はじめに

本編再構成物です。

ですが、すでにレンと晶のルートは通っています。

美由希ルートの「お前は俺の〜」発言もすでにしてあります。

時間軸は本編開始と同時期です。

恭也は誰とも付き合っていません。

上記の設定が嫌な方は戻ってください。

これを見て気分を害されても一切責任持てません。

 

 

 


とらいあんぐるハート3 〜神の影〜

第14章 「襲撃者」


 

 

 

 

 

4月24日(月) 海鳴市藤見町 高町家 AM8:16

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

高町家の玄関前で睨み合う桜花と瑛。

その身に纏っている闘気は、二人を知る人が見れば臨戦態勢と見間違うくらいである。

既に高町家の住人は、仕事に出たり登校してたりと、家には誰もいない。

なので何をやっているかを聞ける者はこの場にいなかった。

「・・・・・・・・・」

スッと桜花が右手を上げると瑛もそれに呼応して右手を上げる。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

ピリピリとした緊張感が極限まで増し、そして―――

 

 

「落ちなさい!!」

高町家から風芽丘学園への通学路。

かなりスピードで走ったまま桜花が角を曲がる。

それにつられて桜花の体に括りつけられているロープに繋がれたスケボーが、猛烈な勢いで角を曲がろうとする。

その動きからは遠心力を感じさせない桜花とは違い、スケボーは諸に遠心力の影響を受けてその先にある壁に向かって一直線。

「なっ!?」

しかし激突する前に、スケボーに乗っている人物―――瑛が絶妙なバランスを保ちつつ壁を蹴って方向転換をする。

そのおかげでスケボーは、壁に激突することなく桜花に追従する。

「流石は我が妹。この程度では落とせませんか・・・・・・」

「私を殺す気ですか!!」

瑛の文句を右から左に聞き流して桜花は走る。

なぜこんなことになっているのか。

少し前に晶とレンが、どちらかを乗せたスケボーを使って登校しているのを見た桜花が、やってみようと思ったのが始まりである。

買ってきたスケボーを途中で壊れないようにチューニングしてロープをつける。

そして今朝、恭也たちの朝食に乱入し、終わった後に瑛との壮絶なジャンケンバトルを行った。

ここで桜花の誤算はジャンケンで負けたことにある。

瑛に引っ張らせようと思っていた桜花だったが、負けてしまったので自分が引く羽目になり、その悔しさを無茶な走りで発散しているのである。

瑛にしてみれば、いきなり巻き込まれた上に八つ当たりに近いものを受けているのだから、ちょっとした理不尽さを感じないでもない。

もっともかなりのスピードで移動し且つ安全装置がないので、日常では味わえないスリリングな登校を楽しめるため、一概に否定しきれないところが悲しかった。

慣れとは良くもあり、悪くもあった。

「は〜い、どいてくださいね〜♪」

「ぶつかります! スピードを落としてください!!」

学校に近づくにつれ、障害物―――もとい生徒の数が増えていくので、生徒を轢く可能性がどんどん上がっていく。

周りにいた風芽丘の学生は、慌てて壁の方へ移動する。

そうしてあいた道を、桜花はスピードを落とすことなく駆け抜ける。

嵐が通り過ぎた後に残っていたのは、呆然とした生徒達だけだった。

その中にいた、前に同じような登校の仕方をした晶とレンは、いち早く立ち直り、

「「・・・・・・まあ、桜花さんだもんな」」

周りの生徒の心の中を代弁した言葉を呟くのだった。

 

 

 

昼休み

「ロシアンルーレット、強制参加で〜す♪」

桜花によって食堂に集められた恭也、勇吾、忍、那美、瑛、美由希、晶、レンはその発言を聞いて複雑な表情を浮かべる。

ロシアンルーレットと言うからには、桜花がまたあの『創作料理』を作って弁当に入れてきたのだろう。

外れは天国、当たりは地獄。

実に分かりやすい気分になれる料理なので、食べたいか、と聞かれても即答はできない。

「ルールは簡単、皆さんが最初に一品ずつ食べて、唯一の当たりを引いたら」

そんな周りの心境に気付いていながらも綺麗に無視して桜花は話を進めながら、どこから取り出したのか五段重ねの弁当箱をテーブルの上に置く。

ちなみに朝のあんな登校をして、弁当が無事なわけないだろうという突っ込みはスルー。

「購買のおばちゃん特製、青汁を飲んでもらいます♪」

「なっ!?」

「アレを飲むのか!?」

驚きのあまりそう叫ぶ恭也と勇吾。

他の面々も声には出さないものの、表情は恭也たちと同じだ。

なにせ、購買のおばちゃんの特製青汁は、普通の青汁の五倍は苦いと言われている。

桜花の料理の当たりに加えて、特製青汁はかなりきつい。

「ただし、特製青汁は私飲めますから、『蒼汁』で」

「!!」

だが、桜花のその一言で条件はさらに悪化した。

『蒼汁』・・・・・・購買のおばちゃんが作り上げた究極の青汁であり、疲労回復や美容などに絶大な効果があるという。

ただし、味に関しては凄まじいものがあり、三途リバーを渡りきる寸前まで逝くらしく、かの有名な某橙色の邪夢に匹敵するという(某奇跡の少年談)。

「みんな外れたら・・・・・・私が『蒼汁』を飲みます」

微妙に生死が懸かったゲームなので、同じリスクを背負わなければ他の面々は参加しないだろう。

そういった考えを一割、残りの九割は遊び心+好奇心という迷惑な考えを持っている桜花だった。

ちなみに、当たりは五段の弁当の中で一つしか入っておらず、実は桜花にかなり分が悪いゲームだったりする。

そんなことを知らない各々は、戦々恐々しながらおかずを選んでいく。

桜花は選び終わるまで誰が何を選んだか分からないように、目を瞑って外界の情報を遮断している。

「姉上、準備完了です」

瑛が桜花を揺すって現実世界に帰還させる。

目を開けた桜花は周りを見渡して

「じゃあ、いただきます」

「「「「「「「「・・・・・・いただきます」」」」」」」」

悲壮な表情を浮かべながら、八人は料理を口に運ぶ。

しかしみるみるうちに七人の表情が明るくなり、

「あぅ・・・」

一人が口を押さえながら慌てて飲み物でおかずを流し込む。

「大当たり〜♪ おめでとー、那美さん♪」

当たったのは那美だった。

前半は嬉しげに、後半は棒読みで桜花が祝福の言葉を掛ける。

内心冷や冷やだったのは言うまでもない。

「でも、那美さんだけ当たりっていうのは桜花さんにしては珍しいね」

二、三人は当たると思っていた美由希が、首を傾げながらそう訊ねてくる。

「いえ、内心冷や冷やしてたんですよ? 当たりはそれ一個ですから」

「「「「「「「「・・・・・・は?」」」」」」」」

桜花の思わぬ発言に唖然とする八人。

「だ・か・ら、当たりは那美さんが食べたものだけですよ」

あの決意はなんだったんだ、と溜め息を吐く七人と、自分の運の悪さを嘆く那美。

「じゃ、再開しましょうか」

 

「・・・・・・『蒼汁』一つ」

それを聞いた瞬間、周囲でざわめきが起きる。

購買の青汁は青汁に非ず。

そういう認識が暗黙の了解の中で、その中でも究極の『蒼汁』を頼む輩がいるとは。

「ふふふ、どうぞ♪」

そんな周囲にいる生徒たちの心中を肌で感じながら那美は、逃げ出したい気持ちを抑えて『蒼汁』を受け取る。

それを持って食事が終わった恭也たちのテーブルに戻ってくる。

「那美さんの♪ ちょっといいとこ見てみたい♪」

ノリノリの桜花に対して、哀れみの篭った視線で那美を見る恭也たち。

(乗り越えろ乗り越えろ乗り越えろ! これを乗り越えればきっと久遠のことも何とかなる! 薫ちゃん、私に力を!!)

意を決して那美は『蒼汁』の入ったコップ震える手で持ち、

「・・・逝きます」

いっきに『蒼汁』を飲みだした。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

食堂全体に沈黙が訪れる。

那美は飲み干した後、コップをテーブルの上に置いたまま動かない。

食堂にいた生徒たちが見守る中、那美は顔を上げて

「・・・・・・お・・・お粗末さま・・・・・・でした」

と言って倒れた。

「な、那美さん!?」

「落ち着け美由希! とりあえず、保健室へ運ぶぞ!!」

「くっ・・・惜しい人を亡くしました」

「いや瑛さん、那美さん死んでないから」

「お粗末さまでした、と言えるあたり凄いよね、那美」

「せめてもの行動だったんだな、神咲さん」

「これで那美さんの人気急上昇ですね♪」

「・・・・・・・・・(汗)」

倒れた那美を運ぶ恭也たちに、勝手の故人にする瑛とその瑛を窘める晶。

少し論点がずれている忍と感心したような勇吾。

反省していない元凶の桜花に、冷や汗を流しているレン。

「『蒼汁』に挑んだ勇者に対して、敬礼!!」

そんな渦中の八人をほっといて盛り上がる生徒たち。

風芽丘の生徒たちは、なかなかにノリがいいようだった。

 

ちなみに那美は午後の授業には顔を出さなかったとだけ追記しておく。

 

 

 

♪あーるーはれたー ひーるーさがりー いちばーへつづーくみちー♪

「・・・ん?」

夕食を済ませた桜花がのんびりと夢の世界への船を漕ぎ出そうというときに、桜花の携帯電話が鳴った。

ってドナドナ!?

「・・・はい、桜花です。あ、綺羅さん、何か分かりましたか?」

相手は少し前に、月村家の事情についての調査をお願いした人物だった。

「・・・・・・・・・そうですか、ありがとうございます。じゃあ、その安次郎という男の動きを・・・・・・はい、では」

「・・・進展あり、ですか?」

瑛は『月刊盆栽名人』などという、若者に似合わないことこの上ない雑誌から顔を上げ、桜花に訊ねる。

「うん、どうも遺産分配に不満があるって、何かと忍さんちにちょっかいかけてる人がいるみたい」

桜花の話によれば、既に亡くなった忍の父親の兄弟である「月村安次郎」が、もっと遺産寄越せと前々から言っていたらしい。

そして最近、行動がエスカレートして、嫌がらせをするようになったとのこと。

「・・・・・・金の亡者、というわけですか」

「話を聞く限りね」

話を聞いた瑛は眉を顰め、桜花はやれやれ、と呆れたように肩を竦めた。

「まったく・・・そういう輩はどこにでもいるもんですね」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

会話の中へ突然入ってきた声に、桜花と瑛は驚きの欠片も表さずに声の主のほうへ向く。

「いや、もう少しリアクションが欲しいんだけど?」

「・・・もう慣れました」

「どうやったらここまで私たちに気付かれないようにできるんですか?」

呆れに似たため息をつく瑛と、むー、と闖入者を睨む桜花。

「はっはっは、私が部屋に入った瞬間に気付いた君が言う台詞かな? 桜花ちゃん」

「・・・・・・まあいいです。それで・・・何の用ですか、玲さん」

不知火玲。

『不知火霧塵流隠密忍法』という忍術を扱う凄腕のくノ一だ。

『不知火霧塵流隠密忍法』とは、『御神』と同じく、『永全不動八門』の一派である。

蔡雅御剣流を上回る情報収集能力と戦闘力を誇る一族で、『八門』の情報部でもあり、重要な事柄は『不知火』が各『八門』に伝達する。

玲は『神影』と一番親しい『不知火』の忍者で、個人的にも桜花たちとは仲が良く、たまに一緒に遊びに出ているらしい。

ちなみに先の電話の相手の『綺羅』も、同じ『不知火』の忍者で玲の弟である。

「あ、そうそう。件の家の近くにね、怪しい人影がうろついてたから伝えに来たんだ」

「・・・電話で済みそうですが?」

「・・・・・・・・・今月、ちょっと料金がやばいんだよね」

めっちゃ身近に感じられる理由だった。

「何で捕らえなか・・・・・・ってそういえば、玲さん―――『不知火』の人たちは現状では表立って動けませんでしたね」

今現在、とある理由により『不知火』の忍者たちは、余程のことがない限り鍛錬以外の戦闘行動は許可されていない。

戦闘行動が許可されてないため、『不知火』の忍者たちの中に単独行動をとっている者はいない。

そのため、『不知火』の忍者たちは、二、三人のグループで行動し、そのグループには必ず『八門』の戦闘者が一人以上同行している。

「そうそう。しかも綺羅のほうに七瀬さんがついていってるから・・・・・・しかもその怪しい人影が『夜の一族』っぽいんだよね」

「成程」

相手が『夜の一族』なら下手に手を出すわけにはいかない。

せめて相手が何かしらの行動を取っていればどうとでもなるのだが・・・

なので、玲は情報収集しかできず、その怪しい人影を捕らえることができない。

「・・・とりあえず恭也さんに電話しながら私は月村邸へ行ってみます。留守番は頼みましたよ、瑛」

「了解」

桜花は愛刀二本と鋼糸、飛針を身につけると携帯を取り出しながら家を出て行った。

 

 

 

桜花たちに玲が不審人物の報告をする少し前。

忍はいつものように恭也と別れ、ノエルを呼ぶのも半端な時間だったのでタクシーで帰宅した。

「・・・・・・楽しいな、最近」

家の近くでおろしてもらい、家までのちょっとした距離を歩いて門を通る。

平和で楽しい日々が続いたせいか、忍自身気が緩んでいた。

そんな状態のときに

「・・・・・・!」

暫くぶりの、同族の気配を感じた。

「だっ・・・誰!」

鞄を振り回すように気配の方へ振り向く忍。が

「・・・っっ!?」

振り回した左腕に激痛が走り、同時に奇妙な喪失感が襲ってくる。

ブシュッという音と共に自分の左腕が頼りない放物線を描きながら数メートル離れた道路に転がる。

「・・・・・・っ・・・・・・!」

声を出そうにも横隔膜の発作によってそれは呼気に変わり、忍は尻餅をつく。

そして数メートル先には血のついたコンバットナイフを片手で弄んでいる、同族の気配を持った男が忍を睨んでいる。

忍はこれで状況が完全に理解できた。

あそこにいる『あいつ』が差し向けてきたであろう刺客が、自分の左腕を斬り落としたのだ、と。

男がゆっくりと忍に近づいてくる。

動けない忍にもう一撃加えようというのだろう。

そうささせまいと忍の瞳が紅く輝く。

自分が持つ異能の能力を行使するために集中しようとして

「・・・あ・・・・・・」

視界がぼやけてその集中が乱れる。

腕を斬り落とされたせいで血を大量に失っており、それどころではなかった。

残っている右腕で血を止めようにも、押さえるだけではどうにもならない。

目の前に来た男が手に持ったナイフを振り上げる。

(・・・そんな・・・・・・・・・高町くん!)

揺らぐ意識の中で

「ファイエル!!」

聞き慣れた、自分が最も信頼するメイドの声を聞いた気がした。

 

 

 

 

 


あとがき

七彩です。

また一ヶ月近くあけてしまいました、すいません。

ようやく忍のシナリオに突入です。

少しくらい長くしたいのですが、短くなるような気がしてなりません。

よーし、今度は二週間以内に書き終えるように頑張るぞ!

ここまで読んでくださりありがとうございます。

では。




わわっ、忍の腕がぁ〜〜!
美姫 「流石に、早い処置次第ではくっつくとは言え…」
忍ちん、ピンチ。
美姫 「まあ、何とか戦うメイドさんが間に合ったみたいだけれどね」
一体、全体、次回はどうなるのかな〜。
美姫 「次回も非常に楽しみにしてますね」
ではでは。



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