はじめに
本編再構成物です。
ですが、すでにレンと晶のルートは通っています。
美由希ルートの「お前は俺の〜」発言もすでにしてあります。
時間軸は本編開始と同時期です。
恭也は誰とも付き合っていません。
上記の設定が嫌な方は戻ってください。
これを見て気分を害されても一切責任持てません。
とらいあんぐるハート3 〜神の影〜
第18章 「嵐の前の静けさ」
4月29日(土) 海鳴市藤見町 高町家 AM8:13
恭也と桜花が最短で襲撃してくるであろうと予想した土曜日。
この日か、この日から一週間前後に襲撃が無ければ長期戦になる。
長期戦は望ましくなかったので、恭也たちからすれば今日か明日に来てくれれば、それで解決なのでありがたい。
「ふむ・・・こんなところか」
鍛錬を終えて、シャワーを浴びた恭也は私服に着替えて一息つく。
今日は忍とノエルに同伴して出かけることになっている。
まだ時間に余裕はあるので、お茶でも飲もうと恭也は居間へと足を運ぶ。
恭也が居間に入った瞬間、恭也を見つけたアリサが呆れたように一言、
「・・・・・・恭也兄さん、こういう時くらいは真っ黒でなくても」
「む・・・・・・いや、しかしだなアリサ。 黒だと例え血が付いても目立たないし、この服はわりと物を隠すのにも便利だし、そもそも俺みたいな男に合いそうなのは黒くらいだろう」
「・・・・・・・・・・・・恭也兄さん、一度鏡を見て、自身の世間一般的な評価を聞いてから出直してください」
「・・・? 聞いたところで何も変わらないだろう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ」
真顔でそんなことを言った恭也に、アリサは海の底から反対側に突き抜けてしまいそうなほど深く深〜くため息をついた。
そんな妹分の反応に憮然とした恭也が、反論しようと口を開こうとした時、
ピンポーン
それを遮る絶妙なタイミングで、高町家のチャイムが来客を告げた。
「・・・・・・む」
出鼻を挫かれたような気分だが、来客とあっては出ないわけにはいかない。
恭也はアリサへの反論を保留して、玄関へと足を向ける。
相手の気配を無意識に探ると、知り合いの気配だと判明する。
「おはようございます」
案の定、玄関の前に居たのは神影さんちのトラブルメーカーのストッパーたる瑛であった。
手には着替えが入っているバッグを持ち、肩に武装の類が入っているであろうリュックを背負っている。
そして恭也は、無意識のうちに周りの気配を探りながらトラブルメーカーが居ないか探してしまう。
「・・・・・・恭也さん、姉上はいませんよ」
そんな恭也をなんともいえない表情で見ていた瑛は、とりあえず懸念事項だけ解消させることにした。
瑛の言葉を聞いて、恭也は周りを探るのをやめた。
「・・・・・・・・・いや、すまない。 その、なんというか」
「ええ、言いたいことは魂の底から理解できますから、その話はここでやめましょう。―――姉上が来ますから」
「あ、ああ、そうだな。 とりあえず、部屋はこっちだ」
「はい」
先導するように歩き出す恭也に瑛は追従する。
案内されずとも勝手知ったるなんとやらだが、瑛には姉のように不法侵入をする気はさらさらない。
そう、例えば恭也と瑛を驚かせるためだけにいつの間にか客間へ先回りして―――
「あ、いらっしゃ―――」
パタン
客間についてドアを開けた恭也は、事態を理解するよりも先にドアを閉めた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
周りの空気がなくなったかと錯覚するほどの静けさが二人の間に訪れる。
頭の中で考えていたものが目の前に出てきてしまったために、驚きようは通常の1.5倍くらいである。
そのまま一分ほど、恭也と瑛は固まったままだった。
「・・・・・・私は、何も、見てません」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ふと我に返った瑛は、とりあえずさっきのことを忘れることにした。
同意したくなった恭也だが、ここでそのような発言をすれば中に居るであろう桜花が拗ねるので、黙ったまま再度ドアを開けた。
ところが、
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・む?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・これは」
確かに中に桜花は居た。
ニコニコと笑顔でこちらを見ているのだが、よく見ると、それは等身大の写真であった。
ご丁寧に体の輪郭を細部まで再現したダンボールに少しのずれもなく貼り付けられている。
そしてMDプレイヤーが桜花のそれに隠れるように設置されており、リモコンがドアを開けると連動してスイッチが押されるように仕掛けがしてある。
「いつの間にこんなものを・・・・・・」
どうせ聞いても答えてくれないだろうが、そう言わずにはいられない。
脱力する二人。
それでも、なんとか気を取り直した瑛は、
「・・・てい」
諸々の感情を込めて飛針を、写真の桜花の眉間に思いっきり投げつけたのだった。
「っ!? あたた・・・・・・」
「・・・? どうしたの、桜花ちゃん」
「いえ、なにかが額に突き刺さるような痛みが・・・」
待ち合わせ時間が近づいてきたので、恭也は必要なものを持って玄関前に出る。
そんなに時間が経たないうちに一台の車が高町家の前で停止する。
運転席にはノエル、助手席には忍が乗っていた。
「おはよ〜、恭也」
「おはようございます、恭也様」
「ああ、おはよう」
軽く挨拶を交わすと、恭也は荷物と一緒に後部座席に座る。
恭也を乗せた車は、そのまま街に向かっていった。
「今日はノエルに付き合う日だから・・・ノエルがこの前見たがっていた映画ね♪」
「それは構わんが・・・・・・何を見たがっていたんだ?」
街へ向かう車内で、忍が今日の予定を発表する。
「『ナイツオブナイツ』っていう少し前の映画のリメイクで・・・・・・なんて言ったっけ?」
「『Inocent Silver』・・・・・・邦題は、『愛の盟約』でしたでしょうか」
それを聞いて、どこかで聞いたことがあるような、と恭也は記憶を検索していく
「原題と全然関係ないわね」
「比較的よくあることです。 客観的感想に基づく命名と製作側の意図、どちらを優先するかという問題かもしれません」
「・・・・・・・・・ああ」
ようやく恭也はそれに思い当たった。
少し前の夕食のときに、フィアッセと美由希が見に行ったといっていた映画だ。
美由希は絶賛していたが、フィアッセはどこか複雑な表情をしていたことを思い出す。
もっとも、それを確認する前に、その表情は消えてしまっていたが。
そのことを思い出したことで、別の事柄も同時に思い出す。
桜花もその映画を見たと言っていた。
その時の桜花の怒りと哀しみの混じったような「忠義には賛同できますが、“アレ”には嫌悪どころか憎悪すら感じましたね」という台詞が印象的だった。
「確か、ものすごいラブロマンスだという評価を耳にしているんだが・・・」
美由希とフィアッセは確かにそう評していた。
桜花からは何も内容については語られずに、「恭也さんには正直微妙です。 見てほしい気がしますが、見てほしくないです」と矛盾した言葉を貰っただけだ。
「そうなの?」
「はい。 雑誌の評価も概ねそういったものでした」
「雑誌って・・・何を見たんだ?」
「芸能情報誌の特集ですが」
「そういうのを読むのか?」
「はい」
ノエルが静かに本を読む姿は割りと想像できるのだが、その読む本が芸能雑誌であるというのは恭也には少し意外な気がした。
新聞や小説ならば、容易に想像できるのだが。
「芸能雑誌は面白いか?」
「はい。 なかなか勉強になります。 新聞や小説はまた違った人間の一面が見られるのが興味深いです」
「ノエルって結構読書家なんだよね〜。 毎日隅から隅まで新聞読むし」
「・・・・・・・・・」
イメージは間違っていなかったらしい。
「リメイク前の作品についても、本での評価しか知らないので・・・・・・今日の映画はとても楽しみです」
表情に大きな変化はないが、ノエルの声はどことなく楽しそうに聞こえる。
その様子に恭也は瑛を思い出す。
彼女も基本的には無表情だが、なにかを期待しているときの様子は今のノエルによく似ている。
もっとも、ほぼ毎日桜花に振り回されているので、頻繁にその無表情は崩れているが。
恭也にとって恋愛映画系は背中がむず痒くなるものだが、楽しそうなノエルの様子を見ていると付き合うのも悪くないかと思えた。
「ふぅ〜・・・あー終わった終わった」
そう言いながら、レンは大きく伸びをする。
今日は定期健診の日である。
例え去年の手術でレンの病気が完治していたとしても、その後の経過を見るために定期的に海鳴病院に通院しているのだ。
「・・・さ〜て暇んなったし、どこ行―――ん?」
「にゃーー」
入り口を出て商店街方面に歩き出しつつ目的地を決めかねていたレンは、足元によってくる一匹の子猫に気付く。
レンの周りをくるくると周ったかと思うと、足にすりすりと体を寄せてきた。
「なんや人懐っこい奴やな」
「にゃあ」
レンがしゃがんで頭を撫でると、もっと構えとばかりにレンの身体にぴょこぴょこ飛びついてよじ登ろうとする。
そして、するするとレンの身体を駆け上がり、肩に乗ったところで落ち着いたのか、そのまま垂れるように身体を弛緩させる。
節操無く遊び盛りの子猫の様子に、レンは苦笑しながらそのまま立ち上がる。
「野良みたいやし、よし、今日はウチと遊ぶか」
「にゃあ!」
レンの言葉を理解したのか、元気に返事をする子猫。
小飛と仲良うなるかな、とか考えつつ、レンは止めていた足を動かして商店街方面へと歩き出した。
「・・・ん? ややや、那美さん?」
「・・・あ、こんにちわ、レンちゃん」
もうすぐ商店街に差し掛かるといったところで、その前にある交差点の角の電柱に見知った姿を見つけた。
相手―――那美もレンの声に気付いて振り返り、笑顔で挨拶する。
「何しはってるんですか?」
「え? ええっと、ね・・・・・・」
少々言葉に詰まりながらも那美は説明を始めた。
一ヶ月くらい前にこの場所で交通事故があって、小学二年生の女の子が車に轢かれて亡くなったとのこと。
それで、この場所にお花を添えて、冥福を祈りにきた、と。
別に口ごもる様な理由じゃないんやないか〜、と思いつつも、多分言いたくない事柄なのだと察したレンは、そのことには触れなかった。
「ウチもお祈りしてもえーですか?」
「うん」
「ふ〜、まあまあだったかな〜」
「概ね雑誌の評価と一致する、と述べておきます」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・? どうしたの、恭也。 終わってから黙ったままだけど」
「・・・・・・ん、ああ、いや・・・なんでもない」
「そう・・・? なら、いいけど」
映画を見終わって、三人が映画館から出てくる。
忍とノエルが感想を言いながら歩いているが、恭也は無言。
相槌を打つなり何らかの反応はあると思っていた忍は、恭也に話しかける。
忍になんでもないと答えながらも、恭也の頭の中はさっきの映画の内容でいっぱいだった。
映画の筋は一人の騎士と主君である姫のラブストーリーなのだが、騎士たちの友情や姫を取り巻く謀略の数々。
そして最後には姫のための一騎士として壮絶に死んでいく主人公と仲間たち。
どちらかというと日本の歴史ものの映画にも類型が当てはまるような、忠義と自己犠牲精神に満ち溢れた映画だった。
恭也のような人間の涙腺は、こういうものに弱いと当たりをつけていた忍だが、恭也は泣かなかったので少々拍子抜けしていた。
確かに恭也の涙腺は、こういうものに弱い。
―――フィアッセの複雑な表情と、桜花の矛盾した言葉を聞いていなかったら、まず間違いなく泣いていただろう。
映画を見ていて、恭也は気づいてしまった。
自身の死を持って主君を護り抜いた騎士。
それは、
(・・・・・・とーさん、か)
歌姫の子供を護って死んだ―――在りし日の不破士郎を連想させたのだ。
恭也はフィアッセの表情と桜花の言葉を反芻する。
主人公の騎士を見て、共感してしまっては桜花としてはまずかった。
できれば反面教師として、こういった行為をするな、と桜花は言いたかったのだろう。
そして、おそらくフィアッセもそう思ったからこそ、絶賛するでもなく複雑な表情をしていたのだと恭也は思う。
命を助けること=救いになる、というわけではない。
自惚れでなく、自分が死んだら悲しんでくれる家族が居る、と恭也は思っている。
残されたものの気持ちを痛いほど知っている恭也にとって、こういう終わり方だけはしてはならないものだ。
「・・・・・・也・・・恭・・・」
(・・・だが・・・・・・それでも)
「――恭也?」
「・・・・・・っ・・・!」
呼びかけられて、恭也は思考の海から浮上する。
目の前には心配そうな顔をした忍。
少し離れたところに居るノエルの表情からもその感情は伺えた。
「・・・ああ、すまん。 なんだ?」
「もう、なんだ?じゃないわよ! もうお昼も過ぎちゃったし、どこかでご飯食べよう」
「ん、もうそんな時間か。 そうだな・・・・・・どこに行く?」
「えっとね、この近くに・・・・・・」
とりあえず、先ほどの考えを頭の隅に追いやって、恭也は忍とお昼ご飯の相談を始める。
―――それが問題の先送りと分かっていても。
あとがき
那美のレンへの呼び方が間違っているのではないかと不安な七彩です。
えっと出来れば感想くださいまし。
ここはこうしたほうがいい、とかこんな表現が足りない、とか。
そういう指摘や短くてもこうだった、とか。
狂喜乱舞しますんで。
いよいよ忍編終盤、頑張って書こ〜、おー!
とりあえずは、今のところは平穏〜。
美姫 「でも、裏では色々と…」
果たして、恭也たちは忍を守れるのか。
美姫 「いよいよ、忍編も終盤」
次回が非常に気になるところ!
美姫 「次回も待ってますね〜」
ではでは。