はじめに

本編再構成物です。

ですが、すでにレンと晶のルートは通っています。

美由希ルートの「お前は俺の〜」発言もすでにしてあります。

時間軸は本編開始と同時期です。

恭也は誰とも付き合っていません。

上記の設定が嫌な方は戻ってください。

これを見て気分を害されても一切責任持てません。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


とらいあんぐるハート3 〜神の影〜

第16章 「それぞれの動向」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4月25日(火) 風牙丘学園 屋上 PM0:44

月村邸襲撃事件から一夜明けて翌日の昼休み。

今後のことについて話すために、恭也と桜花は屋上で弁当を広げていた。

恭也は血を少し失っただけなので学校に来ることはできたが、忍のほうは腕が完治しても万が一、と恭也が登校を許さなかったので休みである。

 

「はっきり言って、ただのチンピラレベルでしたね」

 

桜花は忍の腕を斬り落とした男を主観的にそう評価した。

日々厳しい鍛錬によって心技体を鍛え続けている恭也や桜花にとって、種の力に頼り、少しばかり訓練したような連中では比べることすらおこがましい。

 

「ですが、あんなのだけということはありえないでしょう」

「ええ。 それに今回は事故を装うのではなく、忍に直接手を出してきましたから・・・次はもっと苛烈になると思います」

 

黒幕は分かっているものの、証拠は未だにない。

『不知火』にあまり私用で頼るわけにはいかないのだ。

 

「やはり・・・相手の最大戦力と共に本人に出てきてもらうしかないんでしょうかね」

「・・・そうですね」

「こちらはノエルさんを入れても三人・・・三人で何とかなればいいんですがね」

「・・・? ノエルも、ですか?」

「おやや? いつから呼び捨てにするほど親密に・・・・・・それはともかく、そういえば恭也さんは知らなかったんですよね。 詳しいことは本人から・・・とりあえず彼女も戦えるはずですよ」

「成程、なら桜花さんの前に襲撃者を撃退したのは」

「ええ、ノエルさんでしょう」

 

あの大きな屋敷に忍と二人だけで生活しているのだ。

多少の戦闘技術は持っているのだろうと恭也は推測した。

実際には戦闘技術というよりも、自動人形特有のパワーとスピード、忍特製の特殊兵装で撃退したのだが、ノエルのことを詳しく知らない恭也にはそこまで考え付かない。

 

「まあ表向きには恭也さんとノエルさんだけですから・・・・・・頑張ってください♪」

「・・・・・・・・・」

「冗談ですよ。 影でちゃんと動きますから心配しないでください」

 

そう言いながら桜花は既に食べ終わり空になった弁当箱を片付ける。

 

「今日はこの辺にしておきましょうか・・・・・・あ、そうだ。 恭也さん」

 

弁当箱を持ち、教室に戻るために屋上のドアを開けようとして桜花は振り返る。

 

「今日は何か予定はありますか?」

「・・・一応。 忍に会って欲しい人が居るといわれましたから」

 

 

 

「恭也、明日ちょっといいかな?」

「・・・? 構わないが」

「今日のことで話があるからって、明日に親戚が尋ねてくるの」

「・・・・・・会ったほうがいいのか?」

「うん。 親戚の中では一番好きな私の叔母さん」

「待ち合わせはどうする?」

「そうだね・・・・・・放課後の臨海公園でどう?」

「わかった」

 

 

 

「・・・というわけなんですが」

「親戚の方が来るのなら私が動く必要はないですね。 それともう一つ、ゴールデンウィークに『観月』から『乱舞』の誘いが来ています。 どうしますか?」

「・・・美由希共々行きたいのは山々なんですが・・・・・・この問題が解決したら、ですね。」

「じゃあ参加希望と向こうには言っておきますね」

 

恭也の返答を聞いた桜花は今度こそ屋上を後にした。

 

「・・・・・・・・・恐らく近いうちに来るだろうから、その時に・・・」

 

ぎゅ、と拳を握り締め、恭也は空を見上げていた。

 

 

 

 

 

海鳴駅前 PM4:25

 

「久しぶりかしらね、この町に来るのも・・・」

 

ピンク色の長い髪に薄紫色のスーツを着た美女が駅前に降り立つ。

一人だけ存在感が違う彼女を、近く通りかかる人の殆どがチラチラと横目で見ながら歩いていく。

 

「電話では大丈夫、のようなことを言ってたけど、やっぱり心配だわ」

 

大切な姪のことを思いながら彼女―――綺堂さくらは、足早に待ち合わせ場所に向かう。

なんでも姪のクラスメートが護衛を買って出てくれたそうだが、『人間』である以上あまり期待はできない。

一部に規格外な人たちがいるが、基本的に人間とは彼女たちの間では格下と定義されているのだから。

 

しかし、さくらは知らない。

護衛についているのは、その『一部の規格外』に相当する青年であることを・・・・・・

 

 

 

「・・・・・・今日はタクシーは出払っているのね」

 

いつものこの時間なら一台や二台は止まっているのだが、今日に限ってタクシー乗り場には一台も止まっていない。

 

「待ち合わせ時間までには間に合いそうだけど・・・・・・」

 

駅にある時計を見ると、まだある程度の余裕はある時間だった。

何気なく、さくらは駅周辺を見渡す。

今日は駅前に車も多くなく、普段に比べると格段にすいていた。

そんな中で、何か面白いものでもないだろうか、と少し期待しながら。

 

「・・・・・・・・・まあ、そんな都合良く―――あら?」

 

苦笑しながら呟いていると、視界の隅に二人+一匹の少女たちを捉える。

二十歳前後の美女と小学生くらいの美少女、それにプラスして狐が一匹。

 

(・・・微笑ましいわね)

 

女性と狐が楽しそうに、少女が苦笑しながら歩いている。

彼女たちを見ていたら、多少の退屈も紛れるかもしれない。

が、不意に女性の表情が一変する。

 

「・・・え?」

 

次の瞬間には狐を中に放り出して―――正確には少女の方へ投げ渡して、女性の姿が掻き消える。

いきなり消えた女性の姿を探そうと辺りを見渡す、と

 

「なっ!?」

 

駅前の横断歩道を見てさくらは愕然とする。

視線を移したそこは、青信号の横断歩道を渡っている一人の少年がいる。

しかしその少年に向かって車が猛スピードで突っ込んでくるのだ!

信号が赤なのにも関わらず。

少年は車が迫ってくるのは見えているのだろうが、いきなりのことに動きが硬直しているようだった。

 

(間に合わない!?)

 

いくら『人』ではないさくらといえども、今居る場所から少年を助けるには、時間と自分が出せる速度が絶対的に足りなかった。

それが分かってしまって、さくらは動くことができない。

近くに居る人々も、悲劇を予想した―――が、

 

(っ!?)

 

さくらの動体視力を持ってしても影しか捕らえられないナニカが少年をその場所から掻っ攫う。

その刹那、車が少年のいた空間を走り去る。

猛スピードで車は、そのまま交差点を通過していった。

幸い、反対側の横断歩道を渡ろうとしていた人たちは、車の接近に気付いて進路から外れることができていたようだ。

そして横断歩道を渡りきった先には、轢かれそうになった少年がさくらが見ていた狐と戯れていた女性に抱きかかえられていた。

少年が無事だったことで少し安堵するが、それと同時に女性に対する警戒心が膨らんでいく。

近くにいたらしい母親と合流した少年は、お礼を言いながら女性から離れていく。

そして女性のもとには、先ほどまで一緒にいた少女と狐が駆け寄っていた。

 

(私でも捉えきれないほどの速度で動くなんて・・・・・・・・・彼女は一体・・・)

 

 

 

 

 

時間は少し遡る。

 

「はぁ〜♪」

「くぅん♪」

「・・・・・・あ、あはは」

 

放課後になり帰路についていた桜花は、神社へと向かうなのはと遭遇した。

特に予定もなかったのでそのままなのはと共に神社まで足を運んだ。

そして当然の如く久遠とエンカウント。

出会った当初こそ桜花を警戒していた久遠だが、元々恭也と同じく動物に好かれやすい性質を持つ桜花に懐くのに時間はかからなかった。

暫く神社で遊んだ後、小腹が空いた二人+一匹は近所のコンビにではなく駅前まで行くことになり、桜花が久遠を抱いて歩き始めた。

まあ、散歩したかったという理由もあったのだろう。

桜花は久遠の抱き心地に、久遠は桜花の那美とは違う豊満な胸の感触にご機嫌である。

久遠曰く、那美とは違ってふかふかで暖かいらしい。

勿論、そんなことを那美に言ったら何をされるか分かったものではないので言うわけないのだが。

そんな桜花+久遠を見ていたなのはは、蚊帳の外なことに少し寂しさを感じながらも苦笑しながらついてきているのだ。

 

「さて、百歩歩いたから次はなのちゃん」

 

はい、と久遠をなのはの方へと差し出す。

どうやら、百歩歩くごとに抱くのを交代しているらしい。

 

「おいで、くーちゃん」

「くぅん♪」

 

笑顔で久遠を迎えるなのはに、満更でもなさそうな久遠。

美女と美少女が笑顔で狐を抱くことを代わりながら仲良く歩いている様は、見ているだけでも飽きない。

 

 

 

何度か久遠を抱くのを交代しながら、桜花となのはは駅前に着く。

 

「さて、どうしましょうか」

「くーちゃんは何が食べたい?」

「・・・くぅん」

 

なのはの質問に答えるように、久遠が一鳴きする。

 

「ふむ・・・大福ならこっちです」

 

久遠を抱いた桜花は、それを聞くと迷うことなく目的地へ向かって歩き始める。

 

「・・・・・・・・・・・・桜花さん・・・・・・おにーちゃんもだけど、段々と人から離れしていくような」

 

電話が鳴る前に電話が来たことに気付く兄と動物の鳴き声を聞いただけで意思を理解する姉的存在二号。

ちなみに一号は言うまでもなくフィアッセだし、美由希は姉的ではなくて姉、瑛は三号である。

しかもその常識はずれの力も「恭也だから」や「桜花だから」で妙に納得できてしまうことが少し悲しい。

少々引き攣った顔で桜花の後についていくなのはだった。

 

「・・・おや?」

 

なのはの考えなど露知らず、先導していた桜花の視界前方に、横断歩道を渡ろうとしている少年が見えた。

信号も青だし、特に問題はない。

 

―――視界の隅に凄まじいスピードで走ってくる車さえ見えなければ

 

「なのちゃん!」

 

状況を瞬時に認識した桜花は久遠をなのはに投げ渡す。

少年と自分の距離、少年と車の距離と車の迫ってくる速度を計算に入れると、間に合うと答えが出てくる。

そして答えが出たと同時に、『神速』支配の領域に一気に突入する。

スローモーションで動く世界の中で唯一いつも通りに動いている桜花は、武術の達人や遠巻きから少年を見ていた夜の一族の女性さえ捉えられないほどの速度で少年との距離を詰める。

車より早く辿り着き、少年を抱きかかえると同時に車が通過するであろう空間から跳んで離脱する。

刹那、彼女らが居た空間を車が通過していく。

車を避けた二人は、その勢いのまま横断歩道の先にあった壁に激突する。

桜花が少年を庇って背中から壁にぶつかったので、少年に怪我はない。

 

「ふぅ・・・・・・間一髪でしたね」

 

桜花がそう呟いたのとほぼ同時に、少年を轢こうとしていた車は猛スピードで交差点を通過して、そのまま走り去っていった。

 

「もう大丈夫ですよ」

 

安堵の息と吐くと、桜花は胸に顔を埋めて硬直している少年を立たせる。

桜花の声を聞いて硬直が解けたのか、少年がゆっくりと立ち上がる。

それに伴って桜花も立ち上がる。

 

「怪我はありませんか?」

「・・・え・・・あ・・・・・・?」

 

体の硬直は解けたものの、助かったことも死に掛けたことにも現実感が沸かないのか、今だ呆けたままの少年。

少し心配になった桜花が、少年と視線を合わせるようにしゃがんで顔を覗き込む。

そこで漸く我に返った少年の視界に桜花の顔が飛び込んでくる。

 

「ぅ・・・ぁ・・・・・・(///

 

中身はともかく、外見は超一級品の桜花の顔が至近距離にあるため、初心な少年は顔を真っ赤にして俯く。

普段なら少年の様子に瞬時に気付き、微笑ましさを感じる桜花だが、現状ではそっちに廻す気力はなく、少年に怪我がないかを調べていく。

 

「・・・うん、大丈夫みたいですね・・・・・・歩けますか?」

「・・・え・・・・・・あ、はい!」

 

ほっと安堵の笑みを浮かべる桜花に、少年は顔を上げて恥ずかしい気持ちを振り払うように返事をする。

ただ、少年の視線は微妙に桜花の顔から外れているのだが、桜花は気付かない。

 

「雅人!」

「あ・・・お母さん」

 

今だ青信号の横断歩道を渡って一人の女性が、桜花の走った方角から二人に駆け寄ってくる。

お母さんと呼ぶからにはこの少年の母親だろう。

『神速』支配の領域に入ったときに追い越したらしいのだが、一人一人の顔を覚えている余裕なんてものはありゃしないのだ。

そもそも振り返ってもいないので、顔すら見ていない。

 

「ああ、雅人! よかった・・・・・・本当に、よかった・・・・・・・・・」

 

感涙に咽び泣きながら、少年を抱きしめる母親。

それを見て、母さんを思い出しますね、と郷愁に浸る桜花。

 

ちなみに桜花の母親は健在だし、親元を離れてまだ一月と経っていない。

まして、桃子並に若作りでパワフルなあの母親が倒れるなど桜花ですら想像できない。

あ、でも悪戯の過程でなら倒れることもありそうだ、と桜花は考えを少し改める。

なにせ、あの母親と桃子は魂の姉妹なのだから。

 

閑話休題

 

「本当にありがとうございました」

「どういたしまして。 じゃあね、少年」

「は、はい!」

 

桜花に何度も頭を下げ、母親と少年は今度はさっきみたいなことにならないように手を繋ぎながら歩いていった。

二人が去ったところで、なのはが久遠を抱いて桜花に駆け寄ってくる。

 

「桜花さんは大丈夫ですか?」

「くぅん・・・・・・」

「心配無用ですよ。 この程度なら支障なんて出ませんから」

 

実際桜花はそこまで大きなダメージを受けていない。

この程度なら瑛との鍛錬の方がダメージが大きいだろう。

 

「ちょっとしたハプニングがありましたけど、行きましょうか」

「あ、はい!」

「くぅん!」

 

先ほどのことなどまるでなかったかのように二人+一匹は、大福を求めて歩き出した。

 

(助けたことに後悔はないんですが・・・・・・迂闊だった、かな)

 

なのはたちと楽しく歩き出しながら、桜花は鋭い視線を向けてくる気配に意識を向けて内心溜め息をついた。

 

 

 

 

 

海鳴市臨海公園 PM4:58

 

桜花のことが気になるさくらだったが、一先ずそのことは頭の隅に追いやり待ち合わせ場所の臨海公園にやってきた。

指定した場所には既に忍ともう一人、忍の言っていた友人であろう青年が到着していた。

 

「あ、さくら!」

「忍!・・・・・・大丈夫だった?」

「あ・・・うん、平気だよ。 腕が落ちたりしたけど・・・もう大丈夫。 ノエルと恭也のおかげで」

 

腕が落ちることはかなり重大なことだろう、と思った恭也だったが、口を挟まず無言に徹している。

 

「・・・・・・・・・」

 

忍の言葉でさくらの視線が恭也に移る。

じ、と恭也を試すような、心の底を覗くような鋭く真剣な視線。

 

「・・・・・・・・・」

 

対する恭也もさくらの視線にも気圧されることなく、じ、と見つめ返す。

とても忍と同じ年齢の男が持ちえるものではない強い意思を秘めた眼に、さくらは見入るように視線を逸らそうとしない。

 

「さくら・・・恭也、私の友達だよ。 そんな風に見ないで」

「・・・あ、ごめんなさい」

 

少しムッとしたような忍の声で我に返ったさくらは、自然を装って視線を外す。

もっとも、言葉どおりの理由で文句を言ったのか、はたまた女の勘が働いて視線を逸らさせたのかは本人のみぞ知る。

 

「・・・・・・紹介するね。 こちら『綺堂さくら』・・・私の叔母さん」

 

顔には出さないが、内心で恭也はかなり驚いた。

さくらの容姿は『叔母さん』と呼ぶにはかなり若かったのだから。

しかし適応するのもかなり早かった。

何故なら、恭也の周りの女性は年不相応に若く見える人が多いのだ。

自分の母とか、母とか、母とか・・・・・・

というか実際さくらはまだ若いのだが恭也はそのことを知らない。

 

「はじめまして・・・」

 

さくらは先ほどとは違い、優しさを感じさせる笑顔で挨拶をしてくる。

 

「で、高町恭也くん。 いろいろとお世話になってるクラスメート」

「・・・うん。 恭也くん、忍を助けてくれて・・・どうもありがとう」

「・・・いえ」

 

照れを隠すように少し視線をずらす恭也。

あまり表情が動いてないように見えても、しっかりと照れていることが分かる仕草にさくらは頬を緩める。

滅多に居ないであろう好青年に出会った忍に、自分の学生時代を思い出して少し嫉妬するさくらだったが、取り敢えずその思考は隅に追いやる。

 

「今朝、あの人のところに行ってきたの」

 

あの人、という言葉に恭也は以前桜花から聞いた人物の名前が思い浮かぶ。

 

「今回ことは・・・いえ、今までもそうなんだけど、私は許せないから・・・・・・」

 

静かに、けれど確かな深い怒りを表すさくら。

その感情は恭也も理解できる。

同じ立場だったら、恭也もその怒りをもっていただろうから。

 

「私も暫くはこっちに居るから・・・」

「え、ほんと!?」

「実家に居るから・・・時々遊びに行くね」

「うん!」

 

 

 

 

 

ドイツ

旧ドイツの森の中、古い館に今回の黒幕である月村安次郎は居た。

成金趣味のゴツゴツした指輪のあいだに、これまた高級な葉巻をはさみ、決して善人には見えない風貌でニタニタと笑う。

さくらが尋ねてくるまでは日本に居たのだが、さくらと会った後、当初の予定通りにドイツへと足を運んだ。

そして彼の前には、彼がドイツまで足を運んだ要因である博物館のようなショーケースがある。

その中に入っているのは、美術品等ではなく、一人の少女。

いや、ある意味美術品より芸術的な価値のある、精巧な自動人形だった。

 

「・・・・・・これが、『最終機体』イレイン・・・・・・・・・・・・こないなモン、よう今まで持っとったな」

「ええ・・・・・・自動人形など早々に手に入るようなご時勢でもありませんので、大事に地下に保管してあったのですが・・・なにぶん、見ての通りで。 いい値をつけていただけると助かります」

 

その自動人形―――イレインの持ち主である男は、羽振りがいいとは言えないような風体で安次郎にへりくだっている。

元は結構いい仕立てであっただろうと推測されるものの着古されて所々解れている服装から落ちぶれたものと予想するに難くない。

この館自体も壁紙がはがれて蜘蛛の巣も張り、下手をすると階段の手すりも傾いて、没落の痕跡は隠しようもない。

 

安次郎はニタニタと笑いながら男を一瞥し、イレインに視線を戻す。

 

「最高級の性能と『最も人間に近づける』ことを実現したという機体か・・・・・・しかしまた、なんでこないに見世物みたいに。 人手が足らんのやったら自動人形はええ働きするやろ」

「・・・・・・・・・その機体に関する伝承をご存知でしょうか?」 

「あぁん?」

「『起動させた者を必ず殺す』・・・・・・事実、中世から産業革命期にかけて、イレインを引き取った家は常に当主が怪死を遂げています。 我々は・・・恥ずかしながらそれが恐ろしく」

「フン、所詮は自動人形やないか。 それに、ワシでも知っとるで。 起動したての自動人形は行動制限がかかっとる。 それによれば少なくとも、人間を攻撃できるようにはならんはずやないか」

「はあ・・・・・・」

「まあ・・・どちらにしろ、いわくつきのモンやとはわかった。 具体的な値段の交渉に入ろか」

 

鈍重そうな四角い顔に蛇のような狡猾な表情を浮かべて、安次郎は機体の値段を算段して見せ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

七彩です。

三ヶ月近くもほったらかしになってしまいましたorz

ですが! 卒業研究も卒業論文も、そして卒業式も終わってこれで執筆スピードも少し上がりそうな気がします!!

ああ、目指せ完結!

ふぁいと、おー!

浩さんにおきましては、こんな長い間投稿できず申し訳ありませんでしたm(_ _)m

次回からもう少し早くできるよう努力いたします!

 

PS.少し書き方を変えてみました。

これ以降はこんな形で書いていきたいと思います。

・・・・・・って、また改訂か!?

orz





卒業おめでと〜。
美姫 「そつぎょ〜しても〜わすれ〜♪」
いや、それ違うゲームだから。
美姫 「別にいいじゃない」
はいはい。ともあれ、いよいよ忍編も佳境!
美姫 「一体、どうなるの!?」
桜花はどう関わってくるのか!?
美姫 「次回が非常に待ち遠しいわ」
次回も楽しみに待っています。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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