『An unexpected excuse』

  〜ショコラ 結城すず編〜




「俺が、好きなのは・・・・・・・・・」

 その場にいた全員が息を飲み、空気に緊張が走る。
 ――が。

「…どうしても答えないと駄目か?」

 そんな恭也の言葉に緊張が崩れ去る。
気のせいか、『ズルッ』と音がした気もする。

「高町……。
 さすがにこのタイミングでそれはどうかと思うぞ」
「むう…」

 赤星からそう咎められるも、困った表情の恭也。


「…仕方ない。
 居る、とだけ言っておこう。さすがにこの場で話す事だけは勘弁してくれないか?」

 すまなそうな恭也の表情から、本当に言いにくい事なのだろうと考えるFC達。
普段はこういう事ですら言葉にしてくれないため、なかなか諦められないだけなのだ。

『好きな人がいるらしい』という事が解っただけでも大きな収穫。
 次第に解散していき、この場に残ったのは身内とも言える者たちだけだった。



「恭也〜〜〜? 私はとっても納得できないんだけどな〜?」
「ま、まあまあ忍さん。でも、本当に誰なんでしょう…」

 恨みがましそうに拗ねて見せる忍に、宥めながらも納得のいっていない表情の那美。
やはり近しい者たちには、先ほどの言葉だけで納得できるものではなかったのだ。

 さすがに身内にまでこんな誤魔化し方をし続けているのに気が引けたのか、恭也は観念する。

「今度の日曜日、翠屋に来ればわかる…かもしれない」

 軽くため息をつきそう告げる恭也に、顔を見合わせながら、頭には疑問符の一同。

「あ、もしかして……」

 何か思い当たることがあったのか、美由希が呟く。

「美由希ちゃん、何か知ってるの?」
「はい、今度の日曜日は翠屋でイベントがあるので…。
 もしかして、その時に居る誰かが…?」

 忍の質問に答えつつも、一人思考の海へと沈んでいく美由希。

「「あ…」」

 高町家居候である晶とレンも何かを察したようだ。

『今度の日曜日』と『翠屋』のキーワード。
そこから推測されるのは、『その日にバイトが入っている誰か』『その日に翠屋に居るのが確定している誰か』という事。

「「「よしっ!」」」

 その日はバイトのため、ガッツポーズをとる美由希に、晶とレン。
それ以外の者たちにとっては、ひたすら疑問である。

「ねぇ、結局何なのよ!?」

 痺れを切らした忍。
そして恭也の答えは――。

「来ればわかる…と思う」

 といった曖昧なものだった。







 日曜日。
言われた通り翠屋へと来た忍たちが見たものは、開店前から大勢の客が並んでいる光景だった。

「な、何よこれえ!!??」
「ふわあ……すごい人だかりですね…」
「前日だけの告知でこれか……」
「…さすが翠屋と言うべきなのか、さすがキュリオと言うべきなのか…」

 そう、混雑をある程度避けるため、告知は前日に行われた企画。
それは翠屋×キュリオのコラボレーション企画であった。

 制服を一日限定で交換したり、互いの店のメニューを出張販売したり。
更にはその日限定のメニューが、翠屋、キュリオ本店のそれぞれにあるのだった。

 気合の入った客の中には、両方へ行こうとする者もいるだろう。
 親しみやすさと、シュークリームで有名な翠屋。制服や接客方法、洋菓子や料理でも有名なキュリオ。
そして、洋菓子の方では橘さやか・高町桃子パティシエールを、その道では知らない者はいない程。
 そんな二人のパティシエールが、一日限定で互いの店へと出張し、菓子作りをするというのだ。
 その事実は、話題性だけでも充分すぎる集客力である。


 そして、開店。今日はイベントということで、まずは挨拶から始まった。
あの有名なキュリオの制服に身を包み、美由希を始めとしたバイトの子たちが並んでいる。
 二人ほど見慣れない女の子がいるのだが、恐らくはキュリオから派遣されてきたスタッフであろう。
恭也もキュリオの男性用制服を着ており、思わず見惚れる一同。
晶とレンは裏方のため、ここには出てきていない。

 キュリオからやってきた一人は、パティシエールとして有名な橘さやか。緊張からか、ガチガチに固まっている。
そしてもう一人、さやかと恭也の隣に立つ小柄な少女がいる。やはり緊張しているのか震えているようだが――。

 ――恋する乙女同盟一同+αは、その少女が恭也の制服の裾を掴んでいるのを、見逃さなかった。


 開店挨拶終了後は、恐らく翠屋史上最大であろう混雑振りであった。
途中から臨時で忍も手伝いに回る程。

 あくまで客としてきていた那美、赤星、藤代はいつもと違う翠屋の雰囲気に関心し、さやか作の洋菓子に感動する。

 恭也やあの少女――すずも忙しく動き回っており、時折恭也がすずをサポートしている。
そんな姿から『来ればわかる』の言葉に、ようやくの納得をした。




 閉店後。
 片付け終わった店内には恭也、すず、美由希、さやか、忍、那美、晶、レン、赤星、藤代が居た。
桃子となのははキュリオ本店に行っていたため、不在である。

「で、恭也。その子が言っていた…?」

 まず、忍が口を開く。
『その子』のところで視線を向けられたすずは、何事かとビクビクしている。

「…そうだ。
 紹介が遅くなったが、結城すず。…俺の恋人だ」
「え!? あ!!
 きょ、恭也さん!!」

 何か険悪な雰囲気になるのかと身構えていたところで、恭也の恋人宣言。
緊張から一転し、すずは真っ赤になる。


「あー…やっぱすずちゃんでしたか」
「師匠…」
「え? ええええええ!!!!????」

 一緒に住んでいる家族…レンと晶はなんとなく察していたものの、一人だけ気付いていなかった美由希。てっきり自分だとばかり思い込んでいたようだ。
従妹とはいえ、さすがは恭也の妹である。




「で、一体どこで知り合ったんですか?」

 那美が最もな疑問を口にする。
それもそうだ。キュリオ本店は、海鳴からはそこそこの距離があるのだから。

「それは……かーさんの指令でキュリオに偵察へ行った時だ」




 何でも桃子の『とりあえず偵察行ってきて』の指令により、キュリオ本店を訪問した事があったらしい。

 そして恭也が席でメニューに目を通している時、バランスを崩し料理ごと転倒したすず。つい反射的に手伝いへ走った恭也。
焦りから涙目で謝るすず。

 そして――。

『すずに何してやがる!』と勘違いした、すずの兄である結城大介にガンたれられたのだった。
 だが、全く動じない恭也に、すずの証言により誤解が解ける。

 これ以上店に迷惑をかけるわけにもいかないだろうと帰ろうとする恭也。
だが、いつの間にか寄ってきた他のウェイトレスから引き止められ、閉店後『お礼』と『お詫び』の名のもとに歓迎される。
どこか某女子寮の宴会の口実に似ていたため、逃げ出し辛かったのもあるだろう。

 後に知ったことだが、すずは本来人見知りが激しく、あまり人とは関わろうとしない所があるらしい。
積極的に恭也へと話し掛けるすず。
 その時、恭也を引き止めたウェイトレス――翠の『すずちゃん、一目惚れしちゃった?』発言により、真っ赤になって焦るすず。
大介が再び爆発した事は言うまでもないだろう。


 その後、夜も遅かったため結城家へ一泊。
次の日、海鳴へ戻り桃子へと報告をする恭也。
当然、『帰りが一日遅くなった』理由もしっかりと吐かせられたわけで。

 いつの間にか『息子がお世話になりまして』と、シュークリームを持ってキュリオへと挨拶に行く始末。
思いがけぬパティシエール界の有名人の登場に、さやかが感激。

 そんな出会いに何か祭りの予感を感じ取った結城誠介キュリオ店長と、高町桃子翠屋店長。
あれよあれよという間にキュリオと翠屋の付き合いに、結城家と高町家の付き合いへと発展したのであった。



「…で、今に至るというわけだ」
「それは解ったけど、恭也とすずちゃんが付き合うようになった経緯は聞いてないわよ?」

 忍が即座にツッコむ。
 そう、一見綺麗に話がまとまったかのように思えるのだが、実際は肝心な部分を喋っていない。

「あ、危うく恭ちゃんに騙されるとこだった……」
「人聞きの悪い事を言うな…。
 すず、話ても良いか?」

「うん…。私はむしろ、恭也さんの家族の方々にも知って欲しいな」

 恥ずかしそうに、それでいて少しだけ嬉しそうに答えるすず。

「解った。
 …実はな、婚約したからなんだ」

 いきなりの爆弾発言。だが…。

「? 婚約って…順序がおかしくないですか?」

 那美の疑問も当然。
普通は恋愛があってこそ、切っ掛けがあってこその婚約だ。

「いや……うちの母と、すずの両親がな…」

 少しだけ言いにくそうにする恭也。

「はい、お父さんもお母さんも恭也さんを気に入ってましたから」
「こんな無愛想な男のどこが良いのか解らなかったがな…。
 それでほぼ無理矢理に許婚にされてしまったわけなのだが…それがすずを意識するようになった切っ掛けだ」

「それから色々ありまして、恭也さんがすずに……あうう」

 思い出したのか、一人称が『すず』になっている事にも気付かず悶えるすず。
切っ掛けになった出来事こそ高町母と結城父らしく不自然な程の強引さではあったが、二人が惹かれていったのは自然なものだった。

「というわけだ。納得したか?」

 照れ隠しか、いつもより少しだけ無愛想な恭也。


「うん、まぁ。
 なんというか……ご馳走様?」
「ですね…おなかいっぱいです…うう」
「なんだ、高町も意外とまとも…なのかは解らないが、普通に恋愛してるじゃないか」
「うう…恭ちゃんが…私の恭ちゃんが…」


「すずの恭也さんですっ!!!」

 情けなく鳴く美由希の『私の恭ちゃん』発言に、激しく反応したすず。
バッチリと腕にしがみついて、美由希を威嚇している。
 恭也は照れながらも嬉しそうだ。

「ああ、俺はすずのものだ」

 そう言って、軽く抱きしめる。

「恭也さん…大好き」
「俺も大好きだぞ、すず」


 そして、少しずつ周りも変わっていく。
良い方向になるのか、悪い方向になるのかは解らない。
 だが、恭也とすず――この二人だけは、間違いなく幸せな方向へと進んで行くだろう。





おわり

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というわけでショコラより、結城すず編でした。
みつき 「それはいいんですけど、この後書きって…」
べ、別に対談形式って楽しそうだなって思って真似たわけじゃないんだからねっ!(*`・ω・)
みつき 「えーと、はい。そうですね」
…ごめん、強がったil||li _| ̄|○ il||li
みつき 「それはもういいですから…」
というわけで、神威さんちのさつきさんです、どうもヽ(´ω`)ノるー☆
みつき 「何がというわけなんでしょう……。私は『みつき』っていいます。一応、メイドやってます」
名前はさっき決めたというのはナイショです>< ちなみに相互リンク記念で贈らせて戴いた画像の娘です^^
みつき 「お恥ずかしながらも……//// で、何故ショコラなんですか?」
まぁ『パルフェ』内のイベントで、キュリオとファミーユが制服交換デーとかやってたくらいだし、結城ファミリーと高町ファミリーならやってもおかしくないかなーという妄想からやなー。
みつき 「なるほど…。確かにどちらもイベント好きですもんね」
うんうん。それに、こういう有名店同士のコラボレーション企画って集客力も高そうだし。
みつき 「でも実際にこうした場合、どうなるかは解ってないんですよね?」
あー、うん。半分以上は妄想で、『俺だったら行ってみたくなる』って部分からかな。
みつき 「確かに、私も行ってみたいですね」


というわけで、未熟者ながらも投稿させていただきますね。元々の『An unexpected excuse』の設定と食い違ってたらすみません^^;
みつき 「浩様、美姫様。どうぞお納め下さいませ」
感想やご意見等あれば宜しくお願い致しますです☆
みつき 「それではまた、お会いできる事をお祈りしていますね」



いやいや、照れるすずが可愛いね〜。
美姫 「本当に。甘々よね〜」
しかし、さつきさんの相方さんはメイドさんか〜。
はぁ〜。大人しくて良い子みたいだな〜。
美姫 「何が言いたいのかしら?」
……わ、わーい、僕の相方は美姫で嬉しいな〜。
美姫 「私は嬉しくないわね」
ひ、ひどっ!
美姫 「神威さん、投稿ありがとうございました〜」
ました〜。みつきさんも、今後とも宜しくです。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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