Interlude

  ―――― 八神 はやて ―――― 

 

 

 

  その日、普通の子供はクリスマスで枕元のプレゼントを楽しみにして朝起きるかと思うと、そんなことは無いのに無駄に早起きした自分がどうしようもなく惨めになって、逃げる様に家から出た。

  手袋もせずに外に出たから車椅子を漕ぐ手がすぐに悴んでしもうたけど、それが原因で戻るか帰るかするのはもっと惨めになると思うて、ムキになって車椅子を漕ぎ続けた。

  そして気が付けば、たまに遊んどる子達を遠くから眺めている公園に着いとった。

 

  いつも独りが嫌で、誰かと友達になりたいと思って、何かの出会いを期待して近くの公園に行ってたんやけど、いつもいざ公園に着いてみると、学校にも行ってなくて親も居ない一人暮らしのワケ分からん病気に掛かった車椅子の自分がとんでもなく場違いな場所に着とると実感して、いつも泣きたくなるほど惨めな気持ちで家に逃げ帰っとった。

  そやけど、それでも一人で居るのが嫌で、いつか何かいい事が有るかもという淡い期待を持ってちょくちょく通った。

  だから何も考えずに着いたのがここだと分かった時、今まで何度もココで休学しとることや車椅子だからって事で虐められとったにも拘らず無意識にココに来るなんて、自分の未練たらしさに呆れてしもうた。

 

  こんなトコに来ても今までいい事なんて一つも無くて、虐められるか避けられるか哀れまれるか無視されるかのどれかしかなかった。

  そしてそんなことが続けばすぐに自分がやっとる事がどれだけ無駄で惨めな事かを痛感して、ずっと一人で寂しく生きていかなきゃいけないやんと思った。

  そやけど、そんな事は納得できんで、いつかはいい事があると信じて、たまにだけどこの公園に来るのを止めんかった。

  そして納得出来んくて公園にたまに来続けて1年以上経った頃、何度笑いかけて話しかけても誰もが虐めるか避けるか哀れむか無視するかのどれかしかしてくれんことが続いて、ようやくそんな都合の良い事なんて起きやせんで、自分が一人寂しく生きていくしかないと理解して納得したんや。

  そう、………納得してもうて、多分お父さんとお母さんが死んだ時以来の大泣きをした。

 

  それやのに、…………いい事なんて何も起きんて分かっとって、……………一人で寂しく生きていくしかないと納得して諦めたのに、………………それでもそれがどうしようもなく厭で、また性懲りも無く同じトコに来たと思うと、自分の往生際の悪さに八つ当たりしとうなった。

  万が一や奇跡を期待もしとらんのに、ただ、ソコに行けば自分が求めたモノを追い続けることができると思うて……………追い続けている最中は追っているモノを見続けることができると思うて、まるでジャンプして月に行けないなら地平線に沈むその場所に行けば辿り着けると思うて……………そんなこと無いと分かっとってっても西に向かい続ければ夜が長引いて少しでも長い間月を見続けられるから構わんと思う様な、……………そんなアホとしか思えん無駄なことをし続けた。

  …………素直に絶望すればこれ以上苦しまないで済むのに、それでも奇跡が起こらないと分かっとっても絶望できんで足掻き続けた。

 

  そんな目を逸らしたくなる様な往生際の悪さが原因で無意識に公園に来てしもうたらしく、自分の諦めの悪さに辟易しながらもいつも通り公園で時間を使おうと思って公園に入ってった。

  ただ、公園に入りながら、こんな時間に公園に来たことは無いから、もしかしたら警官に補導されるとかいう厭な出会いならあるかもしれんと思うて、さらに鬱になってもうた。

 

  そして、警官に出くわして職務質問を受ける出会いは無かったけど、雪降る中にあお向けで倒れとる人と出逢うっちゅう、それ以上に厄介な事と出くわした。

 

 

  正直、とんでもなく面倒な事態に遭遇したと思うた。

 

  ここで見て見ぬフリしても、目立つ車椅子やから後でココに立ち寄ったのがどっからともなくバレて警官のお世話になってまうやろし、通報しても第一発見者に加えてこんな時間に外で何をしてたかを訊かれてまう。

 

  多分面倒無く穏便に済むのは、話しかけたら返事をしてそのまま元気に何処かへ行ってくれるていう展開だけやろけど、下手したら凍死してる可能性も有りそうやから、そんな都合の良い展開は無いと思うた。

  っちゅうか、あたしに都合の良い事は起きんていうのは、もうあたしにとっては常識やから、期待も何もせんかった。

 

  ………そやけど、あたしにとって都合が良いから倒れとる人が元気に生きとるなんて事が無いとしたら、それはあんまりやと思うから、あたしの都合とは別に元気に生きとってほしいと思った。

 

  ………色々と思うところは在ったんやけど、それでも意を決して話しかけた。

 

 

 

  そして、意を決して話しかけたその時から、夢か奇跡としか思えん、幸せな毎日が始まったんや。

 

 

 

  ―――― 八神 はやて ―――― 

  Interlude out

 

 

 

 

 

 

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魔法少女リリカルなのはAS二次創作

【八神の家】

第二十一話:冷たいカラダ

 

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――― Side 天神 速人 ―――

 

 

 

  残された200秒近くの時間が静かに過ぎていく第二実験場内で、速人はまずフェイトをクロノとは尤も離れた床の上に寝かせ、それから近くの壁の操作盤を操作して簡易医療ベッドを突出させ、その上にフェイトを寝かせ、体勢がずれて怪我に悪影響を及ぼさないように軽く体を拘束し、更にこれからの邪魔にならぬよう筋弛緩剤を静脈注射した。

  約30秒でフェイトへの処置を終え、その後約30秒で速人は殺せば殺人になるユーノをクロノの近くに寝かせ、殺しても殺人にならないアルフは放置し、優先度での区分けを終らせた(仮に殺害する際、優先度が上の者を巻き込まずに殺す為の処置)。

 

  そしてその後は先程フェイトに威嚇射撃した際に使用した魔導師殺し用の弾丸を補給した後装填されている通常弾と特殊弾の比率を変更し、その後装備に関する準備を済ませた速人は過呼吸を開始し、又もや血液中の酸素濃度を上昇させるという、危険だが短期的には効果が高い迎撃準備を始めた。

 

 

 

―――

 

  約140秒の準備時間が在るにも拘らず、速人がデザートイーグル用の50AE弾や特殊閃光弾を補給せず、魔導師殺しの.700NE弾(通常弾)のみを補給した理由は、

 

一つ、バリアジャケットの防御性能がフェイトよりも高いなのはには50AE弾では殆ど効果が無い為(眼球から脳目掛けて打ち込む等すれば殺傷可能性は有り)。

二つ、特殊閃光弾は光波と音波の遮断フィールドで対策を採られている可能性が在り、その場合投擲した隙を此方が一方的に晒すことになる為。

三つ、閃光と爆音は施設内の照明とスピーカーで代用可能である為。

 

、という三つの理由が主だった。

 

―――

 

 

 

  やがてなのはが到着するまで残り100秒を切った時、これ以上の過呼吸は過酸素症により思考力が低下すると判断した速人はその状態の血中酸素濃度を維持するよう呼吸を切り替えた。

 

  そして、速人はこれからの概要を考えたが、過酸素症になりかけた為一時的に思考の精度が低下した事が原因なのか―――

 

(レイジングハートが高町なのはをどれだけ御せるかが、自然に重傷を負う為の最大の肝要点であり、仮にレイジングハートが高町なのはを御しきれていないならば、腹筋の過剰収縮で衰弱した内臓を圧壊させることで吐血をし、偽装した隙を晒すことで戦況を膠着させる。

  そして仮に不自然さを悟らせた場合、速やかに砲撃を受け死亡若しくは玉砕特攻で自滅をする。

 

  …だが、可能な限りは生き長らえ、…又意思を交し合う)

 

―――と、詮無いことを思った。

  だが思考も体力を使うと考え、速人は直ぐにその無駄と思える考えを止め、同時にフェイトに筋弛緩剤の効果が現れ始めたことを確認すると―――

 

 

 

―――と呟き、荷電粒子砲と電磁投射砲と不可視帯域コヒーレント光砲の各砲門をエレベータードアの向こう側に最優先で照準を合わせ、残りはドア周辺に、それも不可能な位置に在る砲門は戦闘不能化された面面の周辺に照準を合わせた。

 

  そしてその作業は3秒以内に終わり、速人はエレベータードアとその内部と一直線になる位置に移動した後、残り10秒になるまで静かに立って過ごしていた。

 

 

 

――― Side:天神 速人 ―――

 

 

 

 

 

 

――― Side 八神 はやて ―――

 

 

 

「地下に避難所が在るのは知っとったけど…………どんだけ深いトコに造ったんやろ………」

 

  現在エレベーター内の表示板には俄かに信じられない程の現在深度が表示され、眉を顰めながらそんなことを言うはやて。

  そしてそんなはやての疑問にシャマルが答える。

 

「現在速人さんが居る所が深度5000メートルで、このエレベーターもその深度まで降下します。

  それとあの施設の最深部は深度8000メートルです」

「ちょ、ちょっと待って!

  いくら速人がトンでも知能とお金が在っても、そんなブットンだ施設を作ろうとしたら絶対アメリカとかが黙ってないわ!

  最低でも施工業者を潰すくらいはするわよ!?」

 

  シャマルの言葉に常識的意見を述べるアリサ。

  だがシャマルは真面目な面持ちでエレベーターのドアを見たままアリサの疑問に答えた。

 

「当初は深度1000メートル前後のただの研究所兼避難所としてアメリカ主体に作られました。

  ですがその後速人さんは地球上の至る箇所を市国として多数独立させ、その複数の市国に地下への拡張工事を請け負わせたそうです。

  それと市国の独立は非公開情報ですが非公式ではないです。

 

  あと整備や維持に関してですが、初めから殆どロボットだけでできるよう作られているそうで、どうしても人手が足りない場合は施設の整備するためだけに生かされている死刑囚に整備をさせているそうです。

  他は速人さんの個人資産ですが、だいたい7兆円だそうで、色んな国への契約書を介さない貸付や市国の国庫を合わせれば大体50兆円前後だそうで、市国の年間予算並びに速人さんがオーナーの全企業の年間売り上げが8兆円前後だそうです」

「………………よく今まで暗殺されなかったわね………」

「それに関しては色々な対処をしてるそうです。

  なんだか色んな国の利害が複雑に絡んでますので、誰かが速人さんを拉致したり殺害すれば、冗談抜きで大規模な戦争が起こって大赤字になるそうなので、国家による謀殺はまず在り得ない程低いらしいです」

「…………流石は速人。

  …………洒落にならない存在ね」

 

  呆れたように肩を竦めるアリサ。

  対して真剣な表情でエレベーターのドアを睨む様に見ていたシャマルは気楽そうなアリサの態度に何か思うところがあったのかゆっくりと振り返り、それから漸く目を見て話しかける。

 

「アリサちゃん…………以前誘拐されたあなたなら分かると思うけれど、…………今から私達が向かう所は利己心と暴力が渦巻く戦場よ?

  なのに……どうしてそんな気楽にしていられるの?」

 

  非難はしていないが疑問と不審の中間の様な表情と声音で尋ねるシャマル。

  そしてそれに同意見なのか、すずか以外の面面もシャマルと同じ様な表情と視線でアリサを見る。

  対してアリサは5名分の視線を一身に浴びながらも物怖じ一つせず、平然とその疑問に答えだす。

 

「どうしてと言われましても…………、やっぱり一度経験したから耐性があるんだろうなー、としか言えないんですけど…………」

「…………アッサリと死ぬだけじゃなくて、無傷で生き残っても多分管理局に魔法の隠匿の為に身柄を拘束された挙句、二度とこの世界に戻れないって………分かってる?」

「それは速人の所に行かなくても多分同じですよ。

  なのはの留守電に入れた伝言を向こうは聞いてるんですから、これ以上関わらないようにしても遠くないうちに鬼の首を取ったかのように得意気な顔して口封じか攫いに来る筈ですよ?」

「そ…………それは…………」

「あ、別にはやてに説明する時に巻き込んだとか思わなくていいですよ?

  と言うか、本当にギリギリのタイミングでしたけど、あたしが友達と思ってる人達が戦ったり争ったりするのを寸前で知ることができて感謝してます」

 

  そう言って軽く頭を下げるアリサ。

  そしてそれに追随してすずかも軽く頭を下げ、頭を上げた後、すずかはアリサの話に続くように話し始める。

 

「私もアリサちゃんと同じで感謝してます。

  ………本当にギリギリでしたけど、知ることができました。

  それに…………巻き込まれるのが嫌なら知らないフリして全てが終るまで遣り過ごすという事も出来たんです。

  ……一方的に巻き込むだけじゃなくて、引き返せる道も用意してくれていたんですから、恨み言なんて少しもありません。

 

  ……………ただ、……………蒐集のことは別にしても、魔法のことはもう少し速く教えてほしかったとは思ったけど、…………私もちょっとした隠し事をしてるからお相子かな?」

「………隠し事?」

 

  僅かに首を傾げて問うアリサ。

  そして声こそ出さないものの、同じ様な疑問顔ですずかを見るシャマル達。

  だがそれに対してすずかは軽い感じの笑顔を浮かべながら言葉を返す。

 

「そんなに大したことじゃないんだよ。

  ただ………それを知っちゃったら少なからず危険に晒されるし、凄く厭な二択を押し付けなきゃ最悪口封じされちゃうから今まで言わなかったんだ。

 

  だけど………多分速人さんならそんな厭な二択も危険も無視して自分の好きな選択が出来ると思うし、アリサちゃんとはやてちゃんにも押し付けられる厭な二択と危険も吹き飛ばしてくれるだろうから、これが無事に済んだらきちんと話すよ」

「……まぁ、[話せば嫌われるかも……]、とかそういった相手を馬鹿にした自虐思考じゃないみたいだから、あたしは特に文句は無いわ」

 

  すずかの言葉にアリサは直ぐに返事をしたが、つい最近までは話しても大丈夫かどうか不安がっていたはやては直ぐに返事が出来ず暫し沈黙していた。

 

  そしてその沈黙の間、すずかとアリサだけではなく、シャマル達も何も言わず黙ってはやての言葉を待っていた。

 

  しかし速人のことや蒐集のことでかなり情緒不安定且つ鬱病寸前迄気落ちしている状態でそんなコトを言われたはやては、自我や精神が抑圧(ストレス)で耐久限界を超え始めたらしく、眼や表情や雰囲気が回復不能と感じられるほど虚ろになり始め、慌ててアリサとすずかがフォローを入れる。

 

「べ、べつにはやてがあたし達を信用しないから話してないなんて思ってないわよ!?」

「そうだよ。

  それに出逢って1ヶ月と少しくらいなら、相手が信じられるかどうか分からなくても普通だよ。

  ねっ?アリサちゃん?」

「そうそう!

  それに信じられたとしても切欠や踏ん切りが必要と思うのよ。うん」

「アリサちゃんの言う通りだよ。

  流石に出逢って1ヶ月と少しで相手を信じて秘密を話すのは、色色な葛藤を端折り過ぎな感じがするし、ねえっ?」

「すずかの言う通りよ。

  大体はやては土壇場じゃない限りそんな急展開に物事進めるキャラじゃないでしょが?

  それに出会って直ぐに相手の本質を見極められるヤツなんているわ……け……………」

「「「「「「……………」」」」」」

 

  急に全員黙り込み、全員の脳裏に出逢って直ぐに相手の本質を見極めているであろう人物が思い起こされた。

 

「………あー、……ほら、………えと、……………まあ、……あれよ。

  速人は物事の本質にしか関心なさそうだから、冗談のように早く見極められると思うのよ。うん」

「そ……そうだよ。うん。

  それに速人さんは相手が秘密を話しても大丈夫だって分かっても、基本的に受けと放置する側の放置プレイ専門だから、自分から誰かに何かしたりしないと思うからプラスマイナスゼロだと思うんだ」

「よし、すずか。あんたはちょっと黙ってなさい。

  悪気が無いのは分かるんだけど、真剣さと本気さとエゴを併せ持ってない状態のあんたが話すと、和むというより爛れるから」

 

  そう言ってアリサはすずかの口を手で押さえつつ、はやてを見つめながら話す。

 

「色色あって鬱になってるのは分かるけど…………シャキッとしなさい!シャキッとっ!!

 

  だいたいはやては魔法の事はそう遠くないうちに話すつもりだったんでしょ?」

「…………」

 

  無言で頷くはやてを見、アリサは苦笑を浮かべながら更に話す。

 

「ならあたしは文句なんて無いわよ。

  それにさっきも似たような事言ったけど、切欠も無くいきなりポンと秘密を話せるヤツなんて普通いないし、いるとしても文句言えるのはその普通じゃないヤツだけで、普通のあたしは文句なんて言えないし言う気も全然無いわよ。

 

  ……っていうか、多分明日のクリスマスパーティーとかお正月にみんなが集る時にでも話すつもりだったんじゃないの?」

 

  そう訊ねるアリサだったが、はやてを静かに首を振って否定しながら返事をする。

 

「…………速人はん達がアリサちゃんとすずかちゃんは兎も角、なのはちゃんとフェイトちゃんに知らせるのだけは徹底的に反対しとったから……………少なくとも二人が居るかもしれん明日は話すつもり無かったんよ…………」

「……ま、家族全体に関わる大事なコトを家族の意見を無視してホイホイ話すわけにはいかないと思うから、別に明日話すつもりが無かったとしても文句も無ければ怒りもしないわよ。

 

  ………ただ………シャマルさん達に訊きたいんですけど、速人やシャマルさん達がなのはとフェイトに知らせないようにしたのって、……………対立しているからだったんですか?」

 

  はやてから視線をシャマルに移しながら問うアリサ(尚、その時すずかの口を押さえていた手を必要ないだろうと思って離した)。

  そしてアリサの問いにシグナムがシャマルを手で制しながら答える。

 

「天神だけは対立とは無関係に高町なのはとフェイト・テスタロッサに話す事に反対していました。

  何でも、先の二名へ魔法に限らず自身達の情報を開示する事は、中近東や北朝鮮に核爆弾搭載の大陸間弾道弾(ICBM)を1千程無償で提供するよりも自身達の身が危険に晒されると言って主はやてを止めていました」

「………あー、なんか速人がそういったのも分かるわね……」

「うん。…………私もなのはちゃん達の性格と時空管理局の考えを知ってれば…………少なくとも速人さんの立場なら絶対に反対するね」

「……?

  な、なんでそんな結論になるん?」

 

  わけが分からないといった顔をするはやてとシグナム達。

  そして若干話し疲れたアリサは眼ですずかに説明するよう頼み、すずかはそれに眼で了解と返しつつ説明し始める。

 

「えっと……って………到着したね」

 

  すずかが言う通り、軽い電子音と降下停止した事で通常の重力負荷が身体に掛かることから、全員エレベーターが目的地に到着したことを察知した。

  エレベーターが降下停止直後、外側から隔壁が高速で一枚ずつ解放される音が響き、最後に極普通の速度でエレベータードアは開いた。

 

  眼前に開けた光景を見た瞬間、速人にある程度移動経路等の説明を受けていたシャマル以外の全員が呆れ顔になった。

 

  そしてその呆れ顔をした全員の意見を代表するように、アリサが誰にともなくツッコミを入れた。

 

「……………なんでエレベーターの向こう側がエレベーターなのよ………」

 

  アリサの言う通り、ドアと隔壁の厚みの向こうに見える光景は、今アリサたちが居るエレベーター内と外見はほぼ同じ作り(出入り口が二つあるのが相違点)なっていた。

 

  だがそんな目の前の光景に呆れた言葉を出していたアリサだったが、迂闊に動くことはせず、とりあえずシャマルに移動して構わないのかを眼で訊ねた。

 

「其方に移動してもらっても構いません。

  但し、絶対に壁や操作盤に触れないで下さい。

  下手したら安全装置が働いてここにいる全員が一瞬で塵になりますから」

 

  そうシャマルは言い、先に眼前の室内に入っていく。

  そして後に続くはやて達を振り返りもせずに操作盤の前に行き、指紋と網膜認証を行い、更に速人の血が入った小瓶をDNA鑑定機に設置し、最後にカードをカード挿入口に差し込んだ。

 

  しかし次の瞬間囂しい警告等が鳴り響き、室内が赤暗く明滅した。

 

「お、おい!なんかミスったのか!??」

 

  明らさまに慌てた風にヴィータがシャマルに訊ねるが、シャマルは一切返事をせずに真剣な顔で先程と同じ手順を繰り返す。

 

  だがカードを差し込んでも先の状態が解除されるどころか、更に警告音の音量は増大し且つ明滅速度も速まっていた。

  しかも変化はそれだけに留まらず、先程はやて達が乗っていたエレベーターへ続く隔壁が全て緊急閉鎖され、止めとばかりに警告音が鳴り響いて囂しい室内でも尚鮮明に聞こえる合成音が自爆までの秒読みを開始しだした(しかもいきなり25秒前から)。

 

  そしてそんな事態になってしまったのだが、シャマルは真剣な表情は崩していないもののそこまで焦った様子は無く、アリサも何かに感づいたらしく呆れた表情をするだけで焦ってはおらず、それを見たすずかもアリサがなぜ落ち着いているのかという理由に思い至ったらしく苦笑した表情を浮かべるだけで焦ってはいなかった。

  が、それ以外の面面は恐慌状態にこそなっていないが凄まじく焦っていた。

 

「ヴィータは私とザフィーラ以外をバリアで防護!

  私とザフィーラはバリア境界面で壁になる!

  シャマルは直ちに転送準備!……って!!!?何をしている!?!?!?」

 

  爆発に備えて的確な指示を出しているシグナムだったが、シャマルが排出されたカードを差込口に差し込んだ後、カードが差込口からはみ出ている部分に拳を沿えてカードを圧し折ろうとするのを見、慌てて声を張り上げた。

 

  が、シグナムの声を無視してシャマルはカードを圧し折った。

 

  警告音と自爆の秒読みが響く室内にも拘らず、カードが圧し折れた音は不思議と全員の耳に届き、シグナム達は恐らく秒読みを無視して自爆するだろうと思い身構えた。

 

  だが、爆発が起きるどころか警告音と赤い警告灯の明滅は止み、当然自爆の秒読みも停止していた。

 

  そしてシグナム達が呆然とする中シャマルが説明を始める。

 

「べつに操作が間違っていたりカードが不正だったからああ(・・)なったんじゃありません。

  さっきのは単に侵入者や盗難された時を想定したトラップの一つです」

 

  そんな仕様にした速人に対する呆れを若干含んだ口調でシャマルはそう説明し、それから操作版に指を躍らせながら更に続けるシャマル。

 

「一応この室内は既に地下研究所内ですけど、速人さんが現在居る第二実験場までは後683秒は必要です。

  先に述べておきますが、時間が掛かる原因は移動経路となる区画を繋ぎ合わせながら進んでいるので、これから降りて急ごうとしても短縮できる時間は高が知れていますし、最後の直線ではカタパルトで高速移動するので寧ろこれに乗っていた方が早いです。

  そして転移することで時間短縮が可能な範囲は、全て転移後即座に死体になるほど厳重な対策が施されており、これは現在の私達ではまず突破不可能な筈です。

 

  ですので、残りの待ち時間636秒の間に先程の話の続きや意見交換をするコトをお勧めします」

 

  そう言ってシャマルははやて達に先程の続きをすることを勧める。

 

  そしてはやて達は先程の警報のことや到着時間について色色シャマルに聞きたかったのだが、―――

 

「で、さっきの話の続きだけどね」

 

―――話し合っても時間の無断になると思ったアリサが眼ですずかに先程の話の続きをするように促し、その意を汲んだすずかが話し始めることで、はやて達がシャマルに質問することを封じた。

 

「速人さんが対立とは無関係になのはちゃん達にはやてちゃん達の秘密を言わないことが分かるって言ったのは、絶対に時空管理局の関係者に話しちゃうからだよ。

  そして時空管理局がはやてちゃんたちのことを知ったなら、凄い魔法を使えるシグナムさんたちやその主のはやてちゃんをまず攫いに来る筈だからだね。きっと。

 

  それに速人さんだけは魔法が使えないから置いてけぼりになるか、善意を装って連れて行かれた後に厳重な監視が付いて体の良い人質になるからだよ」

「あたしも同じね。

  ……さっき時空管理局のヤツの会話聞いてて思ったけど、それぐらいのことは普通にするでしょ、アレは。

  少なくても前線関係者と上の奴等は中世の異端審問官みたいな思考回路してるでしょうし。

 

  ………改めて思い返すと余計に腹が立つからこの話はこれでお終いね」

 

  そう言って先程の話を纏めるアリサ。

  そしてアリサははやて達の反論を先んじて封じるために逆にはやて達に質問する。

 

「で、到着までの残り時間どうするの?

 

  多分これだけ移動に時間がかかるなら速人の居る所と通信程度はできる筈だから、通信を見聞きして突入に備える?

  あ、でも戦ってる最中に通信ってできますか?シャマルさん?」

「区画を完全閉鎖されていない限り通信可能です。

  但し、恐らく向こう側への送信は制限されている筈ですので、此方の映像や音声は届かないでしょう」

「分かりました。

 

  ……で、はやて?どうするの?

  静かに考え込んで集中力を高める?それとも映像を見て闘志を燃やす?」

 

  そう訊ねられたはやては一瞬そのどちらでもなく、アリサとすずかに危険に巻き込んでしまったコトを詫びようかと思ったが、二人とも納得してる様であり且つ今は後でできることをする時間など無いと理解し、待ち時間をどうするかを考えた。

  尤も、答えはアリサに問いかけられる前に出ていたらしく、はやては直ぐに答えを返した。

 

「速人はんの様子を見るに決まっとる。

  ………今は少しで速人はんが何をしてて、そして何を思ってるのかを知りたい………」

 

  はやての言葉に異論は無いのかシグナム達は特に意見を挟まず、アリサとすずかも反対しなかった。

 

  そして反対意見が出なかった為シャマルは―――

 

「個別認証コード(符号)CBHAΓ5193。モニター(受像機)及びスピーカー(拡声器)起動。両機器受信情報現第二実験場。映像及び音声の自動最適化」

 

―――と音声で命令し、速人が居る第二実験場の映像と音声を展開させた。

 

 

  展開された映像と音声で、はやて達は始めの部分から速人がレイジングハートとなのはと戦っている様を知ることができた。

 

  どれだけ眼を背けたくなる光景が映し出されようと誰も眼を逸らさず、又誰もうめき声一つ発すことはなかった。

 

 

 

――― Side 八神 はやて ―――

 

 

 

 

 

 

 

――― Side 天神 速人―――

 

 

 

 

 

  エレベーターの到着3秒前に速人はそう呟き、スピーカーからこの施設内の情報を機械言語で報告し続けるように設定し、問題無くこの施設内のあらゆる現在情報が人間の可聴域外とされる音で速人に報告されだした。

 

  そしてその後約2秒半でエレベーターの到着を知らせる軽い電子音が辺りに響き、対戦車ロケットランチャーの直撃すら容易に防ぐ対爆仕様の多重隔壁が一枚ずつ開いていく。

 

  一枚の隔壁が凡そ0.2秒で開き、1秒もせぬ内にエレベーター自体の重厚なドアが速人から見てとれた。

 

  そしてそのドアが極普通のエレベータードアの開閉速度で開く。

 

  が、開閉中のドアの隙間からなのはの姿が速人から見えた瞬間、なのはから発せられた複数の魔力弾が開閉中のドアの隙間から速人目掛けて向かってくる。

 

  しかし―――

 

 

 

―――と速人が呟いた直後、速人の眼前に対戦車ミサイルすら余裕で防ぐ障壁が展開された。

  そしてそれと同時にレイジングハートとなのは目掛けて不可視帯域のコヒーレント光が照射された。

 

  だが光学兵器対策を施されているのか、展開されていたシールドに全て屈折及び拡散されてしまったのか、レイジングハートとなのはの周囲の床や壁が焼き穿たれただけだった。

  尤もそれに関しては速人の予測通りの結果であった。

 

 

 

―――

 

  光学兵器は攻撃到達速度が文字通り光速であり、更に照射面積と対象までの距離を調節すれば100W程度であらゆる物質を焼き切ることが可能だが、光の特性を持つので対策は容易であり、速人の想定通りレイジングハートには対光学兵器用の防御魔法がダウンロードされていた。

 

  光学兵器は光であり、光は異なる密度の物体を直進不可能であるため空気密度が異なれば屈折してしまい、他にも水に触れれば光が拡散して焦点温度が大幅に低下してしまうという欠点が存在し、対策が施されない方が不思議な程容易く対策が採れるものだった。

 

  尤も、出力を高めれば全てを瞬間的に高電離気体(プラズマ)化させられるので防ぐ事が極めて困難になるが、この施設内の光学兵器ではそこまでの出力は放てなかった。

  又、仮に放てたとしてもそこまで出力を高めれば直撃させずに掠めるだけで周囲の高電離気体の10万度前後の熱で瞬間的に焼死するので、殺害目的で使用するならば他に効率の良い殺害方法があるので速人は光学兵器の性能を然して向上させていなかった。

 

―――

 

 

 

  焼き穿たれた床や壁を見、速人はシールドが恐らく多重構造になっていて内部に異なる空気密度の層を作って屈折及び散乱吸収させたと判断し、レイジングハートが正常に機能している限りレイジングハートとなのは相手に光学兵器の効果が低い場合もあると判断した。

  尤も、攻撃到達速度が光速であるため、不意を突けば容易にレイジングハートとなのはを焼き切れるのだが、少なくともそれはまだ目的を果たしていないので速人は実行する気が無かった。

  故に速人は暫くの間は相手の思惑通り光学兵器が無効化されたと思っている様な行動を採ることにした。

 

  対して突如問答無用で攻撃したなのはは、エレベータードアが開くと同時に即座に生成した魔力弾を不意打ちで打ち出したにも拘らず、全て命中直前に床から生える様に展開された障壁に全ての魔力弾が阻まれたことに驚いていた。

  尤も、なのはとしては不意打ちのつもりだったが、速人は≒100%の確率でレイジングハートを用いてなのはが問答無用で攻撃を仕掛けてくると予測しており、速人的には全く不意打ちではなかった。

 

  エレベーター内の床や壁が蒸発した音と速人が展開した障壁に魔力弾が直撃して弾けた音の余韻が止み、その後展開時間を決められていた障壁が静かに床に沈んだ。

  そして障壁が床に沈みきった後、なのはは速人を見つめて話しかける。

 

「降伏してください。

  もうあなたの攻撃はあたしには効きません」

 

  攻撃を仕掛けておいて臆面も無く降伏勧告をするなのは。

  が、当然そんな戯言は速人に対して何の効果も無く―――

 

 

 

―――と、殆ど唇を動かさずに速人は呟き、自身の背後に在る電磁投射砲の照準を定め且つ1秒後に時限発射するように設定し、即座に右に跳躍した。

 

  そして、予め充電を終えていた電磁投射砲は充電時間を必要とせず、問題無く1秒後に砲弾を発射した。

 

  野球ボール程の真球の砲弾が約5km/sで速人から3m程の位置を通過し、レイジングハートの石突部分を目指して突き進んだ。

 

  砲弾がレイジングハートの石突部分まで残り1メートルを切った時、速人が跳躍した瞬間にレイジングハートが自動展開したプロテクションシールドが砲弾を阻もうとした。

  が、0.01秒も砲弾を止める事ができず、呆気無くシールドは抉り貫かれてしまった。

 

  その後砲弾はレイジングハートにも展開されているバリアジャケットをまるで問題にせず、易易とレイジングハートの石突部分を粉砕した後、床に着弾した(なのはの体は射線上に存在しなかった)。

 

  そして着弾と同時に着弾した床と砲弾が衝撃で弾け、近くに存在したなのはの体を床と砲弾の破片、更に音速突破の衝撃波が襲った。

 

  普通の人間であれば挽肉の金属片混入に速変わりするところだったが、強固なバリアジャケットが展開されていた為、なのはは少少血を撒き散らしながらエレベーター内を跳ね回るだけで済んだ。

 

  砲弾が着弾した影響も一段落し、うつ伏せに倒れたなのはが何とか起き上がろうとしているのを見た速人は、先程からレイジングハートのコアが在ると思しき場所がなのはの重要器官近くに押し当てられ続けていることから、自分の命を人質に速人の攻撃を防ごうとしていると判断した。

  尤も、速人はレイジングハートかリンディがなのはに、[いざという時は盾になって即死を免れるから]、などとい言い包めているだろうと予測しており、実際なのはの性格と人格と今までの反応からその認識でほぼ間違いないと判断していた。

 

 

  ふらつきながらも漸くなのはが立ち上がった時、跳躍後に着地した位置で速人は語りだす(衝撃波の発生角度と距離の関係で速人は全く無傷だった)。

 

「レイジングハート・エクセリオン。

  此方はこのまま高町なのはが戦闘不能になるまで攻撃を行うことが可能だ。

  因って手間を省く為にこの場で封印若しくは機能停止する事を受諾しろ」

 

  先のなのはの発言を馬鹿にするでもなく、況してや自身の優位を誇示するわけでもなく、淡淡と自身の要求を告げる速人。

 

 

 

―――

 

  速人はなのはが決して相手の言い分を受け入れず、自分の都合だけを身勝手な善意の下に押し付ける存在との結論を下していた。

  因って速人はなのはが降伏勧告を受け入れることは、精神崩壊でもしない限りはありえないと判断していた。

  だが降伏勧告をほぼ確実に受け入れないと予測しているにも拘らず、態態速人が降伏勧告を行った理由は、[異端審問の様な裁判に対する一つの保険]だった。

 

  時空管理局に捕縛されれば管理外世界の住人であろうが問答無用で時空管理局の法を強制するのは明白であり、その際速人(自分)達が現地(管理外世界)の法に則って行動したと主張しても何一つ考慮されないことも又明白であった。

  故に、自分達の法が完全に黙殺されるならば、時空管理局(相手)の法の隙を突く、若しくは心象を僅かでも良くする行いをして刑罰が軽減するように、と速人は算段を立てていた。

 

―――

 

 

 

  しかし相手の事など微塵も考えず、[自身の考えでこそ相手が幸福になる]と、そんな思想が価値観の根底に在るなのはは、速人が何を考えているかなど一切考えもせずに速人の降伏勧告に対して返事をする。

 

「そっ……そん……なっ………こと…………絶対…に…………しませんっ!!」

 

  石突に相当する箇所が損壊しているにも拘わらず、なのははレイジングハートを杖代わりにして立ちながら声を発した。

  が、速人はなのはではなくレイジングハートに降伏勧告を告げており、勧告相手でもなく且つどのような意思を示すかどころかどのような言葉を紡ぐかすらも容易に予測が付くなのはの言葉には何一つ反応を示さなかった。

 

  しかし自身の言葉を無視されたなのはは表情を険しくしながら怒鳴る。

 

「無視しないで何か言ってください!!」

 

  苛立ちと激昂の中間の様な表情と声で速を発するなのは。

  しかし、なのはの思考や感情に興味も関心も価値も一切見出していない速人は、相変わらずなのはの声に一切反応を示さなかった。

  が、速人はこのままではレイジングハートが降伏勧告の是非を述べる前になのはがレイジングハートを利用して攻撃を行うと判断した。

 

 

 

―――

 

  だがこのままでは、[降伏勧告の返答待ちの最中に癇癪を起こした者に一方的に攻撃を受けた]、という主張を裁判時にしても、[完全に無視した其方にも非が在る]、と切り返される可能性が在った。

 

―――

 

 

 

  故に速人は最低限なのはの相手をしたという姿勢を示すため、なのはに淡淡と告げ始める

 

「一つ、日本国内の不法入国者への滞在及び活動の幇助。

 

  異論は有るか?」

「………ほ……ほうじょ?」

「援助若しくは助力を行うこと、だ」

「って!?あたしはそんなことしてません!!」

 

  言葉の意味を理解した途端大声を発するなのは。

  しかし速人は全くそれに反応を示さず告げ続ける。

 

「PT事件の際にユーノ・スクライアと共に居た筈だが?」

「あ、あれはそうしなくちゃユーノ君が死んじゃうかもしれなかったし、それにジュエルシードを集める為には仕方なかったんです!」

「二つ、フェイト・テスタロッサとリンディ・ハラオウンとクロノ・ハラオウンとエイミイ・リミエッタの不法入国及び有印私文書偽造に関する重要参考人。

 

  異論は有るか?」

「な、何のことですか!?」

「先の四名の戸籍の偽造は有印私文書偽造と断定され、不法入国者として指名手配中だ。

  そして先の四名の内三名は約半年前にこの海鳴市に存在し且つ関係を持っていた事は多数の目撃証言が在り、更に監視衛星から別れ際と思われる際の映像から重要参考人とされている」

「そ……それは…………」

「三つ、未知の技術品と能力を保持し且つ経歴不明の者との交流について。

 

  異論は有るか?」

「な……何のことですか?」

「監視衛星からの映像より高町なのはを未知の技術品及び能力の保持者と本年度12月24日09時07分にアメリカ国家安全保障会議は極秘に判断し、経歴不明のフェイト・テスタロッサ以下四名の重要参考人との事実を考慮し、同日09時34分に国家安全保障法に基づき高町なのは及びその親類を秘密裏に国際連合加盟国全てにおいて指名手配とした。

  尚時刻はグリニッジ標準時だ」

「………………」

 

  先程聞いていた時と違い、なのはは現在日本や其の他各国に置いての自分の立場を漸く曖昧ながらも理解し、呆然としていた。

  しかしそんななのはの今更過ぎる心情を速人が考慮する筈も無く、更に淡淡と告げ続ける。

 

「四つ、国際連合認定点在型合衆都市国家EINS(アインス)への不法入国、並びに同都市国家の機密施設への不法侵入。

  尚アインスには此の施設も含まれている」

「……………………」

「以上四つの理由に因り、高町なのはが地球上で安息に暮らすことは非常に困難になった。

  又親類縁者は既に3親等以内とその配偶者は全て拿捕されている。

  迂闊な行動を採れば直ちに人体実験等に因り死亡するだろう」

 

  既に詰んでいる状況だということを漸く認識させた速人は呆然としているなのはではなく、先程から沈黙を守っているレイジングハートに話しかける。

 

「レイジングハート・エクセリオン。最後通告だ。

  この場で無抵抗に封印若しくは機能停止を受け入れるならば、此方は高町なのは及びその親族に関して先程の罪状や扱いを撤回させる。

  この条件の下に降伏するならば是と、降伏せぬならば否と述べよ。

  尚十秒以内に返答が無い、若しくは是と否以外の言葉を一句たりとも述べた場合は否と判断する。

  10…9…8…」

 

  常識的に考えれば在り得ない程破格の条件を提示する速人。

 

 

 

―――

 

  本来ならば交換条件として技術提供や細胞組織の一部採取等は当然であり、更に提示条件も自治領域内の機密施設内での生活保障程度が普通であった。

  だが降伏するだけで一切の要求無しで全ての罪科等を消し去るなど、破格の好条件のようであるが、その実殆ど悪質な詐欺だった。

 

  その理由とは、仮に全ての罪科等が消え去ったとしても、再度同じ罪科を掛けられぬ保証が一切存在しないからであった。

  というよりも、罪科が消え去った後に1時間以内に要求の穴に気付いて再度同じ罪科を掛けられて振り出しに戻るのが普通である。

  しかも未知の技術品と能力を持ったなのは()速人(自分)の領地内から外に出す条件がなのはに掛かった罪科を帳消しにすることならば、多大な貸しを諸外国(ほぼアメリカ)に作れることになり(会議を開く議員を集める手間以外支払うべきモノが無いため)、速人は容易に諸外国との関係を良好且つ強力なモノに出来るのだった。

  更に速人は既に実験体(なのは)がおらずとも問題が無い程に魔力や魔法についての解析は済んでおり、魔法の直接調査等はシグナム達の協力の下殆ど終っており且つ半月程前のとはいえレイジングハートの全内部情報を把握しており、その上後半月程で魔力炉やカートリッジ生産機の試作機が完成予定であり、はっきり言ってなのはが居ようと居まいとこれからの発展には殆ど影響は無く、寧ろ得るモノは殆ど無いにも拘らず暴走する可能性が非常に高い厄介者でしかなかった。

  尤も、卵巣を摘出後人工授精をし、不確かとはいえ魔導師の量産が可能なので一応利用価値は在るのだが、その様なことを行えば間違い無くフェイト達が時空管理局の者達を引き連れて干渉し続けるのは明白であり、費用対効果を考えれば毛髪の一本から複数の複製体(クローン)を製作し、その中から魔力を持っている者を使って魔導師を生産すれば済むので、速人はなのはの身柄を保持する気は微塵も存在しなかった。

 

  つまりなのはが生きて地球(第97管理外世界)に居るならば、この場でのレイジングハートの答えや勝敗に関係無く結果は大同小異であり、速人がレイジングハートに降伏勧告を行ったのは裁判時を見越しての点数稼ぎと、なのはが極小の確率ながら降伏するならば手間が省けるという二つが主な理由であった。

  尚、速人的には降伏勧告後デバイスを封印若しくは破壊してなのはを放逐する事と、レイジングハートとの戦闘で重傷を負うことは、どちらも裁判時は同程度自分達に有利なる事項だろうと判断していた(質量兵器を行使している速人相手ならば仮に殺害しても正当防衛という名目が付く可能性が高い為、余り点数は稼げないと速人は判断している)。

 

―――

 

 

 

  つまり速人の提案は、[只、若しく破格の安値より高いものは無い]という見事な見本であった。

 

  しかし世間を操る裏の悪意ともいうモノを然程知らないレイジングハートは、ただ破格の好条件で怪しいという結論に達するだけで、速人の思惑は殆ど分からなかった(速人が得をするというのだけは分かったが、それがなのはの損に直結するかまでは分からなかった)。

  しかも迂闊に念和でなのはと話せば是と取られる可能性が在り、そもそも10秒未満の時間をなのはと意見を交し合っても丸め込めることなどほぼ不可能なのは明白であり、更にこれ以上返答を延ばすとなのはが勝手に攻撃を仕掛けるだろうとレイジングハートは予測していた。

  そしてもしそうなれば、[降伏勧告の返答待ちの際に攻撃を仕掛けた]という、裁判時に管理局にとって非常に都合の悪い状態になるのは明白であった。

  故にレイジングハートは即座に決断を下した。

 

No, it refuses.≫(否、御断りします)

「ならば告げておこう。

  判断を誤る事が無ければ、高町なのはは此方と其方がどうなろうと五体満足でいられるだろう。

 

  因ってこの茶番が決する時まで判断を誤るな」

≪……Thank you for advice.≫(……御忠告感謝します)

「礼は不要。

  俺が価値在ると思う者達が殺人を嫌い、高町なのはが生きている事を望んでいると判断したので可能な限り要望に沿うよう行動しているだけだ。

 

  此方としては高町なのはは今でもとりあえず死体に変えておきたい存在だ」

≪………Your existence is respected.≫(………貴方の在り方に敬意を表します)

 

  速人はそれには言葉を返さず、魔導師殺しを構えて告げる。

 

「さあ、レイジングハート・エクセリオン。高町なのはの行動制御を誤るなよ。

  はやてとアリサの望んでいると思しきことには可能な限り沿いたいからな」

Yes…….≫(分かりました……)

 

  そうレイジングハートが述べ、その後若干の間の後に速人とレイジングハートが攻撃を行おうとした瞬間、今まで呆けていたため癇癪を起さなかったなのはがとうとう癇癪を起した。

 

「ま、待って下―――」

≪―――Please make Master insistence a back

  The omission cannot be expected any longer!≫(―――マスターの主張は後にして下さい!

  これ以上の手抜きは期待できません!)

 

  しかしなのはが癇癪後に暴走する直前、レイジングハートは全力でなのはを諌めた。

  が、他者の意見を聞いても考慮は決してしないなのはに諫言など何の効果も無く、レイジングハートの換言の直後、それに全く構わず速人に主張をぶつけるなのは。

 

「お願いです!話せばきっと分かり合え―――」

「レイジングハート・エクセリオン、高町なのはが精神崩壊若しくは意識を失えば如何なく力を揮えるか?」

≪……No.≫(……させません)

「―――るはず…………っっぅぅ!!話を聞―――」

「ならばここまでだ。

  俺ははやて達が此の場に到着するまでに状況を整えなければならない」

≪……Are not you stopped?≫(……どうにもなりませんか?)

「人と人間が相容れる時など訪れはしないだろう」

「―――いてくださ………………………っっっっぅぅぅぅぅ!!!そんなこと―――」

Only one time, please.

  Please hear and answer story of Master.≫(一度だけで構いません。

  マスターの話を聞き、そして応えてください)

「暇が在れば高町なのはが発する震動を言語と捉えよう。

  だが高町なのはは自身の主張を強制するだけで相手の返答を必要としていない以上、此方が答えることなど何一つ無い。

  故に暇が在る場合に限り、此方の価値観の一部を告げるに止めよう。

  無論この状況が変化したならば、暇が在ろうと聞くことも告げることも基本的に行わないが」

「―――ありま………せ………………………………」

 

  微塵も自分の言葉を気にも留めない速人とレイジングハートになのはは只管癇癪を起し続けていたが、最後に止めとばかりに速人から自分の在り方を虚仮にされたと感じたなのははとうとう色色と限界突破や崩壊を起したらしく、目を細めて速人を睨みながら呟いた。

 

嫌でもお話させてあげるよ。……………絶対に

 

  その口調や表情から速人はなのはを暴走させることに成功したと判断し、直ぐに問答無用で降り注ぐだろう攻撃に対して速人は今まで以上の警戒を払いだした。

 

 

  そして言葉が途切れて一秒の間も置かず、なのはは魔力弾を速人目掛けて5つ発射しつつ突進してきた。

 

   

 

  だが魔力弾の全てが不可視帯域コヒーレント光で貫かれて消滅し、それとほぼ同時になのはの足元目掛けて電磁投射砲から砲弾が発射された。

 

  そして呆気無くなのはのシールドを抉り貫いて着弾した砲弾は、先程と同様に砕け散った。

  尤も床の構成材質がエレベーター内とは異なるので、今回は砲弾が着弾しても床に幾つかの罅割れが出来るだけで、先程の様に床が砕けなかったため破片が舞う量は先程よりも少なかった。

 

  だが、破片の量が少ないといえども、音速を超えて爆散する破片から逃れることなどなのはには出来ず、結果先程と同じく破片と衝撃波でなのはは宙に舞った。

  対して速人は先程と同じく砲弾の射線上に存在せず且つ距離も在ったため、衝撃波と砲弾の破片で傷を負うことはなかった。

 

  そしてなのはが宙を舞っている間、速人は死なぬ程度に砲弾の射出速度と重量を調整した電磁投射砲での砲撃をなのは目掛けて撃とうとした。

 が、―――

 

Flash Move.

 

―――レイジングハートが自動でフラッシュムーヴを発動させ、速人の捕捉を振り切った。

 

  しかし直ぐにフラッシュムーヴの効果が切れ、レイジングハートは即座に速人に捕捉された。

  が、その事についてレイジングハートは全く慌てず、寧ろその場から急いで移動しようとしているなのはへと慌てて声を掛けた。

 

MasterOnly even she should fight while defending so that it is not exposed to our atta!≫(マスター!私達の攻撃に晒されぬよう、彼女だけでも守りながら戦うべきです!)

……分かったよ……

 

  若干虚ろな眼をしながらもごねずに即座に了承してくれたなのはにレイジングハートは安堵した。

 

 

 

―――

 

  速人の砲撃を防げぬにも拘らず防御範囲を広げる提案は一聞すると愚かな提案だが、実際はかなり有効な策であった。

 

  確かになのはは此の施設内兵器の一定以上の攻撃を防ぐ事は不可能であり、にも拘らず防御範囲を広げる事は常識的に考えれ敗北の可能性を大幅に上げるものである。

  だが、此の施設内兵器の攻撃は何れも非常に攻撃力が高く、半端な防御は易易と貫いてしまい、砲撃に至ってはバリアジャケットを展開していて尚余波だけで気絶する可能性すらある程のモノであった。

  そして当然それほどの余波をバリアジャケット無しで浴びれば死亡する可能性は非常に高く、レイジングハートはそこに活路を見出していた。

 

  速人はヒトでないアルフは兎も角、ヒトであるフェイト達を殺すことに対して自ら制限を掛けており、更にはやてやアリサの要望ということで大怪我を負わせる事に対しても制限を掛けているので、レイジングハートはバリアジャケットを纏っていないフェイトの傍ならばそう易易と攻撃力や破壊力が高い攻撃を放たないと判断し、一番安全だと想われる場所になのはを誘導していた。

 

  つまり一見するとなのはがフェイトを守っているようだが、実際はフェイトの命を盾にして速人の弱みを突いているだけであった。

  尤も速人としてもその可能性は考慮済みであり、フェイトを気遣って対処をすれば少なからず裁判時にプラスに働くと判断していたので、レイジングハートがフェイトの傍に行くのを妨害しなかった。

 

―――

 

 

 

  しかし常に自身が正しく且つ善であるという認識が思考の根幹に在るなのはは、不都合な事態が起きれば、[正義の自分に歯向かう悪い相手(若しくはそうなるよう世界を管理している相手)の所為]、と本気で思っているため、自分の行動がどのような意味を持っているのか全く気付きもしなければ考えもしなかった。

 

  そしてなのはが特に自身の行動の意味を考えもせずにフェイトの傍に留まり、微塵も気負う事無く速人に7発の魔力弾を放つが―――

 

 

 

―――先程と同じく不可視帯域コヒーレント光によって残らず迎撃される。

  だが、―――

 

Master please give priority to the numbers more than power

  The escutcheon is sure to come out if the number is valued.

  At that time, it is necessary to decide the match because view is interrupted if it does so!≫(マスター!質より量を優先してください!

  数を重視すれば障壁が出てくるはずです。

  そうすれば視界が遮られるので、その時勝負を決めるべきです!)

分かったよ………」

 

―――光学兵器は充電の関係で連射が不得手と知っていたのかは不明だが、的確な進言をレイジングハートは行った。

  尚、念話の間もレイジングハートは速人が近づかないよう、自動で速人に魔力弾を放ち続けていたが、誘導弾ではなく且つほぼ単発の魔力弾では接近の速度を遅くするのが限界だった。

 

  そして速人がそろそろレイジングハートからのほぼ単発の攻撃を掻い潜り、レイジングハートとなのはに接近しそうになったその時、なのはは速人に魔力弾を放った。

 

  なのはより放たれた魔力弾(ディバインシューターの劣化改造版)は誘導性能が微塵も無く且つ照準も全く定められておらず、数に物を言わせて乱射されているだけだった。

  だが、誘導性能と照準を合わせる過程を省いてでも弾丸の生成速度と弾速を優先し且つ数を確保したため、その場の思い付きでの術式変更の魔法でも速人の迎撃能力を上回ることには成功したらしく、―――

 

 

 

―――速人の前に障壁が展開された。

 

  そして障壁が展開されたのを確認したなのはは、魔力量に物を言わせた攻撃を行った。

 

アクセルシューター

 

  小声で発せられた声と同時になのはから12個の光体が、障壁の向こうの速人が居るだろう凡その位置目掛けて障壁を避ける軌道を描きつつ向かっていく。

  が、―――

 

 

 

―――障壁を越える前に12の光体は全て不可視帯域のコヒーレント光に貫かれ、一つ残らず消失した。

 

  位置的に速人から見えていた光体も在ったが、明らかに速人の位置から見えるはずのない光体も迎撃されたことに気付いたレイジングハートは、瞬時に作戦の変更を提案した。

 

Master The reason cannot be understood. However, there might not be obstacle in the action even if the boy is not seen.

  Therefore, it is necessary to change to a physical setting, to destroy the barrier and arms, and to disempower it.≫(マスター!理由は不明です。が、少年は見えなくても迎撃に支障は無いと思われます。

  ですから物理設定にして障壁や兵器を破壊して無力化するべきです)

物理設定承認……

 

  戦闘に置ける判断に限れば合理的に見えるが、其れ以外に関しては凄まじく短絡的な思考になっているのか、それとも普段以上に凶暴化しているのかは定かではないが、人間に中れば容易く死んでしまう可能性が在る物理設定を簡単に許可するなのは。

 

  そしてなのはから物理設定の許可が下りた次の瞬間、レイジングハートは全ての魔法を物理設定にして発動させた。

 

  物理設定にされたディバインシューターの劣化改造版の魔法が、先程と同じく次次と障壁に着弾していく。

  だが、着弾角度次第では電磁投射砲での最大出力の砲撃ですら1回は耐えられる障壁は、当然そんな小技では小揺るぎもしなかった。

 

  自分に向かう攻撃が障壁で遮られている隙に、速人はレイジングハートをなのはと重ならずに魔導師殺しの射線上に捉え且つ精密射撃が可能な射撃体勢をとるため、レイジングハート達に位置を正確に特定されるのを承知で障壁の陰から飛び出した。

 

  当然次の瞬間速人に多数の物理設定の魔力弾が速人目掛けて放たれることになる。

  だが、なのはが魔力弾を放つ直前に―――

 

 

 

―――障壁がなのはを囲んだ。

 

  突如自身の周りに隙間はあるものの  に近い形で3枚の障壁が展開され、突如速人の位置が掴めなくなってしまったためレイジングハートは焦った。

  しかしレイジングハートは単に視界(に相当するモノ)を遮られて速人を捕捉出来なくなったために焦ったのではなく、自分が全く相手を捕捉出来ない状態にも拘わらず、理由は分からないが速人が一方的に自分達の位置を捕捉出来るから焦ったのであった。

 

 

 

―――

 

  一応レイジングハートにもアースラが放ったサーチャーを介して第二実験場内の様子を察知することは機能的に可能なのだが、何故か情報の送受信が全く行えず、更に攻撃の合間に放ったサーチャーは全て1秒以内に破壊されており、レイジングハートの知覚範囲は普段と比べて非常に狭かった。

  尚、レイジングハートの不調の原因は、以前速人がレイジングハートにクラッキング行った際に仕込んだウィルスが原因であり、そのウィルスの発動条件は[バリアジャケットを展開した状態で速人を直接認識する]であり、その効果は[ネットワークを使用不可能にする]であり、その効果は確りと現れていた。

 

  対して速人の知覚範囲は単純な五感だけでなく、此の第二実験場内からのスピーカーから絶えず人間の可聴域外の音域で流され続けている機械言語に因り、光波・電磁波・粒子・熱・音波・圧力等の測定方法を用いてこの第二実験場内の情報を0.1秒毎にほぼ完璧に掌握していた。

  更にレイジングハートは予想だにしていないが、第二実験場以外に地下研究所や其の他関係各所の情報も速人は1秒毎に大雑把にだが掌握しており、はやて達の現在位置や到達予想時刻もほぼ完璧に掌握していた。

 

  そしてレイジングハートは互いにどれだけ知覚精度と範囲に開きが在るかは分からなかったが、少なくとも自分達が大幅に劣っていると判断していた。

 

 

 

  故にレイジングハートは速人がその知覚精度と範囲を最大限活用する為密かに此の場を離れ、その後延延と機械相手に死闘を繰り広げなければならなくなると思い、何としても速人をこの場に縫い止めなければならないと焦っていた。が、速人は能力や有利を活かす為に行動を起こすのではなく、目的を成す為に行動を起こすので、レイジングハートの危惧は少少見当外れではあった。

  尤もそれ以外にも散発的に見えない攻撃を浴びせ続けてなのはの集中力が切れる持久戦に持ち込まれたりすることもレイジングハートは危惧していた。が、やはり最も危惧しているのは機械相手に延延と戦い続ける状態に陥ることであり、なのはが痺れを切らして無策で吶喊しても速人さえ無力化すれば攻撃が終る(とレイジングハートは判断している)ので、機械の相手だけを延延と対処し続けるよりは遥かにマシだとレイジングハートは判断していた。

 

  とは言え、流石に囲われた障壁の隙間から脱出しようとしたならば、通過する場所が分かっている以上は迎撃されるのはほぼ必至であり、しかも運良く迎撃を免れたとしても人質(御守り)を持っていなければ早早に迎撃されるのはやはりほぼ必至であり(それでも機械だけを相手に戦うよりは遥かにマシだとレイジングハートは判断している)、その様な事態を避けるためにもレイジングハートは人質を抱えて移動する大義名分若しくはそれ以外の適切な行動指針をなのはに提案しなければなのはが早早に暴走するので、少なからず焦っていた。

 

―――

 

 

 

  そして障壁が展開されて3秒程経過した時、レイジングハートが危惧した通り不可視帯域コヒーレント光がレイジングハートとなのはに照射された。

  だが、障壁が邪魔になってレイジングハートとなのはに直接照射可能な砲門は3つだけであったので、物量に物を言わせて防御魔法を貫くことは出来なかった。

  それどころかレイジングハートは床の僅かに焼き穿たれた穴とその穴の角度、そして先程展開したシールドの屈折率と散乱吸収率等から攻撃が放たれた位置を逆算し、砲門の位置に見当を付けた(不可視帯域コヒーレント光の砲門は照明用LEDランプに偽装されているので発見は困難)。

 

Master The position of the port was able to be specified.

  Direction elevation 80 degrees per direction elevation 60 degrees per direction elevation 50 degrees a o'clock and four o'clock and nine o'clock.

  Please keep top priority and attack the number and the speed.

  I fine-tune it.≫(マスター!砲門の位置が特定できました。

  一時方向仰角50度、四時方向仰角60度、九時方向仰角80度。

  弾数と弾速を最優先に攻撃して下さい。

  微調整は私が行います)

…分かったよ

 

  なのははレイジングハートの要請に低い呟きで了承の意を返すと、先程と同じくアクセルシューターの劣化改造版で攻撃を始める。

  だが、―――

 

 

 

―――先程と同じく魔力弾が迎撃されるのは変わらなかったが、一時的にとはいえ完全に速人を攻撃対象から外した攻撃をレイジングハートとなのはが行った瞬間、展開されていた障壁が全て床に収納された。

 

  当然速人はレイジングハート達から知覚されることになる。

  だが、障壁で囲われる前と違って速人が自分達の側面に回り込んでいることに気付いたレイジングハートは―――

 

MasterIn boy's direction≫(マスター!少年の方を)

 

―――[please turn.](向いてください)、と、なのはに警告しようとしたが、それよりも早く速人は右腕での変則片手持ちで魔導師殺しから魔導師殺しを発砲した。

 

  発砲した直後、速人は反動で右手首が砕け、更には反動を支えきれずその場に転倒した。

 

 

 

―――

 

  魔導師殺し。

  銃だけではなく、専用の弾丸にも同じ名が付けられているが、それは.700NE(通常弾)とは違い、現在では恐らく魔導師殺しという銃でしか撃つことが出来ない代物であった。

  そして打ち出される弾丸のエネルギー量は既に大砲の領域であったが、大砲と違って弾丸が圧倒的に小さいのでエネルギー密度は比較になら無い程高いが(1千倍以上)、反動はそれ以上に高かった(軽い物体は重い物体に比べてエネルギーを伝播させ難いという技術や物理問題が存在するため)。

 

  当然速人はそれを熟知しており、可能な限りその反動を和らげる為、右腕を床と平行にし且つ軽く肘を曲げた状態にし、更に前方照準器(フロントサイト)後方照準器(リアサイト)と右肩の関節が一直線になるよう配置し且つ右手首を左手で握って支えるという、衝撃吸収よりも反動の被害を最小限に抑える射撃を行った。

  しかし、それにも拘らず、戦車砲の10%前後の出力の反動に耐えることはできず、発砲した直後、握っていた側の右手首は砕け、その直後右肘が骨折寸前まで折れ曲がり、更にその衝撃を逃がすため右肩が後方に流される。が、それでも反動を吸収しきれず、速人は右肩を支点にその場で回転してしまい、更に不安定な回転中に右手に持った銃に引き摺られたために空中で錐揉み回転をすることになった。

  衝撃吸収の為に右手首を握って支えていた左腕ではまるで役者不足だと言わんばかりに。

  尚、発砲と同時に手首が砕けるのを速人は予測していたので、予め銃把(グリップ)から伸びる金属縄(ワイヤー)で銃を右手に固定しており、その為右手首が砕けようと銃が右手より離れることはなかった。

 

―――

 

 

 

  たった一発の発砲で自身にそこまでの被害を出した速人だったが、放たれた弾丸はそれに見合った威力が存在しており、レイジングハートが自動で傾斜状に展開したラウンドシールドを易易と貫き、更にはレイジングハートの宝石部分の端の部分を貫いた。

  そして弾丸は徒貫いただけには留まらず、貫いた宝石部分の周辺を瞬時に砕き散らし、宝石部分は有明月程度(三日月と半月の中間の様な形)しか残っていなかった。

  しかも秒速約3kmの弾丸が至近距離を通過したため、なのははバリアジャケットを纏っていて尚衝撃波で胸を深くもないが無視できるほど浅くもない程度に切り裂かれた(止血処置をしなくても死にはしないが、その場合戦闘続行が困難になるほど出血が続いた後に出血が止まる程度の傷)。

 

  尤も、レイジングハート達も只で攻撃を受けたわけではなく、不可視帯域コヒーレント光の砲門を二つ破壊することに成功していた。

 

  だが一見すると圧倒的に速人に軍配が上がる先程の遣り取りは、両者とも(速人とレイジングハート)は速人の不利に終っていると正確に判断していた。

 

 

 

―――

 

  確かに一見するとレイジングハートの被害は深刻に見えるが、実際はレイジングハートの被害は見た目程深刻ではなかった。

 

  宝石部分は一見するとコアのように見えるが、実はコアではないというコトを両者は知っていた。

  そも、自身の存在の核を一見して分かる形状で露出させる事は凄まじく非合理的であり、更に以前ヴィータがなのはを襲撃してレイジングハートの宝石部分に亀裂が入った際のデメリットが、[一定出力以上の魔法の反動で破損及び崩壊する]ということだけなのはあまりに不合理であり(ヒトで言えば脳の一部が破裂した状態のデメリットが、[派手に動けば死ぬかもしれない]に相当)、其の事からも簡単に推測できることであった。

  尤も、レイジングハートは自身の被害状況を正確に把握するために自身の大まかな構造は理解しており、速人はレイジングハートから情報を汲み取っていたので同等以上の知識を保有しており、両者とも過去の事例から推測するまでもなく知っていた。

 

  そしてそのことを踏まえて状況を鑑みれば、レイジングハートは変形が不可能になったことと耐久性が少なからず減少したことに因り大技が使用不可能なった程度の被害であり、対して速人は右手首粉砕骨折・右橈骨及び右尺骨亀裂骨折・右肘捻挫・右長掌筋及び右腕橈骨筋の一部破裂・右尺骨動脈破裂etcとかなりの損傷であった。

  特に重要血管が発砲の反動と粉砕した骨が原因で破裂しており、砕けた骨が皮を突き破れば相応の処置を施さなければ失血死する可能性が高く、レイジングハートの大技使用不可能だけと比べると、明らかに速人の被害は割に合わなかった。

 

  そも、ほぼ無防備(バリアジャケットは展開しているが)の状態で溜めを必要とする大出力魔法など現状では全く以って不要であり、必要とする時はシグナム達と相対した場合のみだろうが、如何にレイジングハートとなのはでも流石に4対1では撤退すら困難であるので、レイジングハートは最初から最悪速人を殺してでも無力化し、その後急いでフェイト達を回収して離脱するつもりだったので、大技が使用不可能になった事態を殆ど気にしていなかった。

  尚、レイジングハートにとって速人の無力化はフェイト達を回収するための絶対条件であり、隙を突いてフェイト達を回収して離脱などという選択肢は存在しなかった。

 

―――

 

 

 

  どちらが現在不利な状況かを正確に把握した速人とレイジングハートは、即座に次の行動に移った。

 

「  」

 

  速人は失血に因り行動不能になる前にレイジングハートを無力化するため、先程と同じく再びレイジングハート達を障壁で囲むことで視界を塞ぎ、その後室内戦限定の無音走法で移動した。

  対してレイジングハートは―――

 

Master  First of all, please concentrate on the defense  Please attack the speed in top priority after defending gunning

  I do the orbit correction!≫(マスター!  まずは全力で防御を!  銃撃を防いだ後は速度最優先で攻撃を!

  軌道補正は此方が!)

 

―――と、なのはに作戦を進言しつつ、少しでも早く攻撃に対応できるよう、負荷を承知で演算速度を上昇させた。

 

  それから数秒後、突如レイジングハート達を囲う障壁の一枚が床に沈んだ。

  そして障壁が沈む最中、速人はなのはの右耳を狙って通常弾を一発発砲した。

 

  放たれた銃弾はシールドに対して鋭角に着弾したため、銃弾はシールドを貫く事無く受け流され、なのはは被弾せずに済んだ。

  だがその代償に、銃弾を受け流したシールドは表面を削ぎ散らされたため消失し、なのはの魔力は少なからず減少していた。

 

  しかし虚ろな眼をした今のなのははそのようなことで意識を逸らしたりはせず、即座に速人に向けて発射と弾丸の両速度を最優先した魔法を放った。

  だが、それとほぼ同時に速人の足下から障壁が展開された。

 

  当然足下が障壁として迫り上がれば速人は瞬く間に宙を舞うことになるが、それは迫り来る魔力弾を躱し且つ狙撃可能な状態になったということでもあった。

  そして宙高く舞った速人は、シールドの再展開よりも攻撃を優先させたため守りがバリアジャケットのみになったレイジングハートとなのはに銃口を向けた。

  だが速人が発砲するよりも早く、レイジングハートは自動でラウンドシールドを展開して銃撃に備えた。しかも銃口の角度に対して可能な限りシールドを鋭角に展開して。

 

  しかしレイジングハートが攻撃に備えるとほぼ同時に―――

 

 

 

―――再びレイジングハート達を囲む様に障壁が展開された。が、今度は囲む様に展開されただけではなく、レイジングハート達を囲むように障壁を展開させた後、速人を先程宙に舞わせた障壁からレイジングハート達を囲む障壁迄の間を少少列が乱れてはいるがドミノ倒しが可能な幅で障壁が展開された。

  そして宙を舞っていた速人が障壁の上に着地すると、障壁を足場にしてレイジングハートが居る場所に向かって跳躍しながら移動し始めた。

 

  2秒も掛からずレイジングハート達を囲む障壁の一つ手前に到着した速人は―――

 

 

 

―――レイジングハート達を囲む障壁に向かって跳躍すると同時にこれまで足場にした障壁を全て収納した。

 

  足場にしていた障壁を収納した直後、レイジングハート達を囲む障壁の一つが収納され、両者の意識を其方に向けさせる。

  だが、当然両者が意識を向けた方向に速人は存在せず、両者がそれを訝しみながらも残りの障壁の向こう側に注意を向ける直前、再度障壁が一枚収納され、又も其方に両者の意識は向けさせられた。

  そして展開された障壁が残り一枚になった直後、速人はこれまで通り然して音も無く障壁を蹴ってなのはの背後目掛けて跳躍し、それとほぼ同時に最後の障壁も収納され、開けた視界内の何所にも速人の姿が無い事になのはは眉を顰めたが―――

 

Overhead!≫(上!)

 

―――レイジングハートに指摘され急いで頭上を仰ぎ見た。

  するとそこには宙からレイジングハートを狙っている速人が存在し、レイジングハートは再度急いで銃口角度を計算しながらシールドを展開した。

  が、速人はレイジングハートを射線に捉えたまま発砲せず、遂にレイジングハート目掛けて発砲すればなのはまで被弾してしまう位置まで落下した時、レイジングハートは今の速人の目的が自身の破壊ではなく、フェイトをなのはから引き剥がすことだと気付き、そうはさせまいと即座にシールドの規模を拡大させてフェイトと速人を分かつ壁にし、そして速人を足止めしている間になのはにフェイトを連れて離脱するよう進言しようとした。

 

  だが―――

 

 

 

―――レイジングハートが進言しようとした時とほぼ同じ瞬間に複数の不可視帯域のコヒーレント光がシールドを切り刻み、シールドは瞬時に崩壊して消え失せた。

 

 

 

―――

 

  如何に光学兵器に対しての備えを有していたとしても、デバイスが瞬間的に自動展開したシールドに範囲約0〜120度・仰角約0〜80度で多数照射されるコヒーレント光を防げる程の散乱吸収及び避弾経始能力を付与できる筈もなく、又単純な強度で防ぎきれる筈もなく、シールドが即座に焼き切り刻まれて消失するのは当然だった(鉄を溶かすだけでも最低摂氏1535度、蒸発させるのには最低摂氏2754度必要)。

 

―――

 

 

 

  そしてレイジングハートが展開したシールドが消失し、問題無くなのはの背後に着地した速人は、両手で持った魔導師殺しの弾倉をなのはの右側頭部に押し付けて発砲した。

 

  発射された通常弾は着弾時に弾丸の破片が飛散しても問題無い箇所の壁に速人の狙い通り着弾し、発砲音に重なる様に弾丸の破裂音を撒き散らした。

  だが、発射された弾丸がなのはやレイジングハートに掠りもしていなくとも、弾倉を側頭部に押し付けられた状態で発砲されたなのはは、撃発時の強烈な衝撃(振動)が弾倉より頭蓋骨から中枢神経に伝播し、バリアジャケットを展開していて尚前後不覚状態に陥った。

 

  当然その隙を速人が逃す筈もなく、なのはの側頭部に押し当てたままの銃をなのはの頭部ごと若干下向き加減で左へと振り払った。

  だが、普通ならばバランスを崩されて転倒するだけだったのだが、常識外の速度で側頭部を振り払われた為、側頭部を支点にしてなのはは宙に舞ってしまった。

 

  前後不覚状態で宙に舞うなのはに速人は止めとばかりに銃口を向けるが、即座にレイジングハートが再度シールドを展開させた。

  が、速人は始めからレイジングハートにシールドを展開させることでバインドや砲撃を行わせない事が目的だったので、シールド展開とほぼ同時に速人はフェイトの方へと一歩踏み出し、二歩目でフェイトの胴体を掬い上げるように蹴り上げ、三歩目を踏み出す前に―――

 

 

 

―――レイジングハートが放ちかけた魔力弾を不可視帯域のコヒーレント光で貫いて霧散させ、その直後に三歩目を踏み出しながらもフェイトを掬い上げる様に抱え込み、四歩目で前方に跳躍すると同時に―――

 

 

 

―――レイジングハートの追撃を遮る為に障壁を展開した。

  そしてレイジングハート達から人質(フェイト)を引き離した後、―――

 

 

 

―――速人は即座にユーノとクロノを囲むように障壁を展開させ、容易に人質として利用できぬように対処をし、それと同時に速人はなのはが前後不覚状態から回復する迄の間に可能な限りレイジングハート達からフェイトを抱えたまま距離を取った。

 

  そして速人がレイジングハートとなのはがどのような曲線移動をしようと最低1回は方向転換しなければ自身に接触する事が不可能な位置に移動した時、丁度なのはは前後不覚状態から漸く回復し、更に若干虚ろな眼も元に戻り、忘我の状態から脱した。

  尤も、自我を一時的に薄めることで判断速度の高速化を図っていたので、忘我の状態から回復すれば必然的になのはの判断速度は通常状態に戻ってしまった。

 

  だが、判断速度の高速化及び合理的な戦闘判断が下せる状態(自我や理性が希薄化した為普段掲げている浮薄な倫理観等に阻害されないため)が解除される事は、普通ならば相手の弱体化と同義なので利のみしか発生しないのだ、速人にとっては不利益も存在していた。

 

 

 

―――

 

  速人としてはレイジングハートとなのはの攻撃で致命傷以上の傷を負い、裁判時に身内が瀕死の重傷乃至死亡したことではやて達の心象を良くし且つ時空管理局に未成年を重症乃至死亡に追いやったことで負い目を持たせ、少しでも裁判を有利に運ぶ目論見があった。

  しかしなのはが通常状態に戻ってしまえば速人が疑われずに致命傷以上の傷を負う事は極めて困難になり、速人としてはなのはが通常状態に戻る事は不利益になる要素が在った。

 

  だが、前後不覚状態から回復したならば、普通は忘我の状態からも高確率で回復するのを承知で速人がなのはを前後不覚状態にしたのには当然理由が在り、その理由とは、[戦闘終了の拍子(タイミング)を調節し難い]、という、多くの不利益に目を瞑らざるを得ない理由だった。

 

  確かに速人が瀕死の重傷乃至死亡すれば裁判時には多少有利にはなる。

  だが、はやて達が到着する前に速人の身柄が拘束されて人質として活用されてしまえば、極めて高い確率でシグナムを除くはやて達が降伏してしまうので蒐集は完了せず、更に当然はやて達は時空管理局に軟禁か人体実験か封印され、軟禁中に書の侵食により死亡するか、自身達に所属しておらず且つ自身達に不利益を齎した高ランク魔導師ということで人体実験の後に死亡するか、夜天の魔導書に修復が発見された際に速人の身柄(治療)を盾に若しくは速人が死んでいる場合ははやて達に押し付けた罪状の恩赦と魔導書の所有権を盾に隷属を強いるのは明白であった。

  そして其の事態を避ける為にも、瀕死の重傷乃至死亡する拍子ははやて達がこの場に現れる直前か直後にする必要が在り、其の拍子を最も制御し易いのは普段の状態のなのはであるため、速人は故意に傷を負ったと悟られる可能性が高くなるのを承知してなのはを普段の状態に戻すことにしたのだった。

  尚、はやて達が到着した時に速人が瀕死の重傷乃至死亡していなければはやてが和睦か投降を主張し、はやて達が到着する前に速人が身柄を拘束された場合と大差が無くなるので、瀕死の重傷乃至死亡する拍子は遅すぎても問題が在った。

  それと、何故はやて達が到着する直前か直後に瀕死の重傷乃至死亡すれば其れ等の事態が回避されると速人が考えているかというと、【目の前で家族の誰かが瀕死乃至死亡した(殺された)ことを自身が触れて確認すれば、ほぼ確実にはやては錯乱するので交渉はほぼ不可能になる】、と考えていたからであり、其の状況の用意こそ速人が最低限成し遂げなければならないことであった。

  無論可能な限り生き長らえ、蒐集完了後に魔導書の管制人格と共に魔導書の復元を行うという重大な役割も残ってはいるが、其れは一応管制人格が全ての不具合を抱えて心中する事で解決する可能性が高く、速人が存命してなければならない理由にはならなかった。

 

―――

 

 

 

  しかし、そんな事情など露程も知らないレイジングハートは、なのはが通常状態に戻って不利になってしまったことに焦っており、これからどうするかを急ぎ思案した。

  が、思案の結果出た答えは、[なのはの好きにさせる]、であった。

 

 

 

―――

 

  何故レイジングハートがその様な結論に達したのかというと、戦闘判断の合理化及び高速化並びにフェイト(人質)を確保した状態で圧倒されていたにも拘らず、辛うじて戦況を支えていた要素の二つが消失してしまえば、もうどう足掻こうが詰みの状態だとレイジングハートは判断し、後はなのはの気が済むように行動させようと結論を出したのだった。

  尚、一応詰みの状態だとレイジングハートは判断していたが、何かしらの外的要因若しくは自分が与り知らない相手の理由が原因で、一般的に奇跡と呼ばれる確率で勝てる可能性は低いながらも存在していると判断していたので、それならば無自覚とはいえ自発的に物理設定で苛烈な攻撃をするなのはに主導権を譲れば自分が微調整するよりも勝率は極極僅かだが高くなると判断した故の主導権譲渡であり、レイジングハートはまだ諦めていなかった。

  しかし諦めてはいないがレイジングハートはなのはと違って現実は確りと受け止めており、打倒若しくは相討ちは[ある日隕石の直撃を食らう]級に低いと判断していた。

  尤も、万が一で足りぬほどの確率の末に打倒若しくは相討ちになったとしても、ほぼ間違い無くなのはの立場が劇的に悪化するだろうとも予想していた。

  が、レイジングハートは誰かを傷つけた代償は事前に自力で気付いて回避するか、若しくは身を以って知るべきものであり、そうでなければ決して理解も実感も出来ぬだろうと思い、敢えて忠告する気は無かった。

 

―――

 

 

 

  しかしレイジングハートがそんなコトを考えているなどとは思いもしないなのはは、呆とする頭を二三度振った後、声高高に速人に告げだした。

 

「もうこれ以上悪いことするのは止めてください!

 

  今更だが常識や正気を疑う声がなのはの口より放たれて周囲に響き渡った。

 

 

 

  そして、其の声を聞いた速人の表情には全く変化が起こらなかったが、其の遣り取りを見聞きしていたはやて達は全員顔を引き攣らせたり歪ませたりしていた。

 

 

 

――― Side 天神 速人―――

 

 

 

 

 

 

  Interlude

  ―――― アリサ バニングス ―――― 

 

 

 

  ただ純粋に呆れた。

  いや、それよりも落胆したと言った方が近かった。

 

 

  いきなり問答無用で攻撃を仕掛けたこと。

  速人の攻撃を防いで得意気に高い所から見下ろした物言いをしたこと。

  自分に都合のいい解釈をしてフェイトを体の良い人質として使ったこと。

  途中から明らかに物質にダメージを与える攻撃を撃ち始めたこと。

  そして出し抜かれた後いけしゃあしゃあと[悪い事を止めろ]とほざいたこと。

 

  たしかに、戦うならば奇襲は当然。

  他にも人質を使ったり相手を殺すことも当然のことで、特に相手と実力差があればそんな手段でも使わなきゃ相手を倒せないのは至極当然のことだと思ったし、あの時……………パニックになってたとはいえ、精神の深い所じゃどこか冷静に殺してでも生き延びてやるって思ったから、…………それを卑怯だとは思わなかった。

 

  そんな犠牲を払ってでも成し遂げたいことがあるって言うなら、それについて倫理がどうこう言うつもりはなかった。

  [倫理に従って自分の意志を蔑ろにしろ]なんて、何をされようと言うつもりは無かったから。

 

  だけど、相手の攻撃を一度防いだくらいで得意気になるのは戦いを理解していない、[力を持っただけの一般人]で、自分がやっているコトがどれだけ取り返しがつかない事態を引き起こしかねないのかを少しも分かっていないように思えた。

  若しくは自分の我侭を押し通そうとし、その際に自分を善とし且つ相手を悪とし、自分を善とする事で葛藤せずに戦い続ける思考停止者、………譬えるなら、[魔女狩りの時に何も考えずに同調する群衆の一人]に思えた。

 

  そしてそうだと思った瞬間、なのはの言動や行動が狂信者の癇癪にしか思えなくなった。

  [自分が認めないから悪][自分に歯向かうから悪][自分が善だから相手は悪]、全ての言動と行動がそう言っているようにしか思えず、なのはの扱う言葉を理解する事は出来ても会話することは出来ないのだと気付き、今まであたしはなのはの本質を見抜けていなかったのだと思ったら、自分の人を見る目の無さに呆れるというか落胆した。

 

 

  だけど、自分だけに呆れたり落胆したりしたわけじゃなくて、当然なのはの何所までも自分に都合の良い独善的と言うよりただの横暴な物言いや行動にも呆れたり落胆したりもした。

  けれど、一番呆れたのは、魔法を使えるだけの子供(・・・・・・・・・・・)を戦場に立たせ、大の大人が誰も現れないことだった。

 

  時空管理局とかいう狂気に染まっても誰も名乗りそうにない、馬鹿丸出しの名前の組織の事は余り詳しく聞いてないから分からないけれど、どんな理由が有るにしろ魔法が使えるだけでいい気になっている子供だけを戦場に送り込む組織は絶対に平和とか人倫とかとは無縁の組織だと思った。

  なんでも、質量兵器という純粋な科学に類する兵器を全て廃絶したから常時人手不足らしく、優秀な魔導師の素養を持つ者は時空管理局に限っては就職年齢に規制が無いらしく、義務教育すら受けていなくてもそれなりの地位に就任することができるという、戦時特例的なことを平気でやるらしかった。

 

  正直、聞いた時はシグナムさん達からだけの話だから鵜呑みにせずにそういう要素もあるかもしれない程度に思っていたけれど、現状を見れば恐らくシグナムさん達が話した内容は的を射ていると思った。

 

  自分達に所属していなくて、しかも自分達が管理していないと認定している場所に、自分達に不利益だからと言う理由だけで自分達の法を一方的に押し付けて犯罪者に仕立て上げ、その犯罪者と呼ぶ者を捕まえる為に魔法が使えるだけの子供を送り込み、大の大人は一人も現場に姿を現さない。

  しかも大の大人が子供を戦場に送り込む理由は、恐らく自分達が魔法以外の戦闘方法を禁止した為。

 

  …………正直救いようの無い馬鹿の組織だと思った。

  戦争末期じゃあるまいし、戦闘の何たるかも知らない子供を戦場に送り込む組織が平和を掲げるなと思った。

 

  だいたい質量兵器を全面禁止する意味が分からなかった。

  危険だと判断したならば日本のように民間での使用を禁止すればいいだけで、何故国の関係者までも使用禁止にするのかが本当に意味不明だった

  しかもそれで組織が正常に運営されているならまだしも、子供をスカウトしなければ組織が運営できないほどの人手不足だというのだから、分際を知って身の程を痴れと言いたかった。

  そもそもあたしからしてみたら、魔法の方がよっぽどタチが悪いモノに思えた。

 

  非殺傷設定とかいう、傷を負い難く死に難い(・・・・・・・・・・)攻撃が出来るから安全とか言っているらしいけれど、本人の意思一つで簡単にそれを解除出来る機能なんて拳銃よりタチが悪いと思った。

  拳銃もゴム製のスタン弾で非致死性の攻撃が出来るけれど、弾がスタン弾しかなければどう足掻いても非致死性の攻撃しか出来ないけれど、魔法は簡単に致死性の攻撃を繰り出せる。

 

  これだけでも魔法のタチの悪さが窺い知れるのに、アルカンシェルとかいう殲滅兵器に至っては半径百数十キロを消し飛ばすらしく、しかも速人と管理局の人の話しを聞く限り、最悪海鳴に向けて使うつもりだったらしいけれど、そんなものを地表に炸裂させたらどうなるか分かっているかと叫びたかった。

  軽く考えただけでも、地殻プレートが半径100キロ以上消失して4つのプレートの均衡が大幅に狂って恐らく日本は壊滅若しくは最悪沈没して、おまけに4つのプレート上の至る所でも超大規模地震が連鎖発生。

  地殻に100キロ以上の穴が開くから未曾有の割れ目噴火が起きて、最悪マントルの内外圧が0になるまで噴火が続く。

  大規模且つ長大な噴火で成層圏まで火山灰が舞い上がり、最悪地球全土を覆ってしまうから、そう遠くないうちに氷河期に突入する。

  大規模な地震と噴火で多分地軸と自転が深刻的に歪む筈だから、緯度と経度が大幅に狂って環境が激変するから連鎖して文字通りの天変地異が起こる。

  そして、仮にマントルの内外圧が0になれば地磁気は殆ど消失し、更に海流や気流も殆ど消滅するから、保温と保冷が働かなくなって死の星になるのは時間の問題。

 

  …………たしかにこれはあたしの少ない知識を基にした大雑把な計算や考えだけど、少なくともそこまで的外れな考えじゃないことだけは自信を持って言える。

  そして核兵器でも1発でここまでの被害は叩き出せないのに、それを1発で叩き出せる魔法がどうして危険と言われないのかが不思議でならなかった。

  って言うか、犯罪だの危険だのグダグダヌカしてるけれど、客観的に言えば時空管理局とかいう奴等の方がよっぽど危険だと思った。

 

  身の程を弁えずにやたら広範囲を管理とか反感買う言い方で治めた上に馬鹿な法令広めて自滅というか自爆の要素を大量に抱え込んでるみたいだし、挙句に中世の魔女狩り宜しく自分達の考えに反する奴等を排斥しまくって外にも敵を作りまくるし、止めに平和を謳いながらド素人の子供を戦場に送りこんで大人が後ろで踏ん反り返る。

  …………敵にしたら聖戦とかヌカす狂信者を大量に送り込んで人と物に被害を撒き散らし、止めにロストロギアとかヌカして勝手に人の財産を強奪した挙句人を攫っていく。

  かといって味方になれば、テロに囲まれた上に原発が暴走しかかった潜水艦に乗るようなもので、何時超大規模なテロと言うか戦争に巻き込まれて徴兵や徴発される若しくはとばっちりで死ぬかに怯える毎日に突入。

 

  ………はっきり言って時空管理局は地球の人間の立場から見たら、未来兵器を大量に保有してる末期薬物中毒者集団よ。

  ………自滅する気が無い分殺し屋の方が話は通じるわね………。

 

 

  …………何て言うか、落胆したり呆れすぎたりでテンションがダダ下がりしっぱなしよ。

  ……そりゃ、頭蓋骨開けて脳みそ入ってるか一度見てみたい様なことを言ったりしたりしてるなのはに対しての怒りは凄まじい程あるけど、…………………正直、速人が絡んでなかったら放置するかヒットマンでも雇って無力化して黙らせたい、って思う程テンション低いのよね………。

 

  あー…………やっぱり数を正義と思ってる主体性の無いヤツと関わろうとするのって、本っ当にテンション下がるわね。

  そのくせ怒りゲージはガンガンガンガン上がるから、穏やかな心を持って激しい怒りに目覚めそうよ。

 

  と言うか、もしもこのテンションの低さにも拘らず怒りで我を忘れる事態になったら、………………………多分なのはがどうでもよくなる。

  ……………………………あたしは自分の自慢の速人(友達)なのは(狂信者)に癇癪で殺されても、殺したヤツを特別な一個人として見続ける程アホでも友情ごっこがしたいわけでもないわ。

  だからそうなった時は、敵としか見ない。

  仇なんていう特別な存在として見るつもりはないし、そんな風には多分見れない。

  ………そうなるように仕向けた個人や社会なら仇として見るかもしれないけれど、他人や社会の主義主張しか持ってない傀儡相手にはやっぱり出来ない相談ね。

 

 

  あー……………この調子でなのはへの関心とか興味がダダ下がりしていったら、後で魔法のこと話されたとしても、関係修復はまず無理ね。

  …………というか、間違い無く自分達がどれだけ正しいかの自己弁護と言うより自慢と洗脳をやるのが分かってるから、見聞きしなかったことにして聞かずに済ませたいわね。

 

  ………ぶっちゃけ、なのはと話し合う気なんてもう無いのよね。

  ていうか、他人の意見は微塵も考慮しないくせに自分の意見を考慮どころか受け入れなければ癇癪起こすのが分かりきっているから関わりたくないのよね。

  ………あー、だけど時空管理局に魔法を知ってることがバレてるから、厭でも狂信者の教義を聞かされる羽目になるわね。

 

  ………拉致るか洗脳するかが相手の取る選択で、拉致られたらブタ箱行きか無限洗脳コース。その場で洗脳されたらその後はほぼ確実に体の良い協力者という名の奴隷扱いになって、土地や金銭の提供を強制させられ続けた挙句、なのは達のフォローをさせられるわね。

  無論その場で洗脳されている時に反抗すれば拉致られるのは確実。

  しかも時空管理局に所属していないあたしの生還率は決して高くはない筈。

  …………正義の名の許に犯罪者とされて厚生施設とかに放り込まれればまだ御の字だけど、最悪、この星での活動拠点を得る為にパパに対する人質に使われ、更にオモチャにされた挙句人体実験で死亡も十分ありえるわね。

  しかもあたしが死んだ後の言い訳が、[次元犯罪者がウンタラカンタラ]とかホザいて、あたしの仇を討つのと第二第三のあたしを生まない為にもこれまで通り協力して欲しいとか言いそうね。

  …………現状を見るだけでもテンション下がるっていうのに、先のこと考えるともうテンション下がりすぎて鬱になるわね……………。

 

 

  ……………なんかもう、なのはのこととかどうでもよくなってきたわね。

 

  とにかく速人に会って……………えーと…………何て言うのかしら……………うん………土壇場寸前まであたしに話さなかったくせに、土壇場寸前ではやての傍で助言してくれなんて言って自分の役目を丸投げするいい加減さと図図しさに対して文句言って叩こう。

  ………………まあ、丸投げしてくれるってことは、自分の役割を任せても大丈夫って思ってくれてるって事だろうから、少しは手加減するけど…………やっぱり叩く。

  ええ、何か知らないけれど、こう………怒りというか心配というか…………とにかくモヤモヤするから、とりあえずそれを吹き飛ばすために文句言うついでに一発叩く。

  その後は…………………まあ、風の向く儘気の向く儘、そしてなにより我が儘に行動ね。

 

 

  さて……と、………………友達と思ってた奴等との関係がまず修復不可能なほど悪化するわ、その上欝な事が山程起こったんだから、少なくてもあたしの行動次第でそれをチャラに出来る程の結末が在ると思って気合入れないとね。

 

 

  ……………だけど…………………やっぱり気合は入ってもテンションは上がらないわね。

  ……………やっぱ友達だと思ってたのが相手の善意と言うか手心を踏み躙って自分の善意を押し付けようとするのはテンション下がるわね………。

 

  ………………………まあ、ホントのところは、自分の人を見る目の無さを突きつけられるのが一番テンション下がるんだけどね…………。

 

 

 

  ―――― アリサ バニングス ―――― 

  Interlude out 

 

 

 

 

 

 

――― Side 天神 速人 ―――

 

 

 

  悪いコトを止めろというなのはの叫びが辺りに反響する最中、速人は抱えていたフェイトを床に寝かせて距離を取り、―――

 

 

 

―――フェイトを囲う様に障壁を展開させ、更に破裂した右尺骨動脈を不可視帯域のコヒーレント光で焼き塞いで応急処置を施し、殆ど左腕のみで魔導師殺しの弾倉内の空薬莢を排出して弾丸を装填するという作業を2秒以内に済ませた。

 

  排莢された空薬莢が床に落ちる音がなのはの叫び後の余韻を打ち消した時、速人はなのはの思考(演算能力)を言語機能に割かせる為になのはの癇癪ある程度付き合うことにした。

 

 

相手、の、行動、を、止める、には、何らか、の、対価、が、必要、だ

 

  機械言語で使用してなのはの視線を遮る為に障壁を展開させ、更にスピーカーから露骨な合成音声を継ぎ接ぎに流して対応する速人。

 

  だが、当然その様な露骨に相手と話す気が無いと丸分かりする対処をすれば―――

 

「っっぅぅぅ!!

  ふざけないでキチンとお話しして―――」

『―――発声、する、と、隙、が、発生、する、ので、拒否、する―――

「―――ください…………っっっっぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

―――なのはが激昂するのは自明の理なのだが、そんな事は構わないとばかりになのはの声を遮って再度合成音声が流れた。

 

 

 

―――

 

  速人は予めなのはの思考類型(パターン)からどのような言葉を選択して発声するかを予測しており、速人が何もせずとも定められた時間毎に定められた言葉を合成音声で放送するようにしていた。

 

  但し、当然なのはが速人の予測を上回れば見当違いな放送が流れることになるのだが、速人はそのような事態に成る可能性は理論上0%で実質上は≒0%と判断しており、仮に[猿にタイプライターを打たせてシェイクスピアが出来る]よりも比較にならない程極少の確立を潜り抜けて予測を覆したならば、未知の要素があると仮定して雑な対処を改めるつもりだった。

 

  尚、速人が述べた[発声すると隙が生じる]という意味は、発声する為に肺の中の空気を使用すると爆発勁(呼気)に依る力の効率的運用が妨げられるという意味合いが主だった。

 

―――

 

 

 

  そしてなのはが叫ぶ前に、再度時限式の合成音声が流れる。

 

此方、に、不利、を、強いる、なら、ば、其方、も、不利、に、なる、べき、だ。

  少な、く、とも、対等、の、話し、合い、を、行う、なら、ば

 

  しかし、どれだけ的を射た事が放送されようと、一から十まで自身の思い通りにならなければ全て相手の責任するなのはは全く聞き入れようとせずに反論しようとしたが、―――

 

Let's consent by Master and it.

The chance to talk again is missed when complaining too much.≫(マスター、それで納得しましょう。

  不平を言い過ぎると、又話しをする機会が失われてしまいます)

 

―――レイジングハートの進言がなのはの声を押し止めた。が、押し止められていた時間は、レイジングハートが進言している間だけであり、なのははレイジングハートの進言に返事もせずに声を発しだす。

 

「不利な―――」

ことなんて言ってません!ただお話しようとしてるだけです!

「―――ことなんて言って…………っっっっぅぅぅぅ!!?」

勝手に人の言葉を決め付けないで下さい!

  話し合わなければ相手の考えなんて分からないのに、勝手に決め付けるなんて間違ってます!!

「っっっっぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ!!!」

話し合う気が無いなら無理矢理にでもお話してもらいます!!

っっぅぅ!!ディバインシューター!!』」

 

  なのはは自身が聞く自身の声にほぼ同一の合成音声(他者が聞くなのはの声とは違う)に悉く邪魔をされ、しかもそれは自身が発声しようとした事と全く同様である為一気に激昂してしまい、障壁を破壊して速人に着弾させる気満満でディバインシューターを放った。

  だが、迎撃などせずともなのはが放ったディバインシューターは全て障壁に当たって砕け散り、障壁に罅一つ入れる事が出来なかった。

 

  対して速人は―――

 

 

 

―――壁の内側に収納していた応急処置一式を使用して内出血した血液を除去し、除去した血液を簡易濾過機に通して自己血輸血を行っていた。

 

「くっっ!

  たとえどんなに硬くたって何度も当てれば必ず壊れるんだから!!

 

  レイジングハート!ディバインバスター撃てる!?」

The [Divine Buster] is possible though the [Starlight Breaker] is impossible.

  ……However, is not the discussion done?≫(スターライトブレイカーは不可能ですが、ディバインバスターならば可能です。

  ただ、話し合いはなされないのですか?)

「倒したらお話しするよ!

  それよりいくよ!?レイジングハート!」

≪………≫(………)

 

  全く相手の話しを聞かず、自己中心的というよりは支離滅裂なことを声に出すなのはにレイジングハートは思うところは在ったが敢えて何も言わず、黙って魔法の構築式を組上げて魔力を充填し始めた。

 

  そして十分に魔力が充填された時、なのはは発射を告げる声を上げ始める。

 

「ディバイィィィーンッ!」

 

  何故か態態発射の拍子を教えるのと同義の掛け声を声高高に発すなのは。

 

  しかし、そんな攻撃の拍子が丸分かりの攻撃を何もせずに見過ごせば、速人の此れまでの思考や行動類型から全力を出せないのではなく全力を出していないと容易に看破される為、速人は予めこの展開を予測していたので、なのはの足元の障壁を高速展開させて天井に叩き付けるように時限設定をしていた。

 

  そして設定通りの時間になのはの足元の障壁が25m/sで展開された。

 

  当然そのような速度で障壁が展開され(床が競り上が)れば―――

 

「バスドゥッッッ!?!?」

 

―――急激な圧力()(約760kg相当)が全身(とりわけ内臓)を襲う為発声など当然出来ず、更にそのまま天井に背中から叩き付けられた為、なのはは魔法を放つことなど出来ぬばかりか、危うく制御に失敗して自爆するところだった。

 

  人間が瞬間的に堪えられる限界近くのGをその身に受け、更にその直後天井に叩き付けられる間に減速したとはいえ、叩き付けられた際の衝撃は地上30メートルから落下した衝撃に匹敵した為、なのはは1秒もせずに一時的に戦闘不能状態に陥った。

 

  凄まじい圧力と衝撃によって意識を殆ど失った為、なのはは飛行魔法の制御が不可能になって床へと落下を始める。

  が、床に落ちる寸前にレイジングハートが飛行魔法を一瞬だけ発動させて空中で停止し、その後飛行魔法を徐徐に解除してなのはの体を軟着陸させた。

 

  そして朦朧とした状態のなのはの神経を逆撫でるように、時限式の合成音声が辺りに響いた(先程の様な露骨な合成音声且つ継ぎ接ぎではない)。

 

Raising Heart Exelion此方が応急処置をする間だけならば、先程暇が在ればと述べたので最低限の相手をする。

  甚だ不本意な主だろうが、主の生命を優先するならば暫し魔法を発動させずに主張だけをさせ続けて体力の回復を図ることだ

Yes……….≫(分かりました………)

 

  なのはを相手にしていた時とは全く違う流暢な合成音声の内容に、不承不承ながらも了承の意を返すレイジングハート。

 

Master. The combat should interrupt and be talked about for the time being.

  Because it becomes a restoration of strength.≫(マスター。一先ず戦闘は中断して話し合うべきです。

  それは体力の回復にも繋がりますので)

「……ぅ……ぅぅぅぅ………。

  あ…………あんな機械の声での、話し合いなんて、認め、られない、よ………」

Please think the voice to use the loudspeaker if the synthesized voice is unpleasant.

  The intention that here disarms should show it if talking about it and sincerity.≫(合成音声が不快ならば拡声器を使用した声だと思ってください。

  それと、誠意に関して語るならば、此方が武装解除する意思は見せるべきです)

「今、そんなこと、したら、危ない、よっ。

  やられ、ちゃう、よっ」

Please consent if it is an objection.≫(それが不服ならば納得してください)

「だからっ、それがいやだからっ、お話ししてどうにかしようと、してるんだよっ」

Master ……… please scamp.  You are not a center of the world.

  And, the discussion is the same as the instruction if there is will being not to compromise at first.

≫(マスター………いい加減にして下さい。あなたたが世界の中心というわけではありません。

  それに、初めから妥協する気が無いならば、話し合いは命令と変わりません)

「そんなつもりなんてないよっ?

  ただ、キチンとお話しするのは大切なことだからそうしてもらうだけだよっ」

The recognition is not complained about any longer.

  However, it is necessary to speak while fighting like Fete.≫(もうその考えについては言及しません。

  ですが、フェイトの時の様に戦いながら話すべきです)

「大丈夫だよ。フェイトちゃんと違って転移して逃げられないんだから、倒せばゆっくりお話できるよ」

Sorry ……… Boy.

  It has wasted it with much trouble on having prepared the chance.≫(申し訳ありません………少年。

  態々機会を用意してくれたというのに、無駄にしてしまいました)

 

  何処か冷めた感じだったなのはへの進言と違い、速人へ向けられたレイジングハートの言葉は自身の不甲斐無さを攻めるようなモノだった。

 

  そしてその言葉に速人は合成音声ではなく、肉声で言葉を返した。

 

「謝罪は不要だ。

 

  それと、戦いを微塵も理解していない事を考慮し、それを理解する為の時間と機会を十分に用意した。

  是により油断したので敗北したなどという戯言は通じなくなった。

  故に後は量産が安易に可能な質量兵器を繰る凡人の力を知らしめるだけだ。

  [此の星及び此の星に住まう者は、時空管理局が首輪を付けて愛玩、若しくは搾取できるようなモノではない]、と。

 

  では、応急処置と装備の補充及び換装が済んだので、之までだ。

   

 

  速人とレイジングハート達の視線を遮る障壁が収納され、互いが互いを視認可能になった。

 

  そして、障壁の向こう側に立っていた速人を見たレイジングハートは、速人の不退転という言葉を形にしたような格好を見、改めて言葉で止まる事は無いと実感した。

 

 

 

―――

 

  速人の格好は先程までの格好とは幾つか相違点が存在していた。

 

  まず両の一の腕と二の腕に金属の添え棒を当てて金属製の晒しで確りと固定しており、仮に骨が砕けたとしても添え棒と金属製の晒しを外骨格とする事で、多少身体能力は低下するが行動可能なようになっており、更に服の下なので見えないが、両の脹脛に同様の処置を施してあった。

  更に腰に片側の先端が尖った30cm弱の金属棒を水平に右向きと左向きに4本ずつ差してあったが、其れは何所にも握り手が無いことから攻撃用でない事が一目で分かり、速人の両腕の状況を考えれば、其れは骨が砕けた際に腕や脚に差し込んで骨の代用をする物だと理解出来る代物だった。

  又、ついでと言わんばかりに魔導師殺しが右手と言わず右腕に添え棒ごと特殊繊維の巻き布で徹底的に固定してあり、仮に右腕が動かせずとも左腕で照準を定めて発砲すれば発射台の様に撃発時の反動を右腕が吸収し続けてくれるので、右腕が千切れるまでは左腕に然して負担を掛けずに発砲し続ける事が可能となっていた。

 

  尚、装備の補給や換装だけでなく、速人は保存していた自身の血液を血管の耐久限界寸前まで自身へと戻し(常人ならば高血圧により気絶するほどの量)、これからの出血や吐血に備えていた。

 

―――

 

 

 

  そして血色が良過ぎるどころか血管が顔全体に薄っすらと浮き出ている速人に、レイジングハートは今まで思っていた疑問を訊ねてみた。

 

Is it assumed to be good to die?≫(死ぬ気ですか?)

「否。

  そも、ただ死―――」

「―――ど、どうしてレイジングハートとお話してあたしとはしないんですかっ!!?―――」

「―――ぬつもりならば自死している。

 

  では時間も押しているので攻撃を再開する。

   

 

  なのはの声を無視するというよりも気にも留めていない速人は、なのはが声を発しても口調や語調を全く変化させずに言葉を述べた。

  そして速人が言い終えた瞬間、先程なのはを天井に叩きつけた障壁がレイジングハート達の眼前に展開され、レイジングハート達の視界の殆どを遮り、直後―――

 

「足掻け」

 

―――と、まるで言霊が宿った様な言葉が辺りに響き渡った。

 

  そしてその直後―――

 

 

 

―――速人とレイジングハート達の間を遮る障壁が全て収納された。

 

  レイジングハート達の視界が開けた直後、レイジングハート達の前方の三方向から約3km/sでボーリング玉程の砲丸が飛来し、レイジングハート達の眼前の床に全て着弾した。

 

  結果、着弾の衝撃で弾けた砲丸の破片と音速を超えた衝撃波がレイジングハート達に襲い掛かる。

  当然前方から其の様な力を加えられたレイジングハート達は容易く後方に吹き飛んだ。

  だが、今度は先程のエレベーター内とは違い、更なる追撃がレイジングハート達を襲った。

 

  レイジングハート達が後方に吹き飛ばされている最中に突如障壁が展開され、後方に吹き飛ばされているレイジングハート達を押し上げ、天井に再度叩き付けた。

  そして止めとばかりに―――

 

 

 

―――不可視帯域コヒーレント光が前後左右下方からレイジングハートに向かって照射され、レイジングハートは先端部分とそこから10cm未満の柄の部分を残すのみとなった。

 

  しかし追撃はそれだけに留まらず、速人はレイジングハート目掛けて疾走しており、天井から剥がれ落ちる寸前に―――

 

 

 

―――自身の足下の障壁を展開させ、疾走の慣性と上方への推進力を合わせ、レイジングハートの前に躍り出た。

 

  そしてレイジングハート達の眼前に躍り出た速人は、天井から剥がれ落ちていくなのはの手からレイジングハートを取り剥がし気味に破壊しようとした。

  だが、速人の狙いを瞬時に察した瞬間レイジングハートは、迎撃と防御と回避の三択を考慮し、迎撃は迎撃されるか間に合わず、防御はほぼ確実に突破されると判断したが、回避ならば制動を無視すれば可能だと判断し、回避後の制動を考慮せずに全力でフラッシュムーヴを発動させ、真後ろに(半球型の天井に激突せぬ為約−30度の角度で)高速移動して距離を取った。

 

  しかし、制動を無視しての動きであったため、当然停止など碌に出来ぬため、なのはは床に軟着陸とも墜落とも言える角度で床へと突っ込み、そして体を跳ねさせながら床を跳ね転がり壁に激突した。

 

 

 

―――

 

  レイジングハートはなのはがまだ意識が虚ろな状態の最中、再び障壁を展開されて天井に叩きつけられなかったことから、運良く自身が回避に使った移動経路上には障壁が無かったことに安堵していた。

  しかしその一瞬後、このままでは立ち止まれば全方位からほぼ防御不可能な砲撃と見えざる光線が降り注ぎ、それを回避するために迂闊に動けば壁に突き上げられて先程の焼き直しになり、かといってその場で上下に飛行し続ければ足元の床か頭上の天井に砲弾が着弾して衝撃波と破片で吹き飛ばされるという、半ば詰み寸前の状態だと気付いたが、運良く3m程の距離に自分達がこの場所に来たエレベーターが在り、更に運良くエレベータードアが砲弾着弾の余波で壊れたのか開け放たれている状態であることを知り、急いで制動も考慮せずにエレベーター内に逃げ込もうとした。

 

  だが、レイジングハートは彼我の戦力差が明確であると判明したにも拘らず自らの意志で戦闘を続けようとする者に、自身が補佐(サポート)ではなく主軸(メイン)として力を揮うのはどうかと考えた。

  特に自分の主義主張で相手の主義主張を踏み躙る場合において、肝心の踏み躙ると決めた者がおまけ扱いで、別に踏み躙る気も何もない者がメインと成って踏み躙るのは如何なものかとレイジングハートは思った。

  それと、先程なのはに戦闘の組み立てを任せようと思ったのも躊躇する理由だった。

  そしてレイジングハートはそこまで思い返した時、自身がこれ以上自動で回避や防御や攻撃を行う事は補佐の領域を超えるのではないかと、普通なら瞬間とも言える時間の間に躊躇した。

 

  しかし、主の命が無いにも拘らず、徒黙して(マスター)と呼ぶ者が敗北する事が出来ぬよう作られているレイジングハートは、自身を縛る制約との折り合いも兼ね、自動回避と自動防御は主の意識が混濁している場合のみに限定し、それ以外の時は主に任せるという方針にし、自動攻撃は自動防御と自動回避のタイミングを優先する為に放棄するという名目を立てることにした。

 

―――

 

 

 

  そして、なのはが壁に激突して跳ね返った直後、レイジングハートは速人が天井に左手と両足で着地(着天井?)して蜘蛛の様な格好で銃口を自身達に向けているのを知り、様様な思いを抱きながらもエレベーター内に制動と慣性による身体の損傷を無視した全力のフラッシュムーヴで逃げ込んだ(L字型に移動した為二度発動した)。

 

 

 

―――

 

  急な方向転換の為なのはは内臓を痛め、更には制動が不十分な為エレベーター内の壁に激突してしまった。

  が、レイジングハートはその甲斐有って攻撃の方向をエレベーターの出入り口からのみに限定することに成功したと判断し、なのはの負傷に関しては仕様がないと割り切った。

 

―――

 

 

 

  なのはがエレベーター内の壁に激突した際に肺の中の空気を吐き出した息と悲鳴とも聞き取れる音が消える直前、レイジングハートは恐らく速人が天井を蹴って移動したであろう音を聞き取り、恐らく直ぐにでも自身達を視界内に納めて銃撃の物理兵器と見えざる光線の光学兵器の複合攻撃を仕掛けてくると判断し、両方所か片方すら完全に防ぐ事はなのはの意識が不明瞭且つ時間が足りない現状では不可能だと断定した。

 

 

 

―――

 

  光である不可視帯域コヒーレント光を防ぐ為には通過する大気の量、又は密度を上げて散乱吸収させる、若しくは異なる密度の物体(気体・液体・固体問わず)を通過させて屈折させるという2種類と、最後は純粋にシールドを頑丈にして防ぎきるという計3種類が在った。

 

  だが床や壁の金属部分が瞬間的に蒸発している点を鑑みる限り、鉄でも蒸発するには1気圧下では摂氏2750度は最低必要であり、瞬間的に蒸発しているので推定摂氏4000度以上だとレイジングハートは判断しており、とてもではないが個人規模のシールドの純粋防御力で防げるモノではないと結論を下していた。

  しかし光の特性を利用した散乱吸収と屈折による防御は然して難しくなく、現に完璧に防ぎきれていた。

  とはいえ、それは光学兵器の防御に特化させたモノであり、特化させた代償に質量の有る攻撃に対する防御力は厚さ1mmの鉄板にも劣っており、当然そんな防御力で銃弾を防ぐ事は不可能であった。

 

  そして光学兵器に対処すれば銃撃を殆ど防げず、銃撃に対処すれば光学兵器を全くと言って構わない程防げず、両方防ごうとすれば直撃するのと変わらない結果になるので、最低でも敢えてどちらかの攻撃は受けなければならなかった。

  しかしレイジングハートは速人がなのはを殺害せぬように動くと判断しており、ならばソレを利用してなのはの意識が完全に取り戻すまでの時間を稼いでおこうと、半球状凹型のシールドを展開することにした。

  当然その様なシールドを展開すれば拡散するのではなく収束する様に軌道変更するので本来ならば利点など何一つ無いのだが、体の中心、つまり体幹部分へと軌道変更を逸らされれば最悪攻撃を受けた際になのはは死んでしまうので、なのはの命を盾にして攻撃を防ぐ算段を立てた。

  尚、対物及び対光学兵器用の複合シールドなので、実際には殆ど軌道を逸らすことは出来ないのだが、攻撃力や破壊力が凄まじく高い為、1度でも軌道が逸れれば、衝撃波や神経を焼き切るショック等の関係で非常に危険なので、速人がなのはを殺害せぬようにしているならば十分効果が有るとレイジングハートは判断した。

 

―――

 

 

 

  そしてレイジングハートは賭けの部分が非常に大きいが、賭けようが賭けまいが速人が殺害する為に攻撃を放てばなのはの死は避けられないと判断し、気は進まないがなのはの命を盾にして速人の攻撃を防ぐ為、半球凹型のシールドを展開した。

 

  直後、天井を蹴って移動した速人がレイジングハート達を射程内に納めた。

  そして半球凹型のシールドを肉眼で確認した速人は、レイジングハートの思惑に乗って攻撃を中止し、―――

 

 

 

―――攻撃出来ぬならば姿を晒す必要は無いと障壁を展開させて視線を遮りながら両足と左掌を使って蛙の様に着地し、レイジングハート達の次の行動を待つことにした。

 

  落下した高度と速度にしては静か過ぎる着地音が聞こえた後、レイジングハートは急いで、しかしどこか投げ遣り気味になのはを起こしにかかった。

 

Master   Is it disempowered if not awaking in a hurry!?≫(マスター!  急いで起きなければ取り押さえられますよ!?)

「う………うん………。

  それで……どうなったの?」

To evade pursuing in a hurry after that, and to specify the direction of the attack in addition, it escaped to in elevator.≫(あの後追撃を回避し、更に攻撃方向を特定するためにエレベーター内に逃げ込みました)

「……なら、あの攻撃を防げたの?

  っていうか防げたんだよね?」

≪………Yes.

  Because the boy had judged that he did not kill Master, the shield was put so that the attack may concentrate on Master's heart and brain, and the attack was sealed off.

  Therefore, it doesn't prevent, and it is not possible to prevent it.≫(………違います。

  少年はマスターを殺さないと判断したので、マスターの心臓や脳に攻撃が集中するようにシールドを展開して攻撃を封じました。

  ですから防いではいませんし、防げません)

「!!!

  じゃあそのシールドを張ればあの人は攻撃出来なくなるんだね?!?!」

It will be not absolute though the probability might be high.

  However, it is a means to which it is said that it is unfair.≫(その確率は高いでしょうが、絶対ではないでしょう。

  ですが、それは卑劣と呼ばれる手段ですよ?)

「卑劣でもいいよ。

  まずはお話するのが先決だから」

 

  そう言ってなのは立ち上がり、速人が向こう側にいるだろう障壁を見ながら言葉を発し続ける。

 

「レイジングハート、そのシールドをこの戦いが終わるまで張り続けてて!

  あ、シールドはお椀型じゃなくて、攻撃出来る穴が空いているメガホンの様な形のシールドでお願い!」

≪………OK.≫(………分かりました)

 

  そう返事をしたレイジングハートは即座に淡淡となのはの要望通りのシールドを展開した。

 

  そしてシールドの穴が開けられている箇所が自身の心臓近くになるようになのはは壁に背を着けたまま立ち居地を変え、それから障壁を破壊する為に物理設定にしたまま砲撃を開始しだした。

 

 

 

  その後、なのはは速人の計算通りレイジングハートの見解に踊らされた為、速人の思惑通り苛烈な物理設定の攻撃を撃ち続けた。

 

  そして自身を人質にして手加減無しで攻撃を続けるなのはに対し、速人は決定打に欠いたまま銃撃と魔導師も画やという速度と軌道の移動を行った反動で傷を重ねて重傷に至り、なのはと管理局の面面は速人の敗北と、現在に至るまでの過程に何ら疑問を抱かなかった。

 

 

 

――― Side  天神 速人 ―――

 

 

 

 

 

 

Interlude

――― ??????? ―――

 

 

 

  発砲する度に腕が壊れていた。

  特に、稀に撃ち放つ常軌を逸した一撃に因り、致命傷半歩手前の傷を負っていた。

 

  そして、何度もその様な傷を負えば既に致命傷であり、重要血管が損傷しているのが出血量から容易に推測できた。

  銃を握る腕の骨も既に砕き尽くされているのは、肩や肘等の金属製の包帯が巻かれていない箇所の皮膚を突き破り飛び出した骨が発砲の反動の度に砕け散っていき、既に皮膚を突き破った骨など見当たらないことから容易に解った。

 

  当然骨が砕ければ碌に動かせなくなった。

  だが、あろう事か金属の棒を一の腕や二の腕に突き刺し、心棒の代用品とする事で銃を撃ち続けた。

 

  しかし、そんな急造の代用品に問題が無いわけなど無く、発砲の反動が今まで以上の割合で胴に浸透し、衝撃で筋骨どころか血管や内臓が次次と破損していた。

 

 

  疾走や跳躍する度に脚が壊れていた。

  特に、魔法で身体強化を施して漸く到達出来るであろう速度を、生身で、しかも未成熟な身体でそれを行う度に、後遺症が残りかねない傷を負っていた。

 

  そして、幾度もその様な傷を負えば腕と同様に脚としての機能が崩壊するのは自明の理なのだが、やはり腕と同様に金属棒を心棒の代用品として行動し続けた。

  当然腕と同じく衝撃が胴に伝導し易い為、胴体部分は加速度的に壊れていった。

 

 

  正直、全てを投げ捨て、生き汚く長らえてほしいと思った。

  そしてそれは守護騎士や主の御友人だけでなく、主も同様だと思えた。

 

  相手が殺傷設定で容赦無く攻撃を仕掛け続けているにも拘らず、殺さぬ所か重傷すら負わせず、全て軽い傷に止め続けていた。

  殺すだけならば既に5桁を超える程殺せているだろうにも拘わらず、主や守護騎士、そして私が可能な限り自由に長らえる事が出来るようにと、そして主とその友人に告げた通り、どれだけ自身の身体が傷付こうと決して手加減を止めなかった。

 

  しかし、自身の体を死の淵に晒す様な真似をし続けても尚手加減を止めていないというのに、相手は障壁や兵器に向けてだけでなく、平気で生身の者に向かって殺傷設定の攻撃を放ち続けていた。

  しかもあろう事かバインドで捕縛して攻撃を行うという、明らかに捕縛ではなく殺害目的の行動を続けていた。

 

  幸いにも障壁を展開して防ぐ若しくは相手の攻撃を迎撃し、その後バインドを兵器の攻撃で破壊して離脱していた。

  だが放たれていた魔力弾は、一つでも人体に命中すれば着弾部及び其の周辺を撒き散らす程の威力が籠められており、胴に着弾すれば最悪胴から内臓がはみ出る可能性が在る程の威力だった。

  にも拘らず、相手は話し合いで解決を望むようなことをほざいた。

 

  曰く、[悪い事は止めてほしい]

 

  ……その言葉を聞いた時、私は僅かな回数と時間しか会っておらず且つ精神を解体分析したかの如き精密な情報を得ていたので失意や落胆は一切抱かなかった。

  だが失意や落胆とは別に、ほんの極僅かな苛立ちを抱きながら、やはり主の人を見る目は未熟だということを再認識しつつ、何故あの様な者を友と思ったのかと思った。

 

  八つ当たりも甚だしいとは承知しているが、それでも、[貴女が友と思っているから、今、貴女の誰よりも大切な人があそこまで凄惨な傷を負っているのです]、と言いたかった。

  恐らく自身だけでなく、主が友人と思われている者も重傷を負っていたならば、主が[自身が要因で友人にも重傷を負わせてしまった]と思い、最後の最後に錯乱しなくなるだろう(・・・・・・・・)と判断して重傷を負わせていないことが容易に推測できた。

 

  たしかに、主があのような者を友と思わずとも、命に関わりかねない重傷を負う事に変わりはなかっただろう。

  だが、それでもあそこまで自ら傷を負い続け、重傷を負った後の生存率を著しく下げるような事態にはならなかった筈だ。

  ………いや、ここで主に対して不満を抱くのは筋違いか………。

 

  蒐集に専念する際、主が可能な限り我等の行動に疑念を抱かず且つ孤独を感じずに済むようにと、主に家族以外での関係を持っていただくように誘導したのだ。

  なら、その結果がこの現状ならば、甘んじて受け入れるべきだ。

  少なくとも、ここで主に不満を言うという事は、[都合の良い様に動け]、と言う事と何ら変わらないのだから。

  ………尤も、思うだけでも、主と言うよりも八神はやてと言う一個人に対して不敬の極みなので、申し訳ない気持ちで一杯になる。

 

 

  だが、それでも八つ当たりと思える気持ちは止まることがなかった。

 

  私がどれだけ平穏を望んで足掻こうと、その度に私自身が私自身を裏切り、最後は全てが掌から零れ落ち続けたというのに、行動を起こせば少なからず今の平穏を保ち続けられる可能性が有るにも拘らず行動を起こさなかった主に対し、八つ当たりでしかない怒りが止め処無く静かに湧き続けた。

  …………私を含め守護騎士達が主の全てを包み込む優しさに惹かれて魅せられたというのに、私は自身の無力さを棚上げし、主に自身の命運だけでなく他者の命運すら背負える強さを持ってほしいと思わずにはいられなかった。

 

  ………諦めても尚捨てきれない夢を抱き、優しさを忘れてしまう程の境遇に遭って尚優しさを持ち続けられるなら、………………自身に向けられる好意と忠誠に応え、戦場に送り出せる強さも持ってほしかった。

  自身と誰かを比べるのでなく、誰かと誰かを比べ、身近な誰かを選んでほしかった。

  しかし…………この平和な地でソレを望むのが酷だと理解していたが、………………それでも……………その一点だけは………………歴代の主の中で最も資質に欠いていると思えた。

 

 

  そして、そんなことを考えた時、私は自身の業だけでなく、考え方すら騎士として失格だと痛感し、益益自身の価値に疑問を抱いた。

  [私は誰かを塗炭に追い落としてまで存在する価値はあるのか?]、と。

 

  ………………即座にそんな価値など無いと自答した。

  だが、…………だからと言って止める手立ては無かった。

 

  仮にここで私が消滅しようと、書は主を消滅させつつ次の主の下へと転生する。

  …………そう、…………転生する。

  今の主は死んでしまうが、守護騎士達は記憶の殆どを失いはするが、書と共に確かに存在する。

  ならば、存在する以上、一人残されたとしてもあらゆる手段を使ってでも追ってくるだろう。

 

  そう、…………たとえこの地に住まう魔導師を洗脳や拷問してでも管理局から技術等を奪い、何れ殺されぬ限り私達に必ず追いつく。

  …………だが、その道は今の道よりも遥かに苦難が待ち受けている

  ならば………………私に出来ることは何も無かった。

 

  主を守る為に存在するにも拘らず主を守れる存在ではなく、それどころか諌めることすら出来ない。

  私達全員の為に嬲られながらも死地に立ち続けているというのに、身一つ無い私には何一つ助けになることは出来ない。

 

  ………………いつも最後には私の思いを裏切る体なのに、なぜ今この時に無いのかと激しく自身を呪った。

  …………いつも想いを裏切るだけでなく、裏切る以前に心の底から欲しいと望む時にすら身体は無く、体を得るのはいつも大切な者ごと全てを破壊する時だけ。

 

  …………………………脆く壊れた身体を捨て、せめて自分を裏切らない存在になりたい。

  ………何一つ掌から零してしまわない、真に完成された存在になりたい。

  そして……………皆が笑い合うあの場所に立てる、誰にも置いていかれない存在なりたい。

 

 

 

――― ??????? ―――

Interlude out

 

 

 

 

 

 

――― Side 天神 速人 ―――

 

 

 

  幾度も其の身に堪えられぬ弾丸を激発し続けた為、既に輸血するか四肢を更に圧迫して脳に血流を集中させなければ、現代医学上5分以内に絶命すると断言可能な程速人は出血していた。

 

  だがそれほどの傷を速人が負ったのに対し、なのはは衝撃波と破砕した弾や床で軽い裂傷を負っただけだった。

 

 

 

―――

 

  速人が今にも死にそうな状態になっているにも拘らずなのはがほぼ健康体である理由は、速人がなのはがレイジングハートに展開及び維持させ続けている椀型(凹型)のシールドに対し、レイジングハートの推測通り、シールドに対して鋭角に直撃する類の攻撃を一切行わなかったのが最大の原因だった。

 

 

  シールドの直前に電磁投射砲脳の砲弾を着弾させる攻撃では、距離の問題と弱めの複合シールドと強固なバリアジャケットに因り軽い裂傷までに被害を押さえ込まれてしまい、風圧に関しては距離と弱めの複合シールドと壁に背を預けることで辛うじて吹き飛ばされずに踏み止まることが可能なため、なのはは防御や回避に思考を割く必要が殆どなかった。

  因って、脅威が無くなったと判断したなのはは、十分な時間を溜めに用いて弾道速度を限界まで強化した徒の直射魔法だけでなく、アクセルシューターやディバインシューターを各30回以上(弾数的には180以上)、更には障壁破壊の目的で威力も限界まで強化されたディバインバスターを7回発した。

  だが、ソレ等は一つも速人に直撃することはなかったが、複数回ディバインバスターを受け止めた障壁2枚が破壊され、更には直接レイジングハート達を狙える位置に在る不可視帯域コヒーレント光の砲口と電磁投射砲は全て破壊された様に見える状態になっていた(実際は銃でいえば消音機(サイレンサー)の部分が壊れた様なもの)。

  尚、速人の演算力とこの施設の兵装ならば、なのはがどう足掻こうと床に皹一つ入れることすら叶わないのだが、それは速人の都合でそのような事態には成っていなかった。

 

  そして兵装を用いての迎撃を緩めるならば、必然的に自身への迎撃も同比率で緩んでしまい、結果として対処不能になった攻撃に対しては投擲か銃撃に因る迎撃、若しくは障壁展開に因る防御か回避しかなく、迎撃か回避の度に速人の身体は確実に壊れていった。

  しかも銃撃や無理な運動の反動だけで傷付いたのではなく、幾度もなのはの攻撃が自身の体を掠ったり削ったりするようにしているので、なのはからの攻撃が原因での傷も少なからずあった。

  尚、傷を負う頻度は時間経過や傷の多さ(体力の消耗)に比例させるという細かい演技に因り、管理局の面面は誰一人として速人の傷を不審に思っていなかった。

 

  尤も、負傷するという過程は演技だが、負傷したこと自体は事実である為、速人が絶命寸前の状況は紛れも無い事実であり、普通ならば絶命寸前の状況が事実ならばその過程を疑わないのは至って普通であるので、狂気や妄執とも言えるナニかを持った者を相手取るか想定したことが無かった極普通の管理局の面面は速人の思惑に気付けなかった。

  対して八神家で速人の行動を見ている面面は、大なり小なり速人の常軌を逸した意思とも言えるモノに触れるか垣間見たことがあったので、少なからず速人がなのはを瞬時に無力化していないことに違和感を覚えていた(速人の戦闘能力をはやて達三名は具体的には知らないが、速人が準備をしていた場所で圧倒されているのには疑問を感じていた)。

 

―――

 

 

 

  そして彼我の怪我の状況と現在までの戦闘から自分が間違いなく相手より優位に立っていると確信したなのはは、更に弾幕を強めながら声を発した。

 

「今すぐ悪いことをやめてフェイトちゃん達に謝ってください!

  そしてそれからお話ししてください!

  魔法が使えない人はあたし達に勝てないんだから、これ以上戦っても無駄です!」

 

  自分の思い通りに事が進み始めて余裕が出てきたのか、先程の癇癪はある程度収まったようだが、発言の方向性は全く変わっていないなのはだった。

 

  対して速人は迫り来る魔力弾を銃弾や光学兵器や障壁で吹き散らしたり防いだりしつつ、偶に回避しつつも体を掠らせたりしていた。

  そしてなのはの声が聞こえてはいたが一切それに応えることは無く、黙したまま自身が致命傷を追う時を計算しつつ、相手側に悟られぬよう誘導していた。

 

  又もや無視されて声を荒げるなのはだったが、速人は当然その事に一切気を取られず、

 

(高確率で死ぬが、蘇生を可能とする為に可能な限りの備えをした。

  ならば………後は死なぬように抗い、それでも尚死した時は、死の淵からヒトの領域を逸脱した力を持って黄泉返る。

 

  そう、黄泉返り、ヒトの範疇から逸脱した力を得、誰も侵せず、誰も縛れぬ、真に完成された存在になる)

 

と、物思うという益体の無い事をしていた。

 

 

 

――― Side  天神 速人 ―――

 

 

 

 

 

 

Interlude

――― 八神 はやて ―――

 

 

 

  エレベーターが到着した後、壁と思ってしまう程大きくて厚い扉(隔壁)が何枚も上下左右に開いていって道を作っていった。

  ザフィーラがあたしを抱えながら扉が開いて出来た道を急ぎ足で進み、直ぐにまだ開いていない扉の前で止まり、開いては又急ぎ足で進んで止まるということを繰り返した。

  そしてそれはみんな同じようで、もどかしくてしょうがないといった表情をしていた。

  だけどその中で一番一番苛立っているのはシャマルのようで、理由は自分がもう少し速人はんに自分が行使できる権限の範囲を聞いていないことが理由やった。

 

  何でもシャマルの権限では、一応施設内の全ての機器を使用可能で、あらゆる場所の開閉も自由らしいけど、施設の防衛レベルが一定以上になると使用する機器の出力に制限が掛かるらしく、今の様に本来ならあっという間に開くだろう扉がゆっくりと、しかも一定区間の範囲しか開かない等といった状態になるらしかった。

  その上、施設の重要プラグラムの変更も可能らしいんやけど、それは中央でせなあかんらしく、転移しても撃たれないようにするには中央に寄り道した挙句結構な手順を踏んでプログラムを変えなきゃあかんらしく、凄まじく時間を無駄にしてしまうとのことやった。

  つまり、どう足掻こうと本来の到着予定時間より遅れるらしく、速人はんからもう少し権限の幅や強い権限を貰っておけば良かったと、以前の自分に対して苛立っていた。

 

  そやけど、多分あたしだけやなくてみんなもソレをシャマルの責任とは思っとらんと思った。

  …………速人はんがソレを渡したんなら、速人はんは初めからソレ以外のを渡す気は無かったとしか思えんし、渡したとしても最終的には今と変わらん状態になるように仕向けることが出来ると簡単に予想が出来るし、その上どれだけ食い下がっても簡単にあしらわれるのが目に見えとる以上、あたしを含めて誰もシャマルを責めれんかった。

 

  それでも現状に苛立っているのはみんな一緒のようで、一段落したら絶対に速人はんに文句を言おうと、あたしだけやのうてみんなも思っとるようで、どことなくみんなに怖いけど厭な感じじゃない雰囲気が混じったような感じがした。

 

 

 

 何度も扉や隔壁を開けた後、シャマルがこの向こうに速人はんが居ると言うて、知らず知らずに胸に抱いた本を強く抱きしめた。

  ただ、強く抱きしめたのは片腕だけで、もう片方の腕はいつでも伸ばして掴むことが出来るよう、そんなに力を籠めとらんかった。

 

  そして、どうすれば事態を収められるかは考えもしとらんけれど、少なくとも、今自分が何をしたいかだけははっきりと胸の内で反芻しとる時、最後の扉が開いた。

 

 

 

――― 八神 はやて ―――

Interlude out

 

 

 

――― Side 天神 速人 ―――

 

 

 

―――

 

  なのはの無条件降伏勧告の後、速人は相変わらず状況を整える為に被弾や自滅行為を繰り返していた。

  既に速人の腕や脚の骨は殆ど砕け、骨代わりの金属製の心棒が肉を抉って刺し入れていても、腱とその周辺の骨が殆ど砕けているので碌に動かせず、金属製の包帯(ギプス)の下は常人ならばトラウマになる有様になっていた。

 

  しかしそれでも未だ捕縛されておらず、満足な銃撃や斬撃や投擲が使用不能になったことは周囲の兵器を使用することで補い、機動性の低下は障壁の展開を利用し、最も負担の掛かる跳躍の過程を代行させることで辛うじて補っていた(尚、腕が深刻的に破損する前に装備していた爆発物の類を全て速人は破棄していた)。

 

  だが、既に速人の体に残った血液の量は明らかに生命維持に必要な量に届いておらず、現状維持も以って5分を切っていた。

 

―――

 

 

 

  先程まで血塗れの腕がだらしなく肩口から垂れていると表現出来る有様で在ったにも拘らず、足元の障壁を僅かに展開させた勢いで跳躍しつつ、上半身を一度だけ左右に振って腕を連動して振り回し、一瞬だけ右腕に固定した銃の照準が合った瞬間、反動や固定を一切考慮せずに速人は発砲した。

 

  発射された弾丸は全く銃を固定していなかった為明後日の方向に着弾し、レイジングハート達には全く脅威にならなかった。

 

  だが、異常な反動を生み出す弾丸を空中で激発した為、銃は後ろに瞬間的に弾き飛び、次いで銃を括り付けていた腕も引き摺られ、最後に胴も引き摺られ、空中で跳躍の軌道が変わり、殺到していたディバインシューターから辛うじて距離を稼ぎ―――

 

   

 

―――射線上に速人が存在しなくなった瞬間、光学兵器がディバインシューターを即座に消し去った。

 

  その後錐揉み状態になっていた速人は空中でタイミングを見計らって姿勢を立て直し、障壁の上部分になっている床に着地した。

  そして遂に度重なる反動で耐久限界を超えた右腕は遂に千切れ、速人が着地する時にはまだ宙を舞っていた。が、速人が着地し終わった時には床に落ち、床に血を擦り付けたり零したりしながら滑り続け、最後に壁に当たって止まった。

 

   

 

  しかし速人は即座に不可視帯域コヒーレント光で傷口を焼き塞いで出血を即座に食い止めた。

  だが、それでも出血は出血であり、唯でさえ生命維持分の血液が足りない状態で失血した為、速人の活動限界は更に短くなったのだが、速人はそれを気にした様子も無くレイジングハートから展開される魔法を見逃さない様に今まで通り注視した。

 

  そして自身の身体の損傷を、〔髪が一本千切れた〕よりも気にした風も無い速人の態度が気に入らないのか、苛立ち混じりの怒声にしか聞こえない悲鳴をなのははあげた。

 

「もうあなたの負けだって認めてくださいっ!!

  魔法が使えないあなたじゃあたしには絶対勝てないんですからっっ!!!

 

  それに質量兵器のせいで腕が無くなっちゃったんですから、そんな危ない物をフェイトちゃん達に使ったのが悪かったことだって分かったはずですから、すぐにあやまってくださいっ!!

  そしたらすぐに治療してくれるよう頼みますから!」

≪……………≫

 

  当然なのはの声を速人は一切相手にしなかったが、レイジングハートも色色と思う所があるらしく、なのはの声を諦観気味に聞いていた。

 

  だが一切返答の無い速人になのはは更に苛立ちをを強めた殆ど怒声のような悲鳴を上げる。

 

「いい加減にしてくださいっ!!

  あたしは人が死ぬところなんて見たくないんですっ!!

 

  だから早く悪いことをしたって認めてすぐにあやまって治療を受けてください!」

 

  速人が即座に止血し且つ千切れた腕は遠くでハッキリと見えない為、自分の攻撃が原因で速人を死に追いやっている自覚が全く無いなのはを速人は相変わらず相手にしなかった。

  そして速人の常人よりも可聴域の広い聴覚でも辛うじて聞こえる音域で現在も放送され続ける機械言語を聞いた速人は、そろそろ拍子を合わせるべきだと判断し、然して大きくない声で話しかけた。

 

「之までを鑑み、脅威の程をどう判断した?」

 

  僅かに残る爆発の残響音や空調の音に掻き消されず、速人の言葉は相手に届いた。

 

  そしてその言葉を聞いたなのははようやく話し合いが出来ると思い、表情と雰囲気を弛緩させながら声を発した。

 

「たしかに人を傷つける事しか出来ない質量兵器は怖いですけど、それでも魔法を使うあたしたちには油断しない限り通用しないんですから脅威なんて感じません!

 

  ですから無駄な抵抗は止めて早くあやまってくださいっ!!」

 

  なのはの声が辺りに響くが、それを速人は一切相手にせず黙っていた。

 

  だがそのことになのはは癇癪を起こさず、怒声でなく徒の大声を発した。

 

「たしかに自分が無力なのを認めたくないのは分かりますけど、現実を認めてください!

  あなたじゃあたしには絶対敵わないってっ!!」

 

  なのはの声が辺りに木霊したが、速人は相変わらず沈黙したままだった。

 

  そして再び苛立ちが募り始めたなのはは怒声を発した。

 

「いい加減にただの人間は魔導師に敵わないって認めてくださいっ!!

  それを認めてくれないとお話も出来ませんっ!!」

 

  なのはの怒声が辺りに木霊するが、相変わらず速人は沈黙したままだった。

 

  そして今度は示威行為を交えた怒声を発そうとしたなのはだったが、その寸前に―――

 

It felt horror.≫(恐怖を感じました)

 

―――レイジングハートが速人に話しかけた。

 

The an incantation; a spelland and the concentration are unnecessary. An attack impossible only by the pull of the percussion hammer to check visually and to react can be done.

  ………… Perhaps, I think that everything suffers a disastrous defeat even if it fights 100 million times.≫(詠唱も集中も不要。引き金を引くだけで視認も反応も不可能な攻撃が放たれる。

  …………おそらく億度戦おうと全て敗北するだろうと理解しました)

「ならば即座にエレベーターを操作して此の場所よ―――」

「っっぅぅぅぅぅっっっ!!!

  な、なんであたしとじゃなくてレイジングハートとお話してるんですか!!!?

 

  あたしは話しかけられてきちんと答えたんですから、あなたもキチンと答えてくださいっ!!

「―――り去り、その後高町なのはに一切助力せねばお前がマスターと認証せざるを得ない高町なのはは戦線から外れ、死傷することは無くなるだろう」

 

  途中でなのはが怒声を張り上げたが、速人は全く相手にせず淡淡とレイジングハートに要件を告げ、更に言葉を続ける。

 

「殺害するのは容易だが、捕縛する為には相応の対価を払わねばな―――

「あんまりふざけないでよっ!!!

  レイジングハートも油断しなきゃ魔導師はただの人間なんかには負けないって分かってるのに、なんでそんなでたらめ言うのっ!!!?

 

  アレからあの人の攻撃はあたしには効かなくなって、逆にあたしの攻撃は一方的に効きだしたのを見たら分かるのに、なんでそんなこと言うのっ!!!?

  少なくてもこの人がどうがんばろうとあたしには敵わないって分かってるはずなのにっ!!?

「―――らず、俺はその対価を払ってまで捕縛することに価値を見出せない。

  故に此の要求をお前が拒否すれば、鎮圧後生存しているならば止めを刺さずに捕縛するという行動方針に切り替える。

 

  はやてに殺人は可能な限り控えると、アリサに高町なのはが日常生活を送れるだけの怪我に留められるように最大限留意すると述べたが、これ以上は事の成否に関わらず費用に対して効果が釣り合わなくなる」

 

  完全になのはの声を無視して話し続ける速人。

  そしてレイジングハートもそれに習うようになのはを無視するように返事をする。

 

I am one tool to help Master.

  Above all, you are sure to know that it is useless more than anyone.≫(私はマスターの一助となる徒の道具です。

  第一、それが無駄なことだとあなたは誰よりも知っているはずです)

「そうか」

 

  何時も通り素っ気無く速人は返事を返した。

  だがその態度も、今までの発言も、何もかも全てが気に入らないなのはは怨嗟混じりの怒声を張り上げた。

 

いい加減にしてっ!!!

  ただの人間がどうやって魔導師のあたしに勝つって言うのっ!!!?

  どうして地球の科学じゃ魔法には敵わないって分からないのっ!!!

 

  それに、誰かを守れる奇跡の力の魔法が、誰かを傷つけるしか出来ない質量兵器なんかに負けはしないし、良い事をしてるあたしが悪いことをしてるあなたに負けもしないっっ!!!

 

  そんななのはの叫びが終わった直後―――

 

   

 

―――と速人は呟いた。

 

  次の瞬間待機状態だった粒子加速器が本格的に稼動し、粒子が凄まじい速度まで加速され始めた。

  同時にエレベーターの出入り口以外を包む様に強固な隔壁が展開されたが、振動も駆動音も非常に小さかった為、レイジングハート達は気付いていなかった。

 

  そして、設定速度まで加速する僅かな時間に速人はレイジングハートに話しかけた。

 

「5秒以内に耐熱機能を限界まで上昇させる事を薦める。1…0」

 

  相手の理解や対処が追いつく前にカウントはゼロになり、ゼロになったと同時に現代では実戦使用は採算が取れないとされて実用化されていない兵器、荷電粒子砲から高速の荷電粒子が発射された。

 

  発射された荷電粒子は椀型に展開されたシールドに接触しても微塵も軌道を歪めず貫通し、背後の壁に命中し貫通した。

  が、壁の向こうの隔壁に命中した荷電粒子は隔壁の強度が高くて貫通出来ず、周囲に大量の荷電粒子撒き散らしながら隔壁を熱しつつ、砲撃は収まった。

 

  破壊が収まったエレベーター内は、4千度前後の荷電粒子が飛散した上、ソレが直撃した隔壁が同等の熱を持った為、油も気化する程の温度になっていた。

  当然その場所に居続ければ蒸し焼きになるのは目に見えており、レイジングハートは地の利を捨てるのを覚悟しつつ、なのはの意思を無視して飛行魔法を発動させてエレベーター内から脱出した。

 

  そして辛うじてレイジングハートがエレベーター内から脱出した直後、速人が馬鹿にするわけでも勝ち誇るわけでもなく、何時も通り淡淡とした声でレイジングハートに話しかけた。

 

「死ぬぞ?」

 

  自分がその気ならば、極めて高い確立で実現するという意味で速人は述べ、レイジングハートも速人が言葉に籠めた意味を確りと理解していた。

  だがそれに返事をする前に、幾つもの魔力弾をエレベーター内に撃ち込んで炸裂させ、炸裂する衝撃波で以って急速換気し、バリアジャケットで耐えられる温度ギリギリになった瞬間に再びエレベーター内に戻った。

 

  それを妨害せずに見ていた速人は問いかける。

 

「脱出後高町なのはに助力しないという訳ではなさそうだな」

I'm sorry. I have decided that I give priority to the defense while Master loses consciousness. Therefore, it only acted like that.≫(すみません。マスターが気絶している間は防御優先の行動をすると決めていますのでそうしただけです)

「ならば早早に覚醒させて結論を下させるといい。

 

  砲身冷却と再充電が済み次第、先程よりも高出力の荷電粒子が放たれ、逃げ場を封じる為にエレベーター出入り口近辺に不可視の攻撃を集中させて妨害する。

  加減はするので呼吸をして肺を焼かぬ限りは死亡しないだろう。

  尤も、酸欠で気絶する程の時間呼吸を停止させる必要があるが」

 

  失血多量で既に顔が土気色にも拘らず、速人は淡淡と最終勧告とも取れる言葉を紡いだ。

 

 

 

―――

 

  実際は既に再充電と粒子の加速が終了させられるだけの性能を此処の施設は有しているのだが、重要施設近辺のレーザー兵器に転移して現れた物体及び転移しかけている物体を即座に焼き切る為の電力を回しているので、即座に第二射を撃てる程の電力は無かった。

  尤も、それを解除して電力を此の場に回すことも出来るのだが、その場合後に施設の電力状態等を調べられた際に不審な手加減をしていたのが発覚してしまうので、速人は電力の優先使用を行うつもりは無かった。

 

―――

 

 

 

  だが、その最終勧告とも取れる言葉を意識が戻ったなのはは納得がいかず、なのはは声を張り上げた。

 

もういいっ!!!

  これ以上あなたを好きにさせてたらあたしがやられて、その後フェイトちゃん達が酷い目にあっちゃうっ!!

 

  だから今はまず、とにかくあなたをやっつけるっ!!!

 

  その言葉と同時に無数の魔力弾が速人目掛けて放たれる。

  だが、速人に届く前に間に在る障壁の一つが展開され、難無く防ぎきられた。

 

  しかし、次の瞬間五つのアクセルシューターが碌に移動出来ない速人目掛けて放たれた。

 

  上方から80〜90の角度で速人に降り注ぐ様に放たれているので、障壁で全弾防御するのは角度的にほぼ不可能であり、光学兵器や電磁投射砲で以って迎撃しようにも荷電粒子砲に電力を割いており、満足な出力での発射は不可能という状況設定なので回避するしかなかった。

  が、今回の攻撃は上方からの攻撃の為、足元の障壁を展開させて弾かれる様に跳躍すれば普通は被弾してしまうので、速人はなのはが用意した逃げ道の方向へと脚への負荷を無視して跳躍した。

 

  そしてその直後、対象を視認していない状態で放たれたアクセルシューターは弾速も関係し、対象を追尾する為に方向転換を行う前に全て直前まで速人が立っていた床周辺に着弾した。

  だがそれはなのはにとっては計算通りであり、速人はなのはが用意していた逃げられる方向に回避しており、そして今速人が立っている場所は最もなのはの魔力弾を受け止めた障壁がある傍であった。

  しかもディバインバスターも一度受け止めており、流石に二度もディバインバスターを受ければ防ぎきれないと思い、なのはは自身の勝利を確信した。

 

  しかし、なのはが勝利を確信した状況になったにも拘らず速人は全く焦っておらず、何時も通りの冷静さでこの後の事を考えていた。

 

 

 

―――

 

  現状は速人の描いた展開通りに進んでおり、直後に放たれる砲撃で自然を装ってはやてが錯乱する程の傷を負うことが可能なので、速人は魔導書の意志とシグナムとで決めた自身の役割を果たせると判断していた(だからといって油断はしていないが)。

  そして速人が考えていたのは、はやてを錯乱させる程の傷を負った後のことだった。

 

  傷は問題無く目的を達することが可能な深さで負えるだろうと速人は判断していたが、その傷がどれほどのモノになるかはレイジングハートの現在強度と性能の把握若しくは精確な予測が不可能だったので浮動数値幅が大きくなり、怪我の度合いが、〔血塗れだが処置次第では戦闘続行も十分に可能な状態〕、から、〔脳とその周り(眼球や頭蓋骨の一部等)が少少残る程度の状態〕、になってしまう可能性も十分あり、それに備えて自身の予備の肉体部品の場所をシャマルに伝えておくべきかを速人は思考した。

  だが、蘇生可能な見通しが立った状態で死亡した後に蘇生しても自身の求めるモノは得られないだろうと判断し、速人は自身を蘇生させる方法を誰にも告げず、死ねば他力は当てに出来ない為自力で蘇生しなければならない状況を維持すると決めたのだった。

 

  尚、速人がシャマル達に蘇生方法を告げねば他力蘇生を当てに出来ないと判断した理由は、

1.蘇生方法に思い至れるか。

2.実現可能と思うか(それを行うに必要なモノが実際に在ると思えるか等)。

3.迅速に戦闘を終わらせる、若しくは戦闘中に戦力を割いて行動に移せるか。

4.生態部品の保管してある場所を突き止められるか。

5.蘇生術式を成功させられるか。

と、少なくとも5つの問題が在り、これら5つだけを考慮しても速人は自身が蘇生される確率は5%未満と判断していた。

 

  後、はやてを錯乱させる理由の一つには、【はやてが錯乱している隙に最後の蒐集を終わらせ、その後錯乱しているはやてを乗っ取る容で魔導書の意志が顕現すれば、全てが終わった後、〔はやては周りに完全に利用されていた被害者〕、という口実が十分成り立つ】、という理由もあった。

 

―――

 

 

 

  そして、なのはが勝利を確信してディバインバスターを撃ち放とうとする直前―――

 

   

 

―――速人は障壁を展開した。

  そしてそれに僅かに遅れてなのはの声が辺りに木霊する。

 

「ディバイィィィィィンッ!」

 

  崩壊しかけているレイジングハートをまるで無視するかのように、嘗て無い出力のディバインバスターを放とうとなのははしていた。

 

  砕けていくレイジングハートを全く気に留めず、なのはは半壊したレイジングハートを振り上げ―――

 

「バァスッ……」

 

―――僅かに言葉を切り、直後に思い切り振り下ろしながら叫んだ。

 

「ッタァーーーーーーーーッッッ!!!」

 

  その瞬間、安物の蛍光灯の様な桃色の光を放つ魔力が速人目掛けて放たれた。

 

 

 

―――

 

  スターライトブレイカー級に威力を高められたディバインバスターだったが、それでも展開された障壁を砕くには完全に役者不足であり、更には障壁に対して斜めに砲撃は放たれているので、なのはの攻撃は障壁を僅かに軋ませる程度の負荷を加えただけで自身のデバイスを崩壊寸前まで追い込んだ挙句に自身も消耗し尽した、という結果しか残らない筈だった。

 

―――

 

 

 

  しかし、なのはから魔法が放たれる直前、速人は僅かな駆動音が発生した方向へと瞬時に顔を向けた。

  すると其処は内壁やその向こう側の隔壁が開放されており、シャマルを先頭にしたはやて達が居た。

 

  そしてこのまま障壁を展開し続けたならば、障壁により反れた砲撃がシャマル達に直撃してしまうので―――

 

   

 

―――速人はディバインバスターが放たれるのとほぼ同時に障壁を収納した。

 

  そしてその直後、速人は砲撃に飲み込まれた。

 

 

 

――― Side 天神 速人 ―――

 

 

 

 

 

 

 

Interlude

 

 

 

  或る時、或る所に、一人の胎児がいた。

  そしてその胎児はヒトの形を成し始めた辺りで活動を開始していた。

  尤も、活動と言ってもそれは肉体的活動ではなく思考的活動であり、身体能力所か五感全てが未発達な状態なので、それは当然であった。

 

  身動き出来ぬ所か五感さえも碌に機能していない胎児は、只管に脳だけ活発に活動し続けた。

  本来ならば誕生して外部刺激を受けながら他者の言語を徐徐に理解し、その上で自我を徐徐に形成するのだが、その胎児は外部刺激を望める状況下でもなければ知覚も出来る状態ではなく、只管に自身のみで全てを形成していった。

 

  通常は他者が扱う言葉を自分の言語とし、又、他者の応対に因って自我を構築する。が、その胎児は全てを自身のみで賄いながら構築し、結果その胎児は自身のみの言語と何者にも染められていない自我を得ることが出来た。

 

  だがそれは自身の基礎となる言語が自分だけのものであり、更に何者にも染められずに自己完結した自我である以上、社会性が根本的に存在しなかった。

 

 

  誕生さえすれば新生児は未成熟な身体である以上、単独ではほぼ生存不可能なためにほぼ確実に他者と接触する機会が発生し、その中で言語を習得しつつ自我を形成するが、誕生前は呼吸すら必要が無く、更に妊娠初期時の胎児ならば外部刺激をほぼ確実に知覚出来ない状態なので、その段階で脳が活発に活動したその胎児が人間としての精神に致命的な欠陥を抱えるのは当然のことだった。

 

  しかもその胎児は母体が自身を取り巻く世界(全て)とも呼べる段階から呪詛を吐き続けられたため、自身以外の全ては自身に害意を持っていると本能レベルで認識してしまい、益益他者との交流を阻害する要素が増えた。

 

  ソレ等はその胎児が生まれ出で、やがて少年と呼ばれる肉体になるまで成長し、更に血縁者並びにその関係者を一名たりとも生きていない状態にし、その後家族や友と呼ぶ関係を他者と築き、そして現在に至っても尚何一つ僅かたりとも変わっていなかった。

 

 

 

Interlude out

 

 

 

 

 

 

――― Side 天神 速人 ―――

 

 

 

  毒毒しいと表現するよりも、浮薄と表現すべき桃色の砲撃に呑まれる寸前、着地後の屈んだ体勢だった速人は、満足に動かない左手を後の事は知らぬとばかりに外套を掴み、最速で以って身体を覆い隠した。

  その後左腕を首と頭部(特に脳幹)を守る盾として構え、更に外套が砲撃の直撃で捲られないよう、外套を歯が噛み砕けんばかりに噛み締め、左手は筋肉全てが断裂する程外套を握り締めた。

 

  そして、直撃に備えた直後、速人はなのはの砲撃に呑まれた。

 

 

  壁に砲撃が激突する音が響き渡ったが、元元爆発物の実験も行う場所であるため、内壁の耐圧性や耐衝撃性は非常に高く、ディバインバスターを受けても表面が僅かに削れる程度だった。

 

 

  そして、なのはが必勝を確信しつつ、対してはやて達は状況に理解が追いつかない儘に、砲撃は止んだ。

 

 

  地面ではなく床であるため土煙も立ち込めておらず、建築材も然して破損していないので視界を遮る程の破片が辺りに舞っていないため、砲撃が止めば直ぐにどうなったかを誰もが見てとれた。

 

  全員砲撃を受け止めていた内壁までは距離があったのではっきりとは見えなかったが、少なくとも速人が小さくなったことだけは誰の目にも明らかだった。

 

 

 

―――

 

  速人は砲撃に飲まれた直後に身体を高速で弾き飛ばされたので、強烈なGで内臓を激しく痛めた。

  次いで砲撃で弾き飛ばされた際、身体の半分程度が外套からはみ出てしまい、外套の優れた遮断能力に守られていない箇所は、身体が壁に叩き付けられて1秒もせずに手榴弾の零距離炸裂すら数度耐えられる耐性を付加された衣服が吹き散らされた瞬間、即座に削り散らされた。

  更に外套に守られた箇所も砲撃による圧力は殆ど遮断されていないので、杭打ち機で打たれたような圧力が掛かったが、杭と違って受けている砲撃は流動体なので、突出した一点に当たって止まるようなことは無かった。

 

  結果、弾き飛ばされた際のGで内臓が軋み上げ、更に視界のブラックアウト。

  次に壁に激突した際に頭蓋骨の後頭部を含む上半身の背面関係の骨殆どの粉砕骨折。

  更に外套の守りの外に出た箇所の衣服が吹き散らされた瞬間、その下の肉体は例外無く削り散らされ、右肋骨の一番下から左脚の付け根にかけて剃ぎ落とされたように消失していた。

  その上壁に固定された状態で砲撃の圧力を外套越しに受けた上半身は、ロードローラーで二度挽きされたかのように潰れており、左腕に守られていなかった側頭部から顎にかけての骨は全て砕けており、更に砕けた骨が筋肉と皮膚を引き裂いて表われた為、顔の形が明らかに崩れていた。

  最後に左腕に守られていた箇所は辛うじて直撃による直接の被害は無かったが、周辺の骨が砕ける際に左の視神経が巻き込まれて切断され、失明していた。

 

  これにより速人は戦車に轢かれながら対戦車地雷の爆発に巻き込まれた者の様な有様になっていた。

 

  尚、速人の左腕は金属製の布が巻かれていて体積が増していたことに因り、防御範囲が拡大していたので、守備範囲外を辛うじて側頭部に留めることが出来、骨が砕けようと圧力の方向的に被害は脳膜で辛うじて食い止めることが出来ていた。

 

―――

 

 

 

  そして小さくなった速人を見たシグナム達が駆けつけようとしたのを制する様になのはが声を張り上げた。

 

「あたしの勝ちですっ!!!」

 

  崩壊寸前のレイジングハートを速人に向けつつなのはは声を発し、更に声を発す。

 

「負けたんですから蹲って小さくなってないで、直ぐにフェイトちゃん達に謝って下さいっ!!」

 

  そう言ってなのはが魔力弾を周囲に発生させた時、ヴィータが後先を一切考えず―――

 

「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!

 

―――怒声を張り上げながらラケーテンハンマーを発動させている最中のグラーフアイゼンを全力でなのは目掛けて投げ付けた。

 

「えっっ!?!?!?」

 

  突如爆炎を上げつつ高速回転しながら飛来したハンマーに驚いたなのはは、慌てて然して狙いも定めず周囲に展開させていた魔力弾で迎撃を試みた。

 

  そして、なのはは直撃を食らえばただでは済まない勢いで迫っていたグラーフアイゼンを辛うじて迎撃していた(エレベーター入り口の壁とヴィータとの角度の関係上、僅かに角度が狂っただけでも壁に掠り、壁の頑健さの為難無く抉り取ることが出来ずに軌道が大幅に狂い、辛うじて難を逃れていた)。

  だが、ヴィータ達はなのはがグラーフアイゼンの迎撃を成功させる前に、殆ど同時に四名とも行動していた。

 

  ヴィータは万が一弾かれたグラーフアイゼンや魔力弾の流れ弾が速人に当たらぬ為に速人の前へと疾走し、シャマルは速人を治療する為に速人の許へと疾走し、シグナムははやてとなのはの間に盾となるべく即座に移動し、ザフィーラははやてを片手で抱えなおしながら半身をなのはに向けつつ鋼の軛を放つべく集中し始めた。

 

  その結果、シグナムは自身の近くに飛んできたグラーフアイゼンをレヴァンテインでヴィータの方に弾き飛ばし、ヴィータはグラーフアイゼンを受け取った瞬間即座にバリアタイプ防御魔法(パンツァーヒンダネス)を展開し、ザフィーラがエレベーター内のなのはの姿を隠す程の数と太さの鋼の軛を展開し、最後にシャマルが速人の有様に僅かに怯みつつも兎に角治療魔法を掛けながら叫んだ。

 

「焼き塞いでっっ!!」

 

  その言葉だけでシャマルが自分に向けて言い放ち、そして何を焼き塞いでほしいのかを察したシグナムは、自分がはやての守りから外れても暫くは問題無いと判断し、レヴァンテインに炎を纏わせながら速人の許に疾走した。

 

  そしてシグナムが速人の許に着き、その有様を見て内心怯みはしたものの行動を一瞬も遅らせることなく、削り取られて断面を曝す右肋骨の下辺りから左脚の付け根辺りまでを即座に焼き塞いだ。

 

  その結果、僅かな量とはいえ続いていた出血が強制的に止められた(既に殆ど血液が残っておらず、細かな怪我から血が溢れ出る程の血圧も無かった)。

  その後ザフィーラ達が速人の許に駆け出し始めた頃シャマルは大声を発す。

 

「個別認証コード(符号)CBHAΓ5193!

  保管庫の全開放!

 

  輸血用血液か吸入用酸素が在ったら急いで持ってきてっ!!

  シグナムは動かないで!」

 

  その言葉と同時にシャマルは先程速人が自己血輸血をした際に開放していた保管庫に疾走し、ヴィータ達は一番手近な保管庫に疾走しだす。

 

  保管庫の前に着いたシャマルは輸血用血液が無いのを確認すると、即座に輸血や採血用の管や注射器一式を持って急いで速人の許に疾走する。

 

  そして速人の許に再び戻ったシャマルは最速で器具一式を使用可能状態にしつつシグナムに叫ぶ。

 

「速人さんの左腕を出血しないよう焼き斬って!」

「っっっっっ???!」

 

  シャマルのその言葉にシグナム以外は言葉にこそ出さないが誰も驚いた。

  だが、ここでシャマルと問答して集中力や効率を僅かでも落として理由を聞くより、シャマルを信頼なり信用なりして任せ、今自分がやれる事を最速でやるべきだと誰もが即座に思った為黙黙と捜索を続けていた。

 

  そしてそれを思考の片隅で有り難いとシャマルは思いつつ、一瞬驚いたシグナムが既にレヴァンテインに炎を纏わせているのを見た時に焼き斬らせる意味を述べた。

 

「腕の血を脳に廻すから斬り終わったら持っててちょうだい!!」

 

  シャマルが言い終わる前に速人の腕を焼き斬ったシグナムは急いで切り落とした腕を持ち上げた。

 

  その直後シャマルが急いで腕から採血をしようとしたが、残った血液が少なすぎて上手く採血出来ず、焦りが多分に混じった声でシグナムに要件を告げる。

 

「シグナム!そこから盥を2つ!」

 

  シグナムはシャマルが眼で指し示した先程輸血用器具一式を持ち出してきた保管庫に疾走し、シャマルが速人の首の動脈に輸血用の管を刺した時に盥を手に戻ってくる。

 

「腕を斬って盥に血を集めて!」

 

  シャマルは清潔さを幾分犠牲にしようと兎に角素早く血を確保する事を最優先にし、シグナムから速人の腕を攫うように掴み取ると、速人の腕を盥の上に来るように持ち、シグナムに眼で斬るよう促した。

 

  シャマルに促されたシグナムは即座に速人の腕の肘を即座に切断した(金属の心棒や金属製の布は曲げる為に肘の周囲には断撃を妨げるようには存在していない)。

 

  その後直ぐに腕を切断したにしては少ない量の血液が切断面から流れ出すが、血が流れ出すのを確認したシャマルはシグナムに腕を持つように眼で伝え―――

 

「アリサちゃんとすずかんちゃんはこっちに!!」

「「はい!!」っっ!?酸素を見つけたわ!!」

 

―――直ぐに流れ出した血液を注射器で吸引して輸血用の管に繋げつつアリサとすずかを呼び寄せた。

  そして両名が到着する前に指示を出す。

 

「アリサちゃんはこの注射器を2秒一目盛りぐらいで注射して無くなったら交換してまた同じに!

  すずかちゃんは血を注射器で集めてアリサちゃんに渡して終わったら酸素を2秒出して4秒待ってを繰り返して!

  シグナムは腕を軽く絞っても1秒で1滴以下しか出なくなったらもう片方の盥に腕を置いて相手を警戒してて!」

 

  話している最中にシャマルは輸血用の管を速人の口から気管へと差し込み、口からはみ出ている管にはアリサの持ってきた吸入用酸素ボンベの噴出孔へ強引に嵌め込み、両肺が潰れるどころか破裂しており、酸素を流し込んでも効果が薄い上に肺の痛んだ箇所が破裂して更に負傷する可能性が高かったが、それを承知で実行した。

 

  そしてシャマルが指示を出している最中にアリサとすずかは首肯して行動し、シグナムはシャマルが指示を出し終わるとほぼ同時に速人の腕をもう一つの盥に置き、周囲を最低限警戒しつつ、鋼の軛で封鎖されたなのはがいるエレベーターに最大限の警戒を払った。

  直後、展開速度重視の為に相当脆くなっていた鋼の軛が砕けていく音が周囲に響き、シグナムがシャマルに自分が迎撃に移るが構わないかと眼で問いかけ、それにシャマルは即座に答えた。

 

「全員探すの止めてこっちに着てヴィータちゃんはバリア張ってシグナムは迎撃を!」

 

  シャマルが言い終わる前にヴィータとザフィーラは皆の許に疾走し、言い終わる頃にはシグナムが速人達を背にした状態でエレベーターの前に移動して迎撃に備え、シグナムが離れるとほぼ同時にヴィータはバリアを展開して攻撃に備えた。

  そして血を集め終わったすずかに吸入用の酸素ボンベを渡して手が空いたシャマルは回復魔法を掛けつつであったが、先程より更に深く思考に浸りだした。

 

(相当節約してますけど注射用の血は残り100秒前後程で、それ以内に血液に酸素を溶かして血液を循環させないと脳が危険です。輸血用の血液が1箇所にしか保管してないことは無い筈ですけど、これだけ探しても無いってことは私達が見てない時に使い切った可能性もありますけど、シグナムが迎撃した後にはやてちゃんを此処に置いたザフィーラとシグナムに最速で探させ、その間にアリサちゃんかすずかちゃんのどちらかの血を速人さんの流れ出た血と混ぜて固まらなかったら最悪血液検査無しで輸血してでも脳を生かしましょう。だけど心臓が辛うじて血を零さない程度にしか塞がってませんから自力循環は期待出来ませんし、心臓を直接握って血液循環させようものなら心臓が破裂しますし、そもそも肺が潰れたり破裂したりしているから血液に酸素を殆ど混ぜれないから、血液が廻っても効果が殆ど無い。その上後頭部の脳膜が破損して脳漿が漏れ出して脳圧が下がり始めてて非常に危険で、せめて俯せにして洩れ出るのを防ごうにも迂闊に半回転させたら肺か心臓か脊髄かが引き千切れる可能性も高いから魔法で急いで治すしかないんですけど…………さっきから全然治る気配が無いのどうしてですか!!!???)

 

  最早延命とも言えない悪足掻きしか出来ていない自分に我慢ならず、シャマルは苛立ち紛れに床を殴ろうとしたが、表に出すギリギリ前で思い止まり、深呼吸をすればはやて達の緊張の糸を切りかねない程の不安を与えてしまうと思い、視線をアリサの手の中の注射器内の血液量から指示を出し終えてから10秒も経っていないのだと脇道に逸れた思考をすることで何とか落ち着きを取り戻し、それからアリサとすずかに頼みだす。

 

「アリサちゃんにすずかちゃん。血液型が合っているかだけでも知りたいから、そこの血溜りに自分の血を混ぜて固まらないかどうか確認してくれない?」

 

  その言葉が終わるとほぼ同時にアリサは左掌の右端部分の皮膚を噛み破り、すずかはポケットからキーホルダーに近い刃渡りが1cm程のカッターナイフを取り出して口に咥えながら(右手は吸入用酸素ボンベを持っているので)、迷わず掌を噛み破ったアリサと文字通り瀕死の速人を見、咥え終った直後、即座に左掌を切り裂いた。

  直後、両者の掌から血が溢れて血溜りに流れ落ち、其其左手で攪拌して固まるかどうかを調べていた

 

  そしてあまりにも原始的な血液検査をアリサとすずかが片手間に行なっている最中、先程に比べて幾分落ち着いた感じでシャマルが話していた為、周囲の者達は安堵こそしなかったが募っていく不安が少し減った感じがした。

  が、シャマルは不安が減る所か加速度的に増加し、今にも不安と焦燥と無力感で緊張の糸が切れて喚き散らしたくなるのを必死に堪えながら思考を巡らしていた。

 

(管理局に助けを求める…却下。

  間違い無く速人さんを人質に取られてはやてちゃんは投降するし、そうなったら後はいつの間にか私達守護騎士は殺されてはやてちゃんは運が良ければ治療されるけど、その場合は速人さんを人質に取られて犯罪者ということで使い潰される可能性が高い。というかそれ以外の未来が見えない。

  そもそも管理局は平和を維持する組織じゃなくて、自分たちにとって都合が悪い存在を速やかに処理出来る状態を維持し続ける組織だから、助けを求めること自体が見当外れね。

 

  人工心肺を使用する…却下。

  人工心肺を正常に稼動させるだけの血液が圧倒的に足りないし、仮に強引に稼動させても其の場合一次的にとは言え速人さんの体の血が殆ど無くなるから、血管内に残留した血液が凝固して毛細血管等への血液循環を阻害して脳死は免れない。

 

  脳を取り出して培養液に入れて延命している間に身体を治す…却下。

  培養液の場所は知ってるけれど遠い上に脳を摘出する時間が全然足りないし、摘出しても脳に酸素を送るために血管に人工血管を繋げる作業が私には出来ないからそもそも無理。

 

  カートリッジを素手で強引に開放して治癒魔法の出力向上をする…却下。

  今掛けてる治癒魔法の殆どが素通りする感覚からして既に魔法を受け止めてくれるだけの身体じゃないのが……既に身体が死んでいっているのが分かる。

  ここで治癒魔法の出力上げれば、生き残っている細胞が治癒魔法の出力に耐えかねて死亡する。

  せめて腕一本分ほど無事な箇所が散在してたなら、そこを基点に治癒魔法が効くから再生が間に合った筈なのに……。

 

  ……アリサちゃんかすずかちゃんの血液を輸血する…保留。

  血液型が合うかは直ぐに分かると思うけど、他の細かいのが合うかは分からないから賭けになる部分が大きすぎるし、賭けに負ければ即死亡…。

  それに肺と心臓が殆ど機能してないから酸素と栄養を含んだ血液を補充し続けなきゃいけないけど、そのためには輸血だけじゃなくて速人さんの身体を巡った血液を受け入れて循環してもらわなければならないけど……急激な血圧と血中酸素濃度の低下等で、負担してくれた方諸共死ぬ可能性が高い。かといって死んでも心が痛まない敵を使おうものなら、意識が戻った時に速人さんが殺される可能性が極めて高いですし、薬で眠らせれば速人さんにも効果が及んで危険すぎるから却下。

 

  ………他は…………考えつかない……。

  ……もうアリサちゃんとすずかちゃんの血液が合わないと打つ手無しです)

 

  嘗て無い思考速度で以って僅か4秒弱で思考を終えたシャマルは、そろそろ血が混ざっても固まっていなければ最低限輸血出来る可能性が残っていると思い、内心恐る恐るしながらも、しかしそんな素振りを見せずに結果を見ようとした。

  だがその寸前に、鋼の軛を破砕した桃色の光がシグナムに襲い掛かった。

 

  後ろにヴィータが控えているとはいえ、自身の主たるはやてと今にも命の灯が消えそうな速人が居る為、シグナムに避けるという選択は無く、直撃の寸前に全力で自身の防御力を上昇させて(パンツァーガイストを展開して)はやて達の盾となった。

  そしてシグナムが受け止め切れなかった砲撃のエネルギーがヴィータの展開するバリア(パンツァーヒンダネス)に当たったが、大半をシグナムが受け止めていたので前方に少しエネルギーを集中させ、問題無く防ぎきった

 

  桃色の光に少少眼を焼かれ、細かい色の識別をシャマル達が出来ないでいる間に大声が響き渡った。

 

「大人しく降伏してください!

  そしてお話すればあなた達も間違いに気付くから!

  誰も傷付かない終わり方があるから!

  だからもうひどいことはやめてください!」

 

  なのはがそう大声を上げた直後、大声を上げている最中にヴィータは空中に鈍色の球体を4つ静止させ、グラーフアイゼンを振りかぶりつつ―――

 

黙れーーーーーーーっっっ!!!

 

―――叫びながらシグナムが辛うじて回避できるだけの間を置き、体勢と溜めと振り下ろしと命中するタイミングの全てが二度は望めないほどのレベルで纏まった状態で4つの球体を叩き飛ばした。

 

  叩き飛ばされた弾丸はなのはの両手首と両膝に命中し、強固なバリアジャケットとヴィータが非殺傷で攻撃したのが原因で脱臼で済んだ(ヴィータが非殺傷設定なのは単純に切り替え忘れただけで、もう幾分冷静ならば殺傷設定で攻撃して着弾箇所を弾き散らしていた)。

 

っっっっぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁあああああああああああああああっっ!

 

  膝が外れた(脱臼した)ため痛みで立っていられず、悲鳴寄りの呻き声を上げてなのはは倒れてしまった(直立して腰でバランスを取るようにする等、痛みを堪えられるなら脱臼しても立つことは可能)。

  しかも倒れこんだ衝撃と手首のダメージが合わさり、なのはの手からレイジングハートが離れてしまった。

 

  そして、なのはの声を聞きながらアリサとすずかの血の方を見たシャマルは、静かに眼を閉じた。

 

  眼を閉じたシャマルは次第に顔を歪ませ、歯軋りが聞こえるどころか歯が砕けかねない程歯を食いしばり、更に全身が痙攣するように震えだし、最後に右手を振り上げ、力の限り床を殴りつけた。

 

 

  床が殴られた際の残響が消え去った頃、ソレが何を意味しているか理解してしまったヴィータ達は次次と不安が恐怖へと変化し、更に絶望感もその身に襲い掛かった。

 

  そして、ヴィータ達の誰もが聞きたくない言葉を、辛うじて残っている冷静さを消し去る言葉が、俯いたままのシャマルの口から静かに発せられた。

 

「………打つ手無しです。

 

  2分以内に…………………………………………死にます」

 

 

  その言葉を聞いた直後、〔冷静さを失えば助かるものも助からない〕、という考えで辛うじて冷静であった面面から次次と冷静さが失われていった。

 

  ただ、冷静さを失った面面が取り乱し始める前に、全身と声を震わせながらアリサがシャマルに訊ねた。

 

「………の………脳だけっ、…取り出すっ……てのはっ?」

 

  その言葉でなのはを警戒しているシグナム以外の全員が、シャマルに一縷の望みを籠めた視線を送る。

  だが―――

 

「……摘出する技術も未熟ですが、培養液を脳に回す為の管を血管に繋げる技術が私には無いので止めを刺すだけに終わります。

  …………肺をパーフルオロカーボン(呼吸可能な液体)で満たして呼吸の負担を減らそうとしても、既に無事な肺胞がゼロに近く、殆どガス交換が出来ないので身体に負担を掛けるだけです」

 

―――発せられた言葉は希望を打ち砕くものだった。

 

  そして、その言葉を聞いてとうとう冷静さを失ったヴィータは、涙混じりの大声をシャマルに叩き付けた。

 

「あ………諦めてんじゃねえよっ!!

 

  アタシ達のために一人で戦って!  アタシ達の為に殺せば勝てるのを殺さなかったから一方的に甚振られて!!  アタシ達に逸らした砲撃がくるから無防備に食らって死に掛けてんだぞ!!!

 

  それなのに諦めてんじゃねえよっ!!!」

「っっぅぅぅっっ!!

  あ…諦めてなんていません!

  だけど………もう手の施しようがないんですっ!!

 

  血は圧倒的に足りないし、内蔵は心臓を含めて全て破裂か消失してますし、脳は脳漿が流れ出してるんですよ!!!?

 

  無駄と思える方法も試せる限り試しました!

  残っている治療法は既に無駄以前に体力的問題でどれもメリットが無いくせに確実に止めを刺すのしかないんですよ!!!?

 

  ……どうにかできる方法が在るんなら教えるなり代わりにするかしてくださいっ!!!」

 

  その遣り取りを聞き、次次と周りの面面から冷静さが抜け落ちていき、完全に涙声のはやてがシャマルに訊ねた。

 

「管理局っていう所に頼むんは駄目なん!!?」

「この場所は転移で侵入や離脱すれば即座に切り刻まれますし、レーザー装置を破壊しつくしてもこの場所ごと爆破してでも阻止されます!

 

  それに一命を取り留めることが出来るならとっくにはやてちゃんの身柄と私達の命と引き換えに治療を迫っている筈です!

  そして仮に助かったとしても速人さんは治療後に解剖され、はやてちゃんは洗脳か解剖か処刑され、アリサちゃん達も私達に関わった危険人物として碌な事にはなりません!!

  これはリンディとかいう人が偽善者であろうと間抜けであろうと関係無いんです!

 

  出来る出来ないに関わらず、速人さんの治療の代わりに私達を殺してはやてちゃんを拘束するという発言が出てこない二流か三流の指揮官は、組織の最高意思決定権を持つ者にとっては駒程度の存在ですから、暴走危険の高い重犯罪者を擁護する意見に耳を傾けたりはしません!!」

「じゃあ凍らせて冷凍睡眠して時間を稼ぐってのは!!?」

「手順を踏んで冷凍させないと脳の細胞が軒並み破裂するので、解凍後死んでるか廃人になってるかのどっちかですし、手順を踏むには機材と時間と技術と速人さんの体力とを含めた全てが足りません!!」

「それじゃあ無理矢理ショック死させて時間を稼ぐっていうのは!?」

「胸から下が千切れ、残った首から下は内臓を含めた全てが破裂してもショック死しない人をショック死させる方法なんて私は知りません!!

  第一、反応してないのか出来ないのかは分かりませんけど、今現在もほぼ確実に意識を保っているんですよ!!?

 

 それに仮にショック死しても、蘇生準備を整える前に脳圧の低下で脳細胞が破損して蘇生が不可能になってます!!」

「ならどうするというのだ!!?」

「だから打つ手が無いって言ってるじゃないですかっっ!!!???」

 

  錯乱と癇癪が混じった精神状態のシャマルが、悲鳴混じりの大声ではやてとアリサとすずかとザフィーラの問いに答えた。

  そしてシャマルの答えを聞く度にはやて達の気休め程度の希望が悉く砕かれ、認めたくない現実が直ぐに訪れるという事を、皆否応無しに理解した。

 

 

  すずかを除くはやて達全員は想いの方向性は違えども、速人は掛け値無しに大切な存在であり、そのような存在が眼前で成す術無く命の灯が消えていくことに凄まじい絶望感に苛まれていた。

  だが、相対しているなのは達を除けば唯一速人を特別と想う程大切な存在で無いと自認しているすずかは、はやて達より幾分冷静に思考していた。

 

(………………こんな傷だっていうのに…………………なのはちゃん…………謝る所か気にも留めてなかった。

 

  …………遠くてよく見えないのもあるんだろうけど、…………自分が人を傷つけたり…………ましてや殺すことなんてないって……理由も無く信じてるんだろうけど、……………多分…………自分が正しくて相手が悪いと思ってるから速人さんの傷を気に留めたりしないんだろうな………。

 

  …………………だったら………速人さん側にいるはやてちゃんと一緒に居る私やアリサちゃんは………………なのはちゃんの眼にはどう映ってるのかな?)

 

  そう思ったすずかは俯いて歯を食いしばっているシャマルに吸入用の酸素ボンベを無言で強引に手渡して立ち上がった。

 

  すずかの突然の行動になのはを警戒しているシグナム以外が不審に思ったが、すずかが何をしようとしているか直ぐに気付いたアリサははやてを抱えているザフィーラを手招きし、すずかに倣って無言で手の中の物をはやてに握らせて立ち上がった。

 

  そして今尚痛みで蹲って呻いているなのはに先に立ち上がったすずかが声を掛けた。

 

「なのはちゃん、………………自分が何をしたいのか、………そして何をしたのか分かってる?」

 

  起き上がろうと手で身体を支えようとすれば手首に負担がかかって(痛みが走って)身じろぎしてしまって倒れてしまい、そのまま立ち上がろうとすれば膝に手首と同じく負担がかかって(痛みが走り)、飛行魔法で体勢を立て直そうとしてもレイジングハートが手から離れていてそれも儘ならず、なのはは今までの人生で最大の痛みに苛まれて俯せで痛みに悶えていただけだったが、すずかの呼びかけで何とかある程度意識をはっきりと持つことが出来、首だけ上げてすずかを見やりつつ声を張り上げた。

 

「そっ………そんなの決まってるよっ!

  あたしははやてちゃんやシグナムさん達を助けようとしててっ、その邪魔をしたあの人を倒しただけだよっ!」

 

  それを聞いた瞬間、ヴィータ達は凄まじい怒気をなのはに叩き付けた。

  が、何故自分に怒気が叩きつけられているのかを理解出来ていないなのははその怒気に気圧されながらも怯む事はなく、降伏を促そうとしたが、それよりも僅かに早く、アリサが底冷えする声で訊ねた。

 

「今の速人の状態を言ってみなさい」

 

  最終勧告のつもりで訊ねたアリサだったが、なのははそれに気付かず、全く少しも深く考えようとせずに声を返した(脱臼や亀裂骨折は損傷箇所に負荷が無い限り気が狂う程の痛みなわけでもないので、十分に会話が可能だった)。

 

「あたしに負けて気絶してるよ」

「………胸から下が消し飛んでるのは分かってんのっ?」

「その人は悪い人だし、あたしはきちんとお話しようとしたんだよ!?

  なのにどうしてあたしが悪いみたいに言うのっ!!?」

死ぬかもしれないのが分かってんのっっ???

「捕まえてアースラに連れてけば直ぐに治してくれるから大丈夫だよ!」

 

  それを聞いてアリサは激昂して殴りかかろうとしたが、ふと、既に殺しにかかっても不思議ではないヴィータが沈黙を守っているのが気になるだけは冷静さが残っていたので、視線を後ろに向け、歯を食いしばりながら納得した。

 

 

 

―――

 

  既になのはを警戒しているシグナムを除くはやて達は、まるで速人を看取るかのように、随分と小さくなった速人を囲み、今にも涙が溢れそうな表情で、懇願するように速人を見つめていた。

 

  不安や絶望に負けて泣き喚いてしまえば、直ぐにその通りになるかもしれないと思い、既に混乱の只中でありながら、涙を流しながらも喚くの辛うじて堪えて速人を見つめていた。

 

  何も出来ずに徒見るだけしか出来ないのが悔しく、何を話しかけていいのかも分からず、死体にしか見えない速人と比べて無傷な自分達が許せず、何より自分達の在り方そのものが現状に至った原因だと思い、生きていてほしいと懇願する眼差しだけでなく、自分達の罪の許しを請う様な懺悔する眼差しをを向けていた。

 

―――

 

 

 

  アリサはヴィータ達の様子から速人に残された時間は本当に極僅かだと感じ、これ以上なのはに拘合のは時間の無駄になる可能性が極大と判断し、最後に一つだけ訊ねることにした。

 

「………自分が誰かを不幸にしてるって……思ったこと……ある?」

 

  アリサはその問いを投げた時、恐らく二度と友人と思えなくなる答えが返ってくるだろうと思った。

  そしてなのはから返された答えは―――

 

「あたしはみんなのためにやってるんだから、誰も不幸になんてしないよっ!!」

 

―――アリサの予想通りの答えであり、それを聞いたアリサは返事もせずになのはから視線を切って速人の許に急いで向かった。

 

  そしてアリサに続いてすずかがなのはに問いを投げた。

 

「なのはちゃん…………今のはやてちゃん達を見て……本気で不幸にしてないって思ってるの?」

 

  今まで友達だと思っていた者を見限りたくないと思いながら投げかけた問いだったが、返ってきた答えはすずかの想いを打ち砕くものだった。

 

「あの人が悪い人だからみんなが不幸になってるんだもん!

  だからあたしは悪くないもんっ!!」

 

  その言葉を聞き、すずかもアリサと同じくなのはから視線を切って速人の許に向かい、自分だけなのはを見ている状態になったシグナムはなのはの傍に近寄り、地の底から響くような声でなのはに告げた。

 

「それ以上声を出すな。

  ……………………………………殺したくて殺したくてしょうがないのだからな………。

 

  ……………私は…………天神の配慮を無駄にしたくない」

 

  それを聞いたなのはが反論しようと顔を上げるが―――

 

「寝てろ」

 

―――容赦無く全力でなのはの頂頭部をシグナムは蹴り踏み、気絶させることで黙らせた。

  その後近くに落ちていたレイジングハートをシグナムは遠くに蹴り飛ばした。

 

  そしてある程度敵性存在が無力化したのを確認したシグナムははやて達の方を振り向き、俯きかけたが、歯を食いしばって速人の薄く半開きになった目を見詰めた。

 

 

  既に自己輸血する血液は無く、両腕と胸から下は無く、残った胸の部分も辛うじて原形を留めている程度に潰れ、顔は両頬に両側頭部は削れて顔色は土気色で、どう見ても死体にしか見えない状態にも拘らず、速人は片目を開き、力無く周囲を見回した。

 

  傍に居るはやて達にアリサとすずかを見、その後自分を強く強く見詰めるシグナムを見、そしてはやてが胸に抱く魔導書を見、最後に焦点の合ってない瞳で虚空を僅かな間見た後、前触れも無く速人の瞼は閉じられた。

 

  そしてその次の瞬間、ナニカが消える様な、表現し難い感覚をはやて達全員は感じた。

 

「………心肺及び脳波…………………停止」

 

  回復魔法の手応えが完全に無くなったことからシャマルはそう判断して口にし、唇を噛み千切る程震えつつ、更に言葉を紡いだ。

 

「………………………………………………………………………………死にました」

 

  その一言に呆然とするはやて達。

 

  ザフィーラは速人だった死体の傍に静かにはやてを下ろし、最低限の自制心を残しながらも、嘗て無い敵意と怒気を気絶して倒れ付しているなのはに向けて叩き付けた。

 

  ヴィータは呆然となる寸前ながらも、速人だった死体とその傍で呆然とするはやてを震えて涙を流しながら見ていた。

 

  シグナムは怒りで震えることや涙を溜めることも無く、全てを自身と相手に向けた憎悪と怒気に変え、静かに立っていた。

 

  アリサは俯いて歯を食いしばりながらも、何も言わずにはやての傍に佇んでいた。

 

  すずかは震えるアリサと呆然とするはやてを見た後に一瞬なのはを見たが、すぐに視線を切ってアリサとはやての傍に移動し、二人と死んだ速人を見つめていた。

 

 

  そして、呆然としていたはやてが依然呆然としたまま四つん這いになり、抱えていた魔導書を落としながらも片手を速人の心臓辺りに静かに手を置いた。

 

(息…………………………しとらんな…………………………)

 

  微塵も胸が上下していないことから、緩慢にそれを理解するはやて。

 

(心臓……………………………………………………動いとらんな……………………………………………………)

 

  砕けた肋骨の奇妙な感触と共に、微塵も鼓動や温もりが感じられないことから、先程より更に緩慢にそれを理解するはやて。

 

  そしてその後はやてはゆっくりと速人の全身を見回した。

 

  両腕は存在せず、右足は完全に跡形も無く、左足は付け根の部分が僅かしか存在しなかった。

  胴は外套により砲撃の直撃から守られたとはいえ砲撃の圧力は殆ど防げておらず、全ての骨は完全に粉砕され、心臓を含めた内臓全てが完膚なきまでに潰されており、至る所の傷口から原型が分からない内臓が飛び出しており、象に10回以上踏まれたよりも酷い有様だった。

  そして頭部は外套だけでなく腕を巻き付ける様にしていた為、辛うじて脳に達しない程度頭蓋骨が削れただけで済んだが、壁に叩き付けられた衝撃で後頭部が砕けて辺りが血とそれを薄める脳漿で塗れており、今も静かに血とそれ以外の何かが流れ出ていた。

 

  常人なら目を背けてしまう死体の有様を見たはやては、ゆっくりと理解した。

 

(…………………………………………………………………………………………………………死んでる)

 

  そう思った瞬間―――

 

「……………………」

 

―――足元の全てが崩れ落ちていく様な―――

 

「…………………………ああああ…………」

 

―――今まで忘れていたモノに圧し潰される様な―――

 

「………………………………………ぁぁああああああ……………」

 

―――まるで自分が潰れながら奈落に落ちていくようにはやては感じ―――

 

「……………………………………………………ああああああああああああああっっ………………」

 

―――二度と自身が今まで居た場所に帰れないと思い―――

 

ああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!!!!!!!ぅぁあっっ!!あぁあっっ!!ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!

 

―――この世の全てを呪う叫びを上げた。

 

  その慟哭の最中、はやての腕の中から落ちた後速人に一部が接触していた魔導書が光を放ち、既に死んでいるからか、それとも魔導書自体の意思なのかは不明だが、摘出もせずに速人のリンカーコアを吸収して蒐集を完成させ、はやてとともに突如爆発的に魔力を振り撒き、周囲の者と死体を吹き飛ばした。

 

  そして、吹き荒れる魔力の渦の中、はやては壁に激突した衝撃で首が折れ、異様な角度を向いている顔の眼孔から飛び出した両眼が揺れる速人の死体と眼が合い―――

 

「いぃいぃっっっっ?!?!???!!!????!!!!…………いあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!

 

―――この世の全てを否定するような叫びを上げた。

 

 

 

  その後、はやての身体が別の者に変生していき、慟哭が終わる時その場に居たのは、見えない星空に想いを馳せている様な、銀髪赫眼の、【死と乙女】、という言葉が似合う少女だった。

 

 

 

――― Side 天神 速人 ―――

 

 

 

 

 

 

 

Interlude

――― ??????? ―――

 

 

 

  …………苦しい……。

 

  ……………悲しくて……………悲しくて…………悲しくて………悲しくて……哀しくて…哀しくて…哀しくて………………………………………憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて気が狂いそうだ!!!!!!

 

 

  ……………憎い。

  主を悲しみに追い落としたヤツが憎い。

 

  ……憎い。

  主を破滅に追いやる自分の在り方が憎い。

 

  憎い。

  何一つ力になれない自分が憎い

 

  憎い!

  嘆くだけで力を得ようとしなかった自分の過去が憎い!

 

  だが………なによりそれらを内包する世界が憎い!!!!!

 

  どうして世界は私を受け入れた!???

  私がいなければ主は騎士達と出会うことは無かっただろうが、少なくとも幸せに暮らせていたはずだ!!!

  私が狂っていなければ主も不自由されず、騎士達が背約することも無く、私と烈火の将に捨て駒にせざるを得ない状況にはならなかったはずだ!!!

  なにより、………………せめて私に自分で自分に幕引くだけの力が在れば、幾度も惨事が繰り返されることは無かったというのに………………何故世界は私を受け入れている!!!?

 

  慕う者や敬う者を尽く傷付けた挙句破滅に追い落とし、更にそれを無差別に周囲へと拡大させ、最後は半端に破壊された後に転生して再び繰り返す!

  ………傷付けたくないのに結局傷付けてしまい、止めてほしいのに誰も止めてくれず、死に(終わり)たいのに何をしようと死ね(終われ)ない!!!

 

 

  ………自死という唯一の自由すらもこの身が認めぬならば、私は喜んで壊れよう。

  ……自ら壊れる事が適わぬならば、他者が私を壊さざるを得ぬよう仕向けよう。

  …誰もが私を壊せぬならば、私を是とする世界を壊そう。

  そして、世界に住む者達を滅ぼし尽くそうとも、………………私は必ず自死という自由を手に入れて見せる!!!

  喩え主の願いに背いてでも。

 

 

 

――― ??????? ―――

Interlude out

 


  第二十一話:冷たいカラダ――――了




なのはと速人が遂に。
美姫 「速人の対策や戦闘中の思考はやっぱり面白いわね」
だな。魔法を相手にどうやれば、というのが。
ついつい、他にもこんな方法ならとか考えてしまう。
美姫 「ある意味、魔法の考察もあるかもね」
それにしても、速人が遂に。
美姫 「一体どうなるのかしらね」
今回もまた楽しませてもらいました。
美姫 「次回も凄く楽しみです」
次回も待っています。



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