はじめに
本編再構成物です。
ですが、すでにレンと晶のルートは通っています。
美由希ルートの「お前は俺の〜」発言もすでにしてあります。
時間軸は本編開始と同時期です。
恭也は誰とも付き合っていません。
上記の設定が嫌な方は戻ってください。
これを見て気分を害されても一切責任持てません。
とらいあんぐるハート3 〜神の影〜
第8章 「お花見、開催」
4月15日(土) 海鳴市藤見町 高町家 AM10:12
今日は、お昼からのお花見に備えて、高町家のメンバー+aが各々準備をしている。
「あーー! 邪魔や、おサル!!」
「お前こそ、どけよ亀!」
晶とレンは料理を作っているし、
「なのは〜、これは?」
「それはこっち・・・アリサちゃん、デジタルカメラは?」
「ここに入れてあるよ」
なのはとアリサはAV機器の準備。
「・・・・・・♪♪・・・♪」
フィアッセは鼻歌交じりで、出掛けるついでに花見の場所の近くまで送ってくれるらしいルームメイトでC(クリステラ)S(ソング)S(スクール)の『若き天才』アイリーン・ノアを玄関先で待っている。
「♪・・♪〜♪・・・あなた、今年もまた一緒に飲みましょうね♪」
えらくご機嫌な桃子は士郎の遺影を胸に抱いて、作詞作曲、歌唱まで始めていて、
「えっと、ゴミ袋はここで・・・紙コップにお箸、飲み物は桜花さんたちがやってるから・・・・・・」
庭では、美由希が持っていく荷物を一つ一つチェックしている。
「ふふ〜ん♪ おっ花見、おっ花見♪」
そしてその美由希の隣では、桃子に匹敵するくらいご機嫌で、持っていくお酒を詰めているのは、神影さんちのトラブルメーカーの桜花である。
条件付で飲み物係になった彼女は、嬉々として自分の家にあったお酒を持ってきて、詰めている。
「・・・・・・姉上、お酒多すぎです。 もっとジュ―スとかを入れないと・・・」
そんな姉を窘めつつ、瑛は多すぎるお酒を取り出してジュースを詰めていく。
桜花だけに任せると、お酒と他の飲み物の割合が9:1―――もしくは10:0になる。
そんな桜花が飲み物係をやりたいと言ってきたとき、難色を示しながらも許可した恭也は一つ条件を出した。
それは瑛をストッパーとして補佐に置くことである。
「・・・よし、これも持っていこう♪」
「それは駄目です!!」
日頃から姉のストッパーを担っている瑛は、恭也の期待の応えて、最終的に飲み物の割合を五分に戻すことに成功した。
「こんにちは」
「ちーす」
暫くして、那美が久遠を伴って到着し、勇吾も寿司を持って推参した。
「・・・これで大体集まりましたね」
庭で仲良く遊んでいるなのはと久遠を見ながら、瑛が恭也に話しかける。
瑛の言うとおり参加する人は忍以外集まっているし、準備もほぼ完了している。
「そうだな・・・あとは月村に電話、か」
「そうですね、お願いします」
恭也は、昨日携帯にメモリーした忍の番号を呼び出して、電話をかけた。
プルルルルル・・・プルルルルル・・・
すぐに出るかと思っていたのだが存外に長く、そろそろ切ろうかと思っていたときに
《・・・・・・はい・・・もしもし》
ようやく繋がる。
電話からは酷く眠そうな忍の声が聞こえる。
「もしもし、高町ですが・・・」
《んー・・・・・・あ、高町くん。 おはよう》
「おはよう・・・すまん、寝てたか?」
《うーーん・・・うん、寝坊してた》
「・・・とりあえず、こっちの準備は大体終わったぞ」
《んー・・・そっちの移動は、バス?車?》
「車だ」
《んじゃ、行きかた教えるから・・・メモ、いい?》
「・・・ちょっと待て」
恭也が書くものを探そうとすると、
「最初に準備をしておくものですよ、こういうものは」
瑛の言葉と共に横から紙とボールペンが手渡される。
「・・・・・・む、今度からそうしよう」
「そうしてください」
長年、桜花の妹をやっているだけあって、こういうフォローのタイミングは完璧である。
《・・・いい? まず・・・・・・・・》
準備完了と悟った忍が説明を始め、恭也は瑛に渡された紙とボールペンで行きかたをメモする。
《・・・・・・そこに・・・12時待ち合わせで、いいかな》
「問題ないだろう」
《じゃ、向こうでね》
「ああ」
現在、AM10:43
高町家から指定の場所までは、車でおよそ30分。
時間に余裕があったのにも拘らず、忘れ物などがあったりしたら最悪である。
特に、神影さんちのトラブルメーカーが暴れかねない。
「では、最終点検でもしましょうか」
「そうだな」
恭也と瑛はまだ準備の終わっていないところを手伝いながら、忘れ物がないか入念にチェックしていった。
「恭也ー。 アイリーン、着いたよ」
ちょうど準備が終わったとき、フィアッセに呼ばれて恭也が玄関に向かうとフィアッセと談笑するアイリーン・ノアの姿があった。
「おっはよ〜恭也♪」
「おはようございます、アイリーンさん」
フィアッセを通じてだいたいのCSSのメンバーとの親交がある恭也は、当然、アイリーンと友人関係にある。
まあ、それ以上になるかは本人たち次第だが・・・
「・・・・・・あ、アイリーンさん♪ おはようございます。 時間、ばっちりだったでしょ?」
「おはよう。 さっすが桜花だね♪」
そして、桜花もアイリーンとは友人関係にある。
元々、ティオレと組んで悪戯をすることもある桜花は、CSSのメンバーには良き友でもあり、警戒すべき存在でもある。
ただ、個人でCSSのメンバーに悪戯を仕掛けることは少ないため、ティオレが絡んでいなければそんなに警戒をする必要はない。
「今日は、わざわざすみません」
「いいって、いいって。 どうせ私も出掛けるところだったし」
恭也とアイリーンが談笑している間に、桃子たちが準備した荷物を車に詰めていく。
「ですが・・・・・・」
義理堅い恭也はこういうことに関しては頑固である。
「う〜ん・・・そこまで言うなら、今度の休みにでも私に付き合ってくれる?」
結局アイリーンが折れる形となる。
もっとも、アイリーンにしてみればデメリットなど皆無であり、
「そんなことでいいんでしたら・・・」
「よし、決まりだね。 日にちは後で連絡するから」
「わかりました」
よし、と心の中でガッツポーズする。
「おにーちゃーん!」
「恭也兄さん、終わりましたよ」
そうこうしているうちに荷物を積み終えたことを報告に来るなのはとアリサ。
「行きましょうか」
「OK♪」
それをきっかけに全員が車に乗り込み、忍との待ち合わせポイント―――九台桜隅へ向かっていった。
「・・・お待たせ」
送ってくれたアイリーンにお礼を言って少しすると、忍が荷物と共に姿を現す。
「そんなに待ってはいませんよ」
でも待っていたことを否定しない桜花。
「・・・・・・はぁ・・・足は大丈夫か?」
桜花の発言を意識的に聞き流し、恭也は忍の足の状態を尋ねる。
「ああ、うん・・・もう大丈夫」
とんとん、と忍は足踏みしてみせる。
表情に特に変化はなく、具合はだいぶいいようだ。
「とりあえず・・・・・・持とう」
「・・・あ、ありがと」
良くなったとはいえ、無理をさせるわけにはいかないので、恭也は忍の荷物を持つ。
「あ、ごめんね、赤星くん・・・重いでしょ? ちょっと持とうか?」
恭也に比べれば少ないもののそれなりの量の荷物を持っている勇吾に桃子が気遣いの言葉をかける。
しかし、ここで弱音を吐いては男が廃る!
「あ、いえいえ、いーっすよ」
といっても勇吾にとっては、まだまだ余裕綽々なのでそんな心配は必要ないが・・・
「・・・・・・あー、ごめんね、晶くん。 重いでしょ? そやからそこで拾った、ちょいと手ごろな岩とか、のっけてええ?」
「殺すぞ」
桃子たちと同じような会話と思いきや、こんなとこでもやりあっている二人。
「晶ちゃん! レンちゃん! こんなところでまで喧嘩しないの!!」
「「(びくっ)は、はい!!」
この場には当然なのはがいるわけで、鶴の一声でおとなしくなる。
「・・・成長しないわね、あの二人」
いつもの光景に思わずため息が出るアリサ。
そんなアリサの仕草でさえ、いつも通りだった。
「あ〜、瑛ちゃん、重いでしょ?」
「・・・・・・ええ、ええ重いですよ?」
二番―――いや、三番煎じをしようとする桜花に、俯いて返事をする瑛。
「でも、ごめんね。 この細腕じゃ持ってあげ「私より力のある人が何言ってるんですか! しかも私が持ってるのは姉上が大量に詰めてきたお酒ですよ!? 自分の荷物ぐらい自分で持ちなさーい!!!」・・・・・・はい」
どうやらかなり怒っているようで、普段は桜花に振り回される瑛も、異様な迫力を持って荷物を押し付ける。
この状態のときの瑛には弱いのか、桜花はしゅん、として素直に荷物を受け取る。
ハイだった桜花のテンションはここで一気に下降した。
「・・・・・・美由希、月村に手を」
そんな背後でのやり取りを綺麗に無視して恭也は、美由希に忍の手助けを促す。
「あ、はい」
「・・・ありがと」
美由希の手を借りながら忍は、案内しながら山の中の歩道を進む。
「あ、ここを上がると・・・・・・見えてくるよ」
ちょうど小高い丘のようになっているところを抜けると、
「ふわー・・・・・・」
「Oh・・・・・・・・・」
「うーーわーーー」
「はーーーー」
「・・・・・・ほー」
「・・・・・・おー・・・」
「あ〜らら♪」
「・・・・・・・・・ふぅ」
「すごーーーい」
「はやー・・・」
「へぇー・・・」
「すっごいや・・・・・・」
湖と綺麗に整備された歩道のあたり一面に、桜が咲き乱れている。
それに圧倒されて、各々が知らず知らずのうちに感嘆の息を吐いたり、感動したりしている。
「・・・・・・気に入って、いただけましたでしょうか」
「いや、もう、気に入るなんてものでは!」
ちょっと冗談めかしてそう言う忍に、感極まった桃子が詰め寄る。
「ありがと、えーーと・・・・・・」
「忍です」
「ありがと、忍ちゃん!」
そして、ぎゅ、と忍の手を取り感動の意を表す様子に苦笑しながら・・・
「とりあえず、どこかそのへんに・・・荷物、置いちゃいます?」
忍は荷物を持っているメンバーを見る。
「はい!」
美由希の声をきっかけに適当な場所を選んで荷物を広げ、花見の準備を始めた。
「みんな飲み物は行ったかなー?」
フィアッセが確認の声をかけると、全員が持っているグラスを上げる。
「はい、では・・・・・・高町家関係者一同の健康と平和、それと素敵な友人との出会いと温情に感謝して、僭越ながら私・・・高町桃子が、乾杯の音頭など、とらせていただきます」
「ひゅーひゅー!」
下降気味だったテンションを盛り返した桜花以下数名が囃し立て、
「ではみなさん、グラスを取っていただいて・・・・・・」
そして、年長の二人が仕切る中で
「・・・・・・かんぱーーーいっ!」
「「「「「「「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」」」」」」」
皆がグラスをぶつけ、花見は始まった。
「あ・・・・・・そういえば、初対面の人もいるんだよね。 とりあえず、自己紹介、してこっか」
それぞれの友人(といっても実質恭也の友人)を集めたため、互いが初対面の人もいる。
「はい、んじゃ、そっちから、時計回りで」
ビッと桃子に指されたのは美由希だった。
「あ、わたしか・・・えっと、高町家の長女で風芽丘の1年A組、高町美由希です。 よろしくお願いします」
じっと真剣な視線を向けてくる桜花に気付かない振りをして、自己紹介は終わったとばかりに隣の晶を見る美由希。
特に問題がなかったのか、桜花も視線を外す。
恭也が話してしまったのなら、と勇吾には自分たちのことの一部を話したが、桜花は『御神』のことをやたらにしゃべる気もしゃべらせる気も毛頭なかった。
「えーと・・・海鳴中央2年5組、城嶋晶です。 趣味はサッカーと料理、武道は明心館で空手をやっています」
「あ、一応女の子ですよ? 晶ちゃんは」
「うぅ・・・・・・」
上機嫌で既に三杯目の酒を飲んでいる桜花の付け足しに、晶は呻くだけだった。
「私立海中、1年3組・・・鳳蓮飛ゆいますー。 中国語で正しく発音すると『ふぉうれんふぇい』になりますがー、めんどっちいので『レン』と呼んでください。 趣味は料理と漫画読書・・・あとはごろ寝です」
「あ、たかまちなのは、です。 私立聖祥付属の、2年生・・・です」
「アリサ・ローウェルです。 私立聖祥大付属小の6年生で、高町家の居候です。 たまに恭也兄さんの勉強を見たりしてます」
そう言ってちらりと恭也のほうを見るアリサ。
恭也はばつが悪そうに視線を逸らし、
「・・・・・・高町恭也です」
誤魔化すかのように自分の自己紹介を始める。
途端に酒を飲んでいるとは思えないほど真剣な表情の桜花から、視線が突き刺さる。
(余計なことは、しゃべらないでください)
そう目で訴えてくる桜花に、元々易々と『御神』のことを話すつもりのない恭也は、わかっていると目で返事して
「趣味は寝ることと釣り、盆栽を少々」
口は自己紹介を続ける。
「縁側でお茶を飲むこと、が抜けてます」
「・・・・・・・・・」
瑛からの言葉に眉を顰めるものの否定できないため、黙り込む恭也。
周りから(特に美由希)から失笑が零れ、美由希へ「今日の鍛錬を楽しみにしておけ」という意味を込めた目を向け、忍に終わったぞ、と視線を向ける。
釘を刺していたとはいえ、桜花は内心で安堵する。
「月村忍です」
恭也は、視線を忍に向ける前に青褪めた顔の美由希が見えた気がしたが、意図的に無視する。
「高町くんのクラスメートで・・・隣の席です。 趣味・・・読書とゲーム、あとは・・・映画とか」
言い終わると勇吾のほうを向く。
それを見て、勇吾も自己紹介をする
「赤星勇吾です。 二人と同じ、3年G組・・・剣道部に入ってます」
「勇兄は、県1位、全国ベスト16選手です!」
恐らく勇吾は言わないだろうから、勇吾の経歴を補足する晶。
「はああ・・・」
「そんなに、凄い人だったんだ・・・」
「あ、いや・・・それほどでは」
那美と忍の褒め言葉に生来の性格から謙遜する勇吾。
しかし、この後の引き合いに出した対象がいけなかった。
「・・・高町兄妹には、ちと敵わないし」
「・・・兄妹・・・・・・」
勇吾の台詞を聞いたとき、桜花は内心で舌打ちした。
恭也も美由希も、趣味の紹介のときに剣のことなど一切触れていなかったから安堵していたのに、今回は勇吾の性格が災いして謙遜の行動を起こしてしまい、引き合いとして恭也たちを出してしまった。
「はわわ、わ、わたしじゃないですー」
「なのはが勇吾さんより強かったら、それはそれで問題よね」
アリサの言葉はもっともである。
恭也と桜花は美由希にアイコンタクトで、『御神』の名を出すなと伝える。
それを受けて美由希は、頷く。
「・・・高町くんと美由希ちゃんも剣道家?」
「・・・・・・・・・うちは、兄妹揃って『剣術家』。 古流を少々かじってて」
ほんとはかじってる程度のレベルではないのだが、ここで話す必要はない。
これで、この話題が終わると思っていたが、桜花は一つの懸念に気付く。
そういえば、ここには御神以外の古流の流派の家の者がいる、と。
「はー・・・あの、私のうちも、剣道道場なんです。 神咲一刀流って言う・・・」
予想通り、那美が話を引き継いでしまう。
となると、それに便乗するのが、もう一つの古流の流派を習っている、
「へぇ・・・うちは草間一刀流」
勇吾である。
「あ、すごい、メジャーですね」
有名になることは必ずしもいいことばかりではない、と思いながらも桜花は、話の方向がどう向かうか容易に想像できてしまう。
忍にせよ那美にせよ、
「高町くんは?」
恭也に、こう訊いてくるだろう。
ピンポイントで桜花が恭也に殺気を飛ばす。
それを受けた恭也は、表には出さなかったものの動揺する。
ここで『永全不動八門一派 御神真刀流小太刀二刀術』などと答えたら、本来護ってくれる『神影』から襲われかねない。
悩む・・・
この前の美由希みたいに悩む!
「・・・・・・高町くん?」
そんな恭也の様子を不思議そうに見ながら首を傾げる忍。
一方、恭也の様子や桜花の表情を見て、しまった、という表情をする勇吾。
しかし時間は戻らない。
「・・・・・・・・・・・・赤星と同じだ」
考えた末に恭也が出した結論は、心苦しいが嘘をつくことにした。
誤魔化すにしては悪くないが、
「へぇ・・・でも、なんで考え込んでたの?」
あれだけの熟考の後の答えとしては少々おかしい。
「・・・・・・俺達は正式に道場に通っているわけではないから、名乗るのもどうかと思っただけだが・・・」
「ふ〜ん」
とりあえずそれで納得したのか、忍はそれ以上聞いてこなかった。
(・・・何か感づかれた、かな。 ま、いっか・・・『御神』に辿り着かなければ)
「さて、次は・・・那美さんですね」
『御神』の名が出なかったことに安堵した桜花は、これ以上ぼろを出さないために次を促す。
「あ、えーと・・・・・・神咲那美です。 風芽丘の2年E組で、西町の八束神社で、管理代理と巫女をやってます」
「くーん」
那美の自己紹介が終わると久遠が自分を紹介しろ、とばかりに鳴く。
「あ、で、こちら・・・私の友人で『久遠』っていいます」
「くぅん」
紹介された久遠は、一鳴きして頭を下げる。
それを見ていた久遠を知らなかった面々は、例外なく感心する。
少なくとも、ここまで賢い動物はあまりお目にかかれないからだ。
久遠の紹介が終わると、桜を見ながらお酒を飲んでいた桜花が視線をメンバーに戻す。
「・・・あ、私ですね。 神影桜花です。 この春に風芽丘へ転校してきて、恭也さんたちのクラスメイトです」
ここにいるメンバーで桜花を知らないものはいないだろう。
高町家の面々とは家族同然の付き合いだし、勇吾と忍とはクラスメート、那美とも神社で会っている。
「趣味は人をからかうことで、特技は悪戯です♪」
傍迷惑だ、と、ここにいるメンバーの大半が思った。
「神影瑛です。 桜花の妹で美由希さんと同じクラスです。 趣味は盆栽・・・よろしく」
桜花の妹とは思えぬ物静かさで自己紹介する瑛。
逆に桜花が反面教師となって瑛の性格ができたのかもしれない・・・
「フィアッセ・クリステラです。 職業は、海鳴商店街喫茶店『翠屋』のチーフウェイトレスと・・・あと、ちょっとだけ、歌手の卵もやってます」
これには那美と忍が驚く。
CSSの校長で『世紀の歌姫』の一人娘が喫茶店でウェイトレスをやっているのだから、驚くのは無理もない。
それに、フィアッセ自身も期待されているだけに、これは結構衝撃的だったりする。
「高町桃子です。 ここらへんの子供たちの保護者と、喫茶『翠屋』の店長もやってます」
桃子の言葉を最後に自己紹介が終わる。
「じゃ、とりあえず・・・みんなで仲良く、やりましょう」
フィアッセの言葉を皮切りにそれぞれは食事と話、花見へと入っていく。
「あ、お料理、こちらにありますから・・・どうぞ、お好きなように食べてくださいね」
「おつまみ系はこっち、お食事系は、こっちのお重ですー」
料理担当の二人が手早く料理を並べていく。
「・・・・・・あ、じゃあ・・・いただきます」」
「いただきます」
この中で晶とレンの料理の腕前を知らない忍と那美が箸を伸ばす。
「・・・・・・んん」
「・・・はー」
食べた瞬間、二人は驚いたように顔を見合わせる。
「どないでしょ?」
「一生懸命、作りました」
感想を求める一方で、水面下では互いに牽制しあっている晶とレン。
「すごい、美味しい!」
「・・・・・・ほんと」
二人は小皿に料理を取りながら絶賛する。
余程の味音痴でない限り、晶と連の料理を不味いとは言わないだろう。
「・・・? こっちの重箱には何が入ってるの?」
明らかに晶とレンが用意したものではない重箱があり、それを開けながらアリサが二人に訊く。
晶とレンはお互いに顔を見合わせ首を傾げる。
どうやら、二人が作ったものではないらしい。
中は晶とレンに負けず劣らずの見栄えであり、美由希の料理のような邪悪なオーラも無く、純粋に美味しそうだ。
「・・・あ、それは私が作ったものです」
ピシッ
桜花の宣言に、箸を伸ばしていたアリサの動きが停止する。
そして、盛り上がっていた場が一気に凍る。
別に桜花の作る料理は、美由希のような『必殺』する料理というわけではない。
それどころか、晶たちの料理すら上回るほどに美味しい。
ただ・・・
「勿論、今回も当たりがありますからね。 頑張ってください♪」
どこかに必ず創作料理があり、それの味は美由希のそれには劣るものの、気絶できないだけこちらのほうが性質が悪い。
美味の料理を食べれるか、料理と呼べない味のものを食べて悶絶するか・・・・・・
ちなみに、一つだけではなく複数入っている上に、種類が特定されているわけではない。
つまり、食べて大丈夫だった品(例えば卵焼きとか)を安全と言い切ることができないのだ。
故に特定は不可能である。
まさに料理版ロシアンルーレット(ただし、当たりの数多し)!幸福か、絶望か!!
「・・・・・・・・・・・・」
静寂が辺りを支配し、高町家一同+a の顔が強張る。
一同は瑛に視線を送るが、沈鬱な表情を浮かべた瑛は首を横に振る。
つまり、瑛さえもどれが当たりかを知らないのだ。
「「「・・・・・・・・・?」」」
事情を知らない勇吾、忍、那美は首を傾げるだけだ。
「・・・・・・行くわ」
長い沈黙の中、それを破ったのはアリサだった。
高町家一同+aが固唾を呑んで見守る中、アリサが選んだのは・・・ハンバーグだ。
それを一思いに口に入れる。
「・・・・・・・・・・・・」
再び沈黙が訪れるが、アリサの表情がみるみる笑顔に変わっていく。
「よっし!」
思わずガッツポーズするアリサ。
「・・・なんか知らないけど、美味しいんだろ?」
そんなアリサを尻目に勇吾が何のためらいも無く、卵焼きを取り食べる。
「ぐっ・・・」
が、口を押さえると手元にあった飲み物と共に、ぐいっと一気に飲み干す。
どうやら運が悪いことに当たりを引いたらしい。
「だ、大丈夫? 赤星くん」
「・・・・・・何ともいえない味が残ってる」
心配そうに声をかける忍に青い顔で答える勇吾。
それを見た忍と那美は少々顔が引き攣っている。
「・・・桜花さん、当たりはいくつ入れたんですか?」
「・・・・・・ま、勇吾さんを通じて理解してもらえたのでいいでしょう。 実はアレ一個だけですよ」
騙された、と高町家一同+aは思った。
「わっ・・・すごい美味しい」
「いくらでも入りそうですよね」
安全に食べれるようになった桜花の料理は、忍たちに大変好評だった。
桜花が創作料理を出した後は、花見は再び盛り上がり、今は全員に回るようにカラオケ大会が始まっている。
そんな中、桜花は一升瓶を持って、一人こっそりとその場を離れ、誰もいない桜の木の前に来た。
「・・・桜は、いつ見ても、綺麗ですね」
既に三本目になる一升瓶から酒をグラスに注ぎ、ぐっと呷る。
花見を行うと、必ずといっていいほど、桜花は途中で人知れず抜け出し、人知れず戻る。
「私が変わったのも・・・こんな春の日でしたね」
普段の桜花からは考えられないくらい、鍛錬のときとはまた違った真剣な表情で、過去を振り返る。
それは、“今の自分”が形成されるきっかけになったであろう出来事。
「・・・・・・なんだ、おまえは?」
「人に名前を訊くときは、自分から名乗るものだと思うが」
「・・・・・・・・・・・・神影、桜花だ」
「不破恭也。 よろしく」
「・・・去れ」
「・・・え?」
「聞こえなかったのか? 去れといったんだ」
「・・・なぜ?」
「邪魔だ」
「・・・・・・わかった」
「おはよう、桜花さん」
「・・・・・・なんで、来たのだ?」
「昨日は帰れと言われたが、今日来るなとは言われてない」
「それに・・・・・・」
「・・・それに?」
「寂しそうな目をしていたから・・・」
「・・・・・・・・・別にそんな目など」
「してた。 だから、放っておけないと思った」
「・・・余計なお世話かもしれないのに、か?」
「ああ。 それに余計なお世話とは思わなかった」
「・・・・・・なに?」
「・・・どこか縋るような目をしていたから。 昨日の桜花さん・・・今もそうだが」
「・・・・・・お前はほんとに子供か? 落ち着きすぎているし・・・」
「静馬さんにもよく言われる。 それを言うなら、桜花さんだってそうだ」
「・・・そうかもな」
「・・・・・・・・・お前は・・・」
「お前じゃなくて、恭也」
「恭也は・・・怖くないのか?」
「怖い?」
「私は普通の人より・・・それどころか『神影』の中でも異常なくらいの『力』を持っている」
「でも・・・たとえ持ってていても、桜花さんは桜花さんだろう?」
「・・・・・・恭也?」
「それに・・・力が悪いんじゃなくて、その力を使う人次第で、良くも悪くもなるってと―さんが言ってた」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「桜花さんは・・・それを知ってるし、自分をしっかり持っているから・・・怖くない」
「恭也は・・・・・・私を、受けて入れてくれるのか?」
「・・・よく分からないが、友達になることなら歓迎する。 桜花さんも御神流をやっているんだろう?」
「・・・・・・・・・うん」
「ふむ・・・では今日から俺たちは友達で、ライバルだ」
「ラ・・イバル?」
「そう、ライバル。 さあ・・・行こう?」
「あ・・・・・・」
「私にできた、初めての、『神影』以外の、友達・・・・・・」
あの状態のときに恭也と出会ったら、例え、同じ『御神』の分家でなくても、声をかけてくれただろう。
「あのとき・・・・・・貴方の暖かさが・・・どれだけ私の救いになったでしょう」
桜花にとって恭也は、闇の中に迷いそうだったところに差し込んだ、出口を導いてくれた光。
故に・・・
お酒を地面に置き、手を胸に当てて目を閉じ、
「今一度、桜に誓いましょう。 高町恭也が幸せを掴むまで・・・それを害そうとする、ありとあらゆるものから、私が貴方を護る。 桜の花の名に賭けて」
恭也が膝を砕いたと知った春の日に、桜花が怒りながら、泣きながら心に決めた、『涙の誓い』
「恭也さん・・・・・・貴方は絶対に幸せになってください。 貴方には幸せになる義務があるんですから・・・」
桜花の呟きは桜吹雪の中へ消えていった。
夕方
「はー・・・お弁当もほとんどカラだし、いっぱい桜も見たし・・・そろそろお開きしよっか」
桃子の言葉に皆が頷き、片付けに入る。
「じゃ、燃えるゴミはこっち、燃えないゴミは、こっちの袋ねー」
「間違えないでください」
フィアッセと瑛はゴミの分別を担当し、
「恭也兄さん、重箱が残ってますよ」
「ああ、わかった」
持ち帰る弁当箱等を恭也とアリサが整理する。
「はー・・・・・・いーきもち」
「・・・・・・くぅぅん・・・」
なぜか甘酒で酔った那美と久遠はへろへろになっている。
「那美さん、立てます?」
このお花見のおかげで、すっかり仲良くなった美由希が那美のフォローに入る。
「あ、はい・・・ええと・・・おろろ」
が、ふらふらと那美はよろけ
「あわわ、わわ」
「むぎゅ!」
ずでん、と那美と美由希は転んだ。
「はああ、す、すみません・・・・・・っっ」
那美は美由希の胸に顔をうずめる形で、慌てて謝る。
「あ、いえ、その・・・ごめんなさいっ」
二人は頬を染めつつ、立ち上がる。
「似たもの同士?」
その様子を見ていたアリサは、思わず呟き、近くでそれを聞いていた恭也も頷いてしまう。
「・・・・・・ぴっぴ・・・っと」
忍は迎えを呼ぶために携帯で電話をかける。
「・・・あ、もしもし、私・・・・うん、終わったよ。 そろそろ帰るから、車、出して欲しいの。・・・・・・うん、えーと・・・全部で12人と一匹・・・私入れて」
どうやら全員送ってくれるらしい。
さすがに歩いて帰れるような猛者は少ない。
「うん、どうせ二回に分けるから・・・あれでいいよ。・・・じゃ、よろしくねー」
「・・・家の人か?」
「そ、迎えに来てもらうから」
「すまない、助かる」
「いいよ・・・私が歩くのめんどくさいから、そのついでってだけだし」
言葉ではそう言っているものの、それが照れからきているのは忍の仄かに赤い顔を見れば明らかである。
「どうしたの?」
恭也がお礼を言っているのが聞こえたのか、近くにいた桃子がそう訊いてくる。
「ああ、月村の家の人が、迎えに来てくれるんだそうだ」
「・・・あ・・・ごめんなさい。 なにからなにまで、お世話になっちゃって」
「あ、どうぞ、お気になさらずに」
申し訳なさそうに言う桃子に、かしこまらないでくださいと手を振る忍。
そして待つこと30分
片付けも終了した頃、並木道に一人の女性が現れた。
「・・・あ、ノエル、こっち」
ノエルと呼ばれた女性は、忍の声を聞いてまっすぐ向かってくる。
「・・・・・・うちで家事全般をやってくれている・・・」
「・・・ノエル・エーアリヒカイトと申します」
忍が紹介すると、ノエルは無表情のまま名乗るとお辞儀する。
「あ・・・これはどうも」
「・・・・・・・・・」
礼儀に五月蝿い恭也はすぐにお辞儀を返す。
その後ろにいた瑛は、一瞬だけ目を細めて桜花に視線を送る。
(姉上、あの人は・・・・・・)
(分かってる・・・微弱に感じる気配に『月村』と聞いてずっと引っかかっていたんだけど、これではっきりしたね)
「・・・車、下?」
「はい」
「じゃ、とりあえず荷物、積んじゃおう」
「ああ」
桜花たちの間でそんな会話が行なわれているとは露知らず、恭也たちは荷物を詰め込む。
とりあえず、桃子とフィアッセ、美由希にレンとなのは、それに瑛が荷物と共に乗り込んだ。
暫くして、戻ってきた車に乗り込んで恭也たちは、九台桜隅を後にした。
「ありがとう・・・助かった」
最初に着いた高町家で、恭也と勇吾、桜花と晶が降りる。
「赤星くんも、ここでいいの?」
「ああ、自転車で来たから」
「・・・そう、じゃ、皆によろしくね。 あさって、また学校で会おう」
「・・・・・・じゃ、今日はどうも、ありがとうございました」
「いえいえ」
「・・・それでは、失礼します」
ぺこり、とノエルが頭を下げて、忍を乗せた車は走り去っていった。
「さて、荷物をしまって、一休みして・・・赤星、晩飯、食ってくだろ?」
「ああ、いただけるんなら、是非」
「今日は桃子さんのごはんだよ、多分」
「では、私も手伝いましょうか」
「「「駄目(です)!!」」」
あとがき
ごめんなさい!
七彩です。
第6章のあとがきで桜花+酒=?とか書いてましたが、急遽取り止めになりました。
理由としては桜花はお酒に強いということにしたくなったことと、ネタが浮かばなかった。
これに尽きます・・・・・・多分。
ようやく序盤が終わり、これで物語を進めることができます。
まあ、本編の筋書き通りにいくだけですが、それでも読んでいただけると嬉しいです。
あと外伝みたいなものも書きたい、かな
とりあえず、ここまで読んでいただいてありがとうございます。
では、次回で
お花見も一応、無事(?)に終わり〜。
美姫 「赤星はちょっと無事じゃなかったけれどね」
あははは〜。
とりあえず、今回は少しだけ桜花の過去や心情が。
美姫 「果たして、今後の展開とどう関わってくるのかしらね」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」