まって多くの人が女性と間違えるようになってきており、密かにはやてがコンプレックスを抱くほどの女性らしい体型だった。無論胸の膨らみは無いが速人の容姿と外見ならば十分女性で通るので、よほど男らしい格好をしない限りは女性と勘違いされる容姿になっていた。
そんなコンプレックスの混じったはやての忠告もアリサには届かなかったのか、邪笑というのがぴったりな笑い顔をしながらアリサは返事をした。
「却下よ。と言うか、そんな事を聞いたらぜひとも見たくなったわ。少なくとも話の種に一度は見せてもらわないとね。
そんなわけだからはやて、クリスマス辺りには速人の怪我は日常生活が平気なほどは治るみたいだから年越し前には一度は見せてもらうから速人の説得よろしく」
「ちょ!あたしは速人はんの女装は―――」
「そういえば速人とはやてと出会う前にすずかから聞いたんだけど、最近知り合った子が眠る時男の人に抱きつくように眠るだけじゃなくて抱き―――」
「―――謹んで了解致しますので他言するのは御勘弁下さい」
アリサに最後まで喋らせずに話しに割り込み、頭を下げて頼むはやて。
それにアリサは楽しそうな笑み浮かべながら返事をした。
「速人が要求を呑むかどうかはともかく、はやてが説得するならあたしから誰かにバラしたりしないし、同じネタで取引するのは一度きりだから安心していいわよ」
「ほっ………………。このネタでいびられ続けるかと思ったで…………………」
「一体あたしをどう思っているのか気になるところだけどそれは措いとくとして、同じネタを何度も使うなんていうのは脅迫だからそんな事しないわよ。
だいたい一回しか使えないからここ一番って局面まで秘密にしてから相手にバラして、相手が驚いて慌てふためきながらこっちの言う事呑むのが楽しいんじゃない。二度目からの相手の嫌がる顔なんて見ても楽しくないわよ」
「…………………………いじめっ子がここにおる……………」
「失礼ね。一回しかネタとして使わないから脅迫じゃなくて取引だからいじめじゃないわよ。
………………………………………まぁ取引として使わなかったら何度もチクチクと言わせてもらうけど」
「…………………………しかもサドっ気持ちや……………」
「さらに失礼ね。
あ、あとさっきのネタだけど、なのははあたしと一緒にすずかから聞いて知ってるから、すずかと一緒になのはも口止めしなきゃ二人からフェイトに漏れるわよ?」
「あ……………」
「約束だから【あたしから誰かにバラさない】けど、知ってる奴の前で言うのは約束を破ったことにはならないからフェイトも知ったら仲良くネタにさせてもらうわよ」
「……………あ…………………………悪魔がここにおる…………………………」
愕然とするはやて。一方シグナム達はなんだかんだではやてが会話を楽しんでいるので、微笑ましく黙ってそれを見ていた。
「なんかどんどん失礼なこと言ってるけど、少なくとも本気で嫌がる事はネタとして使うつもりはないわよ。それにもし見極めを間違ってネタとして使ったら怒っていいわよ。そうすれば直ぐに止めて謝るつもりだから」
「あ………うん。その辺の線引きに関しては大丈夫やと思っとるから、本気であたしが嫌がらん限りはアリサちゃんはそのままで構わんで?」
「そんなマジにならなくて、怒る時に怒るだけでいいのよ。
………………………………………って…………………………訂正するわ、怒る時に怒るだけじゃなくて、はやてに付いてる眠れる大魔神が暴れた時は鎮めてちょうだい」
「あはは、了解や。
つっても、速人はんアリサちゃん気に入っとるみたいやから、いきなり攻撃なんてせんと思うで?
さっき速人はんの胸にコアラの様に抱き付いてるの見て、13の殺し屋以上に自分の周囲に神経質な速人はんが抱き付かせてるのを見てホンマ驚いたで」
はやての指摘にシグナム達も先程の光景を思い返し、先程の速人の対応が稀有なものだと改めて気付いた。
対してアリサは速人が私有空間を一般人より広めに取っていると解釈した。
「ま、どれだけレアなことなのかは解らないけれど、一言速人が忠告してきて納得したなら素直に従うことにするわ。
……………って、帰るつもりで連絡してから結構話し込んじゃったわね。
もう表に待たせてるから帰るわね」
速人から貰った携帯が迎えが到着した旨を知らせているのを確認したアリサは、改めて玄関に向かいだす。
若干いつもより強引さが強いアリサだったが、はやて達は何だかんだで早く一人になりたいのだろうと思い、はやては引き止めずに見送る為にアリサと一緒に玄関に向かった。
そうしてはやてとそれに追随するシグナム達を引き連れるようにアリサは玄関に向かい、靴を履き終えて立ち上がると少しの間その場に立ち尽くし、急に真剣な表情になって振り返りはやてに……………はやて達に話しかけた。
「…………………………最後に一つだけ言っとくわ。もし速人を自滅させたくなかったら決して一人で行動させないことね。
多分ある日突然淡淡と危険ごとに首を突っ込んで、当たり前の様に自滅する選択をするわよ。少なくともはやて達にとっての危険ごとが在れば間違い無く。
…………………………尤も自滅の危険の果てに得るモノもあるでしょうからどっちを選ぶのが賢いのかは解らないけれど」
「「「≪…………………………………≫」」」
「ま、所詮付き合いの浅い小娘の言葉だから、鵜呑みにしないで聞き流して自分で考えた方がいいわよ。
……………さて、と。それじゃね」
そう言いながらアリサが玄関の扉を開けると、何処にであるような乗用車と没個性の容貌と服装の人物達が門の前に待機していた。
アリサが玄関から出ると、待機していた者達は八神家の敷地には入らなかったがさり気無い動作で周囲を警戒し、アリサを車内に乗せると自分たちも乗り込み車は走り出していった。
それを扉が閉まらないように固定していたシグナムと玄関前の廊下からはやて達は見送り、車が去ってしばしの間沈黙が続いていたがやがてシグナムが独り言の様に話し出した。
「…………………………名は烈火を意味するようですが…………………………嵐の如き人物でした…………………………」
怒って自分の主張を押し通そうとするよりも、ただ言いたい事だけ一方的に言って後は放置したアリサへのシグナムの感想がそれだった。
「同感です。
あと、あの年代にしてはとても達観してますね。善悪正邪が判断基準じゃなくて、自分が納得できるかどうかが判断基準なのはとても速人さんに似てますね」
≪…………………………恐らく天神が人間らしければあのような性格になるのだろうな≫
「そうやな。素直クールからツンデレになるんやろな…………………………」
しみじみとザフィーラの言葉に応えるはやて。
はやての微妙な発言にシグナム達は微妙な顔をしていたがはやては更に言葉を続けた。
「でももしそうなったら、どちらか言うとボケ担当の若干天然な気真面目さん・ほんわかうっかりさん・実直で基本見てるだけさん達に、あたしと我が家の元祖ツンデレさんと一緒にツッコミまくって楽しくなりそうやな」
「「≪……………………………………………………≫」」
遠くを見るような眼でそんな日を夢見ながらはやては呟いた。
たださり気無く毒すれすれな人物表現が混じっていたので、シグナム達は一瞬顔を引き攣らせた。
「ま、べつに現状に不満があるわけやないんやけどな。速人はんに笑ったりしてもらいたいいうんは、不満からくるわけやないし。
そら言いたいことはいくつかあるけどな」
「主はやて、我らや天神に何か不備などが在りましたら遠慮なさらずに御言い下さって構いません」
玄関の扉を閉めながら振り返ったシグナムは、先程のはやての言葉は軽い調子で喋られていたが決して軽くない想いが籠められていると気付き、はやての目を真摯に見ながら話した。
言葉にこそ出さなかったがシャマルもザフィーラもシグナムと同じようで、はやてが溜め込んでいる何らかの言葉を待っていた。
若干雰囲気が重くなってきたのを感じたはやては軽く笑いながらそれに答えた。
「あはは、そんな真剣にならんでもいいて。
誰にだって誰かに知られたくないことの1つや2つぐらいあるやろから、一々全部言うてもらおなんて思て無いて。
それに話せるようになったら話してくれるやろし、後戻り出来んような悪いことしとるわけでもないやろしな」
いつものように軽く話題を流したはやてはくるりとキッチンの方に車椅子の向きを変えながら話を続けた。
「さて、と。アリサちゃんに元気になってもらお思てお菓子作っとったんやけど、渡すのすっかり忘れてもうたからな。
箱に入れて届けられるようにせなあかんからシャマル、手伝ってくれへん?」
「あ、はいはい、解りました」
シャマルはそう言いながらはやてと一緒にキッチンの方に去って行った。
・
・
・
後に残されたシグナムとザフィーラは暫くその後ろ姿を眺めていたがやがてぽつりとザフィーラが言葉を零した。
≪…………………………主は…………………………我等が何をしているか薄々気付いておられるようだな……………≫
「…………………仔細までは気付いておられぬようだが、少なくともそれに気付けば止めるだろうことを我等がしているとは気付いておられるな……………」
キッチンの方から聞こえるはやてのいつも通りの楽しげな声をどこか遠いことのように聞きながらシグナムとザフィーラは話を続ける。
≪天神と守護騎士が全員揃っている時間が当初の頃に比べ極端に少なくなっている。
流石にこれで気付かぬ程主は鈍くはあるまい≫
「……………天神も色々な理由で研究所の方に居ることも多く、それに一人か二人ついて行き更に一人は蒐集の為に主の傍を離れれば、主はやての下には一人か二人しか居ない事になるな。
如何に御友人が出来たとはいえ、寂しく思われているだろう…………………………」
≪しかし管理局が表立って干渉してきた以上、悠長にもしていられぬ。
急ぎ蒐集を終えねば、病は進行し管理局からも御命を狙われる。
心苦しいが今は主が我等の行為を問い質したり、行動を束縛しない好意に甘えるしかないだろう≫
「………………………結局今までの方針と変化無しというわけか……………。
不甲斐ない将も居たものだ……………………」
シグナムは溜息混じりにそう言った。
現状確認以外に収穫も無ければ進展も無い事に酷く落胆したような感じだった。
そして僅かに肩を落としたシグナムに苦笑気味なザフィーラの声がかけられた。
≪天神の言を借りるならば将に求められることとは、「自身と配下を効率よく運用する」。この一点にあるらしい。
上に立つ者が下の者が出来ること全てを出来る必要など無く、上の者の仕事は下の者を纏め上げ、単独や集団では出せない結果を組織とする事でそれを可能とすることだろう≫
「フ……………忠節や儀礼をまるで歯牙にもかけない辺りが天神らしいな」
≪天神としては確固たる成果を出せるならばその様なものは不要らしい。
寧ろ思考の幅を狭める悪癖とすらシャマルに言っていたな≫
「……………そういえば一時期シャマルは天神に参謀や人の上に立つ者の資質について話をしていたらしいが、そんな事を話していたのか…………………………。
たしかにそんな話を聞けば自分が参謀に不向きと落ち込んでも仕方あるまい」
≪尤も天神も自分は参謀に向いておらず、情報屋が分だと言っていたがな≫
「? 天神の思考や判断は間違い無く参謀向きだと思うが?」
僅かに眉を顰めてザフィーラに問うシグナム。
シグナムの中の情報屋のイメージは、偶然何らかの場に居合わせただけの輩が人の足元を見た金額を要求する下種と言うイメージなので、シグナムから見たら万物秘匿主義の速人と情報屋を結び合わせる事が出来なかった。
そんなシグナムの思考を何と無く読み取ったザフィーラは説明を付け加えた。
≪仕えるべき者の理想、若しくは属すべき組織の理念を賛同どころか理解すらしていないというのは決定的な欠陥だと言っていた。そしてその様な者が組織の重要な位置に付けば組織崩壊を速める結果にしかならないとも言っていた。
参謀等に求められるモノは、仕えるべき者若しくは属す組織の理念を理解し、されどそれに囚われる事無く思考し、どの様な案であろうと提示する事が出来る者らしい。
故にシャマルが冷静さや冷酷さを持てば自分より優れた参謀になると言ったそうだ≫
ザフィーラからの返答に納得したようにシグナムは頷き、それから苦笑しながら喋りだした。
「まさか天神から個々の役割の何たるか説かれるとはな…………………………。
自身は役割など無視して全てを抱え込まずにはいられぬ気質の持ち主だというのに……………………」
≪まぁその辺りは仕方なかろう。
天神は絶えず備えや思考せずにはいられぬだろうしな。
なにより楽しむことも無く生きていれば、必然的に全てを抱え込んでしまうのは必然だろう≫
「……………そうだな。
それとザフィーラ、礼を言う。
先程のまま気落ちしていたならば、主はやてに気落ちしているのを見抜かれ、無用な気遣いをさせてしまうところだった」
頭こそ下げぬものの、自身の至らぬ箇所を正してくれたことに礼を述べるシグナム。
≪礼には及ばぬが………………………まさかこうもあっさり自身の非を認め、正されたことに礼を述べられる日が来るとはな……………………。
いや…………………………………以前ならば主の身一つ護れれば、他は全て瑣事と思っていた我が言うべき事ではなかろうが……………≫
自嘲と苦笑とも取れる念話にシグナムも同じ感じの声を返した。
「全くだ。
以前ならば主の身一つ以外に護るべき事など無かったというのに…………………気が付けば随分と様変わりしたものだ」
≪だがその変化は素晴らしきものだと思う。
そしてそれを護る為に我等は主の不興を買うのを覚悟で戦っているのだ≫
「そうだな。だがそれも間も無く終わる。
詳細は不明だが、高町なのはとフェイト・テスタロッサ2名の内、最低でも1名のデバイスを強制活動停止することに成功した通信信号は受けている。
ふうぅぅ…………これで蒐集も速まり、主の病状の進行を考えても十分間に合う」
ここ最近極端に遅くなっていた蒐集速度に内心焦っていたシグナムは安堵の溜息を吐きながらそう述べた。
そしてそれにザフィーラも同意しつつ言葉を返す。
≪全て蒐集するまでは気は抜けぬが、一先ずは安心という所か。
………………………ところでシグナム、見事白星…………いや、金星を上げた天神を認めるなり礼を述べる気はあるのか?≫
ザフィーラにしては珍しく、茶化す様にシグナムに問いかける。
それにしかめ面をしながら、やや憮然と答えるシグナム。
「………………………………………………………………天神が主はやてを護るのは当然だ。
一々礼など述べぬ」
≪…………………………よく解らぬが、それはツンデレと言うやつか?≫
「断じて違う」
≪まあどちらであろうと構わぬ。
少なくとも天神を認めているならば、主の心労も減りそしてお喜びになるだろう≫
そう述べて話を切り上げ、ザフィーラはリビングに向かいながらシグナムに告げた。
≪さて、いつまでも主の目を盗むかの様にここで話しこまずにリビングに戻るとしよう≫
「そうだな。些か話し込みすぎた」
ザフィーラの言葉に同意しながらリビングに移動する最中、シグナムはふと先程アリサが話していた内容を思い返して内心溜息を吐いた。
(天神の生い立ちに関心を抱かぬのは兎も角、天神の歪みに気付けなかったのは失態だったな。
…………………まあ怪我が治るまでは出歩きはせぬだろうし、現状では放置しておいても然して問題は無かろう。そして天神の怪我が完治する頃には蒐集も終わり、主はやては御健勝になられているはずだ。そしてその時は…………………………主はやてが悲しまれない為にも少しは天神を気にかけるとするか……………………………)
シグナムとしては極僅かだが速人に意識を振り分けるに値すると認めてそう考えたのだが、もしこの思考がザフィーラに知られればまたツンデレと言われる類の思考を自覚せぬままシグナムはしていた。
(しかし……………天神の生い立ちは主はやての耳に入れる類ではなかろう……………。
恐らく、不幸と言うより不遇、悲惨というよりは凄惨な生い立ちだろう……………)
少なくとも不幸や悲惨な体験をした程度では、速人は今の様な存在には成らないと何と無くだがシグナムは感じていた。
(まあ、私があれこれ言わずとも、天神も態々今主はやての心労の原因になるようなことを言いはしまい。
……………当面の心配は天神の怪我に対する主はやての心配をどうするかだけだな。
天神の傷は致命傷だったはず。それが主はやてに知られれば、まず付きっきりで看病をされるだろうが、その際に見舞いであの二人の魔導師が来ることはなんとしても避けたい)
どうしたものかと思いながらも、シグナムは直ぐに思考することを止めた。
(フ……………今更私が考えた所でどうにもなりはしまい。
……………将なら悠然と構え、出される結果を期待しよう。
…………………………そして結果が芳しくなければ将としての責を果たすとするか)
柔らかな微笑を浮かべながら、何に代えても護るべき主の姿が見えるリビングへとシグナムとザフィーラは入っていった。
――――八神家――――
Interlude out
Interlude
――――ハラオウン家――――
「何と言うか……………………とても子供には思えない…………………………と言うより、怖いくらい感情が見えない子だったけど、いつもあんな感じなのかしら?」
速人が立ち去り、その後直ぐにフェイトがその後を追い、沈黙が降りたリビングでリンディはなのはに尋ねるともなしにそんな事を呟いた。
「少なくともあたしが知っている限りではいつもあんな感じです。
笑ったり怒ったり驚いたりしたのを見たことはないけれど、はやてちゃんが危ない目に遭うとやりすぎなぐらいに相手を攻撃します。
あと、はやてちゃん以外にはほとんど話しかけませんし、はやてちゃん以外に話しかけられても碌に話しもしませんし、話してもすごく冷たい話し方しかしません」
リンディの独り言のような呟きになのははどこか冷めた感じのする声でそう返した。
「あら?それだとアリサさんを助けた理由が解らないのだけど?」
「………………………………あたしはあんまり納得いかないんですけど、とりあえず友達になろうとすると言ってましたし、友達なら助けるものだと思って助けたんだと思います」
「……………………なのはさんが誰かを嫌うなんて珍しいわね」
「………………………………………悪い人じゃないとは思うんです。
だけど……………悪い人じゃないけど平気で悪いことをしようとしているのがあたしにはわからないんです」
「…………………………………」
「優しいのかどうかはわかりませんけど、はやてちゃんを大切にしているというのはわかります。
ただ、どうしてそれを他の人にも出来ないのか……………………自分のためじゃなくてはやてちゃんの為に一生懸命になれるのに…………………………。
自分さえ良ければって考えじゃないのに………………………………あたしよりずっと人の助けになる事が出来るのに……………………………それなのに人のために何もしない。
…………………正直嫌いと言うより「どうして?」って気持ちが強いです」
それを聞き、リンディは少し呆れたような笑みを浮かべるとなのはに話しかけた。
「なのはさん。解らなければまず解るとこから始めるのが、とにかく全力でぶつかって話してみるのが貴女じゃないの?」
「………………………………………………」
「たしかに速人君はなのはさんと仲良くする気は少しも無いでしょうし、常に周囲を警戒しているみたいだから自身の本心を晒さないでしょうし、何より必要でない限り誰かと話す気はまず無いでしょうから会話すら成立しないかもしれないけど、それでも全力でぶつかっていくのが貴女でしょう?」
「…………………………はい…………………………」
「なら明日にでもお見舞いがてらに行くといいわ。
…………っと、ただし……………………」
「ただし?」
聞き返してきたなのはに悪戯っぽい笑みを向けながら言葉を続ける。
「誰の時とは言わないけれど、砲撃や戦闘と書いて「お話」しないようにね?
あんな重傷者にそんなことしたら、非殺傷設定でもあっという間に死んじゃうわよ?」
「はい……………って!あたしはお話しする時にそんなことはしません!
フェイトちゃんの時だってきちんと最初にお話してました!」
「いや……………………あれは間違い無く拳で語るみたいに砲撃で語っていた感じだったぞ……………」
「あたしも友達になろうとしてるのに両手両足バインドして砲撃は無いと思ったよ……………」
自身の弁明に今まで静観していた二人にツッコミを入れられ、慌てて更なる弁明をなのははしだす。
「ご、誤解だよ!砲撃で語ったんじゃ無くて、会話の最中に砲撃があっただけだって!!
それにフェイトちゃんは強いんだからあれくらいしないと勝てないんだからしかたないよ!!」
「……………………微塵も躊躇は見えなかったぞ」
「仕方ないって感じより、むしろ『いまだっ!』って感じがしたな…………………」
「…………………………にゃ、にゃあああぁぁぁぁ…………………………」
「ほらほら、二人ともあんまりなのはさんを苛めないの。
なのはさんもあんまり二人の言うこと真に受けないでもいいのよ?」
奇妙な呻き声を上げて沈黙するなのはを励ますように声をかけるリンディ。
「はい……………………って、最初に話題振ったのはリンディさんじゃないですか!?」
「あら?」
「「あら?」じゃありませんよ…………………………。
うぅ……………………まるで解放詐欺に合った気分…………」
「なのは、何を今更…………………………。
母さんが火種を放って、人がそれを煽るのを楽しむ悪癖があるなんて知ってるだろ?」
「おまけにそれを仲裁して大人ぶるんだよ。
困ったもんさ」
やれやれという感じで溜息交じりに述べるクロノとアルフ。
「あらあら、随分な言われようね。
私はみんなが話題に困らないように提供しているだけだというのに…………………。
理解の無い息子を持って哀しいわ……………………」
「わざとらしく目元を袖で隠しても騙されないからな。
……………全く、母さんにエイミィにリーゼ姉妹に桃子さんにレティさんといい、どうして僕の周りの年上の女性は人をからかわずにいられないんだ…………」
やれやれといった感じで嘆息混じりにそう漏らすクロノ。
そしていつもならそこで愚痴も止まったのであろうが、先程の速人との会話のストレスが原因なのか、それとも単に日頃のストレスが原因なのかは不明だが更に言い募りだした。
「もしかして女性は年を重ねれば重ねるだけ神経が図太くなるのか?そうなのか?そういえばこの前レンジが漏電していて母さんが感電した時、全然平気だったが、鈍いんじゃなくて神経が図太かったから平気だったのか?いや、案外この前風呂上りに体重計に乗って表情を一瞬凍らせていたことから体重が増えたみたいだから、脂肪が絶縁体代わりに身体に流れる電流を遮断しただけか?となると女性は年老いると神経が図太くなって体重が増え―――」
「随分と独り言が長いわね…………………………クロノ」
「―――皺も…………………………………………………………………………」
「あら?どうしたのかしら?まだ独り言の途中だったみたいだけど?」
「……………………………………………………いや……………………………………………………あの………………………………………」
「言いたい事があるなら溜め込まずにどんどん言っていいわよ?」
笑顔で放たれた言葉に「それ以上喋れば黙らせる」と言う声を幻聴かもしれないがクロノは聞いた気がした。
『そうそう。あたしもクロノ君が女性にどんな認識持ってるか知りたいし』
「って!エイミィ!どうしてこの会話に参加しているんだ!?」
『いや、ユーノ君が闇の書について調べ始めたって一応連絡入れておこうかな〜と思って通信入れたんだけど…………………なんかクロノ君が面白いこと言ってるから黙って聞いてたんだよ。
で?「皺も」の続きは何かな?あたし凄〜〜く気になるんだけど?』
「いや…………………………大した事無いから気にしなくて良い…………………………」
「遠慮しないで言っていいのよ?どの道あなたの末路は変わらないんだから?」
『そうそう。いまさら何言ったってクロノ君の末路は変わらないから、この際溜め込んでること全部吐き出したほうがいいよ?』
「待て!末路って何だ!?聞き捨てならないぞ!」
「………………………………………はあぁ、あれだけ乙女にとっての禁句を言っておいて無事に済むと思ってたのかしら?」
『いや〜、聞いてて腹立たしいほど清々しく乙女の地雷踏みまくるんだもの。
ホント腹立たしいほど清々しかったな〜』
「待てエイミィ!何か文法がおかしいぞ!?少し冷静になれ!第一怒るということは肯定しているということだぞ!?
あと中年の母さんが乙女と言うのは厚かましいにも程が―――」
「クロノ、アースラに戻ったら嬲ってしてあげる。覚悟にしておいてね?」
『艦長凄いですね〜。副音声の向こうに隠された主音声がはっきりと解りますよ〜。
あ、それとクロノ君への制裁……………じゃなかった粛清………………………………………もといお仕置きはアースラに戻ってからにしてくださいね?フライングで今しないで下さいよ?あたしも一緒にしたいので』
「解ったわ。そっちは大規模演習場の手配をお願いね」
『了解しました』
そうエイミィは告げ、空間モニターは閉じられた。
そしてそれを見届けたリンディは速人との交換条件で手に入れたスタンガンを手にしながらクロノに告げた。
「さて…………………………………それじゃあこれの調査をするために私は一端アースラに戻る事にするわ。
あとクロノを私刑してくるからちょっと遅くなるからご飯は好きなものを注文して食べてて頂戴ね」
「ちょっと待ってくれ!!断罪と私刑って全然意味が違うんだがどうして一括りに喋れるんだ!?
と言うか客観的事実を述べた事が罪になるなんておかしいと思うんだが!?」
必死に弁明する黒のだったがリンディは全く聞く耳持たず、アースラに一端戻る準備に取り掛かった。
それを少しはなれたところで見ていたなのはとアルフは一人ごちた。
「クロノ君、ますます墓穴掘ってるよ…………………………」
「好きなご飯か〜。そういえばクリスマスとか何とかのチラシに載ってた鳥の丸焼き。あれ見た時から食べたかったんだよな〜。今日頼んでフェイトと食べようっと〜」
なのはは先程の多少鬱な雰囲気は既にすっかり消えたいつも通りの口調で届きもしないツッコミをクロノにし、アルフは昼と晩の食事に想いを馳せていた。
――――ハラオウン家――――
Interlude out
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
「くうぅぅぅ〜〜〜!まさか出来たてのピザがこんなに美味かったなんて驚きだぜ!」
火傷するほどの湯気を立ち上らせるピザを豪快に食べながらヴィータは満面の笑みでそう言った。
それをヴィータが食べているものより以前から焼いているピザの焼き具合を見ながら速人はいつも通りのよく用の無い声で応える。
「気に入ってもらえたならなによりだ。
それとシカゴピザが焼きあがるまであと20分ほどかかる」
「うん?………(咀嚼中)………まだ………(嚥下中)………そんなに………(更に頬張咀嚼中)………かかる………(嚥下中)………のかあ〜………………」
二人前の切り分けられていない円形状のピザを、2分もせずに完食する速度で食べ進めながらヴィータが返事をした。
特に返事を必要としない報告として速人はヴィータに言ったのだが、律儀に返答してきたので次の言葉はヴィータがとりあえず食べ終わるまで待ってから言うことにして、その間ヴィータを眺め続ける速人。
観察や調査といった類の視線ではなく、さりとて好意や興味といった類の視線でもなく、どんな意味の視線かはヴィータには解らなかったが普段は全体の一部としてしか誰かを見ない速人が自分を注視しているのが何となく嬉しく、ヴィータはますます上機嫌にピザを食べ進めた。
そして食べ進める速度を少しも緩めなかった為2分とせずに完食し、一息吐いた時に速人はヴィータに声をかけた。
「一息吐いたみたいなので話をしたいのだが構わないか?」
「すぅぅぅ……はぁぁぁぁ………………、おう、いいぞ。
少し食べてお腹も減っていない程度にはなったしな」
蜜柑ジュースを飲み、軽く深呼吸して速人に返事するヴィータ。
「まずシカゴピザだが多層構造になっているので、調理完了までの時間は少なくとも通常の物の2倍は必要とする。層の数や体積では5倍を超える時間をかけることもある。
それと確認を取るが今回の物は直径約45cmの三層構造なので約25人前はあるがはやて達を呼ばなくて構わないのか?」
暗に「一人で食べ切れるのか?」という問いと「はやて達と一緒に食べなくてもいいのか?」と問う速人。
少なくとも出される筈のピザはワンホールケーキよりも大きく厚さもさして変わらない程あり、食べ応えもカロリーも遥かに有る代物。そしてヴィータの胸下から腰までを空洞化した体積と然して変わらない体積でもある。
これだけ有ればヴィータが満足するほど食べてもはやて達の分は十分に存在する量で、はやて第一主義のヴィータが呼べば間に合うにも拘らず呼ばずに食べようとするのが理解できない速人はヴィータに確認をした。
「はやて達は呼ばなくていいぞ。これはアタシとハヤトの二人で食べるんだから。
それにこれはじいちゃん達にハヤトと食べろってくれた金で買ったんだから、ハヤトと食うのが当然だろ?…………………………まぁ……………じいちゃん達に貰った金だけじゃ足りなくなって速人に少し出してもらいはしたけどな…………………」
「ヴィータがそういうのなら俺はそれで構わない。
それと話は変わるが、俺はある程度傷が治るまでここに滞在するつもりだが、その際にはやてもここに滞在させるつもりだがヴィータの意見を聞きたい」
急に切り替わった話題を振られたヴィータは少し驚いたが直ぐに返事を返した。
「理由は何なんだ?」
「一つ目の理由だが、最近はやての病状が悪化してきたので、清浄な空間で高気圧酸素治療をするためだ。それとここは東洋神秘学的に龍穴と呼ばれる場所で、生命体にとってはその場に存在するだけで活力が満ちてくる場所とされているからだ。
二つ目の理由だが、高気圧酸素治療下ならばその範囲はこの地下研究所兼避難所なので、ここから出せないという理由が成り立ちフェイト・テスタロッサや高町なのはとの接触を絶てる。尚はやてがこちらから招くという提案は、避難所の存在を通常時に知らせることは危険だと述べて納得させる。それが不可能ならば地上に一類感染症の細菌やウィルスを散布し、隔離指定域にしてでも外部からの侵入を阻止する」
物騒極まりない事をさらりと述べる速人。
それを聞いたヴィータは、相変わらず緊急時には手段を選ばないブッ飛んだ速人を頼もしくもやりすぎも困ったもんだという思いで黙って見ていた。
「三つ目の理由だが、八神家は以前複数の盗聴器や盗撮機が仕掛けられていたが一度全て俺が撤去したのだが、最近郵送物に紛れて幾つも届くようになっている。しかも時期は蒐集活動を始めて暫くしてからだ。単純に俺目当てかと思い調べてみたが、俺ではなく八神家の特定人物若しくは八神家全員が目的という結論に達した。
この星の人類圏における重要度で俺以外があれほどの監視を受ける理由は無いと判断されるので、この星以外の知的生命体圏の者の干渉と判断するのが妥当で有り、その際に干渉される可能性が最も高いのは闇の書だ。故にこの監視をしている者は闇の書を知っていると仮定した方がいいだろう。
故にこれから蒐集行為が佳境になる最中、監視が容易な八神家よりも監視が極めて困難なこの地下研究所兼避難所にいるほうが安全と判断した。
以上三つが理由だが疑問点が有るならば述べてくれ」
「あたしははやてとハヤトが揃ってここに居るなら特に文句はねえ。安全面も速人とシャマルがなんかコツコツやってたみたいだから検索魔法とかの心配も無さそうだし。
……………つうか…………………監視されてたって初耳だぞ!?
反対はしねえけどその辺の事きっちり話してもらうぞ!」
隠し事されていたというよりは一人で背負い込んでいたと思って憤慨するヴィータ。
そんなヴィータの主張をあっさり流しながら速人は喋る。
「賛成理由と現実に差異がある可能性を無くす為に賛成理由を聞きたい。
疑問についてはその後に答えようと思うのだが構わないか?」
「…………………………………解った」
不承不承ながらも、その方が早く納得する答えに至れると思って了解するヴィータ。
「え〜と、一つ目の理由については全然反対する気はねえ。むしろ大賛成だ。理由は説明するまでも無え.。
二つ目の理由についてははやてがすずか達に会えないのは寂しいと思うけど、その間ずっとハヤトが居るみたいだからアタシは構わねえと思う。
んで三つ目の理由だけど、たしかにここは安全そうだけど、こういうところって漫画とかじゃどっかからかスパイとか入って来てそうだから結局監視されてると思うんだけど、そこら辺どうなんだ?ま、どっちも変わらないんならこっちの方がはやてが安全そうだからこっちを選んだんだけどな」
言動や行動は若干雑だったりするが思慮は浅くないヴィータ。尤もそれも八神家の面面の重大な事限定で、通常は直情径行視野狭窄気味だが。
そして普段はどうであれ、必要な時に必要な判断を下せるヴィータを速人は高く評価しており、最近ははやてに聞かせるべきでない話の多くは先にヴィータに話し、その後ヴィータの意見を聞いた後にヴィータを除く面面と話す事が多くなっていた。
「一つ目と二つ目の賛成理由の差異は無いと見て構わないだろうな。
そして三つ目の賛成理由だがそれもその通りだ。
此処は侵入や監視が八神家に比べ遥かに困難だが、それでも侵入や監視が不可能というわけではない。
故に此処は八神家より侵入・監視が困難な場所というだけだ。
あと、魔法を使う者ならば封印結界を使用すると思われるのであまり周辺住民の数は意味を成さないが、逆に魔法を使わないこの星の人類が強硬手段に出るならば、情報封鎖の手間が少なく強襲される危険性は上昇する。尤もシャマルが転送魔法を阻害出来ない非魔導師相手ならば直ぐに離脱できると言っている」
「…………………………なんか細かく説明されすぎて解りにくかったけど、ようするにココも監視されてる可能性もあるけど何かあっても逃げれるくらいの時間は稼げるってことでいいんだな?」
「魔法を含まないこの星の4世代先までの文明の者が相手で、尚且つ初撃が此処を瞬時に消し去るほどの戦略兵器を使用しない限りはその認識で間違い無いだろう。
尚、魔導師に封印結界を展開された場合は、半径10m深さ50kmの空洞を掘ってあるので、そこへ封印結界を崩壊させる一撃を放てるようにしてある」
「うっわ。相変わらず石橋を使わず川を埋め立てて渡る慎重さだな。
って言うか、さっきからココが大した事無い様に言ってるけど、実際ココってアタシやシグナムが全力で暴れたらどれくらい耐えられるんだ?
なんか玄関からここに来れる気が全然しねえんだけど………………」
「シグナムが言うには転送魔法を使用せずに地表から一直線に此処を目指したのならば、体力と魔力とカートリッジを考慮せずとも到達まで1200秒は必要らしい。1000メートル以上堆積している土砂と途中の装甲版がかなり厄介らしい。
玄関から隔壁等を突破して侵入してくる際は特殊速乾性フェノール樹脂等で通路を全封鎖及び隔離されるので更に時間がかかるらしい。
尚特殊速乾性フェノール樹脂とはこの間ヴィータとはやてが見ていたアニメのベークライトと同義の物だと思えば間違いない」
「…………………………………………………念の為聞いとくけど、地下にでっかい槍で貼り付けにされた巨人とかロボットのようなでっかい人間がいたりしないか?」
「そんな存在は記憶が確かならば存在しない」
「そうか…………………………まあいてもあんまり驚かねえだろうけど………………。
っとと、話が逸れたな。そんじゃ監視されてたことについて話してもらうぞ。
…………………………あとなんで今まで黙ってたかもな………………………………………って何してんだ?」
「シカゴピザの上層を取り付ける作業をしている」
何時も通り淡淡と言いながら、遠赤外線のみで3000℃まで加熱可能で人体火葬が可能な出力のオーブンの中のピザに干渉する速人。
それが終わるのを見届けてからヴィータは自分との会話を軽んじられたようで不機嫌になりながら文句を言う。
「おい、人が話してんのに勝手にどっか行くなよ。そういうのムカつくぞ」
対して速人はいつも通り淡淡とした声で返事をする。
「気分を害したようなので詫びる。すまなかった」
そう言って頭を下げて詫びようとする速人を見て―――
「―――って………頭動かすな!大怪我してんだろが!!」
慌てて怒鳴り声を上げて止めさせた。
そして頭を下げるのを中断した速人はいつも通り淡淡と説明をする。
「既に処置を済ませたので、詫びる為に頭を動かす程度なら死にはしないので、生命維持を考えて止めたのなら―――」
「―――いいから動かすな!だいたい死なないっつっても傷に良いわけねえのはきまってるんだからな!
いいか!?これから暫くは寝る時と起きる時以外頭動かすなよ!?あと、くしゃみとかせきがでそうになったら気合で我慢しろよ!?」
「善処する」
「返事ははい…………………………って言いてえけど、そう言えるならいつも通り了解とかハヤトは言うから、とりあえずはそれで納得してやるよ。
けど、ハヤトってアタシと……………………って言うか、あたしたちと話してる最中に何か別の事したりしねえのに、何で今回に限ってそんなことしたんだ?」
実はヴィータ達と出逢ってまだ然程日日が経っていない時は今回のようなことは頻繁にしていたが、それぞれから話している相手を軽んじるなと言われ、それ以降しなくなったのだった。
まあ、自分から話しかけて始めた会話で尚且つ八神家の者限定で更に平時と言う条件が付くが、その条件下ならあれ以来一度も会話中に先程のようなことはしなかったのだが、何故今になってそんな事をしたのか気になってヴィータは尋ねてみたのだった。
そしてそれに速人はいつもながら淡淡と答えた。
「先程も説明したが調理の為だ。
それと前提が間違っているぞ。
今回に限ってしたのではなく、今回までしていなかっただけだ。
俺は平時下で自分から家族相手に話しかけた会話中に相手を無視及び軽んじないようにしているだけなので、これに抵触しないならば行動を起こすぞ」
「は?どう見たって無視ブッチギリ……………って…………………………ちょっと待て。
教えられるとなんか負けた感じがしてくやしいから自分で考える」
「分かった」
速人の返事を聞いて思考しだすヴィータ。
(え〜と、さっきハヤトは、平和で、ハヤトから、アタシ達に話しかけた時は、無視ブッチギッたり舐めた真似しねえって言ってた。
だけどさっきあんな事したってことは今は危ねえって事か?)
そう思ってヴィータは周囲を警戒したが、危機が迫っているようには感じられなかった。
(……………ちがうよな…………………………。
ならハヤトから話しかけてなかったってのは………………………………………ねえな。うん。ばっちり速人からアタシに話しかけてた)
少し前の会話を思い返して自信満満にうんうん頷くヴィータ。
(う〜、じゃあなんなんだ?
危なくねえ時にハヤトからアタシに話しかけてるのに、なんで速人はあんなことしたんだ?
…………………………………………………………あ〜〜〜いらいらするぅ〜〜〜〜〜)
理由が判らず徐徐に不機嫌になるヴィータ。
(…………………………あ〜〜〜なんでなんだ〜〜〜?わっかんねえぇ〜〜〜
わかんねえんだからここはスパッとハヤトに聞いて………………………………って、…………………………ダメだダメだダメだ!あの時ハヤトの事を理解してやるって言ったんだ!!
大したことじゃねえならともかく、そうじゃなかったら何が何でもアタシが考えて解ってやんねえと!!)
頭をぶんぶんと振ってもう一度考え直すヴィータ。
(こんな時はどっかで聞いた発想の転換だ!
え〜と、まず実はアタシが知らねえだけでいつのまにかハヤトが危険を潰したとかは………………………………あながちありえねえって言えねえのがハヤトの凄い所だけど、もしそうならアタシに何か一言言ってるはずだからこれは違うな。
うんで次はアタシの思い違いで実はハヤトから話しかけて無いってせんだけど……………………何度思い返してもハヤトからあたしに話しかけてる。うん。間違いねえ。
そんで次は実はアタシがハヤトに実は家族と思われてねえだけ………………って………………………)
そこまで考えたヴィータは急に表情を歪めて凄い速さで頭を左右に振った。
(無え無え無え無え無え!そんなこと無え!!絶対無え!!!)
まるで髪の毛を首の振りだけで引き抜こうとしているかのように首を常識外の速さで左右に振るヴィータ。
それを見ていた速人は一言ヴィータに声をかけた。
「ヴィータ。その速さで頭を左右に振ると鞭打ちや脳震盪を起こすぞ。
それと纏めた髪でジュースの残ったコップを倒し、髪や衣服がジュースで濡れるぞ」
そんな速人の忠告を聞きヴィータはあからさまに安心した顔をして落ち着いた。
(うん、大丈夫だ。
ハヤトはどうでもいい奴にいちいち注意なんかしねえ。特に自分になんも迷惑かからねえなら、目の前で人が撥ねられるって解っててもほっとくぐらいだからな。
つまりアタシはハヤトにとって大切ってことだ。
………………………へへへ……………………………………シグナム達や主以外に思われるって初めてだけど………………………………………悪くねえな)
喜色満面で思考に耽っていたヴィータだったが、凝視と言う程ではないが注視している速人に気付き、慌てて思考の方向を正す。
(っとと、いけねえいけねえ。あやうく何考えてるか忘れるとこだった。
たしかハヤトがアタシを家族と思ってねえってせんも否定されたとこまで考えてたんだったな。
……………え〜っと、それなら残るはハヤトがした事が無視とか舐めた真似じゃねえって思ってるってせんだ。
………………………………………無視でも舐めた真似でもねえって思ってるんなら、アタシを思ってしたって事だよな?)
そこまで考えて漸く納得いく考えに至ったらしく、驚きと納得と呆けたような何とも言えない顔をしながらヴィータは更に考えを進める。
(あ〜〜〜〜ーーーー!つまりハヤトはアタシのためと思って話してる最中にピザの様子見に行ったってわけか!
つまり、アタシがピザすごく楽しみにしてるって言ったから、速人はアタシが速人の話よりピザが大切だと思ってるって思ったからあんなことしたのかー)
態態尋ねて確認するまでも無い程に自身が納得いく答えに至ったヴィータ。
そして自信なんて持っていないが間違っているとも思っていない自分の考えの下に、思考していた時間などまるで無かったかのように話を続けるヴィータ。
「ハヤト、たしかにピザ楽しみだけど、今度から大事な話ししてる時は大事なこと以外しなくていいぞ」
「重要な会話中に要事以外を行わない事については了解するが、重要や要事の解釈に齟齬がある場合が多多在ると予測されるので、齟齬が発覚した場合は又その旨を伝えてくれ」
「なんか相変わらず堅っ苦しい言い方だな〜。素直にはいって言えよ〜ぉ。
……………………ま、ホイホイはいはい言わないのはハヤトの良いトコだと思うけどな」
苦笑いしながらも何と無く嬉しそうにそう言うヴィータ。
そんなヴィータを見ながら速人は脱線した話が元に戻りそうにないのを見てヴィータに注意を促した。
「ヴィータ、監視されていたというということについて話し終えていないが、話はこれで終わりか?」
「そうだったそうだった!それと同じくらい気になること話してたから忘れるトコだったぜ。
そんじゃ黙ってたわけ教えてくれ」
「ヴィータには話していなかったがシャマルとその報告を受けたシグナムと何度か話をし、その結果魔力を動力源としないことから管理局が設置したわけで無いとシグナムとシャマルは結論付けた。
俺が目的のこの星の文明圏内の者ならば特に警戒することでもないと判断したシグナムとシャマルは、他言して心労や警戒をさせるより他言しない方が望ましいとし、状況が変わるまで秘匿しておこうという事になった。
これが理由だ」
「……………………………………つまりシグナムとシャマルとグルだったってわけか……………………」
「そうだ」
あからさまに不機嫌な声で発された台詞にも全く動じず、いつも通り淡淡と肯定する速人。
「……………………ふうぅ……………ま、しゃあねえか。一応三人で一番いい方法考えてやったんだろうし」
「納得してもらえたのならなによりだ。
あとヴィータ、先程ヴィータにとってピザが大事でないとは解ったが、ならば何故大事で無いモノで楽しみになれる?」
「うん?あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ーーーーーーーーーー………………………………………………………………………………………わりぃ、わかんね。つか、たぶん説明出来ねえ。
てか、解ろうとするんじゃなくって感じろ、ってヤツだ」
「そうか」
「まあアタシ達もはやてと遭った時はその辺り全然解んなかったけど、今じゃ毎日楽しく暮せるようになったんだ。
ハヤトも直ぐに楽しいって思うようになるし、楽しいって思えば直ぐに解るって」
「特に根拠が見受けられない言だが、感じれば解るという主張は理解できた。
少なからず有意義な意見だった。礼を言う」
「気にすんな。べつに大した事言ってねえんだから」
「解った。ならばこれで話は終わりとするが構わないか?」
「………………………えらくあっさり流すな。そこは「いや、それでも俺にとっては大事なことだ」とか返して礼言うもんじゃねえのか?」
「それがよければそうするぞ?」
「いや、そうしてほしいわけじゃねえけど…………………………なんかそんなあっさりと礼を引っ込められると大して感謝されてねえような気がして、ムカつくわけじゃねえけどなんていうか……………………だあーーーっ!とにかくなんか納得いかねえんだよ!解れ!感じろ!!気にするな!!!」
「三つとも困難なので了承しかねる。
だが礼を直ぐに取りやめた理由については説明可能なので説明するが、それは単に礼とは俺にとって自分の主張を他者に押し付けるのではなく自身の感謝の意を他者に示すというものだからだ。
俺は礼の対象を不快にさせるならば礼を述べる気は無い。よって俺が礼を述べることでヴィータが不快になるならば礼を述べる事も無いと判断したので即座に引き下がっただけだ」
「……………………………へへ………………………そうか………………………アタシの為にそうしたんなら文句は無え。
…………………………けど、なんかハヤトは頼れる兄貴分とか手のかかる弟分とかコロコロ感じが変わるな」
「手のかかる弟分と言うのは理解出来るが、頼れる兄貴分と言うのは何処を如何解釈すればそうなるのだ?」
「手のかかる部分が解って頼れる部分が解らないのが不思議だけど、まハヤトらしいってことで納得するとして、頼れる部分ってのは色々あるけど、一番の理由は出来る事と出来ねえことを解ってるトコだぜ」
まるで自分の事のように自慢気に言うヴィータに表情は変わらぬものの、どことなく疑問符を浮かべているような雰囲気で速人は尋ねる。
「自身の身の丈を知るのは当然のことだと思うが?」
「当然だけどそれが出来るヤツは少ねえんだよ。
アタシやシグナム達だって騎士の誇りってヤツで上手く出来てねえんだし、出来る事を出来ると言って出来ねえ事を出来ねえって言えんのはそれほど難しいんだぜ?
それにハヤトは出来ねえことは出来るようになろうとしてるからすごく頼れるんだ」
「必要な事が実行不可能ならば、自身でそれを可能とするか他者に依ってそれを可能とするようにすることは当然だと思うが?」
「だ〜か〜ら〜、普通はそれが出来ねえからハヤトはすごいんだよ。
出来ねえことを認めるのは悔しいし、頑張るのはキツイし、それでも出来るか解んないのは恐いし、それなら諦める方がてっとり早いから普通はそうするんだよ」
「その話を聞く限りでは自身の優先順位を切り替えられる者の方が労力を払わずに済むので優れているように思うが?」
「いや……………そう言われるともう何にも言えねえんだけどよ…………………。
まあ、とりあえずハヤトはいつでも落ち着いて全力投球だから頼れるんだよ。いいからそれで納得しろ」
「納得は出来ないが引き下がろう」
「………納得してないんなら引き下がんなよ………」
苦笑気味にそう返すヴィータに何時も通り淡淡と返す速人。
「平行線になりそうなので、次の機会に進展がありそうならばその時に話すことにしたので引き下がっただけだ。
それとピザの調理時間が終わるので話を切り上げるには頃合だと思ったのだが、ヴィータがピザを炭化させてまで話したいというならばそれでも構わないが」
「あ、そうだったそうだった!出来上がったんなら早く食べようぜ!」
「了解した。
それと飲み物も追加したほうがいいか?」
「あ、今度は炭酸レモンにしてくれ。キンキンに冷えてちょっと酸っぱいヤツでな」
「了解した」
そう一言告げ、ヴィータの前のコップを持って速人はピザとジュースの用意をすべく台所へと歩き出した。
――― 30分後 ―――
「げふっ……………ハヤト……………………あとどれくらい残ってるんだ?」
「約45%残っている」
「な……………なかなか食べごたえあるな…………………………。ケーキならこれくらいわけ無えのに………………………」
「ケーキとピザでは質量や圧縮率や膨張率が違う。
先に述べたがそれは約25人前ある。
食事と菓子の1人前の解釈には差が在り、食事の1人前は菓子ならば3〜5人前に相当する」
「……………………………………ってことはこのピザはケーキでいえば100人分くらいはあるって事か……………………………………」
形を見てケーキの感覚で食べられると勘違いしてしまい、速人があまり食べないといっていたが自分だけでも食べきれると思っていたヴィータだったが、ケーキより遥かに腹持ちし且つ口直しに既に1リットル以上のレスカを飲み、既に限界に近かった。
ただ、切り分ける時以外ピザはオーブンで熱を保たれており、更に速人が気を利かせてヴィータが食べ進める毎に香草等を乗せて軽く焼いているので、熱いまま美味しく飽きずに食べ進められていた。
が、それでも消化速度と胃の内容量の限界を覆す効果は無かった。
既に美味しく食べられる限界一杯まで食べ、これ以上食べると吐気や苦痛を感じるほどの満腹感であるにも拘らずヴィータは尚食べようとしていた。
「ハヤト………………………………………おかわりだ」
半眼で若干震える声で皿を差し出すヴィータ。
「嘔吐しそうなので食事を終えるのを勧める。
ヴィータ達の構造がどうなっているかは知り得ないが、ヒトならば嘔吐するか未消化のまま胃を通過するか膨張した胃により周辺血管を圧迫し血流障害を起こすか胃が破裂するかのどれかだ。
ヒトでないと言ってもその構造は然してヒトと大差ないとシャマルが言っていたので、俺の食事を終了することの勧めは強ち判断を間違えていないと思うがどうだ?」
さり気無く食事中に話す様な内容でない事を喋ったり、さらっとヒトで無いと言ったりしているが、食事中に不適切な話をされても今のヴィータでは食欲の変化は皆無に近く気にしていなかった。そしてヒトでないという発言にたいしては、決して自分がヒトに劣っていると思っていないヴィータにとっては馬鹿にされたわけでも差別されたわけでもく、極普通に髪の色の違いを指摘されるように気負わず述べられた速人の言葉に特に思う事は無かった。
そんなわけであまり刺激の無い言葉をかけられたヴィータは気の無い返事で返した。
「あーー、その通りなんだけどよー、せっかくハヤトと二人で食べようって買ったのに残すのって勿体無えし悔しいから限界まで食う………………………」
「その限界にもう到達しているのではないかと言っているんだが」
「……………………へっ……………………まだまだだぜ…………………………。
まだアタシは食べられる…………………………………ベルカの騎士に負けは無え………………………」
「何を以って負けとしているかは解らないが、冷凍保存して後日食べるという選択もあるぞ?
細胞が活動している・フリージングチルドシステムを採用しているので従来の冷風を吹き付けて冷凍する方式と違い組成組織の破損が減少しているので味の変化も少ないぞ」
「…………………………とにかく限界まで食う…………………………。
それでも駄目だったら後頼む…………………………」
引くに引けない意地か矜持があるのか、弱弱しい声ながらも頑として譲らないヴィータ。
「どうなるかという推測を理解し、尚するというなら止めはしない。
身体異常が起きた場合は然るべき処置を施しシャマルに治療を頼むので存分に挑むといい」
「……………………………………大丈夫だ………………………………………ベルカの騎士に負けは無え……………………………………」
そう言ってヴィータは速人をオーブンへと送り出した。
――― 更に30分後 ―――
「スゥッハァァスゥッハァァスゥッハァァスゥッハァァスゥッハァァ」
細く速い呼吸を連続させながらその身を苛む嘔吐感をヴィータは抑え込んでいた。
「約19人分食べたのか。
これも身体機能が高いといっていいのかは図りかねるが、ヴィータの体躯から考えれば普通と言う範疇から外れた結果だというのは間違いないな」
フォローしているのか感嘆しているのか実に微妙な発言する速人。
ただ、いつもは疑問と用事以外はあまり話さない速人にしては珍しいことだった。
しかしそれも言葉をかけられたヴィータにとっては不服だったのか、まだ食べられるとことを示そうと口を開き発声しかける。が、喋ろうとした途端嘔吐しそうになり、荒い息を吐きながらそれを中断した。
「まだ食べるつもりのようだが、腕を動かす以前に呼吸を乱すだけでも嘔吐しかねない今の状態ではもう食べられないと思うので冷凍保存する」
そう言って冷凍保存しようとする速人をヴィータは胡乱な眼差しで何とか引き止めた。
どうやら首と背の角度や腹の曲げ具合だけでなく、迂闊に筋肉を動かして血流を乱すと吐き戻しかねないらしく、比較的影響の少ない眼筋を動かしたらしかった。
「引き止めたところでこれ以上食べるには暫く消化する為の時間が要るので直ぐには食べられないと思うぞ。
何故ヴィータがそこまでして残さずに食べきろうとしているのか解らないが、動くことすら儘ならないのならば食事は行えないので余った料理は保存するべきだと思うが?」
≪だめだ…………………………………せっかくハヤトが怪我してんのに一緒に買ってくれて少しだけど一緒に食べたんだ…………………………………こればっかりは残せねえ…………………………≫
喋る事が難しいので念話に切り替えて速人に語りかけるヴィータ。
「怪我したのは俺の落ち度で、怪我したまま買い物をしたのは俺の判断に因るものだ。そしてヴィータと共に食べることは日常的なことで取り立てて理由にならないと思うが?」
≪………………………………………初めてハヤトと二人でだけで買い物したんだ。変なケチ残したく無えんだよ………………≫
「何を指してケチといっているかは解らないが、先程購入し今調理した料理を残すのは避けたいというわけだな?」
≪そうだ≫
「なら残りは俺が食べるのでそこで休んでいてくれ」
≪って、おい!食いすぎたら血圧上がって危険だからってあんま食わなかったんだろ!
あれ以上食って大丈夫なのかよ!≫
「今のヴィータよりは食べる事に因る身体への害は無いだろう」
尤も食べた事に因る身体への害は十分に在るが、あえてそれを言わない速人。
≪……………………分かった。なら……………あと……………まかせた……………≫
そう念話で語りかけたら体勢を全く崩さずに、睡眠と気絶の中間と言える感じでヴィータは意識を手放した。
そしてそんなヴィータを見届けた速人はミキサーを取り出し軽く洗い、そこに幾つかの冷凍された果物を入れその後オーブンに向かい5人前程はあるシカゴピザを取り出しそれもミキサーに放り込み攪拌した。
静音設計なので殆ど音を立てずに直ぐにペースト状にピザと果物は混ぜ合わさった。
咀嚼する手間を省いた速人は一気にそれを啜って平らげた。
その後5分程で目が覚めたヴィータは既にピザがなくなっていることで驚き、どうやって食べたのか尋ね、その方法を聞き酷く機嫌を損ねた。尤も、あまり顎を動かしたりして頭部の血圧を上げるのを防ぐ為と速人が理由を説明すると一応納得はした。
そしてある程度ヴィータが落ち着いたらはやて達に此処に来る旨を伝え、はやてが到着するまでの間に速人はヴィータに昨日なのはのデバイスから得た情報とこれから起こり得るかもしれない事とその対応案を伝えた。
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
「よっし、それじゃあ当分の間うちもここに泊まって速人はんの看病するって事で決まりやな!」
「はやて、静養するための滞在で看病するなど、目的を見失っているぞ」
気合を入れて発したはやての一言にいつも通り淡淡と冷静な意見を述べる速人。
「見失ってなんておらへんで?うちがここに泊る目的は速人はんの看病のためで、養生するんはついでや、ついで」
「はやて、改めて言うが、はやての病状は俺の怪我よりも致命的なモノだ。
俺の怪我は2週間程で治るがはやては徐徐に衰弱しており、しかもその病因は俺が調査した結果現代西洋医学では説明不可能だった。一応東洋医学の見地では気脈を侵食されていると判断したが、治療方法は龍脈や龍穴に身を置くか自己治癒に委ねるという結論で、どちらも病状進行阻止を越えた効果は期待出来ない。
少少の運動ならば構わないが、看病のように身体に負担をかける行為を極力控えなければ容易く病状は進行し、そして体調が悪化して程無くして死に至るだろう。
再三告げるがはやての病は死に至る病だ。それも現代医学では治療不可能で病状進行阻止すら儘なら無い」
はっきりと治す術も無く死に至る病を患っていると告げる速人。
それを死の実感こそ伴わないが死の恐怖という重圧を感じながら………………それでもいつも通りの笑顔ではやては答えを返した。
「ほんとズバズバきついこと言うな〜。普通はそういうんは伏せとくモンやと思うんやけど?」
「3日も経たずに対応の変化から隠している事実に思い至ると判断したので、現状報告を隠蔽する事に由る精神安定を図るという案はさして効果を成さないと判断した。
よって即座に現状報告を行い、現状を認識させ即座に適切な治療をはやてが受けるように勧めた方が適切と判断したので告げた」
「隠し事したくないとかじゃなくて、それが一番やからってのがまた速人はんらしいな。
………………………てか、うちが世を儚んで自殺しようとしたりするとかいう可能性は考えんかったんか?」
「はやての命はヴィータ達の存在を繋ぎ止める楔でもある。そのはやてが死ねばヴィータ達は何処かに移り、後に残るのは俺だけだ。
それを重重承知ではやてが自害する可能性は、洗脳を行うか記憶障害にならない限り零に限り無く近いだろう」
「……………………うれしいなぁ〜、出逢った頃なら【自殺しようとするなら拘束する】とか言うた筈やのに、全部とはいかんでもうちの想いもきちんと解ってくれとる…………」
速人の変化が嬉しく、少なからず感動しているはやてに、相変わらず冷淡な速人の意見が浴びせられる。
「俺の他者への理解は推測と仮定と検証の積み重ねで、一般的な他者に何かしらの想いを抱いての理解とは真逆だ。
故に俺が誰かを僅かでも想っていると思わない方が懸命だ」
「そんなことはあらへんやろ。だって速人はんは自分では気付かんやろけど、最近どんどん優しゅうなっとるんやから。
なんも想っとらん相手に優しくなんてせんやろ?」
「俺が優しいという前提を問い質したいが、これまで通り理解不能の答えが返ってくると予測できるので省略する。が、最後の言葉は恒常的に無節操に優しさを振りまくはやてに言われても理解も納得も出来ない」
「いや…………そう言われると返す言葉もないんやけど…………」
速人からの指摘を受け、我が身を振り返れば確かにただ危険な目に遭っていると聞いた見ず知らずの者を助けてもらおうとしたりしたことが何度か有り、わりと他人任せな優しさも有るが速人の言う通りで、そんな自分に言われても理解も納得も出来ないだろうと素直に認めるはやて。
そして若干会話が途切れた時速人がはやてに唐突にこれからの事を告げた。
「とりあえずこの話はこれで終えるとして、はやて、これから少なくとも10日は此処で過ごしてもらうぞ。
10日で八神家でも高気圧酸素治療が行えるようにするが、あまり家を改造してほしくないならば八神家の敷地を強化ガラス等で囲うようにするという案もある。どちらかを選択してくれ」
「別に家の原型がきちんと残るんなら改造して文句は言わんよ。
……………そやけど速人はんが実行するのを前提に尋ねるなんて珍しいなぁ〜。
いつもならしっかり話し合った後に決めるとこやのにな」
「議論すればはやてが要らぬ遠慮をする可能性があり、議論が長引く可能性があるので最初から実行を前提にしたほうが早く済むと思い今回は実行を前提に尋ねた」
「もしかしてうちって見透かされとる?」
「単に現在までのはやての行動体系から類推しただけだ」
「それができるだけでも十分見透かされとる気がするんやけど………………まあええわ。
それよりシグナム達が全員家に泊まり込みの道具取り戻っとるうちにどうしても気になったから聞かせてもらうんやけど、……………………………………速人はんが怪我したのってうちに隠れてなんかしとる事が関係しとるんか?」
先程の温和な雰囲気が一転して真面目な顔をして質問と詰問の中間のような感じで速人に話しかけるはやて。
そしてそれに何時も通り淡淡と答える速人。
「間接的には関係があるが直接的には関係が無い。
今回俺がした行動はヴィータ達が隠れてしていることとはまるで違う。
全ては明かさないがアリサを確保する際にヴィータ達の支援に成り得る可能性が有る事を俺は行った。
だが俺が負傷したのはヴィータ達の支援をしている時ではなく、アリサを確保している最中だ。
故にはやてが気にやむ必要は無い。尤も拡大解釈をすればヴィータ達の支援をしている最中と括る事も可能だが、その拡大解釈を許すならばヴィータ達の目的が完遂されるその時まで俺の行動全てが支援に該当する事になる」
たしかに今回速人は蒐集をしていたわけではないので書の頁を1頁も埋めておらず、蒐集作業には直接関係しておらず、怪我をしたのはレアスキルの使用の条件を満たす為となのは達に言訳をする為であったが、怪我を負ったのはたしかにアリサを確保している最中であったのでヴィータ達を支援している最中ではなくその準備段階だったので辛うじて嘘にはなっていない。
尤も、嘘を吐かない速人が黙秘する選択肢以外で使う【事実を誤解、若しくは意識しないように話す】という虚言や詐欺一歩手前の話し方をしている事ははやても十分承知していた。
しかし隠しているモノどころか何をしているのかや何が目的なのかも殆ど解らない現状では、どれだけ速人を問い質しても決して隠している情報は聞きだせないし思い至る事も出来ないと思い、素直にはやては速人を問い質すのを止めた。
「はあぁぁぁ……………………速人はんが隠す気でいるんならうちが何やっても無駄やろからこれ以上は聞かん。
まあそれに全部終わったら話してくれるんやろし、一人で抱え込まんでシグナム達ときちんと話して協力してるみたいやしな」
「基本的に終われば即座にヴィータ達と揃って話すつもりだ。
あと協力してると言ったが、俺は協力を受けている立場だ。一括りにしてはヴィータ・ザフィーラ・シグナム・シャマルが不快と感じかねないので、可能ならばその発言は控えてくれ」
「……………それってシグナム達が中心になってやってるってことなん?」
「そういうことだ。が、目的及び行動方針等に賛同はしているので責は等しく受ける。
それとその行動方針は誉と称えられるようなモノではないが、俺と違いヴィータ達は苦難と言うべき時に長く相対しているはずだ。誉めずに責めるとしても、意を汲んで受け入れてやってほしいと思っている」
「…………………………うちに隠れて何かしとるんは嫌やけど…………………………それでもこんなに優しい言葉を言うてくれるんは……………………………………嬉しいなあ」
何時も通り無表情で瞳に何も見出せない儘淡淡と述べられた速人のその言葉を聞き、驚くよりも嬉しそうに破顔するはやて。
だが速人の変化を喜び、しかしどこか沈んだ気持ちではやては今までを振り返った。
はやてと速人の二人だけで過ごした約半年間。最初は常識を知っていてもまるでそれに倣わず非常識な行動が多多目立ったが、3〜4ヶ月程過ごして何とかある程度の一般常識に倣うようになったが、それ以外は殆ど変化が無く、シグナム達が現れるまでの間、特に変わらない日日は幸せだったが、はやては自分が速人に何か出来ているという実感が何一つ無くて不安だった。
はやてが自分の誕生日に現われたシグナム達が家族になった時も、速人は警護関係に力を入れる以外は殆ど変化が無く、はやては自分以外と関わっても速人は特に変化が現れない速人を見、速人を変える事が出来るのか不安だった。
目に見える変化が起きたのは10月末のある夜、はやてに伏せて蒐集をするとはやてを除く八神家全員で決めた時。はやては何かが行われたとは判っても何が行われていたかまでは解らなかったが、速人に尋ねた時自分を除く者以外と何かをしようとしていると思い、自分に伏せて決められた事柄が決して誉められる類でない事は解っていたが、それでも初めて速人が誰かと協力して何かに立ち向かっているのかもしれないと思い、厭な予感を振り払って追及しなかった。
更に変化が起きたのは11月の中旬前、速人とシグナムが初めて速人の地下研究所で戦闘訓練をした日。ヴィータの危険な問いを速人が答え、二人の距離が殆どヴィータからではあるがそれでもたしかに縮まっており、はやては速人とヴィータが更に仲良くなってのが嬉しく、そしてそれ以上に理由は分からないが速人が少しでも自分から誰かに近づいてくれたのが嬉しかった。ただはやてはそのことに自分が関与しているようにはとても思えず、自分が速人に何か出来ているかサッパリ分からず不安だった。
そして昨日、アリサが拉致された日。速人が理に沿わず利に成らず意が解せぬ行為をした事を、今日はやてはアリサから大まかにだが聞き、速人の歪さを知って胸が痛かったが、それでも自分達やアリサを大切に思ってくれているのがアリサの口からだが述べられた事が嬉しかった。ただはやては速人の歪みに全く気付いていなかったと知り、自分が速人の力になる以前に速人を知りもしていなかった事が惨めだった。
(……………………いつだって速人はんの変化を知る時は何かが終わった後。
うちはその何かに関わっとらんで、速人はんはうち以外の誰かのおかげで変わっていく……………………。
速人はんが自分の求めとるモンに近づくんは素直に嬉しいんやけど…………………………………うちは速人はんに何かしてあげれたんやろか…………………………………)
速人がその問いを聞けば即座にはやての悩みを消し去るような返答をするのだが、嘘を言わない速人が明言しなかったり沈黙で返したらと思うと、はやてはどうしようもなく恐くて速人に聞けなかった。
そんな風に見た目は嬉しそうに破顔しながらも内心相当鬱になりかけているはやての心情を知ってか知らずか、はやてがこれ以上鬱になるのを止めるような話し方をする速人。
「特に質問も無ければこの話は終え、これからの事を確認するが構わないか?」
「あ、う、うん」
「では現状確認からだが、現在までのはやてのカルテと先程の検査結果を照合し考慮した結果、医療技術の革新が無ければ1年以内に死亡すると予測した。尚これは脳髄を培養液に浸しての延命措置を考慮しておらず、はやてもこれを望んでおらず実行はしない。
この話で質問は有るか?」
「特にあらへん」
あっさりと死の宣告した速人に倣うようにあっさりと返すはやて
そして特に質問もされなかったため、まるでただ挨拶を告げただけの様な自然さで再び確認を行う速人とそれを聞くはやて。
「病因も治療法も不明だが、多くの病状や怪我は新陳代謝の活性化で快復が速まる。
はやての病状が安定していたから新陳代謝が活発だったのか、それともはやての新陳代謝が活発だったので病状が安定したいたのか、若しくはそれと無関係なのかは不明だが、新陳代謝の活性化が病状進行に直結する類でないと判断した。
よって高気圧酸素の中で生活し、新陳代謝を活性化させる為に現在はやては此処に居り、八神家は現在改造中だ。
尚建築初期の建築材が今回完全に無くなるので改築ではなく改造と言っている。
この話に質問はあるか?」
「改造や改築は特にあらへんけど…………………………さっきは疑問に思わへんかったけど、なんか今までと違う治療するんなら石田先生とかに聞かんでええん?」
「以前俺が指揮を執っていた大脳生理学及び神経内科学の関係性についての臨床研究の内容及び結果を参考に渡し、その上ではやての担当医及び病院側からは許可は得ている」
「い……………一体いつの間に…………………………。
……………あと、たしか速人はんって医師免許持っててもうちみたいな病気は専門外って言うてへんかった?」
「言っていたがその後に研究をしただけだ」
「はは……………ほんまでたらめやな…………………………。
まぁ、そやけど石田先生を無視した形にならんいうんは一安心やな」
今に至るまで自分によくしてくれている石田医師を蔑ろにした結果になっていなく手安心しているはやて。
だが実際のところ石田医師は兎も角、病院側にははやてや石田医師の与り知らぬところで相当な圧力をかけて強引に許可を得ている速人だった。
そして自分が病院の経営権を買収するという力技で事を進めたことなどおくびにも出さず話を続ける速人
「八神家で高気圧酸素治療を行えるようにした後、診察も兼ね見舞いに訪れると言っていた。何か話があるならその時にすればいい」
「あ、そうなん?そやったらそん時ケーキでも作っておもてなし……………ってのはやめてお茶請けの田楽とか甘い玉子焼きとかにします。はい」
睨まれたわけでも無言の圧力を感じたわけでもないが、速人が何をしているのかを思い出し、自分の軽率さを恥じる様に言葉が尻すぼみになるはやて。
「自重してくれて何より。
話を戻すが、現在治療と八神家改造中の為はやては此処に居る。
そしてこれからの事だが、八神家の改造が終わるまではこの施設内に常時滞在する事と、病状を悪化させると思われる行動と家族以外の者にこの場所を知られる事態及びその可能性を多分に含んだ行動を行わない、この3点以外に行動制限を敷かない。
何か質問はあるか?」
「2つ目までは納得できるんやけど、何でこの場所のこと教えたら駄目なん?
べつにすずかちゃん達がここに来ても構わん思うんやけど?」
「避難所の存在と場所を把握されるだけでも著しく安全性を欠くが、内部情報まで把握されると安全性を欠くというよりも危険性が高くなる。
よって現在家族以外にここの存在を知らせる事は拒否する」
「……………いや……………やっぱりよう理由が解らんのやけど?」
「避難所の場所が知られれば移動経路を制圧され、内部情報を把握されれば的確な攻略が行われる可能性が発生する。
この2点が主な理由だ」
速人の言葉を聞き、少し考えたあともう一度尋ねるはやて。
「言ってることはその通りと思うんやけど……………………すずかちゃん達はそんな真似なんてせえへんし、ここのコトを喋らんといてって言えば誰かに喋らんから心配しすぎやと思うんやけど?」
はやてとしてはすずか達が軽軽しく他人が秘密にしておきたいコトを喋る者達ではないと信用しており、ましてや攻撃を仕掛けてくるなど考えられず、速人の心配は杞憂に思えたので意見してみた。
が、速人から返ってきた言葉は、すずか達を信用しているはやてより微塵も信用していないにも拘らずすずか達をはやて以上に把握していることが窺える答えだった。
「高町なのはとフェイト・テスタロッサは法を乱す者の主義主張を一切聞き入れずに制圧する類の者だと判断している。
そういう類の者が秘匿している情報は、秘匿情報の関係者を容疑者にすれば大半は容易に聞きだせる。又、自らを絶対的な正義と認識している者はそれに僅かでも外れる者に対して何処までも傲慢且つ高圧的になれる。
故に己が正義を絶対と認識している者に晒す情報は微塵も存在しない。特に高町なのはは己が主義主張から外れた者の存在を赦しておく存在ではなく、自らの主義主張で相手の主義主張を侵し尽くすことを正義とする存在だと俺は判断している。
尚、アリサと月村すずかの両名は自ら何らかの情報を秘匿しているとは告げぬだろうが、情報を秘匿していると判断された際、月村すずかは自身と深い交友関係にある者に説得されれば秘匿情報を提示すると予測されるが、アリサは自身が直接見聞きして判断を下すまでは情報を秘匿し続けると判断しているので、どうしてもこの施設内に招くというならばアリサのみにしてくれ」
四人を信用していない速人が四人を信用しているはやてより遥かに深い理解を示していたことにはやてはかなり驚きながらも何とか返事をする。
「相変わらずめちゃくちゃ鋭い観察力しとるみたいやけど……………………なんか凄まじく後ろめたいコトしとるみたいに聞こえるんは気のせいやろか?」
「何一つ後ろめたいと感じる事を俺はしていないが、ここで行っている研究内容は100人程度殺害や拷問してでも入手したいと思う者が存在するだろう内容のモノも在る。
はやてがこの場所を知っても危険に晒されぬよう対策はしてあり、更にヴィータ達がその安全を確保するが、それ以外の者がこの場所を知れば危険は常に付き纏う。
故にアリサをこの場に招くのは控えた方がいいだろう」
今まで凄い秘密基地程度の認識だった物が、実は知ってるだけで命が危険に晒されるかもしれない物だったということを知って驚くはやて。
「…………………………………忘れとったけど何処ぞの国の国家予算ぐらいのお金をここで研究したモンで手に入れたんやっけ……………………
うん………………………なんか色々と釈然とせんところもあるけどとりあえずそれで納得するわ。無茶言うてすずかちゃん達を危険に巻き込むわけにもいかんし。
………………アリサちゃんにはお見舞い行けんからシグナム達に作っといたお菓子持ってってもらうついでに事情説明してもらうとするわ」
「納得してもらえ何よりだ。
とりあえずこれではやての現状確認とこれからのことについては終了だ。
他に疑問に思うことがあるならば質問してくれ」
と、速人が言い終えると同時に一番の大事と言わんばかりの眼差しで速人に問いかけてくるはやて。
「速人はんの怪我をシャマルに治してもらったらとか、この施設の中どないふうになっとるんとか、速人はんの頭になんか電極みたいのが差さっとるんやけどとか、聞きたいこと色々あるんやけど……………………………25日には八神家に居れるん?」
はやてとしては去年大したお祝いが出来なかったので来年には盛大に祝うと言っていたイベントを、治療の為ならやむをえないとは言え殺風景なこの施設で祝う事はかなり抵抗が強いらしく、是が非でも八神家で一緒に祝いたいという想いが滲み出るというより溢れんばかりに瞳に籠められていた。
そんな想いが籠められた瞳を何時も通り淡淡と視界に納めながら答える速人。
「遅くとも24日までに治療は一段楽する予定だ。その後特に異常が無ければ遅くとも25日11:00までには八神家に到着予定だ。
それ以外の3点の疑問についてだが、1つ目のシャマルに治してもらうのを拒否している最大の理由は自身を対象にした臨床実験を行いたいからで、アリサに怪我の程度を知られているのを考慮して魔法で治療しないのは理由の一つでしかない。2つ目のこの施設の中の情報は後で携帯端末に情報を入力して渡すのでそれを参考にするといい。3つ目の俺の頭に差しているのは電極みたいではなく電極で、電流を流し細胞を活性化させている」
律儀にはやての疑問全部に答えた速人を苦笑しながらはやては見ていたが、とりあえず25日の夕方前には戻ってくると知り、一つ大きな安堵を吐きながら話し出した。
「きちんと25日の夕方までに帰ってこれるんなら構わんよ、うん。
……………あと、どうせバレとるやろから言うてまうけど、25日はクリスマスと速人はんの誕生日やから絶対にすっぽかさんでな?
去年はろくに準備も出来んかったからこじんまりしたお祝いしかできんかったけど、今年は去年に言うた通り普通の4倍お祝いするつもりやから楽しみにしててな?」
「鬱状態でないのは結構だが、あまり身体に負担をかけぬように」
はしゃぎがちに捲し立てる様に話すはやてに釘を刺す速人。
そして釘を刺されたはやては痛いトコを突かれたとばかりに乾いた笑みを浮かべながら話を続ける。
「ま、まあ少しくらいならええやろ?去年からの約束やし、それに来年は多分出来へんやろし」
特に悲壮な表情なども浮かべず何気無く自分の命が残り短いことをさらりと言うはやて。
そしてそれに特に何も感じずに何時も通り淡淡と言葉を返す速人。
「医療技術の躍進が起こらなければ高確率で1年以内に死亡するだろうが、クローン技術で培養した肉体に脳髄を移植、誘導多能性幹細胞や胚性幹細胞で不良部分を再構築する。若しくは身体の大半を人工物での代替。そういう事が実現できる可能性もある。
思慮を欠いた行動はその可能性を削いでいくので控えてくれ」
叱るわけでも諭すわけでもなく、徒何時も通り淡淡と事実のみを告げる速人。
しかし常に楽観的な意見を言わず、冷徹且つ厳正な予測でしか先のことを話さない速人のその言葉は、はやてにとってはとても心強い言葉だった
「……………うん……………………嘘も楽観的な事も言わん速人はんが、可能性があるって言うと…………………………………なんかほんとに何とかなりそうな気がするわ。
……………………うん。ならヤケっぱちになんてならんで精一杯足掻きまくるわ!」
「精神的に充溢していれば病状の悪化を抑えられる可能性が高いのでそうしてくれ」
「いやそこは「なら俺も全力を尽くす!」とか言うとこやと思うんやけど?」
肩を少しこけさせながら話すはやてに相も変わらず何時も通り淡淡と答えを返す速人。
「はやての身体及び精神状態に関係無く全力で事に挑んでいるので、先程の場面ではあの発言で正しいと判断したのだが不適切だったか?」
本人の自覚無しに嬉しくもかなり恥ずかしい事をサラリと述べられ、かなり動揺しながらも何とか返事をする赤面気味のはやて。
「あ………………いや………………うん…………………そういうことやったらうちが言うたような返事の仕方せんのも間違いや無いと思うわ。うん。
……………………ただ、もちょっと気ぃ使ってくれた返事してくれたら100点満点やったけどな。うん」
「具体的にはどの様な言葉が望ましかったか知りたいので答えてくれないか?」
「あ〜…………………社交辞令ならさっきうちが言うたみたいに自分も全力を尽くすでいいと思うけど………………………社交辞令やないんなら速人はんが思てることとかこれからすることとかをそのまんま言えばいいと思うんよ」
「理解した。次回以降の参考に活用させてもらう」
「うん、鵜呑みにせんで自分で考えて使ういうんは100点満点やで」
「不満が無いならば何よりだ」
それで会話は終わったらしく暫く沈黙が降りる。
・
・
・
はやても速人も特に何も喋らず、速人は瞼を閉じ瞑想を行っているかの如く静かにベッドの淵に座り、はやては何と無く速人の正面の位置から車椅子を動かし速人のの座るベッドの淵に乗り移り何をするでも呆としていた。
・
・
・
それから更に双方が苦に感じない沈黙がそれなりの時間流れたが、その雰囲気は暖かいものではなく、速人の瞑想をしているような雰囲気の為、まるで禊ぎをしているような雰囲気だった。
(…………………………なんかこんな雰囲気久しぶりやなー………………………。
最近はシグナム達のおかげで暖かい雰囲気やったしなー……………いや、それが厭なわけやないんやけど、なんかちょっと前から暖かいんやけどやたらみんなと距離感じとったからなー…………………………。
暖かくはないんやけど、この凄く近くにいる感じがするのがええな〜)
相変わらず速人は何をするでもなく目を瞑って瞑想をしているような感じで、対してはやてはベッドの淵から投げ出された足を振り子のように動かそうとしていたが上手くいかず、代わりとばかりに速人の膝を枕代わりに寝転んだ。
と、そこで漸く速人は瞼を開きはやてに話しかけた。
「仮眠するのならばそこに枕と掛け布団があるので使うといい。
俺の脚を枕代わりにしてその格好で眠りに就くと体に負担がかかるぞ」
「べつに寝はせんよ。ただ何と無くこうしていたいだけなんや。
体壊さんように気い使うなら構わんやろ?」
「ならば特に問題は無い」
それきり又会話は途絶え、場に先程と同じ雰囲気が満ちた。
そしてその雰囲気はシグナム達がはやてと速人が居る部屋に来るまで続いていた。
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
はやてと速人が八神家を離れ地下研究所で療養し始めて数日後、一面砂だらけの場所でシグナムはフェイトと相対していた。
一度シグナム達に圧倒されてからデバイスに新たな機能を組み込み、以前より高い戦闘能力
を持って現れたフェイトだったが、相対したシグナムは驚いた素振りも無くただ感心していただけで、以前ほどでは無いがやはりフェイトは圧倒されていた。
まるで前回の焼き直しのような苦境に立たされたフェイトは内心混乱気味だった。
(どうして?どうしてこれほど的確に対応されるのっ!?
いくら百戦錬磨だといっても、初めて見る攻撃の対処をしたなら少しは無駄が生じる筈なのにっ!
少なくとも明らかに前回とは対処の精度が違う!!)
フェイトの思っている通りシグナムは前回以上にフェイトが繰り出す攻撃に見事な対処をし、新たな機能を搭載したデバイスでの高速移動での撹乱及び突撃もシグナムは一切攪乱されず、フェイトが攻撃する瞬間に正確且つ精密なカウンターで迎撃し、結果、一方的にフェイトだけが痛手を被っていた。
(どう考えてもこっちの……………少なくとも私の手の内はバレてる!
しかもただ使う魔法が知られてるとかじゃない!私の戦い方そのものが知られている!)
フェイトの推測通りフェイトの情報の殆どをシグナムは事前に知っていた。
はやてと速人が地下施設で療養し始めた日の夜にそれぞれに渡された紙束に、速人がなのはのデバイスから読み取った情報及びそこから推測される情報、そしてこれから起こるであろう事に対する対処法等が記されていた。
特に戦闘に直結する個人情報はシグナム達が舌を巻く程の情報が記載されており、生い立ちや取得魔法のみならず性格や人格、更にはこれから修得するであろう魔法の系統や効果及びデバイスの方向性や機能の予測、そして戦闘時に傾向する判断、と、親や番いでもなければここまで他人を理解できないだろうと思われるほどの情報が記載されており、百戦錬磨のシグナム達がこの情報を得ればよほど地力が劣っていない限り相手を圧倒できて当然な程の情報だった。
しかし圧倒しているシグナムは複雑な心境だった。
(直接引き出された情報は兎も角、そこから予測された情報は俄かには信じ難いモノだったが……………………この結果を参考にするならば全て的中と言うほど単純に考える事は出来ぬが、少なくとも的外れでもあるまい)
速人の予測が的中し素直に感心する反面、予測が外れてほしかったという思いもシグナムは抱いていた。
(短期間でこれほどの成長をした者を正々堂々と正面から切り結べぬとは…………………本当に残念だな)
戦において事前に敵を知るのは兵法の常道であり恥ずべき事では無いことくらいシグナムは承知している。が、シグナム達が手に入れた情報はあまりにも精度の高すぎる情報で、本来なら長き時を共に過ごし幾千幾万の攻防の果てに手に入れるような情報を全ての段階を飛ばして入手してしまい、不正を行っているように感じていた。
(将としては情報処理者……………………いや、本人が否定しようが間違い無く軍師だな…………………兎に角軍師としてはこれ以上を望めぬ程の存在と賞賛するが、一騎士としては自らの信念や想いを賭して行われた決闘や死闘すらも冷静に分析し、トラウマすらも推測するのはとても認められぬな……………………)
相変わらずフェイトは果敢にシグナムを攻めているが、その全てをシグナムは見事に対処し、そして倒せるはずの機会を速人の予測が正しいかどうかを確かめる為、相手に決定打を与えぬよう注意しながら戦っていた。
(そもそも天神が高町なのはの方のデバイスを機能不全にしたのは偶然ではなく意図したものだろうな。
…………天神の予測通り未だ癒えぬトラウマのみならず、戦えぬ友の分まで戦うという気負いで気迫が空回りがちで精神状態は酷く悪い)
シグナムの判断通り、フェイトは気迫が空回りがちで何時もの冷静さを欠き、無謀な突撃を多く繰り返していた。
そしてその度に的確な対処をされその度に決定的な隙がフェイトに生まれるが、まだ決着させる気が無いシグナムはあえてその隙を見逃し、そしてそれに気付いたフェイトが怒りで更に冷静さを欠いていくという悪循環になっていた。
(……………………主はやての為に打てる手は全て打ち、少しでも成功率を高めるということを考えるならば天神が行った事は決して間違いなどではない………………………………………が、やはりこのような行いは騎士の歩む道ではない。
……………………………いや、既に主君との約を破っている私が騎士道を語るなどおこがましいな)
そんな事を考えている間にもフェイトはプラズマスマッシャーを放たんとしており、シグナムはレヴァンテインの変形前後を狙われぬ為に大きく距離を離して飛竜一閃で全て相殺した。
(…………………………益体の思考はここまでだな。
ただでさえ正正堂堂と言い難いと思っているにも拘らず、全力で挑む者を相手にしている最中に考え事など侮辱にしかならんからな。
後は天神の予測が外れる事に期待しながらこの目の前の相手との戦闘に集中するとしよう)
そう考えを纏めたシグナムは周囲を警戒しながらもフェイトとの戦闘に集中しだした。
しかし意図的に隙を見逃すのは相変わらずで、とうとうそれに我慢しきれなくなったフェイトがシグナムに怒りをぶつけた。
「…………………………私を馬鹿にしてるんですか?
…………………………さっきから何回も私を倒せる機会があったのに全部見逃して……………。
それに私の魔法や攻撃パターンを見切ってるのに攻勢に全然出ない…………………。
ベルカの騎士というのは実力差のある相手を弄ぶのが趣味なんですか?」
フェイトなりに精一杯の怒気と嫌味を籠めて放った言葉だったが、シグナムは戦闘中なので肩こそ竦めなかったが、軽い嘆息の後に言葉を返した。
「馬鹿になどしていないし全力で挑んでくる者を弄ぶという下衆な趣味も持っていない」
「じゃあ私は眼中にすら無いってことですか?」
「そう噛み付くな。
お前の技量や判断は未熟だが、実力者と呼んで問題無いレベルだ」
「何一つ攻撃を受けていないあなたに言われても嫌味か自慢にしか聞こえません」
口調こそ丁寧だが普段からは考えられないほどの棘を含んだ言葉を放つフェイト。
対してシグナムはそんなフェイトの言葉を受け流しながら、どこか気の無い言葉を返す。
「そう腐るな。
お前が未熟とは言っても普通に戦えば私が負けることはないが、間違い無く凌ぎを削る戦いになる。
ただ今回は……………………最高の軍師からお前の情報を事前に私に知らされていてな……………………その情報の効果は今お前が身を以って知っている通りだ。
あまりに詳細な情報が記されていたので、不正を行っているようで正直気が引けるのだ」
「魔法やデバイス、それに戦闘スタイルが判っただけでここまで圧倒できるならたとえ何も知らなくても私を十分圧倒させられる。
それが解らないほどあなたは馬鹿じゃない。
ならさっき言ったのは嘘か私を馬鹿にしてるってこと……………」
「最高の軍師と言っただろう?
お前の事は身体・魔法・デバイス・戦闘スタイル・生い立ち・性格・人格・戦闘時の判断傾向、更にこれから得るであろう魔法の系統やデバイスの機能、そしてお前が今何を気負った為気迫が空回りがちになっているかまで詳細に記されている。
正直、精神的に不安定で本調子で無い者を斬る趣味は私には無い。それが実力者ならば尚のことだ。
しかも本来ならまず得られぬであろうお前の詳細な情報を得ているのだ。流石に引け目も出るというものだ」
喋り終わった後、またしても軽い溜息を吐くシグナム。
一方とても信じられないことを聞き、驚きと言うより不信感を色濃く滲ませながらフェイトが反論した。
「それはありえません。
そんなことを知ってるのはなのはかアルフの二人だけ。
そして二人とも絶対にあなた達にそんなこと教えない」
「べつにあの白い魔導師とお前の使い魔以外からでも知る術はある。
一度ありえないと思う存在を疑ってみてはどうだ?意外と身近に居る人物が原因かもしれんぞ?だいたい管理局が一枚岩などということは在りえないのだからな」
シグナムとしては甚だ不本意ながらも主はやての為と謀をする。
(ふぅ……………このような権謀術数は卑怯とは言わぬがやはり好きにはなれん。が、天神の推測通りならシャマルが遭遇した仮面の者は管理局の者。
相手の力量が解らず背景や目的も絞り込めずに危険ならば、管理局の者を嗾けて排除若しくは同士討ちにする。それが出来ずとも疑心暗鬼に陥らせ連携を乱す。か…………。
卑怯でも下衆でもないが、少なくとも騎士のするべき行動では無いな…………………)
戦いにおいて心理戦も立派な戦術や戦略であるとシグナムは理解しており、今言った事は会話に依って自分のペースを維持する類のものだという事も理解しているのだが、如何せん心の間隙を突くようなことに激しい抵抗を感じていた。
(…………………………まあ理想案の私生活時にBC兵器を以って無力化する第一案、最善案の近隣の住民や級友や学友の話をして人質にしているように勘違いさせて脅す第二案、最適案の人造生命体や母に相当する者の死や現状を指摘して精神崩壊に追い込む第三案に比べれば遥かにマシではあるがな)
倫理や人倫や道徳が介在しない実に効果的な案件だったが、当然第一・第二・第三の案は否決され、妥協案として存在した第四案で落ち着いたのだった。
ちなみに第一案はあくまで死亡可能性が高いだけで必殺の案ではなく、第二案はただのハッタリで、速人にしてはかなりヌルイ案件になっていると紙面を読んでいたシグナム達は思ったが、第三案の精神崩壊若しくは捕縛したフェイトを薬物や餌付けや性行為で洗脳及び服従させるという案を見た時に気のせいだったと即座にシグナム達は断じた。
尚、性行為で服従させる役に経験が有りそう及び性的に興奮可能だろうとザフィーラが指名されていて、凄まじく白い眼差しがザフィーラに向けられるという事態があった。しかもザフィーラがあまりの事に意識が少しトンで否定するのが遅れた為、相当キツイ視線をその後浴びせ続けられ、果ては幼女偏愛趣味疑惑が浮上し、はやての貞操の為にと去勢されそうになるという珍事があった。
尤もその後ザフィーラの補佐として知識が豊富な(断定系で)シャマルが名を連ねている事が発覚し、翌朝耳年増と思われていたと激しく落ち込むシャマルとはやてへの忠誠と愛情が特殊な性癖では無いと苦悩するザフィーラが在り、困惑するはやてと理由に気付かない速人と嘆息するシグナムと大笑いするヴィータの姿があった。
そして胸中で嘆息しつつもその時のことを思い出し、戦闘中にも拘らずシグナムは顔をにやけさせてしまった。
そんなシグナムの笑みを見て勘違いしたフェイトは怒気を強めながら言葉を放つ。
「攪乱しようとしても無駄です。
私達は絶対に仲間を売るような真似はしない」
「うん?……………………ああ、先の笑みは………………………………いや、べつに言う必要も無いな。
さて……………………些か話し込みすぎたし、そろそろ幕としよう。
切り札を出すのを待ってやるから出してみるがいい」
「……………大した自信ですね」
「自信などではない。
単にお前の切り札も予測済みというだけだ。そしてそれの対処法もな。
……………不正を働いた覚えはないが、正々堂々と言うにはこれくらいせねば言えぬだろうから待つだけだ」
自身が何を言っても溜息混じりに返すシグナムにフェイトはとうとう怒りを通り越して敵意を剥き出しにした言葉を叩き付ける。
「私の切り札を知ってるなんて…………………………そんなことありえません。
これは私の想いが詰まった……………………なのはを……………みんなの力になる為に手に入れたんです。
その軍師の人がどんなに凄くても人の想いや未来を知ることなんて出来ない!!」
シグナムとまだ見ぬ軍師を射殺さんばかりの視線で断言するフェイト。
そんなフェイトにシグナムは警告と注意が混じった善意に分類されるであろう言葉を放った。
「意気込むのは構わんが防御を疎かに突撃などするなよ?
ただでさえ貧弱な守りが、速度が増す代償に更に貧弱になるのだからな」
「っっっっぅぅ!!!?」
シグナムとしては相手が自分の切り札を知っていることを自覚させ、速度に任せて防御を疎かにした攻撃を自粛させ、的確な戦術に切り替えて自身と相対することを望んで言ったのだが、結果は強烈にフェイトを揺さぶって激しく動揺させてしまった。
(…………………失敗したな。
魔導師としての力量の高さと実力差がある相手に向かってくる気概故、幼きながらもてっきり剛胆な者かと思っていたが………………………まさか天神の予測通りここまで精神面が脆いとはな………………………)
最早どう見ても精神的な安定を欠き、繰り出される攻撃も本来のものには遠く及ばないことが十分に判る状態のフェイトを見、またしても溜息混じりにシグナムは話しかける。
「流石に仕切り直しを許すほど私は甘く無いぞ?
急ぎ落ち着くか更なる切り札を重ねるかを早急に選べ」
そしてその言葉と共に目を細め、今までのどこか投げ遣りな感じが消え失せ、鋭い眼差しで値踏みするようにフェイトを見ながら更に話すシグナム。
「戦場に自らの意思で立つ者は驚愕や憤怒や恍惚や悲嘆や恐怖が我が身を襲おうと、それでも己が意思を保った上で判断し行動せねばならない。
そうでなければ己の半身や全てと評すモノを危険に晒すだけならいざ知らず、己がそれを汚し、踏み躙り、傷付けるからだ」
先達の者が後に続く者を諭すようでもあり、また愚行を働く者への最終警告のような雰囲気で更に話すシグナム。
「それが出来ずにお前が自ら戦場に立っているのならば、この場で私が引導を渡してやるので、生きていればその後戦いとは無縁の場で生きていくがいい。
もし強制されて戦っているならば即座に去れ。今ならば追わん」
その言葉で緊張しながらも冷静さを取り戻したフェイトは胸中でシグナムに頭を下げ、返礼代わりに更に切り札を重ねる為バルディッシュにカートリッジ使用を命じ、全力且つ本気で相対する気でいた。
が、バルディッシュがカートリッジを一つ使用した瞬間フェイトの胸から突如腕が―――リンカーコアを掴んだまま―――現れる。
当然カートリッジを使用している最中にそんな状態になったフェイトとバルディッシュは圧縮魔力の制御に失敗して双方深刻な被害を受け、フェイトは意識を手放しバルディッシュはその機能の大半を停止させ現状記録も碌に出来ない状態になっていたが、フェイトの胸から生えた腕とその手のリンカーコアと………………………恐らくフェイトの胸から腕を生やしているだろうフェイトの背後にいる仮面の者は全くの無傷だった。
・
・
・
暫しの間周囲に静寂が満ち、シグナムは苦虫を噛み潰した表情で仮面の者を睨み、対して仮面の者は苛立ちや不審さを纏った雰囲気でシグナムを睨む。
そして見るのも話すのも聞くのも嫌だという思いを隠しもせずに表情と雰囲気と口調に現しながらシグナムが仮面の者に告げる。
「用が有るならとっとと言え」
戦士が決死の一撃を放たんとしていた時に、不意打ち且つ横槍で邪魔した不埒者に払う礼節など持ち合わせていないシグナムは、攻撃的と言うよりどうしようもないクズを見るような眼で告げていた。
そんなシグナムの言葉と視線を受けながらも、仮面の者は抑揚の無い声で返事をした。
「私は闇の書の完成を望む者。
故合ってお前達に助力―――」
「―――黙れ。
お前等如きに助力される謂われは無い」
「…………」
シグナムの気迫に圧されたわけではないが、シグナムの台詞に気になる点が有ったので暫し沈黙する仮面の者。
そして僅かな沈黙の後に仮面の者はシグナムに話しかける。
「私はべつにこの腕の中の者の仲間では―――」
「―――黙れ。
我等の軍師はお前等が介入してくる事も、そしてお前等の大まかな正体も目的も掴んでいる」
―――尤も私としては的中などしてほしくなかったのだがな―――という言葉は胸に仕舞い込み、相変わらずどうしようもないクズを見る眼で告げるシグナム。
「ほう……………………大層なハッタリを―――」
「―――黙れ。
次に耳を汚す言葉を話せばこの場で切り捨て………いや、処理する。
それとも紳士の国と評される者が説いた礼儀がそれか?若しや紅茶の飲みすぎで生来の味覚馬鹿といわれている舌ではなく頭がイカレたのか?
もしそうならば紳士が描かれた絵本とパック紅茶の淹れ方のチラシ、あと場末の老人ホームを紹介しよう」
「………………………………………」
明らかに特定個人の趣味や出生地を指して言っているシグナムの台詞を前に仮面の者は先程より長く沈黙する。
そして未だ片腕でフェイトを抱え逆の腕でフェイトの胸からリンカーコアを取り出していた仮面の者は、リンカーコアをフェイトの中に戻して地面に寝かせてシグナムと改めて相対して話し出す。
「用件は何だ?」
「簡単な事だ。未来永劫お前等は主………………いや、我等家族に一切干渉するな」
「了承すると思うか?」
「断ればこの場で処理する」
「まさか勝てると思っているのか?」
「当然だ」
「ほう……………ならやってみるがいい。身の程を痴らせてやろう」
驚きはしたものの自分の優位性を疑っていないことが見て取れる仮面の者。
そんな相手を小馬鹿にした態度をしている仮面の者に返事とばかりに騎士甲冑のジャケットの背中側の裏地に括りつけていた速人のプファイファーツェリスカを取り出し、至近距離で即座に全弾発砲した。
あまりの事態に仮面の者はシールドの展開も回避も遅れ、結果全弾被弾してしまう。
仮面の者が被弾した弾丸は以前シグナムが痣になる程度の威力の弾丸ではなく、速人が対魔導師用に威力・速度・貫通性の3つを徹底的に強化し、シグナム達も防御魔法を張らない限りは騎士甲冑を貫通可能と太鼓判を押した程の強装弾である。
当然そんな威力が篭った弾丸を撃てばシグナムが撃った銃は過負荷に耐え切れず、5発目発砲と同時に砕け散ったが、その甲斐も在り仮面の者の腹部に5発の弾丸全てを命中させ貫通させることが出来た。
そして仮面の者が被弾の衝撃と怪我によりふらついた瞬間、シグナムが非殺傷設定とはいえ怒涛の追い打ちをかける。
本来ならばシグナムでは勝つのが非常に難しい相手であったが、機先を制して致命傷に近い有効打を全く消耗していない状態で直撃させたので完全にシグナムが圧倒していた。
そして一方的にシグナムが仮面の者に攻撃を加え続け、とうとう地面に叩き伏せた。
倒れ伏した仮面の者が起き上がる前にシグナムは全力で背骨を踏んで砕き、仮面の者が沈黙したのを確認すると蒐集を行い始めた。
「殺しはしないが、それだけだ。それ以外はどうならんと知らん」
その言葉通り蒐集が終わった時の仮面の者は死んではいないようだったが、このまま放置すれば高確率で死んでしまうほど衰弱していた。
一方シグナムはこの結果をやるせない表情で見ていた。
が、それも僅かの間のことで、このまま仮面の者をこの場に放置しても管理局が介入してくるまで持つかどうかを考え出した。
と、その時突然シグナムの体が拘束され、眼前に先程シグナムが蒐集したのと同じ様相の仮面の者が立っていた。
新たに現れた仮面の者は拘束され身動きの取れないシグナムを無視して倒れ伏している最初の仮面の者を治癒し始めた。が、傷も深く尚且つ酷く衰弱している為この場で治療しきるのを諦めたらしく、ある程度のところで治療を止めバインドを解除しようとしているシグナムに向かって怨嗟の念が篭った言葉をぶつけた。
「たかだかカビの生えたような本のプログラム風情がやってくれたな……………」
「……………ふん……………ならそこでその風情とやらに真正面からの一対一で敗北している者はなんだ?」
「………………………それが末期の言葉か。
所詮プログラム。実に有り触れ且つ面白みの無い言葉だったな」
その言葉と同時に何時の間にかシグナムより奪った闇の書の頁を開きシグナムを蒐集しようとする二体目の仮面の者。
「滅ぼされる度に蘇る再生品風情など、闇の書の完成を待たずに今ここで消してくれよう」
その言葉と同時にシグナムを蒐集し始める二体目の仮面の者。
しかしいつまで経っても一向に蒐集が開始されず、二体目の仮面の者が闇の書を怪訝に見詰めた時、不意に後ろから声がかけられた。
「おい」
その言葉に驚いて振り向いた先にはグラーフアイゼンをラケーテンフォームで構えているヴィータ。
そして一瞬視線が交錯した瞬間、回転を省いて発動させたラケーテンハンマーを直撃させた。
ラケーテンハンマーの直撃を受けて吹き飛ばされる最中に手放された闇の書を即座に回収したヴィータは急いでシグナムに駆け寄ってバインドを破壊した。
「すまねえ。集団戦になっちまって遅れた」
「…………………状況は?」
少少衰弱した感はあるが、隙無く眼前の二体の仮面の者を見据えながらシグナムは問う。
「黒いのと緑のと使い魔が集まって攻撃してきてる。10分以内に戻らねえと二人ともヤベえ。
そっちは?」
「最初に現れた奴は後遺症が出る程絞りつくして蒐集し、その直後二体目に捕獲され蒐集されかけた時お前に助けられた。
そこの少女はカートリッジ制御を失敗し気絶。デバイスは破損しデバイス単体で魔法が使える見込みはないが、この状況を記録している可能性がある。
あと奴等の正体はまず予測通りだ。それと復讐する程度の仲間意識はあるようだ」
互いに急ぎ情報を交換し合い旗色が悪い事を悟る。
ヴィータはシグナムと倒れ伏した仮面の者を背に立つ仮面の者との間に割り込みながらシグナムに問いかける。
「倒せそうか?」
「時間が足りん。
甚だ不本意だが交渉で切り抜ける。その間お前は転送準備より警戒をしていてくれ。
……………奴は強い」
返事の代わりに全力で周囲と仮面の者達を警戒するヴィータ。
そんなシグナムとヴィータの会話を聞いていた二体目の仮面の者が鼻で笑いながら告げてきた。
「ふん……………時間が足りんというのも身の程を弁えぬ発言だが、この期に及んで交渉が通じると思っているその勘違いは笑えるほど腹立たしいな」
「仮面で顔を隠して変身魔法を使っていないように思わせ、姿を統一することで単独の者と思わせるという小者に言われる筋合いは無いな」
「廃品になる度に回収され再生される物風情に何と言われようと堪えんな」
「ふん。先程の奴もそうだったがこれが紳士の国と評される者の縁者とは思えんな。
金銭を施すだけが紳士の条件ではないというのが解らんらしいな」
「………………………………」
一体目の仮面の者と同じく沈黙する二体目の仮面の者。
それを見て更に続けるシグナム。
「どうだ?自分達に辿り着かれるわけは無いと高を括っていたが、辿り着かれた心境は?」
「………………………………」
「もしここで我等が全滅すれば主の傍に居る軍師が管理局の者に全てを話し、お前等を白日の下に晒し出すだろう」
「………………………………」
「つまりこの場で我等ではお前等を倒せぬだろうが、お前等も我等を倒す事は出来ぬ」
「………………………………」
バルディッシュが記録している可能性や盗聴される可能性を考慮して決定的な発言や念話を控えているシグナムだったが、そのせいで仮面の者はかなり懐疑的だった。
(無視出来る程軽い言葉ではないと思っているようだが、我等を全滅させた後天神が行動を起こす前に主はやてと共に拘束可能かを考えているのだろうな。
……………………………………………………甚だ不本意且つ激しく嫌な予感がし、夥しいまでの怪しさの塊のこの書簡を使うしかないか…………………………)
内心重い溜息を吐きながら更に話を続けるシグナム。
「大方我等を全滅させ、それを確信させる前に主共々拘束するつもりだろう?
それならこれを見て返事を聞かせてもらう。
……………一応使者の立場になるので我等は内容など知らんぞ」
[ほぼ100%脅迫と取れる文面だろうがな]、と胸中で付け足しながらライターより小さい書簡を胸元から取り出して放り渡す。
速人の推測通りなら怨敵と言える者相手といえど脅迫紛いで行動を束縛するのに激しくシグナムは抵抗感があったが、騎士道から外れこそすれギリギリで背く行為ではないので何とか納得した。尚、会話に参加していないヴィータのみならず、ザフィーラとシャマルも激しく抵抗感はあるが、シグナムと同じく何とか納得していた。尤もヴィータは「ハヤトの努力を無駄にしたくねえしな……………」とも言っていたが。
と、守護騎士全員が脅迫(紛い)文と断定している書状を読んでいた仮面の者が言葉を紡ぎだした。
「お前が軍師と呼ぶ者は相当肝が据わっているな」
「……………………返事は?」
「その前に内容を知らぬようだから言っておこう。
要求された概要はこうだ。その軍師とやらが指定した日時と場所で我等に会う時まで我等はお前等に干渉を禁じ、お前等はその時まで闇の書を完成させぬ。……………こう書いてあるが了承するのか?」
「異論無い」
「…………………………内容の全容を知らぬのに即答とはな………………」
言葉の節節に軽率な行いをしていると揶揄されていたが、シグナムは特にそれに憤ることなく言葉を返す。
「巧遅は拙速に如かず。第一アレが考え抜いた案の欠点を、この短時間で私が見つけることなどまず出来ぬ。
して、返答は?」
「…………………………いいだろう。この申し出を受けよう」
「交渉成立だな。
さて、ならばお前等は即刻この場より失せるがいい。我等は救援に向かわねばならんのでな」
そう言って今まで以上に隙無く相手を睨むシグナム。
そしてそれを気にせず言われた通り倒れ伏している仮面の者と共に転送魔法でこの場より撤退を始めたが、気になる事があるのかヴィータに声をかけた。
「……………………何故先程声をかけて奇襲の機会を潰した?」
「けっ!真正面からならまだしも、背後から奇襲の上不意打ちなんて真似出来っかよ!」
「……………………………………………………お前等の軍師に此方側に就けば厚待遇で迎えると伝えてくれ」
「分かった。確かに伝えよう」
ヴィータの言葉に返事を返さず更に自分の言いたいことだけ述べ、その言葉にシグナムが返事を告げると同時に二人の仮面の者は転送魔法によりどこかに転移してしまった。
そしてシグナムは確実に周囲にいないと判断した後、先程使用した銃と弾丸を焼却処分し、その後転送魔法を使いザフィーラとシャマルの救援に向かうべく急いでいるヴィータと同じく自身も転送魔法を使用しだした。
と、転送魔法が完了しきる間にシグナムがヴィータに話しかけた。
「……………最後の受け答えでよくお前が噛み付かなかったな………」
言葉の節節と表情で意外だと告げながら言うシグナムにヴィータが返事をする。
「あっちになびくとか思われてんのは腹立つけど、アイツを取り込めるタマとか思ってるマヌケっぷりが笑えるからチャラにしといた。
あとなんかの暗号かも知れねえから黙っといた」
「なるほどな。私の考えと同じだったという事か……………」
シグナムがそう呟いた直後、シグナムの言葉が聞こえていなかったらしいヴィータは転送魔法で一足先に救援に赴いた。
そして自身もそれに続く僅かな間、シグナムはふと先程焼却処分した物の残骸を見て思う。
(まさかベルカの騎士が質量兵器を使うとはな………………………。
質量兵器を侮辱するわけではないが、今まで私とレヴァンテインがが積んできた研鑽を汚してしまった感がして堪らなく惨めだな………………………)
シグナムは万が一の時に銃を使うとレヴァンテインに告げた時、レヴァンテインが賛成も反対もせずに自身の判断に任せたことを思い出しさらに気落ちした。
(明らかにレヴァンテインだけでは切り抜けられないと告げたも同然だからな。
数多の戦場を共に駆け抜け、私の無茶に幾度も応えてくれたこいつの忠義を踏み躙ったのは本当に心苦しい…………………………。
しかし………………………)
と、そこで今まで速人が行った戦闘訓練を思い返すシグナム。
転送が始まりもう直ぐ戦場に転移するというのにシグナムは思考を止めなかった。
(……………あの命を磨り減らす訓練で得た情報を基に造られ、致命傷を負ってまで管理局のデバイスから得た情報を考慮し再調整された物だと聞けば無碍には出来ん…………………………)
守護騎士の誰もが、速人が端から見ていて寿命が縮むかと思う程の怪我の果てに速人が其れ等を作成したと知っており、だからこそ騎士の矜持が曲げてでもそれぞれ質量兵器を受け取った。
(そう……………少なくとも我等の敗北がそのまま主はやての死に繋がるこの蒐集の間だけは、天神が命を磨り減らしてまで作り上げた力を使うと決めたのだ。
全てが終わった後には幾らでも私の不義理と不甲斐なさを詫びるので、今は不満だろうが耐えてくれ………………)
胸中で己のデバイスに謝罪しながらシグナムはヴィータに続いて転移した。
後に残ったのはカートリッジの制御に失敗したうえリンカーコアを摘出され気絶したフェイトと中破したバルディッシュだけだった。
第十五話:煽る者――――了
【後書】
【作中補足】
【シグナムが使った銃と弾丸】
銃自体は速人が使ってる改造品(ダブルアクションで発砲可能に改造)と同じですが、使用されている弾丸は速人作の対魔導師用弾丸。
対魔導師用に作られただけあってその威力は常軌を逸しており、撃ち出された戦車砲すら貫通可能な貫通力、1tの物体を数十cm動かせるエネルギー、液体装薬を使用し初速を秒速約2キロメートルまで速められた規格外の弾丸。(弾頭は修正モース式硬度13の炭化ケイ素)
本来なら専用の銃で撃ち出されるべき弾丸だが、時間が足りずに速人が普段使用している銃で強引に発砲されている為、5発撃てば弾倉どころか銃本体が砕け散る。
尤も仮に銃本体が耐えられるだけの強度があったとしても、魔法で強化されていない者が撃てば一発で手首が砕ける程の反動が有り、もし発砲時の反動で銃が手から離れれば、銃が発射した本人の肋骨や頭蓋骨を粉砕して即死させるほど危険な代物で、未成熟な身体の速人では下手すれば命中させた魔導師より自分の方が酷い怪我を負いかねない代物になっている。
魔法を使えぬ者が使える者に対抗する為に作り上げられたはずが、使用するためには魔法を使って身体強化をする必要が有るという本末転倒気味になってしまった弾丸。
因みに速人とシグナム達の護身用とはやてを説き伏せて堂堂と製作していたが、開き直ったはやてが速人達の力になると息巻き、幾つか速人と二人で作成した物もある。
【補足終了】
今回の話はあまり速人の出番は無いです速人が話の中心に位置していて、今までの行動はしていても話の中心に居なかったのとは逆になっています。
正直オリキャラの内面や扱いなんてどうでもいいと思うんですけど、これを乗り切らないことには話が全く先に進まないので、渋渋嫌嫌ながら何とか書き上げました。
と言うかアリサ救出などで暴走して書いたツケが全部この話に纏めて来た感じで、途中で精根尽き果て後半から見るに耐えない大雑把さになっています。
多分次回から管理局の面面と速人の戦闘が始まり、リリカルなのはの世界感にそぐわない血生臭い戦闘方法のオンパレードになることでしょう。(今回も血生臭いですが)
そもそもなのは達は連続魔導師襲撃事件の犯人達と戦闘するつもりでしょうが、速人は時空管理局との戦争と思っていますので戦闘で勝つことに重点を置いていないので、なのは陣達は速人に大きく遅れをとるでしょう。尤も速人ははやての心労や約束が大きな枷となって行動を制限されているのであまりド派手な事は出来ませんが。
本来ならこの話でチラッと出ましたが、はやての心労や約束を考慮しなければ14話でフェイト宅のマンションに要人を泊めさせて、第97管理外世界のごたごたに見せかけてマンションごとなのは陣を一掃させるという選択肢を採り、時間を稼げれば良し、管理局が諦めれば言うこと無し、最悪時空管理局と第97管理外世界との全面戦争になれば、地球の全戦力を利用してはやてを守るというとんでもストーリーになっている可能性もありました。(スカリエッティやレジアス中将辺りが速人に接触を図って、質量兵器の開発を条件に速人側に付いて泥沼化する可能性が極めて高そうなのでやめました。Sts編に絶対繋がらないでしょうし)
また某サイトのコルタタ氏の某【とある魔導師と機動六課の日常】と言うとてもとても非常に素晴らしい投稿SSのオリキャラ主人公とフェイトのラブラブ(?)ぶりに多大な影響を受けたため、速人のぶっ飛んで爛れた甘甘甘甘な愛情表現を書きたかったのですが現在の速人では絶対にありえない話なので書けず、それでも残った未練の影響で多少アリサやヴィータやはやての性格が変わっています。
ああ、幕間でなく外伝でもいいから書きたいです……………。レティかリンディか石田女医と恋人の速人とか、勘違いではやてをゲンヤやヴェロッサとくっ付けようとする速人とか……………。
後、常常このサイトの雰囲気と自分の作品がそぐわないと思い、削除依頼を行った方が良いのか、それとももう少し微ダーク表現も割とOK的な所に移した方が良いのか、それとも殆ど誰も呼んでいないので永久消滅した方が良いのかちょっと考え中です。
年末年始決算前の仕事とゲームとSSにハマって暫く更新してなくて丁度存在を忘れられていますし。
ですので自分のSSの未熟さや場違いさに恥じて、ある日突然削除してもらうかもしれませんが、御勘弁願います。
駄作に態態御目を通されるという手間を掛けてしまい。もう平謝りするしか無い程御迷惑かけているにも拘らず、毎回全て掲載して下さる管理人様に感謝を申し上げます。そして御読み頂いた上に感想も頂け本当に感謝しております。
そしてこのSSを御読み下さっている方、オリジナルキャラの大暴走&説明不足の独自展開にも拘らず御読み下さり、本当に感謝します。
いやいや、微ダークにする事なんてないですよ。
美姫 「そうよね。このままこんな感じでどうなるのか見たいわよね」
うんうん。血生臭いお話になるのか。
美姫 「今回も仮面の男に対して、中々面白い事になってるしね」
一体、この先どうなっていくのか。
美姫 「とっても楽しみです」
それでは、次回も待ってます。