はじめに
本編再構成物です。
ですが、すでにレンと晶のルートは通っています。
美由希ルートの「お前は俺の〜」発言もすでにしてあります。
時間軸は本編開始と同時期です。
恭也は誰とも付き合っていません。
上記の設定が嫌な方は戻ってください。
これを見て気分を害されても一切責任持てません。
とらいあんぐるハート3 〜神の影〜
第9章 「白衣の○学生(笑)」
4月16日(日)国守山 三合目付近 一般開放地区 AM6:15
「はぁぁあ!」
気合の入った声と共に、美由希が半回転しつつ左逆薙ぎ、それに続けて右の順突き、
「・・・てっ!!」
そして回転の勢いを乗せた蹴りの連撃を放ってくる。
恭也はそれを落とし、流し、防いでいく。
「・・・ふっ!」
反撃とばかりに左の打ち降ろしを打ち込むと美由希は右で斬り上げて防ぐ。
ちなみに今日は高町兄妹の一日の始まりに神影姉妹は一緒にいない。
「今日は走り込みです」
という桜花の方針の下、二人は国守山を縦横無尽に駆け回っている。
勿論、一般開放地区云々を完全に無視して・・・
「せいっ!」
美由希の右の刺突からの横薙ぎ、左足の回し蹴りを恭也は捌いてかわし、美由希の足を受け止め、軸足を刈る。
「くっ・・・!」
しかし美由希は刈られた軸足で恭也目掛けて蹴り込む。
足を離して恭也は後ろに跳ぶ。
蹴りは恭也に当たらないものの美由希の左足は解放され、着地と同時に後ろに下がりつつ体勢を立て直す。
構えを取り直した美由希は、とんとん、と小さなフットワークを刻み始め、
「ふっ!」
大きく踏み込んで弧を描く斬撃を恭也に打ち込む。
それを受け止めた恭也に畳み掛けるように
御神流 奥義之伍 『花菱』
連撃を加える。
(・・・まだ甘い!)
一撃目と二撃目を左の木刀だけで捌き、恭也の右の刺突が美由希の左肩に直撃する。
「ぐっ・・・」
痛みで右での三撃目が威力、速度共に落ちて、恭也の左の木刀に簡単に弾かれる。
間をおかずに恭也が放った右足の回し蹴りを下がることで回避する美由希。
「・・・美由希、左腕にペナルティ」
「・・・・・・はい」
顔を顰めながら左腕の力を抜く美由希。
今度は恭也から動こうというときに―――
「美由希っ!?」
「くっ!?」
―――何かが美由希の背後から急襲する。
いち早く美由希のほうの奇襲に気付いた恭也は叫び、遅れて気付いた美由希は振り向いて、動かせる右の木刀で迎え撃つ。
しかし、片腕しか使えない上に相手がほぼ同等の力量を持っているので、あっというまに叩き伏せられた。
「っ!?」
そしてほとんど間を置かずに、恭也のほうにも背後から襲撃が来る。
恭也のほうの相手は、両手に持っている得物を交差させて恭也に攻撃してくる。
避けきれないと判断した恭也は左の木刀で防ごうとするが簡単に粉砕される。
それでも少しだけ相手の攻撃の速度が鈍った瞬間に、恭也は後ろに跳んで回避する。
しかし相手はすでに大きく右腕を後ろに引いて、鋭い踏み込みと共にそれを突き出す。
右の木刀で起動を逸らそうとするものの左肩に当たり、さらに高速の四連撃が恭也を襲う。
「ぐっ・・・・・・」
一撃目こそ防いだものの、残りの三撃をまともにくらってしまい、恭也は膝をつく。
その隙を襲撃者が逃すはずもなく、首に得物―――木刀を置かれる。
「チェックメイト、です」
「・・・・・・走り込みじゃなかったんですか、桜花さん」
襲撃者―――桜花は戦闘モードを解除してにっこりと笑って宣告をし、恭也は半ば呆れたように桜花を見ている。
「奇襲するのに宣言したら、意味ないじゃないですか」
尤もなことを言った桜花に、むぅ、と恭也は黙り込む。
「最近ないからって、油断してましたね?」
たまに鍛錬中の恭也たちに対して何の前触れもなく、桜花たちが奇襲を仕掛けることがある。
これは奇襲に対する鍛錬で、仕掛ける回数やタイミングにパターンは無く、全て桜花の気分次第である。
ちなみにこれを持ちかけたのは桜花ではなく恭也である。
「そうかもしれません。 それにしても・・・」
恭也は美由希を襲撃し、今は肩を貸している瑛のほうを見る。
「・・・あそこまで気配を消せるようになったんですね、瑛」
「ええ、時の流れというものは早いものです」
まだ十代だというのに、歩いてくる二人を見ながら恭也と桜花は、どこか達観したような表情をしていた。
「もっと速く動けたら・・・」
朝食後、リビングでお茶を飲みながら美由希はテレビを見るともなく見ながら、ぶつぶつ呟く。
「・・・美由希は、大分、強くなったの?」
そんな美由希を見てフィアッセが恭也に訊ねる。
「・・・・・・いつに比べて?」
「・・・んー・・・・・・2年前」
その年はフィアッセが海鳴で暮らすようになった年である。
「それからだと・・・・・・美由希、どう思う」
「・・・・・・・・・」
まだ自分の世界に入っている美由希は返事をしない。
「・・・・・・美由希」
「わ・・・・・・あ、はい、なに!?」
ちょっと怒気が入った恭也の声を聞いて、ようやく美由希が返事をして恭也のほうへ振り向く。
もしこれで反応がなければ、恭也によるお仕置きが炸裂していただろう。
「・・・お前はこの2年で、どれくらい強くなったか、と」
「・・・・・・わたし? んー5段取ったのと・・・」
「・・・『徹』はもう打てるし、『貫』も使えるしな」
『御神』を知るものなら今の会話だけである程度察することはできるが、フィアッセには分からないだろう。
不思議そうに首を傾げている。
「・・・・・・こういうの」
美由希はテーブルから煎餅を三枚取り、重ねて、もう一枚の煎餅でそれを撃つ。
ぱん!!
「・・・・・・・・・わ」
乾いた音と共に一番上の煎餅を残して下の二枚が砕ける。
「・・・手品・・・じゃ、ないよね」
「これが『徹』。 打撃の撃ち方のひとつなの。 衝撃を表面じゃなくて裏側に通す撃ち方」
「すごーい・・・・・・で、もう一つは?」
「・・・ん、フィアッセ、ビンタするからガードしてみて」
美由希が右手でビンタをするように振りかぶると、フィアッセは腕を上げてその進路を塞ぐ・・・が
ぴた、とその腕をすり抜けて美由希の右手がフィアッセの頬に当たる。
「え? ええっ!? な、なんで・・・?」
「これが『貫』。 相手の防御や見切りをこっちが見切って、そして攻撃を通すことで相手にはすり抜けたように錯覚させるの」
「・・・・・・すごいねぇ・・・」
目の前でそれを見せられたフィアッセは、ただ感心するだけだった。
「あ、そろそろ時間だ」
フィアッセが時計を見て出掛ける準備を始める。
「・・・・・・検査?」
「うん、だからお店には少し遅れるけど・・・」
「・・・恭ちゃんも病院に行ったらどう?」
今度は自分の世界に入らず、お茶を飲んでいた美由希がどうせなら、とそう進言してきた。
「え? 恭也、どっか怪我したの?」
「朝の鍛錬で、恭ちゃん、桜花さんにコテンパンにされたから・・・・・・結構打撃とかくらってたし」
「いや・・・そのくらい大丈夫だ」
「でも桜花さんが「ちょっとやりすぎたかもしれませんから・・・病院に連れて行ってください」って言ってたのに」
朝の鍛錬が終わってから、恭也の様子を見た桜花は病院へ行けと忠告していった。
でも、やりすぎた云々は建前で、山篭りから帰ってきてから、一回も病院に行ってない恭也の体の調子を見るためだ。
そういうことに関しては、本職の人に診てもらうのが一番である。
ちなみに美由希は既に桜花のマッサージを受けているので、すぐに行かなければならないというわけではない。
「恭也?」
ビクッ
妙な迫力が篭った声に自然と体が硬くなる。
振り向いた恭也が見たのは、満面の笑みを浮かべるフィアッセだった。
「さ、病院、行こう♪」
「・・・いや、別に「あ、そういえば、恭ちゃんは絶対に行くの渋るから、フィアッセが検査で病院に行くなら、強制連行してほしいって言ってたよ」・・・・・・」
「YES♪」
年上の女性(桃子やフィアッセ等)に弱い恭也に、彼の体を心配して、連れて行く気満々で保険証を探している姉的存在を止める術はなかった。
「・・・じゃ、私はあっちの病棟だから」
病院内に入った後、フィアッセと別れた恭也は、ロビーのほうへ歩きだした。
受付を済ませると空いている場所に座り、呼び出されるのを待つ。
(・・・・・・・・・・・・長い)
15分もしないうちに恭也は心持ち落ち着かなくなる。
恭也が病院嫌いなのは診察が怖い、注射が痛いなどの一般的な理由ではなく、待ち時間が長いところだ。
この待ち時間がたまらなく無駄に感じるため、恭也は病院に行く気を削がれる。
さらに時間が経ってから
「はい、高町恭也さん・・・・・・高町恭也さん・・・」
恭也を呼び出すアナウンスが聞こえて、指定された病室へ向かう。
病室にはまだ担当医がいなかったので、ここでも恭也は少し待たされる。
ぼんやりと窓から外を眺めていた恭也だが、病室に近づいてくる気配を感じて意識を戻す。
「・・・・・・ごめんなさい、お待たせしました」
いつもゴツイ男の先生が診療と整体をしていたので、若い女性の声を聞いて恭也は思わず振り向く。
入ってきたのは銀髪の外人女性だった。
「あ、えーと・・・・・・高町恭也さ・・・ん・・・」
手に持ったボードを見ながら、恭也のほうを見た女医さんは、恭也と眼が合った瞬間、固まってしまう。
恭也の異性を惹きこむ強い意志を秘めた瞳を見た彼女は、暫し呆けた後、我に返り、
「・・・・・・高町恭也さん・・・ですね?」
平静を装って、名前を確認する。
「あ、はい」
恭也には彼女が晶とそう大差ない年に見え、一瞬、医者なのか?と疑ってしまう。
ま、見た目○学生「私はもう大人です!!」みぎゃっ!?
・・・・・・ともかく、名札には『F・矢沢』とあり、その上には『4F・G病棟研究員』とあるから、間違いなく医者だろうと恭也は納得することにした。
「あ、これ?・・・整体は本業じゃないんけど・・・・・・ちゃんと資格は持っているから、大丈夫ですよ」
恭也の視線に気付いた(意味までは多分気付いてないだろうが)女医さんはにこ、と微笑む。
これで恭也の女医さんに対する年齢評価がさらに下がった。
やはり○学「しつこいです!!」ぐはっ!?
「フィアッセの、お友達なんですよね」
「・・・・・・・・・?」
突然女医さんから出てきた姉的存在の名前に、恭也は首を傾げる。
「私、彼女の担当医なんです。 医者と言うよりは、カウンセラーとしての、担当ですけど」
「・・・あ・・・・・・そうなんですか」
フィアッセから自分の話を聞いたのだろうと恭也は納得する。
「あ、ちなみに彼女は今、検査の結果待ちで・・・多分、病室のペーパーバッグに夢中です」
「・・・・・・なるほど」
その情景を想像できた恭也は苦笑を浮かべる。
「・・・あ・・・申し遅れました。 私、フィリス・矢沢と言います」
自己紹介をしていないのに気付いた女医さん―――フィリスは○学生に相応しバチバチッ・・・・・・年相応笑顔を浮かべて、自己紹介をする。
「・・・・・・・・・矢沢先生」
「あ、フィリス、でいいですよ・・・恭也君」
そう言ってフィリスは、持っていたカルテを病室内の机に置いて、
「・・・じゃ、下着になって、まずはうつ伏せで寝てくださいね」
ベッドの横に立つ。
医師とはいえ、年若い女性の前で服を脱ぐのを躊躇う恭也だが、仕方ないと脱ぎ始める。
「・・・・・・・・・」
フィリスは恭也の体を見て、少しだけ目を丸くする。
恭也の体には、新旧・大小合わせて100は超える傷がある。
しかし、フィリスが目を丸くしていたのは少しの間だけで、すぐに表情が戻る。
下着一枚になった恭也は、ベッドにうつ伏せた。
「じゃ・・・失礼します」
フィリスはしていた手袋のまま、そっと、恭也の体を触る。
肩から背中、背中から足へとフィリスの手が移動していく。
「なるほどー・・・・・・」
そう呟きながら、フィリスは軽く恭也の腕や背中を揉む。
「うん・・・・・・凄い・・・ナチュラルで、しなやかで・・・いい筋肉ですね」
そうやってフィリスは暫く、恭也の全身の筋肉の状態を確かめて回る。
「はぁ・・・運動する上で、理想的な筋肉ですね。 昨日はどれくらい動きました?」
「・・・夜に2時間ほど、今朝に1時間ほど、戦・・・運動を」
正直に答えそうになって、恭也は内心、少し焦る。
こんなことが桜花にばれた暁には・・・・・・
考えるだけも恐ろしい・・・(ブルブル)。
「そうですか・・・じゃ、少し、マッサージをしておきましょうか」
ぐ、とフィリスは恭也の全身を揉んでいく。
ぐいぐいと、意外に強い握力で、恭也の固まっている筋肉を解していく。
「背中と左肩が、少し痛いんじゃないですか?」
「・・・・・・そういえば、少し」
「ちょっと痛くて窮屈ですけど・・・効くと思いますから」
ごきっ!!
「・・・・・・あぐ!!」
そう言ったフィリスに、恭也の左肩の関節を入れなおされる。
「・・・・・・・・・♪・・・・・・」
「・・・・・・・・・あぐが」
ごき、ぼき、みきと少し楽しそうに背中と腰骨の矯正をするフィリス。
(これは・・・・・・やりがいがありますね♪)
(こ、これは桜花さんとは別次元できつい)
「・・・・・・む!」
ぼぎぃ!
「が!」
止めとばかりに一つ、きついのが入って、マッサージが終わる。
「・・・うん、こんなもんでしょう。 ちょっと立ってみて」
言われるままに恭也は立ち上がると
「・・・お?」
体が妙に軽いことに気付く。
今なら桜花の奇襲を受けても、遅れは取らないだろう。
「・・・凄い・・・・・・ありがとうございます」
「はい♪ じゃ、今日はおしまいです」
お礼を言った恭也に、フィリスは微笑みながら手にしたボードに何かを書き込む。
恭也は服を着た後、軽く体を動かしてみる。
(・・・・・・ここまで体が軽くなるなんて・・・桜花さん以上だ)
もっとも、その分肉体的な痛みを伴ったが・・・・・・
ちなみにダメージ比率を出すと、桜花のマッサージは、肉体的ダメージ:精神的ダメージが2:8の割合で、フィリスのマッサージは、8:2といったところか。
マッサージ等医療に関して桜花は、フィリスほど知識や経験を持っていないので、どうやってもフィリスより劣る。
餅は餅屋・・・ということだ。
「・・・・・・・・・お邪魔しても、大丈夫かな・・・?」
恭也が服を着終えたところで、フィアッセが病室に顔を出す。
「あ、うん・・・平気よ。 ちょうど、診察が終わったところ。 フィアッセも、結果出たの?」
「うん。 結果良好・・・♪」
嬉しそうにそう言うフィアッセにフィリスもつられて微笑む。
「そう、良かった。 じゃあ二人とも、お大事に・・・・・・」
「うん。 バイ、フィリス」
「バイ♪」
「ありがとうございました」
「はい」
フィリスに見送られて、恭也とフィアッセは病室を後にした。
「あんなに若い人が、担当医なのか」
高町家へ帰り道。
車の中で恭也はそう切り出した。
「あ、うん、私の主治医は、彼女のお父さんなんだけど」
「親子2代で、医者か・・・・・・すごいな」
「・・・だよね。 お医者さんになるの、難しいって言うもんね」
親子二代で同じ仕事についているフィリスたちのことを考えていて、フィアッセはふと気になることがあった。
「恭也も、子供が生まれたら・・・『御神』の剣士に、する?」
「・・・・・・母親と相談して決める。 まあ、基本的には・・・子供の意思に任せると思うけど」
「意外と現実的だね。 恭也、大人」
ぽんぽん、と頭を撫でたいフィアッセだが運転中なのでそれは叶わなかった。
「高町恭也君・・・か」
恭也の診察を終えた後、次の患者が車で時間があったフィリスは、ココアを入れながらまったりとしていた。
「フィアッセから聞いたとおりの人だったな。 ふふ、フィアッセが夢中になるのも頷けるかな」
聞いたとおりの人となりの恭也のことを思い出し、くすくす、と笑いながら、お茶請けである煎餅を食べるフィリス。
しかし、フィリス自身、今日会ったばかりの恭也に対して好意を抱いているのに気付いていなかった。
元々、恭也のことをほとんど知っているフィアッセの話を聞いていたフィリスは、恭也に好感を持っていた。
そして今日、実際に会い、異性を惹き込むような強い意志を秘めた恭也の眼を見たときに、好感は好意に変わっていた。
「でも、彼は人気ありそうだから・・・フィアッセも大変ね」
やがて、自分がその輪に入ることになるなどと考えもせず、フィリスは病室でココアを味わっていた。
あとがき
七彩です。
初登場、フィリス先生です。
まあ、この『神の影』でヒロインになるかは分かりませんが・・・
恭也(又は御神)至上主義を持っている自分としては、フィリスフラグは立てたかったので、こういう展開にしました。
次は・・・・・・どうしましょう?
誰のシナリオから入ったらいいのか・・・
とりあえず、読んでくださって、ありがとうございます。
では、次回で
フィリス先生の登場〜。
美姫 「さて、次はどんなお話になるのかしらね」
それも非常に楽しみだな。
美姫 「うん♪ 次回も楽しみに待ってますね」
ではでは。