「良く避けた……と褒めてぇトコだがそれもちげェか」
ソレは一つの夢。
「中途半端に抵抗するからだぜぇ? 素直に喰らってりゃあ痛みも感じず死ねたってのによぉ」
しかし。
何時も観せられる他人の夢ではない。
「と言うワケで、だ。中々に楽しめたぜ、雑魚にしてはな」
ソレは。
己の過去。
「終わりだ」
決して忘れる事の出来ない、忘れようとは思わない。
忘れることなど―――――在っては為らない。
「マ、ルコ……さん……?」
悔恨の過去。
殺に優越を。
死に快楽を。
血に高笑を。
人に終焉を。
ソレラを見出す者との文字通りの“死闘”。
訪れる筈であった死への階段。
けれど、ソレが己に訪れることは無く。
代わりに消え去ったのは。
知り逢ったばかりの命の灯、だった。
「っああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
「ガァッ!」
「うおわぁ!?」
謎の奇声で、義之は眼を覚ます。
いや、覚まされた。というのが正しいだろうか。
兎に角。
眼を開けた義之の眼の前には黒い野鳥の姿。
そして額に感じる、何か鋭角なモノで突かれたような激痛。
そう、つまりは。
「こ、こらっ。突っつくな! この馬鹿鳥っ!?」
野鳥に額を突かれていた。
啄木鳥が巣を掘る様に。
コツコツコツ、っと。テンポ良く、リズミカルに。
勿論、そんな仕打ちに義之が黙っている筈は無く。
「こ、このヤロ。焼き鳥にして喰っちまうぞ!」
眼前の音的(怨敵)を捕獲すべく。
勢い良く身を乗り出し、両の掌を突き出し―――そして。
「あ、あれ?」
奇妙な浮遊感を得た。
両の掌を中に向けた事で、何やら身体に奇妙な感覚が……?
そう思い、義之は自身の真下を視て。
「あああっ!?」
後悔した。絶叫した。
さて今更ながら説明しておこう。
単葉直入に言えば、桜内義之。彼は現在、深い森のそれも巨大な樹木の上に居た。
樹齢はどの位だろうか。全長数十メートルはあると思われる、そんな巨木。
何とかと煙は高いところが好きというが、それにしても何故そんな処に?
その理由も至って単純。
この森に迷いこん……入り込んでからというもの、数回に渡って魔物と遭遇していたからだった。
幸い、魔物自体のレベルは高いものではなく、義之の実力からすれば苦戦するような事は無かった。
無かったのだが。
日が落ち、元より薄暗い森に完全な闇が訪れるとそうもいかなかった。
夜とは魔物が力を増し、活発に動き始める刻。
それでも義之の実力なら闘えないこともない―――のだが。
流石に体力が無尽蔵な筈は無く。休息が必要なのは道理。
だが、力を増した魔物の巣窟で一夜を過ごす事は避けたかった。
さてどうしようかと考えていた時に見つけたのが、件の巨木だった。
ここまで言えばお分りだろう。
そう、義之はその巨木の上で休息を取っていたのだ。
幸い巨木の枝は、枝と言うのに躊躇するほどの厚みを持ち、休むことに問題なかった。
そして義之はそこで眠りについた。
と、まあコレが昨夜の話。
んで、現在。
ゴスンッ!
「………………」
休息に使っていた枝から、見事に地面へと落下した。
その高さ、凡そ十メートルといったところか。
普通の人間ならば、良くて大怪我なのだが……。
「―――ってぇ〜……」
頭を擦りながら義之が上半身を起こす。
しかし、急に立ち上がろうとはせず、その場に腰を下ろし、胡坐を掻く。
頻りに、打ち付けたと思われる後頭部を擦りながら。
「あぁ、たん瘤できてる」
などと声を漏らした。
たん瘤が出来ていれば内出血している証拠。
逆に強打してもたん瘤が出来ないのは危険というから、一応は大丈夫なのだろう。
寧ろそれだけの高さから落ちてたん瘤で済むのは……ご都合主義万歳。
閑話休題。
兎に角、自身の安否を確かめた後。
義之は原因となった野鳥を睨みつけるべく頭上を見上げ、
不意に「ああ……そうか」と溜飲を下げた。
何故か。
その訳は、義之の視線の先。
先程まで自分が居た枝。
其処には確かに例の野鳥の姿があった―――――そう、三羽の雛と共に。
それを見て義之は納得した。
あの野鳥は親鳥で、雛を必死に護ろうとしたのだろう、と。
こんな森の中で、自身と雛の身を護るのは正に命懸けなのだろう。
それ故、警戒心が強く、雛の傍で寝ていた義之に対し、敵意を顕わにしたのだろう。
それを理解したから。
「そうだよな、護ろうと……必死だったんだよな」
ゴメンな、と付け加え、辺りを見回す。
幸い?にも荷物も一緒に落下したらしく、傍に大剣と小さなバックが転がっていた。
それを引き寄せ、義之は巨木の幹に背を預けた。
「にしても………夢も寝起きも最悪、か」
思い出すのは先程まで視ていた『夢』。
武術大会での出来事。
マルコが死んだ、という事実。
自らの魔力に振り回され、暴走したという事実。
それもコレが初めてではなく。
ダ・カーポを発ってからの数日間、義之は同じ夢を何度も視ていた。
「由姫さんのおかげで、吹っ切れたと思ってたんだけどな」
誰に聴かせるでもなく、自分自身に言い聞かせるように、呟く。
“あの”夢の中で、由姫に助けられた事で、義之は自責の念に潰される事は無かった。
それは確かなのだ、が。
ソレは自分の所為でマルコが死んだということへの救いだけだった。
今、あの時の事を夢で思い出すのは別の原因がある。
義之はそう感じていた。
何かを確認するように自身の右手を握り締め、見詰める。
そして脳裏に浮かんでいるのは、自身の魔力。
「間違いなく制御し切れなくなってる……よな」
先程と同様に、自身に事実を受け入れるさせる様に、呟く。
あの時。
マルコがオルクスの凶刃に倒れ、義之が魔力を暴走させた『あの時』から。
確実に魔力の制御が効かなくなって来ていた。
元々、幼年時に制御をすることが出来ず、周りや義之自身が傷つく事を恐れた純一が封印を課した。
それを、紅夜との試合で少なからずだが封印を解いて闘った事。
そしてオルクスと対峙した際に、感情に任せて暴走させて事で、間違いなく封印は効かなくなっていた。
まるで、一度開かれた蛇口から大量の水が吐き出されるかの様で。
それに驚き、必死に蛇口を閉めようとしても、水の勢いに負けてしまい、水が垂れ流しになる。
そんな感じだった。
ならば、魔力を使わなければいいのではないか。
否。
それは最早叶わぬ願いとなった。
確かに、今までも魔力を封印し、使わない闘い方をしてきたのだから、それも出来はする。
しかし、義之は現実を知ってしまった。
今の自分の剣技だけでは勝てぬ相手。
それが十二魔円卓なのだと。
オルクスと闘った時。魔力を暴走させた状態ならば、確かに互角以上に闘えていた。
が、通常の、まだ自我を保って魔力を使っていた時ですら、オルクスには届かなかった。
ならば魔力無しの状態で勝てない事は道理。
或いは修行を積むことで、剣技のみでも闘えるようになるかもしれない。
しかし、今はそんな時間は、無い。
十二魔円卓の脅威は確実に迫っているのだ。
今は早急に闘える力が必要だった。
だが、先程も言ったように確実に魔力の制御が効かなくなっていた。
今の状況では、魔力を使うことで、相手を倒すどころか、自分を傷つけ、最悪、護るべき人をも傷つけかねなかった。
そんなことは出来ない。赦されない。
それ故、ダ・カーポを発ってから、義之は独自に色々な試みをしてきたのだが、
成果は芳しくは無かった。
どうやら、これ以上独自の考えでやっていても成果はなさそうだ。
なので、魔法大国として名高いウィンドミルに往き、魔法のスペシャリストたちの意見を聞きたい。
義之はそう考えていた………のだが。
「まさか、迷うとはなぁ…………はぁ」
そう、桜内義之。彼は現在、道を見失っていた。
つか、ぶっちゃけ迷子であった。
森に入り込んでから少なくとも三・四日が経過しており、間違いなく大きなタイムロスとなっていた。
余談だが、この時のタイムロスによって、後発組に追い抜かれた事実があった。
「本格的に拙いよな」
拙いといっても、具体的な打開策等はない。
迷子の典型。『取り合えず思った方向に進もう作戦』は事態をより悪化させる恐れがあった。
今更だが。
どうしようか、と本気で考え込んでいた、その時。
不意に、義之はおかしな気配を感じた。
「っ!」
その気配に対し、今までの思考は吹き飛び、反射的に大剣の柄を握る。
すぐさま立ち上がり、巨木の幹に背を任せる。
そして、感じた気配の出所・主を探る。
(普通の魔物とは違う。だけど人のモノでもなかった)
気配を探り続けながらも、義之は先程の気配について思考する。
感じた気配は、明らかに今まで闘った魔物の気配ではなかった。
魔物よりもっと黒く、深い。
そんな嫌な感じの気配だった。
と、そこまで思考し、義之は一つの仮説に至った。
魔物より、黒く深い気配。
そんなモノを持つのは『ヤツラ』しかいない、と
その義之の考えを裏付けるかのように、再び同じ気配を感じた。
いや、同じではなかった。
確かに気配の主は先程と変わらないのだろうが、気配の質が異なっていた。
先程の気配を凌駕する程の、『殺意』に。
「こっちか!」
その殺意を感じた瞬間に、義之は駆け出していた。
駆ける。駆ける。駆ける。
草を掻き分け、突き出るような枝を避け、木々を跨ぐ。
その殺意と同義のモノを知っているから。
その殺意が齎す不幸を知っていたから。
その殺意を放って置く事など出来る筈は無かった。
●
義之が森の中を駆けている、その頃。
義之が目指す先。
広い、森が開けた広い空間には二つの人影があった。
一つは黒い長髪の“紅い眼”をした若い男。
その全身は髪同様に黒で染められており、手には鎖に繋がれた、目に見えて巨大な鉄球が握られていた。
間違いなく、義之が感じた殺気の持ち主はこの男だった。
そして。
もう一つの影は、男とは対照的な、小柄なお嬢様風の少女だった。
長い銀髪を持ち、前髪を眉に掛かる程度の位置で、後ろ髪は腰に掛かる位置で綺麗に切り揃えられていた。
ワインレッドのワンピースで身を包み、手には肘まで覆う純白の手袋と少女の身の丈程もあるパラソル、
そして頭には純白の帽子を被っていた。
その帽子に隠れて目元が見えることは無かったが、明らかに目の前の男に対して臆した様子は無かった。
目の前の殺意を放つ男に対してだ。
明らかに不釣合いな両者。
しかし、殺意を放っているのは男のみで。
少女は男に全く興味が無いかの様に立っているだけだった。
「おい」
最初に口を開いたのは長髪の男だった。
「俺は認めねぇ、って言ってんだよ」
男の言葉に少女は何も言わない。
男も少女の反応など気にもせずに、ただ己の言いたい事だけを主張する。
「どうやって『あの方たち』に取り入ったのか知らねぇけどな、
テメェみてえな乳臭ぇガキのことなんざ認められねぇんだよっ」
口に出すのは、単なる不満。
そこからは嫉妬の感情が読み取れる。
「……………」
少女もソレを感じ取っているのか。それとも元から眼中にないのか。
男の言葉に一切の反応を見せる事が無く、沈黙に徹する。
しかし。
「しかも『完全者』じゃねぇ『半端者』ときたモンだ!」
「!………」
「クックックッ、ホントに冗談キツイぜ」
男のその言葉に、少女が初めて、僅かだが反応を見せる。
ほんの、ほんの僅かな反応だった。
男が気付く事が無かった程の。
男が喋り続ける中で、少女が一言、呟く。
「ふん。口の軽さが貴様の言う『完全者』の証か?」
容姿に合わぬ古風な物言い。
しかし、彼女の持つ威厳のある雰囲気に不思議と合っていた。
「っ! 調子に乗るなよ、クソガキがぁ!」
少女の言葉に、男が逆上する感情を顕わにする。
それだけで少女との格の違いは明らかだった。
「貴様ら『完全者』は口でしか争えんのか?
私に文句があるならば四の五の言わずに掛かってくれば良かろう」
先程までとは一転。
少女が男を挑発するかのように言葉を発する。
そして、それは見事に役割を果たし。
「はっ! 今の言葉後悔すんじゃねぇぞ、クソガキッ!」
男は少女の言葉に従うかのように。
自身の得物の間合いを計り、巨球に近い鎖を支点として、頭上で円を描くように振り回し始めた。
回される回数が増えるごとに巨球は勢いを増し、既にその形を肉眼で捉える事は普通の人間には困難なものとなっていた。
直撃などすれば、訪れるのは間違いなく、死。
男は自身に満ち溢れた、邪悪な笑みを浮かべ、
「死んどけやぁ!」
少女に向けて凶刃を解き放った。
●
義之は駆けていた。
息を切らし、汗を流し、体力が奪われようとも。
それでも駆け続けていた。
間に合え、と。
自身が向かう先で何が起こっているのか。
誰が居るのか。
そんなことは全く分っていなかった。
だが、それでも。
ただ、間に合え、と。
本能が、経験が告げていたのだ。
あの感じた殺気を赦してはならない、と。
だから間に合え、と。
それだけを想って駆けていた。
そして、その想いに応えるかのように、不意に森が開けた。
「!」
義之の眼前には、森が開けた広い空間と、
今まさに己の狂喜を振り翳さんとする者と、それに搾取される者の姿が映った。
少なくとも義之の眼には、そう映った。
だから義之は駆けた。
先程よりも早く、地を踏みしめる軸足に力を籠め、尚早く。
眼の前の二人がどんな関係なのかも知らず、解らず。
だけど。
目の前の光景が、『あの時』の光景とデジャヴするようで。
そんな事は許せないから、見過ごす事など出来はしないから。
だから。
迷いは、無かった。
●
ガゴォッ!!
「なにっ!?」
「むっ?」
聞えた二つの声はどちらも驚きを含んだモノ。
一つは自身の行為を妨げられた事に対する、驚き。
一つは自身に向けられた愚かな行いを妨げた事に対する、驚き。
男は突如現れた『少年』に殺意を持った視線を向け、
少女は突如現れた『少年』に対し興味の視線を向けた。
そして。
その『少年』――――桜内義之は、男と対峙するように少女の前に立ち、
少女を護るべく、男の放った巨球を、自身の大剣を盾にする事で防いでいた。
もし、義之の持つ大剣が以前のモノと同様の強度であったなら、
防ぐ事など出来ずに、義之の身体諸共粉々にされていたことだろう。
それだけの破壊力と重さを持った一撃だった。
だが、結果はそうはならなかった。
純一から与えられた新たな大剣は、先の一撃に耐え、皹一つ負う事が無かった。
間違いなく、名剣と呼ばれるモノに相違なかった。
「なんっだ! テメェはぁ!!」
防がれた巨球を力任せに引き寄せながら、
己の行動を妨げられた男は激情の怒りを顕わに、声を上げる。
紅い眼に殺意を籠めて。
義之はソレを視て確信し、核心を得た。
やはり『魔族』か、と。
忘れる事の無い、血の様に紅い眼。
武術大会に現れた『ヤツラ』と同じ眼だった。
それ故、義之に一切の迷いなどは無く。
「それはこっちの台詞だっ!
こんな小さな女の子にまで刃を向けるなんて……お前等こそ本当に何なんだよっ!」
コイツ等に対して怯む、臆することなど必要は無い、と。
義之は感情の儘に言葉を放つ。
なまじ感情が高ぶっているが為に、
その背後で義之の言葉、主に『小さい』の部分に反応した少女の様子に気付く事無く……。
嫌なくらいに似ていた。
あのオルクスに。
眼、殺意、纏う空気、etc…ソレラ全てが似すぎる程に似ていて。
ソレが更に義之に嫌悪感を抱かせる。
そして男もまた、義之の言葉に引っ掛かりを覚え。
「あん? 何だ小僧。
お前、俺ラ『魔族』を知ってんのかよ?」
その口調もオルクスを思い出させる位に似ていて。
「ああ、知ってるよ。嫌ってくらいなっ」
大剣を正眼に構え、義之も吼える。
男は義之の言葉に暫し、思案するかのような態度を見せる。
そして『ああ』と思い出したかのように。
「ってコトは、アレか。
お前、ダ・カーポの生き残りか」
まるで、ダカーポの人々が滅んだかのような物言い。
義之がソレに怒りを覚えたことは言うまでもないが、
ソレを顕わにするよりも前に、魔族の男は言葉を紡ぐ。
「そうだろ?テメェみてえなガキが俺ラの事を知るのなんてあの時位しかねぇ筈だからな。
はっ、ラッキーだったなぁ。
あの方たちに遭って生き残れたんだから、お前、相当の強運だな。オイ」
だがな、と男は未だ停まらず。
「その強運も今日、この時で終わりだ。
なんせこの俺様……十二魔円卓・第十位『審判』のオルクス様の部下。
ギルス様と出会っちまったんだからなぁ!!」
その咆哮と共に再び巨球を頭上で回転させ始めた。
まるでこれから遊戯でも始めるかのように楽しげに。
一方、男――ギルスの言葉を聞いた義之は言いようの無い想いだった。
眼の前の、この男が“あの”オルクスの部下だというのだから、無理も無い。
だがコレで合点が入った。
眼の前の男とオルクスが似ていると感じたのは間違いではなかった、と。
ならば。
「終わりなのは俺じゃない……。
不幸なのはどっちの方か、お前にソレを思い知らせてやるよっ!」
倒すべき敵に向かって、駆け出した。
●
義之はギルスとの最短距離、即ち真っ直ぐに駆け間合いを詰める。
その行動の思惑は二つ。
一つは名も知らぬ少女を巻き込まぬようにその場から離れること。
この場において、最優先で護らなければならないのは彼女だと義之は判断したのだから。
もう一つはギルスの持つ巨大な鉄球にあった。
先程の一撃は何とか受け止めることが出来たが、如何に名剣といえども、
そう何度も喰らって無事でいられる保障は無かった。
第一、剣の耐久度云々の前に義之自身が持ちそうも無い。
先程ギルスの一撃を受け止めた際、
加速を得た巨球の重さに、踏みしめた地面は陥没し、剣を支えた腕は微かに痺れを残していた。
それ故、義之は受け止めるのでは無く、避け続けることが最良と判断した。
そう判断したからこそ、義之は間合いを詰め、相手の武器を使わせない策に出た。
巨球はその重量と大きさ故、ある程度の加速と間合いが必要となる。
ならば、その間合いをゼロに近づけることで攻撃の手段自体を無効化してしまおう、と。
その考えを基に義之は動いた。
しかし。
「ウラァァァ!!!」
ギルスは膂力に任せて巨球を頭上に持ち上げ、
義之、つまりは自身の眼前の地面目掛けて巨球を振り落とした。
「なっ!?」
その予想外の行動に、当然義之は驚きを見せる。
しかし、悠長に驚いている余裕は無かった。
義之は瞬時に判断を下し、前へと進む身体を強引に横に曲げる。
余りに急で無理矢理なその行動に、身体は勢いそのままに地面を転がった。
一方、ギルスの巨球は目標物を失った事で、その下の地面を叩き、砕く。
地盤は巨球の落下痕を中心に網目状に砕け散り、その破片が四方に飛び散る。
その破片は義之がいる方向に飛ぶモノもあったが。
それ以上に、砕かれた地面のすぐ傍に立つ、ギルスに向かって飛んでいた。
攻撃をした瞬間に回避行動をとる素振りすら見せなかったギルスは、当然ソレらを其の儘に受ける。
それは言うならば所謂、自爆であった。
「くっ、とぉ」
義之は転がる身体の体勢を立て直すと、片膝を付く形でギルスに向き直る。
其処には自身の砕いた地面の破片を喰らい、身体の各部から血を流す姿があった。
その中には明らかに軽傷では済まないモノもある筈なのだが。
「クックックッ」
にやり、と笑う表情からは微塵も感じられなかった。
狂った笑みを浮かべ、声を挙げ、愉快だとギルスは笑う。
「ハハハハハハハハァッ!
イイ顔するじゃねぇかよっ。
そんなに驚いたのかよ、ああん?」
「オマエ………」
「はんっ、どいつも考えることは同じ、ってな。
テメェと同じ事をしようとしたヤツは、何人もいたぜぇ。
クククッ、まあ全員死んでったけどなぁ」
その場景を脳裏に思い出したのか。
狂った笑みを深める。
其処には自身が傷を負ったことなど無いかのようで、ソレを見た義之は確信した。
コイツにとって、闘いは“ゲーム”なのだ、と。
コイツは勝つ為に闘っているんじゃない。
コイツにとっては闘いそのものが“ゲーム”。
己の身体ですら、その為の玩具に過ぎないのだ。
「だが、最初の一撃で死ななかったのはテメェが初めてだ。
今までのゴミ共は素直に潰されてたからよぉ。
はっ…イイぜぇ、もっと愉しませろよっ」
義之の考えを裏付けるかのように、ギルスは笑う。
新しい玩具を手に入れて、はしゃぐ子供のように。
「……くそっ、魔族ってのは…」
どいつも“こんな”なのかよ、と義之は呟く。
オルクスといい、このギルスといい、命を命を思わぬヤツらばかりか、と。
なまじ実力が有るだけに性質が悪かった。
しかも、義之の背後、少し離れた所にはあの少女が居た。
今は、正気を保っているようだったが、『一般人の女の子』がそう長い間魔族と対峙出来るとは思えない。
彼女をこれ以上危険な目に遭わせない為にも、グズグズと時間を掛けてはいられなかった。
かといって、速攻で倒せる相手かと問われれば、答えはNOだ。
大口を叩くだけのことは有り、ギルスの実力は確かなモノだった。
少なくとも魔力無しの状態では勝つ事は難しいだろう。
だが、義之は魔力を使う事に抵抗を持っている。
制御の効かなくなっている魔力を、上手く使うことが出来るのか。
その余波に少女を巻き込まないだろうか。
様々な憶測が義之の脳裏を過ぎり、枷となる。
「さあ、続きを遣ろうゼっ!」
そんな義之の思案を余所に、ギルスは再び巨球を頭上で振り回し始める。
どうやら当面の対象を義之に絞ったようだが、順番が変わっただけの話。
眼の前の、この魔族を倒さない限り、危険を取り除くことは出来なかった。
ならば。
「やるしかないだろっ!」
義之は立ち上がり、大剣を正眼に構え精神を集中する。
そして、己の中の扉を開き、その奥にある力を解放する。
「なんだ?」
「――――――――……!」
ギルスと、義之を背後から見詰める少女もまた、義之に起こる変化を捉えていた。
その義之の“ナカ”では魔力を制するために必死の争いが起こっていた。
義之は魔力を必死に押さえ込もうとし。
魔力は己の力を外界に吐き出そうとし。
その二つがぶつかり合い、義之の周りには魔力の余波が漏れ出していた。
それは分る人間にしてみれば、杜撰で無様。
しかし、魔力を制御しきれなくなっている義之にはコレが精一杯だった。
だが、このままではギルスを倒すことは出来ない。
そう判断した義之は一つの決断をする。
押さえ込もうとしている力を解き、一瞬だけ魔力を有りの儘に解放する。
そして、そのまま全力での短期決戦に持ち込む。
時間を掛ける訳にいかない。
時間を掛ければ制御の効かない魔力を『あの時』のように暴走させ、護るべき者すら巻き込む恐れがあった。
其れ故の、短期決戦。
「くっ……あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
以前までとは違う。
身体のナカから濁流のように溢れ出てくる魔力に、義之自身も痛みを感じる。
しかし、今はソレを気にしている時間は無い。
「コイツ、なんだっ!?」
義之の身体から溢れ出る、突然の魔力にギルスも戸惑う。
その影響か、それまで頭上で振り回していた巨球の速度が僅かに落ちる。
その隙を衝くべく、義之が動いた。
「だああああぁぁぁぁぁっ!!」
制御の効かない魔力を地面に叩き付けるかのように、大剣を振るう。
大剣から放たれる魔力の波動が地面を砕きながら、前方の至る方向に無造作に進む。
そしてその内の一部が、ギルスに向かって、跳ぶ。
「っ! らあぁッ!!」
それに気付いたギルスが巨球を投げ放つ。
その速度は、先程の少女に向けられた一撃を遥かに上回るモノだった。
だが。
ゴォン!!
義之の放った魔力の波は、その一撃を物ともせずに巨球を飲み込み、突き進む。
己の巨球が無力化されたことに戸惑いを得ながらも、ギルスはその波を避けるべく動く。
だが、前後左右、全ての平面は義之の魔力から逃れることが出来ない。
ならば残されたのは、上。
ギルスは魔族の強靭な脚力を駆使し、上空に向かって高く跳んだ。
ギルスが先程まで居た位置を魔力の波が突き抜け、その先の木々を倒したことを確認した後、
空中から、眼下の義之に向けて視線を送った。
しかし。
「どこに往きやがったっ」
ギルスの視線の先に義之の姿は無かった。
眼下に視えるのは、離れた位置に立つ少女と、義之の魔力で削られた大地のみ。
義之の姿は何処にも見当たらなかった。
何処だ、と上空から周囲を見回すギルスの視線の中に、上空を見上げる少女の姿が映った。
しかし、少女の視線はギルスを視ては無く。
見詰める先は更に上だった。
そして、その事にギルスが気付いたのと。
『声』が聞えたのは、ほぼ同時だった。
「はああぁぁぁっ!」
「なにっ!?」
声は空中のギルスの更に、上。
見上げれば、其処には太陽を背に大剣を振りかぶる義之の姿が。
幾ら魔力の波を向けようと、所詮は制御出来ずに暴れ狂うだけでしかない。
そんなモノでギルスを倒せるとは義之も思っていなかった。
それ故、直ぐに次の一手に向けて動いていた。
平面に逃げ場が無ければ、避けるためには上空に逃げるしかない。
ギルスが考えたことと同じ事を、義之も考えていた。
考え、そしてその上を往った。
暴走する魔力を無理矢理に脚へと集め、解放する際の余波を利用し、高く跳んだ。
それは、文字通りのギルスの更に上空へ、と。
そして、先程同様に大剣を振り被り。
「だああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
下に視える『敵』目掛け、一気に振り抜いた。
「なっ!がぁっ、あああ嗚呼あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
流石に、空中に浮かぶ状態で逃げる術など持たず。
ギルスは魔力の波に飲み込まれ、眼下の広場を通り越し、
ドゴォォォォォォォォォォォォォッ!!!
その先に広がる樹海へと、木々を薙ぎ倒し、吹飛ばされた。
その様子を空から降下しながら見届け、義之は地面へと着地する。
着地する瞬間、気力を振り絞り、魔力を僅かにだが集中させ、衝撃を緩和する。
それが正真正銘、最後。
義之は魔力を押さえ込む事で、力を使い果たし、その場に仰向けの大の字で倒れ込む。
「はぁはぁはぁ、ぅくっはぁ」
呼吸をすることすら儘ならぬ慢心相違の状態。
身体の各所には、以前と同様に、自身の魔力による傷が見られ、
そこからは、ゆっくりと血が滴れていた。
正に辛うじて掴んだ勝利だった。
●
「……………」
「よ、よう」
未だ仰向けで倒れ込む義之に、少女が近づき、見下ろす。
丁度、太陽が帽子の影を作り、義之から視れば少女の顔を隠すかのようだった。
だが感じる気配で少女に怪我が無い事は分った。
何となくだが恐らく間違ってはいないだろう、と義之は一先ず安堵する。
そんな義之に少女が、初めて話し掛ける。
「何故、割り込んできた」
「へ?」
「何故私とアヤツとの間に割り込んできたのか、と訊いている」
それは予想外の問い掛け。
別段、感謝の言葉を期待していた訳では無い。
この少女を助けようとしたのは義之の勝手な意志。
そこに感謝を強制しようとは思わないし、して欲しいとも思っていない。
だが『割り込む』等と言われるとは思いもしていなかった。
それ故の、予想外。
「割り込む、って……。
俺は、まあ身体が勝手に動いたというか」
少女の質問に答えながらも。
それでは、まるでこの少女があのギルスと戦おうとしていたのを義之が邪魔したようではないか。
そう思ってしまった。
義之は、この少女は全くの一般人で、自分同様に森に迷い込み、『偶然』ギルスに襲われていた。
そう考えていた。
だが、その考えがそもそも間違っていたとしたら?
「ふぅ。まるで何処かのお節介と同じ様な事を……まったく。
あの程度の魔族、私にとってみれば、然したる問題では無い。
貴様が割り込んで来ずとも、結果は同じだった」
少女の古風な物言いに違和感を感じながらも、
その言葉に義之は驚愕した。
たった今、苦労して倒したギルスを、眼の前のこの少女は『あの程度の魔族』と言い切ったのだから、無理も無い。
この少女は一体……。
義之はそう思わずにはいられなかった。
だが、そんな義之の思いを余所に少女は更に口を開く。
「大体が何だ、貴様は」
「………え?」
突然振られた話に、混乱していた頭が確かな反応を出来る筈も無く。
義之は間抜な声を挙げてしまった。
「『え?』ではない。
あの魔力の使い方は何なのだと聞いているのだ」
「何って……」
「あれだけ強大な魔力を持っておきながら、
その魔力を制御し切れず、ただ振り回されるだけとは……笑い話にもならぬぞ」
その少女の言葉は、先程までの義之の有様を的確に衝いていた。
一般人と思い込んでいた少女からの指摘に義之は困惑する。
その困惑する頭で義之は必死に考えを纏める。
そして思い付いた先。
この少女、ただの一般人等では、無い。
少女は義之の身体に刻まれた傷を一瞥し、
「しかも、己の魔力で傷を負うなど」
「キミは…一体………?」
「私の事などはどうでもよかろう。
ふぅ、もう良い。貴様は暫く眠っているがいい」
そう言って、少女は持っていた傘の先を義之の額に向ける。
そして、
「ア・グナ・ギザ・ダ・デライド……」
(これは、詠唱!?)
少女の詠唱に義之は当然、驚く。
まさか、一般人を思い込んでいた少女が『魔法使い』だったとは……。
そんな義之の思いを余所に少女は詠唱を終える。
「ラ・ディーエ」
その詠唱が終わる瞬間。
少女の突き出した傘の先に光が集まり、義之の意識を刈り取る。
「こ、れは……」
「暫く眠り、休むのだな」
「まっ………」
少女が唱えた呪文は『眠り』の魔法。
義之の意識は、自身の思いとは別に静かに微睡み、落ちた。
義之が眠りに落ちた事を見届けた少女は、その周囲に簡易結界を施し、
魔物が近づけぬよう対処する。
「まったく、私も物好きだな」
その少女の言葉に、導かれ……という訳では無いのだろうが。
ギルスが吹き飛んだのとは丁度真逆の森の中から、近づく気配があった。
気配は、二つ。
「『伊吹』様」
その気配の一つ。
義之と同じ年位だろうか。
少年が少女に声を掛ける。
「信哉に、沙耶か」
「はい」
少女――『伊吹』というのが名前のなのだろう。
伊吹は少年と、その背後から現れた少女に声を掛ける。
黒い短髪で、手には木刀を持った少年の名は『信哉』。
紺色のショートボブで、背にヴァイオリンを背負った少女の名は『沙耶』。
「伊吹様、その者は……」
信哉が伊吹に問い掛ける。
その様子は、主に仕える武士のようで。
口調、仕草それら全てからソレが感じ取れた。
「気にするな。唯の気紛れだ……沙耶」
「はい、なんでしょうか?」
「この者の傷の手当をしてやれ。
この傷……どうやら普通の魔法では治らぬようだ」
「……分りました」
伊吹の言葉に、沙耶は静かに従う。
『唯の気紛れ』と言ったにも関わらず、伊吹の義之を気に掛ける様子に気付きながらも、
二人は何も言おうとはしなかった。
正にそれは主と従者の関係に相違無かった。
沙耶が伊吹の言葉に従い、眠る義之の傍に寄り、傷の手当を始めようとした―――その時。
「がっ、はぁはぁはぁ……」
反対側の森、木々が薙ぎ倒された場所から、一人の男が現れた。
当然、三人の視線は其処に集まる。
其処には、紅い眼をした魔族の姿が……そう、ギルスだ。
「ごはっ………ク、ソったれ…がぁ」
決して軽くは無いであろう傷を全身に負い、血反吐を吐きながら、
それでも紅い眼に、憎しみの光を宿し、立っていた。
「ほう。まさか、アレを受けて生きていたとはな。
存外、しぶといではないか」
「テ……メェ………っぁ」
喋ることすら苦痛であるような状態でも、
「ど、け……クソ共、がぁ……。
そ、のガ……キは、俺が、殺す……!」
ギルスは戦意を失ってはいなかった。
それは『魔族』としての誇り故か。
それとも、それ程までに義之を殺したかったのか。
どちらにしろ、今のギルスを突き動かしているのは、そういった感情だけで。
すでに身体は『死に体』だった。
そんなギルスの言葉に、信哉が反応を見せる。
「貴様っ! 伊吹様に向かって何と無礼な口を利くかっ!!」
怒りを顕わにし、持っていた木刀を構える。
「万死に値するっ。喰らえ、ふうじ……」
「待て、信哉」
今にもギルスを叩き伏せようと構える信哉を、伊吹が止める。
その声に、信哉はピタッと動きを停めた。
その表情からはギルスに対する怒りが消えていない事は明白だったが。
そんな様子の信哉を余所に伊吹は一歩、歩を進め、信哉の前へと立つ。
そしてギルスに向かい、
「さて、貴様。先程自分が言ったことを憶えているか?」
「な、んだ……と」
「憶えていないのなら教えてやろう。
貴様は私に向かってこう言ったのだ。
『乳臭いガキ』『半端者』『死んでおけ』とな」
それは義之が現れる以前に、ギルスが伊吹を侮辱した言葉。
その言葉を聞き、信哉と。
義之の傍にいる沙耶がピクリと反応を見せた。
見せたが、先程伊吹に『待て』と言われた事を守り、動かなかった。
「さて、ここで私も貴様のその言葉に答えを返しておくとしよう。
『消えるがいい、愚かな者よ』とな」
そう言うと、伊吹は傘をギルスに向ける。
「な………て、テ……メェ………!」
その伊吹の行動の意図に気付いたのか。
ギルスは紅い眼を見開く。
「ア・グナ・ギザ・ダ・デライド……」
伊吹が詠唱を始める。
それにより、伊吹の頭上。其処に高い、高密度の魔力を持った魔法陣が浮かび上がる。
「くっそったれがぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
その先に訪れる結末から逃れようと、ギルスは既に死んだ身体を気力だけで動かし、
伊吹に襲い掛かろうとする。
だが、もう……遅い。
「……ル・サージュ!」
伊吹が詠唱を唱え終わった瞬間。
ドゴォォォォォォ!!
中に浮かぶ魔方陣から紅い光が幾本も放たれ、
「ガッ、ガァァァァァアぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、ああ…………」
ギルスの身体を貫き、巻き込み、地形を変えた。
●
「本当に宜しいのですか?……伊吹様」
沙耶が伊吹へと問い掛ける。
其処は既に樹海の外。出口となる場所だった。
其処に伊吹、信哉、沙耶それと。
「この方をこのままにしておいて」
伊吹の魔法の効力で、未だ眠り続ける義之の姿があった。
あの後、三人は樹海を抜け出る際に義之も連れて来ていたのだった。
迷っていた義之にしてみれば、僥倖だった。
だったのだが。
「よい、捨て置け」
「しかし……」
何と、此処まで運んでおきながら、伊吹は義之をその場に残し立ち去ろうとしていた。
てっきり、そのまま連れて行くと思い込んでいた沙耶は未だ疑問符を浮かべていた。
その様子に気付いたのか。
伊吹はフッと僅かに口を吊り上げる。
「言ったであろう『気紛れ』だと。
そやつを此処まで運んでやったのも、それだけの話だ。他意などは無い」
そう言って伊吹は義之を一瞥すると、森の出口の先にある道を見詰める。
その伊吹の仕草に隠された意図に気付いたのか。
信哉と沙耶の二人も、伊吹に倣い、道の先に視線を移す。
「伊吹様……これからどちらへ」
その信哉の言葉は答えを聞くモノではなく、まるで既に出ていた答えを再確認するかのようだった。
事実、そうだった。
「……決まっている。
再び、あの場所へ向かう」
そう言う伊吹の声には先程までとは別物の威圧感が感じられた。
「信哉、沙耶。今ならまだ間に合う。
お前たちまで来る必要などないのだぞ」
二人に背を向け、表情を見せない伊吹の言葉に対し、二人は間を入れずに答えた。
「いえ、我等兄妹」
「何があろうと、伊吹様と共に」
その二人の言葉に、伊吹は何を想ったのか。
背後からその表情を読み取ることは出来なかったが。
「全く、お前達も存外、愚か者だな。
間違いなく、茨の道であるというに……よかろう。
ならば往くとしよう、再び彼の地……」
その伊吹の言葉を遮るかのように、突然一陣の風が吹いた。
その風は、伊吹の帽子をふわりと飛ばし、それまで隠れていた彼女の顔を太陽の下に晒す。
「“ウィンドミル”へ」
その言葉を放つ少女の瞳は“紅き眼”であった。
あとがき。
はい、第2章が本格的に始動した第21話をお届けしました。
最後の三人の掛け合いが微妙に上手くいかなかったかなと、思いつつも私の文才ではこれが限界でした。
申し訳ないです。
さて、今話では可也久々に登場しました主人公?の桜内義之と、
小雪さんに続いて『はぴねす!』キャラとの出会いとなりました。
原作をご存知の方は、伊吹たちがこんなに早く登場するとは思っていなかったのではないでしょうか。
なにせ『はぴねす!』の主人公やメインヒロインよりも早く登場してしまいましたから。
と言いつつ、実は今回登場した三人は暫く登場の機会がありません。
結構、間が空いてしまいますので、伊吹・信哉・沙耶ファンの方々。申し訳ありません。
さて、これからも続々と『はぴねす!』のキャラが登場する予定です。
次話では、一部の方々に大革命を起こした『あの人』が登場します。さて、誰でしょう?
ではでは、次回のあとがきで。