はじめに

本編再構成物です。

ですが、すでにレンと晶のルートは通っています。

美由希ルートの「お前は俺の〜」発言もすでにしてあります。

時間軸は本編開始と同時期です。

恭也は誰とも付き合っていません。

上記の設定が嫌な方は戻ってください。

これを見て気分を害されても一切責任持てません。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


とらいあんぐるハート3 〜神の影〜

第6章 「動き始める陰謀」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4月12日(水) 風芽丘学園 3年G組 AM10:12

 

「ふ・・・・・・ふふふ。 ついに、ついにこの時が来ましたね」

 

2時限目、古典の時間。

三年生の大多数のクラスを担当する渡辺教諭(67歳)の授業は、卒業生が眠たくなる度ナンバーワンと評する時間である。

その上、渡辺教諭は、寝ている生徒を起こそうとはしないため、既に生徒の約三分の一が夢の世界に旅立っていた。

そして起きている生徒のうちの一人、桜花は歓喜に打ち震えていた。

桜花の予想に反して、今まで(といっても二日だが)恭也が授業中に寝ることがなかった。

余程、後ろの席にいる神影さんちのトラブルメーカーが怖かったのだろう。

だが、そんな中、ようやくやってきたチャンス。

恭也にしては、もったほうだろう。

なにせ、桜花がいなければ、憂いなく安心して夢の世界へ旅立つことができるのだから・・・

 

(・・・さて、どうしてくれましょう)

 

現在持っている道具で起こす方法は、6パターン。

その中から一番反応が面白そうなものを考えてみる。

 

(・・・・・・そうですね・・・背中に突き刺さるようなものにしましょうか)

 

そんなことを考えながら、桜花は机の中から一つの箱を取り出す。

とあるロボット模型の箱で、腕に仕込まれたばねで、ロケットパンチが再現できるという簡易なものだ。

ただし、中に入っていたのは既に完成していたロボットで、その腕のパーツはあきらかに正規品ではない。

なんか一回り以上大きいし、なにより、通常規格の二倍以上ありそうなバネが凶悪だ。

威力的には二倍じゃすまないレベルにあり、桜花が以前、アリサに仕掛けた脛ギロチンより強力だと思われる。

さらに先っぽを、持っていた小刀で、刺さらない程度まで尖らせる。

背面からの攻撃準備を完了させた桜花は、常時持っている捕縛用の九番鋼糸を、誰にも気付かれないように、蛍光灯をつるしている天井の棒に吊るす。

そして投げた先端の錘を通常の三倍(赤くはない)の大きさにし、恭也の頭の上にくるように調整する。

これで桜花が、掴んでいる鋼糸を離せば、恭也の頭に錘が直撃する。

改造されたロボットの腕のパーツだけ構えて、恭也の背中をロックオン♪

 

「発射♪」

 

しかし、寝ていても恭也は御神の剣士、勘で察知したそれを、

 

「っ!?」

 

とっさに横に跳んでかわす。が

 

「ぶっっ!?」

 

それを読んでいた桜花が、隠していた水鉄砲を打ち、恭也の顔を濡らす。

間を置かずに、準備してあったロケットパンチが恭也目掛けて発射される。

水鉄砲に意識を向けさせられた恭也にかわす術はなく、

 

ゴスッ

「っ・・・!?」

「ぷっ」

 

額に直撃した。

そして、その一部始終を見ていた勇吾は、思わず笑ってしまうもののすぐにそれを引っ込める。

 

「目が覚めました?」

 

それを見ていなかった他の生徒が何事か、と注目する中、達成感満載の笑顔で訊いてくる桜花に、恭也は非難めいた視線を送るものの、

 

「高町君・・・寝るだけならまだしも、授業の邪魔はせんでくれんかね」

「・・・すみません」

 

渡辺教諭の言葉にすごすごと引き下がり、桜花から渡されたタオルで顔を拭きながら席に着く。

これ以降、今日の授業で、恭也が眠ることはなかった。

ただし、卒業までの間、桜花が恭也を様々な方法で起こすという風景は、日常に定着することになる。

 

 

 

 

 

「はい、いらっしゃいませーー♪」

 

放課後、「明日の仕込みはどうしましょう♪」と言っていた桜花と校門で別れた恭也が、商店街を歩いていると、よく通るソプラノボイスが聞こえてくる。

その出所に視線を向けると、翠屋の前でフィアッセが、テーブルを出して、ケーキとクッキーを売っているところが見えた。

学生や会社員が帰宅するこの時間帯は、お持ち帰りの品がよく売れる。

 

「あ、お帰り、恭也」

「ただいま。 売れ行きはどうだ?」

「今日もいい感じだよー」

 

フィアッセの言うように、数人のお客さんが列に並び、その数は減らない。

 

「すいませーん、翠屋シュークリーム8つ、ください」

「はい♪」

 

特に人気なのが、翠屋特製のシュークリームだろう。

大抵の人がシュークリームを買っていく。

 

「・・・あ、シュークリームが残り少ないや・・・」

「とってくる」

 

 

 

「マスター、シュークリーム品切れ直前」

 

恭也が厨房に入ると、桃子が忙しそうに、オーブンと調理台の前を往復していた。

 

「あら・・・なんだ、手伝ってくれてたの」

「ついさっきから」

「あ、シュークリームね・・・。 今、追加の30個があがるから、ちょっと待って・・・松っちゃん、どう?」

「はい、できました!」

 

シュークリームに粉砂糖をふりかけていた、アシスタントコックの松尾が笑顔で桃子に答える。

出来上がるまでの間に、ロッカーからエプロンを取り出して身につけた恭也は、出来上がったシュークリームを店頭に運んでいく。

 

「いらっしゃいませー」

 

運んでいる途中で、聞こえてきたフィアッセの声に入り口を向くと

 

「・・・・・・あ」

「・・・・・・・・・お」

 

ちょうど忍が店内に入ったところだった。

 

「・・・いま帰りか?」

 

時間は五時過ぎ、部活に入っていない帰宅部の忍にしては遅い時間である。

 

「うん・・・買い物とか、寄り道とかしてたから。 高町君は、バイト?」

 

事情を知らない人から見れば、それ以外には見えないだろう。

 

「・・・家業の手伝い」

「・・・・・・高町君ちなんだ」

「うちの母親が、ここの店長兼菓子職人をやっていていな」

「そうなんだ」

 

恭也と忍が談笑していると、すぐ後ろで、アルバイトの女の子が、お盆を持って「どうしたものか」と二人を見ている。

 

「あ、どうぞ、中に」

「あ、うん」

 

後ろにいた、他の子より一緒に働いているアルバイトの女の子に目で合図を送ると、彼女は忍を席へと案内していく。

忍を彼女に任せた恭也は、シュークリームを持って店頭に出る。

しばらくそこで販売業務を手伝っていると、知った顔がお客としてやってきた。

 

「瑛・・・一人か?」

 

思わずきょろきょろと、ある人物を警戒してしまう恭也。

さすがに販売業務の邪魔はしないだろうが、何をするか分かったものではない。

ちなみにその人物は、高町家の天才少女と祝賀会を開くために家にいる。

 

「・・・ええ、デザートの買出しを頼まれまして。 ちなみに『恭也さん相手に白星♪ だから、騒ぐよ!』とはりきって晩御飯を作ってますから、姉上はここには来ません」

 

それはもう楽しそうでした、と付け加える瑛に、恭也は頭を抱えたくなった。

白星とは、今日の授業でのことだろう。

あの後、やりすぎだと抗議した恭也に桜花は「仕方ありません、ランクを少し落としますか」と言う言葉を引き出させたものの、あくまでそれは彼女の基準であり、恭也にとっては今日以上の事が起こりかねない。

とはいっても、これ以上どうしようもなく、現状では注意するのが精一杯である。

過去の彼女と比べれば、随分とマシなほうなのだが、別の意味で道を逸れている。

 

「・・・・・・とりあえず、注文を」

 

考えれば考えるほど疲れるので、一時、このことを放棄して、業務に戻る恭也。

 

「シュークリームを10個、お願いします。 遅くなると私がとばっちりを受けますから」

 

苦労しているんだな、と同情しつつ、恭也はシュークリームを白い化粧箱に入れ、緑色のリボンをかける。

その恭也の雰囲気を感じ取った瑛は、お金を渡しながら、深々と頷いた。

 

「・・・恭也さん、うちの姉を貰うときはちゃんと覚悟をしてください」

 

今なら私もついてきますよ、と説得力抜群の台詞と、世の男性を敵にするような発言を付け加えた瑛は、シュークリームの箱を受け取ると、足早に翠屋を後にした。

恭也は暫く呆けていたが、瑛の台詞の意味を理解すると顔を赤く染めるものの、瑛は既にそこにはいない。

明日会ったら、ひとこと言おう、と誓うとフィアッセの手伝いに戻った。

余談だが、付け加えた台詞を言った瑛の顔は無表情だったが、頬はほんのりと赤く染まっていたとか。

 

 

 

「ありがとうございましたー」

「ごちそうさま」

 

30分近く手伝いをしていると、忍が声をかけてくる。

 

「・・・・・・ケーキ、美味しかったよ」

「そうか、それはありがとう。 よかったら、また来てくれ」

 

忍の言葉に恭也は少々硬いが笑みをこぼしながら、答える。

 

「うん・・・・・・あ、シュークリーム、美味しそうだから・・・買ってく」

 

ケースを見ながらじーっと、品定めした後、

 

「・・・んー・・・と、普通のと、チョコのと、一つずつ」

「ああ、ありがとう」

 

注文を聞いた恭也は、小さい化粧箱にシュークリームを入れていく。

 

「お友達?」

 

恭也と普通に話している姿が気になっただろう、手の空いたフィアッセが、忍のことを訊いてくる。

 

「クラスメイトだ」

 

その問いに簡潔に答える恭也。

確かに間違っちゃいないが、簡潔すぎるだろう。

 

「ありがとねー。 ちょっとだけ、おまけしちゃうね」

 

決して、知人が多いとはいえない恭也に、友達(フィアッセの中では既に決定事項)が増えたことに喜んだフィアッセは、4枚入りのクッキーを箱の中に入れる。

少ないとか思うことなかれ、このクッキーにはフィアッセの気持ちが十二分に詰まっているのだ。

 

「あ、ありがとうございます・・・」

 

それが伝わったのか、忍はにこりと微笑んで箱を受け取り、代金を渡す。

 

「・・・・・・じゃ、また明日」

「ああ」

 

その長い髪を揺らして、忍は駅のほうへ歩いていった。

 

「綺麗な子だったねぇ・・・・・・仲良し?」

「・・・別に、ただのクラスメイト」

(・・・そう、だから簡単に首を突っ込むわけにはいかない)

「・・・・・・ふーん・・・・・・」

 

笑顔のフィアッセに、何か誤解をしているのでは、と思った恭也が口を開こうとすると

 

「すいません、アップルパイ、持って帰りたいんですけど」

「あ、はい! サイズのほう、三種類ございますが・・・」

「いらっしゃいませ」

 

少しひいた客足が、戻ってきたので、恭也は弁解を断念する。

余談だが、この日のお持ち帰りの客は、いつも以上に若い女性が多かったことを付け加えておく。

 

 

 

 

 

4月13(木) 海鳴市藤見町 高町家 PM5:07

恭也が帰宅すると、綺麗な歌声が聞こえる。

子供の頃から聞き慣れた、フィアッセの歌声。

花咲く庭で、フィアッセは歌を歌い、その傍らでは美由希が、道場の屋根には桜花が寝そべり、縁側には瑛とアリサがいた。

帰宅した恭也の気付いた、美由希と瑛とアリサは目で『お帰り』と合図して、桜花は寝そべったまま、恭也に向かって手を振るだけだ。

 

「・・・・・・ル・・・ルル・・・」

 

静かな歌声が流れていく。

恭也の父―――士郎の守ったもの、穏やかな時間を感じながら、恭也たちは静かにフィアッセの歌を聴いていた。

 

 

 

 

 

ふらりと恭也は、夕食前に住宅街を散歩していた。

少し前に、高町家の歌姫(今現在)のミニコンサートは終わり、桜花たちも帰っていった。

思い出深い、家の近所の坂道に差し掛かったとき、

ドンッ!

 

「あ・・・・・・っ!」

「!?」

 

近くで、交通事故らしき音がする。

恭也は急いで、音のしたほうへ駆けていった。

 

「・・・・・・あい・・・た・・・っ」

 

そこで見たものは、苦しそうに地面に蹲っている忍だった。

そして、道端の看板を弾き飛ばしながら、猛スピードで走り去っていく、黒い乗用車。

その車を視界に入れると、ナンバープレートを確認する。

『神速』に入るまでもなく、ナンバーを読み取る。

 

(・・・海鳴ナンバー! 地元の車か!!)

 

走っても追いつけない車は放っておいて、恭也は怪我をしているらしい、忍のところに駆け寄った。

 

「・・・・・・月村! 大丈夫か!?」

「・・・・・・・・・あ・・・・・・」

 

いるとは思わなかった恭也の姿に、驚く忍。

 

「当てられたの、どこだ? どこか痛むか」

 

必死な様子の恭也を見て、我に返った忍は、体をチェックする。

 

「・・・・・・あ・・・大丈夫・・・多分」

「だけど、すごい音がしたぞ・・・」

「・・・私に当たる直前で・・・アレに当たったから」

 

忍が指差す先には、無残に砕け散っていたポリバケツがあった。

 

「でも、当てられただろう・・・? すぐに救急車を・・・」

 

恭也は滅多に使わない携帯を取り出して、救急車を呼ぼうとする。

 

「あ・・・・・・大丈夫・・・平気・・・・・・った・・・!!!」

 

恭也を止めようとした忍だが、いきなり走った痛みに、顔を顰める。

その様子を見た恭也は、すぐに119番に電話をかけ、さっき記憶したナンバーを警察に届けるために、110番に電話をかけた。

 

 

 

「・・・右足首の捻挫と、あとは背中と腰に、少し打撲だね」

 

思った以上に忍の怪我は重くはないが、軽視できるものでもなかった。

 

「一応、精密検査をするから・・・今夜は少し遅くなるけど・・・大丈夫かな?」

「・・・えと・・・はい」

「じゃあ、これから少し検査をして、問題がなければ、その後一時間くらいで帰れるから・・・少しここで待ってて」

「はい・・・」

 

検査の準備のため、医師は、静かに病室を出て行った。

 

「とりあえず、大事なさそうで・・・なによりだ」

「ありがと、お世話になった」

 

申し訳なさそうな顔で、お礼を言うが。

 

「なに・・・隣の席のよしみだ」

 

少々茶目っ気を入れて返答した恭也に、その表情は崩され、忍は少しおかしそうに笑う。

 

「・・・思ってたんだけど、高町君は何でそんな、昔の人みたいなしゃべり方するの?」

「・・・・・・・・・そんなこと言われても・・・昔の人みたいか?」

 

そんなことは意識していなかった恭也は、首を傾げる。

 

「若い子は、『大事無い』とか言わないよ、普通」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「個性的で、いいと思うけど」

 

そういわれた恭也は、少し気恥ずかしくなって、視線を泳がせる。

 

「・・・あー・・・・・・喉、渇かないか。 何か飲み物でも買ってこよう」

 

露骨に話を逸らして、足早に病室を後にしようとする恭也に、忍はくすくすと笑いながら、

 

「・・・・・・ありがと」

 

照れ屋の彼に、お礼を言うのだった。

 

 

 

買ってきた飲み物を渡して、少し話していると、検査の時間になったので、恭也は病室を出る。

 

(・・・・・・今回のも、わざとなんだろうな。 恐らく、盗難車だろう)

 

帰宅しながら、さっきのことを考える。

前回の、階段からの転落事故の真相をほぼ確信している恭也としては、今日の事故は偶然とは思えない。

明らかに故意だし、段々と手段が悪質になっている。

 

(・・・俺の友人が危険にさらされているなら、守らないと)

 

 

 

精密検査終了後、忍が迎えを呼んだことと、病院内なら襲撃がないだろうと考えた恭也は、夕食の時間もあってか既に帰宅していた。

ロビーで一人迎えを待つ忍。

暫くすると、一人の女性が忍の前に現れる。

 

「忍お嬢様、お迎えに上がりました」

「ありがと、ノエル」

 

ノエルと呼ばれた女性の手を取り、忍は立ち上がる。

 

「・・・帰られたのですか?」

「うん・・・とりあえず、帰ろうか」

「はい」

 

そう言って忍は出口へと歩き出す。

僅かな遅れもみせず、ノエルは後に追従する。

 

「・・・・・・大事にならない程度に、引っ掛けられたよ」

「・・・やはり、作為的なものですか」

「だと思う」

「相手は・・・やはり?」

「ん・・・・・・分かんないけど、多分ね」

 

ノエルから手を離し、忍は普通に歩き出す。

 

診断から30分程度。

忍の捻挫と打撲は、既に治りかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき(改訂版)

七彩です。

微妙に変えた部分があります。

読み返して、これは変だろうと思った部分ですが・・・ああ、また直さなければならないとこが出てくるような気がするorz

ではでは。




桜花+酒=清純な性格に。
美姫 「それはそれで、周りは恐れそうね」
あ、あはははは。普段の桜花を知っている人ほど、そのダメージは大きかったりしそうだな。
美姫 「とりあえず、次回はお花見みたいだけど」
うんうん。どんな展開になるのか楽しみだ。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」



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