ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!


溢れんばかりの大歓声。

 『お聞き頂けますでしょうか!この大歓声を!!』

場内に響くは実況の熱き声。

 『本日、ダ・カーポが誇るこの闘技場にお集まりの皆様が見守る中!』

数千人の人々で埋め尽くされた観客席。

 『我こそはと各地から集まった腕に自信のある強者たちによる!』

ある者は富と名声を得るために。

 『最強の二文字の名を懸けた熱き戦いが!』

ある者は自身の腕を試すため。

 『今まさに始まろうとしています!』

ある物は自らの信念のために。

 『ダ・カーポ武術大会!!』

熱き戦いの火蓋が切って落とされる。

 『まもなく開幕です!!!』










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第10話 ダ・カーポ武術大会 〜開幕式〜

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 「すごい歓声だな」

 「本当ですね」


義之たち十六人の出場選手は闘技場のリング上に集っていた。
周りを囲む観客席は全て人で埋め尽くされており、その光景は圧巻の一言。
これ程の人数が集まるのはこの武術大会の他には無いだろう。
まだ試合どころか開会式すら開始されていないにも関わらず会場は熱気で包まれていた。


 「それだけ武術大会に対する注目度が高いってことなんだろうけどな」


ダ・カーポ武術大会は国を挙げての一大行事である。注目するなと言う方が無理な話であった。
そう言う義之の握られた拳は小刻みに震えていた。


 「兄さん……緊張しているんですか?」


その様子に一早く気付いた由夢が心配そうに義之の顔を見上げる。


 「いや……どっちかっていうと武者震いに近いな。
  会場の熱気にあてられたのかもな」


震える拳を眼前に持ち上げ、見詰めながら呟く。
今日までに鍛え抜いてきた自身の力を試される場である。
義之の気持ちが無意識のうちに高揚してしまうのも無理は無かった。
由夢も「そうですか」とそれ以上は何も言うことは無かった。


 「おっ! 見ろよ義之、由夢ちゃん」

 「なんだ?」

 「どうかしましたか? 板橋先輩」

 「あそこ、ほら…上のテラス。あそこにいるのってお姫様たちだろ」


渉が指し示す先、そこは王族専用の観覧席であるテラスだった。
そこにはダ・カーポ国の国王であり、セレネとティナの父でもあるカロルス=デァ=ダ・カーポ王やセレネとティナ、それと純一と音夢の姿があった。
そのことに気付いた周囲の観客席から先程にも増した大歓声が沸き起こった。
中にはセレネやティナの名を呼ぶ熱狂的な声も混じっており、名を呼ばれた当人達はそれに手を振り応えていた。


 「すごい人気だな」

 「そうだね。
  ……やっぱりお姫様なんだよね……」


その光景を見て、由夢が少し寂しそうな顔で俯く。
それもその筈、幼き頃からの知り合いだとしてもあの二人はやはり一国の王女であり、一国民が気軽に接することを許されぬ存在。
如何に本人たちが親しくすることを望んだとしても周りがそれを認めるかどうかわからない。
今、親しくしているからとはいえ、この先もそれが保障されるとは限らない。
やはりあの二人とは住む世界が違うのではないか…そう考える由夢の表情は寂しそうな笑みを浮かべていた。
それを見て、内心を理解したのか義之は苦笑いを浮かべる。


 「そんな顔すんなって。
  相手がお姫様でも俺たちとあの二人の関係は変わらない……っていうか、ほら」

 「えっ?」


義之の言葉で由夢は顔を上げ、再びテラスへと視線を向ける。
そこにはこちらに向かって元気よく手を振っているティナの姿が見えた。


 「おわっ! お姫様がこっちに手を振ってるぞ! く〜、感激だぜぇ」


渉が何やら勘違いをして舞い上がっているが、ティナが手を振っている相手は間違いなく義之と由夢であった。
そこには王族と一国民の立場の差などは微塵も感じられない、あるのは幼馴染へと向けられた応援の想いのみ。
由夢の顔から自然と笑みが零れる。


 「なっ? だから言っただろ。変わらないって」

 「……うん」

 「ほら、手。振り返してやれって」


義之の言葉に由夢はさすがに躊躇するが、すぐに思い立ったようにテラスのティナに向かって小さく手を振り返した。





     ●





―――王族専用テラス。


 「あっ、姉さま。よーくんと由夢ちゃんだよ」

 「あら、本当」


階下の観客席からの声援に手を振って応えていたティナは闘技場に設置されたリング上に義之と由夢の姿を見つけると、二人に向かってそれまで以上に勢い良く手を振りまわす。


 「よーーくーーん! 由夢ちゃぁーーーん!」

 「ふふ、ティナちゃんたら。
  ここからじゃさすがに二人には聞えないんじゃないかしら?」


微笑ましい妹の姿に笑みを浮かべながらのセレネの言葉を聞いてもティナは義之と由夢に向かって手を振ることをやめようとはせず、寧ろ更に勢い良く振り続けた。


 「そんなことないよ、きっと届いてるよ……あっ、ほら!」


ティナの声で視線をリング上に向けるとそこには小さくこちらに手を振り返している由夢の姿があった。
ティナはそれに対して更に大きく手を振ることで応える。
妹の微笑ましい姿にセレネは暖かな笑みを漏らす。
背後で見ていた純一や音夢も同じ心境だったが、さすがにそれ以上は、と見かねた音夢が程好いところでそれを制す。


 「ティルマナ様、もうその位で」

 「えーでも、音夢さん」

 「今は一応公式な場ですから、ね?」

 「うぅ……はぁい。分かりました」


音夢の言葉で渋々とティナは手を振ることを止め、テラスの奥へと戻る。
それを見届けていた純一が口を開く。


 「別にいいんじゃないか?
  手を振るくらい減るもんじゃないし」

 「兄さん。民の見ている前ということでもあるんですよ」

 「どうせこの騒ぎの中じゃ誰も気付かねぇよ」

 「だとしても、そういうわけにもいきません。公私混同は認められません」


音夢にそう言われると純一はヤレヤレといった感じで引っ込んでいった。
カロルス王やセレネも会場から見える位置から一旦テラスの奥へと戻ってくる。


 「すまんな音夢。
  うちのオテンバ娘が世話を掛ける」

 「いえ、なにを仰いますか。陛下」

 「時にあの二人はお前たちの孫だったかな?」

 「はい。といっても実の孫はその内の一人だけで、
  もう一人は孫同然といったところですが……結局は一緒ですね」


そう言うと音夢は笑みを浮かべる。
そこでティナが話しに入り込んできた。


 「よーく…義之君と由夢ちゃんだよ。お父様」

 「ふむ。幼き頃の姿しか覚えは無いが確かに面影を残しているな」


カロルス王はしばし思案を巡らせ昔を思い出すかのように語る。
そこにセレネが補うように言葉を添える。


 「私たちも先日数年ぶりに再会をしたばかりですから。
  お父様が明確に憶えていらっしゃらないのも無理はないかと」

 「なるほど。
  しかし本戦に残っているということは、二人はかなりの腕前なのだろうな」

 「いや、まだまだだ」


カロルス王の言葉を純一が即座に否定する。
それも崩した喋り方で。
それは王に対する言葉遣いではなく、普通ならばいくら聖騎士団の総隊長といえど許されるものではなかった。
しかし今に始まった事ではないのかカロルス王はそれを咎めようとはしない。
が、当然総隊長補佐でもある音夢は純一を叱咤する。


 「兄さん!陛下に対して何て物言いを……」

 「はっはっはっ、まあ良いではないか音夢」


しかしその音夢の言葉は他ならぬダ・カーポ王により遮られる。


 「しかし、陛下……」

 「お前たちは私がまだ幼い頃より我が国を支えてきてくれた」

 「勿体無きお言葉です、ですが……」

 「それに何より純一は我が剣の師でもあったのだ。それくらいは多めに見てやってくれ」


「まあ、大した弟子ではなかったがな」と最後に付け加え、カロルス王は笑い声を上げる。
主君である王にここまで言われては音夢はもう何も言えなかった。


 「……陛下がそう仰るのであれば。
  ですが公の場では控えて頂きます。分かりましたか! 兄さん!」


音夢としては最大限の譲歩。
ただ、それを聞いていた純一の勝ち誇ったような顔を見て音夢は笑顔を引きつらせていた。
そこで王族直属の従者がカロルス王へ側に駆け寄る。


 「陛下……そろそろお時間です」

 「うむ」


従者の言葉でカロルス王は顔を引き締め、「ダ・カーポ国の王」の顔となる。
そしてゆっくりとテラスの前方部へと歩みを進めていった。





     ●





―――リング上。


 「兄さん、王様が」

 「ん、始まるか」


一度テラスの奥へと戻っていたカロルス王が再びテラスの前方部へと現れた事で、それまで歓声に包まれていた闘技場はシィンと静まり返っていた。
誰もがカロルス王の言葉に耳を傾ける。
暫しの静寂。
そしてカロルス王が両手を大きく広げ、口を開く。


 「各地より集まりし皆よ。
  我がダ・カーポの伝統たる武術大会が今年も幕を上げようとしている。
  各地から集いし十六人の強者たちよ、今日までに磨き上げた腕を遺憾なく発揮し
  そして最高の戦いとを我らに見せてもらいたい。
  ……ダ・カーポ武術大会をこれより開幕とする!」


ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!


カロルス王の開幕の宣言と共にこれまでで一番の歓声が沸き起こる。
それはリング上に集まっていた出場選手たちを高揚させる。
その表情は誰もが自身が最強であると疑いのない自信で満ち溢れていた。
さすがに本戦まで残った強者たちである。
それぞれに秘めたる思いは別なれど実力者揃いであることには間違いなかった。
無論、それは義之たちも同じであり、試合に出るからには負けるつもりは無かった。


 「もし試合で当たっても手加減はしないぞ。由夢、渉」

 「当然です」

 「つーか、手加減したらぶっ飛ばす」


それは真剣勝負であるが所以。
相手への気遣いなどは寧ろ侮辱へと変わる。
例えそれが仲間であったとしても……いや、仲間であるからこそ尚更手を抜くつもりなど無かった。





     ●





 「ななかーー」

 「小恋」


観客席の一部から自分を呼ぶ大きな声が聞え、ななかはその声の主を探し見つける。
声の主はもちろん親友でもある小恋である。
ななかを見つけて思わず出した大きな声に周囲の観客の視線が何事かと小恋に集中する。
その視線を受けて小恋は顔を真っ赤にして深く俯いてしまい、その隣では杏や茜が何やら小恋をからかう様子が伺えた。
ななかも思わず噴出しそうになったが、何とか堪えてとりあえず小恋たちの下へと向かう。


 「やっほー、小恋」

 「ふぇ〜ななかぁー。
  ……顔から火が出るくらい恥ずかしかったよー」


ななかが傍に拠ると、ようやく小恋は俯いていた顔を上げるがその顔はまだ紅く染められていて、ななかは思わず噴出してしまった。
それを見た小恋が頬を膨らませて拗ねる様子を見せるが、それすらも可笑しく見えななかは笑みを零す。


 「笑うなんて酷いよ〜。
  ……せっかくななかの席も取っておいたのに」


見ると小恋の隣の席が二つほど空席になっていた。
義之からななかが来ると教えられた小恋は会えるかどうかも分からないななかのためにしっかりと席を確保していた。
そんな小恋の何気ない気遣いが嬉しくてななかは小恋に抱きつく。


 「ごめんごめん。小恋ラブ〜」

 「わっ、ちょっ、ななかぁ」


抱きつかれた小恋は驚きの声を上げるが嫌そうではなく、寧ろ楽しそうな表情でななかの行為を受け止めていた。
美少女二人が抱きつきジャレあう姿に見ていた周囲の数人の観客たちは顔を紅くしていたのだがじゃれ合うことに夢中な二人はそのことに全く気付く様子は無かった……。
そんな二人の傍に一人近づく姿があった。


 「ふふ、二人は仲良しさんなんだね」

 「あっ、音姫先輩」


それは少し前まで一緒にいた音姫だった。
先程、義之が闘技場に到着する直前まで一緒に待っていたのだが、風見真央武術学園の生徒会長としての仕事があったため後ろ髪引かれる思いで小恋たちとは別行動をとっていた筈なのだが、その役目も全うしたのか再び合流していた。


 「もうお仕事はいいんですか?」

 「うん、そんなに大変なのじゃなかったから」


音姫は何のことは無いといった顔で語るが、元は学園長に任されるはずだった仕事である。
大変でないはずは無かったのだが、音姫はそう言い切った。
自分とさほど変わらぬ年齢で大事を難なくこなすその姿を、小恋たちは敬服の思いで見詰めていた。
そんな事を思われているとは気付かず、当の音姫は自然と話を促す。


 「弟くんは無事に間に合ったみたいだね」

 「はい、ギリギリでしたけど……」

 「えっ? 義之君、遅刻したの?」

 「う、うん……」

 「あれ? でもななか今朝義之君に会ったよ。
  あの時間に起きてたんだから遅刻なんて……」

 「ああ、うん。なんかね、色々あったんだって。
  えっとね…………」


小恋は先程義之から聞かされたことを音姫やななかに説明し始めた。





     ●





 「へ〜……そんなことがあったんだ」

 「………」


小恋の話を聞いてななかは納得した様子を見せるが、対称的に音姫は何かを考え込むような仕草を見せていた。
先程の自分の説明に何か気になる点でもあったのかと、小恋は恐る恐る口を開く。


 「あっ、あのー……音姫先輩?」

 「……えっ? あっ、ごめんね。何かな、月島さん」

 「私、何か変なこと言いました?」

 「どうして?」


どうしてと聞かれると小恋も返答に困ってしまう。
どう見ても先程の音姫は何かを考え込むような険しい顔をしていたのだから。
どうやら本人にはその自覚はなかったらしく本当に不思議そうな顔で小恋に視線を向ける。
そこで小恋に代わってななかが答える。


 「音姫先輩、今すっごく『考えてます』って顔してましたから」

 「えっ、ほんとに?」


ななかの答えを聞いた音姫は再び小恋へと視線を移すが、小恋は首肯を返す。
それでどうやら間違いがないことを悟ったのか、音姫には珍しく苦笑しバツの悪そうな顔をする。
しかしそれはすぐにいつもの表情へと戻る。


 「えっとね、もしかするとその占い師さん……知ってる人かもしれないんだ」

 「えっ!?」


これには小恋も驚きを隠せず、思わず大きな声を上げてしまう。
またもや周囲の視線の集中砲火に遭うかと周りを見回すが今度は大丈夫だったらしく、誰も小恋の声には気付いていなかったようだった。
ほっと一息ついた後、小恋は先程より小さな声で音姫に尋ねる。


 「本当ですか?」

 「うん。小さい頃に一度だけ会った事があるの。
  ウィンドミルの人だったし間違いないと思うよ」

 「じゃあ、義之に……」


「教えてあげないと」と小恋が口にしようとした時、周囲の観客席から大歓声が沸き起こった。
その声の大きさに音姫、小恋、ななかの三人の肩が思わずビクリと飛び跳ねる。
何事かと戸惑っていると、それまで話に参加してこなかった杏が教えてくれた。


 「……一回戦の第一試合が始まるのよ」


見れば既にリング上にいた出場選手の姿はなかった。
どうやら音姫とななかを迎えた後、話に夢中になっていた間に対戦相手を決める抽選会は終了し、選手たちは一時控え室へと戻ってしまっていたらしい。
そんなことにも気付かないほど話にのめり込んでいたのかと小恋は我ながら驚いてしまう。
それは音姫やななかも同じことだったが、さすがに義之たちの試合が何時頃になるのか気になったのか、音姫が杏に尋ねる。


 「弟くんたちの出番はどの位なの? 雪村さん」

 「……それが…」


そこで杏は言葉を詰まらせる。
普段、物事をハッキリと言う杏にしては珍しいことだった。
そのまま、杏がどう言おうか迷っていると、今度は横から杉並の声がする。


 「むっ、出てきたぞ」


その言葉で一同は控え室の入り口を注視する。
大歓声に包まれながら現れたその二人の姿に、その事実を知らなかった三人は先程にも増した驚きの声を上げた。


 「えっ!?」

 「由夢ちゃん!?」

 「渉くん!?」


それは紛れもなく、由夢と渉の姿だった。

























あとがき。

はい第10話です。ついに二桁に突入しました。これも読んで下さる皆さんのお陰です。(感謝)
これからもどうか宜しくお願いします。
さて今回は前話と繋がる筈だったということもあり、短めの話になっています。
本編では何やら音姫は占い師の少女を知っているようです。
ちなみに第8話の最後で占い師の少女が言っていた『あの方』とは音姫ではありませんので。

次回は久々のバトルです……一応、ジャンルをバトルと銘打っているにも関わらずバトルが少ないような……。
まあ、これからはバトルパートが多くなると思いますのでお許しを。

ではでは、次回のあとがきで。



おお。
美姫 「最初は由夢と渉なのね」
まさかいきなりのカードだな。
美姫 「さてさて、どんなバトルが繰り広げられるのかしらね」
いよいよ次はバトル!
美姫 「熱い展開が待ってるのね!」



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